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第2章 逐次合成によるアミド架橋白金ナノワイヤー合成の試み

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Academic year: 2022

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第2章 逐次合成によるアミド架橋白金ナノワイヤー合成の試み

2−1  緒言

金属核が一次元方向にスタックした部分酸化型錯体は、ナノ導線への期待の高まりに比 例して近年注目を集めている。第1 章で述べた通り、既知の部分酸化型一次元鎖のうち全 ての金属が架橋された「単分子での取り扱いが可能なdiscrete chain」はナノ導線としての応 用が期待できると考えられる。現在までに合成されているそのようなdiscrete chainは全て、

配位子の長さにより金属鎖の長さが決定される、即ち配位子によって鎖長が制御される

discrete chainである。1 但し、これらは鎖長が伸びれば伸びる程金属鎖形成の確率が下がる

ため、長鎖化は困難である。

全ての金属が架橋された白金一次元鎖の構造としては、第 1 章に記した架橋配位子が交 互に位置した二架橋型の構造も考えられる(Fig. 2-1)。このような部分酸化型白金一次元 鎖の構築は、これまでに合成法は提唱されていたが実現には至っていない。2

Fig. 2-1 Pt nanowire Fig. 2-2 Pt multinuclear complexes derived from [Pt(amine)2(amidate)2].

一方、このような全ての金属核が架橋された一架橋型の構造はPtAg錯体等では実現され ているが (Fig. 2-2 (a))、3 Ptのみではこのような構造はまだ得られていない。このようなPt 多核錯体構築の困難さを示す例として、白金単核錯体Pt(amine)2(amidate)2を出発原料とした

(2)

PtMPt型三核錯体がこれまでに多数構築されているにも関わらず、4 M = Ptの直鎖状アミド架橋 Pt三核錯体の合成は実現していないことが挙げられる(Fig. 2-2(b))。他の遷移金属の場合と 同様に、比較的置換され易い配位子を有する白金単核錯体[PtCl4]2– と 2 等量以上の [Pt(amine)2(amidate)2]とを反応させても、1段階目の反応は進行し二核錯体は形成されるが2 段階目の反応は進行しないことが報告されている (Scheme 2-1(b))。2,5 また類似の白金単核 化合物[Pt(bpy)(µ-ampy)2] (ampyH = 2-aminopyridine)では、極めて置換され易いOH2配位子を 有するcis-[Pt(NH3)2(OH2)2]2+ との反応も進行しにくいことが確認されている。6

このように白金錯体では配位子があまり容易に置換されないため、これまでFig. 2-1のよ うな構造を構築するのは困難であると考えられてきた。しかし、それだけの理由でナノ導 線としての可能性を秘めたこの白金一次元構造体の構築を断念することは早計と思われる。

そのため本章ではFig. 2-1に示した白金ナノワイヤーの構築を目指し、種々の検討を行った。

上述の通り、白金単核錯体Pt(amine)2(amidate)2は各種多核錯体の出発原料として知られている。

最もシンプルな構造を有する cis-Pt(NH3)2(NHCOCH3)2 については、1994年 B. Lippertらによ って、cis-[Pt(NH3)2(NCCH3)2]2+ をNaOH aq.で加水分解することにより得られることが報告され た。3,7 さらに、pivalamideの場合も同様の方法でcis-Pt(NH3)2(NHCOC(CH3)3)2 (1) が得られるこ とが、2000年に当研究室の陳により確認された。8 これらの反応では、Pt(II)単核錯体の配位平 面のhalide配位子をAg+を用いて引き抜き、nitrileを導入した後、nitrileを加水分解することによ り配位子のhalideがアミドへ変換されている(Scheme 2-1 (a))。また、1990年にB. Lippertらによ りcis-Pt(amine)2(amidate)2とK2PtCl4との反応により、配位子置換が起こり白金二核錯体が得られ ることも見出されている(Scheme 2-1 (b))。2

Scheme 2-1 これらの知見より、

(1) 配位平面へのhalide配位子の導入

(2) halide配位子からアミド配位子への配位子の変換

(3)

(3) amide配位子のOと次に導入する白金単核ユニット上の配位子との配位子置換反 応(架橋配位の形成)

の 3 通りの反応の繰り返しにより、合成的に核数を制御しながら鎖長を伸ばしていく逐次 合成が可能であろうと考えられる(Scheme 2-2)。このように多核構造を構築した後、部分 酸化を行うことでFig. 2-1に示した白金ナノワイヤーが得られるものと考えられる。多数の 過去の白金多核錯体合成に関する知見から、9,10 アミド架橋Pt二核ユニット構築という観点 から見て、pivalamideは環状アミド類と比較して非常に配位力が高く、より温和な反応条件 でも素早く架橋配位子となる、好都合な配位子であることが分かっている。また、筆者は 本検討に着手する前に錯体1の合成法の改良を行っており合成的知見を有していた。そのため、

まずpivalamideを用いて白金ナノワイヤー合成の検討を行うこととした。

Scheme 2-2.

 

2−2  結果と考察

2-2-1  配位平面にhalide配位子を有するpivalamidate架橋白金二核錯体の合成 2-2-1-1  配位平面にhalide配位子を有するpivalamidate架橋Pt(III)二核錯体の合成 11 配位平面にCl配位子を有する白金ブルー類縁体

  配 位 平 面 にhalide配 位 子 を 有 す る 白 金 二 核 錯 体 を 合 成 す る た め に 、 既 報 に 従 い cis-[Pt(NH3)2(NHCOC(CH3)3)2]・H2O (1) を合成し、8 K2PtCl4との反応を試みた。

B. Lippert らによる報告ではmethylthymine(MeT)を架橋配位子として用いた場合には、

配位平面にCl配位子を有する[Pt2(NH3)2Cl2(MeT)2]、[Pt2(NH3)3Cl(MeT)2][Pt(NH3)3Cl] の2種類 のPt(II)二核錯体の合成例が報告されている (Scheme 2-1 (b))。2 これに対してpivalamideの 場合には、錯体1とK2PtCl4の水溶液を混合したところ、速やかに紺色の沈殿が析出した。

ESI MS測定や元素分析の結果から、この沈殿は白金ブルー12 と同様に白金二核ユニットが

二量化し一電子酸化されたPt(+2.25)四核錯体 [Pt2(NH3)2(NHCOC(CH3)3)2Cl2]2

+ (2a) である と考えられるが、その結晶化には至っていない。

(4)

