「数学概説」講義ノート
このプリントは、数学概説の講義内容をまとめたものである。講義中にノー トをとるのに忙しくて、講義内容の理解が不十分とならないようにとの配慮 で、このプリントを作成した。受講者は、予習と復習においてこのプリントを 熟読し、練習問題やレポート課題に取り組んでほしい。また、講義中でも講 義の前後でも、積極的に疑問点や問題点を見つけて、活発に質問してほしい。
授業において、教員の講義が半分で、残りの半分は受講者からの質問で成 り立っていることを理解してほしい。この講義ノートが、受講者の自立的学 習の手助けにはなっても、皆さんの怠惰を助長することには決してならない ようにと願っている。生産的な問題意識と開かれた議論によって、この講義が 大学数学の基礎を受講者の中に築くのに少しでも役立つことを期待している。
以下に挙げるものは、参考書のほんの一部である。自ら様々な本や文献を 調べて、逆に講義担当者に不足や不備を教えてくれる気概のある受講者の出 現を望むものである。とにかく、皆さん,議論をしましょう、質問をしましょ う、本を読みましょうよ。この講義に引き続き文献 [1] や [4] を読むと良いで しょう。これらは、この講義ノートより少し高度で「位相」に関する解説も 含んでいる。さらに高度な内容については、文献 [3] や [5] を参考にすると良 いでしょう。数学の基礎の基礎について思いを巡らしたい方には文献 [2] が お薦めです。文献 [6] と [7] は歴史的な背景も含めて解説した好著である(是 非、一読を)。
参考書
[1] 数理基礎論講義 – 論理・集合・位相 – (金子 晃 著、サイエンス社)
[2] 選択公理と数学(田中 尚夫 著、遊星社)
[3] 数 - 体系と歴史 - (足立 恒雄 著、朝倉書店)
[4] 集合と位相への入門 (鈴木 晋一 著、サイエンス社)
[5] 情報数理の基礎 (梅垣 壽春 著、サイエンス社)
[6] 無限からの光芒 (志賀 浩二 著、日本評論社)
[7] 無限への飛翔 - 集合論の誕生 - (志賀 浩二 著、紀伊国屋書店)
目 次
1 命題と論理 3
1.1 命題 . . . . 3
1.2 論理演算 . . . . 4
1.3 論理式と真理値 . . . . 5
1.4 恒真命題と同値命題 . . . . 7
1.5 命題関数 . . . . 8
1.6 限定記号 . . . . 9
1.7 数列と証明 . . . . 11
1.7.1 数列の収束 . . . . 12
1.7.2 数列の収束2 . . . . 13
1.7.3 例 . . . . 13
2 集合 16 2.1 集合 . . . . 16
2.2 和集合・共通集合 . . . . 20
2.3 集合の大きさ . . . . 21
2.4 冪集合と集合族 . . . . 22
2.5 直積集合 . . . . 25
3 写像 26 3.1 写像 . . . . 26
3.2 部分集合の像と逆像 . . . . 27
3.3 単射と全射 . . . . 31
3.4 可算集合と非可算集合 . . . . 36
3.5 和集合・共通集合と像・逆像 . . . . 38
4 関係 41 4.1 2項関係 . . . . 41
4.2 同値関係 . . . . 42
4.3 順序関係 . . . . 44
1 命題と論理
1.1 命題
命題とは、物事の判断について述べた文章や式のことをいう。ただし、数 学における命題は、通常その命題が 正しいか正しくないかの判定が(原理的 に)下せるようなものだけに限定される。ある命題が正しいとき、その命題 は「真」 であるといい、正しくないとき「偽」であるという。
例 1.1 次の文章は(数学的な)命題である。
(1) 49 は 7 で割り切れる。
(2) 東広島市は広島県内にある。
(3) 円周率 π は無理数である。
(4) 方程式 x 2 + y 2 = z 2 を満たす自然数 x, y, z が存在する。
(5) 方程式 x 3 + y 3 = z 3 を満たす自然数 x, y, z が存在する。
これらは全て命題であり、 (1) (2) (3) (4) は真、 (5) は偽(その証明は易し くないが)である。上の例 (1) において、 「49」を他の数で置き換えても、そ の真偽は変わるかもしれないが、命題であることには 変わりがない。このよ うに、命題の中の主語に相当する部分、あるいは 目的語に相等する部分(こ れらを変数と呼ぶ)に特定のものが入ればその真偽が確定するものを、命題 関数という。そこで、これを関数らしく記号を用いて
P (x): x は 7 で割り切れる
