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生徒が主体的に課題を追究する中学校数学科の授業づくりの展望
-自らの授業研究を通して-
高度学校教育実践専攻 実習責任教員 金 児 正 史
教育実践力高度化コース 実習指導教員 小 坂 浩 嗣
宮 浦 理 恵
キーワード 主体的に課題を追究する授業,教材研究
Ⅰ. 置籍校の状況 (1)置籍校の概要
置籍校は,県西部に位置する小規模の中学校 である。生徒は明るく素直であり,年間通して の「花作り活動」も積極的に推進しており,自 然との共生の中で生活している。平成21年度か ら平成24年度まで文部科学省より「発達段階に 応じたキャリア教育支援事業」の研究校として 指定をうけ,その視点に立って教育課程の改善 等を図った。教科指導においても 「学び合い, や体験活動を充実させ,自分や友達の考えのよ さに気付かせる場を設定すること」を通して自 尊感情の向上や挑戦する勇気が徐々に見られる ようになってきた。
(2)置籍校の生徒の学習状況
本研究の主題に迫るために,平成26年度全国 学力・学習状況調査報告書「生徒質問紙調査」
のうち,2項目の結果に着目した。項目「数学 の問題の解き方が分からないときは諦めずにい ろいろな方法を考えますか」では,69%の生徒 が当てはまると回答しており,全国平均よりも 高い通過率である。しかしながら,項目「数学 の授業で問題を解くとき,もっと簡単に解く方 法がないかを考えますか」では,当てはまると 回答しているのは54%の生徒にとどまり,全国 平均よりも低い通過率である。
Ⅱ. 主題設定の理由
, ,
Ⅰ(2)で述べた生徒の学習状況から 筆者は 置籍校の生徒が諦めずに問題を解く生徒は多い が,問題が解けるとそれで満足し,もっと簡単 に解く方法がないか考えるところまで至ってい ないと推測した。この状況が改善されると,生 徒主体の活動が増え,生徒同士の議論が活発に なり,置籍校の授業は教師主導の授業が減少す るだろうと考えた。そこで,生徒が問題に諦め ずに取組み,多様な方法がないか考えられるよ うな授業の指導計画を立てることにした。この 学習指導案の作成に当たって,生徒が活発に活 動できるようにするために,筆者は課題学習の 考え方を導入することにした。さらに,生徒に とって身近な素材を扱うことで,生徒が諦めず に問題を解き,多様な方法がないか考えると判 断し,カレンダーに潜む数理を考察する授業を 実施することにした。
しかしながら,実践授業では,生徒が主体的 に課題を追究する授業とは言い切れなかった。
例えば,生徒が多様な方法がないか考える場面 でも,教師主導になってしまい,生徒同士の活 発な議論から生徒の自由な発想も引き出せなか った。そこで本研究では,生徒が主体的に課題 を追究する効果的な授業づくりを目指し,この 学習指導案を改善する際の視点や工夫の指針を まとめ,報告することにした。
Ⅲ.多様な方法を考える力を育てる学習指導案
- 2 - づくり
, 。
実践授業は 2時間の授業で2年生で計画した 第1次は教師からの課題に多様な考えで取り組 む授業を計画し,第2次は生徒自らが発見した 課題を解決するような授業を計画した。
具体的には,
第1次はカレン ダーの数の規則 や関係の例とし
て「右斜めの3つの数の間の関係」に着目する ように指示した。次に第2次に入る前に各生徒 が家庭学習レポートにおいて,第1次の授業で 提示して与えた右斜めの見方以外の他の見方で カレンダーの数の規則や関係を見いだせるよう にした。第2次では生徒が発見した多様なカレ ンダーの数の規則や関係を共有し,説明する過 程で文字を使って主体的に探究できるようにし た。
(1)学習指導案づくりの着眼点
カレンダーに潜む数理を考察する課題を通し て,カレンダーの数の規則や関係を発見する楽 しさや,発見したことを級友に伝達する成就感 や,それらを証明できる達成感が得られる活動 を取り入れた。また,発見する過程で,個に応 じた課題を文字を使い,主体的に探究する力を 身につけることができるような活動も加えた。
学習指導案は以下に示す4項目を検討して作 成した。
①生徒が見つけると予想されるカレンダーの 数の規則や関係
②高校数学へのつながり