部分酸化状態をとってはいるもののこの錯体2aも配位平面にCl配位子を有していると考 えられるので、まずこの錯体2aの配位平面のCl配位子の置換を試みた。pivalamideをそのま ま加えても変化が見られなかったため、錯体1合成時の手順(Scheme 2-1)通りに配位子の 変換を試みた。まずCl配位子の引き抜きを行うべく錯体2aの懸濁水液中にAg塩を加えてみ たが、錯体1合成の場合とは異なりAgClの生成は見られなかった。溶媒をMeOH、MeCN等 の有機溶媒に変えても、やはり結果は同じであった。

このようにClの引き抜きが上手く行かなかった原因を考察する際に、錯体2aは結晶化が 困難であり構造確認に不安が残るため、目的の構造を取っていない可能性も捨てきれない。

そのため、まずは結晶状態で単離出来る化合物を得た上でClの引き抜きを検討したほうが 賢明であろうと考えた。また、混合原子価をとっている錯体2aは極めて濃い紺色を呈して いたために変化が見えにくかった可能性も考えられる。配位平面及び軸位にCl配位子を有

するpivalamidate架橋Pt(III)二核錯体であれば、過去に松本研究室の山田により極めて低収率

ながら[PtIII2(NH3)2(NHCOC(CH3)3)2Cl4] (3a)の結晶状態での単離がなされており、13 さらに 松本研究室の陳による合成法の改良により収率10 %で得られることも見出されている。14 今回の逐次合成では同様の反応を繰り返して鎖長を伸ばす必要があるため、この収率のま ま原料錯体として錯体3aを使うには非常に難がある。そのためまず錯体3aの合成法を改良 し、ある程度収率の向上が見られた場合、Clの引き抜きを検討することとした。

配位平面にCl配位子を有するpivalamidate架橋Pt(III)二核錯体の合成と観察

錯体3a [PtIII2(NH3)2(NHCOC(CH3)3)2Cl4] の合成法の改良を行うにあたり、まず各種酸化剤 を再検討した。Na2S2O8を用いたところ、錯体2aの水懸濁溶液を加熱しながら反応させると、

[PtIII2(NH3)2(NHCOC(CH3)3)2Cl3]+ (3a’) が溶液内に生成してくることがESI MSにより確認さ れた。しかし、より安定であると予想された錯体3aの形成は見られなかった。軸位へのCl の配位を促すために錯体3a’の反応溶液内へKClやNaClを加えたところ、錯体3a’の白金二核 骨格のピークは溶液内から消失し、黄色の沈殿が大量に析出した。そのため、この黄色沈 殿が錯体3aであると予想して各種同定を試みたところ、予想に反して、得られた黄色沈殿 は全て錯体3a’が分解したと思われるPt(IV)単核錯体であった(詳しくは後述)。加えるCl

ソースをconc. HClに変えたところこのPt(IV)単核錯体への分解はある程度抑えられ、目的の

Pt(III)二核錯体[PtIII2(NH3)2(NHCOC(CH3)3)2Cl4] (3a) が収率 47 %で得られるようになった。

錯体3a’が水溶液として得られるのに対して、錯体3aは水に不溶であった。この錯体3aのX

(5)

線結晶構造解析結果をFig. 2-3に、結晶学データをTable 2-S1に、各種構造パラメーターを

Table 2-1にそれぞれ示す。軸位のPt−Cl距離を比較すると、明らかに配位平面にCl配位子を

有するPtの方がPt−Cl距離が短いため、錯体3a’における軸配位子Clは恐らく配位平面にCl 配位子を持つPtに配位していると考えられる。

Table 2-1 Selecte parameters of 3a.

d structural

Bond distances (Å)

Pt1-Pt2 2.6184(9) Pt1-Cl4 2.445(3) Pt2-Cl1 2.299(3) Pt2-Cl2 2.292(3) Pt2-Cl3 2.400(3)

Bond angles (deg) Cl3-Pt2-Pt1 172.48(9) Cl4-Pt1-Pt2 167.67(7) Fig.2-3 Crystal structure of 3a.

Fig. 2-4 195Pt NMR spectrum of 3a’ in D2O.

(6)

錯体3a’溶液の195Pt NMR測定を行うとFig. 2-4のようになった。Pt周りの配位原子のうちO はNMR silentであるが、14Nは I = 135Cl(37Cl)は I = 3/2であるため、それぞれPtシグナルに 対して何らかの影響を与えると考えられる。14Nについては、I = 1であるためにピーク分裂 を起こし、さらに四極子モーメントを持つためピークの広幅化を示すことが、これまで数 多くのPt錯体について報告されている。15 これに対して35Cl(37Cl)は I = 3/2であるが、緩和 時間が非常に短いため通常相互作用の平均値しか観測されず、ピーク分裂は観測されない ことが多い。16 今回得られた錯体3aではX線解析で架橋アミドのNとOの違いが殆ど分から ないため、架橋配位子の取りうる向きはFig. 2-4中に示した3通りが考えられる。しかしなが

ら、Fig. 2-4で得られた195Pt NMRでは低磁場側のピークは非常にシャープであり、この低磁

場側に現れたPtにNが全く配位していないのは明らかである。そのため、錯体3a’は一番左 側の構造であると考えられる。

ここで、先程の錯体3a’からPt(IV)単核錯体への分解反応について考えることにする。195Pt NMRの結果やClの高い電気陰性度を考慮すると、錯体3a’の2つのPtはPtIII(N4)−PtIII(Cl2O2) よりも寧ろPtII(N4)−PtIV(Cl2O2)に近い状態に大きく分極しているものと考えられる。このよ うな分極は、軸配位子にalkyl基を持つアミド架橋Pt(III)二核錯体では広く見られる現象であ る(詳しくは第4章)。10 Pt(III)二核錯体がPtII(N4)−PtIV(Cl2O2)に分極していたとすると、Cl のPtへの求核攻撃はPt(N4)よりもPt(IV)に近いPt(Cl2O2)に対しての方が起こり易いはずであ る。そのため、二核錯体から単核錯体への分解が優先的に起こるものと考えられる(Scheme

2-3)。実際、X線結晶構造解析により生成を確認したPt(IV)単核錯体をScheme 2-3 に示して

いるが、KCl又はNaCl添加直後に発生する黄色粉末はPt(Cl2O2)由来と考えられる[PtIVCl6]2–で あり、この仮説を裏付けているものと思われる。

Scheme 2-3.