等と表す。このとき、P (49) は真であり、P(15) は偽である。同様のことは、
例 1.1 (2) についてもいえる。「東広島市」のところに、別の市や町の名前を
入れてもよい。
Q(x) : x は広島県内にある
とすれば、Q(東広島市) は真であり、Q(岡山市) は偽である。
このように、数学において扱う命題は命題関数である場合が多い。この「変 数」(必ずしも数であるとは限らない)と 「命題関数」という考え方は、後 に集合を記述的に定義するときに用いられる。また、記号 P, Q などを用い て命題を表す。
Quiz 1. 上の例に倣って、各自ひつとの命題を考案せよ。
1.2 論理演算
実数の間に四則演算が定義されているように、命題の間には論理演算と呼 ばれる操作が定義される。二つの命題 P と Q の間に、次のような基本演算 が定義される。
P ∨ Q : 論理和( logical sum, または)、 P または Q P ∧ Q : 論理積(logical product, かつ)、P かつ Q
¬ P : 否定(negation)、P でない P ⇒ Q : 含意(implication)、P ならば Q
これらの論理演算が定義されるためには、 P と Q が命題であれば、それら の真偽は問題にされない。これらの演算によって得られるものも、やはり命 題である。例えば、P : 1 > 3, Q : 5 < 11 とすれば、
P ∨ Q : 1 > 3 または 5 < 11;
P ∧ Q : 1 > 3 かつ 5 < 11;
¬ P : 1 > 3 でない ; P ⇒ Q : 1 > 3 ならば 5 < 11.
さて、これらの基本的な論理演算の結果得られる新たな命題の真偽はどの 様になるだろうか。
(1) まず、論理和 P ∨ Q は、 P と Q のうち少なくともどちらかが真( T ) のとき真(T)であり、それ 以外(P と Q 両方が偽)のとき偽(F)
である。日常用語では、 「P または Q」というと「P 、さもなければ Q」
を意味することが多い。即ち、 P と Q のどちらか一方だけが成り立 つことを要求している場合が多いので、日常用語における「P または Q 」と論理和 P ∨ Q の違いに注意すること。
(2) 一方、論理積 P ∧ Q は、P と Q の両方が真(T)のときだけ真(T)
であり、 それ以外( P または Q が偽)のとき偽( F )である。
(3) 命題 P の否定 ¬ P は、P が真(T)のとき偽(F)であり、P が偽(F)
のとき真(T)である。
(4) ⇒ を「ならば」と呼ぶことにしているので、命題 P ⇒ Q は P と Q の 間の因果関係を表すと誤解されることが多い(日常用語からの類推)。
すなわち、 P が因で Q が果であることを表していると理解されること
が多い。もちろんそのような因果関係があっても差し支えないが、 数
学においては、命題 P ⇒ Q は、 ( ¬ P ) ∨ Q のことを意味するので、P
が真(T)で Q が偽(F)の時に限って偽(F)となり、それ以外の場 合は真(T)となる命題のことである。(注) 1
Quiz 2. 「P または Q」、 「P かつ Q」、 「P でない」、 「P なら ば Q 」について各自がもっているイメージや理解していることを 明確に述べてみよ。さらに、それらを上で解説した論理式の定義 と比較せよ。
まとめると、基本論理演算によって得られる命題の真偽は以下のようになる。
P ∨ Q : P と Q の両方が偽のときに限り偽となり、
それ以外の場合は真となる
P ∧ Q : P と Q の両方が真のときに限り真となり、
それ以外の場合は偽となる
¬ P : P が真のとき偽となり、 P が偽のとき真となる P ⇒ Q : P が真 Q が偽のときに限り偽となり、
それ以外の場合は真となる
Quiz 3. P : 1 > 3, Q : 5 < 11 とする。P ∨ Q、P ∧ Q、 ¬ P および P ⇒ Q の真偽を判定せよ。
P
が偽ならばQ
の真偽に関わらずP ⇒ Q
が真であるということは、言葉の日 常的な用法からは納得しがたいかもしれないが、後に、集合を命題を用いて記述する(内包的定義)ので、集合の包含関係と関連付けて理解すると良いであろう。7ペー ジ下段の注も参照のこと
上で定義した基本的な論理演算に加えて、
P ⇔ Q : 「P と Q は同等である」
という 論理演算もよく使われる。これは、(P ⇒ Q) ∧ (Q ⇒ P) を意味する。
Quiz 4. 命題 P ⇔ Q が真であるのはどのような場合か?
