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学校におけるソーシャル・キャピタルと主観的幸福感

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学校におけるソーシャル・キャピタルと主観的幸福感:

「つながり」は子どもと保護者を幸せにできるのか?

(教育実践高度化専攻)

露口健司

Social capital and subjective well-being in schools:

Can connection make happiness of children and parents?

Kenji TSUYUGUCHI

(平成 29 年 10 月 31 日受理)

Ⅰ.序論

本 研 究の 目的 は ,学 校に おけ るソ ーシャ ル ・キャ ピ タル(social capital)が,子どもと保護者の主観的幸 福感(subjective well-being)に及ぼす影響を明らか にすることである。

近年,個人の幸福に対する関心が世界レベルで高ま っ て い る 。 経 済 成 長 ( 代 理 指 標 と し て の GDP) が 人 々 の 幸 福 の 拡 充 に 寄 与 し て い な い と い う 実 態 が 明 ら か に され たことに より, 幸福とは 何か を問 い直し,また,

そ の 決 定 要 因 を 見 極 め よ う と す る 機 運 が 広 が っ て い る

(OECD 2011)。貧困問 題や 格差問 題が 世界 各地で 議 論さ れ る中 で , その 合わ せ 鏡とも 言え る 幸福 への 関 心 が 高 ま っ た と も 解 釈 で き る 。 幸 福 に 着 目 す る 動 き は 学 校 教 育 に も波 及 して い る 。たと えば ,米 国 では , 学 校経営の成果指標として学力向上(academic success)

と幸 福(well-being) を掲 げる 学校 ・地域 (特に 経済 的困窮度の高い学校・地域に集中している)が多数出 現している(DeMattews,Edwards Jr,& Rincones 2016)。 す べ て の 子 ど も の 幸 福 は , 米 国 に お け る 教 育 リ ー ダ ー ( 学 校 管 理 職 や 教 育 長 等 ) の 使 命 で も あ る

(NPBEA 2015)。

幸 福 研 究 と は , 社 会 の 中 で 困 っ て い る 人 ( 不 幸 ),

生活に満足している人(幸福)は誰か。それぞれどの よ う な 特 徴 を 持 っ て い る か 。 そ れ ら の 人 々 に , 今 後 生 じ る で あ ろう 現 象 は 何 か , を 明 ら か に し よう とす る 研究 分野であると言える。こうした問いは,学校にかかわる 子 ど も ・ 保 護 者 ・ 教 師 等 の い ず れ を 対 象 と し て も 成 り 立つものである。子ども及び保護者の機会格差や,教 師等 の多忙 化により, 子ども・保護 者・教師等の幸福 が脅かされつつある今日,幸福を学校経営の指標とし,

マ ネ ジ メ ン ト の 対 象 と す る 学 術 的 ・ 実 践 的 研 究 を 教 育 経 営 (educational administration) 研 究 とし て 展 開 することの意義は大きい。「学力を高めるために,学校 として教育リーダーとして何をすればよいか」という従 来の問いに 加えて,「学校を取り 巻く子ども・保護者・

教師等をどのようにして幸福にすればよいのか」という 新 た な 問 い に 応 答 し て い く こ と が , 教 育 経 営 研 究 の 新 たな使命であろう。

幸福を 対象 とする研究は,特 にこの 10 年間 の伸び が 著 し い 。OECD の リ ー ダ ー シ ッ プ に よ り , 世 界 レ ベ ルにおいて経済成長(GDP 等)に代わるアウトカム指 標 と し て の 「 幸 福 度 」 指 標 の 開 発 が 進 め ら れ て き た

(Frey 2008; OECD 2011,2013a, 2015; Stiglitz,Sen,

& Fitoussi 2009)。幸福度調査では,「何をもって幸福 と 言 え る の か 」 と す る 哲 学 的 な 問 い を 起 点 と し て 分 野

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・領域を立ち上げ,既存の計量データとの接合を考慮 し つ つ指 標を 設 定す る作 業 が 進め られ てき た。 代表 的 な幸福度指標は,一般成人を対象としたOECDによる 幸福度調査(OECD 2011)であろう。そこでは,所得 と 資 産, 仕 事 と報 酬 , 住居 ,健 康 状態 ,ワ ー ク・ ラ イ フ ・ バ ラ ン ス , 教 育 と 技 能 , 社 会 と の つ な が り , 市 民 参加とガバナンス,環境の質,生活の質,主観的幸福 感の 11 分野(22 指標)から OECD 加盟国の幸福度 が測定され,各国の実態がまとめられている。

こ う し た 流 れ を 受 け , 国 内 に お い て も 寺 島 (2014)

による47都道府県を対象とした幸福度調査が実施され て い る 。 幸 福 度 の 指 標 は , 健 康 ( 医 療 ・ 福 祉 , 運 動

・ 体 力 ), 文化 ( 余暇 ・ 娯 楽, 国際 ), 仕事 ( 雇用 ・ 企 業 ), 生活 ( 個 人・ 家 族 ,地 域 ), 教育( 学 校, 社 会)の5分野10領域55指標で構成されている。OECD の11分野を日本の実情に応じて要約している。

一 方 , 子 ど も を 対 象 と す る 幸 福 度 調 査 と し て は , OECD 加盟国 31 カ国を対象とする国際調査であるユ ニ セ フ / イ ノ チ ェ ン テ ィ 研 究 所 ・ 阿 部 彩 ・ 竹 沢 純 子

(2013)が 報告され ている 。そこ で は, 物質的 豊か さ

(金銭的剥奪・物質的剥奪),健康と安全(出生時の 健康 ・予防医療・子どもの健康 ),教育(就学・学習 到達度),日常生活上のリスク(健康行動・リスク行動

・暴力),住居と環境(住居・環境面の安全)の 5 分 野12 領域 20 指標が設定されている。これらの指標か ら 算出 され る 日 本 の子 ども の幸 福度 は ,教 育 と日常 生 活上の低リスクが第 1 位であり,総合得点でも先進国 中の上位にあることが報告されている。

同 じ く 子 ど も を 対 象 と し て 小 林 (2015) が 実 施 し た 国 内 調 査 で は , 健 康 , 地 域 ・ 家 族, 安 心 ・ 安 全 , 教 育,豊かさの 5 分野 70 指標が設定されている。都道 府 県間 比 較に より ,国 内に おける 幸福度 の分 散実態 を 確 認 する こ とがで き る。 指標 は ユ ニセ フ/ イノチ ェンテ ィ研究所他(2013)と類似の設定となっている。

上 記 の 経 済 学 ( 政 治 経 済 学 ) 的な 研 究 が 「客 観 的 幸 福 度 (Objective Well-Being)」 を 扱 う 一 方 で , 社 会心理学,老年学,QOL(Quality of Life)研究で は ,「主観的幸福感(Subjective Well-Being)」の研 究が1970年代後半から蓄積されてきた(石井1997)。

幸福研究萌芽期において主たる研究対象は,学生と高

齢者であった。その後,主観的幸福感研究の発展と共 に , 一 般成 人 を サ ンプ ルとする 調 査研 究が 増加 した。

専 門 的 職 業 人 ( 風 間 ・ 本 間 ・ 八 巻 2013), 親( 福 島

・沼山2015; 加藤2008; 清水・関水・遠藤2010),子 ども(深谷 2015)を対象とする主観的幸福感の調査研 究も報告され るようになった。近年では,ポジティブ心 理 学 の 発 展 を 基 盤 と し , 幸 福 を テ ー マ と す る 専 門 ジ ャ ーナル(Journal of Happiness Studies)も刊行され る 等 ,大 変 勢 い の ある 学 際 的研 究 分 野 とな っ てい る 。 主観的幸福感については,その「効用」についての 認識の浸透が ,着目されるに至った大きな理由である。

Lyubomirsky,King,and Diener(2005)は ,メ タ 分 析 の 結 果 か ら , 主 観 的 幸 福 感 の 強 い 個 人 は , 仕 事 及 び 年 収 へ の 満 足度 も 高 く,上 司 か らの 評 価 も高 い と する結論を得ている。Zelenski,Murphy,and Jenkins

(2008)は,ポジティブ感情の高い職員は生産性(主 観的評価)が高いことを明らかにしており,Diener and Seligman(2004) は , 組 織 が 労 働 者 の 主 観 的 幸 福 度 を上げ るような仕組みを整備することにより,組織の利 益が向上する可能性を示唆している。Oishi,Diener,

and Lucas (2007) は,主観的幸福感が学業成績に及 ぼ す 効 果 を 検 証 し て お り , 教 育 面 で の 効 用 を 明ら か に してい る 。さらに , 主観的 幸福感 が 強い 個人は ,離婚 後に再婚する確率も高く,病気からの回復も早いこと等 も明らかにされている(Lyubomirsky et al. 2005)。

