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言語活動の充実が学力に与える影響について(概要)
MJE15701 石崎 一水
【要旨】
現行の学習指導要領では、言語活動の充実が改善の視点の重要事項とされ、各学校では、学校の教育活動全般を通し
て言語活動の充実に取り組んでいる。しかし、言語活動の充実に関する取組が学力に与える影響はこれまで検証されて
きたとは言い難い。そこで、本研究では、ある自治体における全国学力・学習状況調査の児童個票データを用いて、言
語活動に関連する取組と学力との関係を実証的に検証する。分析に際しては、学校固定効果や家庭環境変数を含む重回
帰式の推定を行った。分析の結果、「学習目標の明示」、「公式のわけを理解」、「読書は好き」、「図書館利用」、「総合的
な学習」、「意見発表」、「発表する機会」等、いくつかの取組が学力の向上に影響を与えていることが明らかとなった。
一方、「授業の振返り」、「読書時間」、「話合い活動」、「考えを深め、広げる」等の取組は、学力の向上に課題が残る
傾向が示された。以上の分析結果を踏まえ、言語活動の充実を通して学力の向上を図るための政策提言を行った。
1. 研究の概要
1.1 研究の背景と目的
現行の学習指導要領は、小・中学校で2009年から、高
等学校の総則や特別活動等で2010年から先行実施され、
小学校では2011年、中学校では2012年、高等学校では
2013年から全面実施されている。各学校では、学習指導
要領に基づき、言語活動の充実に取り組んできているが、
言語活動の充実に関連する個々の取組が個々の児童・生
徒の学力にどのような影響を与えているのか、これまで
実証的に示す研究は行われてはいない。
そこで、本研究では、ある自治体における小学校全国
学力・学習状況調査の児童個票データを用いて、言語活
動に関連する取組と学力との関係を実証的に検証する。
全国学力・学習状況調査については、国立教育政策研究
所が実施年度ごとに詳細な報告書を公表しているが、そ
の分析は相関分析やクロス分析にとどまっている。
本研究の目的は、言語活動に関連する取組が学力にど
のような影響を与えているのかを明らかすることであ
る。そして、言語活動に関連する取組は、学校環境や家
庭環境の違いによって学力への効果は異なるのかを明
らかにすることである。
そこで、本研究では、相関分析やクロス分析に加え、
重回帰分析を行うことで、それぞれの取組が学力に与え
る効果を検証することを試みる。
1.2 先行研究
2007年度より全国学力・学習状況調査が実施され、大
規模な学力データの蓄積が行われるようになったが、学
力調査データの公開はごく限られた研究者に限定され
ているため、研究者によるこの調査の分析は、まだ一部
に限られているというのが現状である。
そのような分析例の一つである文部科学省(2009)で
は、「児童生徒の生活の諸側面等に関する分析」を重回
帰分析で行っている。また、「習熟度別・少人数指導に
ついて」の分析では、留意事項に述べられているように、
より厳密に指導の効果を測定するためには、指導実施前
後における当該児童生徒の変化を見るためのパネルデ
ータが必要である。
家庭の経済状況等が学力に与える影響について、耳塚
ら(2014)による調査研究は、実証的な分析を行っている。
これまで、日本における教育調査は保護者調査を実施す
ることが少なく、家庭環境要因と学力との関係を分析す
ることは困難であった。しかし、全国規模のサンプルを
用いて分析・検証されたことにこの研究の意義がある。
分析の手法は、家庭の社会経済背景として、家庭の所
得、父親学歴、母親学歴を合成変数として投入した重回
帰分析を行っている。これにより、家庭の社会的経済背
景を制御できるため、分析結果の信頼性が向上している。
これまでの先行研究で学力調査データを用いた実証
的な研究の蓄積が徐々に進みつつあるが、現行学習指導
要領の下で、改善の重要事項として取り組んでいる言語
活動の充実による学力への影響は、これまで実証的な分
析によって明らかにされていない。そこで、学力調査の
個票データを用い、学校や家庭の影響を考慮した上で、
言語活動の充実に関連する個々の取組が個々の児童・生
徒の学力に与える影響を本研究で分析・検証する。
2. 分析の方針
2.1 仮説
本研究では、以下の仮説を検証する。
2.2 分析の手法
児童生徒の個票データを用いて、学校環境変数及び学
