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心理学的手法を用いた性的虐待被害児童の識別

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心理学的手法を用いた性的虐待被害児童の識別

著者 越智 啓太, 福田 由紀

雑誌名 東京家政大学研究紀要 1 人文社会科学

巻 46

ページ 229‑236

発行年 2006

出版者 東京家政大学

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009205/

(2)

心理学的手法を用いた性的虐待被害児童の識別

越智 啓太*,福田 由紀**

 (平成17年10月6日受理)

Detection of Sexual Abused Children Using         Psychological Methods

OcHI, Keita and FuKuDA, Yuki

  (Received on October 6,2005)

キーワード:児童虐待,性的虐待,投影法

Key words:child abuse;sexual abuse;projective technique

1 性被害の事実認定の問題

 子どもに対する性的虐待に対して行政的,あるいは司 法的な介入を行おうとする場合,問題となってくるもの のひとつに事実認定がある.事実認定とは,実際に性的 な虐待が行われているか否かを明らかにすることである.

事実認定は,暴力などの身体的虐待においても,思いの ほか困難であるのだが,性的な虐待の場合には,それ以 上に困難である.その理由は,次のようなものである.

 まず第1に,性的な問題は加害者のみならず,被害者 やその家族にとっても外部に知られたくない問題である たあ,被害者や家族の証言も含あて,積極的な証言が得 られないからである.第2に,性的虐待は物的な証拠が 残りにくいからである.性的虐待では,被害が性交にま で及ぶことはそれほど多くなく,また,たとえ,性交が 行われたとしても性器等の外傷などの身体的所見から虐 待の事実認定を立証することは困難である(Heger,

Emans,&Muram,2000).第3に,これらの事件では 被害者が子どもや幼児である場合が多いことから,特に 司法手続き上,その証言の信頼性が問題視される場合が 多いからである.そのたあ,例えば,加害者の逮捕,公 判の維持に耐えるだけの証拠を得ることが困難であり,

行政や司法の介入は慎重になりがちである.第4に,実 際には一定数の「実際には性的な虐待を受けていないの に,それを受けたとする」誤った告発(警察,児童相談

*東京家政大学文学部心理教育学科

**

@政大学文学部心理学科

所,弁護士などに対する)が存在するからである.この 背景には,複雑な家族関係や(告発者の)精神疾患など さまざまな原因がある.そのたあに,事実認定は,身体 的虐待で見られることが多い「家族は虐待がないといっ ているが実際にはある」ケースだけでなく,その逆の,

「家族は虐待があるといっているが実際にはない」ケー スも識別をしなければならない.第5に,捜査過程自体 が被害者やその家族にとってトラウマになってしまうこ

とがあるからである.実際,性的犯罪が行われて公判ま でたどりっき,有罪が得られるまで,被害者の子どもは,

おそらく,十回以上の尋問(質問)を受ける.その結果,

何度も不快な事件のことを想起しなければならず,また それ以上に,その過程で叱られたり,注意されたりする ことになる.このような,プロセスは多くの場合,実際 の犯罪以上のトラウマを被害者に与えることになってし

まう.

 このような,事実認定の困難さは,子供に対する保護 や起訴などの介入を困難にする.しかしながら,性的虐 待が子どもに及ぼす影響は決して小さなものではない.

 そこで,子供が性的虐待の被害に遭っているか否かを 識別するたあの手法を開発することが必要となってくる.

この識別において,心理学が貢献できる部分は,少なく ない.例えば,何らかの心理テストで,子供の性的虐待 の有無を判断することができれば,それは,この問題に 介入するたあの強力なツールの一つとなるであろう.

 これらの問題に関しては,虐待対策の先進国であるア

メリカでは,すでに多くの研究が行われてきている.と

ころが,本邦においてはほとんど研究が行われていない

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越智啓太・福田由紀

のが現状である.そこで本論文では,主としてアメリカ とイギリスにおける心理学的手法を用いた性的虐待の識 別についての研究の状況を調査し,これらの方法を本邦 の虐待関係の現場に導入することを念頭に置きながら,

その利用可能性にっいて評価してみることにしたい.