教 育 分 野 の 研 究 者 に は , 子 ど も , 保 護 者 , 教 師 等 の幸福感を 高める方策の探究が重要な研究課題として 与 えら れ て い る 。し か しな が ら, こ うし た問 い に 対 する 回 答 は , 今 の と こ ろ 提 示 困 難 で あ る 。 た と え ば , 子 ど も に 焦 点 を あて れ ば , 社 会 の 中 で 困 っ て い る 子 ど も , 生活 に満 足している 子どもとはどの ような 子どもか 。そ れ ぞ れ ど の よ う な 特 徴 を 持 っ て い る か 。 そ れ ら の 子 ど も に , 今 後 生 じ る で あ ろ う 現 象 は 何 か 等 に つ い て , ほ と ん ど 解 明 さ れ て い な い 。 こ の こ と は , 保 護 者 ・ 教 師 等に つ い ても同 様で ある 。 教育 分野 に おいて幸 福研究 を展開するためには,幸福の定義,幸福の構成要素,

測 定 方 法 , 幸 福 の 決 定 要 因 等 に つ い て の 理 論 基 盤 が 必要である。まずは,経済学や心理学の分野で展開さ れ て い る 幸 福 研 究 ( 特 に 主 観 的 幸 福 感 ) の 成 果 を 整 理し,調査研究に向けての理論基盤を整備したい。

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Ⅱ.先行研究の検討

1.主観的幸福感の定義

主観的幸福感の定義としては,Diener,Suh,Lucas,

and Smith(1999)が有名である。彼らは,主観的幸 福 感 と は 「 人 々 の 感 情 反 応 , 場 面 ご と の 満 足 感 , 総 合 的 な 生 活 満 足 の 判 断 を 含 む 諸 現 象 (p.277)」 で あ ると定義している。Diener et al.(1999)の定義を受 け て , 日 本 で は , 伊 藤 ・ 相 良 ・ 池 田 ・ 川 浦 (2003)

が ,「感情状態を 含み,家族・仕事などの特定の領域 に 対する満足や人生全般に 対する満足を含む広範な概 念 で あり , あ る 程 度 の 時 間 的 安 定 性 と状 況 に 対 する 一 貫 性を 持 つ 」と定 義 してい る。 いず れ の 定義も,① 感 情 反 応 ( ポ ジ テ ィ ブ 感 情 ・ ネ ガ テ ィ ブ 感 情 ), ② 特 定 場面での満足の認知的評価(職務満足,関係満足等),

③ 総 合 的 な 生 活 満 足 の 認 知 的 評 価 ( 全 体 的 な 生 活 の 質に対する評価)に焦点をあてており,Diener et al.

(1999)はこれ らを主観的幸福感の「三層構造」と表 現している。

2.主観的幸福感の構造

主 観 的 幸 福 感 の 構 造 に つ い て は , 多 様 な 議 論 が あ る。以下,「感情」と「認知」,「頻度」と「強度」,「享 楽」と「成長 」,「時間」と「場所」に焦点を当てて,

主観的幸福感の構造を確認する。

(1)「感情」と「認知」

第1に,主観的幸福感は,Diener et al.(1999)が 示 す よ う に 「 感 情 」 と 「 認 知 」 の 要 素 か ら 構 成 さ れ て い る 。幸 福と は, ポ ジティブな 感情 経験が 多 い状態 , ま た , ネ ガ テ ィブ な 感 情 経 験 が 少 な い 状 態 ,そ し て,

ポ ジ テ ィ ブ な 感 情 経 験 が ネ ガ テ ィブ な 感 情 経 験 を 上 回 る 状 態 ( 優 位 な 感 情 ) 等 を 示 す 。 一 方 , 認 知 の 視 点 からは,職務満足,給与満足,対人関係への満足感,

そ し て , 人 生 を 振 り 返 っ て の 総 合 的 評 価 と し て の 満 足

感が 高い 場 合も,幸 福で あると説明 で きる。認 知的評 価 が 中 長 期 的 ス パ ン で の 主 観 的 幸 福 感 で あ る の に 対 し,感情的評価は短期的スパンでの主観的幸福感であ ると区分できる(Lucas,Diener,& Suh 1996)。また,

認 知 的 評 価 に 相 当 す る 生 活 満 足 感 は , 健 康 や 所 得 等 の満足度との間に強い相関をもつ一方,感情的評価は 配 偶 者 等 と の 対 人 関 係 に お い て 最 も 強 い 相 関 を も つ 等,主観的幸福感の構成要素ごとに,外部要因との相 関 性 の 強 度 は 異 な る こ と が 明 ら か と な っ て い る

(Michalos 1985)。

(2)「頻度」と「強度」

第2に,感情としての主観的幸福感を捉える際には,

「頻度」と「強度」の視点が重要である(Diener,Larsen,

Levin,& Emmons 1985)。感情を「頻度」として測 定すると,ポジティブ感情とネガティブ感情は確かに負 の 相 関 を 示 す 。 こ れ は , ポ ジ テ ィ ブ 感 情 を 経 験 す る こ とが 多いと,ネガ ティブ感情を経験することは少ないと い う , ゼ ロ サ ム の 発 想 に 基 づ く 。 た だ し , 感 情 の 「 強 度」を視野に入れると,測定値の捉え方は変わる。小 さなポジティブ感情を経験することが多い 1 日であって も , 痛 烈 な ネ ガ テ ィ ブ 感 情 を 短 時 間 経 験 す る こ と で , その個人の支配的感情はネガティブ感情となる。

(3)「享楽」と「成長」

第3に,主観的幸福感は,「享楽的幸福感(hednic)」

と「 成長 的 幸 福 感 (eudaimonic)」 の要素 か ら構 成 さ れている。Ryan & Deci(2001)は,それまでの主観 的 幸 福 感 研 究 に お い て , 幸 福 が 持 つ 意 味 の 多 様 性 が 無 視 さ れ て い る 点 を 課 題 と し て 指 摘 し て い る 。 享 楽 的 幸福感は,人生の豊かさ,満足感,楽しさ等を追究す る Happiness に 近 い 概 念 で ある 。一 方, 成 長 的 幸福 感 は , 人 々 が 人 生 の 意 義 を 見 い 出 し , よ り 良 く生 き る ことを追究するMeaningの意味に近い。McGregor &

Little(1998) は , 主 観 的 幸 福 感 を , 人 生 の 豊 か さ や 満足感を意味するHappiness要因と,人生において明 確な目的を持つこと,人生の目的に満足していること,

人生の意義と使命を見いだしていること等によって構成 さ れ る Meaning 要 因 に 区 分 し て い る 。 な お , 西 洋 で は 享 楽 的 幸 福 感 の 意 味 が 強 調 さ れ る 一 方 , 東 洋 で は

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成長的幸福感の意味が強調されるとする幸福感の文化 的 差 異 に つ い て の 指 摘 も あ る ( 大 石 2009)。 さらに , Compton,Smith,Cornish,and Qualls (1996)

で は , 享 楽 性 要 因 に は , ハ ピ ネ ス (happiness), 生 活満足(satisfaction with life),生活の質(quality of life),楽観性(optimism),自尊感情(self-esteem)

の価値が ,成長性要因には,成熟(maturity),自己 実現(self-actualization),安定性(hardiness)の価 値が内包されているとするフレームを提示している(1)

(4)「時間」と「場所」

第 4 に,主観的幸福感は,1 日の流れの中で,「時 間」と「場所」に応じて変化する。Kahneman,Krueger,

Schkade,Schwarz,and Stone(2004) は , あ る 日 の 活 動を その 翌 日に 体 系的 に復元 してデー タ化 する 方 法(一日再現法)を用いて,1日の主観的幸福感の変 化を分析した。1 日の中では,家族との対話やリラック ス の 時 間 が 最 もポ ジ テ ィブ 感 情 得 点 が 高 く, 仕 事 や 通 勤時 間が最 も低い 。職場では ,幸福感は低 くなる。ま た , 上 司 と の 対 話 の 時 間 も 得 点 は 低 い 。 主 観 的 幸 福 感 は , 起 床 時 に 最 も 低 く, ラ ン チ の 時 間 帯 に 向 け て 上 昇する。その後,夕方4時頃まで低下し続け,帰宅後,

夕 食 ・ 団 欒 の 時 間 に 上 昇 し て ラ ン チ タ イ ム の 水 準 に 並 び,就寝前に最も高くなる。主観的幸福感は 1日の流 れ の 中 で ,「 時 間 」 と 「 場 所 」 に よ っ て 変 化 す る の で ある。

さ らに 長期 的ス パ ンで主 観的 幸福感の 時系列 変化 を 測定した調査研究もある。Stutzer and Frey(2006)

は,結婚前後の生活満足度のデータを分析することで,

主観的幸福感が年ごとに変化することを明らかにしてい る。結婚に向けて生活満足度は上昇し,結婚を契機に,

生活満足度は低下する傾向が示されている。

3.主観的幸福感の測定

(1)一項目測定法

自 己 の 人 生 や 生 活 に 対 す る 全 体 的 な 満 足 の 認 知 的 評 価 の 方 法 と し て は , キ ャ ン ト リ ル の 階 梯 (Cantril Ladder) が 活用 され てきた。 これ は ,考 えうる 最良の

生活を10,最悪の生活を 0として,現在の生活をその

0-10 の 11 段 階 尺度で 評価 する ことを回答者 に求める 方法である(Andrews & Mckennell 1980)。これと類 似 の 方 法 と し て ,Fordyce(1988) が 提 唱 す る 一 般 的 幸福尺度(Happiness/Unhappiness Scale)がある。