校固定効果、家庭環境変数を含めた推定式の最小二乗法
による重回帰分析を行う。
2.3 分析に用いるデータ
仮説
学校教育全体を通して言語活動の充実に取り組む
ことは、学力の向上に影響を与える。
2
本研究では、A県のある自治体における2015年度全国
学力・学習状況調査結果の小学校児童個票データを使用
する。分析の対象は、公立小学校とし、言語活動に関連
する取組と学力の関係について分析を行う。使用するデ
ータは、国語A・国語B・算数A・算数Bの正答数、児童
質問紙回答値、学校質問紙回答値である。
3. 分析結果
3.1 重回帰分析結果
言語活動に関する取組が学力の向上に与える効果を
より明らかにするために、学校環境変数及び学校固定効
果、家庭環境変数を投入し、それらの要因を制御した推
定式による重回帰分析を行う。
推定式は以下のとおりである。
𝑆𝑐𝑜𝑟𝑒𝑖𝑗 = 𝛽0+ 𝐀𝑖𝑗・𝛃1+ 𝐁𝑖𝑗・𝛃2+ 𝐂𝑖𝑗・𝛃3+ 𝐗𝑖・𝛄 +
𝑎𝑗 + 𝜀𝑖𝑗
Score = 2015年度全国学力・学習状況調査の各科目児童
偏差値
A = 受信型の活動
B = 発信型の活動
C = 国語授業に関するもの
X = 第6学年クラスサイズ、家庭学習ダミー、学習塾ダ
ミー、家庭内の会話ダミー、新聞を読むダミー、
ニュースを見るダミー
𝛃 = 係数パラメータ、𝛄 = 係数パラメータ
𝑎= 学校固定効果ダミー、i = 児童、j = 学校、
ε = 誤差項
なお、学校固定効果とは、学校固有の教育資源や教育
活動など、それぞれの学校の教育効果を反映させたもの
である。学校固定効果を推定式に含めることによって、
学校間の教育効果の差を制御し、学校による平均的な違
いを取り除いた上で教育効果を推定することができる。
重回帰分析結果から、言語活動に関連する取組で学力
と統計的に有意な関係のある取組を抜粋すると、表1及
び表2のとおりとなる。
表1 学力と正で統計的に有意な関係のある取組
注)*p<0.10, **p<0.05, p<0.01
表2 学力と負で統計的に有意な関係のある取組
注)*p<0.10, **p<0.05, p<0.01
3.2 分析結果の解釈
(1) 学力と正で統計的に有意な関係のある取組
言語活動に関する取組で、正で統計的に有意となった
のは、表1で示したとおり、10の取組である。以下、そ
れぞれの分析結果の解釈を行う。
ア 学習目標の明示
言語活動の充実に関連する取組として学習目標を明
示することは、現行の小学校学習指導要領で示され、学
習者である児童自身が主体的に学ぶことを目的として
行われている。小学校では、学習目標を示して児童に学
習の見通しをもたせる指導は、ほぼどの学校でも定着し
ているといえよう。分析結果から、4科目全てでこの取
組による学力向上の効果が統計的にも有意に認められ
た。このことから、授業のはじめに児童に学習目標を示
し、見通しをもたせる取組は、児童が主体的に学ぶ意欲
を高める効果があると言える。
イ 公式のわけを理解
児童質問紙の質問内容は、「算数の授業で公式やきま
りを習うとき,そのわけを理解するようにしていますか」
というもので、児童が目的意識をもって主体的に算数に
取り組んでいるかを問うものである。分析結果から、こ
の取組は、学力との関係で最も大きな影響を与えている
ことが分かった。また、算数だけではなく、国語でも学
力にプラスの影響を与えることに注目したい。算数の授
業内容が、国語の学力にプラスの影響を与えているとい
うことは、主体的な学習活動が学力の向上に効果がある
ことを示唆していると考えられる。
ウ 図書館利用
図書館を月に1回以上利用している児童は、学力との
関係で4科目全て正で統計的に有意となっている。児童
が読書に親しむ機会は、家庭環境によって違いがあるこ
とが想定されるが、学校や地域の図書館を定期的に利用
することで家庭環境の違いを克服できる可能性をこの
結果は示唆している。
エ 読書は好き
前述した図書館利用と同様に、読書が好きな児童は、
4科目全てにおいて学力との関係は正で統計的に有意と
なっている。この分析結果は、読書が好きな児童は、国
語の成績がよいと一般的に思われてきたことを実証的
に示したものである。また、読書が好きなことは、国語
授業の振返り -0.534 * -0.931 *** -0.651 ** -1.138 ***
読書時間 -0.376 -0.576 * -0.607 * -0.930 ***