2,被害の疑いのある子どもに対する心理テスト手法

 本節では,心理テストを用いた識別手法について検討 してみる.心理テストで性的な虐待を識別するためには,

性的虐待を受けている子供と受けていない子供で異なっ た反応パタンを示すような,心理テスト手法が見いださ れれば良いことになる.実証的な研究が行われているい

くっかの技法について概観してみる.

2−1,アナトミカルドールを用いた手法

 アナトミカルドール手法は,人形を用いて,性的虐待 の事実認定を行おうとする手法である.用いられるのは,

30〜40センチくらいの人形であるが,通常の人形と異な り,人形の服を脱がすと,性器や肛門,陰毛,女性には 乳房などがついているところに特徴がある.この人形の 使用方法には,大きくわけて2種類のものがある.第1 のものは,診断用途としての使用であり,これは,虐待 の被害を受けた可能性のある子どもに,その人形で遊ば せて,その遊び方から,その子どもが虐待を受けたか否 かを判断しようとする方法である.第2のものは,子ど もにインタビューを行う際に,アナトミカルドールを道 具として用いながら,質問していくというものである.

この方法は,例えば,性的虐待を受けた子どもが性器な どのからだの名称を知らないたあに十分なコミュニケー ションが出来ない場合,それを補助するために用いられ

る.

 第1の方法について実証的に検討したのは,White,

Strom, Santilli,&Halpin(1986)である.彼らは,2〜

5歳半の性的被害の犠牲児童25名と,統制群の虐待を受 けていない児童25名に対して,アナトミカルドールを見 せたり,一緒に遊ばせたりしてその反応を観察した.そ の結果,虐待群でより多くの異常な行動が見られた.異 常な行動とは,アナトミカルドールに対して恐怖や不安 を示すといった行動,アナトミカルドールを見て泣き出 すという行動,アナトミカルドールを見たときに両手で 自分の股を触る行動,人形を使って性行為を再現すると いった行動などである.同様な研究は,独立して,多く

の研究者によって追試されている.たとえば,August&

Forman(1989)は,性的虐待被害児童は,アナトミカ ルドールに対して攻撃行動をしやすかったり,性器をさ わったりいじっている時間が多かったり,性行動を再現 する行為が見られるということを指摘している.

 第2の方法についての研究は,子どもにアナトミカル ドールを使用しながら,さまざまな出来事の再生を行わ せることによって,想起促進効果が見られるのかといっ た研究がなされている.これらの研究の一部は,性器の 検査を含むような健康診断の記憶についてテストしてお

り(Saywitz, Goodman, Nicholas,&Moan,1991),また,

別の研究では子どもとの遊びといった特に性的でない出 来事についての記憶がテストされている(Goodman&

Aman,1990).ただし,これらの研究においては,アナ トミカルドール手法の弱点も明らかになっている.それ は,性器がついているといった特殊な性質のために,こ れが一種の誘導刺激となり,実際に性的な虐待を受けて いない子どもにも性的な反応を引き起こしてしまう可能 性があるというのである(Gabriel,1985).しかしなが ら,このような誘導された性的反応は,生じる危険性は あるとしても,実際上生じることはきわめて少ないとい うことなどが指摘されている(Boat&Everson,1994).

例えば,性的に虐待されていない子どもが,アナトミカ ルドールインタビューで,実際には生じていない性器へ のタッチを報告することは,3%以下程度に過ぎないと いう結果が示されている(Saywitz, et aL,1991).

fig.1アナトミカルドール

 アナトミカルドール法は,アメリカでは比較的ポピュ

ラーな方法となっており,多くの児童福祉施設,司法機

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関,病院などで使用されている.しかし,実際にアナト ミカルドールを使用している職員の多くは特別なトレー ニングを受けているわけではなく,被虐待児童の識別も,

経験に基づいて行われているのが現状である.そのため,

誤った識別や子どもに対するトラウマなどさまざまな問 題点が発生している.方法としては,可能性は秘あてい るものの,実証的な研究より実務が先行しすぎているこ

とが最大の問題であろう.