以上の論理演算で出てきた ∧ 、 ∨ 、 ¬ 、 ⇒ 、 ⇔ を論理記号という。
1.3 論理式と真理値
前小節で論理演算を定義したとき、命題 P や Q は特定の命題を意味して いる訳ではなかった。命題でありさえすれば任意であった。じつは基本論理
1その意味で、「ならば」を基本論理演算に加えないほうが良いかもしれない。(これは筆者の 独り言)
演算を定義したとき、P や Q に真偽を割り振り、その結果複合命題の真偽を 論じたのである。その意味で P や Q は真偽が前もって決定しているわけで は無い。従って、1.1 節冒頭で定義した意味ではこれらは命題ではない。 こ れは、文字式における文字変数とにているので命題変数(または、原始命題)
と 呼ばれる。ここで問題になるのは、命題 P とか Q が真(T)であるか偽
( F )であるかだけである。命題変数と論理記号を用いて構成される命題を論 理式という。もちろん、単独の命題変数は論理式であり、論理和、論理積、否 定、含意などはすべて論理式である。 幾つかの命題と論理記号からなる論 理式は、その論理式を構成する個々の 命題の真偽によって真になったり偽に なったりする。これを論理式の値とよぶ。
論理式の値は真( T )か偽( F )のどちらか一方の値をとる。
論理式の真偽をその構成命題の真偽によって表にしたものを真理表(真理 値表)という。次の表
表 1: 真理値表
P Q ¬ P ¬ Q P ∨ Q P ∧ Q P ⇒ Q Q ⇒ P P ⇔ Q
T T F F T T T T T
T F F T T F F T F
F T T F T F T F F
F F T T F F T T T
は一つの真理値表である。
命題 「Q ⇒ P 」を命題「P ⇒ Q」の逆という。真理値表からわかるよう に、命題 「P ⇒ Q」 が真(T)であってもその逆「Q ⇒ P 」 は必ずしも真
(T)で あるとは限らず、偽(F)の場合もある。
問題 1.1 命題 P, Q, R に真偽を割り振ることによって、次の論理式の真 理値表を計算せよ
(1) P ∧ ¬ Q
(2) ¬ P ∧ (P ⇒ ¬ Q)
(3) P ∧ (Q ∨ R)
(4) (P ∨ Q) ∧ (P ∨ R)
(5) P ⇔ Q
1.4 恒真命題と同値命題
命題 P ⇒ (Q ⇒ P ) は、P と Q の真偽に関わらずその真理値が真(T)で ある(確かめよ)。このような命題を恒真命題と呼ぶ。恒真命題はトウトロ ジー(tautology)とも呼ばれる。
問題 1.2 P ∨ ¬ P は恒真命題であることを示せ。
論理式 P ⇔ Q が真命題であるとき、論理式 P と Q は同値であるといい、
P ≡ Q で表す。問題 1.1 (5) の結果から、論理式 P と Q の真理値が一致す るとき、また、そのときに限り、P ≡ Q である。
命題 P ∨¬ P が恒真命題であることは、排中律( law of the excluded middle ) と呼ばれ、重要なことである。これは、どのような命題 P も、それが真であ るか偽であるかのいずれかであることを保証している。
定理 1.1. 命題 P, Q, R に対して、次のことが成り立つ。
(1) ¬ ( ¬ P) ≡ P
(2) (P ⇒ Q) ≡ ( ¬ Q ⇒ ¬ P ) (対偶)
(3) P ∨ (Q ∧ R) ≡ (P ∨ Q) ∧ (P ∨ R) (分配律)
(4) P ∧ (Q ∨ R) ≡ (P ∧ Q) ∨ (P ∧ R) (分配律)
(5) ¬ (P ∨ Q) ≡ ( ¬ P ) ∧ ( ¬ Q) (ド・モルガンの法則)
(6) ¬ (P ∧ Q) ≡ ( ¬ P ) ∨ ( ¬ Q) (ド・モルガンの法則)
証明:全ての場合について、記号 ≡ の左側と右側の真理値表が一致するこ とを示せばよい。
問題 1.3 真理値表を計算することにより、定理 1.1 を証明せよ。
命題 ¬ Q ⇒ ¬ P を命題 P ⇒ Q の対偶という。
定理 1.1 (2) は、 命題 P ⇒ Q とその対偶は同値であることを主張して
いる。
