痴呆性高齢者間の対人交流を形成する援助 [ PDF
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(2) 第一相)ウォーミングアップ:あいさつ、体操、歌など。 第二相)役割演技:対象者の話からイメージを共有した 後、役割を設けて、劇化した。 第三相)シェアリング:感想を述べてもらった。 ⅲ)記録 結果. セッションの様子を VTR で録画した。. 対象者によって異なる対人交流の形成過程をと. った 3 グループを取り上げた。 相手へ注意が向かないグループ ⅰ.対象者の特徴. 状態像 発話 状況認知力 他入所者と の対人交流. L氏 69歳(男) 妄想、徘徊、易興奮性 発話量は多。一方的会話。 高い。 注意が向かず、 交流はない。. J氏 80歳(男) 急な興奮、大声 発話量は少。発語不明瞭。 低い。 漠然と注意を向けるが、 交流はない。. ⅱ.グループの特徴 ・発話量の多いL氏と発話量の少ないJ氏 ・注意が向かないL氏と注意は向けるJ氏 ・状況認知力の高いL氏と状況認知力の低いJ氏 ⅲ.グループのねらい 自分の話を受け止めない人には注意を向けにくく妄 想のあるL氏がJ氏に注意を向けていくこと。また、J 氏がL氏という特定の人物へ注意を向けて言語的非言語 的表現を行うこと。J氏とL氏が同じ場面や話題を共有 すること。. た。J 氏は L 氏の様子を見ながら、笑って、 「自 分が悪いと思ったらやめるよ」と発言した。L 氏も J 氏の様子をよく見てじっとしていた。. 言い換え伝達 L 氏は「酒、煙草は同時に止めました」と言い、 身振り伝達 援助者はそれを<はー>と受け止めた後、<さ ようならー>と、お酒や煙草を手放す演技をし た。すると再び J 氏が援助者に注目した。 援助者の役割 L 氏の過去の経験談を元に、援助者は煙草を差 演技 し出す仕草をしながら、<一本吸っていいよ。 援 助 者 へ の 応 どうぞ>と J 氏と L 氏に交互に話しかけた。J 答を促す 氏は腕組みをして「クセになる!」と、L 氏は 交 互 に か か わ 「吸うと辞められない」と穏やかに断った。J る 氏は、援助者と L 氏のやりとりの様子をじっと 見ていた。 援助者が、<2 人とも煙草はよくないって言う んですね>と言うと、J 氏を見ながら L 氏は「よ く酒と煙草をやめたなあと思いますよ」と述べ た。援助者が J 氏にも尋ねると、 「もう絶対飲む まいと思っている」と顔を上げて答えた。. 共通項を指摘 援助者への応 答を促す. ⅵ.グループの結果と考察 発話量の多いL氏の出した話題を取り上げつつも、援 助者が身振りによる伝達や役割演技の中での言い換え伝 達や情景描写を丁寧に行うことでJ氏も場面への参加が 可能となった。また援助者の役割演技が、逸れそうにな る二者の注意を場面へ引き戻し、それが援助者と相手へ の注意の喚起へと結びついた。援助者のみに向かってい た注意が、援助者と相手とのやりとりへ向き、L氏には 援助者の身振りに手を貸す様子がみられた。援助者の役 割演技や身振りが二者を結びつける大きな要素であった. ⅳ.経過 #1∼#3ではL氏が援助者に自分の戦争体験や仕 事の様子を一方的に話し、J氏は援助者を凝視し、質問 にうなづく程度の反応であった。#4になるとL氏がJ. と考えられる。 相手へ注意は向くが働きかけられないグループ ⅰ.対象者の特徴 K氏 89歳(女). 氏に視線を向けたり、J氏が「口がまめらん」と文脈か ら外れるが明快な発言をしたりした。#6では植木鉢の. 状態像. 被害妄想、易興奮性. 花に肥料をやる場面で、手振りで植木鉢を表現する援助. 発話 状況認知力 他入所者と の対人交流. 発話量は多。一方的会話。 中程度。 時折一方的に働きかけ、 交流続かない。. 