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授業研究を通した数学の授業改善 : 改善の過程に焦点を当てて

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(1)Title. 授業研究を通した数学の授業改善 ― 改善の過程に焦点を当てて ―. Author(s). 谷地元, 直樹; 相馬, 一彦; 角地, 祐輔; 那須, はるか; 渡辺, 葵. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 70(1): 213-221. Issue Date. 2019-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/10543. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第70巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 70, No.1. 令 和 元 年 8 月 August, 2019. 授業研究を通した数学の授業改善 ― 改善の過程に焦点を当てて ―. 谷地元直樹・相馬 一彦・角地 祐輔*・那須はるか**・渡辺 葵*** 北海道教育大学旭川校数学科教育研究室 *. 旭川市立東陽中学校. **. 旭川市立緑が丘中学校. ***. 旭川市立光陽中学校. The Improvement of Mathematics Teaching through Lesson Research : ― A Focus on the Process of Improvement ―. YACHIMOTO Naoki, SOUMA Kazuhiko, KAKUCHI Yusuke*, NASU Haruka** and WATANABE Aoi*** Department of Mathematics Education, Asahikawa Campus, Hokkaido University of Education *. Asahikawa City Touyou Junior High School. **. Asahikawa City Midorigaoka Junior High School ***. Asahikawa City Kouyou Junior High School. 概 要 本研究は, 「よい授業」の実現を目指し,数学の授業における授業改善の過程に焦点を当て ることで,授業改善を行うための具体的な方法を考察・分析し,授業研究の在り方を具体的に 提案することを研究の目的としている。 研究授業とその研究協議の内容に対して複数の教員が改善点を出し合い,その反省を基に代 表者が改善授業を行う。それを参観してさらに研究協議を行い,再び改善授業を行うというサ イクルを4度実践した。また,授業改善の中では,6つの改善内容を整理し,改善によるそれ らの効果を検証した。 改善授業を繰り返した結果, 「同一授業を分析することで授業の質的な改善が図られる」, 「複 数回の改善授業により研究協議の内容が深まる」などが明らかになった。さらに,「共同研究 の行い方の工夫」により,授業研究の在り方を具体的に検討することができた。. 213.

(3) 谷地元直樹・相馬 一彦・角地 祐輔・那須はるか・渡辺 葵. 1.はじめに. の教材研究の質が異なっているとも考えられる。 教師に求められているのは,「よい授業」を行. ⑴ 研究の動機と目的. うことである。数学の「よい授業」とはどのよう. 平成29年3月に告示された新学習指導要領で. な授業なのか,教師のどのような指導が含まれて. は,知識の理解の質を高め資質・能力を育む「主. いるのかを明らかにし,広い範囲で教師が共有す. 体的・対話的で深い学び」の実現に向けて,授業. ることが望まれる。本研究グループでは,授業研. 改善に向けた取組を活性化していくことが求めら. 究を定期的に行い,試行錯誤しながら検討を繰り. れている。この授業改善に向けた取組について,. 返し,授業改善に関わる実践を蓄積している。. 学習指導要領等の改訂のポイントとして,次のよ. 本研究では,数学の授業における授業改善の過. うに述べられている。. 程に焦点を当てることで,授業改善を行うための. ・我が国のこれまでの教育実践の蓄積に基づく. 具体的な方法を考察・分析し,授業研究の在り方. 授業改善の活性化により,子供たちの知識の. を具体的に提案することを研究の目的とする。. 