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多読用教材作成のためのリライトにおける複合動詞の扱い

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(1)

─教材開発研究─

多読用教材作成のためのリライトにおける複合動詞の扱い

─夏目漱石作『三四郎』の中級以上の学習者向けリライトを例に─

今井 美登里  ・  原田 照子

要 旨

 本研究は、夏目漱石の『三四郎』を中級以上の日本語学習者向けにリライトする際の複 合動詞の扱いを見たものである。影山(1997)による複合動詞の分類法を用い、中級以上 の学習者向けの2種類の語彙教材と旧日本語能力試験出題基準の1、2級語彙が共有する 複合動詞を、語彙的複合動詞と統語的複合動詞に分けて分析したところ、語彙的複合動詞 が統語的複合動詞の約 20 倍と多かった。この結果から、語彙的複合動詞が中級以上の日 本語学習者にとって重要な学習語彙の一つであると考え、リライトでは意識的に複合動詞 を使用した。リライト版の複合動詞を分析したところ、語彙的複合動詞が多く、統語的複 合動詞の約3倍であった。オリジナルの複合動詞との関係を見たところ、1)そのまま使 用したもの(65%)、2)他の複合動詞に変更したもの(11%)、3)新たに使用したもの(24%)

の3種類に分けられた。また、リライト版に使用された複合動詞はそのほとんどが抽象度 の低いものであった。

【キーワード】 多読用教材、リライト、複合動詞、語彙的複合動詞、統語的複合動詞

1.はじめに

 日本語学習者が、学習の段階に応じて彼らにふさわしいレベルの読み物を多読すること によって語彙を習得することが明らかになっている(三上・原田 2011)。しかし、興味を 持って読める読み物は多くない。ことに、中級以上の学習者向けの多読用教材は少ない。

中級以上の学習者が文学作品を楽しく読め、かつ、豊かな語彙表現を付随的に身に付けら れるようにリライトする意義は大きい。中級以上の学習者向けのリライトで考慮しなけれ ばならないことは、学習者が無理なく語彙を増やせるようにすることであろう。文学作品 の中に現れる語彙や表現の中でも、複合動詞はそのような配慮が必要なものの一つである と言えよう。なぜなら複合動詞は、その構成要素である2つの動詞の意味を知っていても、

複合動詞としての意味が推測しにくいものが多くあるからである。

 筆者らが属する日本語グレイディド・リーダープロジェクトグループ(JGRPG)では、

レベル A から H までの8レベルからなる多読用教材を作成するため、見出し語 4500 語の JGR 語彙表を作成し(原田他 2003)、最も易しいレベルであるレベル A から順に読み物を 作成してきた。現在レベル F まで作成が進んでおり、中級以上の学習者向けとなるレベル G と H の読み物を作成する段階である。

 本研究では、中級以上の学習者を対象とする多読用読み物の開発において、原作からリ

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ライトする際の複合動詞の扱いに焦点を当て、分析を行う。夏目漱石の『三四郎』をリラ イトの原作とし、原作の中の複合動詞がリライト版でどのように扱われたか、また、それ にはどのような理由があり、学習者のためにどのような配慮がなされたかを考察する。方 法として、影山(1993)、姫野(1999)、松田(2004)による複合動詞の定義と分類を参考に 以下を試み、検証する。1)中級以上の学習者に理解可能なタイプの複合動詞と、そうで ないと思われるものを特定する。2)理解が難しいと判断したものについては、リライト をするレベルの語彙表から語を選び、書き換える。3)原作では複合動詞でないものを複 合動詞で書き換える可能性を探る。

 このようにリライトにおいて語彙の扱いに注目し、リライト版の複合動詞の様相を検証 することで、より学習に効果的な多読用教材を開発できるものと考える。

2.先行研究

 本稿で扱う複合動詞とは、「投げ入れる」 「動き出す」のように「投げる」 「動く」とい う動詞の連用形「投げ」「動き」に「入れる」「出す」というもう一つの動詞が結び付き、

一つの動詞になったものとする。森田(1978)は、日本人が日常的に使用している動詞の 40%は複合動詞であるという。以下では、学習者にとっての分かりやすさに焦点を当てて 複合動詞を概観する。ここで言う分かりやすさとは、複合動詞の意味がその構成要素の意 味とかけ離れていないということである。リライトする際に原作にある複合動詞をどう扱 うかのポイントは、ここにあると考える。

2.1 複合動詞の分類

 複合動詞は、語形成の視点から様々な分類が行われてきた。寺村(1984)は、複合動詞 で前に位置する動詞、すなわち前項動詞(以下、V1 とする)と後に位置する動詞、すなわ ち後項動詞(以下、V2 とする)の独立性という観点から 4 つに分類した。森田(1978)は、

V1・V2 の意味構成の度合いを並列関係から抽象化したものへと段階的に捉え、5 つに分 類している。影山(1993)は、生成文法の立場から、語彙的複合動詞と統語的複合動詞に 分類し、統語的複合動詞を形成する 27 種の V2 を挙げている。姫野(1999)は、影山の分類 と V1・V2 の意味構成を考慮して分類を試みている。

 以上の先行研究では、学習者にとっての難しさについても言及している。すなわち、学 習者は、V1・V2 のそれぞれの基本的な意味を知っていたとしても、複合動詞になった場 合に元の動詞である V1・V2 からはその意味や用法が類推できない場合があるということ である。以下では、意味の分かりやすさ、分かりにくさの目安になるものは何かという視 点から、影山(1993)と姫野(1999)を取り上げる。続けて、認知意味論を基に松田(2004)

が語彙習得支援として提案する、V2 が持つコア概念を取り入れた複合動詞の意味提示法 を見る。松田(2004)が V2「こむ」の意味分類を試みていることから、姫野における「こむ」