者に合わせて、L氏は花を手で表現し、J氏の反応を伺 った。#7で二者ともに相手の様子を窺いながら禁煙に. E氏 77歳(女) 感情の変化激しい。 大声、不穏。 発話量は少。 中等度。 注意を向けるが続かず、 交流はない。. まつわる自分の意見を述べた。#8でL氏が突然「この. ⅱ.グループの特徴. 人は80過ぎでしょう」とJ氏の年齢に言及した。. ・発話量の多いK氏と発話量の少ないE氏. ⅴ.心理劇的場面における役割演技への援助. ・他者に合わせて働きかけられないK氏と他者への注意. #7. が持続しないE氏. テーマ「禁煙」(「. 」は対象者の発話。<. >は援助者の発話とする。). 援助者と対象者のやりとり L 氏が煙草の話を一方的に続けるので、援助者 は J 氏に対して煙草を吸う仕草をしながら、< 吸ったことある?>と尋ねた。J 氏は「うん、 若いとき吸いよったよ」と答えた。さらに、援 助者が煙草を吸う仕草を続けると、J 氏は煙が 立ち込めているかのように顔を背けた。 L 氏が援助者の問いに答えて「こりゃいかんと 思って止めた」と話すが、J 氏の注意がそれて きていた。援助者は J 氏の膝を軽く叩き、<こ りゃいかん!煙草も酒もやめるぞ!>と言っ た J 氏は L 氏の様子を見ながら 笑って 「自. 援助的介入 L氏の話題. ⅲ.グループのねらい. 身振り伝達 情景描写. 自分の働きかけをE氏に伝わるように調整すること。他. 他者へ働きかけるが一方的で交流が続かないK氏が、 者へ注意を向けるものの持続しにくいE氏がK氏に働き かけたり応じたりすること。K氏とJ氏が身振りや発話 で相手に伝わるやりとりを体験すること。. 援助者の役割 演技 言い換え伝達 注意の喚起. ⅳ.経過 #1では、E氏は援助者の質問に答えるがうつむき気.
(3) 味で、K氏はそのようなE氏を見ることはあったが話し. ⅲ.グループのねらい. かけるといった積極的かかわりはなかった。#2では、. 他者へ働きかけるが一方的で交流が続かないG氏と. K氏は自分の話になるとE氏へ注意が向かなくなった。. M氏が、 同じ話題を共有し身振りや役割を利用しながら、. #3で、援助者の質問を受けてE氏は「筍を採ったね」. 働きかけを調整することで相手とのやりとりを続けるこ. とK氏に同意を求め、K氏が頷いて応じた。#4では、. と。相手に共感する体験を持つこと。. グループへの誘導の際に、K氏は<Eさんも来ますよ>. ⅴ.経過. と援助者が相手の名前を出すと参加するようになった。. #1∼2では、G氏もM氏も相手の話と辻褄の合わない. E氏にも同様のことがあった。#6は再びK氏が話し続. 話で応じた。 同じ煮物作りの場面でもG氏は “きんぴら” 、. けたが、#7では、援助者の質問を受けてE氏は「廊下. M氏は“煮しめ”の作り方をそれぞれに語りだした。G. 水拭きしよったね」とK氏に同意を求め、K氏が頷いて. 氏が一方的に話し続けることが多かった。 #3∼4では、. 応じた。#8ではE氏はK氏に合わせて歌い、援助者の. お互いにお酒を酌み交わす、川の水を一緒にすくうなど. 誘導に乗ってK氏がお酌の身振りで働きかけ、E氏が受. の役割演技によってG氏もM氏も相手に合わせた働きか. けていた。. けがあった。#3ではG氏から#4ではM氏から出た話. ⅶ.心理劇的場面における役割演技への援助. 題が取り上げられた。#6∼7では、 「正月の準備」の話. #3. 題でM氏の苦労話にG氏が聞き入り「今日は人のことを. テーマ「筍採り」(「. 」は対象者の発話。< >は援助者の発話とする。 ). 援助者と対象者のやりとり 援助者が<筍採り難しそうですね>と言うと K 氏が「このくらいの道がある」と身振りを交え て説明した。援助者が歩きながら K 氏が示した ものと同じ道幅を手で示し、<筍ある?