動 作 法 に お け る 訓 練 初 心 者 の 技 法 習 得 過 程 の 分 析 ー ス ー パ ー ビ ジ ョ ン の 理 解 と 訓 練 へ の 適 用 に 視 点 を お い て ‑
障害児教育専攻 美 馬 住 代 子
1 .問題と目的
本研究では,訓練初心者である筆者が,二つ のキャンプで各対象児に動作法の訓練を行い,
訓練者の毎回の訓練におけるスーパービジョン の理解と訓練への適用が,訓練者の技法習得に どのような関わりを持つのか,事例研究を通し て明らかにすることを目的とする。各事例では,
対象児の姿勢の歪みの変容
SV
によるスーパ ービ、ジョンの変容,訓練者の訓練技法の変容を 分析し,これら三つの関連性について検討する。I I .
研究方法 1.訓練者訓練者は筆者であり,平成 13年4月より,
毎月 3か所で行われる各月例訓練会に参加して いる。
2.対象児
事例A:男児。 15歳。小頭症てんかん。動作 法の訓練は8歳3か月時より始め,キャンプに は6回参加している。あぐら座位保持は可能で あるが,膝立ち位立位保持は困難である。
事例B:女児。 6歳。脳性まひ。動作法の訓練 は3歳時より始め,キャンフには3回参加して いる。あぐら座位保持は可能であるが,膝立ち 位,立位保持は困難である。
3. S V
事例
A:
男性( 4 3
歳L SV
資格を有していな しミ。事例
B:SV
は2
名。SVI
は男性( 4 6
歳)。指 導 教 官 安 好 博 光
SVII
も男性( 5 4
歳)。両名ともSV
資格を有 している。4.訓練期間・場所・時間
平成 13年8月に事例AはT県,事例BはK 県で行われた5泊6日のキャンプにおいて実施
された。
5 .
分析課題事例A:膝立ち位での姿勢保持 事例B:膝立ち位での姿勢保持
6.分析の視点
事例A,事例Bとも分析の視点は以下の通り である。
1 )姿勢の歪みの変容
2 )
訓練でのスーパービジョンの形式別の 回数3)訓練でのスーパービジョンによる訓練 技法の変容
( 1 )身体部位別のスーパービジョン の回数
(2)スーパービジョン後の訓練者の修 正成否の変容
4)班別ミーテインクでのスーパービジョ ン後の訓練者の修正成否の変容
I I I .
結果と考察【事例A】
ステップ2では, 1‑‑7回目までは,上体の 左へのねじれと腰の反りが大きく,重心も左へ のっていたが,スーパービジョンを多く受け,
繰り返し修正を行うことで8回目以降では,こ れらの歪みは改善された。ステップ3では, 1
‑‑4回目よりも,本児に疲れが出て訓練者が修 正できなかったために, 5回目以降の方がこれ らの歪みが大きくなってしまった。腰の反りは 最後まで修正が不完全であった。本児の訓練で はスーパービジョンの形式は6個であった。そ の中でも「訓練中に手とことばでスーパービジ ョンを受け,訓練直後に助言を受けるJ形式が 多かった。これは,重心の左へのず、れや腕の補 助で上体をコントロールし,頭の後屈を修正す る高度な技法を習得するためであった。身体部 位別のスーパービ、ジョンは,躯幹,腰,尻が多 かった。ステッフ2,3でこれらの姿勢の歪み が大きかったためである。訓練,班別ミーティ
ングともに, 1‑‑7回目までは基本的なことに ついてのみ修正が可能であり,修正できた数も 少なかった。 8回目以降では姿勢の歪みを修正 できるようになり,修正できた数も増加した。
【事例 B】
ステップ4まで達成した回は9回であり,そ れ以外はステッフ3の姿勢の歪みを評定した。
1‑‑6回目までは,上体が前へ傾き,腰が屈あ るいは反り,重心が右へのっていたが,本児の 右腕に垂直方向の力をかけ,上体を直にするこ とで7回目以降では,これらの姿勢の歪みは改 善された。本児の訓練では
SVI
,S V I I
とも スーパービジョンの形式は6個であった。その 中でもSVI
からは「訓練直後に助言を受ける」形式が多かった。ステッフ 1,3で上体を直に して安定させるために多くの助言を受けた。 S
V I I
からは「司"練中に手とことばでスーパービ ジョンを受けるJ形式が多かった。左腕の補助 を離したステップ 4で,上体を直にするための 右腕の補助の仕方について多くの助言を受けた。身体部位別のスーパービジョンは, S V 1から は腰が多かった。ステップ3で本児の腰がふら ついていたため,腰を安定させるよう助言を受 けた。
SVII
からは腕尻が多かった。ステッ プ4で、尻が右後方へ引けないように助言を受け たが,最後まで修正が不完全であった。訓練,班別ミーティングともに 1‑‑7回目よりも8 回目以降で修正できた数が増加した。
N.全体考察
本研究では,訓練初心者の技法習得過程にお いて,スーパービジョンの理解と適用がどのよ うな関わりを持つか検討した。その結果,事例 A,事例 Bとも訓練者がスーパービジョンを理 解し,実際の訓練に活用することで技法習得が 可能となることが明らかになった。対象児の姿 勢の特徴や発達に違いは見られでも,事例A,
事例
B
とも対象児の姿勢の歪みの変容,SV
に よるスーパービジョンの変容,訓練者の訓練技 法の変容,これら三つが関連し合い,両事例で 三つの流れがほぼ同様の内容を示していた。対 象児の姿勢の歪みが大きく そのためスーパー ビジョンの回数が多いが訓練者があまり修正 できない時期を経て,対象児の姿勢の歪みが改 善され,スーパービジョンの回数が減少すると ともに訓練者は修正できるようになった。事例 A,事例 Bでは,対象児のことばの理解の有無 により,訓練者の対象児への関わり方に相違が 見られた。事例Aでは,対象児はことばの理解 がなかったが,対象児と訓練者は動作を媒介と したコミュニケーションをとることが可能にな り,訓練効果をあげることができた。先行研究 により,障害児のことばの有無によらず,訓練 効果が上がることが分かつているが,事例A,事例 Bの流れがほぼ同様の内容を示したことで,
これが証明される結果となった。