の分類との比較も行う。

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2.2 影山による分類 

 影山(1993)は複合動詞を語彙的複合動詞と統語的複合動詞の2種類に分類している。

語彙的複合動詞は、語としての特徴である「意味の慣習化と語彙的な結合制限」を備えて いる(影山 1993:79)。V1・V2 においては、「動作の様態・手段、付帯状況、並行動作、

アスペクトなど種々雑多な意味関係」があり、「多くの場合、様々な程度に意味の不透明 化や語彙化が進んでいる」(同:78)。このため、「複合動詞全体の形を辞書に登録してお くことが必要である」とする(同:78-79)。一方、統語的複合動詞は、統語的な補文構造 を持ち「意味の透明性と生産性において、典型的な語よりむしろ普通の文や句に近い性質 を備えていると言える」(同:79)。統語的複合動詞を形成する V2 として「はじめる」「つ づける」 「すぎる」など 27 種を挙げている(同:96)。

 また影山(1993)は、語彙的複合動詞の V1・V2 の機能的な関係を「並列関係」「右側主 要部の関係」 「補文関係」の 3 種類に分類している。「並列関係」にある複合動詞とは、「こ いねがう」 「泣き叫ぶ」などで、数が少ない。「右側主要部の関係」にある複合動詞とは、「掻 き集める」 「差し控える」 「取り決める」などで、数が多い。「補文関係」にある複合動詞 については「歌い上げる」 「震え上がる」の V2 である「あげる」 「あがる」、「響き渡る」 「晴 れ渡る」の V2 である「わたる」など 18 種の V2 を挙げている(同:99)。語彙的複合動詞 の意味の不透明性は、このような V1・V2 の関係の複雑さからくるものである。   

表 1 影山による複合動詞の分類と意味の分かりやすさの関係 分かりやすさ 分かりやすい       分かりにくい

分類 統語的複合動詞 語彙的複合動詞

V1・V2 の関係 補文構造 補文関係・並列関係 右側主要部の関係

話し始める、歩き続ける、

書き終える、やり過ぎる、

聞き損なう、やり直す

歌い上げる、

響き渡る

こいねがう、

泣 き 叫 ぶ、

思い煩う

掻き集める、差し控 え る、 取 り 決 め る、

揉み消す、飲み歩く

 影山による分類を、学習者にとっての意味の分かりやすさという観点から見ると表1の ようになる。統語的複合動詞は意味が分かりやすく、語彙的複合動詞は分かりにくい。語 彙的複合動詞の中でも、補文関係と並列関係にあるものは比較的分かりやすく、右側主要 部の関係にあるものは多様で、分かりにくいものが多い。 

2.3 姫野による分類

 姫野(1999)は、森田(1978)が論じた複合動詞の意味構成の度合いを参考に、影山(1993)

が分類した語彙的複合動詞と統語的複合動詞に分類したうえで、V1・V2 の関係から語彙 的複合動詞をさらに4分類している。すなわち、複合動詞を別の言い方で言い換える際に、

1)V1・V2 を使って、言い換えられる、2)V2 を他の言い方にしなければならない、3)V1 を 他の言い方にしなければならない、4)V1・V2 どちらも他の言い方にしなければならない、

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である。統語的複合動詞は、1)V1・V2 を使って言い換えられるものと 2)V2 を他の言い方 にしなければならないものに2分類している。

 また、姫野(1999)によると、複合動詞の構成要素は 2,166 語にのぼる。そして、V2 と して使用頻度のもっとも高い 30 語の中に影山(1993)が挙げた 27 種の統語的複合動詞のう ち「出す」 「得る」 「始める」など 16 種が含まれると報告している(姫野 1999:25)。

2.4 コア概念による複合動詞の習得 

 松田(2004)は、姫野が取り上げた「こむ」の用法を認知意味論の視点から発展させて いる。学習者は対象語の用例に規則性を見出し、習得に繋げているという第二言語習得理 論及び認知意味論の知見に着目し、複合動詞習得支援の方向性を示している。複数の用法 を持つ複合動詞の V2「こむ」(2.5 参照)を例に、教育的支援を通して多様な用法を持つ V2 のコア概念を学習させることで、その語を習得させられるとしている。つまり、コア概念 の理解により、文脈内の複合動詞の意味がより推測可能になるとし、コア概念による支援 は、読解中の付随的語彙学習による複合動詞の習得をさらに促進させると考えている。

2.5 影山、姫野、松田による「こむ」の分類

 影山(1993)は、語彙的複合動詞である「V1 +こむ」を V1 の動詞のタイプにより3つ に分類している。すなわち、「他動詞+こむ」(「投げ込む」「教え込む」)、「非能格自動詞+

こむ」(「飛び込む」「乗り込む」)、「非対格自動詞+こむ」(「流れ込む」「落ち込む」)である。

非能格自動詞とは、「意図的に動作を行う」ものが主語となる自動詞であり、非対格自動 詞とは、「意図を持たず受動的に事象に係わる対象を主語に取る」自動詞である(影山 1993:43)。

 姫野(1999)は、「こむ」をその意味から「内部移動」(「差し込む」「座り込む」)と「程度 進行」(「考え込む」「泳ぎ込む」)に分類し、さらに、「内部移動」 を7つのグループに分け、

「程度進行」を3つのグループに分けている。

 松田(2004)は「こむ」を4つの意味タイプに分類している。すなわち、A:内部への 移動(「飛び込む」「投げ込む」)、B:内部に留まる(「乗り込む」「差し込む」)、C:抽象的な 内部への移動(「考え込む」「座り込む」)、D:目的のため反復的にまたは長時間にわたって その行為を熱心に行う(「泳ぎ込む」「煮込む」)、である。A はコア概念にもっとも近い典 型的な「こむ」の用法で、B、C、D に行くにしたがってコア概念から遠くなる。