2−2,描画テストを用いた手法

(1)人物画テスト

 描画テストは,被験者やクライエントに人間や木,家 族などの絵を描かせ,その絵から,性格特性や精神病理

を診断していく方法である.

 描画テストを性的虐待被害児童の識別のために用いる という試みの中で,もっとも注目されているのが,人物 画テストである.これは文字通り,人間の絵を描かせて それを分析していくというものである.

 例えば,Waterman&Lusk(1993)は,5〜14歳の性 的虐待被害児童と統制群の人物画テストを比較する研究 を行った.彼が注目したのは,Koppitzの情動指標であ る.これは,Koppitz(1966)によって提唱されたもの であり,情緒的・心理的に問題がある児童が示しやすい 人物画テスト上の指標をリストアップしたものである.

具体的には,絵全体のバランス,変わった構成要素(歯,

雲,巨大な手足),該当する年齢で典型的に見られる構 成要素の欠落(手,足,目,鼻など)の3っの観点から 採点が行われる.分析の結果,性的虐待被害児童で有意 にこの得点が高いことが示された.

 しかし,問題なのは,この指標は性的虐待以外のさま ざまな心理的な問題でも上昇するため,性的虐待児童を 識別するという目的に,この指標がそのまま使えるわけ ではないという点である,また,統制群と虐待被害児童 群に統計的に差があったとしても,それと,診断に使用 できるということとは別問題だという点も重要である.

この研究では,確かに2つの群に統計的な差があるもの の,実際の数値的な差は小さく,分布の重なりも大きかっ た.そのため,実際には,この指標を用いて性的虐待被 害児童を識別することは困難であると思われる.

 そこで,これらの研究を改良して作られたのが,

Hardinのシステム(Peterson&Hardin,1997)である.

Hardinは,性的虐待を受けた子ども341人,情緒的に問

題があるなどの理由で臨床心理士のカウンセリングを受 けているが性的な虐待は受けていない子ども252人,統 制群の一般の子ども(ただし,この群の中には虐待を受

けている子どももいる可能性がある)249人の人物画テ ストを比較し,性的虐待被害児童を識別するための指標 を探索した.その結果,7っの指標が性的虐待被害児童 を識別するために有効性が高いということが示された.

7っの指標とは,(1)露骨な性器描写:男女性器,陰毛,

乳房などが露骨に描かれているもの,②性器の隠蔽:

性器や乳房などの位置に故意に他の物体や手などを置い てそれを隠そうとしているもの,(3)性器の省略:性器 などの位置が不自然に描かれていないもの,(4)からだ の中央部分の省略,頭足画など胴体が省略されているも の,(5)絵の包囲:人物が一本あるいは複数の線で部分 的あるいは完全に囲まれている,⑥果実のなる絵:果 実のなる木が付け加えられている,(7)異性描写:描か れた絵が被験者と異性になっている,というものである.

そして,彼女は,この7指標に加えて,切断された手や ギザギザな歯,極端に小さな人物像,閉じた足や虹,蝶 など,それひとっだけでは虐待の指標にはならないもの の,虐待時と統制群で差があり,識別の参考になる指標 をリストアップし,それぞれに重みづけを与えて,絵を 採点するというシステムを作成した.このテストは,診 断的な要素,っまり,一定の得点になると,性的虐待の 危険性があることを識別することを目標にして開発され,

その識別力も,Koppitzの情動指標を用いたものよりも 優れている,Hardinのシステムは出版されており,利 用可能である.また,邦訳(津波古・安宅訳,2001年)

もなされている.なお,邦訳の帯には,「虐待,トラウ マに悩む子どもの心の奥底が手にとるようにわかる驚異 の法」と書かれているが,Hardinのシステムはあくま で,虐待時の発見と識別を目的に開発されたものであり,

「心の奥底」にある何らかの力動を「手に取るように」

わからせてくれるものではない.