これ は, 感情的要素も若干踏まえた上で ,最高に 幸福 な状態(feeling ecstatic,joyous,fantastic)を10,

最 高 に 不 幸 な 状 態 (utterly depressed,completely

down)を0として,現在の状況を 11段階尺度で測定

する方法である。人生・生活の認知的評価に焦点をあ てた 1 項目測定法は日本の社会調査においても活用さ れている(内閣府経済社会総合研究所 2012; 大竹・

白石・筒井2010; 橘木 2013等)。内閣府経済社会総 合 研 究 所 (2012) に よ る 国 内 調 査 で は ,0-10 の 尺 度 で の評定 を回 答者に 求めたとこ ろ,イ ンター ネット 調査

(2012 実施)において平均 6.1 点,訪問留置法調査

(2012 実施)において 6.6 点,若年層調査(2010 実 施)において6.2点であることが報告されている。OECD

(2011)においても日本は 6.0 点程度の数値を示して いるが,この数値は OECD 加盟国平均(6.5 点)より も低い結果となっている。

近年では,米国労働省労働統計局のNLS(National Longitudinal Survey)において,さらに簡便な1項目 測定法(NLS Happiness Items)が開発され,活用さ れ て い る 。「 全 体 的 に , 近 頃 の あ な た の 様 子 は ど の よ うに言えますか」との質問に対して,「とても幸せ(4)

~ とても 不 幸 せ(1)」の 4 件 法 リ ッカ ー ト ス ケー ル で 回 答 を 求 め る 方 法 で あ る (Arthaud-Day,Rode,

Mooney,& Near 2005)。簡便な測定方法ではある が,主観的幸福感の認知的評価の測定尺度としては,

十 分 な 信 頼 性 と 妥 当 性 を 備 え て い る こ と が 実 証 さ れ て おり(Pavot & Diener 1993),複数の主観的幸福感 研究において類似の一項目測定尺度が活用されている

(たとえば,Chen 2012;古里・佐藤 2014)。

(2)感情測定法

ポジティブ感情とネガティブ感情の測定においては,

Watson,Clark,& Tellegen (1988) によって開発され た PANAS(The Positive and Negative Affect Schedule)が 有 名で ある。今 日まで多 くの言語の翻訳 版が開発されており,PANAS の 2 因子構造(ポジテ

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ィ ブ 感 情 と ネ ガ テ ィ ブ 感 情 ) が 確 認 さ れ て い る ( 川 人

・大塚・甲斐田・中田 2011)。PANASでは,ポジテ ィブ感 情(強気な, やる 気が わいた,活気のある,熱 狂 し た, 興 味 の ある , 興 奮 し た , 誇 らし い , 機 敏 な , 決心した,注意深い)及びネガティブ感情(恐れた,

おびえた,うろたえた,恥ずかしい,うしろめたい,ぴ り ぴり した,苦悩した,イラ イラした,神経質な ,敵意 をもった)がそれぞれ設定されている。OECD の幸福 度 調 査 に お い て は , ポ ジ テ ィ ブ 感 情 の 頻 度 か ら ネ ガ テ ィ ブ 感 情 の 頻 度 を 引 い た 値 を 「 優 位 な 感 情 」 と して 捉 え,主観的幸福感の指標の一つに採用している。

(3)認知・感情統合測定法

認 知 ・ 感 情 統 合 測 定 法 と し て は ,Diener et al.

(1985)が開発したSWLS(Satisfaction With Life Scale)が有名である(Chan 2013; Cramm,Moller,&

Nieboer 2012; Han,Kim,& Lee 2013; Yip,

Subramanian,Mitchell,Lee,Wang,& Kawachi 2007 等 )。SWLS は, 認知 的側 面と感 情的 側面を 統合 化し て測定しようとする系 譜に位置づき,以下 の 5 項目 か ら構成される尺度である。すなわち,「ほとんどの面で,

私 の 人 生 は 私 の 理 想 に 近 い 」「 私の 人 生 は , と ても す ばらしい状態だ」「私は自分の人生に満足している」「私 は こ れ ま で , 自 分 の 人 生 に 求 め る 大 切 な も の を 得て き た」「もう一度人生をやり直せるとしても,ほとんど何も 変えないだろう」である。SWLS は,ポジティブ感情と 正の相関をもち,ネガティブ感情と負の相関をもつこと。

優 位 な 感 情 と正 の 相 関を もつ こ と, キ ャン トリ ルラ ダ ー と 正 の 相 関 を も つ こ と が 検 証 さ れ て い る (Diener 1994)。

この他,認知的側面と感情的側面の統合化を志向し た尺度として,Lyubomirski and Lepper (1999) の SHS(Subjective Happiness Scale)やSell and Nagpal

(1992)のSUBI(Subjective Well-Being Inventory)

がある(2)

(4)尺度の妥当性

Kahneman and Krueger(2006)は,主観的幸福 感の尺度の外的妥当性を主張している。主観的幸福感 研究において使用される上記尺度は,幸福感は誰もが

容易 に理 解で きるテー マ で ある ため回 答率 が 高い。 そ して,すべての調査研究において内的妥当性(及び尺 度 の 信 頼 性 ) が 確 認 さ れ て い る 。 こ れ らに 加え て ,主 観的幸福感は,肯定的感情表現の頻度等の行動指標,

コルチゾール分泌量といった生物学的指標,友人や第 三者による客観的評価結果とも相関関係を有している。

さら に , 自 殺 の リ ス ク , 社 交 性 , 外 向 性 , 睡 眠 の 質,

近 親 者 の幸 福 等 とも 相関 性 を 有 し てお り, 主 観 的 幸 福 感 は こ れ ら の 現 象 の 予 期 に 一 定の 効 果 を 有 して いる 。

4.主観的幸福感の決定要因

人々の幸せはどのようにして決まるのであろうか。す な わ ち , 主 観 的 幸 福 感 は , ど の よ うな 要 因 に よ っ て決 定 さ れ て い る の で あ ろ う か 。 以 下 , 一 般 成 人 を 対 象 と する主観的幸福感の決定要因分析の研究成果から,こ の点についての示唆を得る。

Diener and Seligman(2004)は,主観的幸福感を 決定する要因として,所得・仕事・身体的健康・精神 的 疾 患 ・ 社 会 的 関 係 ・ 社 会 状 況 ( 民 主 的 統 治 形 態)

の 6 要因を提示している。本研究では,この分類区分 を参考として,経済資本(所得,就業・雇用,住居)

人 的 資 本 ( 性 格 , 行 動 ・ 習 慣 , 教 育 ・ 能 力 , 健 康,

宗 教 ・ 信 条 ), 社 会 関 係 資 本 ( 婚 姻 ・ 家 族 形 態 , 信 頼 , 所 属 ・ 参 加 ・ 交 流 , 互 酬 性 規 範 ), 基 本 的 属 性

(年齢,性別)の 4要因によって,先行研究の整理・

検討を試みる。

(1)経済資本 1)所得

Kahneman and Deaton(2010)による著名な指摘,

す な わ ち , 所 得 が 一 定 の 閾 値 に 達 した と こ ろ で , 所 得 と 主 観 的 幸 福 感 の 関 連 は み ら れ な くな る と す る 知 見 が 有 名 で ある 。 ま た , 多 くの 研 究 に お い て, 所 得 ・ 世帯 収入による主観的幸福感への正の効果が検証されてい る(Cramm et al. 2012; Kroll 2011; Han et al. 2013;

Portela,Neire,& Salinas-Jimenez 2013; 橘木2013;

辻・佐藤2014; Yip et al. 2007)。生活保護の受給と いう負の側面を検証した研究(Han et al. 2013)もあ る。ただし,Kahneman and Deaton(2010)が指摘

(6)

す る よ う に , 所 得 と 主 観 的 幸 福 感 は 線 形 関係 に な い た め,変数の設定には工夫を要する(階層区分毎のダミ ー変数化等)。

2)就業・雇用

公 務 員 や 管 理 職 ・ 専 門 職 に お い て , 主 観 的 幸 福 感 は高い(大竹他 2010; 橘木 2013)。その一方で,パ ー ト 等 の 非 正 規 雇 用 は 主 観 的 幸 福 感 が 低 い 。 ま た , 失業 には性差・ 年齢の影響が あり,特に 男性で 30-49 歳 の 失 業 は 主 観 的 幸 福 感 を 大 幅 に 低 下 さ せ る 傾 向 が 認められている(大竹他 2010)。

3)住居

賃貸の場合に主観的幸福感は低く,持ち家の場合に 高 い と す る 調 査 結 果 が 得 ら れ て い る (Han et al.