P ⇒ Q ≡ ¬ Q ⇒ ¬ P
注: 背理法によって
P ⇒ Q
が真であることを証明するとき、P
であるにも関 わらずQ
ではない、すなわち、P ∧ ¬Q
から矛盾が 導かれればP ⇒ Q
が証明され たとする。これは、¬ (P ⇒ Q)
とP ∧ ¬ Q
が同じことだと認めていることになる。従って、定理
1.1 (1)
と(6)
により、(P ⇒ Q) ≡ ¬P ∨ Q
が導かれる。1.5 命題関数
これはすでに出てきたが、命題がある変数を含み、その変数に特定の値 を入れると真であるか偽であるかが決まるものである。
例 1.2 次は命題関数である。
(1) P (n):n は 3 の倍数である。
(2) Q(x) : x は有理数である。
(3) R(x, y):x は y よりも大きい。
ここで、P (6) や P (33) は真であり、P (5) や P (16) は偽である。また、
R(3, 0) は真であるが、 R(12, 90) は偽である。P (n) の n に「花」を代入す るとき、「花は 3 の倍数である」という(詩的ではあるが)無意味な命題に なる。そこで、命題関数の変数はある特定範囲のものを指定することが自然 である。この範囲をその変数の定義域または対象領域という。
例 1.2 (1) では、 n の定義域は自然数、例 1.2 (2) の x の対象領域は実数
全体、例 1.2 (3) の x と y は実数全体、とするのが自然である。
Quiz 5. 各自、命題函数を一つ考案せよ。その場合、変数(数と
は限らなくてよい)の範囲(対象領域)を明示すること。
問題 1.4 a と b を実数とし、x に関する2次方程式 x 2 + ax + b = 0 を 考える。
(1) 「 x = 0 は2次方程式 x 2 + ax + b = 0 の解である」という命題を P と する。命題 P の否定命題 ¬ P を求めよ。
(2) 「b 6 = 0] という命題を Q とする。命題 Q ⇒ ¬ P は真であることを示 せ。また、命題 ¬ P ⇒ Q は真であることを示せ。
(3) 「a 2 − 4b ≥ 0」という命題を R とし、 「2 次方程式 x 2 + ax + b = 0 の 解は実数である」という命題を S とする。命題 R と命題 S は同値で あることを示せ。即ち、命題 R ⇒ S と命題 S ⇒ R は共に真であるこ とを示せ。
(4) 命題 S ∧ ¬ P と同値な命題を、命題 Q、命題 R および基本論理演算を
用いて構成せよ。
1.6 限定記号
数学の定理においては、 「すべての・ ・ ・」、 「任意の・ ・ ・」、「どのような・ ・ ・」
および「・ ・ ・存在する」 などの表現を含むことが多い。たとえば、
(a) 任意の自然数 n に対して、0 < x < 1 n を満たす実数 x が存在する。
(b) どのような複素係数2次方程式も複素数の解をもつ。
(c) すべての正の偶数は2つの正の奇数の和として表せる。
(d) すべての正の実数は負の実数の二乗と等しい。
これらの命題を論理式の形で表現するために、限定記号( quantifier )と呼 ばれる、 ∀ と ∃ を 導入する。
命題関数 P(x) に対して、
• 定義域に含まれる任意の x に対して P (x) が真であるという命題を
∀ xP (x)
で表す。 ∀ を全称記号(universal quantifier)という。変数 x の定義域
(例えば X)を明示する場合には ∀ x ∈ XP (x) で表す。
• P (x) が真であるような x が定義域内に存在するという命題を
∃ xP (x)
で表す。 ∃ を存在記号(existential quantifier)という。変数 x の定義 域(例えば X)を明示する場合には ∃ x ∈ XP (x) で表す。
ここで定義した、 ∀ xP (x) や ∃ xP (x) を限定命題という。
例 1.3 上で挙げた (a)、(b)、(c) を限定命題の形で表現してみよう。