理解の質の向上を図り,これからの時代に求. ⑵ 研究の方法. められる資質・能力を育んでいくことが重要。. 平成26年度の旭川市教育研究大会では,第2学. ・小・中学校においては,これまでと全く異な. 年の確率(いろいろな確率)の授業を行った。研. る指導方法を導入しなければならないと浮足. 究協議では,本時の目標や生徒の考えの取り上げ. 立つ必要はなく,これまでの教育実践の蓄積. 方などについて改善案が出された。. を若手教員にもしっかり引き継ぎつつ,授業. 授業研究は一般的に研究協議で終わるが,出さ. を工夫・改善する必要がある。. れた改善案を実践することが必要と考えた。そこ. これらの記述から,「主体的・対話的で深い学. で,3年間の共同研究(科研費補助金・基盤研究. び」を実現するためには,これまで行われてきた. C:代表二宮裕之)の中で,研究大会での確率の. 授業の在り方を再検討することで,数学授業の質. 授業を基に,「よい授業」の実現に向けた授業改. 的向上を図ることが必要である。特に,新たな指. 善を行った。次の表の通り,2回の改善授業と2. 導方法を開発するのではなく,これまでの授業実. 回の確認授業を4名の教師で実施した。. 践を大きく振り返り,授業改善に着手することが 求められている。. 日時. 指導者. 生徒数. 数学では,これまでも数学的活動を通した授業. 改善①. H29. 3. 6. 谷地元直樹. 39名. が行われ, 授業研究会などでは「問題解決の授業」. 改善②. H29. 3. 8. 渡辺 葵. 33名. が公開されることが多い。しかし,同じ「問題解. 確認①. H30. 3. 7. 那須はるか. 38名. 決の授業」であっても,指導する教師によって次. 確認②. H30. 3.15. 角地 祐輔. 35名. のような指導の違いを感じることが多々ある。 ・授業の進め方はもちろん,単元構成や単元の目. 同じ指導内容の授業に対して,複数の教員が改. 標,そして本時の目標や課題,考え方の扱い方. 善点を出し合. やまとめ方などの違いがある。. い,代表者が. ・勤 務する地域や学校の規模,生徒の実態など. 改善授業を. も,その教師の授業観に関わる要因となる。ま. 行った。それ. た同僚となる数学教師の有無も,指導の違いに. をグループで. 関わる。. 参観して研究. ・指導する経験年数にも関わりがある。若手教師. 協議を行い,. と20年を越える経験豊富な教師とでは,数学へ. 再び改善する. 214. 図1 授業改善の過程.

(4) 授業研究を通した数学の授業改善. サイクルを何度か繰り返した。そして,改善内容. るのであれば,このような視点で授業研究を捉え. が適切であることを確認するために確認授業を. る見方があることも認識しておく必要がある。授. 行った。図1のような流れで授業改善に取り組む. 業研究により教材の発見と開発が行われたり,子. ことを通して,よりよい授業研究の在り方を考察. どもの認識を探ることが可能となったりすること. した。. は,授業改善への大切な視点である。 これらの先行研究から,授業研究は「教師が授. 2.研究の内容. 業を改善するために行うもの」であることがわか る。つまり,授業研究とは,「よい授業」をつく. ⑴ 授業研究の目的と授業研究の構成. りあげることを目的とした研究である。. そもそも,何のために授業研究を行うのか。授. 次に,授業研究の構成要素についてである。日. 業研究のない学校を見つけることはできないほ. 本の授業研究が世界の中で注目されることになっ. ど,日本の教育現場において授業研究が日常的に. た“THE TEACHING GAP” (2002)を契機に,. 行われている。また,日本の授業研究の在り方は. 授業研究の構成要素を顕在化しようとする動きが. 国際的にも注目されている。. 活 性 化 さ れ て い る。 例 え ば 図 2 は,“THE. 藤井(2014)は授業研究を「PDCAサイクルを. TEACHING. もった教員研修であり,授業実践の質的改善を志. GAP”で示さ. 向する教師の実践研究の場である」と示してい. れている授業. る。一方で, 「授業研究には多くの暗黙の前提や. 研究の構成要. 公然化されていない活動があり,それが必ずしも. 素である。4). 十分に解明されているとは言えない状況にある」. が研究協議に. とも指摘している。. あたり,5). また馬場(2005)は, 「教師が,同僚と協働し. ~8)が本研. てお互いの授業を批判・検討し合うことで,その. 