 このように、研究者により、複合動詞の分類に違いがあることが分かる。本稿で試みる、

リライトにおける学習者にとって分かりやすい複合動詞の使用を考える上で示唆に富むも のは、影山(1993)の語彙的複合動詞、統語的複合動詞の 2 分法、語彙的複合動詞の機能的 分類、及び松田のコア概念であると考える。

3.学習者のための複合動詞  

 ここでは、日本語教育では学習者のためにどのような複合動詞がどのレベルで提示され

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ているかを日本語能力試験の語彙に含まれる複合動詞で見た後、JGR 語彙表の複合動詞を 見る。

3.1 日本語能力試験の語彙に見られる複合動詞

 日本語能力試験の試験問題の出題範囲に含まれる複合動詞として、1)旧『日本語能力 試験出題基準』の 1、2 級語彙リスト(以下、能試基準)、2)学習者が使用する市販の新日 本語能力試験 N1、N2 受験用単語集(以下、単語集)、3)新日本語能力試験 N1、N2 受験用 語彙練習問題集(以下、問題集)に含まれる複合動詞について見る。2)については、旺文 社(2011)『日本語能力試験ターゲット 2000    N1 単語』、『日本語能力試験ターゲット 2000   N2 単語』、3)については、スリーエーネットワーク刊『新完全マスター語彙 日本語能力 試験 N1』、『新完全マスター語彙    日本語能力試験 N2』を用いた。単語集と問題集には用 例と説明が出ている。

 『日本語能力試験出題基準』の語彙リストは 2009 年まで施行された旧日本語能力試験の 問題に使用される語彙の約 80%をカバーする。多くの日本語学習者向けの日本語教科書 の語彙はこの出題基準に収められた語彙を参照して作られていると言える。したがって、

学習者はこれらのリストに含まれる複合動詞に触れる機会があるものと考える。一方、

2010 年以降実施されている日本語能力試験 N1〜N5 の出題基準、過去の問題等は現時点で は公表されていないため、受験対策としての多くの単語集、問題集は『日本能力試験出題 基準』並びに過去の試験問題を参考に編纂者の視点を加えながら編集されていると考える。

 能試基準に現れる複合動詞は、1 級 100 語、2 級 88 語、あわせて 188 語である。単語集で は、N1 で 111 語、N2 では 51 語、あわせて 162 語が取り上げられている。問題集を見ると、

N1 で 126 語、N2 で 116 語使用されており、242 語となる。問題集の例文には、N1 で 93 語、

N2 で 101 語の複合動詞が取り上げられている。

 これら3種類のデータの複合動詞の延べ語数は 592 であり、異なり語数は 370 である。

データ間の重なりを見ると、表2が示すとおり、3種類のデータすべてにおいて重なりの ある複合動詞は 58 語、2種類において重なりのあるものは、能試基準と単語集では 35 語、

能試基準と問題集では 51 語、単語集と問題集で 20 語であった。能試基準との重なりは 144 語となる。

表 2 能試基準の複合動詞と単語集、問題集の複合動詞の重なり

  語彙データ 重なり語数 重なりの合計

1 能試基準・単語集・問題集 58

144

2 能試基準・単語集 35

3 能試基準・問題集 51

4 単語集・問題集・ 20

 図1はこれをイメージしたものである。能試基準の約 77%が重なっていることになる。

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中級以上の日本語学習者は 3 種類のデータの中でもこの重なる部分の複合動詞に用例とと もに触れる機会が多いと言えよう(稿末資料1参照)。

図 1 能試基準の複合動詞に対する単語集と問題集の複合動詞の重なり

 また、この3種類のデータについて、個々の複合動詞が統語的か語彙的かを影山(1993)

の判定法を用いて分類したところ、上述の能試基準との重なり語 144 語のうち 137 語が語 彙的複合動詞で、7語が統語的複合動詞であった。そのうち影山の 27 種に含まれるもの は「〜あう」、「〜だす」、「〜とおす」、「〜なおす」の4種類であった。生産性の高い統語 的複合動詞は、これら3種類の教材の中では個別には扱われていないため、語彙的複合動 詞の約 20 分の1となっているのである。

 複合動詞がこれらの V2 を構成要素としていても、そのすべてが統語的複合動詞ではな い。「〜だす」を例に見ると、「歩き出す」は「歩き始める」という意味の統語的複合動詞 であるが、「考え出す」は文脈により「考え始める」という意味にも「考案する」という 意味にもなる。後者は語彙的複合動詞である。能試基準に含まれる複合動詞は文脈から独 立しているため、本節で扱うこのような複合動詞については、統語的複合動詞の要素を持 っていれば、統語的複合動詞として分類した。

3.2 JGR 語彙表に含まれる複合動詞

 JGR 語彙表は、JGRPG が「日本語グレイディド・リーダーJGR さくら」(以下、「JGR さ くら」)として開発している、段階付けされた多読用読み物を作成するために開発した語 彙表である。JGR 語彙表のデータベースは、電子文庫 32 冊の異なり語 36,000 語と『日本 語能力試験出題基準』の約 8,000 語からなる(原田他 2003)。『日本語能力試験出題基準』

の約 8,000 語は電子文庫 32 冊の異なり語 36,000 語の出現頻度に照らして並び替えられ、

JGR 語彙のレベル A〜H の8レベル1)に段階付けしてある。したがって、「浮く」、「暮ら す」 のような能力試験での 2 級語彙が小説での使用頻度の高さにより、JGR 語彙表ではレ ベル B の語となっている場合もある。

 JGR 語彙表の見出し語は 4,500 語であるが、各見出し語には下位語彙2)が含まれる

(Reynolds  他 2003)。したがって、レベル A〜H までの8段階の「JGR さくら」の作成に 使用する異なり語は約 7,000 語である。動詞について言えば、見出し語数約 870 語であるが、

