松浦春樹 ・桜井武典著
『 文系のためのコンピュータ&ネットワークシステム入門』
(中 央 経 済 社
・2007
年3
月・2, 600
円・285
ページ)神奈川大学経営学部教授 穂 積 和 子
我 々は情報化社会のまっただ中に居 る。今 日 では、情報通信技術 (ICT)の恩恵 を受 けない 生活 は成 り立たない。情報教育は小 中学校での 情報関連の科 目で行われてきているだけでな く、
2003年か らは高等学校 での科 目 「情報」の必須 化が行われた。 これ ら高等学校 までの情報教育 の内容 はコンピュー タの利活用が中心であ り、
コンピュー タやネ ッ トワー クの基本的構造 につ いては文部科学省検定済教科書 を見 る限 りは、
十分に学習 されている とはいえない。
本書は大学生を対象 としたコンピュータやネ ッ トワー クの入門書 とい う位置づ けである。 コン ピュー タを利用す るために、利用者がその構造 や仕組みを理解す る必要があるか とい う問題が ある。 しか し著者 も述べているよ うに、 自動車 の構造 を知 ることは、安全運転 につながる。 同 様にコンピュータの構造や仕組みを学ぶ ことは、
生活の全てに渡 って入 り込んでいるコンピュー タを安全に利用できることにつながる。 しか し その構造や仕組みを学ぶためには数学の知識や 考 え方が必要にな り、文系の大学生が学習す る には大 きな壁 があった と考 え られ る。
「コンピュー タ入 門」を冠 した本 はた くさん 出版 されてい る。 しか し本書の 「は しがき」に も述 べ られ てい る よ うに、既 存 の市販本 では
「帯 に短 し、たす きに長 し」 とい う感 は、否 め ない。 これ らの市販本 は易 しす ぎて必要な情報 を得 られなかった り、語句の意味説 明に終始 し ていることが多い。 また理系のための本では、
ハー ドウェアや ソフ トウェアの説明に数式が利 用 され、読み続 ける意思を失わせ るものも多い。
文系の学生 を対象 とした この よ うな欠点 を排除
した市販本が望まれていた。本書 こそがそれ ら の問題 を解決 し、 さらに一般読者 に対 して も興 味深い本 として登場す ることができた と考える。
本書の特徴 について3つの こ とを述べ ること ができる。 1つはコンピュー タやネ ッ トワー ク の歴史をもとに読者 の興味を引 くことができる こと、2つ は入 門書 と冠 してい るに も関わ らず 内容 が高度 であること、そ して3つ 目は図の多 用によ り、読者 の理解 を深 めることができてい ることである。 これ らについてそれぞれ述べて い く。
まず コンピュータの歴史についてであるが、
コンピュー タ入 門の本の中で これだけ詳 しく歴 史を網羅的に書いてある本 は無い と思われ る。
何故その技術が生まれたかについて考えるとき、
その時代背景や要求 とは切 って も切れない。本 書全体 を通 じて言 えることであるが、何故必要 であったか、何が コンピュー タ開発 の先駆者達 を駆 り立てたかな ど、理 由についての言及が多 い。 このため、読者の興味を引 く内容 になって いること、勉強す るとい う意識 な しに一般 の歴 史書 として読み進む ことができる。続 きを読み たい とい う読者の意欲 をかき立てることができ ている。 さらに開発 された技術が どのようになっ ていったかについて も細か く書かれてお り、歴 史か ら現代 に至 るまでを知 ることができる。 こ れは、 コンピュー タに数十年関わってい る評者 に とって も大変に興味深い ものであった。
内容面での高度 さであるが、歴史的記述 につ いての項で も説明 した よ うに、その内容 は詳細 に渡 っている。 た とえば第三章の情報の処理 Ⅰ (原理 とハー ドウェア) では、 コンピュー タに 松浦春樹 ・桜井武典著 『文系のためのコンピュータ&ネットワークシステム入門』 139