究での改善授. 改善を漸進的に自ら図っていく手法を指してい. 業にあたる。. る」と述べている。それは明治以来の日本の教育. さらに藤井(2014)は授業研究の段階を構造化. 実践の中で育まれた所産であり,教師自身の自己. し,図3の5段階で授業研究の構成要素とその過. 啓発・自己研鑽の場として機能しており,この機. 程を具体的に示している。. 能が国際的に注目されている理由であると追記し. 授業研究では,藤井の「5.振り返り」が重要. ている。さらに平林(1999)は授業研究の目的を. な段階だと考える。それ無しでは,継続的に授業. 次の3点とし,日本では特に①の授業研究が多く. 改善を成し得ることは不可能である。. 行われているという実態があると述べている。. ここで検. ①授業そのものの在り方の研究を目的にする. 討すべき点. ②数学認識論・数学教育理論の構成手段にする. は,図2の. ③新しい教材開発の手段にする. 5)~8). 一方で本間(2008)は,授業研究の目的を「授. の段階,図. 業のなかに,これまでなかったような子どもの活. 3の5.振. 動,思考を発見することである。これが日本の授. り返りから. 業研究のもっとも良質な伝統である。 」と述べて. 1に戻るサ. いる。. イクルであ. 授業研究により子どもの新たな姿が顕在化でき. る。実際の. 1)問題の同定 2)授業の計画 3)研究授業 4)授業の評価とその効果の反省 5)授業の再考 6)再考された授業の実施 7)評価と反省 8)結果の共有 図2 授業改善の過程. 図3 授業研究の構成要素と過程. 215.

(5) 谷地元直樹・相馬 一彦・角地 祐輔・那須はるか・渡辺 葵. 授業研究では,研究協議をもって反省会が終了す. 業改善を行おうとする。例えば教材研究が再度行. ることが多々あり,再考された指導案等で改めて. われたり,次の授業実践に向けた授業設計がなさ. 授業を実践する機会は決して多くない。授業改善. れたりする過程となる。その一方で,実際には研. の視点として,再考した指導案で改善授業を行う. 究授業と同じ内容を改善して授業をしたり,再度. ことが,教師の力量を高めたり,授業の在り方を. 参観したりする機会はほとんどない。本来ならば. 検討したりする大切な機会となるはずである。. 改善点をグループで共有しながら指導案を修正. ⑵ 「よい授業」を行うための授業改善のポイン. し,お互いに授業実践を繰り返し行うことによ. ト. り,よりよい授業改善が可能となる。. 「よい授業」の実現に向けて,教師は授業改善. これらの課題を踏まえて,本研究では平成28年. を日常的に行うことが必要である。そもそも「よ. 度には科研グループ(代表:二宮裕之)で第2学. い授業」とは何か。例えば相馬らは,「よい授業」. 年の平行と合同(図形の性質の確かめ方)の授業. の ポ イ ン ト を 次 の 2 点 と し て い る( 相 馬 他,. 改善を行った。指導案検討を行った後に授業を参. 2016) 。. 観し,研究協議で出された意見から指導案を検討. ・生徒が主体的に取り組み,考え続けている授業. して改善点を共有した。それにより,授業者の他. ・目標が適切に設定され,それが達成される授業. クラスの授業だけではなく,グループ内の教師が. 本研究では,この2つのポイントを基に,具体. それぞれの学校で改善授業を行うことが可能と. 的な授業改善の方策を次の①,②にまとめた。. なった。. ① 指導案を改善し,改善点を共有すること. ② 複数の同一授業を比較・分析すること. 授業研究の段階に着目すると,馬場(2005)と. 授業比較をすることによって,教材研究の深ま. 橋本ら (2003) は, 3段階のサイクルで捉えている。. りを感じることが多くある。比較の方法は様々あ. 馬場:1)教材研究,2)研究授業,3)授業検. り,日本における経験者教師から若手教師が学ぶ. 討会 橋本:1)学習指導案,2)授業観察,3)研究 協議会. 研修スタイルは確固たる文化である。 松村(2015)は,ベテラン教師と新人教師の授 業比較を通して,授業力の差異の要因を3つの視. 第1段階の教材研究と学習指導案は「授業前の. 点に分けている。. 準備段階」と位置付けると,教材研究や学習指導. ・第一の視点:単元全体を俯瞰した授業設計. 案の作成が授業の良し悪しに大きく影響すると考. ・第二の視点:経験値を拠り所とした教授行為. えられる。. ・第三の視点:即興的な思考による問い直し. 石井(2016)は,「教材研究と授業設計は教師. 