 Hardinらが指摘している指標の中で,とくに,露骨

な性器描写にっいては,虐待被害児童は15.8%がこのよ

うなパタンの絵を描いたが,統制群では,0.4%しか生

じず,もっとも識別には有用な指標であった.これにっ

いては,彼女らの研究以外でも,しばしば指摘されてい

る.例えば,Watermanらの結果では,性的虐待被害

児童の7%がこのようなコンテンッを書き入れたが,統

制群の児童ではひとりも書き入れなかった(Waterman,

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越智啓太・福田由紀

&Lusk,1993;Waterman, Kelly, Oliveri,&McCord,

1993).

 人物画を用いた識別法にっいては,子どもが親の裸を 見慣れている,例えば,両親が自宅で裸でいるなどの家 庭では,実際には虐待がないのに,子どもが,性的虐待 被害児童のような絵を描いてしまうのではないか,とい う反論もなされているが,この反論を実証的に裏付ける 証拠は存在しない(Hibbard&Hartman,1990).

(2) HTPテスト

 HTP(House−Tree−Person)テストは,被験者に家

(H)と木(T)と人(P)の絵を描かせて,その描画 のパタンから,被験者の性格を読みとっていこうとする テストである.被験者に,木を描かせるテストであるバ ウムテストと,人を描かせる人物画テスト,そして家の 絵を描くテストを加えて総合的に人格を査定しようとい

うのである.これらの対象を異なった3枚の絵に描かせ る方法(こちらがオリジナル)と,一枚の絵の中に3種 類の対象を描かせるというタイプ(実施が簡単であるし,

描かせる対象の相互関係にっいても把握できるので,最 近,用いられることが多い)のタイプがある.

 HTPテストは子供にも比較的無理なく実施できるた めに,さまざまな施設で用いられている.とくに本邦で

はさかんである.

 HTPテストを用いて,性的虐待被害児童を識別しよう という試みに,van Huttonのシステム(van Hutton,

1994)がある.このテストでは,被験者に,HTPを施行 して,それを4つの下位尺度によって,得点化する.そ れぞれの下位尺度には,絵にっいてのいくっかの指標が上 げられており,採点者は,これらの指標が存在するか否 かを判断し,その強度を含めて3段階で評定を行うとい うものである.最終的には,これらの評定得点の合計点 が算出される.最初の尺度は,SRC(Preoccupation

with Sexually Relevant Concepts)と呼ばれるもので,

家については「ベットルームの強調」など3個,木にっい ては「切断された枝」など2個,人については「髪の毛 の強調」などの25個の指標があげられている.これは,

性的な刺激や概念についての関心を測定するものである.

2番目の下位尺度は,AH(Aggression and Hostility)

と呼ばれるもので,「大きな家」,「なぐり書き」,「手の省 略」,「より目」,「歯」などの指標で採点される.これは

敵意や攻撃性などを測定するものである.3番目の下位

尺度は,WGA(Withdrawal and Guarded Accessibirity)

と呼ばれるものであり,「絵自体が非常に小さいこと」,

「左右対称」,「ドアが非常に小さいこと」などの指標で採

点される.これらは防衛や警戒を示す尺度である.4番 目の下位尺度は,ADST(Alertness for Danger,

Suspiciousness, and Lack of Trust)であり,「フェンス

やゲートなどの強調」,「ドアののぞき穴」,「大きな目」

などの指標が採点される.これは危険に対する警戒や疑 念,対人関係における信頼感の欠如にっいて測定するも のである.

 彼らは,20人の性的虐待被害児童,20人の情緒障害児 童,そして,140人の統制群を使用して,このテストを 行い,性的虐待被害児童を識別可能かどうか,テストし た.その結果,SRC, AH, WGA, ADSTのすべての指 標で,性的虐待被害児童の得点が高かった.その中でも,

被害児童の弁別という観点から見ると,他の尺度に比較 して,SRC下位尺度が,最も有効な指標であった. SRC 下位尺度が6点以下のものは,統制群で,9Z2%,情緒 障害群で100%だったのに対して,性的虐待被害児童で は0%であり,性的虐待児童は全員が6点以上であった.

彼らの開発したテストは現在,米国のPsychological Assessment Resources(PAR)で市販されて,入手可

能である.