③事前・事後調査問題(プレポスト)の作成
④学習活動における評価規準の作成 (2)学習指導案の工夫
上記の4つの着眼点を基にして,学習指導案
作成にあたって4つの事柄を組み込んだ。
①カレンダーの右斜めの3つの数に注目させ,
発見した事柄を説明し合う機会を作る
②右斜めの3つの数の規則や関係を文字を用い て証明する活動を促す
③自ら発見したカレンダーの数の規則や関係を 伝達する活動を促す
④発見した規則や関係を,文字を用いて証明す る活動を促す
Ⅳ. 授業の実際 (1)課題学習第1次
学習活動;課題把握 本時の課題である カ
( ) 「
レンダーの右斜めに並んだ3つの数の関係をみ
」 。
つける を視覚的に分かるよう明確に示した
(学習活動;自力解決)カレンダー上の右斜 めに並んだ3つの具体的な数に着目させ,気づ いたことを図や言葉で記入するように指示し た。大半の生徒がワークシートに右斜めでは 等差が6であることを記載していたが,2つの
。 数の関係や偶数・奇数の性質も発見していた
(学習活動;班学習)生徒が,自力解決で発 見したことを,班で発表し合い,班活動で考 えたプロセスを記入するように指示した。斜 めの5つの数まで発展した班もあった。
(学習活動;班発表)予想を上回り,3つの数 に限らず,数の増え方を見たり,両端の数の2 つの数の関係や偶数・奇数に触れる考えもあ った。
(学習活動;文字を用いて証明する)完成法 のよる証明の問題を利用して,生徒を指名し ながら証明を完成させていった。黒板に3通り の証明を示したことで,文字の置き場所によ って式の形が異なること,それでも3通りの証 明で同じ結論が導けることを理解した。
(学習活動;まとめと第2次授業予告)家庭学習
2015年 6月
日 月 火 水 木 金 土
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 1 1 12 1 3
14 1 5 16 17 1 8 19 2 0
21 2 2 23 24 2 5 26 2 7
28 2 9 30
- 3 - でカレンダーの他の規則を見つけて記録して くる【事前レポート】を渡した。生徒から第1 次の授業で学習した右斜めの関係以外の左斜
, めの関係を探っていいかといった質問も出て 意欲的に家庭学習が進むことが予想された。
また,第2次の授業では,生徒が家庭学習でみ つけ出した性質を証明していくことを予告し た。なお,以下に生徒が着目したカレンダー の数の関係 列挙する。
を
①左斜めに並んだ3つの数の間の関係
②縦に並んだ3つの数の間の関係
③横に並んだ3つの数の間の関係
④間の数=(端の数+端の数)÷2
⑤右下の数-左上の数=16 (2)課題学習第2次
(学習活動;解決してみたい内容ごとの班編 成=以下内容共通班 【事前レポート】で発見)
, した規則内容をクラス全体で共有するために すべてを板書した。そして,解決したい課題
。 を生徒が主体的に選びグループ編成を行った 大半の生徒が,家庭学習で発見した規則以外 の新たな課題に挑戦した。
(学習活動;内容共通班での検討)内容共通班 で,規則や関係が成り立つことを確認し合っ た後,証明もするように促した。互いの説明
, 。
を比較後 文字を使って証明をまとめさせた 次に,文字を置く場所も検討させ,生徒がも っともよいと考える証明をホワイトボードに 書いた。
(学習活動;班の発表の鑑賞会)手順よく書き 出した証明を,班
, 員で役割分担して
。 , 発表した しかし 班発表に時間をと
(図)班での発表の様子
りすぎてしまい,個人発表まではできなかった。証明を学級全 体で共有した後,評価の仕方を学級全体で評 価し合う時間をとり,相互評価につなげた。
しかし,互いの班どうしで証明を相互評価す ることに,多くの時間を費やしてしまった。
(学習活動;各自の振り返り)カレンダーの 学習を通してどのような考えを学んだか,ど のような工夫をしようとしたか,振り返りの ために,自分の感想や学んだことを記入する 時間も設けた。自由記述では,各班の規則や 関係の内容や発表の仕方に触れているものが 多かった。
Ⅴ. 実践授業の結果の分析
実践授業の結果の分析については,ビデオ分 析,ワークシート,研究協議で頂いた意見によ り分析する。