確かに,経験による授業の差は生じやすい。授. による思考の過程であるが,学習指導案はそれが. 業を重ねるたびに授業観が養われていく。ただ,. 一定の様式によって書面に表現されたものという. 授業の差は経験だけなのだろうか。それ以上に授. ことができる」と述べている。さらに,教材研究. 業の差を生む要因を検討する必要がある。本研究. と授業設計はプロセスであり,学習指導案は成果. ではこれらの視点を参考に,経験差や性別の違い. 物としての性質があるとしている。それだけに,. を含めて6名の授業者に同一授業を依頼すること. 学習指導案が研究授業に与える影響は大きく,授. で,教師の授業力の差や個々が持ち得ている授業. 業の評価とその効果の反省を踏まえて研究授業を. 観について検討することにしている。. 再考し,改善・充実させることに価値があるとも. 教育現場で授業比較を行う方法は,具体的に次. いえる。. のようなものが挙げられる。. さて,多くの授業研究では,研究協議で出され. ・同じ学年の先生の授業を参観して,自分の授業. た多くの意見や改善案を基に,教師それぞれが授. 216. と比較する。.

(6) 授業研究を通した数学の授業改善. ・同じ学習指導案を用いて,同じ学校や他の学校 の先生に実践してもらい比較する。 ・同じ内容について異なる学習指導案を用意し, 授業をして(してもらい)比較する。 実際の授業の様子を持ち寄って比較・検討する. の目標を改善するとともに,次の問題(H29科研 の問題)に変更することにした。 [平成29年度:科研授業] <目標>:同じ色の玉を区別する必要性を理解 し,樹形図を用いて確率を求めるこ. ことを通して,自分だけでは気付かなかった発見 があったり,知らなかったことを学んだりできる 機会にもなる。このような授業比較は,教材研究 を深めるとともに, 「よい授業」を行うための授 業力を高めることにもつながる。 なお,谷地元(2017)は, 「問題解決の授業」 における教科書の役割と扱い方について提案する ために,同一授業を6名の教師が実践することで 授業分析と考察を行っている。一つの視点で授業. とができる。 <問題>H29科研:谷地元(永山南中学校) 白玉が2個,黒玉が1個入っている袋から1 個の玉を取り出す。そして,さらにもう1個の 玉を取り出す。このとき,次のどちらの確率が 大きいだろうか。 A.2回とも白玉がでる B.白玉と黒玉が1回ずつでる. 内容を比較することにより,教科書の扱い方の具. 問題については,問題把握を促すために一度取. 体を提案し,数学の授業改善につながることを示. り出した玉をもとには戻さないように改善した。. している。. 問題を一度解決した後に,追加の課題として袋の 中に戻す場合の確率を求めた方が,玉の区別を行. 3.授業実践とその分析・考察. う必要性や問題の意味理解につながるという利点 がある。. ⑴ 本研究で扱う問題とその意図. また,4回の授業(改善授業2回,確認授業2. 本研究で扱ったのは,第2学年の確率(いろい. 回)を実施したが,改善した授業内容は主に6か. ろな確率)の問題である。平成26年度に渡辺(緑. 所あり,次のように通し番号を付けて整理してい. が丘中学校)が行った旭川市教育研究大会での授. る。. 業を基に,次の流れで問題の改善を行った。. ・改善内容1・・・本時の目標. [平成26年度:旭川市教育研究大会]. ・改善内容2・・・問題や問題提示. <目標>:同  じ色の玉を区別した樹形図を用い て確率を求めることができる。 <問題>:H26市教研:渡辺(緑が丘中学校) 赤玉が1個,白玉が2個入っている袋から1 個の玉を取り出す。それを袋に戻してかき混 ぜ,もう一度1個の玉を取り出す。このとき, 次のどちらのことがらが起こりやすいだろうか。 A.2回とも白玉がでる B.白玉と赤玉が1回ずつでる 研究協議の中では, 「同じ色の玉を区別する必 要感をもたせたい」という意見が複数出された。 また,確率を求める必要があるのかという議論に もなった。そこで,これらの意見を受けて,本時. ・改善内容3・・・生徒の考えの取り上げ方 ・改善内容4・・・ 「同様に確からしい」 ことの確 認 ・改善内容5・・・本時に関連する活用場面の設定 ・改善内容6・・・練習問題 ⑵ 改善授業・確認授業の分析と考察 【改善授業①の内容と授業結果】 改善授業①の改善点は,主に次の通りである。 <1.本時の目標> ・ 「区別する必要性を理解し」を追加。 <2.問題提示> ・玉の絵を板書→幾度か実演してから板書に変 更。. 217.