>と尋 ねた。K 氏が「生えとりますばい」と言った。 うつむいていた E 氏も顔を上げ援助者に注目し た。. 援助的介入 二者に身近な 話題 援助者への応 答を促す 情景描写. 考えるようになりました」 とM氏に共感する発言をした。 #8ではG氏が教えていた縫物教室の話にM氏が「習っ たら面白そうや」と言い、G氏が「今でも教えます、楽 しくやれますよ」と答えるなど今後も交流を続けたい様 子をみせた。 ⅶ.心理劇的場面における役割演技への援助. 援助者は、<筍を入れて家に帰ってきました> と言い、かごを背負った姿勢で U ターンして 2、 場面の展開 3 歩戻ってきた。 <皮を剥きましょう>と援助者が身振りを入れ て質問すると、K 氏が「ぐりって剥けます、い い音でね」とアドバイスした。E 氏も K 氏を見 ながらうなづいた。また E 氏が K 氏に視線を向 け、K 氏が答えたりした。. 援助者への応 答を促す 情景描写. ⅵ.グループの結果と考察 援助者が二者に共通して身近な話題を取り上げ、情景 描写を身振りを交えて丁寧に扱ったことが、二者が共に 場面に注意を持続して向けることに結びつき、一方的に 援助者に話しかけていたK氏がE氏の話に耳を傾けたり、 反応の乏しかったE氏がK氏に話しかけるようになった。 また、援助者が情景描写の際に二者へ頻繁に確認をとっ たことで、 二者の相手への働きかけへ繋がったと言える。. #3. テーマ「温泉」(「. 」は対象者の発話。<. >は援助者の発話とする。 ). 援助者と対象者のやりとり 援助的介入 G 氏が M 氏には注意を向けず、援助者に対して G氏の話題 長く説明していた。援助者は<いいですね、温 注意の喚起 泉。私とっても入りたくなりました!>と大き 場面の提案 い声で切り出した。すると M 氏も「本当にねえ」 と会話に入り表情も笑顔になった。G氏も話を 中断し、「はいはい」と言った。 援助者が中腰になって身振りでお湯の表面の波 打つ様子を示し、<いいお湯ね>と言うと、自 発的に M 氏が「 (お湯を)かけないで」と弾ん だ声を出した。援助者が<えい、パシャパシャ >とお湯をかける身振りをすると、2人とも声 をあげて笑った。 援助者は<温泉に浸かって暖かくなりました ね。M さんは顔が赤くなって、G さんの手もほ かほかですね>と言い、M 氏と顔を見て、G 氏 の手を触った。M 氏は笑顔で頷いた。G 氏も手 を見て、「まあー」と言った。. 情景描写 援助者への応 答を促す. 共感を促す. 相手へ働きかけるが交流がつづかないグループ ⅰ.対象者の特徴. 状態像 発話 状況認知力 他入所者と の対人交流. G氏 82歳(女) 他者の物を物色し収集。 徘徊 発話量は多。一方的会話。 高い。 時折働きかけるが、 交流続かない。. M氏 84歳(女) 妄想、感情失禁、徘徊。 発話量はふつう。 高い。 時折働きかけるが、 交流続かない。. ⅱ.グループの特徴 ・発話量の多いG氏と発話量のふつうのM氏 ・他者へ働きかけるものの交流が持続しないG氏とM氏. 援助者が二人に対して<一杯どうぞ>とお酒を 注ぐ身振りで近づくと、G 氏は両手で受け止め る身振りはするが、夫とお酒の話をし始めた。 一方 M 氏は「チュッ」と音を立てて、お酒を飲 む身振りをした。G 氏はその M 氏の方を見てお り、援助者が<わあ、おいしそう>と言うと G 氏も「ねえ」と言った。M 氏が自発的に G 氏に お酒を注ぐ身振りをしたところ、G 氏は嬉しそ うに受けて今度は飲み干した。M 氏はそれを見 て笑顔で拍手した。. 援助者への身 振りの応答を 促す. 気持ちを代弁 する. ⅵ.グループの結果と考察 一方的に話しがちであったG氏であったが、援助者が 介入し話題として取り上げ、身振りを用いた情景描写で.