重なり

能試基準 単語集、問題集

 1)   8レベルAからHの累積語数は、 A:400、B:550、C:750、D:1000、E:1400、F:2100、G:2900、H:

4500 である。

 2)   Nation (2001)の word family の概念を用いている。

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下位語彙を加えると約 2,500 語である。

 JGR 語彙表中の複合動詞は 413 語で、その大半が下位語彙に含まれる。レベル A〜H に 採録された複合動詞の内訳は、A: 3 語、B: 5 語、C: 5 語、D: 146 語、E: 57 語、F: 75 語、G: 

52 語、H: 70 語である。

 次に、3.1 で見た能試基準、単語集、問題集の複合動詞に JGR 語彙の複合動詞を加えて、

複合動詞の重なりを見ると、表3のようになる。

 JGR 語彙表に含まれる複合動詞 413 語中の 162 語が能試基準、単語集、問題集の複合動 詞と共通していることが分かる。これは、JGR 語彙表中の複合動詞の 39%である。図2 はそれをイメージしたものである。この 162 語の中に、すべてのデータに見られる語、37 語が含まれる(稿末資料1参照)。図の重なりの中に点で示されたものである。

表 3 JGR 語彙表の複合動詞と能試基準・単語集・問題集の複合動詞との重なり

  語彙データ 重なり語数

1 JGR・[能試基準・単語集・問題集の異なり(370 語)] 162 2 JGR・[能試基準と単語集と問題集との重なり(58 語)] 37  

図 2 JGR 語彙表の中の複合動詞と能試基準、単語集、問題集の複合動詞の重なり

4.段階付けされた多読用読み物「JGR さくら」のためのリライト

 日本語学習者を読者とする「JGR さくら」の作成法には大きく分けて、書き下ろし、翻 案、書き換えの3種類がある。書き下ろしは作者の創作であり、翻案は原作の筋や登場人 物の性格と役割を残しつつ、時代または舞台を異なる時代、異なる場所に置き換えて物語 るものである(山形他 2008)。書き換えは原作の筋、登場人物、舞台・状況を残した状態 でやさしい語彙表現に書き換えたものである。原作の有無、原作の加工法に異なる点はあ るが、学習者の日本語の読みのレベルに合うように作成する点は共通している。

 多読用教材は、学習者の日本語能力のレベルに合うように語彙、文法、文型をコントロ ールしながら作成する (Reynolds 他 2003、粟野 2012) のが一般的である。「JGR さくら」

の場合、初級から中級程度までの日本語学習者を対象読者に想定し、上述の約 4500 語の JGR 語彙とその下位語彙を使用して、8レベルの多読教材を作成している。

 書き換えによる多読用教材の作成は、次の工程で行う。原作を選び、書き換えレベルを 決める。原作をおよその目安で目標レベルの語彙に書き直す。語彙チェッカ̶にかけ目標 レベル内の語彙使用率が付随的語彙学習が可能とされる 95%(Nation2001)に到達してい

重なり

能試基準・

単語集・問題集 JGR 語彙

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るかを判定する(中野 2007)。この 95%というレベル内語彙使用率には、目標レベルまで の語彙の他、助詞、助動詞、固有名詞、およびその物語のキーワードが含まれる(原田他 2009)。95%に満たない時は、語彙チェッカーによる判定で目標レベル以上とされた語に ついて再度書き直しを試みる。

 従来、複合動詞の書き換えでは、その V1 と V2 がレベル内であれば、語彙表に複合動詞 が採録されていない場合も作成者の経験と内省によりレベル内とし、当該レベルの語彙と して扱ってきた。たとえば、「泣き叫ぶ」はレベル A と F からなるが、それぞれの意味が 分かれば、複合動詞としての意味も推測できると判断し、F レベルとして使用していた。

しかし、「見立てる」はレベル A と D からなるが、もとの動詞の意味からは推測不可能と 考え、レベル H の読み物にも使えないと判断してきた。

5.『三四郎』のリライトと複合動詞の分析

 リライトの原作として『三四郎』を選んだ理由は、著作権が切れていることと、学習者 が興味と共感を持てる要素として、登場人物が学生であること、恋の要素が含まれている こと、明治の近代化で急速に変化する大都会で悩み戸惑う若者の姿が描かれていることで ある。以下では、夏目漱石の『三四郎』とそれをリライトしたものに現れる複合動詞を比 較検討し、分析を行う。原作からのリライトは筆者らが章で分担して行った。リライトに 際して、意識して複合動詞を使用することを申し合わせた。

5.1 原作の字数とリライトの字数

 リライトの原作には、「青空文庫」に収録されている角川文庫クラシックス版の『三四郎』

を用いた。新潮文庫版の『三四郎』も参照した。章数は 13 章で、文字数は 168,874 字である。

リライト版の目標レベルはレベル G であるため、見出し語 2,900 語で、字数は 30,000 字以 上にする必要がある。これは、原作の 18%になる。今回は原作の 55.6%に当たる第1章か ら第6章までのリライトを行った。これは、字数にして 93,872 字で、リライト第1稿では 40,901 字となった。縮小率は 44%である。

5.2 リライトの作業手順とデータベースの作成 

 リライトは、以下のような手順で行った。まず、準備の段階として、青空文庫から『三四 郎』をダウンロードし、ルビを削除してリライトの「オリジナル」とした。これを章ごと にワード文書にした。次に、章ごとに JGR 語彙チェッカーを用い、助詞、助動詞、固有 名詞以外のすべての内容語に対してレベル付けを行った。レベル A〜G までに含まれない 語彙、すなわちレベル H とレベル外の語彙のリストを得た。続いて、その一つひとつの語 をオリジナルの中で探し、マークした。また、オリジナルの中のすべての複合動詞をマー クした。その後、オリジナルをリライトする作業に移った。リライトでは、原作の風合い を損なわないようにという点と、分かりやすさという点から、エピソードの取捨選択、語 彙や表現の選択に注意を払った。学習者が興味を持って読み続けることができることが重