(7) 谷地元直樹・相馬 一彦・角地 祐輔・那須はるか・渡辺 葵. <5.活用場面の設定> ・ 「戻すとき」を増やして3回取り出す場合を 追加。 <6.練習問題> ・問題プリントの配付→教科書の問題に変更。 以上の改善点を踏まえて授業を実施した。改善. ・誤答の扱い方に改善が必要である。誤答の例を いくつか比較するなかで,正しい樹形図を見出 す指導を入れ込む必要がある。 [区別する必要性を生じさせる発問,指示] ・ 「同様に確からしい」ことが根拠となることを, 樹形図を作り上げるなかで意識させる必要があ る。. 点に関わる授業の結果は次の通りである。なお,. 【改善授業②の内容と授業結果】. 文頭にある記号の意味は下の通りである。. 改善授業②の改善点は主に次の通りである。. ◎・・・高い効果が見られた,〇・・・効果が見られた △・・・不十分さが残った,×・・・大きな改善が必要 <1.本時の目標> 〇:同じ玉を区別する必要があることがわからな いと,樹形図の意味理解に接続することができ ない。授業を終えて,本時の目標に位置付ける ことが必要だと確認できた。. <3.生徒の考えの取り上げ方> ・誤答(3通り,4通り)と正答の3つの考え 方を同時に取り上げる。 <4.「同様に確からしい」ことの確認> ・2回から5回に増やした。 以上の改善点を踏まえて授業を実施した。改善. <2.問題提示>. 点に関わる授業の結果は次の通りである。. ◎:最初に玉を幾度かひかせることから始めた。. <3.生徒の考えの取り上げ方>. 実演することで問題把握につながることが明ら かとなった。 〇:実演の流れから確率を問うことで,本時の課 題とのつながりがスムーズになった。 <5.活用場面の設定>. 〇: なぜ誤答なのかを理解し説明できるように なった。3通りの考え方を丁寧に扱うことがで きた。 ×:誤答を考えていた生徒は,正答の樹形図を新 たに見出すことができなかった。. ◎:黒−黒-黒 と な る こ と が ま ず 起 こ ら な い (3.7%)ことを実感することに意味があった。 極端な確率(黒-黒-黒)を樹形図で求めるこ とができたのは,確率のよさや面白さを伝える 機会にもなると確認できた。 <6.練習問題> 〇:教科書を活用する視点から,本時の位置付け を確認したり,練習問題を扱うことができたこ とには意味があると考えた。 △:玉の色を変えただけの問題であったために,. <4.「同様に確からしい」ことの確認>. 難易度については不十分さが残った。赤2個,. ◎:「同様に確からしい」ことが根拠となる場面. 白2個くらいの方が樹形図を作成する必要性が. の度に確認することで,その意味を意識付ける. あった可能性が高い。. ことにつながった。. さらに,研究協議を通して,次のような課題が. さらに,研究協議の中からは次のような課題が. 残されたので,改善授業②に引き継ぎ,改善点を. 残されたので,検証としての確認授業に引き継ぎ,. 明らかにした。. 改善点を確認した。. [多様な考えの扱い方,誤答の比較と扱い方]. [多様な考えの扱い方,誤答の比較と扱い方]. 218.