話合い活動 -1.296 *** -0.846 ** -1.224 *** -0.983 ***
考えを深め、広げる -1.526 *** -1.843 *** -1.574 *** -1.935 ***
N 4,484 4,484 4,484 4,484
Ajusted R2 0.243 0.225 0.204 0.225
国語A 国語B 算数A 算数B
学習目標の明示 3.008 *** 2.994 *** 2.486 *** 2.676 ***
公式のわけを理解 1.918 *** 2.306 *** 3.533 *** 3.641 ***
図書館利用 1.249 *** 1.306 *** 1.510 *** 1.456 ***
読書は好き 2.507 *** 2.251 *** 1.069 *** 1.170 ***
意見発表 1.714 *** 1.263 *** 2.106 *** 2.376 ***
発表する機会 2.253 *** 2.184 *** 2.047 *** 2.313 ***
総合的な学習 0.878 ** 0.968 *** 0.601 * 0.826 **
感想・説明を書く 1.454 *** 0.761 * 0.195 1.073 **
解き方を書く 0.428 0.816 *** 0.419 0.609 **
文章をまとまりで理解 0.968 *** 0.802 ***
N 4,484 4,484 4,484 4,484
Ajusted R2 0.243 0.225 0.204 0.225
国語A 国語B 算数A 算数B
3
だけではなく、算数にもよい影響を与えることは新たな
知見である。この結果から、児童の言語能力を高め、考
える力を育成するためには、児童が読書に親しむための
取組を積極的に行う必要があることが示唆される。
オ 意見発表
友達の前で自分の考えや意見を発表することが得意
だと思う児童は、4科目全てで学力が高く、その関係は
統計的に有意となっている。人前で自分の考えや意見を
発表するときには、筋道を立てて分かりやすく表現する
能力が必要である。そうした能力を育成することは、学
力の向上にプラスの影響を与える可能性が考えられる。
カ 発表する機会
授業を含めたあらゆる教育活動の場面で、児童が自分
の意見や考えを発表する機会を確保することは、言語活
動の充実を図っていく上で大変重要なことである。分析
結果から、4科目全ての科目で学力との関係において統
計的に有意な正の関係になっている。児童が発表する機
会を確保し、言語活動の充実を図っていくことは、学力
にプラスの影響を与える可能性があることが示唆され
る。ただし、様々なタイプの児童がいるため、児童間の
関係等を把握した上で、小グループでの発表から学年や
学校全体での発表など、適切な場面を設定しながら指導
していく体制を整えていくことが必要である。
キ 総合的な学習
自分で課題を立てて情報を集め整理して、調べたこと
を発表するなどの学習活動に取り組んでいる児童は、学
力との関係において国語A、国語B、算数Bで有意な正
の関係となっている。総合的な学習については、定着率
からも推測されるように、各学校間で取組の差があるこ
とを留意しておく必要があるが、学習活動のねらいを明
確にして取り組んでいる学校では、学力向上の効果が出
ていると考えられる。
ク 感想・説明を書く
原稿用紙2~3枚の感想文や説明文を書くことを難し
いと思わないと回答した児童は、学力との関係において、
国語A、国語B、算数Bで統計的に有意な正の関係とな
っている。この分析結果で注目すべき点は、国語だけで
なく、文章の理解力や論理的思考力が必要とされる算数
Bで学力にプラスの影響が出ていることである。このこ
とは、文章を分かりやすく書く力を育成していくことに
よって、国語だけでなく、他の教科の学力向上につなが
る可能性があることを示唆している。
ケ 文章をまとまりで理解
文章をまとまりで理解することを行っていると回答
した児童は、学力との関係では、国語A、国語Bともに、
統計的に有意な正の関係となっている。文章をまとまり
で理解するためには、文章全体の構成を把握したり、文
章に書かれている理由や根拠に注意したりして読み取
る能力が必要とされる。こうした能力は、資料を調べて
必要な情報を集め、自分の意見や考えをまとめるときに
大切なものである。このような能力を高めていくことは、
学力の向上にプラスの影響を与えることになる。