(7)

配位平面にBr配位子を有するpivalamidate架橋Pt(III)二核錯体の合成

もし上述の通りClの高い電気陰性度により極度の分極が引き起こされ、その結果錯体3a が形成しにくいのであるとすれば、配位子をClからBrに変えることで錯体の安定度を大幅 に上げることができると期待される。と言うのは、

(1) Brの方がClよりも電気陰性度が低いため、分極がある程度抑えられる

(2) Brの方がClよりも原子半径が大きいため、Pt(Br2O2)へのBrの攻撃が起こりにくい の2点が期待できるためである。

  そのため錯体3aと同様に反応を検討したところ、[PtIII2(NH3)2(NHCOC(CH3)3)2Br4] (3b) が 予想通り高収率(89 %)で得られた。非常に興味深いことに、錯体3bは錯体3a’のような中 間体では安定化せずに、速やかに軸配位子Brの配位した錯体3bの粉末として得られ、まさ に予想通りの反応となった。錯体3bのX線結晶構造解析結果をFig. 2-S1に、結晶学データを

Table 2-S1に、各種構造パラメーターをTable 2-S2にそれぞれ示す。

配位平面にhalide配位子を有するPt(III)二核錯体からのhalide配位子引き抜きの検討 当初の予定通り、配位平面にhalide配位子を有するPt(III)二核錯体が高収率で得られたた

め、halide配位子のアミド配位子への変換を試みた。

まず錯体3aのCl配位子の引き抜きを試みたが、錯体3aとAg塩とを共存させた場合には片 方の軸位のCl配位子の引き抜きは行えたものの、加えたAg塩の等量に因らずそれ以上のCl の引き抜きは全くできなかった。但し、acetone中での反応ではacetoneがC-H activationを起

こしたacetonylとなり片方の軸位に配位しており、この場合acetonylの反対側の軸位のCl配

位子も脱離しているという結果が得られた(詳しくは第4章)。11 錯体3bの場合は錯体3a

よりもhalide配位子の引き抜きが進行しており、ESI MSにより生成物の確認を行うと脱離し

たBr配位子の数が1つのものから4つのものまでが混在していた (Scheme 2-4)。acetone中の 反応に関しては錯体3aの場合と同様であった。様々な溶媒系を検討したが、残念ながら錯 体3a、3b共に、4つのhalide配位子全てを完全に引き抜くことはできなかった。

(8)

Scheme 2-4.

2-2-1-2  配位平面にhalide配位子を有するpivalamidate架橋Pt(II)二核錯体の合成

上述の通り、配位平面にhalide配位子を有するPt(III)二核錯体のhalide配位子の置換は不可 能であった。既知の「配位平面のhalide配位子が置換されている白金錯体の例」を見ても、

その大部分はPt(II)単核錯体である。

一般的に「Pt(IV)は極めて置換不活性であり、Pt(II)は比較的置換活性である」ことが知 られている。今回得られたPt(III)二核錯体ではどちらもPtII(N4)−PtIV(X2O2)に近い状態に分 極している様子が見られている。また、一般的にPt(IV)錯体では配位子の脱離能はBr > Cl

> I > NH3 の順であり、その比は5 ×103 : 1.7 × 103 : 450 : 1 であることが知られているが、17 今回の錯体3a3bについても同様の傾向が見られている。ここから判断しても、錯体3a及 び3bのPt(X2O2)がPt(IV)に近い状態になっているために、配位平面のhalide配位子の引き抜き が困難であったと考えられる。

これに対して、Pt(II)二核錯体の配位平面のhalide配位子が置換され難いことは2−1でも 述べた通り既に報告されているが、より置換不活性であると考えられる錯体3bでも反応条 件次第で多少はBrの引き抜きが進行していたことを考えると、Pt(II)二核錯体のhalide配位子 の置換は不可能で無いと思われる。そのため、配位平面にhalide配位子を有するpivalamidate 架橋Pt(II)二核錯体の合成を行うこととした(Scheme 2-5)。

Scheme 2-5.

(9)

cis-[Pt(NH3)2(NHCOC(CH3)3)2]・H2O (1) とK2PtCl4との反応では速やかに部分酸化状態の 紺色化合物である錯体2aが生成するが、錯体1とK2PtBr4との反応では、蒸留直後の水を用 いた場合一瞬緑色沈殿が生成した後紺色に変化していた。この緑色沈殿は恐らく目的の

Pt(II)二核錯体であると考えられるため、酸素を除いた条件で反応を検討することとした。

しかし、錯体1との反応では、脱気水を用いても生成物は最終的に部分酸化状態になってし まうことが分かった。過去の報告を見ると、[Pt2(NH3)2Cl2(MeT)2]の場合は脱気操作を行わ なくても(不純物の混入が無ければ)Pt(II)二核錯体で反応が止まるとの事だった。2 これ より、用いる配位子を変えることでこの酸化反応の進行しやすさは大きく変えられると考 え、錯体1類縁体の合成を行った。

各種 cis-[Pt(amine)2(NHCOC(CH3)3)2] の合成検討

錯体1の配位子を変えた各種誘導体を合成するにあたり、変換する配位子の候補としては NH3とpivalamideの2つがある。cis-[Pt(amine)2(amide)2]の合成でも、Pt二核錯体の合成でも、

pivalamideは一般的に用いられている環状アミドと比べて配位力が高く、より緩やかな条件

下でも反応が進行することが見出されている。これは今回の逐次合成において大きな利点 になると考えられる。このため、まずNH3を他のアミン類に変えた錯体1類縁体の合成を検 討することとした。

初めにRNH2 (R = Me, Et, n-Pr, n-Bu, t-Bu) を用いて錯体1類縁体の合成を試みた。いずれ の場合もcis-[Pt(RNH2)2Cl2] (R = Me (4a), Et (4b), n-Pr (4c), n-Bu (4d), t-Bu(4e)) は合成可能で

あるが、R = n-Pr, n-Bu, t-Bu の場合はRNH2 の脱離が起こりやすく、収率が低くなる傾向に

あった。さらにcis-[Pt(RNH2)2(NCC(CH3)3)2]2+ (5) の合成を行うべく、各種Ag塩を用いて cis-[Pt(RNH2)2(OH2)2]2+の形成を試みたが、R = n-Pr, n-Bu, t-Bu の場合上手く反応が進行しな かった。念のため、錯体4c (n-Pr), 4d (n-Bu), 4e (t-Bu) に直接NCC(CH3)3を加えることで錯体 5の形成を試みたが、得られた化合物はいずれもcis-[PtCl2(NCC(CH3)3)2] であった。R = Me, Et の場合、やや錯体の安定度は低下したものの、cis-[Pt(RNH2)2(NHCOC(CH3)3)2] (R = Me (6a), Et)の錯体5を経由した合成が、錯体1と同様に可能であった。錯体6aのX線結晶構造解 析結果をFig. 2-S2、結晶学データをTable 2-S3に示す。