2013)。

(2)人的資本 1)性格

主 観 的 幸 福 感 の 高 い 個 人 は , 楽 観 主 義 の 傾 向 が あ り(Hooghe & Vanhoutte 2011),事象のポジティブ 面に着目する(Lyubomirsky & Ross 1997)。また,

外 向 性 ・ 誠 実 性 ・ 経 験 へ の 開 放 性 ・協 調 性 ・低 神 経 症傾向は,成長的幸福感が高い傾向がある(Schmutte

& Ryff 1997;橘木2013)。そして,危険回避的な性格,

せ っ か ち な 性 格 は 幸 福 度 が 低 い 傾 向 に ある こ と が 明 ら かにされている(大竹他 2010)。

2)行動・習慣

Lyubomirsky(2007) は , 主 観 的 幸 福 感 を 高 め る 行動習慣として,12 のケ ースを紹介している。いずれ も, 心理学 分野で の科 学的根 拠が 得られ ている もの で あ る 。 中 で も , フ ロ ー ( 集 中 ・ 没 頭 ) 体 験 は , Csikszentmihalyi(1990) 以 降 , 主 観 的 幸 福 感 の 決 定要因として注目されており,研究が蓄積されている。

3)教育・能力

教 育 経 験 年 数 や 学 歴 に よ る 主 観 的 幸 福 感 へ の 直 接 的な効果を指摘する研究(Helliwell & Putnam 2004;

Rodriguez-Pose & van Berlepsch 2012; 大竹他 2010 等) がある一方,直 接的な効果が 認められ ないとする 研究(古里・佐藤 2014; Peterson,Park,& Seligman 2005; Portela et al. 2013; Sarracino 2013; 橘木2013;

等)もあり,評価は定まっていない。

4)健康

健 康 状 態 の 自 己 評 価 で あ る 主 観 的 健 康 観 は , 主 観 的幸福感を高める(Cramm et al. 2012; Kroll 2011;

Han et al. 2013; Helliwell & Putnam 2004; 大竹他 2010; Portela et al. 2013; 橘木 2013; 辻・佐藤2014;

Yip et al. 2007等)。その一方で,主観的不健康観(身 体的症状・不安と不眠・社会的活動障害・うつ傾向)

・ 抑 鬱 状 態 ・ 疲 労 状 態 と 主 観 的 幸 福 感 は 負 の 関 係 に ある(藤南・園田・大野1995; 島井他 2004; 辻・佐 藤 2014)。 身 体 的 健 康 と 精 神 的 健 康 の 比 較 で は , 精 神 的 健 康 の 方 が よ り強 く主 観 的 幸 福 感を 説 明 す る。 な お , 運 動 習 慣 を 有 す る こ とに よる 主 観 的 幸 福 感 へ の 効 果についても明らかにされている(Han et al. 2013)。

5)宗教・信条

宗教を熱心に信仰する個人(Kroll 2011; Helliwell

& Putnam 2004; 大竹他 2010; Portela et al. 2013),

保守思想の個人(Portela et al. 2013)が主観的幸福 感が高いこと等が明らかにされている。

(3)社会関係資本 1)婚姻・家族形態

婚姻に つい ては, 多くの研究 において,既婚者の主 観的幸福感の高さが検証されている(Cramm et al.

2012; Hooghe & Vanhoutte 2011; Kroll 2011; Portela et al. 2013; 橘木 2013; 辻・佐藤 2014; Yip et al.2007)。 一 方 , 別 居 ・ 離 婚 ・ 死 別 は , 主 観 的 幸 福 感 を 低 下 さ せ る と す る 結 果 も 得 ら れ て い る (Kroll 2011)。 配 偶 者 を は じ め と す る 家 族 と の 日 常 的 な 交 流 が , 主 観 的 幸 福 感 を 高 め る の で あ ろ う (Hooghe &

Vanhoutte 2011)。

家族形態では,子どもの有無についての議論がある。

6 歳以下の子どもが いる家庭に おいて主観的幸福感が 高い(大竹他2010)とする調査結果もあれば,子ども の有無は関係ないとする調査結果(福島・沼山2015)

も あ り , 評 価 は 一 定 で は な い 。 夫 婦 と 子 ど も で 構 成 さ れ る家 庭を 参照点 とした場合に, 夫婦だけ のケース が 主観的幸福感が 高い とする結果もある(橘木 2013)。

な お , 障 害 者 の い る 世 帯 に お い て 主 観 的 幸 福 感 が 低 下しているとする調査結果(Han et al. 2013)も報告 されている。

(7)

2)信頼

「 人は 一般的 に信頼 で きるもの だ」 とする 一般的 信 頼(Helliwell 2006; Helliwell & Putnam 2004;

Hooghe & Vanhoutte 2011),政府や警察等の公的機 関への信頼を意味する特定化信頼(Han et al. 2013;

Helliwell & Putnam 2004; Yamaoka 2008),近所住 民 や 地 域 住 民 へ の 信 頼 を 意 味 す る 特 定 化 信 頼

(Cramm et al. 2012 Helliwell & Putnam 2004; Yip et al. 2007)は,主観的幸福感を高める。また,一般 化 信 頼 と特 定 化 信頼 は , 所 得 より も 主観 的 幸福 感を よ り強く説明する重要な要因である(Helliwell 2006)。

3)所属・参加・交流

家 族 , 友 人 , 近 所 住 民 等 と の つ き あ い の 程 度 は , 主観的幸福感を高める(Helliwell & Putnam 2004;

辻 ・ 佐 藤 2014)。 また , 地域 の 団 体 活 動や ボ ラ ンティ ア 活 動 へ の 所 属 や 参 加 は , 主 観 的 幸 福 感 を 高 め る

(Han et al. 2013; Portela et al. 2013; Thoits &

Hewitt 2001; 辻・佐藤2014; Yip et al.2007)。そして,

近年の調査研究で注目すべきは,Cramm,van Dijk,

and Nieboer (2012)による70歳以上の高齢者(オ ラ ン ダ ) を 対 象 と し た 研 究 で あ る 。 近 所 づ き あ い は , 高 齢者の 主観的 幸福感 にポ ジティブ な影 響を及ぼし,

年 齢 ・ 学 歴 ・ 性 別 ・ 所 得 ・ 居 住 形 態等 の 属 性 変 数 の 影響はほとんど受けないことが明らかにされている。高 齢 者 こ そ , 最 も 地 域 の ソ ー シ ャ ル ・ キ ャ ピ タ ル の 影 響 を受けやすいとする知見が示されている。

4)互酬性規範

一般化互酬性規範及び特定化互酬性規範が高いと,

主観的幸福感(生活満足度)は高いとする結果が得ら れている(Han et al. 2013; Yamaoka 2008)。

(4)基本的属性 1)年齢

主観的幸福感との関係は,若年層と高齢者が高く,

中壮年層が低いU字構造(Kroll 2011; 大竹他 2010;

Portela et al. 2013; Yamaoka 2008)であるとの解釈 が定着しつつある。

2)性別

男性に比べて女性の方が主観的幸福感が高いとする 傾 向 が , 多 く の 調 査 研 究 に お い て 認 め ら れ て い る

(Hooghe & Vanhoutte 2011;大竹他2010; Portela et al.2013;橘木2013)。

5.分析モデルの発展

(1)交互作用項の設定

主観的幸福感に対する直接効果だけでなく,間接効 果 や 調 整 効 果 を 検 証 し よ う と す る 調 査 研 究 が い く つ か 報告されている。

たとえば,Hooghe and Vanhoutte(2011)は個人 的性格としての楽 観主義の調整効果を ,性別と主観的 幸福感,婚姻同居と主観的幸福感の関係において明ら か に し て い る 。 つ ま り , 楽 観 主 義 傾 向 が 強 い 場 合 に , 女 性 で ある こ とが 主 観的 幸 福 感 に 結 びつ き ,ま た ,婚 姻同居が主観的幸福感に結びつく。

ま た ,Kroll(2011) は , 市 民 活 動 参 加 と 主 観 的 幸 福感 は,性 別(女 性) と家 族形 態(子ども 有)に よっ て調整されることを明らかにしている。女性や親は,男 性あるいは子どもが いない個人に比べ,市民活動参加 に よ っ て 主 観 的 幸 福 感 を 得 や す い と す る 結 果 が 得 ら れ ている。

さ ら に ,Wills-Herrera Orozco,Forero-Pineda,

Pardo,and Andonova(2011)は,社会的安心と主 観的幸福感 が,ソーシャル・キャピタル(所属・信頼

・ 互 酬 性 規 範 ) に よ っ て 調 整 さ れ る と す る 結 果 を 示 し て い る 。 ソ ー シ ャ ル ・ キ ャ ピ タ ル を 所 有 す る 個 人 は , 社会的安心が 低調な 状態で あっても,それ が直ちに主 観 的 幸 福 感 の 低 下 に は 結 び つ か な い こ とを 明 ら か に し ている。

(2)マルチレベルモデル

主観的幸福感の決定要因を探究する研究では,シン グ ルレベ ルモデルの 研究が 大半で あり,地域レベ ル変 数等を含 んだマ ルチレベ ルモデルを採用する研究は少 ない。

マ ル チ レベ ルモ デ ル を 使 用 した 研 究の 多 くは, 地域 レ ベ ル の ソ ー シ ャ ル ・ キ ャ ピ タ ル 得 点 を 説 明 変 数 と し て設定している。たとえば,地域団体へ の参加率や互 酬性規範の水準(Han et al. 2013),所属や対話交流,