コ 解き方を書く
算数の授業で問題の解き方や考え方が分かるように
ノートに書いている児童は、学力との関係で国語B、算
数Bで統計的に有意な正の関係となっている。国語A、
算数Aでは統計的に有意となっていないが、説き方や考
え方が分かるようにノートに書くのは、活用力が必要と
されるB問題との関連が強いことが考えられる。ただし、
学力への影響は、児童が理解した上で書いている場合と
理解が不十分なまま書いている場合とで分かれている
のではないかと推測する。そのため、この取組が学力に
プラスの効果をもたらすのは、児童が理解した上で書い
ている場合に限られるのではないだろうか。
(2) 学力と負で統計的に有意な関係のある取組
言語活動に関する取組で、負で統計的に有意となった
のは、表2で示したとおり、4つの取組である。以下、そ
れぞれの分析結果の解釈を行う。
ア 話合い活動
話合い活動は、小集団学習やグループ学習として授業
の中で取り入れられている。授業で学級の友達との間で
話し合う活動をよく行っていたと回答した児童は、4科
目全てで学力と負で統計的に有意な関係が認められる。
なぜ、このような結果となるのであろうか。考えられ
る要因の1つとしては、話合い活動が授業の中でうまく
機能していないことである。授業で話合い活動を行う場
合、教師が計画した展開に沿って行われ、多くの場合、
教師が予定した結論に達することが求められる。グルー
プによっては、求められている結論に達するグループも
あれば、中途半端に話合いが終わり、結論に達すること
ができないグループが出ることが考えられる。グループ
への指導が不十分な場合は、話合い活動を授業でうまく
活用することができなくなる。話合い活動は、教師の力
量や学校の指導体制で大きな差が出る活動である。
もう1つの要因として、習熟度の高い児童は話合い活
動から充実感を得ていない可能性が考えられる。その理
由として、小グループにおける役割が関係していると考
えられる。習熟度の高い児童は、その役割として教える
側になり、自分の考えを発展させる機会が少なくなる可
能性がある。習熟度の高い児童に対して、教師がその役
割の大切さを理解させる指導を行っていない場合、習熟
度の高い児童にとって小グループでの話合い活動は、退
屈な時間となるおそれもあるだろう。
言うまでもないことではあるが、ここでの結果は話合
い活動をやめるべきであるということを意味している
のではなく、低学年から高学年まで、話合い活動を行う
4
ときの共通認識をもって行っているか、授業のどのよう
な場面で話合い活動を取り入れるかなど、学校の指導体
制の見直しなどを通じて、話合い活動がうまく機能する
ようにする必要があることを示唆している。
イ 考えを深め、広げる
この活動は、話合い活動を通して、児童が自分の考え
を深めたり、広げたりすることが求められる。各教科で
行われているこのような活動が、児童にとって考えを深
め、広げる活動としてどの程度認識されているだろうか。
考えを深め、広げる活動を行っていると回答した児童は、
26%となっており、この回答状況から、話合い活動を通
して自分の考えを深め、広げることができていると実感
している児童は多くはないことが推測される。
「話合い活動」で前述したように、考えを深め、広げ
る活動では、小グループ内で習熟度の高い児童と低い児
童が意見を出し合うことが想定される。話合いの場面で
は、習熟度が高い児童が意見を出し、習熟度が低い児童
が意見を聞く側になることが考えられる。その場合は、
習熟度の高い児童よりも習熟度の低い児童の方が、話合
い活動で自分の考えを深め、広げることができていると
実感し、学習の効果を感じていることが考えられる。
教師は、話合い活動を通して児童同士が、教え合い、
学び合うことができるようにグループ間で習熟度を考
慮した適切な人員配置をする必要がある。特に重要なの
は、教師が一人一人の児童に話合い活動におけるそれぞ
れの役割の意義を説明し、理解させることである。とり
わけ、習熟度の高い児童が話合い活動を通した学習の意
義を理解すること、つまり、自分の意見や考えを分かり
やすく相手に説明して理解してもらうことが本人を含
めたグループ内の理解を深めることになると実感して
いるかどうかが、この活動の鍵となると言えよう。
ウ 授業の振返り
授業を振り返る活動は、計画的に行うべき重要な改善
事項として学習指導要領に明記されている。この活動は、