次に二座配位子RR’NCH2CH2NRR’ (R, R’ = H, CH3) を用いて同様の検討を行った。R = R’

= H (en) の場合、錯体1と同様高収率で[Pt(en)(NHCOC(CH3)3)2] (6b) の合成が可能であった。

R = Me, R’ = H (dmen) の場合、enの場合よりもやや収率の低下は見られたものの、同様に

(10)

[Pt(dmen)(NHCOC(CH3)3)2] (6c) の合成が可能であった。R = R’ = Me (tmen) の場合、対応す るnitrile体[Pt(tmen)(NCC(CH3)3)2]2+ (5d)は 極 め て 酸 化 を 受 け や す く 不 安 定 で あ っ た 。 [Pt(tmen)(NHCOC(CH3)3)2] (6d) と部分酸化体とをH2O/CHCl3 で分液し分離することは出来 たが、錯体6d の完全な精製には至らなかった。

さらにアミン類縁体であるpyridine (py) や bipyridine (bpy) を用いて同様の合成を試み た。pyの場合、錯体1とほぼ同様の方法でcis-[Pt(py)2(NHCOC(CH3)3)2] (6e) が得られた。こ れに対してbpyの場合、[Pt(bpy)(NCC(CH3)3)2]2+ (5f) を経由して[Pt(bpy)(NHCOC(CH3)3)2] (6f) の合成を行おうとすると、錯体5f は水存在下で速やかに加水分解を受け、更に自発的に二 量化反応を引き起こすことが分かった(Scheme 2-6 (a))。そのため、錯体6f の合成は全く 異なる方法で行うことにした。

Scheme 2-6.

Scheme 2-6 (a)の 二 量 化 反 応 進 行 時 に は 必 ずpivalamideの 脱 離 を 伴 う の で 、 系 中 に

pivalamideを共存させることで平衡を錯体6f に偏らせることが可能であると考えられる。

錯体5f から6f を合成する際にOHを用いると必ず二量化が進行したことと考え合わせる と、OHが存在せず、pivalamideが過剰に存在するような反応条件を作り出せば、錯体6f の 合成が出来るのではないかと考えられる。そのため不活性雰囲気下でアミドを導入する方 法を模索したところ、脱水THF中で大過剰のLiNHCOC(CH3)3

18 を反応させることで錯体6f の合成が可能となった (Scheme 2-6 (b))。但しこの場合にも、錯体6f は容易に二量化するた め取り扱いには細心の注意が必要であった。錯体6f は実際にはPtLi錯体6f・LiClとして存 在していることが各種MS測定や元素分析結果により明らかとなった。このようなPtLi錯体 の形成は、過去にもcis-[Pt(amine)2(amide)2]とアルカリ金属との反応等で見出されている。4

(11)

また、bpy類縁体である2-phenylpyridine (ppy)を配位平面に有するLi[Pt(ppy)(NHCOC(CH3)3)2] (7) も、PtLi錯体を形成することが当研究室落合によって見出されている。18 この錯体7は Liの脱離を伴い二量化することが見出されているので、錯体6f・LiClも錯体1と同様に用い ることが出来るものと考えられる。まとめとして、今回錯体1類縁体として得られた各種 Pt(II)単核錯体をFig. 2-5に示す。

Fig. 2-5 Pt(II) mononuclear complexes with pivalamidate and various amine ligands.

配位平面にhalide配位子を有するpivalamidate架橋Pt(II)二核錯体の合成

続いて、得られた錯体6a–6f を用いて、NH3の場合と同様Pt(II)二核錯体の合成を試みた。

まず錯体6aとK2PtX4 (X = Cl, Br) の反応を試みたところ、脱気条件下において目的の Pt(II)二核錯体 [PtII2(CH3NH2)2(NHCOC(CH3)3)2X2] (X = Cl (8a), Br (8b)) と考えられる黄色沈 殿・緑色沈殿がそれぞれ得られた。得られた沈殿はどんな溶媒に対しても極めて低い溶解 性しか示さなかったため化合物の同定は困難であったが、元素分析値が一致し、また部分 酸化を行うとNH3の場合と同様に[Pt2(CH3NH2)2(NHCOC(CH3)3)2X2]2

+ (X = Cl, Br) が得られ たため、目的の錯体8a8b がそれぞれ得られたものと考えられる。

次に錯体6bを用いて同様の合成を行ったが、この場合には錯体1と同様、脱気条件下でも 速やかに部分酸化状態となってしまった。これに対して錯体6cでは、錯体6aと同様Pt(II)二 核錯体 [PtII2(CH3NHCH2CH2NHCH3)(NHCOC(CH3)3)2Br2] (8c) が得られた。類似の錯体6dで は逆に、錯体6d合成時同様極めて酸化を受けやすい傾向が見られ、部分酸化状態を経ずに

Pt(III)錯体となることが分かった。一般的にはMe置換されたアミンの方がPt上に電子を押し

出すので、Ptが高酸化状態を取っても安定化出来るものと考えられるため、tmen 錯体の示 した挙動は寧ろ自然であると考えられる。MeNH2 錯体やdmen 錯体が酸化を受けにくくな ったのは、電子的な要因ではなく、Me置換され水素結合部位が減少したことで部分酸化状 態を形成しにくくなったためであると考えられる。

錯体6e との反応では、脱気を必要とせずに[PtII2(C5H5N)2(NHCOC(CH3)3)2Cl2] (8d) が得ら

(12)

れた。但し、錯体6eの求核性が他と比べて低く、またpy環がPtの配位平面に対して垂直に 配位し易く立体障害が大きいため、[PtII2(C5H5N)2(NHCOC(CH3)3)2Br2] は形成し難くい様子 が見られた。錯体6f も錯体6e と同様に求核性が低い傾向が見られたが、低収率ながら [PtII2(C10H8N2)(NHCOC(CH3)3)2Cl2] (8e) が得られた。bpyを導入した場合には有機溶媒に対す る溶解度の多少の向上が見られ、結晶化が可能であった。錯体8eのX線結晶構造解析結果を Fig. 2-6に、結晶学データをTable 2-S4に、各種構造パラメーターをTable 2-2にそれぞれ示す。

Table 2-2 Selected structural parameters of 8e.

Bond distances (Å) Pt1…Pt2 2.8936(17)

Pt2-Cl1 2.327(8) Pt2-Cl2 2.332(7)

Bond angles (deg) N3-Pt1-Pt2 105.3(7)

N3-Pt-N1 172.3(9) N4-Pt1-N2 174.0(8) Cl1-Pt2-Pt1 98.71(19) Fig. 2-6 Crystal structure of 8e.