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要だからである。第6章までのリライトが終わった段階で、リライト版の中の複合動詞に マークを入れた。

 次に、複合動詞の分析のために、データベースを作成した。オリジナルとリライト版か ら、複合動詞を取り出し、以下の9項目を立てた。1)もとの形、2)終止形、3)JGR 語彙 レベル、4)名詞化されたものかどうか、5)語彙的複合動詞か統語的複合動詞か、6)V1、

7)V1 の JGR 語彙レベル、8)V2、9)V2 の JGR 語彙レベルである。5番目の項目として、統 語的複合動詞と語彙的複合動詞の項目を設けたのは、統語的複合動詞か語彙的複合動詞か ということが表1で示したように、分かりやすさの基準の一つとなることと、3種類の語 彙教材で語彙的複合動詞が統語的複合動詞の約 20 倍と多かったことから、実際の読み物 の中でどのくらいの割合になっているか知ることができると考えたためである。さらに 10 番目の項目を立て、リライトにおける複合動詞の扱いを見るために、オリジナルの中 の複合動詞とリライト版の中の複合動詞の関係を 3 種類に分類した。すなわち、1)リライ ト版でも変更されずに使われたもの、2)リライト版では別の複合動詞になったもの、3)

リライト版で新たに用いられたものである。

5.3 オリジナルとリライト版における複合動詞の分析

 オリジナルの複合動詞は、延べ語数 522、異なり語数 308 であった。一方、リライト版 では延べ語数 199、異なり語数 115 であった。以下では、オリジナルとリライト版の複合 動詞を影山(1994)、松田(2004)、姫野(1993)により分析し、考察を試みる。

5.3.1 オリジナルの複合動詞と JGR レベル G までに含まれない複合動詞の扱い

 オリジナルに現れる複合動詞を見る。522 語のうち、レベル A〜G のもの、すなわちレ ベル的に書き換えの必要のないものは、表4に示すように 234 語で、全体の 45%であった。

レベル H とレベル外のものは 288 語で、55%を占めている。これらは書き換えが必要な複 合動詞である。また、522 語のうち語彙的複合動詞は 378 語、統語的複合動詞は 144 語で あった。オリジナルの複合動詞に占める統語的複合動詞の割合は 28%で、3種類の語彙 教材に見られた割合と比べて高い(3.1 参照)。これは、語彙教材では統語的複合動詞は「〜

つづく」「〜すぎる」のようにまとめられており、これらの V2 を持つ個々の統語的複合動 詞はリストの中に極めて少ないからであろう3)

表 4 オリジナルにおける複合動詞のレベルと種類

A〜G H・外 計

語彙的 204 174 378

統語的 30 114 144

計 234 288 522

 3)   3級のリストには「〜おわる」「〜はじめる」「〜だす」「〜つづける」がある。

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 次に、JGR レベル G までに含まれない複合動詞、すなわち、書き換えが必要であると考 えられる 288 語の扱いについて述べる。語彙的複合動詞 174 語の中には、V1 と V2 がレベ ル内であり、V1 と V2 の意味から複合動詞の意味の類推が容易である「飛び上がる」 「泣 き叫ぶ」 「持ち出す」 「書き換える」のようなものがあり、これらはそのまま使えると考え た。一方、V1 と V2 がレベル内であっても、「叩き込む」 「書き落とす」 「見立てる」などは、

意味の不透明さから書き換えが必要であると言える。また、統語的複合動詞 114 語である が、V1 と V2 がともにレベル A〜G の語であれば意味の透明性から考えて、複合動詞とし て語彙表に採録されていなくてもリライトで使えると考えた。このようなものには、「歩 き出す」 「入れ過ぎる」 「聞き直す」などがあった。

5.3.2 リライト版の複合動詞

 次に、リライト版の複合動詞について見ていく。リライト版で使われた 199 語は、表5 が示すように、レベル A〜G のものが 116 語、レベル H とレベル外のものが 83 語であった。

また、語彙的複合動詞は 147 語で、統語的複合動詞 52 語の約3倍であった。

表 5 リライト版における複合動詞のレベルと種類

A〜G H・外 計

語彙的 106 41 147

統語的 10 42 52

計 116 83 199

 表5から、レベル H とレベル外に含まれる語彙がリライト版で使われていることが分か る。レベル H とレベル外の語彙的複合動詞 41 語には、「引き寄せる」 「切り倒す」 「通り越 す」「感じ取る」「言い当てる」「過ぎ去る」などがあった。また、レベル H とレベル外の統 語的複合動詞 42 語には、「拭き始める」「しゃべり出す」「書き終える」「りかける」などが あった。これらの複合動詞が使われたのは、5.3.1 で示した理由による。また、リライトに 際しての複合動詞の扱いについては、5.3.4 で述べる。

5.3.3 オリジナルとリライト版の出現回数の多い複合動詞

 オリジナルの中の複合動詞 522 語(異なり語数 308)、リライト版の中の複合動詞 119 語

(異なり語数 115)で、出現回数が多かったものを表6、表7に示す。オリジナルの 10 位ま での 13 の複合動詞とリライト版の8位までの 12 の複合動詞は、8語(「落ち着く」「思い出 す」「笑い出す」「振り返る」「歩き出す」「言い出す」「繰り返す」「見渡す」)が共通している。

リライト版の 12 の複合動詞のうち語彙的複合動詞は9語ですべてが能試基準の 1、2、3 級 に含まれている。統語的複合動詞の3語の V2 の「だす」は「〜だす」として2級の語彙 表にある。