現在、どれだけ定着しているのだろうか。授業の振返り
を行っていると回答した児童は、31%である。学習目標
が授業のはじめに示されていると回答した児童は、63%
であるため、約半分の定着率となる。
それでは、なぜこの活動が、あまり定着せず、国語B、
算数A、算数Bの3科目において学力に負で有意な関係と
なるのだろうか。第一の要因は、この活動に対して児童
の受け止めが低いことである。教師は、目標やめあての
提示は工夫して必ず行っているが、授業後半のまとめや
振返りは、授業の導入よりも更に教師の力量が問われる
ため、学力向上に結び付くような振返りを行えていない
ことが考えられる。また、教師の側では、授業の振返り
を行っていると考えていても、児童はそう受け止めてい
ないことも考えられる。
第二の要因は、授業の振返りの効果である。学習目標
の明示は授業のはじめに行われるため、児童の興味・関
心を高め、記憶にも残りやすい。一方、授業の振返りは、
授業で行ったことを再度確認することになるため、印象
に残りにくいという違いがあるのではないか。また、習
熟度の高い児童が、授業の最後に行われる振返りを単な
る繰り返しとして受け止めている可能性も考えられる。
もし、習熟度の高い児童がそのように受け止め、習熟度
の低い児童が振返りが自分に役立っていると受け止め
ていれば、学力への影響がプラスに出ないことになる。
授業の振返りの効果は、教師の力量に関わってくるも
のだが、学力向上に与える影響は大きくはないと言える
かもしれない。ただ、この取組の目的は、児童が主体的
に学習することを促すためのものであり、「児童が学習
の見通しを立てたり学習したことを振り返ったりする」
習慣を身に付けさせることに主眼を置くべきではない
だろうか。教師の指導法よりも、児童がどれだけ主体的
に学習しているかに着目すべきであると考える。
エ 読書時間
読書好きであることは、学力に正の影響を与えている
ことを前述したが、平日に1日当たり30分以上読書をす
ると回答した児童は、全ての科目において学力に負の影
響が見られる。これはどのように考えるべきだろうか。
読書時間と学力との関係を考えるため、読書時間を細
分化して重回帰分析を行うと、読書を平日1時間以上す
ることは、4科目全てで統計的に有意な負の関係となっ
ている。読書時間が30分以上で1時間より少ない場合は、
統計的に有意となってはいないが、マイナスの影響は出
ていないと考えられる。
この結果から言えることは、読書時間が平日1時間よ
り長くなると、学力に負の影響を与えるということであ
る。その理由として、読書を長時間することによって家
庭学習の時間が少なくなり、宿題や授業の復習等にマイ
ナスの影響を与えていることなどが考えられる。家庭学
習の時間と読書の時間のバランスをうまく取ることの
できない児童には、読書が弊害となる可能性がある。
4.更なる分析
4.1 通塾と言語活動の関係
公立小学校は、家庭環境が異なる様々な児童が通って
いる。学校外教育施設である学習塾への通塾もその1つ
である。学習塾に通っている児童と通っていない児童で
は、言語活動に関連する取組の効果は異なるのだろうか。
非通塾の児童において、全ての科目で学力に統計的に
正で有意な関係となっている取組は、「学習目標の明示」、
「公式のわけを理解」、「図書館利用」、「読書は好き」、
「発表する機会」、「解き方を書く」の6つである。非通
塾の児童では統計的に有意とならず、通塾の児童に有意
5
となったものに「感想・説明を書く」、「文章をまとまり
で理解」がある。分析結果から分かることは、多少の違
いは見られるものの、通塾の有無によって学力の向上効
果で偏りが出る可能性は少ないと言えよう。
4.2 クラスサイズが言語活動に与える影響
言語活動の充実を図る上で、学級の人数はどのように
関係しているのだろうか。学級の人数(クラスサイズ)
を、31人以上と30人以下に2分し、その違いを比較する
ことにより、クラスサイズが言語活動に関連する取組の
効果に与える影響を検証する。
クラスサイズ31人以上と30人以下の両方に共通して4
科目全てで学力と統計的に正で有意な関係となってい
るのは、「学習目標の明示」、「公式のわけを理解」、「発
表する機会」の3つである。分析結果から、「話合い活動」
での学力への効果は、クラスサイズが31人以上では学級
規模が小さい方が望ましいということが分かる。全体の
傾向として、クラスサイズが31人以上では、言語活動に