Table 2-1と2-2を比較すると、配位平面のCl配位子とのPt−Cl間距離が(amineの種類によ る差異はあるものの)Pt(III)からPt(II)になることで伸びていることが分かる。このことより、

配位平面のCl配位子の引き抜き効率の向上が多少は期待出来るが、その反面、置換活性な 錯体3aの軸位と比べるとPt−Cl間距離は非常に短く、Pt(II)二核錯体でも配位平面のhalide配 位子の引き抜きは容易でないことも予想される。最後に、今回得られた配位平面にhalide 配位子を有する各種Pt(II)二核錯体をFig. 2-7に示す。

Fig. 2-7 Pivalamidato-bridged Pt(II) dinuclear complexes having halide ligands.

(13)

2-2-2  pivalamidate架橋Pt(II)二核錯体の配位平面へのアミドの導入の検討

2-2-2-1  ニトリル体を経由したPt(II)二核錯体の配位平面へのアミド導入の検討

  2-2-1で得られた配位平面にhalide配位子を有するPt(II)二核錯体を用いて、配位平面に pivalamidate配位子を有するPt(II)二核錯体の合成を試みた。pivalamidate配位子を有するPt(II) 単核錯体1及び6a–6eの合成法から考えて、Scheme 2-7 に示した方法に従いPt(II)二核錯体の 構築を目指すこととした。

Scheme 2-7.

Pt(II)二核錯体配位平面のhalide配位子の引き抜き条件の検討

錯体8a について、水、MeOH、MeCN、acetone、THF、CH2Cl2 等様々な溶媒中で配位平 面のCl配位子の引き抜きを検討した。その結果、AgNO3またはp-CH3C6H4SO3Agを用いて MeCN中 で 引 き 抜 き を 行 っ た 場 合 の み 、 配 位 平 面 のCl配 位 子 がMeCNに 置 換 さ れ た [PtII2(CH3NH2)2(NHCOC(CH3)3)2(NCCH3)2]2+ (9a) が生成することが分かった。これに対して 他の溶媒中ではAgClの析出が見られず、構造不明の常磁性化合物が生成した。この生成物 は極めてphotosensitiveであったため、構造は分からないがAgが錯体内に取り込まれた化合 物であると思われる。3,19

錯体8b について同様の検討を行った。錯体8b は錯体8aよりも置換活性で、MeCN中の みならずMeOH、DME、THF中でもAgBrの析出が認められた。但し、極性の低いTHF中で は引き抜き反応は定量的には進行しなかった。また、これらの溶媒分子の配位した錯体は いずれも安定度が低く、crudeながら粉末として単離可能であったのは先程同様MeCN置換 体 [PtII2(CH3NH2)2(NHCOC(CH3)3)2(NCCH3)2]2+ (9a) のみであった。ESI MS測定結果をFig.

2-8に示す。錯体8c もほぼ同様の結果となった。

(14)

Fig. 2-8 ESI MS spectrum of complex 9a.

これに対して錯体8d ではCl配位子の引き抜きは多少起こるものの、完全には進行しなか った。錯体8eではAg塩を反応させると反応溶液の色の変化は見られたものの、実際には錯 体8eの価数が変化しているだけでCl配位子の引き抜きは全く進行していなかった。

以上のように、配位平面にhalide配位子を有する各種Pt(II)二核錯体からのhalide配位子の 引き抜きを検討した結果、錯体8bを用いた場合、最もきれいにhalide配位子の引き抜きを行 えることが分かった。

配位平面にpivalonitrile配位子を有するPt(II)二核錯体の合成

Scheme 2-7に従い配位平面へのpivalonitrile (NCC(CH3)3) の導入を検討した。通常NCCH3

は置換が極めて容易な配位子であることが知られており、また、NCCH3よりもNCC(CH3)3の 方がPtに対する配位力が高いことが知られているが、錯体8a や錯体8b から得られた錯体 9a に対してNCC(CH3)3 を反応させても、NCCH3とNCC(CH3)3の置換は全く起こらなかった。

一般的には置換され易い脱離基として用いられるMeCNが全く置換しなかったのは、Pt(II) 二核錯体でhalide配位子が置換され難くなったのと同様の傾向である。

Pt(II)単核錯体とPt(II)二核錯体それぞれの定性的なMO diagramをFig. 2-9に示す(但し、空 の軌道であるdx

2 –y

2 は省略してある)。9 二核錯体ではdZ

2軌道方向にPtがスタックしているた め、dZ

2軌道、dyz軌道、dzx軌道由来のσ*, π*軌道のenergy level が相対的に高くなり、dxy軌道 由来のδ*軌道のenergy level が相対的に低くなると考えられる。配位平面のhalide配位子を 引き抜く際には、x軸及びy軸近傍から一電子を減少させなければならない。一般的な単核

(15)

錯体ではdxy軌道がHOMOに近いためこの引き抜きが容易であるが、二核錯体ではδ*軌道の

energy level が低いため配位平面の配位子との結合も安定化しており、結果として引き抜き

反応が進行しにくくなったものと考えられる。Pt(II)二核錯体の配位平面の配位子が置換さ れ難いのはこのような理由によるものと思われる。

Fig. 2-9 A qualitative view for MOs of mononuclear and dinuclear Pt(II) complexes.

Fig. 2-10 Crystal structure of 9b (Pt…Pt

= 2.9709(14) Å). H atoms are omitted.

錯体9a の配位平面のMeCNを置換することは困難であったため、次に直接NCC(CH3)3を 導入することを考えた。NCC(CH3)3を溶媒として錯体8bからBr配位子の引き抜きを行うと [PtII2(CH3NH2)2(NHCOC(CH3)3)2(NCC(CH3)3)2]2+ (9b) が定量的に生成し、pivalonitrile溶液とし て得られた。この錯体9b については質が悪いながら単結晶が得られたため、X線結晶構造 解析を行った。その結果をFig. 2-10に、結晶学データをTable 2-S5に、各種構造パラメータ

ーをTable 2-S6に示す。解析データの質が悪いため、得られた単結晶のpivalamidateの配向が

HHかHTかを判別することはできなかった。この単結晶が析出するまでに半年を要したた め、その間にHHからHTへの異性化が起こっている可能性もあるものと思われる。

pivalonitrileの加水分解により配位平面にpivalamidateが配位したPt(II)二核錯体合成の試み Scheme 2-7 に従い、錯体9bの加水分解により配位平面にpivalamidate配位子を有するPt(II) 二核錯体の合成を試みた。錯体9bの加水分解反応は基本的には非常に進行しにくく、脱気

