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54 Tropical Medicine and Health Vol.39 No.2, 2011 Fig. 1. シガトキシン -1B(ciguatoxin-1B, CTX1B) る その中で,CFP に特徴的な温度感覚異常は, 冷たいものに触れたときに電気的刺激のような痛みを感じるもので, ドラ

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53 Copyright 2011 by The Japanese Society of Tropical Medicine

Short communication

加計呂麻島における魚類食中毒シガテラの発生

大城直雅

1

*

,松尾敏明

2

,佐久川さつき

1

,與儀健太郎

3

,松田聖子

1

,安元 健

3

,稲福恭雄

1

受付 2011年2月7日 受理 2011年3月3日 J-STAGE早期公開日 2011年6月14日

Ciguatera Fish Poisoning on Kakeroma Island, Kagoshima Prefecture, Japan

Naomasa Oshiro

1

*, Toshiaki Matsuo

2

, Satsuki Sakugawa

1

, Kentaro Yogi

3

, Seiko Matsuda

1

,

Takeshi Yasumoto

3

and Yasuo Inafuku

1

Abstract: In this paper we report two incidents of ciguatera fish poisoning (CFP) that occurred in 2008 on Kakeroma Island in Kagoshima Prefecture, Japan. A family consisting of father (42 y.o.), mother (39 y.o.), daughter (11 y.o.) and son (6 y.o.), as well as a friend of the family (male, 78 y.o.) consumed sliced flesh (sashimi) and developed typical symptoms of CPF 4-5 h later: diarrhea, vomiting, and paresthesia of the extremities. Additionally, the two male adults (42 and 78 y.o.) developed mild hypotention (84/48 and 94/40 mmHg, respectively) and bradycardia (36 and 50 bpm, respectively) and were rushed to the ER of the nearest hospital, located on an adjacent island. The implicated fish were caught together off the west coast of the island and were identified as Variola louti and Lutjanus monostigma based on analysis of 16S rRNA gene coded on mtDNA. Remnants of the implicated fish and other fish caught on the same occasion were examined by the official mouse bioassay method (MBA), which defines the minimum amount of CFP toxin needed to kill a male mouse of ddY strain of 20 g body weight within 24 h as one mouse unit (MU). A significantly high toxicity was detected in the V. louti (0.2 MU/g) eaten by the family and the L. monostigma (0.8 MU/g) eaten by the elderly man. Other specimens of Lethrinus nebulosus, Variola albimarginata, Lutjanus gibbus (2 specimens), Aphareus rutilans, and Sphyraena forsteri (2 specimens) were found to be nontoxic (< 0.025 MU/g).

The medical records regarding island inhabitants (ca. 1,500) kept at Kakeroma Tokushukai Clinic, the only medical facility on the Island, and also at Setouchi Tokushukai Hospital, a nearest hospital on an adjacent island (Amami) revealed 6 CFP outbreaks involving 13 cases between 2005 and 2008. The estimated frequency of CFP was 10.0 incidents/10,000 persons/year and the morbidity rate was 21.7 cases/10,000 persons/year. The symptoms and signs observed in the patients and the implicated fish species, L. monostigma and V. louti, were typical of CFP in this region.

Key words: ciguatera fish poisoning, ciguatoxin, mouse bioassay, Lutjanus monostigma, Variola louti

緒 言

シガテラ(ciguatera, ciguatera fish poisoning: CFP)とは 主に熱帯・亜熱帯域に生息する海産魚類に起因する自然 毒食中毒の名称で,世界中で毎年数万人規模の発生が推定 されている[1–4]。原因物質はシガトキシン(CTX,Fig. 1) とその関連物質で,付着性の渦鞭毛藻(Gambierdiscus toxicusなど)が産生し,食物連鎖にのって藻食性動物か ら肉食魚へと伝播,蓄積される[1–4]。シガトキシン類 (CTXs)は,電位依存性ナトリウムチャネルに特異的に 結合,活性化して神経伝達に影響をおよぼす。死亡例は 極めてまれだが,臨床症状は消化器系領域(下痢や嘔吐 など),循環器系領域(低血圧や徐脈など),そして神経 系領域(温度感覚異常や掻痒,筋肉痛,関節痛など)と 多岐にわたる[3, 4]。特に神経系領域の症状は,重症例 では数ヶ月から数年にわたって症状が継続することがあ 1 沖縄県衛生環境研究所,901-1202 沖縄県南城市大里字大里2085 2 加計呂麻徳洲会診療所,894-2322 鹿児島県大島郡瀬戸内町大字瀬相747-1 現所属:ナカノ在宅医療クリニック,890-0007 鹿児島県鹿児島市伊敷台6丁目27-10 3 財団法人 沖縄科学技術振興センター,904-2234 沖縄県うるま市州崎12-75 * 連絡著者: 現所属: 沖縄県環境生活部 〒900-8570 沖縄県那覇市泉崎1-2-2 TEL: +81-98-866-2236 FAX: +81-98-866-2240 E-mail: ooshronm@pref.okinawa.lg.jp