(a) ∀ 自然数 n ( ∃ 正の実数 x (0 < x < 1 n )) (b) ∀ 複素係数2次式 f ( ∃ 複素数 x 0 (f (x 0 ) = 0)) (c) ∀ 偶数 n ( ∃ 奇数 m, l (n = m + l))
Quiz 6. 上で挙げた (d) を例 1.3 に倣って,限定命題の形に表
現せよ。また、この命題は真(正しい)か偽(間違い)かを判定
せよ。
Quiz 7. 限定命題: ∀ x ∈ [0, 1] f (x) ≥ 0 が成り立つような2次函 数 f (x) の例を一つ挙げよ。 また、この命題が成り立たない(正 しくない)ような1次函数 f(x) の例を二つ挙げよ。
限定命題の否定について考えてみよう。これは数学の論証を行うとき、非 常に重要である。
∀ xP (x) を否定して ¬ ( ∀ x P (x)) を考える。
命題 ∀ x P (x) が すべての x について P (x) が成り立つ(真である) と いう意味だから、その否定命題は
すべての x について P (x) が成り立つというのは誤りである と主張する命題である。言い換えれば、
「P (x) が偽となるような x が存在する」
と同じことである。従って、次が得られる。
¬ ( ∀ x P (x)) ≡ ∃ x ( ¬ P(x)) 同様に、 ∃ xP (x) を否定した ¬ ( ∃ xP (x)) は、
「P (x) が真であるような x が存在するというのは誤りである」
と主張する命題だから、「どのような x についても P(x) は偽となる」と同 じことになり、
¬ ( ∃ x P (x)) ≡ ∀ x ( ¬ P(x)) となる。
以上をまとめて定理とする。この定理は非常に重要である。
定理 1.2. 限定命題の否定に関して次が成り立つ。
(1) ¬ ( ∀ x P (x)) ≡ ∃ x ( ¬ P (x))、
あるいは対象領域を明示して、 ¬ ( ∀ x ∈ X P (x)) ≡ ∃ x ∈ X ( ¬ P (x)) (2) ¬ ( ∃ x P (x)) ≡ ∀ x ( ¬ P (x)) 、
あるいは対象領域を明示して、 ¬ ( ∃ x ∈ X P (x)) ≡ ∀ x ∈ X ( ¬ P (x))
注意! ! よくある間違い:次のような間違いが見受けられるので、注意す
ること。
¬ ( ∀ x ∈ X P (x)) ≡ ∃ x 6∈ X ( ¬ P(x)) や ¬ ( ∃ x P (x)) ≡ ∀ x 6∈ X ( ¬ P (x))
とする間違いである。これらは、間違いであるから絶対にしないこと。
Quiz 8. 上の注意で挙げたことが何故間違いなのか、理由を考
えよ。
Quiz 9 次の命題の否定命題を求めよ。
P : ∀ x ≥ 0(f (x) ≤ f (0)) 、 Q : ∃ a < 0( ∀ x ≤ 0(f (x) ≥ a))
問題 1.5 例 1.3 の命題 (a) (b) (c) の否定命題を論理記号を用いて表せ。
問題 1.6 例 1.3 の (a) (b) において変数の範囲(定義域)を変えて、次
のような命題 P, Q を考える。
• 命題 P: ∀ 自然数 n ( ∃ 自然数 x (x < n 1 ))
• 命題 Q: ∀ 実係数2次式 f ( ∃ 実数 x 0 (f (x 0 ) = 0))
命題 P と Q は偽命題である。従って、それらの否定は真命題である。命 題 P, Q の 否定命題を論理記号で表し、さらに ¬ P と ¬ Q が真命題であるこ とを示せ。
例 1.4 次の式が成り立つことを示せ。
¬ ( ∀ x(A(x) ⇒ B (x))) ≡ ∃ x(A(x) ∧ ( ¬ B(x)))
証明:定理 1.2 (1) における P(x) に相当するものが、 A(x) ⇒ B(x) である。 ¬ (A(x) ⇒ B(x)) ≡ ¬ ( ¬ A(x) ∨ B(x)) ≡ A(x) ∧ ¬ B(x) だから、
¬ ( ∀ x (A(x) ⇒ B(x))) ≡ ∃ x(A(x) ∧ ¬ B(x)) が示された。
問題 1.7 次の式が成り立つことを示せ。
∀ x[A(x) ⇒ ( ¬ B (x))] ≡ ¬ ( ∃ x(A(x) ∧ B(x)))