した1M NaOHを用いた場合や、不活性雰囲気下でR4NOH (R = alkyl)を反応させた場合には、

ニトリルの加水分解は進行せず錯体の酸化のみが起こった。これに対して、脱気せずに

(16)

EtOHに溶解させた後1M NaOHを用いて錯体9b を加水分解したところ、ニトリルが消え全 てアミドに変換された様子が1H NMRにより確認された。但し、錯体9bではCH3NH2のCH3中 のHにPtのsatelliteがはっきり観測されているのに対し、加水分解後にはCH3NH2の積分比が 極端に小さくなっており、satelliteも見えなかった。このことから、反応条件を厳しくして 加水分解を進行させようとすると、OHの高い求核性によりCH3NH2の脱離が促進される可 能性が考えられる。

この加水分解が進行した反応溶液からの結晶化を試みたが、残念ながら目的の錯体は得 ら れ ず 、Lantern型 Pt(III)二 核 錯 体15(b),20

[PtIII2(CH3NH2)2(NHCOC(CH3)3)4]2+ (10)のみが 得られた。錯体10のX線結晶構造解析結果を Fig. 2-11に、結晶学パラメーターをTable 2-S5 に、各種構造パラメーターをTable 2-S6にそ れぞれ示す。錯体9b と各種塩基を共存させ た際にまず酸化が起こっていたことから、加 水分解が進行した反応条件下でも恐らく錯 体9b は酸化されており、Pt−Pt間距離の減少

に伴いpivalamidate配位子の求核攻撃を受け

や す く な っ て し ま っ た も の と 考 え ら れ る

(Scheme 2-8)。

Fig. 2-11 Crystal structure of 10.

Scheme 2-8.

以上のように、ニトリル体を経由したPt(II)二核錯体の配位平面へのアミドの導入は困難 であることが分かった。その主たる原因はPt二核骨格が酸化を受けたことによるものと考 えられるため、次に酸化が起こりにくい条件での配位平面へのアミドの直接導入を検討し た。

(17)

2-2-2-2  Pt(II)二核錯体の配位平面へのアミドの直接導入の検討 CH3CN配位子を有するPt(II)二核錯体とpivalamideの反応

nitrile体9bを経由しない方法として、まず2-2-2-1で得られたCH3CNを配位平面の配位子と して有する錯体9aとpivalamideの反応を検討した。しかしこの場合にも、錯体9bと塩基とを 共存させた場合と同様にPt(III)への酸化が起こり、配位平面へのpivalamidateの導入は出来な かった。2-2-1でも述べた通りPt(III)の配位平面はPt(II)よりも置換不活性であり、今回も酸 化後に置換が起こることは無かった。

一般的に酸は酸化剤として、塩基は還元剤として働くものが多く、また、過去の白金ブ ルーやPt二核錯体に関する一連の研究でも、9 酸を加えると酸化反応が、塩基を加えると還 元反応が促進される事が報告されている。これに対して、今回は塩基を加えると酸化反応 が起こっており、これまでと逆の結果となっている。電子供与性のcarbanionを配位させた [PtIII2(CH3)4(amidate)2L2]n+ や[PtIII2(ppy)2(NHCOC(CH3)3)2Cl2]は三価の状態で安定化すること が知られており、18, 21-23 また配位能の高い配位子は積極的に軸配位子となるためPt(II)から

Pt(III)への酸化を促進することが知られている。これより今回の反応では、塩基が“酸化剤”

として働いたというよりは寧ろ、“電子供与性の配位子”として働いた結果、酸化反応を 促進したものと考えられる。

溶媒配位子を配位平面に有する各種Pt(II)二核錯体とalkali pivalamidateとの反応 25

  pivalamideよりも反応活性であると考えられる各種alkali pivalamidateと錯体9aとの反応を 検討した。M’NHCOC(CH3)3 (M’ = Li, Na, K) との反応を試みたが、結果はpivalamideを反応 させた場合と同様であり、pivalamidateの配位平面への導入より前に錯体の酸化が起こって しまった。そのため、MeCNよりも置換され易い溶媒を配位子に有し、かつ二価の状態が

安定なPt(II)二核錯体との反応を行うこととした。

Pt(II)が安定なPt(II)二核錯体としては、[PtII2(NH3)2(NHCOC(CH3)3)2LL’]2+ (LL’ = cod (11a),

L = L’ = dmso (11b)) が当研究室の陳により報告されている。8 そのため、これらを用いて

M’NHCOC(CH3)3 (M’ = Li, Na, K)との反応を検討した。

まず錯体11a とM’NHCOC(CH3)3 (M’ = Li, Na, K)との反応を検討したが、この場合、置換 反応は進行せず錯体の酸化のみが進行した。一般的にcodは置換され易い配位子であると見 られているが、同じように置換され易いと考えられているMeCNでも置換が起こらなかっ

(18)

たことを考えると、錯体11a との置換反応が進行しなかったのも不思議では無いと考えら れる。

続いて、錯体11b とM’NHCOC(CH3)3 (M’ = Li, Na, K) との反応を検討したところ、陳に より報告されていた錯体11bのNO3塩では、各種有機溶媒に対する親和性が低いためか、い ずれの反応も進行しなかった。そのため、より有機溶媒に対する親和性が高いと予想され る錯体11bのClO4塩をNO3塩と同様の方法で合成して用いたところ、脱水THF中でPt(II)を維 持したままpivalamidateの導入が起こることが見出された。25 NaNHCOC(CH3)3を2 eq. 及び 4 eq.反応させた場合の反応溶液のESI MS測定結果をFig. 2-12 に示す。Fig. 2-12 (a)より明ら かなように、NaNHCOC(CH3)3は2 eq.では置換が不十分であることが分かる。一般的にdmso 配 位 子とPtはsoft acid-base interaction

により堅固に結合しているため置換不 活性であり、今回も2eq. では反応が進 行しきらなかったものと考えられる。

そのため加えるKNHCOC(CH3)3の当量 を4 eq.にしたところ、Fig. 2-12 (b)に見 ら れ る よ う に 、dmso 配 位 子 が

pivalamidate配位子へと完全に置換され

た [PtII2(NH3)2(NHCOC(CH3)3)4] (12a) が生成した様子が確認された。この錯 体12a の単離精製を試みたが、dmso配 位子の再配位が極めて起こりやすいた め 容 易 に 一 置 換 体 で あ る [PtII2(NH3)2(NHCOC(CH3)3)3(dmso)]+

(12b) への逆反応が進行してしまい、

単離は困難であった (Scheme 2-9)。

Fig. 2-12 ESI MS spectra of the reaction solution of 11b and potassium pivalamidate; reacted with 2 eq. of Na salt (a), 4 eq. of Na salt (b).