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る。その中で,CFP に特徴的な温度感覚異常は,冷たい ものに触れたときに電気的刺激のような痛みを感じるも ので,ドライアイスセンセーションともよばれる。日本 では沖縄県を中心に,毎年数例の食中毒事件が報告され ているが,実際には多くの事例が潜在するものと考えら れている[5]。さらに近年は,本州の太平洋沿岸域で漁 獲されたイシガキダイの大型個体による食中毒事例も散 見され,地球温暖化に伴い温帯域での発生増加が懸念さ れている[4, 5]。 2008年,鹿児島県奄美諸島の加計呂麻島在住者が同島 沖合で釣り上げた魚を摂食後,典型的なCFPの症状を呈 した。その原因食品と,同時に漁獲された魚試料を入手 する機会があったので,その毒性試験を実施した。また, 同島におけるCFPの発生状況を把握するために,医療機 関の受診記録について調査を行った。

方 法

中毒事例の概要 2008年 9 月,鹿児島県奄美諸島加計呂麻島在住の男性 (42 歳)が,近隣の知人男性(78 歳)とともに,同島西 岸の沖合へ夜釣りにでかけた。漁獲したハタ類やフエダ イ類,ハマフエフキ(Lethrinus nebulosus)等を翌朝持ち 帰り,自宅で内臓を除去するなど腑分けをおこなった。 そのうち,赤味を帯びたハタ類1尾とハマフエフキ1尾は 家族らと消費し,フエダイ類の 1 尾は知人男性が持ち帰 り,残りは冷凍保存した。 事例1 男性(42 歳)と家族(妻 39 歳,長女 11 歳,長男 6 歳) は夕食で,ハタ類(約 55 cm)の半身およびハマフエフ キの半身を,刺身(10 ~ 15 切れ)と味噌汁(汁碗 1 杯) で摂食した。その2時間後から咽頭部の違和感が出現,5~ 6時間後から下痢,嘔吐などの消化器症状と,四肢の痺 れ等の神経症状が出現した(Table 1)。そのうち最も重症 であった父親は,これらの症状に加えて,多量の発汗, 全身脱力,低血圧(84/48 mmHg)や除脈(36回/分)を 認め,自力歩行が困難であったため,翌日午前2時頃,隣 島の病院へ救急搬送された。病院では,輸液(乳酸リン ゲル液など約 3,000 ml)が行われ,全身倦怠感と温度感 覚異常等は改善されなかったが,本人の希望により同日 午前中に退院した。他の家族は,診療所で乳酸リンゲル 液の補液や制吐剤,鎮痛剤,胃薬などの投薬を受け,自 宅にて療養したが,妻は3日間安静を必要とし,子供2人 は学校を1週間休んだ。4人とも,冷たいものを飲んだ際 の口腔内の痺れや,四肢の脱力,頭痛などの症状が約1ヶ 月継続した。なお,夕食で魚を摂食しなかった次男(3 歳)にこれらの症状は認められなかった。 事例2 友人男性(78 歳)は,持ち帰ったフエダイ類 1 尾(サ イズ不明)の刺身を5切れ程度摂食した。摂食から約5時 間後,下痢および四肢冷感が出現したため,診療所を受 診したが,血圧低下(94/40 mmHg),徐脈(50回/分)が 認められたため隣島の病院へ救急搬送された。事例 1 の 男性と同様,輸液(乳酸リンゲル液など約 1,700 ml)が 行われ,3 日間で下痢による脱水症状が改善したため, 退院となった。その後も冷たいものを飲んだ際の口腔内 の痺れ,両下肢の脱力などの症状が約 1ヶ月継続した (Table 1)。 Fig. 1. シガトキシン-1B(ciguatoxin-1B, CTX1B)