1.7 数列と証明
この小節は
数列を例に,全称記号,存在記号が複数ある命題について理解を 深めること,また証明の論理を理解すること
を目的とする。解析学 I の授業の進み具合に合わせて,適宜取捨選択して
扱う方が良いかもしれない。
1.7.1 数列の収束
定義 次の命題が成り立つとき,実数列 { a n } は実数 α に収束するという。
∀ ε > 0 ∃ 自然数 N ∀ 自然数 n [ n ≥ N ⇒ | a n − α | < ε ] (1) 数列 { a n } が,ある実数 α に収束するとき,数列 { a n } は収束するといい, α を極限値という。(どのような実数にも収束しないとき,発散するという。)
全称記号,存在記号が複数あるときは,それらの記号を内側から適用する。
つまり,
∀ ε > 0 [ ∃ 自然数 N [ ∀ 自然数 n [ n ≥ N ⇒ | a n − α | < ε ]]] (2)
口頭で発表するときなどは,次のように表現することがある。
任意の正の数 ε に対して,自然数 N が存在し, n ≥ N ならば
| a n − α | < ε である。
日本語の普通の語順にすれば,
任意の正の数 ε に対して,自然数 N で, n ≥ N ならば | a n − α | < ε が成り立つような N が存在する。
数列 { a n } が実数 α に収束しないということは, 次の命題が成り立つこと である。
∃ ε > 0 ∀ 自然数 N ∃ 自然数 n [ n ≥ N ∧ ( | a n − α | ≥ ε) ] このことを確認してみよう。
数列 { a n } が実数 α に収束するという命題の否定命題を P 1 とする。 定理 1.2 :
¬ [ ∀ xP (x)] ≡ ∃ x ¬ P(x), ¬ [ ∃ xP (x)] ≡ ∀ x ¬ P (x) を用いて,次の命題 P 1 , P 2 , P 3 , P 4 は同値であることが分かる。
P 1 : ¬ [
∀ ε > 0 ∃ 自然数 N ∀ n [ n ≥ N ⇒ | a n − α | < ε ] ] P 2 : ∃ ε > 0 ¬ [
∃ 自然数 N ∀ n [ n ≥ N ⇒ | a n − α | < ε ] ] P 3 : ∃ ε > 0 ∀ 自然数 N ¬ [
∀ n [ n ≥ N ⇒ | a n − α | < ε ] ]
P 4 : ∃ ε > 0 ∀ 自然数 N ∃ n ¬ [ n ≥ N ⇒ | a n − α | < ε ]
ここで,P ⇒ Q ≡ ¬ P ∨ Q であったので,次が成立する。
¬ [P ⇒ Q] ≡ ¬ [ ¬ P ∨ Q] ≡ P ∧ ¬ Q このことに注意すれば,
¬ [ n ≥ N ⇒ | a n − α | < ε ] ≡ n ≥ N ∧ ( | a n − α | ≥ ε) が分かる。よって,P 4 は次の命題に同値である。
P 5 : ∃ ε > 0 ∀ 自然数 N ∃ n [ n ≥ N ∧ ( | a n − α | ≥ ε) ]
数列 { a n } が実数 α に収束するという命題の否定は P 5 と同値であることが 分かる。
1.7.2 数列の収束2
数列の収束の定義は次のように述べられることもある。
定義 次の命題が成り立つとき,数列 { a n } は収束するという。
∃ 実数α ∀ ε > 0 ∃ 自然数 N ∀ n [ n ≥ N ⇒ | a n − α | < ε ] (3) このとき,α を,数列 { a n } の極限値と呼ぶ。
数列 { a n } が収束するという上の命題の否定は,次のように命題を同値な ものでつなげて行くと,P 6 と同値であることが分かる。
P 1 : ¬ [
∃ 実数α ∀ ε > 0 ∃ 自然数 N ∀ n [ n ≥ N ⇒ | a n − α | < ε ] ] P 2 : ∀ 実数α ¬ [
∀ ε > 0 ∃ 自然数 N ∀ n [ n ≥ N ⇒ | a n − α | < ε ] ] P 3 : ∀ 実数α ∃ ε > 0 ¬ [