できること、で きない ことについて、「2001年 宇宙の旅」の映画 を例 に とって説明 してい る。
この問題 を解 くために数学者 ゲ‑デルの不完全 定理 を引用 してい る。 ここにもコンピュー タア ル ゴ リズムの原点である考 え方が 「何故」 と共 に入 っているのである。そのグーデルの不完全 定理がチュー リングマ シンに影響 を与え、第二 次世界大戦 中の ドイツの暗号解読 に動員 された こと、そ してその暗号解読 は映画 「エニグマ」
にも登場 しているな ど、ス トー リー性が非常に 高 く、読者 を惹 きつけて飽 きさせ ない。
三点 目の図解の多 さについてである。その仕 組みや動 きについて詳 しい図解がた くさんある。
300ペー ジに近い本書のペー ジに図の無いペー ジは無い程であ り、 さらに図の横 に小 さな字で 詳 しく説明が され てい る。 これ は技術的な説明 だけに留ま らず、関連す る トピックもある。 コ ンピュータとは直接に関係無い トピックも多 く、
これ もまた読者の興味をそそ る。本書の中の図 と説明だけ読むだ けで もコンピュー タの技術や それ に関連す る原理 について理解す ることがで きる。著者 はコンピュー タの基礎 について26年 間に渡 って教育 してきた専門家である。 この経 験が、確実に分か る図式による説明を可能 に し た と考 え られ る。
ス トー リー性 を配慮 した本書 を読 めば、 コン ピュー タの知識 が全 く無 くて もコンピュー タが 何故生まれて、その構造や仕組みが どうなって い るかを知 ることができる。 さらに読者対象 を 文系の うち、特 に ビジネスに焦点を当ててい る ことも経営学や経済学を学ぶ学生にはコンピュー タやネ ッ トワー クを身近 なもの として理解 をす ることができる。書名 に 「入門」 とついてい る が、読み終わる と入門 どころか相 当量の知識 が 身 に付いてい る。学生 よ りも一般読者 にも是非 読んで貰いたい ものである。惜 しむ らくは 「入 門」 とつけて しまった ことである。 明 らかに入 門書 としてだけではな く資料の豊富な専門書 と なってい る。
昨今、e‑1earningをは じめ と して教 育 の コン テ ンツの重要性 が言われてい る。 コンテ ンツは 140国際経営論集 No.34 2007
いかに学生に持続す る興味 を持たせ、理解 させ ることができるかが問題 であるとい う。そのた めにはス トー リー性 を持たせ ることが必要であ ると言われてい る。本書は このス トー リー性 を 重視 した ものであ り、かつ各章毎に章末 にま と めを配置 し、学生の勉学のための便宜が図 られ てい る。長年の教育歴 を有す る著者 に しかでき ない本 となってい る。 コンピュー タは難 しそ う で勉強は した くない と思 っている先生方、また スパムメール に困ってい る先生方 にも朗報 を与 えて くれ る本 と信 じてい る。
本書の内容 については紙面の制約で十分 に記 述できなかった。その内容 の多用 さと奥深 さを 紹介す るために、以下に本書の 目次 を示す。
目次
第1章 最初の電子計算機ENIACの誕生 第 2章 ノイマ ンのプ ログラム内蔵方式 と
EDSAC
第3章 情報 の処理 Ⅰ (原理 とハー ドウェア) 第 4章 情報の処理Ⅱ (ソフ トウェア とプ ログ
ラム)
第5章 情報の処理Ⅲ (論理回路 と回路素子) 第6章 情報の表現Ⅰ (数値)
第7章 情報の表現Ⅲ (文字 ・画像 ・バー コー
ド )
第8章 パー ソナル コンピュー タの登場 とネ ッ トワー クの苓明期
第9章 情報の伝達Ⅰ(コンピュータネ ッ トワー クの誕生)
第10章 情報の伝達Ⅲ (イ ンターネ ッ トの しく み)
第11章 情報のセ キュ リテ ィⅠ (脅威 の現状) 第12章 情報のセキュ リテ ィⅡ (なすべきこと) 第13章 暗号 とデ ジタル署名
第14章 コンピュー タの活用 (環境 と経営の視 点か ら)