地 域 で の 信 仰 ・ 宗 教 参 加 率 (Helliwell & Putnam

(8)

2004) 等 で あ る 。 個 人 レ ベ ル の ソ ー シ ャ ル ・ キ ャ ピ タ ル も , 集 団 レ ベ ル の ソ ー シ ャ ル ・ キ ャ ピ タ ル も , 共 に 個 人の主 観的幸 福感を 高 めるとする 解釈が 定着しつつ ある(Portela et al. 2013)。この他,地域の経済的要 因としてのジニ係数(Kawachi,Kennedy,Lochner,

& Prothrow-Stith 1997),地域失業率(Hooghe &

Vanhoutte 2011), タ ウ ン ゼ ン ト ス コ ア / 剥 奪 度

(Cramm et al. 2012)等や,地域の治安要因として の暴力犯罪率(Hooghe & Vanhoutte; 2011),犯罪 発生率(Cramm et al. 2012)等も,主観的幸福感の 決定要因であることが明らかにされている。

(3)介入研究

主観的幸福感を高める介入研究が,計量分析と共に 進 められ ている 。たとえ ば,過去の 多様な経験の中 で も 特 に 「 感 謝 」 を 想 起 さ せ 省 察 さ せ る こ と の 効 果

(Emmons & McCullough 2003),「最高の自分」を 想 起 さ せ る こ と の 効 果 (Sheldon & Lyubomirsky 2006),「 最 も 幸 せ な 体 験 」 に つ い て の 省 察 の 効 果

(Lyubomirsky,Sousa,& Dickerhoof 2006)等で ある。

(4)分析モデルの限界と課題

Helliwell and Putnam(2004)は,主観的幸福感 の決定要因に関する先行研究の課題として,次の 4 点 を指摘している。第 1 は,小サンプルデータを使用し た 研 究 が 多 い こ と に よ る デ ー タ の 偏 り の 問 題 で あ る 。 最 近 は 少 な く な っ て き た が , 学 生 を 対 象 に 調 査 を 行 う 心 理 学 的 アプ ロ ー チ の 研 究 に 多 い 。 第 2 は , 二 変 量 間 の 相 関 関 係 の 分 析 に と ど ま っ て い る 研 究 が 多 い こ と や,因果関係の特定にまで至っていない研究が 多い点 である。第 3 はシングルレベル分析が大半を占めてい ること。また,マルチレベルのデータセットであっても,

個 人 と 国 と い う 両 極 端 な セッ ト で あり , 中 間 組 織と して の地域レベル変数が無視されている点である。第4は,

主 観 的 幸 福 感 の 参 照 点 が 設 定 さ れ て い な い た め , 個 人 に よ る 適 応 の 問 題 や , 幸 福 の 踏 み 車 (hedonic treadmill)(3)の問題が回避できていないこと,である。

Andrews and Withey(1976)は主観的幸福感研 究 の 初 期 の 時 点 で , デ モ グ ラ フ ィ ッ ク 変 数 に よ る 説 明

力の限界を 指摘している。すなわち,年齢・性別・家 族 状 況 ・ 収 入 ・ 教 育 ・ 人 種 等 の デ モ グ ラ フ ィッ ク 変 数 は , 主 観 的 幸 福 感 の 説 明 量 の 10%以 下 に す ぎ な い 。 既 述 し た よ う に , 年 齢 に つ い て は , 若 年 と高 齢 者 の 幸 福感が高いので,たとえば,10 歳区切りでモデルに投 入する 等の工夫が 必要で ある 。所得につ いても,主観 的 幸 福 感 と の 間 に 直 線 的 な 相 関 関 係 は な く, い くつ か にカテゴリー化しての投入が求められる。さらに,無職 に つ い ても , 性別 や 年 齢に よる 意 味の 違 い が 出 現する ため , 性別 や年 齢と の交 互作 用項を モデ ル投入 するこ とが望ましいと言える。

6.教育分野における主観的幸福感の調査研究

主観的 幸福感研究の主たる調査対象は,1970 年代 以降から,一般成人,学 生(実験協力者 ),高齢者で あっ た。 教育 分野 では ,① 一般成 人を 対象として教育

(教育経験年数)による主観的幸福感の効果を検証す る研究,② 子ども・親・ 教師 等の特定人物を 対象とす る研究に区分することができる。

1) 一 般 成 人 を 対 象 と す る 教 育 と 主 観 的 幸 福 感 の 関 係についての分析

Helliwell and Putnam(2004)は,教育(教育経 験 年 数 / 学 歴 ) の 主 観 的 幸 福 感 に 対 す る 効 果 を 積 極 的に捉えた研究である。高卒程度の学歴は,2 件の調 査 に お い て 正 の 効 果 を 示 し て い る が ,1 件 の 調 査

(1980s-mid-1990s life satisfaction survey)におい て負の効果を示している。大卒程度の学歴は,3 件の 調 査 に お い て い ず れ も 正 の 効 果 を 示 し て い る こ と が 明 らか にしてい る。この他,Rodriguez-Pose and von Berlepsch(2012) も , 非 就 学 者 に 比 べ て , 初 等 ・ 中 等 教 育 , 高 等 教 育 の 修 了者 の 方 が 主 観 的 幸福 感 が 高 い と する 結 果 を 得 てい る 。 日 本 で も, 大 竹 他 (2010)

において,ほぼ同様の結果が得られている。

た だ し , 教 育 の 主 観 的 幸 福 感 に 対 す る 効 果 は , 間 接効果である可能性が高い。たとえば,OECD(2013a)

は , 教 育 が , 報 酬 や 就 業 , 市 民 活動 ・ 社 会 活動 へ の 参 加 , 健 康 等 と 関 連 し て お り , こ れ ら を 媒 介 し て 主 観 的幸福感を高めるとする解釈を提示しており,広く支持

(9)

されている。

一 方 , 教 育 の 主 観 的 幸 福 感 に 対 す る 効 果 が 認 め ら れなかったとする研究も多い。たとえば,Portela,et al.

(2013)は,ヨーロッパ社会調査 2008 のデー タを用 い て , 教 育 ( 学 歴 ) は 主 観 的 幸 福 感 と の 関 連 性 が 乏 し い とす る 結果 を 得て いる 。ハ ピ ネ ス (happiness)と 生 活 満 足 度 (life satisfaction) の 双 方 に お い て , 大 学卒業者は中等教育未修了者に比べて低水準であると す る 結果 が 示 され てい る。 ハ ピネ ス と生 活満 足度 は 快 楽性の強い主観的幸福感の指標である。Peterson et al.(2005) は , 快 楽 性 志 向 が 高 い の は , 若者 ・ 低 学 歴 ・ 未 婚 者 で あ り , 高 齢 者 ・ 高 学 歴 者 ・ 既 婚 者 は , 快 楽 性 志 向 が そ れ ほ ど 高 く な い こ と を 明 ら か に し て い る。Portela et al.(2013)の分析結果は,高学歴者 の 快 楽 志 向 性 の 弱 さ が , 主 観 的 幸 福 感 の 低 評 価 に つ ながったものと解釈できる。

また,Sarracino(2013)は,教育経 験年数を 4 区 分し,多様な統制変数を設定した上で主観的幸福感へ の 影 響 を 分 析 し た 結 果 , 高 学 歴 ほ ど 主 観 的 幸 福 感 が 高 い と い う 結 論 は 得 ら れ な か っ た と し て い る 。 逆 に , Happines(4件法)とLife Satisfaction(10件法)と も に , 低 学 歴 群 に 所 属 す る こ と の 効 果 が 認 め ら れ て い る 。 先 行 研 究 で 解 明 さ れ て い る よ う に , 高 齢 者 に 低 学 歴群 が多く,その高齢者に幸福感の高い者が 多いとい う実態がある。「学歴」と「年齢」との関係に配慮した 分析モデルの設定が示唆される。

さ ら に ,Chen(2012) は , 国 際 比 較 調 査 の 結 果 か ら , 中 国 ・ 韓 国 ・ 台 湾 は , 教 育 経 験 年 数 が 主 観 的 幸 福 感 に 直 接 影 響 を 及 ぼ す 傾 向 が あ る が ( 所 得 や 家 族 構成等の変数調整済み),日本は直接影響を及ぼさな いとする結果を得ている。国による効果の違いがあるこ とも,留意しておきたい。

な お , 日 本 の 研 究 で は , 橘 木 (2013) や 古 里 ・ 佐

藤(2014)において,教育の主観的幸福感に対する効

果の脆弱さが指摘されている(4)

(2)子ども・親・教師等を対象とする研究 1)子どもの主観的幸福感

子どもの主観的幸福感についての研究は,後述する 親 や教師等に 比べる と, この 10 年間で の蓄積が 進展

して い る 。子 ど もの 主 観 的 幸福 感に つ い ての研 究 は,

子どもの主観的幸福感の決 定要因に関する研究と,主 観的 幸福感 の効果 に関 する 研究 とに大 別で きる。 前者 は , 幸 せ な 子 ど も の 特 徴 を 記 述 す る こ と , ま た , 子 ど も を 幸 せ に す る に は 何 が 必 要 か を 探 究 す る こ と を 志 向 す る 。 後 者 は , 幸 せ な 子 ど も が 生 み 出 す 様 々 な 社 会 生活上の効果を明らかにし,子ども達に幸せをもたらす ことの社会的意義の探究を志向している。