∃ 自然数 N ∀ n [ n ≥ N ⇒ | a n − α | < ε ] ] P 4 : ∀ 実数α ∃ ε > 0 ∀ 自然数 N ¬ [
∀ n [ n ≥ N ⇒ | a n − α | < ε ] ] P 5 : ∀ 実数α ∃ ε > 0 ∀ 自然数 N ∃ n ¬ [ n ≥ N ⇒ | a n − α | < ε ] P 6 : ∀ 実数α ∃ ε > 0 ∀ 自然数 N ∃ n [ n ≥ N ∧ ( | a n − α | ≥ ε) ]
1.7.3 例
例 1.5 数列 { a n } が収束するとき,その極限値は一意に定まることを証
明せよ。
解答 (1) 数列 { a n } の極限値が2つ以上あると仮定して矛盾を示す。α と β は異なる実数で,ともに { a n } の極限値と仮定する。
ε = | α − 2 β | とすると,
∃ N 1 ∀ n [
n ≥ N 1 ⇒ | a n − α | < | α − β | 2
] かつ
∃ N 2 ∀ n [
n ≥ N 2 ⇒ | a n − β | < | α − β | 2
]
N = max { N 1 , N 2 } とすると、
| a N − α | < | α − β |
2 かつ | a N − β | < | α − β | 2 より
| α − β | = | (a N − α) − (a N − β) | ≤ | a N − α | + | a N − β | < | α − β | すなわち、 | α − β | < | α − β | となり、これは矛盾なので 数列 { a n } の極限値 は一意に定まる。
次の解答は,上の解答と本質的に同じものである。
解答 (2) 数列 { a n } の極限値が2つ以上あると仮定すると,次の命題が成り 立つ:
∃ 実数α ∃ 実数β
(α 6 = β) ∧ [ ∀ ε > 0 ∃ 自然数 N ∀ n [ n ≥ N ⇒ | a n − α | < ε ]]
∧ [ ∀ ε > 0 ∃ 自然数 N ∀ n [ n ≥ N ⇒ | a n − β | < ε ]]
ε = | α − 2 β | とすると
∃ N 1 ∃ N 2 ∀ n [
(n ≥ N 1 ∧ n ≥ N 2 )
⇒ [(
| a n − α | < | α − β | 2
) ∧ (
| a n − β | < | α − β | 2
)]]
N = max { N 1 , N 2 } とすると、
( | a N − α | < | α − β | 2
) ∧ (
| a N − β | < | α − β | 2
)
より
| α − β | = | (a N − α) − (a N − β) | ≤ | a N − α | + | a N − β | < | α − β | すなわち、 | α − β | < | α − β | となり、これは矛盾なので 数列 { a n } の極限値 は一意に定まる。
例 1.6 数列 { a n } , { b n } が収束するとき,c n = a n + b n (n = 1, 2, 3, · · · )
によって定義される数列 { c n } も収束することを証明せよ。
解答 (1) 実数 α を数列 { a n } の極限値,β を数列 { b n } の極限値とし, 数列 { c n } が α + β に収束することを示す。
正数 ε に対して,
∃ N 1 ∀ n [ n ≥ N 1 ⇒ | a n − α | < ε 2 ],
∃ N 2 ∀ n [ n ≥ N 2 ⇒ | b n − β | < ε 2 ] N = max { N 1 , N 2 } とすると n ≥ N のとき
| c n − (α + β) | = | (a n − α) + (b n − β) | ≤ | a n − α | + | b n − β | < ε 2 + ε
2 = ε
次の解答は,上の解答と本質的に同じものである。
解答 (2)
∃ 実数 α ∀ ε > 0 ∃ 自然数 N ∀ n [ n ≥ N ⇒ | a n − α | < ε ],