関連する取組の効果は弱くなると考えられる。
4.3 2015年度小学校・中学校データの分析結果比較
言語活動に関連する取組で、小・中学校で学力と正で
有意な関係が認められる取組は、「学習目標の明示」「公
式のわけを理解」、「図書館利用」、「読書は好き」「意見
発表」、「発表する機会」、「解き方を書く」、「文章をまと
まりで理解」の8つである。一方、学力と負で有意な関
係が認められる取組は、「授業の振返り」、「読書時間」、
「話合い活動」、「考えを深め、広げる」の4つである。
小学校では学力と正で有意な関係が認められた取組
で、中学校では学力と正で有意な関係が認められなかっ
た取組は、「総合的な学習」と「感想・説明を書く」の2
つである。また、小学校では学力と正で有意な関係が認
められなかった取組で、中学校では学力と正で有意な関
係が認められた取組は、「学級内の協力」、「考えを表現
する」、「理由に気をつけて書く」の3つである。
5. 結論と政策提言
5.1 結論
分析結果を総合すると、言語活動に関連する取組と学
力との関係について次のように述べることができる。
なお、留意すべきこととして、学力と負で有意な関係
が認められたからといって、その取組を行わない方がよ
いということでは決してなく、改善の視点として捉える
べきものであるということである。
また、実証分析によって得られた結果は、全体の平均
的な傾向を示すものであるため、全ての学校に当てはま
るものではないということに留意すべきである。
5.2 政策提言
A県の公立小学校に対して政策提言を行う。
第1の提言は、「児童に学習の目的意識をもたせること」
である。分析結果から明らかになったことは、学習目標
を授業のはじめに明示することは、学力の向上に結びつ
いているということである。言語活動に関連する取組を
通して、児童が学習の目的意識をもち、主体的に学ぶ活
動を充実させていく必要がある。
第2の提言は、「児童が発表する機会を確保すること」
である。友達の前で自分の考えや意見を発表することが
得意だと思う児童や発表する機会が確保されていると
思う児童は、学力が高い傾向があることが分析結果から
明らかとなっている。発表する機会を確保することは、
児童の学力を向上させるという目的を達成するための
手段である。目的を明確にして行うことが必要である。
第3の提言は、「話合い活動の指導体制を整えること」
である。話合い活動によって自分の考えを深めたり、広
げたりすることができるようにするためには、目的を明
確にして、低学年から高学年まで一貫した指導体制で行
う必要がある。授業等で話合い活動を行う際には、教師
が児童に具体的な視点を示しながら、児童の言語活用能
力を発達段階に応じて高めていく必要がある。
第4の提言は、「児童が読書に親しむ機会を提供するこ
と」である。分析結果から明らかとなったことは、読書
が好きな児童、図書館をよく利用している児童、新聞を
読んでいる児童は、学力が高い傾向があることである。
学校で児童に読書に親しむ機会を提供することは重要
であり、家庭で読書に親しむ機会が少ない児童にとって
は、学校や地域の図書館は、貴重な教育資源となる。
次に、A県の教育委員会に対して政策提言を行う。
第1の提言は、「言語活動の充実に関する取組で成果を
上げている具体的な事例を示すこと」である。学校への
情報提供や授業公開を行うことによって、有効な取組を
広げていくことが重要である。
第2の提言は、「全国学力・学習状況調査等の有効利用
を図ること」である。データに基づく有効な取組を各学
校へ還元することは、今後一層重要になるであろう。
5.3 課題
今後の課題は、学校の取組の効果をより深く知るため
のパネルデータによる分析である。自治体独自で行って
いる学力調査等のパネルデータを用いることができれ
ば、より詳細な分析を行うことが可能となる。
学校教育全体を通して言語活動の充実に取り組むことは、
学力の向上に影響を与える。
言語活動に関連する取組で、学力と正で統計的に有意な関
係が認められたのは、「学習目標の明示」、「公式のわけを理
解」、「図書館利用」、「読書は好き」、「意見発表」、「発表する
機会」、「総合的な学習」、「感想・説明を書く」、「解き方を書
く」、「文章をまとまりで理解」である。
一方、学力と負で有意な関係が認められたのは、「授業の
振返り」、「読書時間」、「話合い活動」、「考えを深め、広げる」
である。