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マウス毒性試験(MBA: mouse bioassay) 事例 1 と 2 の未調理品(3 種 3 個体)および,同地点で 同時に漁獲された魚試料(4 種 6 個体)が入手できたた め,食品衛生検査指針[6, 7]記載の方法によりMBAを 実施した(Table 2)。調製した試験液をddY系マウス(オ ス,17–20 g,九動(株))に腹腔内投与後,24 時間経過 を観察し,24時間以内にマウスが死亡した最小投与量を 1 MUとした。患者らが摂食したハタ類およびフエダイ 類の試料については,外部形態による同定が困難であっ た た め,ユ ニ バ ー サ ル プ ラ イ マ ー 16SarL(5'-CGC- CTGTTTATCAAAAACAT-3')と16SbrH(5'-CCGGTCTG-AACTCAGATCACGT-3')を用いた mtDNA(ミトコンド リアDNA)上の16S rRNA後半領域の塩基配列をダイレク トシーケンスにより解析した[8, 9]。その他の試料は海 老沢明彦博士(沖縄県水産海洋研究センター)に外部形 態による同定を依頼した。 発生状況調査 加計呂麻島唯一の医療機関である加計呂麻島徳洲会診 療所と,隣島の奄美大島にある瀬戸内徳洲会病院におい て,加計呂麻島在住者の医療記録(2005~2008年)を対 象に,臨床症状と魚の摂食歴からCFPが疑われる事例を 抽出した。 Table 1. 事例1および2の患者の症状* *:温度感覚の異常,脱力,掻痒,痺れなどは約1ヶ月間継続した 事例 性別 年齢 摂食状況 発症時間 症状 刺身 味噌汁 1 42 2時間 咽頭~喉頭部の違和感 6時間 嘔吐,水様便,冷汗,悪寒,全身の痺れ,脱力,血圧低下(84/48: 搬送時),徐脈(36回/分) 翌日 温度感覚異常,四肢の脱力と痛み,食欲低下,耳垢の軟化,肛門周 辺の痺れ,飲酒時の全身掻痒感 女 39 2時間 咽頭~喉頭部の違和感 5時間 嘔吐,下痢,四肢の痺れと痛み,脱力 翌日 温度感覚異常,全身倦怠感,脱力,四肢掻痒,吐き気,食後の上腹 部痛,飲酒時の全身掻痒 女 11 2時間 咽頭~喉頭部の違和感 6時間 嘔吐,吐き気,食欲低下,全身倦怠感,下肢の痛み,温度感覚異常 男 6 2時間 咽頭の痺れ,腹部不快感 4時間 嘔吐,下痢 翌日 上腹部痛,嘔吐,温度感覚異常,下肢の脱力と痺れ 男 3 無し 2 78 5時間 下痢,四肢冷感,血圧低下(94/40 mmHg:搬送時),徐脈(50回/ 分:搬送時) 翌日 温度感覚異常,下痢,流涙,足底の痺れ,両下肢脱力,飲酒時の全 身掻痒感 Table 2. 事例1と2の原因魚および同時に漁獲された魚の毒力。 *:内臓とうろこは除去されていた。 **:検出されず(<0.025 MU/g) No. 学名 科名 摂食 重量(kg)* 毒力(MU/g) 1 バラハタ Variola louti ハタ科 事例1 不明 0.2 2 ハマフエフキダイ Lethrinus nebulosus フエフキダイ科 事例1 不明 ―** 3 イッテンフエダイ Lutjanus monostigma フエダイ科 事例2 不明 0.8 4 オジロバラハタ Variola albimarginata ハタ科 無し 0.6* 5 ヒメフエダイ Lutjanus gibbus フエダイ科 無し 0.6* 6 ヒメフエダイ Lutjanus gibbus フエダイ科 無し 0.6* 7 オオグチイシチビキ Aphareus rutilans フエダイ科 無し 0.8* 8 オオメカマス Sphyraena forsteri カマス科 無し 0.9* 9 オオメカマス Sphyraena forsteri カマス科 無し 0.8*