(11)

表 6 オリジナルの中の           表 7 リライト版の中の複合動詞上位 10 語の    複合動詞上位 10 語の出現回数         出現回数、影山の分類、能試基準の級

順位 オリジナルの

中の複合動詞 出現 回数

1 落ち着く 18

2 言い出す 16

3 思い出す 14

4 笑い出す 13

5 繰り返す 10

6 振り返る 7

6 歩き出す 7

6 出来上がる 7

6 考え出す 7

10 見渡す 6

10 引っ張る 6

10 出会う 6

10 行き過ぎる 6

計 123

5.3.4 リライト版の複合動詞とオリジナルの複合動詞の照合

 次に、リライト版の中の複合動詞とオリジナルの中の複合動詞との関係を3種類に分け て見ていく。リライト版の複合動詞 199 語のうち、オリジナルにあるものをそのまま使用 したものは 129 語で全体の 65%であった。オリジナルの複合動詞をリライト版では異なる 複合動詞に変えたものは 22 語で全体の 11%であった。また、リライト版で新たに用いら れたものは 48 語で全体の 24%であった。リライト版の複合動詞のうち約3分の1は、オ リジナルのその箇所で使われていない複合動詞であるということになる。以下、表8にそ れぞれの例を示す。

表 8 リライト版の複合動詞とオリジナルの複合動詞の照合

照 合 数・割合 例

1 オリジナルを そのまま使用

129 語

(65%)

受け取る、思い出す、繰り返す、過ぎ去る、出会う、睨みつける、

覗き込む、話しかける、振り返る、見詰める

2 オリジナルを 変更

22 語

(11%)

ふわつき出す→落ち着く、(手紙を)巻き返す→読み終える、(腰を)

上げかける→立ち上がる、食い散らす→食べ終わる、釣り込む→

引き込む 3 リライト版で

新たに使用

48 語

(24%)

生み出す、座り込む、出歩く、取り戻す、乗り間違える、言い当 てる、追いかける、追い付く、通り過ぎる、運び入れる

 リライトで注意した点は、複合動詞を使うことと、ストーリーや文を分かりやすくする ことである。そのため、学習者にとって意味が分かりやすく、かつ、ストーリーの理解を 助ける複合動詞の選択が必要である。表8の中の下線を引いた複合動詞は、その意図のも とに選択された複合動詞である。まず、オリジナルの複合動詞を変更したものでは、「三四

順位 リライト版の

中の複合動詞 出現

回数 語彙的・

統語的 能試基準 1 落ち着く (F)* 9 語彙的 2 級 2 思い出す (A) 8 語彙的 3 級 3 笑い出す (A+A) 7 統語的

4 振り返る (F) 6 語業的 1 級 5 歩き出す (A+A) 5 統語的

5 立ち上がる(A+A) 5 語彙的 2 級 5 言い出す (D) 5 統語的

8 繰り返す (D) 4 語彙的 2 級 8 見渡す    (G) 4 語彙的 1 級 8 引っ越す (日) 4 語彙的 3 級 8 立ち止まる(B) 4 語彙的 2 級 8 見合わせる(G) 4 語彙的 1 級

65

*( )内は JGRレベル

(12)

郎の魂はふわつき出した」(第4章)という箇所は、「ふわつく」がレベル外のため使えず、

レベル F の「落ち着く」を否定形にして「三四郎は落ち着かなくなった」とした。また、

「三四郎は、手紙を巻き返して、封に入れて」(第4章)は、「三四郎は、手紙を読み終えて」

と書き換えた。

 次に、新たに使った複合動詞には、「大いに元気を回復して」(第4章)の「回復する」を

「三四郎は元気を取り戻した」としたものがある。名詞を変えた例では、「社会の産物たる 文芸も」(第6章)を「社会が生み出した文芸も」としたものがある。また、「三四郎はよく 出る」という文と、それに続く具体的な描写を、「三四郎はよく出歩くようになった」とし た。同じように、「与次郎はやはり壁を向いて胡坐をかいている」(第4章)という文と、そ の場面の前後を含めて、「与次郎は本棚の前に座り込んで」とした。一つの語や文よりさら に大きいまとまりである、三四郎の電車に乗る際の失敗の描写(第3章)を「乗り間違える」

という複合動詞を使い「まだ時々乗り間違えて東京の中を行ったり来たりすることがある」

とした。以上は、オリジナルとリライト版を照合して明らかになった複合動詞の扱いの一 例である。

5.4 リライトで用いた V2 が「こむ」の複合動詞

 2.5 で見た「こむ」について、リライト版での「こむ」の使用を見る。リライト版の複 合動詞 199 語のうち、V2 が「こむ」の複合動詞は 7 語で、そのうち「飛び込む」が2回使 われている。異なり語は、表9に示す「飛び込む、投げ込む、差し込む、覗き込む、引き 込む、座り込む」の6語である。これら6語を姫野(1999)と松田(2004)により分類する と以下のようになる。この中で学習者にとって比較的難しいものは、V2 の「こむ」の有 無による意味の違いが分かりにくい「座り込む」である。「座り込む」については、姫野(1999)

は文脈から捉えられる意味により分類し、「内部移動─閉じた空間」としているが、松田

(2004)はコア概念を用いて「C タイプ(抽象的な内部への移動)」に分類している。

 「こむ」について松田が分類した 4 タイプのうち、リライト版では表9が示すように3 タイプの「こむ」が使われた。典型的な「こむ」の用法から最も遠い D タイプの「こむ」(2.5 参照)については、リライト版では使われていない。

表 9 リライト版の中の「V1 +こむ」の種類

V1+ こむ 松田(2004) 姫野(1999)