 しかし,このテストシステムに批判がないわけではな い.例えば,Palmer, Farrar, Valle, Ghahary, Panalla&

DeGraw(2000)は,47人の性的虐待被害児童と82人の 健常統制群の児童に対してこのシステムを用いて,虐待 被害児童を識別可能であるかについての研究を行った.

しかし,この研究では,群間に明確な差を見っけること

はできなかった.

2−3,ロールシャッハテスト,TAT

 投影法では,人物画テスト,HTPテスト以外に,ロー ルシャッハテストとTATを用いた研究が行われている.

 Leifer, Shapiro, Martone,&Kassem(1991)は,ロー

ルシャッハテストを,性的虐待被害児童と統制群に行い,

その差について検討した.その結果,内容反応で両群に 違いが見いだされた.また,Pistole&Ornduff(1994)

は,TATを用いて,同様な研究を行っている.この研 究では,TATの図版のうち,1,2,3BM,4の4枚

のカードについての反応が,性的虐待被害児童と統制群

の間で比較されし,反応パタンの違いを見いだしている.

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しかしながら,ロールシャッハテストやTATを用いた 研究で,性的虐待児童と統制群の児童の反応の違いを明 確に見いだした研究は,例外的である.また,たとえ,

統計的に有意な差が現れた研究でも,多数のスコアリン グ基準を検定していくという方法がとられているものが 多く,統計的にも意味のある差が生じているのか否かは 疑問である.そのため,これらのテストは,虐待の疑い のある児童の心理的な状況の査定に使用することは出来 るかも知れないが,虐待の事実認定のためのッールとし

て用いることは出来ない(越智,2004a).

2−4,行動評価手法

 行動評価手法は,虐待の疑いのある児童の行動を観察 し,その行動パタンから,虐待の有無を判別する手法で ある.被虐待児童の行動的な変化としては,うっや不安 などの精神的な異常が指摘されることが多い。しかし,

これらの精神症状は,性的虐待以外の原因でも生じる可 能性がある.そのため,このような精神症状のみを手が かりにして,性的虐待の有無を識別するのは困難である.

とくに,性的虐待の有無が問題になる家族は,家庭内暴 力や,家庭の不和などの問題を持っている場合が多く,

これらの家庭の問題も,うっや不安などを生じさせるた めに,いっそう,識別は困難なものとなる.

 子供の行動的な指標の中で,性的虐待の識別の手がか りとなるものとしては,性化行動がある.性化行動とは,

児童が,年齢に不釣り合いな性的な行動を行うことであ り,性的虐待の被害児童では性化行動が生じやすいとい

うことがわかっている.

 では,どのような評価基準を用いて,子供の性化行動 を評価していけばよいのか.子供の行動評価システムに っいては,とくに子供の発達障害や精神疾患の識別を目 的として開発されてきた.この中で,広範囲な行動評価 尺度として,CBCL(Child Behavior Check List)があ る.この中には,6項目の性的な行動が含まれている.

具体的には,「自分の性器をいじる」などの行為である.

これらの6項目の質問への反応について,性的虐待被害 児童と統制児童を比較した研究では,群間に有意な差が 存在し,判別分析を行うと,53〜76%の精度でこれらの 群を識別できることが示されている.CBCLは市販され ており,また,児童保護の現場でも使用される場合があ るので,このスコアを性的虐待児童の識別に用いること は可能である.しかし,問題なのは,この程度の識別精

度では,性的虐待を証拠づけるものとしては使用できな

いということである.

 そこで,識別精度をさらに増していくために,6項目 だけではなく,さらに多くの性的な行動をリストアップ した尺度を作成する試みが,Friedrichのグループによっ て行われた。彼らは,3回の改訂を経て,CSBI(Child Sexual Behavior Inventory)という尺度を構成した.

この中には,「性器を大人に見せる」,「人形やぬいぐる みを使用して性行為のまねをする」,「大人の服を脱がそ

うとする」などの項目が含まれている.Friedrich et al.