(4)

結 果

原因魚の特定と毒性 事例1のハタ類は,漁獲後に撮影した画像から,体表が 黄色味を帯びた赤色で,薄い青色を帯びた斑紋が一面に あり,ひれの縁が黄色であるなど,バラハタ属の特徴を示 していた。また,16S rRNA後半領域の577 bpの塩基配列 を決定することができ,その配列はバラハタVariola louti と一致した。事例 2 の個体は,体表が橙色をおび,尾部 に近い測線上に小さな黒斑が認められた。塩基配列を決 定できた577 bpはイッテンフエダイ(Lutjanus monostigma) と一致した。 事例 1 のバラハタと事例 2 のイッテンフエダイ試料抽 出物は,マウス致死毒性を示し,その毒力はそれぞれ, 0.2 MU/g,0.8 MU/gであった(Table 2)。一方,事例1の ハマフエフキと,これらと同海域で同時に漁獲されたオ ジロバラハタ(Variola albimarginata),ヒメフエダイ (Lutjanus gibbus)2個体,オオグチイシチビキ(Aphareus rutilans),オオメカマス(Sphyraena forsteri)2個体は全て 無毒(0.025 MU/g未満)であった(Table 2)。 CFPの発生状況 2005~2008年の4年間に,島内の診療所と隣島の病院 を受診した患者のうち,臨床症状とそれに先立つ近海魚 の摂食が確認され,CFP が疑われたのは,本論文の事例 を含め,6件13人であった(Table 3)。患者らの症状は四 肢や口腔内の痺れ,温度感覚異常などで,下痢などの消 化器症状や全身倦怠感,徐脈なども確認された。原因魚 種はバラハタ,イッテンフエダイなどで,全て同島近海 で遊漁によって漁獲されたものであり,販売店からの購 入は確認されなかった。

考 察

CFPの原因となる魚は 400 種にもおよぶが,原因毒は 食物連鎖によって伝播・蓄積されるため,その毒性は海 域や魚種,個体による違いが大きい[1–5]。本報告の 2 事例の原因魚であるバラハタとイッテンフエダイは,沖 縄県でも代表的なCFPの原因魚種であり,沖縄近海で採 取された個体の有毒率はそれぞれ 32.3% と 14.3% と高率 に CTXs を保有することから[7],加計呂麻島周辺海域 でも注意が必要な魚種といえよう。 CTXsは 10 MU 以上の経口摂取で中毒をもたらすとさ れており[10],事例 1 のバラハタ(0.2 MU/g)は 50 g, 事例2のイッテンフエダイ(0.8 MU/g)は12.5 gの摂食で 中毒量に達する。なお,沖縄県で発生した食中毒事例に おいて,刺身一切の重量は約14 gであり[11],これを適 用したときに,事例1では4切,事例2では1切で中毒量 を超えることになる。事例1については,刺身を10~15 切れ摂食しているが,バラハタとハマフエフキを同程度 摂食したと仮定すると,5~7.5切れとなり発症量を超え る(14~21 MU)ことになる。さらに,味噌汁からの摂 食量を 50 ~ 100 g 魚肉相当量(10 ~ 20 MU)とすると, 併せて 24 ~ 41 MU となり,発症量の 2.4 ~ 4.1 倍の CTXs Table 3. 加計呂麻島で確認されたシガテラ(2005-2008). 症例 受診日 性別 年齢 原因魚 症状 備考 1 ’05年08月14日 男 38 アオノメハタ 咽頭の違和感,全身倦怠感 2 ’05年08月14日 女 34 1と同一魚 咽喉の違和感,全身倦怠感,腹痛,温度感覚 異常 1の妻 3 ’05年09月22日 男 53 不明 下痢,両手の痺れ,口腔内の痺れ,温度感覚 異常 4 ’05年09月27日 男 57 バラハタ 下痢,温度感覚異常,肘の痛み,手指の痛 み,下半身が重い 5 ’05年09月28日 男 26 4と同一魚 温度感覚異常 4の息子 6 ’08年08月12日 女 42 バラハタ 両下肢の痛み,吐気,体表のピリピリ感,両 足舌先端の痺れ,温度感覚異常,飲酒時の手 掌,足底の掻痒感 7 ’08年08月12日 女 20 6と同一魚 四肢の痺れ,舌の痺れ 6の娘 8 ’08年08月12日 女 37 6と同一魚 手足の痺れ,下痢,温度感覚異常 6の義妹 9 ’08年09月09日 男 42 バラハタ Table 1 10 ’08年09月09日 女 39 9と同一魚 Table 1 11 ’08年09月09日 女 11 9と同一魚 Table 1 12 ’08年09月09日 男 6 9と同一魚 Table 1 13 ’08年09月09日 男 78 イッテンフエダイ Table 1