1 飛び込む A タイプ(内部への移動) 内部移動─閉じた空間 2 投げ込む A タイプ(内部への移動) 内部移動─閉じた空間 3 引き込む A タイプ(内部への移動) 内部移動─閉じた空間 4 差し込む B タイプ(内部に留まる) 内部移動─固体 5 覗き込む B タイプ(内部に留まる) 内部移動─その他 6 座り込む C タイプ(抽象的な内部への移動) 内部移動─閉じた空間

(13)

 オリジナルの中の「こむ」の複合動詞は 25 語(異なり語 19 語)である。そのうち、5語 はリライト版でも使われ、14 語は使われなかった。使われなかった理由は、ストーリー のその部分は書き換えの対象としなかったことや、「ふさぎ込む」 「せき込む」のように V1「ふさぐ」「せく」がレベル外であることなどである。オリジナルとリライト版の「V1

+こむ」の複合動詞とその数を稿末資料2に示す。

6.結果

 以上のことから、以下のことが明らかになった。

1) 語彙的複合動詞は、様々な程度に意味の不透明化や語彙化が進み、構成要素である V1 と V2 の意味からその意味の類推が難しいものがある。それに比べて統語的複合動詞は 意味の理解がより容易である。

2) 中級以上の学習者のための教材に出てくる複合動詞を分析した結果、語彙的複合動詞 が多く取り上げられていることが分かった。これは、JGR 語彙表にも共通して言える ことであった。すなわち、統語的複合動詞より語彙的複合動詞の学習が重視されている。

3) 今回のリライトで作成した多読用の読み物に使用された複合動詞では、語彙的複合動 詞が多く使われ、統語的複合動詞の約3倍であった。

4) リライト版の複合動詞をオリジナルの複合動詞と照合したところ、リライト版の複合 動詞の約3分の2は、オリジナルの複合動詞をそのまま使ったものであった。約3分 の1は、リライト版で新たに用いたもので、オリジナルにある複合動詞を別の複合動 詞に変えたものや、オリジナルのなかの語彙、人物・事物・出来事の描写や説明を、

複合動詞を用いて表現したものであった。このことは、原作の風合いを残すことに努 めたこと、多読により複合動詞の付随的学習がおこりやすくなるように意識的に使お うとしたこと、ストーリーの理解を促して学習者が読み進められるようにしたことに よる。

5) リライト版に使用した語彙的複合動詞は、その V1 と V2 のほとんどがレベル G の範囲 内のものであり、かつ抽象度の低いものであった。学習者が無理なく読み物を楽しめ るという多読の目標を達成できるリライトができていると言えよう。

6) 複合動詞の V2「こむ」を取り上げ、オリジナルとリライト版における「V1 +こむ」に ついて見た。リライト版では松田(2004)の4タイプのうち比較的分かりやすい3タイ プが使われていた。

 分析をとおして、これらのことが明らかになり、従来の手法である作成者の経験と内省 によるコントロールに僅かながら客観性が導入できるようになったのではないかと考え る。

7.おわりに

 本稿では、夏目漱石の『三四郎』のリライトを通して、中級学習者に触れさせたい複合 動詞の扱いを見た。結果は6章で述べたとおりである。今回は『三四郎』全 13 章のリラ

(14)

イト版における複合動詞を分析することはできなかった。しかし、全体の 55.6%のリライ トではあったが、オリジナルの複合動詞を意識し、それをどのようにリライトに取り入れ るかを1章に掲げた方法で試みることができ、具体的な数量を知ることもできた。しかし、

今後目標とする字数にまで縮小した時に、その中の複合動詞が数量的に、また質的に中級 学習者が複合動詞に慣れ親しむための役目を果たすものになるか。オリジナルの中のエピ ソードの取捨選択の基準をどうするか。残された課題は多い。母語話者が読むようなもの をすらすらと読めるようになることへの最適な橋渡しとなる、周到に設計され、検証され た多読用読み物を開発することは、「JGR さくら」の開発の理念である。学習者にとって の読みの最終目標の達成を支援する教材提供のためにさらに努力を重ねていきたい。

付記

 本論文の研究は著者2人の討議で進め、今井は 2.1、2.2、2.3、5.3 を、原田は、2.4、3、4、

5.1、5.2 を、1、2.5、5.4、6、7 は2人で執筆した。なお、『三四郎』のリライトは、第1章、

第3章、第5章、第6章の後半を原田が、第2章、第4章、第6章の前半を今井が行った。

謝辞

 本研究は、桜美林大学言語教育研究所より助成を受けたものである。

      参考文献

粟野真紀子・川本かず子・松田緑編著、NPO 法人日本語多読研究会監修(2012) 『日本語 教師のための多読授業入門』アスク

影山太郎(1993) 『文法と語形成』ひつじ書房

寺村秀夫(1984) 『日本語のシンタクスと意味 第Ⅱ巻』くろしお出版

中野てい子・原田照子・山形美保子・宮崎妙子・酒井真智子・三上京子(2007) 「日本語版 グレイディド・リーダー開発への取り組み:JGR 語彙チェッカーの試作と評価」電子 情報通信学会信学技報 , vol. 107, no. 323, TL2007-39, pp. 31-36

原田照子・酒井眞智子・宮崎妙子・山形美保子・共同研究者:レイノルズ・ブレット(2003)

「日本語版グレイディド・リーダー(JGR)開発に関する基礎的研究 ─ JGR 語彙表と作 品制作ガイドライン─」 『2003 年度日本語教育学会春季大会予稿集』pp.209-210   原田照子・山形美保子・中野てい子・酒井眞智子・宮崎妙子・三上京子(2008) 「多読のた

めの日本語版グレイディド・リーダー開発への取り組み  :  JGR 語彙チェッカーの特徴 と作品制作における有用性」  桜美林言語教育論叢 4, 57-73, 2008