(8) 授業研究を通した数学の授業改善. ・誤答を通して思考を深め,正答を見出させるた めに,2つの誤答をはじめに取り上げるべきで はないか。. <4.「同様に確からしい」ことの確認> ◎:同様に確からしくするために玉の区別が必要 だと確認したことで,その後の展開がスムーズ. 【確認授業①の内容と授業結果】. になった。また,何度か確認を行ったことで,. 確認できた改善内容は,次の通りである。. 区別が必要な場合について深く考えることがで. <1.本時の目標> ・ 「区別する必要性を理解し」を追加したこと は有効だったのか。 <2.問題提示> ・実演を行ったことで,生徒が自主的・自発的 に取り組むことができたか。 <3.生徒の考えの取り上げ方> ・誤答を扱う場面では同時がよかったのか,そ れとも順番に取り上げて,その順番に工夫を 行った方がよかったのか。 <4. 「同様に確からしい」ことの確認> ・ 「同様に確からしい」ことの確認はどの程度 必要なのか。 <5.活用場面の設定> ・3回取り出す場合を追加することで,より理 解を深めることができたか。. きた。 <5.活用のさせ方> ◎:「戻すとき」を増やして3回取り出す場合を 追加したことは,大変効果的であった。特に, 生徒の関心・意欲につながる問題であり,今日 の学習を振り返ることにも有効であった。 <6.練習問題> 〇:生徒の現状を踏まえ,練習問題の難易度,内 容の複雑化や単純化などを考えて設定する必要 がある。 【確認授業②の追加内容と授業結果】 確認授業②では,確認授業①で検証した1,3~ 5について,改善が効果的であったことを確認し た。さらに,<2.問題提示>と<6.練習問題> について,次のように改善して実践した。 <2.問題提示>. <6.練習問題>. ・玉の色は黒と白が適切かどうかを吟味する。. ・定着のための練習問題は何がよかったのか。. <6.練習問題>. <1.本時の目標> ◎:本時の目標は,どの学校でも生徒が考え続け. ・定着のための練習問題は,何がよいのかを吟 味する。. る授業となることが確認できた。特に「問題」. <2.問題提示>. に取り組みやすく,区別する必要性を感じられ. ◎:これまでの授業では玉を白色と黒色としてい. る展開となった。生徒の定着もよく,目標の達. たが,板書した際に白と黒の区別がつきにくく,. 成につながる授業となった。. 混乱してしまう生徒がいた。そこで,白色と赤. <2.問題提示>. 色に変更したところ,どの生徒も混乱すること. 〇:実演は効果的であった。最初は不透明な袋を. なく考えることができていた。. 使い,説明の場面で透明な袋を使ったことで,. <6.練習問題>. より問題の理解を図ることができた。. ◎:はじめに教科書の練習問題を扱い,本時の問. <3.生徒の考えの取り上げ方>. 題との共通点および違いを捉えさせた。教科書. ◎:誤答の樹形図2つを扱ってから,次に正答を. の練習問題は,色が「白→赤」「赤→白」に変. 扱うことで,誤答の印象を強くすることができ. 更されているのと,本時の問題と同様に玉を戻. た。 「戻す」問題では,ほとんどの生徒が正答. す問題であることから,確率はすぐに求められ. の樹形図をかくことができた。. ることを確認した。 次に,白玉2個と赤玉1個では考える必要性に. 219.