(1)授業記録や研究協議からの分析
授業を計画した段階では,2時間構成で計画
, ,
していた実践授業であったが 当初の目的通り 多様な規則性を出させたり発表を終えるまでに 3時間を必要とすることになった。教師の働き としての発言・発問・指示・板書・提示等に連 動した生徒の言動・様子等の反応を追跡するこ とを通して,なぜ授業時間が超過したのか,ど のようにしたらよりよい授業にできるのか,分 析を通して捉えていく。
(2)考察
授業記録や研究協議による授業の分析によっ
, 。
て 自らの授業を的確に振り返ることができた 毎日の授業の中で,生徒が1つの問題から,多 くの発見や数学的処理ができるようになり,さ らに,数学的な表現力・思考力を高められるよ うにする必要があると感じている。
<実践授業での成果> 生徒たちは,班員と 話し合いをしながら意欲的に課題に取り組む
- 4 - ことができたと思う。特に,家庭学習での事 前レポートでは,全員が課題を見つけ,第2次 の授業では,レポート課題で見つけた規則以 外の課題を主体的に選び新たな課題に次々挑 戦できた。このように,1つの課題に対してい くつかの解き方や考え方でアプローチをし,
いくつかの方法を比較・検討させる学習指導 の有用性が確認できた。また【事前調査】で
, ,
は 14名が完成法の証明では正答していたが
【事後調査】では,記述式の証明だったにも 関わらず17名が正答していた。文字を用いた
。 証明の学習指導の定着が見られたと判断した
<実践授業での課題>2時間構成で授業を計 画したにも関わらず,3時間を必要としてしま うという見通しの甘さがあったことが大きな 課題である。これは,筆者が教師主導で多く の説明を追加する等をしながら授業を進めて しまったことが大きな原因であると反省して いる。また【事前調査】では,具体的な数で
,【 】 の確かめは全員の生徒ができたが 事後調査 でも文字式を用いた証明では,一部の生徒が 無回答のままであった。そこで,具体数と文 字を対応して考えられるような適切な助言や 指導が不十分でもあった。これからの学習で もこうした実践を積み上げていく中で,さら に生徒たちの自由な発想や課題に対する考察 力が引き出されるような授業の工夫・改善も 行って行くことが大切であり,自らの教材開 発の力量の積み上げも急務である。
Ⅵ. 実践授業の改善
同じ素材を用いた改善指導案作成に向けて,
日常生活で見慣れているカレンダーに潜む数理 を追究させ,発展的な考察も生徒主体の立場か ら展開できるようにした。
<指導計画の見直し>3時間構成で改善指導案
を作成する予定である。第1次は大きく変更せ ず,カレンダーの右斜めに並んだ3つの数の間 の関係をみつけ説明することに主眼を置く。
第2次はカレンダーに隠された他の規則や関係 を共有し,規則を班ごとに検討することに主 眼を置く。そして第3次は,共有したそれぞれ
。 の規則や関係を証明するところに主眼を置く
Ⅶ. 今後の課題と展望 (1)今後の課題
平成27年度全国学力・学習状況調査報告書の 指導改善ポイントにも,数と式の領域において
①事柄や数量の関係を捉え,その関係を文字 式に表す活動の重視②構想を立て,根拠を明 らかにして事柄が成り立つ理由を説明する活 この2点のこ 動の充実についての記載がある。
とを盛り込み,予想する,構想を立てる,説明 を記述する,説明の検討を通しよりよい説明を 完成させていく,これらの活動を取り入れた授 業づくりについて,さらに研究を進めていく必 要がある。
(2)今後の展望
今後の展望として,以下の2点を挙げる。1つ 目は 「平成27年度版徳島県学校マネジメント,
・学力向上実行プランの各教科等における重 伝え合 点」の中で,本県の重点課題のうち「
いの場面を積極的に設け,伝えたいことを整 理して伝えさせる」を振り返り,言語活動の 指導の見直しを続けたい。その 充実を目指し
ためにも,普段の授業を大切にし,生徒の意見 が出やすいような雰囲気作りも活かしたい。
2つ目は,鳴門教育大学を修了後も「自己教 育力」としての課題に向かって,学び続ける教 員を目指し,鳴門教育大学サテライト研修室に よる授業や土曜授業等の出前授業にも積極的に 参加し,今後も連携を密にしていきたい。