(2001)は,2歳から11歳の統制群児童,精神科通院統 制群,性的虐待児童,合計約2000人のサンプルを用いて,

CSBIの妥当性を検証している.その結果,各群間に有 意な差が検出されたほか,とくに統制群児童と性的虐待 被害児童の間の識別が正確に可能であることが示された

(越智,2004b).

3,本邦の行政・司法システムへの導入とその問題点  さて,いままで性的虐待被害児童の識別のために開発 されたッールとその特徴にっいて概観してきた.ここで は,それをもとにして,日本の司法や行政システムにこ れらの手法を導入していく場合の問題点にっいて,まと

めて見ようと思う.

3−1,どのテストを用いればよいのか

 まず,最初に問題になってくるのは,以上紹介したよ うなテストの中で,どのテストを日本で,用いるべきか

という問題である.

 描画テストは,比較的短い時間で実施可能であり,こ の方法で性的虐待の有無についての証拠が得られるなら ば,非常に有効なッールとなると思われる.しかも,本 来の描画テストの意義である被験者の性格的な側面,知 的な側面についての査定も同時に出来る可能性がある.

一方で,行動評定手法であるCSBIの場合,ある程度の 期間における性的な行動を査定する必要があるため,1 回から数回の面接時間で実施することは出来ない.しか

も,基本的には同居の家族が評定することが必要である

が,本邦で典型的な虐待事例では,虐待していない側の

同居の家族(ほとんどの場合母親)が客観的にこれらの

評定を行えるような状態にない場合が多い.つまり,虐

待の事実を頑強に否定するか,あるいは,その疑いを過

度に強調する場合が多いので,このような評定を実施す

(7)

越智啓太・福田由紀

るのが事実上困難なのである.

 このようなことから考えると描画テストが本邦での実 務には有効なように思われる.しかしながら,実証研究 によると,描画テストは識別性や信頼性が低く,行動評 定はそれに対して,識別性,信頼性が高いという特徴を

持っているのである.

 一っの解決策としてはCSBIのような行動評定手法を,

家族の評定によるのでなく,一定期間の子どもの観察を もとに家族以外の評定者が評定できる形に再標準化して いくか,それとも,幼稚園や保育園,小学校などでの行 動から評定できるように再標準化していくことが考えら れる.ただし,このような標準化によって識別性は若干 犠牲になる可能性はあるだろう.

3−2,エビデンスの蓄積に関する問題

 次に問題になってくるのは,エビデンスの蓄積という ことである.現在,児童虐待における虐待事実の認定が,

刑事,民事裁判で問題にされることはそれほど多くない.

しかし,今後,アメリカ型の訴訟社会化の進展や裁判員 制度の導入によって,虐待の事実認定が裁判上の争点に なる場合が出てくると思われる.とくに虐待事実の否認 事件や,緊急一時保護事件でこのようなケースが生じる

ことが予想される.

 このような場合には,虐待の事実が,科学的,客観的 に証明されるかが重要になってくる.その前提として,

本論で述べたような各種テストが本当に虐待を判定でき るのか,その判定はどの程度の正確性を持っているのか,

についてのデータ,つまり,エビデンスを蓄積していく

ことが重要になってくる.

 ところで,このようなデータを蓄積する場合には,ア メリカやイギリスで集められたデータを,そのまま使用 するだけでなく,日本人のデータを用いて標準化を行っ ていくことが必要になる.性的虐待の形態やその影響に は,生育環境などが大きく関わっており,海外のデータ をそのまま用いて基準にすることは出来ないからである.

 ただし,問題なのは,日本では性的虐待事案が発覚す るケースがそれほど多くないため,データの蓄積が困難 だということである.とくに,現状では,幼稚園程度か ら小学校中学年程度といった比較的幼い年齢層に対する 性的虐待が発見されることはきわめて少ない.本邦にお いて,性的虐待が発覚するのは,子どもが小学校高学年 になったあとか,あるいは中学校,高等学校のレベルで

ある(しかし,これ以下の子どもたちが性的な虐待を受 けていないというわけではない.実際中学校程度で性 的虐待が発覚した場合,その被害児童は虐待の始期は,

小学生の時であったと報告する場合も多い).そのため,

初期発見,初期介入の要となるこの年齢層のデータを集

めることが難しい.