原田照子・山形美保子・中野てい子・酒井眞智子・宮崎妙子・三上京子(2009) 「日本語版 グレイディド・リーダー開発への取り組み : 多読用教材等のキーワードの特定とその 出現傾向」桜美林言語教育論叢 5, 71-85, 2009

姫野昌子(1999) 『複合動詞の構造と意味用法』ひつじ書房

(15)

松田文子(2004) 『日本語複合動詞の習得研究』ひつじ書房

三上京子・原田照子(2011)「多読による付随的語彙学習の可能性を探る:日本語版グレイ ディド・リーダーを用いた多読の実践と語彙テストの結果から」 国際交流基金日本語 教育紀要 7, 7-23

森田良行(1978) 「日本語の複合動詞について」 『講座日本語教育』14 早稲田大語学教育 研究所

山形美保子・原田照子・宮崎妙子・酒井眞智子・中野てい子・三上京子(2008) 「JGR 語彙 チェッカーを使用した多読のための作品制作 ─『大きな帽子の女』を例に─」『第 17 回 小出記念日本語教育研究会予稿集』pp. 46-50 

Nation,  I.  S.  P.  (2001).  Learing  vocabulary  in  another  language.  Cambridge:  Cambridge  University Press.

Reynolds, Brett、原田照子・山形美保子、宮崎妙子(2003)「日本語版グレイディド・リー ダー(JGR)開発に関する基礎的研究」『小出記念日本語教育研究論集』11, pp.23-40

参考資料

伊能裕晃・本田ゆかり・来栖里美・前坊香菜子・阿保きみ枝・宮田公治(2011)『新完全マ スター語彙 日本語能力試験 N1』スリーエーネットワーク

伊能裕晃・本田ゆかり・来栖里美・前坊香菜子・阿保きみ枝・宮田公治(2011)『新完全マ スター語彙 日本語能力試験 N2』スリーエーネットワーク

旺文社(2011) 『日本語能力試験ターゲット 2000 N1 単語』旺文社 旺文社(2011) 『日本語能力試験ターゲット 2000 N2 単語』旺文社

独立行政法人国際交流基金(2002) 『日本語能力試験出題基準[改訂版]』凡人社

リライトに使った原作

青空文庫 図書カード No.794『三四郎』 

       http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card794.html 夏目漱石『三四郎』(昭和 23 年発行・平成 23 年)新潮社

 

(16)

【稿末資料1】   能力基準、単語集、問題集で重なりのある複合動詞(58 語)と JGR、能力基準、

単語集、問題集で重なりのある複合動詞(37 語)(A:語彙的複合動詞 B:統 語的複合動詞、※は JGR、能力基準、単語集、問題集で重なりのある複合動詞)

A/B 複合動詞 A/B 複合動詞 A/B 複合動詞

1 A あてはまる 21 A 突っ込む ※ 41 A 引っかく 2 A 当てはめる 22 A 出来上がる ※ 42 A 引っ込む ※ 3 A 受け継ぐ 23 A 通りかかる ※ 43 A 引っ張る ※ 4 A 受け取る ※ 24 A 飛び出す 44 A 振り向く ※ 5 A 打ち消す ※ 25 A 取り上げる ※ 45 A 見合わせる ※ 6 A 追いかける ※ 26 A 取り扱う ※ 46 A 見送る ※ 7 A 追い越す 27 A 取り入れる 47 A 見落とす 8 A 追い込む ※ 28 A 取り替える ※ 48 A 見つめる ※ 9 A 追い出す ※ 29 A 取り締まる 49 B 見直す ※ 10 A 押し寄せる ※ 30 A 取り次ぐ 50 A 見習う

11 A 落ち込む ※ 31 A 取り付ける ※ 51 A 見逃す ※ 12 A 思い込む ※ 32 A 取り巻く ※ 52 A みはからう 13 A 顧みる* 33 A 取り戻す ※ 53 A 結び付ける ※ 14 A 組み立てる 34 B 話し合う ※ 54 A 申し込む ※ 15 A さしかかる ※ 35 A 話しかける ※ 55 A 申し出る 16 A 差し支える 36 A 引き受ける ※ 56 A 持ち上げる ※ 17 A 差し引く 37 A 引き起こす 57 A やり遂げる 18 A 擦れ違う 38 A 引き返す ※ 58 A 割り込む ※ 19 A 立ち上がる ※ 39 A 引き下げる

20 A 付け加える ※ 40 A 引き出す ※

*本稿では、複合動詞として扱った。

【稿末資料2】   オリジナルとリライト版の中の「V 1 +こむ」とその出現回数

V1+ こむ オリジナル リライト V1+ こむ オリジナル リライト

1 飛び込む 5 2 11 せき込む 1

2 覗き込む 2 1 12 叩き込む 1

3 差し込む 1 1 13 突っ込む 1

4 投げ込む 1 1 14 釣り込む 1

5 引き込む 1 1 15 連れ込む 1

6 落ち込む 2 16 引っ込む 1

7 追い込む 1 17 ふさぎ込む 1

8 思い込む 1 18 放り込む 1

9 織り込む 1 19 回り込む 1

10 駆け込む 1 20 座り込む 1

表 6 オリジナルの中の           表 7 リライト版の中の複合動詞上位 10 語の    複合動詞上位 10 語の出現回数         出現回数、影山の分類、能試基準の級 順位 オリジナルの 中の複合動詞 出現回数 1 落ち着く 18 2 言い出す 16 3 思い出す 14 4 笑い出す 13 5 繰り返す 10 6 振り返る 7 6 歩き出す 7 6 出来上がる 7 6 考え出す 7 10 見渡す 6 10 引っ張る 6 10 出会う 6 10 行き過ぎる 6 計 123 5.3.4 リラ

参照

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