(4) うになった。. 場や互いの役割を提案したことが、G氏がM氏に伝わっ. 第三章. ているかを振り返る機会となり、M氏にとってもG氏の. 総合考察. 話が共有でき役割演技を通してG氏に伝わるかかわりへ. 軽度痴呆性高齢者でも、SAT場面や心理劇的場面な. と結び付けられた。また、M氏の発言も援助者が丁寧に. ど特定の場面では対人的関心を表現する可能性が示され. 受容しているうちに、G氏はM氏の発言を待つようにな. た。心理劇的場面では、援助者のみが役割を取るなど柔. り、M氏もまた援助者ばかりではなくG氏にも働きかけ. 軟に適用することで、心理劇の持つ“今ここで”の体験. られるようになった。援助者が共感しやすい情緒的な情. を痴呆性高齢者に促し、対人交流へと結びつくと考えら. 景描写を重視したことが、場面への注意を高め、相手の. れる。また、痴呆性高齢者は具体的な相手とのかかわり. 様子を伺う、相手への共感を持つことへ結びついた。. へ注意を定め、また援助者が場面を柔軟に変化させるこ. 全グループの結果. とができるために心理劇における主役体験の機会を多く 得られたと考えられる。 それは、 「頼りかつ頼られる関係」. 相手へ注意が向かないグループでは、援助者はまず場面 への注意を喚起することを心がけた。援助者は身振り手振. の体験につながった可能性がある。ただし、相手の選択. りや役割演技で対象者をひきつけた。すると援助者とやり. の自由がないので組み合わせる際には配慮が必要である。 援助者の介入は対象者や場面によって異なるが、本研. とりする相手へ関心が向かうようになった。 相手へ注意は向くが働きかけられないグループでは、. 究では、二者の興味のある話題の展開、身振りなど視覚. 援助者はまず、現在している話の内容や、その情景に三. 的手がかりの利用、発話量の多い高齢者の発言は相手へ. 人が一致した理解を持てるような場面の共有を促した。. の伝達を工夫する中で生かすように取り組んだ。セッシ. 援助者は身振り手振りや役割演技で場面を分かりやすく. ョンの進行よりもむしろ二者が常に同じ場を共有できる. した。すると援助者に詳しい場面を説明するために協力. ような配慮が重要であることが示唆された。. するかかわりがみられるようになった。. 凡例. 相手へ働きかけるが交流がつづかないグループでは、. 過剰. 援助者はまず場面の共有をし、場面で生じた気持ちへの. 適度. 注意を喚起した。援助者は身振り手振りや役割演技で場. グループ. 相手へ注意が向かない グループ. L 対人交流が 困難な状態. 援助の特徴. J. 相手へ注意は向くが 働きかけられないグループ. E. K. 援. 相手へ働きかけるが 交流がつづかないグループ. G. 援. LもJも相手へ注意が向かなかっ た。 ・Lの話を中心に展開 ・身振り伝達(L→J) ・援助者の情景描写 ・援助者の役割演技 ・Jの応答を待つ. J. L 対人交流が 良好な状態. 微小. 相手に伝わりにくい話をする。 発話量が多い。 相手に伝わる。 発話量が相手にとって適度であ る。 発話が殆どない。 視線や注意を向ける。. 援 LがJを見たり言及した。 JがLをちらりと見た。. 援. 注意を向け合っているものの、 やりとりがみられなかった。 ・KとEに共通する話題を展開 ・援助者の情景描写 ・身振り伝達(K→E) ・Eの表出を促す ・EのKへの働きかけを支持. K. M. E. 援 EがKに同意を求めた。 KがEに応じた。. 相手に働きかけ合うものの、 お互いに一方的になっていた。 ・MとGの話を均等に展開 ・援助者の情景描写 ・劇化して3人で役割演技 ・役割演技での二者の共感を促す. G. M. 援 GもMも場面の中で 言葉と行為を介した 相手に伝わるやりとりをした。.
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