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を摂取したことが推定される。また,事例 2 においては 刺身を 5 切れ程度摂食しているため,中毒量の 5 倍以上 (56 MU)のCTXsを摂取した可能性がある。 加計呂麻島では4年間に6件13人のCFPが確認された。 同島の人口が約1,500人であるため,10.0件/1万人/年, 21.7人/ 1 万人/年の発生頻度となる。CFP の高発生地 域である南太平洋地域の仏領ポリネシアでの発生頻度は 10~251件/1万人/年であり[12],加計呂麻島はCFP の高発生地域と位置づけられる。一方,隣接する沖縄県 は,頻度は低いが恒常的にCFPが発生している地域と位 置づけられており,食中毒事件として届出のあった CFP の発生頻度は,0.024 件/1万人/年,0.075人/1万人/ 年であり[7],加計呂麻島は沖縄県よりも格段に高頻度 で発生していることが明らかになった。しかし,本報告 のすべての事例が食中毒としては届出がされていないこ とや,沖縄近海に生息するイッテンフエダイ等が高率に CTXsを保有していることから,沖縄県においても多くの CFPが潜在し,実際の発生頻度はより高率になると考え られる。特にタンパク源を沿岸魚に大きく依存し,魚へ の嗜好性も高い離島地域では,加計呂麻島と同程度の発 生頻度である可能性が示唆される。 CFPの診断は症状と摂食魚の種類(種やサイズなど) に依存することが多い。南西諸島はCFPの発生地域であ り,今回の事例ではいずれも典型的な症状と沿岸魚の摂食 歴から鑑別に支障はなかった。外部形態による魚種判別 が困難であったが,遺伝子解析によって典型的なCFPの 原因魚種であることが判明し,本法の有効性が示された。 加計呂麻島において,販売店経由の魚による中毒が確 認されなかったことは,漁業関係者がCFPを警戒してい ることを示唆する。しかし,全国的に釣り人口が増加し, 離島への交通が便利になった現在,観光客や釣り客等へ の情報提供が必要に思われる。一方,診断が患者の症状 と原因魚の種類に依存している現状では,医療関係者が 軽症者について中毒と判断して関係機関に届け出ること が躊躇されよう。我々は,CTXsの精密分析についても検 討を行い,16成分の一斉分析法を開発した。実際に沖縄 や宮崎から得た食中毒検体を用いて,1 g相当の魚肉抽出 物から CTXs を検出・定量することに成功している(投 稿準備中)。本法により,わずかな食品残品や患者の吐物 などから CTXs を迅速に検出することが可能となり,正 確な診断・判定に寄与できるものと思われる。 地球温暖化による海水温上昇に伴って,温帯域におけ るCFPの発生増加が懸念される現在,南西諸島における 発生状況の把握と,これら情報の普及啓発が重要と思わ れる。

謝 辞

瀬戸内徳洲会病院の記録調査にご協力いただいた北原 淳詞元院長と職員の皆様,魚種を同定していただいた沖 縄県水産海洋研究センター 海老沢明彦博士,DNA塩基 配列解析において機器の使用と実験にご協力いただいた 沖縄県衛生環境研究所 中村正治博士,平良勝也氏に深 謝いたします。本研究は一部,文部科学省 都市エリア 産学官連携促進事業 沖縄沿岸海域エリア「マリンバイ オ産業創出事業」の資金援助をうけて実施した。

文 献

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Schrank K, Dickey R, Bottein M-Y, Backer L, Ayyar R, Weisman R, Watkins S, Granade R, Reich A. Ciguatera Fish Poisoning: Treatment, Prevention and Management. Marine Drugs 2008; 6: 456–479.

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参照

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