まずは,子どもの主観的幸福感の決定要因の研究に つ い て整 理 する 。 結 論か ら先 に 言 え ば ,子 どもの 主 観 的 幸 福 感 は , 友 達 ・ 家 族 ・ 近 所 住 民 等 と の 対 人 関 係 によってかなりの部分が説明できる。

たとえば,Holder and Coleman(2009)はカナダ の 小 学校 4-6 年 生 を 対象 とした調 査 を通 して, 子ど も の主観的幸福感を決定する要因の解明を試みている。

分析 の結 果,友 達が多く,放課 後に 友達と遊 んで いる 児童 ,保護 者から過度 な期待を 受けておらず ,家庭に お け る 自 己 受 容 感 の 高 い 児 童 は 主 観 的 幸 福 感 が 高 い とする結果が得られている。

Furlong,You,Renshaw,Smith,and O'Malley

(2014)は,子どもの主観的幸福感の決定要因として,

共活性(covitality)の効果を指摘している。共活性と

は , 自 己 信 頼 感 (Belief-in-self), 他 者 信 頼 感

(Belief-in-others), 感 情 の 自 己 統 制 (emotional competence),生活の充実(engaged living)によっ て構成され る概念であり,カリフォルニア中部の 12 校

(8,10,12 歳 ) を 対 象 と し た 調 査 に よ っ て , 共 活 性 が主観的幸福感を高めることを明らかにしている。

Gilligan and Huebner(2007)は,米国の第9-12

学年(M=16.2 歳)を対象として,ポジティブ感情/ネ

ガ テ ィ ブ 感 情 と , 生 徒 の 生 活 満 足 度 (MSLSS-A;

Multidimensional Students' Life Satisfaction Scale - Adolescent Version)を構成する6変数(家族・同性 友 人 ・ 学 校 生 活 ・ 異 性 友 人 ・ 住 環 境 ・ 安 全 ) と の 相 関 性 を 検 証 し て い る 。 ネ ガ テ ィ ブ 感 情 と 住 環 境 の 関 係 を 除 くすべ ての 組み 合わ せ に おい て,統 計的 に 有意 な 正の相関が確認されている。

Uusitalo-Malmivaara and Lehto(2013)は,フィ ンランドの小学校 6 年生 742 名を対象として,小学生 の 主 観 的 幸 福 感 と 抑 鬱 傾 向 の 決 定 要 因 を 探 究 し て い

(10)

る 。 分 析 の 結 果 , 小 学 生 の 主 観 的 幸 福 感 は , 主 に 家 族との関係によって強い影響を受けることが判明してい る。また,男子は 2 名以上の親友の存在によって,女 子 は 家 族 以 外 の 人 々 ( ク ラ ス メ イ ト ・ 教 師 等 ) と の 関 係 に よ っ て高 ま る こと も明 らか に され てい る 。一 方, 小 学生の抑鬱傾向は,良好な家族関係と親友関係(2名 以 上 ) によ って 抑制 され る 。ま た, 女子 の場 合は , 夫 婦げんかの頻度によって抑鬱傾向が高まる。

さらに ,近 所 ・ 地 域住 民 と の対 人 関 係の 効 果に ま で 言 及 し た 研 究 も 報 告 さ れ て い る 。El-Dardiry,

Dimitrakaki,Tzavara,Ravens-Sieberer,and Tountas

(2012)よる,ギリシャ 27 校の 8-12 歳800世帯(児 童と親)を 対象とした調査で は,主観的幸福感(心理 的 ウ ェ ル ビ ー イ ン グ ) に 対 す る , 近 所 の 人 々 と の ソ ー シャル・キャピタル(neighborhood social capital)

と 家 族 や 友 人 か ら の ソ ー シ ャ ル ・ サ ポ ー ト の 効 果 が 明 ら か に さ れ て い る 。 ま た ,Goswami(2012) は , イ ン グランドの中学生 4,673名(平均年齢 13.7歳)を対象 とする 調査に おい て,家族・友 人・近所住民との関係 が 良 好 で あ る 場 合 は 主 観 的 幸 福 感 ( 生 活 満 足 度 ) が 高く,いじめられていたり,大人からの不平等な扱いを 受 け て い る 場 合 に 主 観 的 幸 福 感 が 低 い こ と を 明 ら か に している。

こ こで 留 意したい点は ,特 に家族の場 合,婚姻状態

(Holder & Coleman 2009)や親の学歴(El-Dardiry et al. 2012)は,子どもの幸福に直接影響を及ぼして な い 事 実で ある 。婚 姻 状態 や親 の学歴よ りも,実質 的 な 愛着と信頼に満ちた対人関係が ,子どもの主観的幸 福感において重要であると解釈できる。ただし,Putnam

(2015) を 参 照 す る と , 婚 姻 状 態 や 親 の 学 歴 が , 実 質 的な 愛 着と信頼 に満 ちた 対人関 係を 媒介し て, 間接 的 に 子ど もの 主観 的幸 福感 に 影響 を 及ぼ してい る可 能 性がある。

一方,子どもの主観的幸福感の効果を検証する研究 としてはRenshaw,Long,and Cook(2014)がある。

Renshaw et a.(2014)では,生徒の主観的幸福感の 効果を,米国南部ミドルスクール 6-8 年生 1,002 名を 対象とした調査によって明らかにしている。主観的幸福 感 を , 学 校 で の 対 人 関 係 , 学 習 へ の 没 頭 , 学 校 生 活 の 意 義 の 理 解 , 学 習 に お け る 自 己 効 力感 の 4 次 元 に

お い て 複 合 的 に 捉 え , 向 社 会 性 行 動 ( 他 者 支 援 ・ 貢 献) と学習に おけ る忍耐 性の促 進に対して効果を及 ぼ す こ と を 検 証 し てい る 。 生 徒 の主 観 的 幸 福 感は 学 校 で の 学 習 の 成 功 を 強 く 規 定 す る こ と が 明 ら か に さ れ て い る。ただし,Renshaw et a.(2014)が提示する主観 的 幸 福 感 の 構 成 要 素 は , 他 の 研 究 で は 主 観 的 幸 福 感 を 説 明 す る 要 素 で あ る と 考 え ら れ る た め , 結 果 の 解 釈 には注意を要する。

さ て, 日 本 に おい ても , 子 ど もの 主 観 的 幸 福感 を 対 象とする大規模調査が報告されている。調査研究の数 は少ないが,上記欧米の調査研究と同様,子どもを取 り巻く対人関係の重要性が示唆されている。

たとえば,深谷(2015)は,子どもの主観的幸福感 を対象とする数少ない調査研究である。日本の小学校6

年生 1,439名を調査対象として,1日のうちで,いつが

楽 し い か を 質 問 し て い る 。「 と て も 楽 し い 」 と 「 か な り 楽しい」の合計値をみると,昼休み(85.3%),家でテ レ ビ (68.6%), 体 育 の 時 間 (55.7%), 給 食 の 時 間

(55.7%) と な っ て い る 。 算 数 の 時 間 (24.6%), 家で

勉強(11.9%)と比較すれば,児童の主観的幸福感は

成 長 志 向 の 幸 福 感 (eudaimonic) よ り も 享 楽 志 向 の 幸 福 感 (hedonic) の 意 味 に 近 い と 言 え る 。 ま た , 現 在 の 幸 福 感 (「 と て も 幸 せ 」 と 「 か な り 幸 せ 」 の 合 計

57.5%)よりも未来の幸福感(同 76.2%)を高く評価し

て お り , 日 本 の 児 童 が 未 来 に 希 望 を 持 っ て い る と い う 意外な結果が示されている。

水谷・雨宮(2015)では,大学生を対象とした主観 的幸福感尺度を用いて,高校生時代のいじめ経験(仲 間 は ず れ ) が 現 在 の 主 観 的 幸 福 感 に 影 響 を 及 ぼ し て い る こ と, ま た, 小 学 校 時代 の い じめ 経 験( 言動 ・ 仲 間 は ず れ ) が 自 尊 感 情 の 毀 損 を 媒 介 し て 現 在 の 主 観 的幸福感を低下させる影響過程を解明している。

子どもの QOL研究では,子どものQOLを身体的健 康 ・ 精 神 的 健 康 ・ 自 尊 感 情 ・ 家 族 ・ 友 達 ・ 学 校 生活 の 6 観点から測定する方法が開発されている(古荘・

柴田・根本・松嵜 2014)。喘息群・アトピー群・肥満 群において,QOL 総得点が健康群よりも低いことが明 らかにされている。肥満群については,健康面よりも,

友 達 次 元 や 学 校 生 活 次 元 に お い て 得 点 が 低 い 結 果 が 示されている。子どもの肥満が,主観的幸福感を蝕む

(11)