∃ 実数β ∀ ε > 0 ∃ 自然数 N ∀ n [ n ≥ N ⇒ | b n − β | < ε ] が成り立つので、正数 ε に対して,
∃ N 1 ∀ n [ n ≥ N 1 ⇒ | a n − α | < ε 2 ],
∃ N 2 ∀ n [ n ≥ N 2 ⇒ | b n − β | < ε 2 ] N = max { N 1 , N 2 } とすると n ≥ N のとき
| c n − (α + β) | = | (a n − α) + (b n − β) | ≤ | a n − α | + | b n − β | < ε 2 + ε
2 = ε 例 1.7 a n = ( − 1) n (n = 1, 2, 3, · · · ) によって定義される数列 { a n } は収 束しないことを示せ。
解答 (1) (1) α = 1 とする。ε = 1 とする。任意に選ばれた自然数 N に 対 して、n を N より大きな奇数とすれば, | a n − α | = | − 1 − 1 | = 2 ≥ ε とな り, { a n } は 1 に収束しない。
(2) α = − 1 とする。ε = 1 とする。任意に選ばれた自然数 N に 対して、n を N より大きな偶数とすれば, | a n − α | = | 1 − ( − 1) | = 2 ≥ ε となり, { a n } は − 1 に収束しない。
(3) α 6 = − 1, 1 とする。ε = min {| 1 − α | , | − 1 − α |} とする。ε > 0 であ る。任意に選ばれた自然数 N に 対して、 n を N より大きな整数とすれば,
| a n − α | ≥ ε となり, { a n } は α に収束しない。
以上より, { a n } はどのような実数 α にも収束しない。
解答 (2) α を実数とする。 ε = 1 2 とする。任意に選ばれた自然数 N に対 して、n を次のように定める:
n = {
N [(α ≥ 0) ∧ (N は奇数)] ∨ [(α < 0) ∧ (N は偶数]) N + 1 [(α < 0) ∧ (N は奇数)] ∨ [(α ≥ 0) ∧ (N は偶数]) このとき、n ≥ N であるが、α ≥ 0 のとき a n = − 1,α < 0 のとき a n = 1 な ので、いずれの場合にも | a n − α | ≥ 1 > 1 2 。したがって
∀ N ∃ n [
n ≥ N ∧ | a n − α | > 1 2 ]
2 集合
2.1 集合
ある条件を満たすものの集まりを考える。集まりを成す 1 つ 1 つのものを 点と呼び、 集まりを取りまとめて集合という。集合を構成する点 2 を、その 集合の要素もしくは元とも呼ぶ。
「点」=「要素」=「元」
例えば、本年度数学概説受講者という集合 S を考えれば、皆さん一人一人 はこの集合の構成員だから、大変申し訳ないけれども、 この集合 S の「要 素」あるいは「元」あるいは「点」と呼ばれることになる。
集合論の創始者カントールは、集合を次のように定義している。
集合とは、我々の直感や思考の定まったよく区別できる対象たち を一つの全体にまとめたもののことである。
上の例 S: 「本年度数学概説受講者」の場合、その構成要素である皆さんは 一人一人明確に区別できるので、それを一まとめにしたものが集合 S である、
ということであろう。 これでは良く分らないかもしれないので、以下、この 定義の内容を整理してみよう。
思考の対象を文字 x や y で表し、それらの一定の集まりを S で表すこと にしよう。次の二つの要件が満たされるとき、 S は集合であるとする。
(I) 思考の対象となる任意の x は S に所属するか所属しないかどちらか一 方が必ず成り立つ。すなわち、
x は S に属するか、x は S に属さないか
2同じものを指すのに複数の呼び名があるのは、混乱の原因になるので避けた方が良いかもし れない。しかし、それぞれの呼び名には独特の「味」があるので、 気分を豊かにすると思って、
受け入れを願う。