(9) 谷地元直樹・相馬 一彦・角地 祐輔・那須はるか・渡辺 葵. 乏しいと考えたので, 「白玉3個と赤玉1個では. を追うたびに進むことが明らかになった。個人で. 確率はどうなるだろう?」と練習問題を提示した。. はなくグループで協同的に取り組み,それぞれが. 予想させると,白玉2個の確率が大きいという生. 授業を行うことで,互いの授業を授業者の視点で. 徒と白玉と赤玉1個ずつの確率が大きいという生. とらえることができ,研究協議では活発な意見交. 徒に分かれたため,結果を確かめようと意欲的に. 流が行われた。授業改善を通して実践研究を行う. 解決に取り組む生徒の姿が見られた。. ことは,教師の授業力や授業を観る目を伸ばすこ とにつながると考える。. 4.おわりに. また,改善内容の1~6は,他の学習内容にお いても,授業を改善するための要件として適用す. ⑴ 改善授業と確認授業からの考察. ることができる。これらの要件は,授業改善だけ. 2つの改善授業と2つの確認授業の分析と考察. でなく,新たな授業づくりにおいても生かすこと. から, 「よい授業」を行うための授業改善のポイ. ができるであろう。. ント ( 「指導案を改善し,改善点を共有すること」,. 一方で,この授業研究は,共同研究者が何度も. 「複数の同一授業を比較・分析すること」 )を通. 集まり,指導案検討や研究授業を実施する必要が. して, 「よい授業」に改善できたと考える。特に,. あるため,多忙な日常業務のなかで時間を生み出. 本研究で取り入れた「同一授業」を比較し,改善. すのが難しいことが課題といえる。これについて. 点を共有することは,授業者のみならず研究に携. は,メールで指導案をやりとりしたり,授業を. わるメンバーの授業観を養う機会にもなり,深い. DVDに録画して見合ったりするなどICTを活用. 教材研究にも繋がることが確認できた。. することで克服できるものと考える。. 6つの改善内容は,1つの授業実践から見出す. 今後は,他の授業場面においても実践し,授業. ことは難しい。また,次の授業でそのすべてを改. 改善のためのよりよい授業研究の在り方を追究し. 善することも容易ではない。それは,普段,教師. ていきたい。. は一人で授業改善を行うことが多く,その結果, 広い視野で授業を観ることができない現状とも関. 【引用・参考文献】. わる。本研究では,同じ内容を複数の教員の視点 でアプローチできたこと,様々な学級の実態があ. ジェームズ・W・スティグラー・ジェームズ・ヒーバー. りながらも,どの学級でも行える授業構築ができ. ト著/湊三郎訳(2002).日本の算数・数学教育に学べ. たこと,さらにそれをお互いに確認できたことが 大きな成果である。 本研究は,4人の教師がそれぞれ環境の違う学 校で行った同一の「よい授業」の一例となったと 考える。異なる生徒の実態に対して授業を行い, 「よい授業」のために共有すべきことを確認する ことで,新たな課題や授業改善の視点に気づくこ とができた。授業比較を通して検証する過程こそ が,授業改善につながるであろう。 ⑵ 本研究の成果と課題 研究授業で確認された課題や反省をグループで 共有し,指導案を改善して再び授業を行うサイク ルを繰り返すことにより,授業の質的な改善が回. 220. ―米国が注目するjugyou kenkyuu―.教育出版. 石井洋(2016).授業研究における数学教師の授業設計に 関する一考察.北海道教育大学紀要,教育科学編66⑵, 107-114. 相馬一彦(1997) .数学科「問題解決の授業」 .明治図書, 89-91. 相馬一彦・國宗進・二宮裕之編著(2016) .数学の「よい 授業」 .明治図書,14-16. 橋本吉彦・坪田耕三・池田敏和(2003).今,なぜ授業研 究か―算数授業の再構築―.東洋館出版社. 馬場卓也(2005).授業研究.日本の教育経験 途上国の 教育開発を考える.東信堂.271-283. 平林一栄(1999).研究授業について―そこから生まれる もの―全国数学教育学会,第10回研究発表会資料. 藤井斉亮(2014).授業研究における学習指導案の検討過 程に関する一考察.日本数学教育学会誌,第96巻第10.

(10) 授業研究を通した数学の授業改善. 号,2-13. 本間明信(2008).何のために授業を研究するのか(授業 研究の目的).宮城教育大学紀要,第43巻,223-230. 松村祐汰(2015).新人・若手教員の授業力向上を目指し た実証的研究―新人教員とベテラン教員の授業比較を 通して―.岐阜大学教師教育研究,第11号,269-279. 谷地元直樹(2017).「問題解決の授業」における教科書 の役割と扱い方.日本数学教育学会誌,第99回大会特 集号,358. 中学校数学教科書(2015).教育出版.115-117.. (谷地元直樹 旭川校准教授) (相馬 一彦 旭川校教授) (角地 祐輔 旭川市立東陽中学校) (那須はるか 旭川市立緑が丘中学校) (渡辺 葵 旭川市立光陽中学校) . 221.

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