と い う 厳 し い 実 態 が 示 唆 さ れ て い る 。 こ の 他 , 敷 島 ・ 山下・赤林(2012)は,世帯年収が子どもの QOLや

情動的 well-being に影響を及ぼすことを明らかにして

い る 。 対 人 関 係 の み な ら ず , 健 康 や 家 計 等 , 多 様 な 視点から主観的幸福感の決定要因の探究が進められて いる。

2)親の主観的幸福感

親の主観的幸福感についての研究蓄積は乏しい。

6 歳以下の子どもが いる家庭において主観的幸福感 が高い(大竹他2010)とする調査結果報告されている 一方 で,福島・ 沼山(2015)は,45-60 歳を 対象とし た 調 査 に より , 子 ど も の 有 無 は , 主 観的 幸 福 感 とは 関 連 が な い と す る 結 果 を 得 て い る 。 ま た , 子 ど も 有 の 女 性 は , 社 会 的 活 動 と 世 帯 所 得 が 主 観 的 幸 福 感 に 影 響 を 及 ぼ すが , 子 ど も 無 の 女 性 の 場 合 に は , こ うし た 影 響力が認められ ていない。男性の場合は,子どもの有 無にかかわらず,社会的活動と主観的幸福感の間に関 連性はなかった。一方,ヨーロッパ社会調査(英国デ ータ)では,これとは異なる結果が得られている。Kroll

(2011)では,母親の市民活動参加(civic engagement

:1年間で地域のボランティア活動等に参加した程度,

6 件法)は主観的幸福感を低下させるが,父親の市民 活動参加は主観的幸福感を向上させるとする結果が得 られている。

近年,親による社会的・地域的活動等のやりがいの 欠 如 が 指 摘 さ れ る こ と が ある 。 英 国 デ ー タ で は , こ の こ とが 裏付 けられ ているが ,福島・沼 山(2015)の調 査 で は , そ う し た 説 と は 異 な る 結 果 が 得 ら れ て い る 。 ただし,世帯所得と社会的活動の交互作用項を投入す る と,世帯 所得が 高 い場合 に限 って社 会的活 動と主観 的 幸 福 感 に 正 の 関 係 が 生 じ る と い う 可 能 性 が あ る 。 ま た , 社 会 的 ・ 地 域 的 活 動 へ の 参 加 が , 地 域 に お け る 人 々と のつな が り の醸成 を促 進し,間 接的に 主観 的幸 福感を高めているという仮説も想定できる。いずれにし て も , 親 の 社 会 的 ・ 地 域 的 参 加 と 主 観 的 幸 福 感 の 関 係 に つ い て は , さ ら な る 研 究 の 蓄 積 が 俟 た れ る と こ ろ である。

一方,加藤(2008)は,幼稚園・保育所の母親304 名 を 対象 として ,家 庭で の 子育 てと主 観的 幸 福感の 関 係を 調査している。分析の結果,母親の子育て状況に

おいては,もっとも関わりの深い人物からのサポートが 主観 的 幸福 感を高 め る主たる 要因 であるとの 結果が 得 られ ている。また,清水他(2010)は,多面的尺度を 用いて,育児場面に限定した「幸福感」の測定を実施 している。育児場面では,育児の喜び,子どもとの絆,

夫へ の感謝の念が,幸福感の構成要素となっている。

子育て場面における主観的幸福感の向上のためには,

配偶者を はじめとする周囲の支援が,重要な要因であ る点が示唆される。

3)教師の主観的幸福感

教 師 ( あ る い は 校 長 ) の 主 観 的 幸 福 感 の 研 究 は , 近年始まったばかりで ある。職業人のクオリティ・オブ

・ ラ イ フ が 重 要 視 さ れ る 今 日 で あ る が , こ の 点 に 関 す る調査研究は少ない。

たとえば,Jalali and Heidari(2016)は,イランの 小学校教師 330 名を対象として,主観的幸福感による 職務成果(job performance)への効果を検討してい る 。 主 観 的 幸 福 感 は , 教 師 の 職 務 成 果 の 16.6%を 説 明 する こ と が 明 らか に され て いる 。Chan(2013) は,

香 港 の 教 師 143 名 を 対 象 と し て , 教 師 の 許 し

(forgiveness) と 感 謝 (gratitude) に よ る 主 観 的 幸 福感への効果を検証している。許しは,教師の生活満 足とポジティブ感情を高め,ネガティブ感情を抑制する 効 果を 有し てい た 。 一方 , 感 謝 は ,ポ ジティブ 感 情 の 増加に効果を有していた。

教 師だ け で な く,校 長の 主観 的 幸福 感を 対 象と した 研究もある。Hu,Cui,and Wang(2016)は,中国 の小中学校長約 300名を対象として,校長の主観的幸 福感を決定する要因の分析を試みている。校長の主観 的 幸 福 感 は , ワ ー ク ・ ラ イ フ・ コ ンフ リ ク ト を 経 験 す る と 低 下 し , 給 与 ・ 昇 進 満 足 度 と 職 務 エ ン ゲ ー ジ メ ン ト

( 熱 意 ・ 没 頭 ・ 活 力 ) が 高 い 場 合 に 向 上 す る と の 結 果を得ている。

7.ソーシャル・キャピタルと主観的幸福感

(1)研究動向

主 観 的 幸 福 感 と 共 に , ソ ー シ ャ ル ・ キ ャ ピ タ ル の概 念 も,2000 年 頃 か ら世 界 で 注 目 され る よう に なっ た。

Putnam(2000) が , そ の 重 要 な 契 機 で あ る こ と は 言

(12)

うま でもな い。 ソー シャ ル・キ ャピタル とは, 一般的に は,「調整された諸活動を活発にすることによって社会の効 率性を改善できる,信頼,規範,ネットワークといった社 会組織の特徴(Putnam,1993: 206-207)」を意味する。

簡単に言えば,社会的つながりの程度を意味する。Putnam

(2000)やColeman(1988)が強調する構成要素を参照 すると,特定集団への所属や一定の対話機会をもつ関係 者間の構造的な相互交流チャンネル(ネットワーク)にお いて,お互いが相手のために貢献しようとするお互い様の 規範(互酬性規範)が形成され,また,特定された相手 の意図・行為に継続的に期待し合う心情としての相互信頼 関係(信頼)が形成されている状態を示す概念であると言 える。

ソーシャル・キャピタルは,主観的幸福感よりも,さら に広範囲の研究分野で探究が進められている(稲葉・大 守・近藤・宮田・矢野・吉野,2010)。教育分野では,

露口(2016a,2016b)において,国内外の研究動向や到 達点が整理されている。ソーシャル・キャピタルをテーマ とする研究量は飛躍的に増加しているが,主観的幸福感と の関連に言及しているものはそれほど多くはない。ソー シ ャ ル ・ キ ャ ピ タ ル と 主 観 的 幸 福 感 の 関 係 を 対 象 と す る 実証研究は,少数であるといわれている(Han et al.

2013)。また,研究の大半が,カナダ(Leung,Kier,

Fung,& Sproule 2010),米国(putnam 2000),ド イツ(Winkelmann 2009)等の欧米の国々である。主 観 的 幸 福 感 の 決 定 要 因 と し て の ソ ー シ ャ ル ・ キ ャ ピ タ ルへの着目は,日本を対象とする場合,特に重要な意 味を持つ。主観的幸福感の日米比較調査では,たとえ ば , 米 国が 自 己 の 成功 や達 成 が 幸福 感 の重 要な 決 定 要 因 で ある の に 対 し, 日 本 で は 他 者 との か かわ りが 重 要な決定要因だからである(Diener,Oishi,& Lucas 2003; Kitayama,Mesquita,& Karasawa 2006)。

(2) 子 ど も と 保 護 者 を 取 り 巻 く ソ ー シ ャ ル ・ キ ャ ピ タ ルのタイプ

既述した ように, 子どもの主 観的幸 福感は ,子どもを 取 り巻く人々(友 達・家族・教師・ 近所住民等)との つ な が り の 程 度 に よ っ て 影 響 を 受 け て い る 。 露 口

(2016b) で は , 子 ど も を 取 り 巻 く つ な が り と し て , 家 庭 に お け る 子 ど も と 保 護 者 の つ な が り ( 家 庭 ソ ー シ ャ

ル・キャピタル),学級における子ども間のつながり(子 ども 間 ソー シ ャ ル・ キ ャピ タル ),学級 に おけ る 教師 と 子ども達とのつながり(学級ソーシャル・キャピタル),

子どもと地域住民とのつながり(子ども-地域ソーシャ ル ・ キ ャ ピ タ ル ) の 4 次 元 を 抽 出 し て い る 。 露 口

(2016e) で は , 個 人 レ ベ ル デ ー タ の 分 析 を 通 し て , これらの 4 次元のいずれもが,児童(小 3-6)の学習 意欲(国算社理の 4教科平均)に対して正の影響を及 ぼす こ とを 明らか に している 。また, 露口(2016d)で は,同じく,学習意欲を被説明変数として,これらの 4 次元 の 個人 レベ ル デー タと学級 レベ ルデー タを 用い た マ ル チ レ ベ ル 分 析 を 実 施 し た と こ ろ , 学 級 レ ベ ル の 家 庭 ソ ー シ ャ ル ・ キ ャ ピ タ ル 及 び 学 級 ソ ー シ ャ ル ・ キ ャ ピ タル に お い て正 の影 響 力が 認 め られ てい る。 家 庭に おい て良 好な つな がり が 醸成 され ている児童が 多い学 級 で , ま た , 教 師 と 子 ど も 達 と の つ な が り が 醸 成 さ れ て い る 学 級 に お い て , 児 童 の 学 習 意 欲 が 高 い 傾 向 が 認められ ている。子どもを取り巻くつながりの効用は,