 この問題を解決するためには,性的虐待に関して行政 や司法がより積極的な摘発を行ない,幼い被害者を発見

していくことが必要であろう.

3−3,判定基準に関する問題

 最後に,判定基準の問題について取り上げる.これは,

実用的な観点から重要になってくる問題である.例えば,

いま,ある心理テストを行い,一定の得点以上の児童を

「虐待の可能性あり」と判断するとする.この場合,誤っ た判断には2種類のものが考えられる.ひとっは実際に は性的な虐待が存在しないのに,それが存在するとして しまう誤りであり,フォールスポジティブといわれるも のである.もうひとっは,実際には,性的虐待が存在す るのに,それを「見逃して」存在しないとしてしまう誤 りである,これはフォールスネガティブといわれる.さ て,これらの誤りは,両方とも減少させることが必要で あるが,検査の識別力が一定であるとすると,どちらか の誤りを減少させると,もう一方の誤りが増加してしま うという関係にある.さて,ここで問題になってくるの は,どちらの種類の誤りが重要であるかは,そのテスト の使用目的に依存するということである.例えば,行政 的な立場から,事案に介入するか否かを決定する場合に は,フォールスポジティブよりもフォールスネガティブ を減少させることが必要になると思われる.ある程度の 誤りは許容されるし,問題の兆候があれば,介入するこ とが適切な判断だからである.これに対して,刑事司法 的な立場からみれば,実際には存在しない虐待を認定す ることはそのまま,誤認逮捕などに結びっいてくるため,

フォールスポジティブが生じることをできるだけ避ける 必要がある.そのたあ,それぞれのテストを実際の現場 で用いていくためには,その使用目的にあった適切な基

準が必要となってくる。

 この基準の選択は,科学的な問題というよりも,行政 的な意志決定の問題である.適切な判断基準を作ってい

くためには,多くの実際的な事例を検討して,それを評

価することが必要である.この場合にもやはり,出来る

(8)

だけ多くの事例を収集することが不可欠になってくる.

4,まとめ

 本論文では,性的虐待被害児童の発見のための心理学 的手法にっいて概観し,その特徴と問題点について指摘 した.これらの手法は一定の有効性を持っており,本邦 の行政や司法の現場で使用できる可能性は大きいと思わ れる.しかし,その実用化のためには,エビデンスの蓄 積とその分析などの研究を積み重ねていく必要があるだ

ろう.

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越智啓太 2004a 投影法を用いた性的虐待被害児童の

   識別 犯罪心理学研究,41,61−76.

越智啓太 2004b 性的行動を指標とした性的虐待被害

   児童の識別 精神科診断学,15,37−45.

越智啓太2005子ども虐待への法心理学的アプローチ    菅原郁夫・サトウタツヤ・黒沢香(編) 法と心理    学のフロンティア2巻(pp.197−223)北大路書房

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(9)

越智啓太・福田由紀

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1)本研究は,平成14〜15年度東京家政大学大学院共同     研究推進費および,平成16年度〜平成18年度科学     研究費補助金(基盤研究C:研究代表者 越智啓

    太)の助成を得て行われたものである.

Abstract

  In the present paper, psychological methods of detecting sexual abused children were examined, Firstly,

psychological tools such as anatomical dolls, projective techniques, and behavior inventories,which had

been developed in the United States for detection of sexual abused children, were introduced, and the features and application of the tools were explained. Secondly, some difficulties in using such techniques in Japan

were examined. Finally, based on the examination mentioned above, future investigations such as examina−

tion of the discrimination of each test by using Japanese data were discussed.

参照

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−104−..

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(( .  entrenchment のであって、それ自体は質的な手段( )ではない。 カナダ憲法では憲法上の人権を といい、

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いられる。ボディメカニクスとは、人間の骨格や

証拠を以てこれにかえた。 プロイセン普通法は旧慣に従い出生の際立会った