Scheme 2-9.

(19)

導入するアミドの種類を替えて同様の検討を行ったが、やはり精製操作を行う間に一置 換体への逆反応が進行してしまった。この一置換体のうち配位平面にpyridoneが配位した [PtII2(NH3)2(NHCOC(CH3)3)2(C5H4NO)(dmso)]+ (12c) ついては良好な単結晶が得られたため、

X線結晶構造解析を行った(Fig. 2-13)。25 結晶学データをTable 2-S7に、各種構造パラメ

ーターをTable 2-3にそれぞれ示す。錯体11bのClO4塩のX線結晶構造解析結果についても、

Fig. 2-S3、Table 2-S7、Table 2-3にそれぞれ示す。

Table 2-3 Selected structural parameters for 11b ClO4 salt and 12c.

11b 12c Selected bond distances (Å)

Pt1···Pt2 3.0016(18) 2.9887(13) Pt2-O1 2.028(14) 2.057(6) Pt2-S1 2.222(6) 2.192(3) Pt2-S2/N5 2.205(5) 2.028(7)

N5-C11 1.365(12)

C11-O3 1.280(12)

C11-C12 1.418(14)

Selected bond angles (deg)

N1-Pt1-N3 176.9(7) 177.7(3) N2-Pt1-N4 175.3(7) 177.8(3) O1-Pt2-S1/N5 176.5(4) 171.5(3)

O2-Pt2-S2/S1 167.8(5) 174.9(2) Fig. 2-13 Crystal structure of 12c.

  Table 2-3より、嵩高いdmso配位子が配位することでPtの配位平面に歪みが生じており、

錯体11b においてその傾向が顕著であることが分かる。一般的にはdmso配位子はPtとのsoft

acid-base interaction により極めて置換され難いが、錯体11bでは二核化により配位平面が歪

んだことでdmso配位子の脱離が多少起こりやすくなったものと思われる。また、C11–O12 間距離がC=Oであることを示唆しており、C11–C12間距離が長くなっていることから

pyridine環の芳香族性が失われているのが明らかであるため、pyridonateの負電荷はN上に局

在化しているものと考えられる。

このように錯体11b との反応から、二価の状態で安定なPt(II)二核錯体を用いた場合には、

配位平面へのアミドの導入が可能であることが示された。しかし、錯体11b では、系中に

(20)

放出されるdmso配位子の配位能力の高さ故に、一置換体への逆反応が極めて起こりやすい。

この錯体を利用するためには系中のdmsoを除去する必要があるが、dmsoは沸点や極性が極 めて高いため除去が困難であり、反応方法の改良が望まれる。

上記の錯体11bの結果に基づき、系中に残存しない溶媒配位子を有し、かつ二価が安定な Pt(II)二核錯体の構築を考えた。2-2-2-1で述べた通り、配位平面に溶媒分子が配位したPt(II) 二核錯体は錯体9a以外単離できないため、溶液中で[PtII2(CH3NH2)2(NHCOC(CH3)3)2L2]2+ (L = CH3OH (9c), DMF (9d), THF (9e)) をそれぞれ合成し、同様の反応を試みた。錯体9c及び9d では、錯体9aと同様に溶媒配位子の置換よりも先に錯体の酸化が起こってしまうため、配 位平面へのアミドの導入は困難であった。これに対して錯体9eでは、置換され易いTHF基 とアミドが置換したと考えられる[PtII2(CH3NH2)2(NHCOC(CH3)3)4] (13a) が黒黄色溶液とし て得られることが、ESI MSにより確認された。しかし、錯体9eは定量的に生成するわけで はなく、反応に用いたKNHCOC(CH3)3は大部分が未反応で溶液中に残り、さらに錯体13aは 実際には部分酸化を受けて常磁性錯体になっていることが1H NMRにより確認された。

配位平面にBr配位子を有するPt(II)二核錯体とアミドのアルカリ金属塩との反応

  上記の検討において錯体9eが定量的に生成しないのはTHFの配位力が低いためであり、

錯体13aが部分酸化を受けたのは、引き抜き効率が悪いために系中に残存しているAg+によ るものと思われる。pivalamidateは高い配位能を有していると考えられるため、THF中での Br配位子の引き抜きとKNHCOC(CH3)3との反応を同時に行えば、錯体13aの収率向上が期待 されるが(Scheme 2-10)、Ag(I)→Ag(0)が極めて起こりやすいためAg塩は直ぐに酸化剤と して作用してしまうと考えられる。そのため、出来ればAg塩を用いることなく錯体8bの配 位平面のBr配位子の置換を行おうと考え、錯体8bとMNHCOC(CH3)3 (M = Li, Na, K)との反 応を検討してみることにした。

Scheme 2-10.

(21)

実際に置換反応を検討したところ、最もhalide配位子の脱離能が高いと考えられる

LiNHCOC(CH3)3でも錯体8bのBr配位子を置換することはできず、錯体の酸化のみが進行し

た。これに対して、MNHCOC(CH3)3 (M = Li, Na, K)よりも酸性度が高いため遥かに安定な pyridonate Na塩(C5H4NONa)を用いて同様の検討を行ったところ、やはりpyridonateの導入 は行えなかったが、錯体の酸化があまり進行しないという結果が得られた。このことから、

このC5H4NONaの反応性をもう少し高めてやることで、錯体8bが酸化を受けるよりも早く アミドの導入が出来るのではないかと予想される。

C5H4NONaを活性化する手法を色々検討したところ、CH3Cl中で15-crown 5-ether を加え た場合、即座に配位平面へのpyridonateの導入反応が進行し、各種溶媒に不溶な錯体8bが全 て溶解し、紺色の溶液が得られた。さらに溶媒としてCH2ClCH2Clを用いたところ、部分酸 化も押さえられ、生成物は黄色溶液として得られた。この溶液内には、目的のPt(II)二核錯 体[PtII2(NH3)2(NHCOC(CH3)3)2(C5H4NO)2] (13b)と15-crown 5-ether・NaBr の2種類の化合物が 混入していると考えられるため、続いてその精製法を検討した。

まず洗浄に用いる溶媒を工夫することで錯体13bと15-crown 5-ether・NaBrの分離を試みた が、どちらも多様な溶媒に可溶であるため、溶媒による分離は困難であった。また、錯体 13bは水に触れると即座に部分酸化を受け、さらに分解することが確認された。次にカラム クロマトグラフィーによる精製を考えたが、錯体13bは用いるシリカゲルのpHに因らず全 てシリカゲルのカラムに吸着され、どのような溶媒系でも分解物しか流出して来なかった。