学習意欲,学業成績,学校適応等に対するものが 多く

(松岡2015; 岡正・田口2012; 志水・伊佐・知念・

芝野2014; 志水・中村・知念2012; 露口2011等),

主観的幸福感に対する効果は,日本では確認されてい るとは言えない。

一 方 , 保 護 者 を 取 り 巻 く つ な が り に つ い て も , 露 口

(2016b) に お い て , 保 護 者 と 学 校 の つ な が り ( 保 護 者 - 学 校 ソ ー シ ャ ル ・ キ ャ ピ タ ル ), 保 護 者 相 互 の つ なが り(保護者間ソーシャル・キャピタル),保護者と 地 域 住 民 と の つ な が り ( 保 護 者 - 地域 ソ ー シャ ル・ キ ャピタル)の 3 次元が抽出されている。保護者を取り 巻 く つ な が り の 醸 成 度 合 い は , 教 師 に と っ て 利 益 を も たらす。保護 者に 信頼され る 学級は ,実は ,保護者と 学校,保護者相互,保護者と地域住民との間につなが り が 醸 成 さ れ て い る 場 合 に 実 現 し や す い の で あ る 。 ま た , 保 護 者 を 取 り 巻 く つ な が り は , 保 護 者 の 親 と し て の ( 大人 と して) の 成 長を 支 えてい る 。保 護者 の 成人 キー・コンピテンシーは,保護者を取り巻くつなが りに よ っ て 影 響 を 受 け て い る の で あ る 。 特 に , 地 域 と の つ な が り に よ る 影 響 の 大 き さ が 指 摘 さ れ て い る ( 露 口 2016e)。 保 護 者 を 取 り 巻 く つ な が り の 効 用 と し て は , 学 業 成 績 や 退 学 抑 制 等 の 子 ど も に 対 す る 影 響

(13)

(Coleman 1988; Desimon 1999; Horvat,Weininger,

& Lareau 2003; Teachman,Paasch,& Carver 1997 等 ) に 関 心 が 注 が れ て お り , 保 護 者 の 主 観 的 幸 福 感 等の保護者自身の効用に焦点をあてた研究は少ない。

子 どもを 取 り巻 くつな が り の うち, 家庭 ソー シ ャ ル・

キ ャ ピ タ ル や 学 級 ソ ー シ ャ ル ・ キ ャ ピ タ ル は , 結 束 型 ソーシャル・キャピタルのタイプに近い。これらは日常 的なコミュニケーション関係を基盤とする強度の高い紐 帯 で あ る 。 一 方 , 子 ど も - 地 域 ソ ー シ ャ ル ・ キ ャ ピ タ ル は , 橋 渡 し 型ソ ー シ ャ ル ・ キ ャ ピ タ ルに 近い 。 日 常 的なコミュニケーション関係ではなく,多様で異質な人 々との必要に応じた交流が基盤にある。

保護者を取り巻くつなが りは,どちらかといえば橋渡 し 型 ソ ー シ ャ ル ・ キ ャ ピ タ ル に 近 い 。 家 庭 や 学 級 の よ う な 交 流 頻 度 が 高 い 集 団 と 比 べ , 毎 日 の よ う に 顔 を あ わ せ るわ け で は な く, 異 質な 人 々との緩 やかな 紐帯 を 特 徴 と し て い る 。 保 護 者 が 保 有 す る 橋 渡 し 型 ソ ー シ ャ ル・キャピタルが,保護者の主観的幸福感を高めてい ると考えられる。また,最近の研究(Putnam 2015)

で は ,保 護 者 の 橋渡 し型 ソー シャ ル ・ キャ ピ タル が , 子 ど も の 社 会 階 層 移 動 の カ ギ と な る こ と が 解 明 さ れ る 等,その重要性が注目されている。

Ⅲ.研究課題

子どもを 対象とする調査研究で は,数は 少ない がほ ぼすべての研究において,子どもを取り巻く人々とのつ な が り が 主 観 的 幸 福 感 の 主 たる 決 定 要 因で ある とす る 結 論 を 導 き 出 し て い る 。 国 , 学 校 段 階 , 年 齢 は 多 様 で あ る が , 子 ど も の 主 観 的 幸 福 感 は 家 族 と の 関 係

(El-Dardiry et al. 2012; Gilligan & Huebner 2007;

Holder & Coleman 2009; Uusitalo-Malmivaara &

Lehto 2013), 学 校 で の 友 人 や 教 師 と の 関 係

(El-Dardiry et al. 2012; Gilligan & Huebner 2007;

Holder & Coleman 2009; 水谷・雨宮2015; Renshaw et al. 2014),近所住民(El-Dardiry et al. 2012)によ って影響を 受けている。先行研究の大半は国外で実施 されたものであるが,日本の子ども(小・中学校段階)

につい ても,これらと同様の結果が得られ るのであろう か。日本の子どもについては,どのようなタイプのつな がりが,主観的幸福感の向上に結びつくのであろうか。

また,先行研究では,一般的な親について,配偶者を はじめとする周囲の人々との関係(加藤2008; 清水他 2010)が, 主観的 幸福感 の主た る決定 要因で あるこ と を つ き と め て い る 。 そ れ で は , 子 ど も が 小 ・ 中 学 校 に 就学している「保護者」については,どのようなタイプ のつ なが り が ,主観的 幸福感の向上に 結びつくので あ ろうか。

そ し て, 子 ど も の 主 観 的 幸福 感 の 決 定 要因 と して,

注視してしおきたいのは ,「フロー」体験である。フロ ー と は , 何 か に 没 頭 し た 状 態 や , 現 在 の こ と に 心 か ら 熱中している状態を示す概念である(Lyubomirsky et al. 2005; Lyubomirsky et al. 2006)。Lyubomirskyら の見解を踏まえれ ば,学習活動に対して高い意欲を持 ち,没頭・集中している状態を経験している子どもは,

主観的幸福 感も高い と予測で きる。集中・没頭状態に ついては,それを幸せへの志向性(没頭志向性)とし て 捉 え , 意 味 志 向 性 及 び 快 楽 志 向 性 と 共 に 主 観 的 幸 福感(生活満足度)の説明変数とする研究もある(熊

野 2011)。本研究では,子どもの集中・没頭体験の代

理 指 標 と し て 学 習 意 欲 を 設 定 し , 基 本 属 性 変 数 と と も に , こ れ を 統 制 変 数 と し て 設 定 す る 。 子 ど も の 主 観 的 幸 福 感 は ,「 つ な が り の 程 度 」 と い う 集 団 形 成 の 要 因 より も,「 勉強が 分 かり 楽 しい 」という学 ぶ意欲 の要因 の方が,影響力が強いかもしれない。

ま た , 保 護 者 に つ い て も , 子 ど も の学 習 意 欲 と対 置 す る 形 で 学 校 へ の 協力 意 欲 を 設 定し , 基 本 属性 とと も に,これ を統制変数として設定する。保護者を取り巻く つ な が り の 程 度 よ り も , 学 校 ・ 地 域 行 事 に か か わ る こ と に 意 義 を 見 い 出 し 参 加 ・ 協 力 意 欲 を 持 っ て い る 人 の 方が,主観的幸福感が高いかもしれない。

以上 , こ れ まで 整理 ・ 検 討して しきた 経済 学や 心理 学における幸福研究の動向と教育学における研究動向 及 び 研 究 関 心 を 踏 ま え ,本 研 究 で は , 以 下 の 2 つ の 研究課題を設定する。

研究課題 1:子どもの主観的幸福感を高めるのは,どのよ

うなタイプのつながりなのか。また,主観的幸福感に対するつ

表 1 記述統計量 M SD Min Max α 係数 主観的幸福感/肯定ダミー .80 .40 .00 1.00 - 主観的幸福感/高頻度ダミー .41 .24 .00 1.00 - 学級 SC .00 1.00 -4.21 1.63 .87 家庭 SC .00 1.00 -4.39 1.46 .82 地域 SC .00 1.00 -4.48 1.86 .74 教師 SC .00 1.00 -3.41 1.31 .93 国語の学習意欲 .00 1.00 -3.47 1.41 .74 算数数学の学習意欲 .
表 4 記述統計量 M SD Min Max α 係数 主観的幸福感/肯定率ダミー .66 .47 .00 1.00 - 主観的幸福感/高頻度ダミー .16 .37 .00 1.00 - 保護者-学校 SC .00 1.00 -2.38 .96 .90 保護者間 SC .00 1.00 -2.13 .96 .77 保護者-地域 SC .63 .48 .00 1.00 - 学校への協力的意欲 .00 1.00 -1.69 1.54 .82 学校段階ダミー .56 .50 .00 1.00 - 学級規模 26.

参照

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