そのため、より化学変化が起こりにくいと考えられるゲル濾過法を検討した。Sephadex

LH-20を用いて分離を行ったところ、比較的初期の段階で15-crown 5-ether・NaBrが溶出す

ることが確認され、壊れることなく錯体13bも得られた。さらに錯体13bを純度よく精製で きる最適化条件を検討したところ、錯体13b 20 µmolに対してカラム径を4 cm、ゲル長を80 cmにしてCHCl3で溶出させると、十分な理論段数を稼げることが分かった。但しこの条件 では、CHCl3で膨潤させたSephadexが自重に耐え切れずに網目構造が潰れてしまい再利用出 来ないことも明らかとなった。錯体13b 20 µmolを精製するのに必要なSephadexは凡そ100g であり、これでは極めてコストパフォーマンスが悪い。そのため、Sephadexよりも化学的 耐性が高いと言われているTOYOPEARL HW-40FやBio-Beads SX-3等のゲル濾過剤につい ても検討を行ったが、その場合には錯体13bがゲルに吸着されてしまった。

  以上のように、crown ehterを用いて錯体8bとC5H4NONaとの反応を行った場合にも、配位 平面へのpyridonateの導入は可能であることが見出された(Scheme 2-11)。しかし、そのコ

(22)

ストパフォーマンスは非常に悪く、残念ながら実用的な合成法には程遠いと思われる。

Scheme 2-11.

配位平面にBr配位子を有するPt(II)二核錯体とアミドの銀塩との反応

これまでの検討で、活性化されたアミドはPt(II)二核錯体の配位平面に配位することが明 らかとなったが、配位平面にamidate配位子が導入されたPt(II)二核錯体の合成法の確立には 至っていない。そのため、部分酸化によるロスを犠牲にして、特に反応性が高くなると予 想されるアミドのAg塩との反応を試みることとした。一般的にアミドのAg塩を合成する場 合はアミドのアルカリ金属塩を作りアルカリ金属をAgに置換するが、pivalamideの場合Ag 塩が非常に不安定で即座に分解してしまうため、今回はAg、錯体8b、KNHCOC(CH3)3を 共存させて、Scheme 2-12の反応をone-potで進行させた。これまでにAg塩のcounter anionの 種類により、錯体の酸化状態をある程度制御出来ることを見出しているため、この反応に は酸化反応を阻害しやすいClO4

を用いた。

AgClO4が系中に残存しない場合でも、錯体9e

とアミドのアルカリ金属の反応の場合と同様 ある程度部分酸化は受けたが、AgClO4を反応 に用いることで、これまでよりは大幅に部分 酸化を押さえた状態で錯体13aを得ることに

成功した。 Scheme 2-12.

Ag+と同様に高いhalide脱離能を示すことで知られているTln+ (n = 1, 3) やPb2+についても、

同様の検討を行った。一般的にはTl(III)でもTl(I)でもhalideの引き抜きが可能であるが、各

種Tl(III)塩を用いた場合は錯体8bの酸化が優先的に起こり、アミドの導入には至らなかった。

これはTl(III)→Tl(I)の還元が非常に起こりやすいことに由来すると考えられるため、Tl(I)塩

を用いることを考えた。酸化を起こしにくいClO4をcounter anionに持つTlClO4を作りAg+

(23)

同様の検討を行った所、酸化反応は阻害できることが確認された。TlOTfを用いた場合も同 様であった。得られたPt(II)二核錯体と思われる緑色反応溶液の確認を行ったところ、TlOTf を用いた場合には目的の錯体13a由来と思われるPt2(NHCOC(CH3)3)4骨格の存在が僅かに確 認されたが、大部分はPtTl二核錯体([PtTl(CH3NH2)2(NHCOC(CH3)3)2]2+等)になっており、

Pt二核骨格は維持されていなかった。Pb(II)を用いた場合も同様であり、Pb(ClO4)2を用いた 場合、酸化は阻害できるもののPtPb二核錯体の形成が優先的に起こっていることが確認さ れた。この様なPt(II)二核錯体の金属核の置換は時折報告される現象であるが、26-28 今回の 場合TlXやPbX2の生成がやや遅いためにこのPt二核骨格の分解が促進されてしまったもの と思われる。

以上の検討により、Scheme 2-2 に則った逐次合成を行うには、ある程度の部分酸化によ るロスは避けられないが、one-potで得たAgNHCOC(CH3)3を反応させる方法が最適であると いう結論が得られた。

2-2-3  逐次合成によるPt(II)多核錯体構築の検討

脱水条件下での配位平面にhalide配位子を有するPt(II)二核錯体の合成

上述の2-2-2-2の結果を踏まえた上で、Pt(II)多核錯体の構築を目指すこととした。これま

での検討より明らかに、配位平面にamideが導入されたPt(II)二核錯体は非常に酸化を受けや すいため、逐次合成で3核目のPtを導入する際には錯体8b合成時よりも酸化が起こりにくい 反応条件を設定する必要がある。即ち、錯体8b合成時の“脱気条件”に加え、“脱水条件”

を満たす必要があると考えられる。そのため、三核目以降のPtを導入する際の反応の雛形 として、脱水条件における錯体8bの合成法を再検討することにした。

これまでの錯体8a及び8bの合成では、水中でK2[PtX4] と錯体6aを反応させるとhalide配位

子とamidate基のO原子との置換反応が進行していたが、XとOの置換が直接起こっていると

いうよりは寧ろ、Scheme 2-13の平衡により生じるOH2置換体のOH2とamidate基のOが置換し ていると考えられる。一般的にOH2同様置換され易いと考えられる配位子としては、MeOH、 MeCN、EtCN、cod等が挙げられるが、これらを配位子に有するPt(II)単核錯体 cis-[PtL2Cl2] (L = MeOH, MeCN, EtCN; LL = cod) と錯体6aとの反応を行っても、THFのような低極性溶

媒中ではamide基のOと配位子Lとの置換反応は進行しなかった。さらに置換活性であると

予想されるdmf 配位子を有するPt(II)単核錯体ではcis体は形成されず全てtrans体となるこ

(24)

とが知られているため、29 一見すると反応には不利なように思われる。しかし実際には錯 体6atrans-[Pt(dmf)2Cl2]との反応では、複核化が起こったと思われる反応溶液の色の変化 が見られた。しかし、その反応の進行度は低い様子が見られため、さらに置換され易いと 考えられるthfを配位子に有するtrans-[Pt(thf)2Cl2]との反応を考えた。trans-[Pt(thf)2Cl2]は単離 出来なかったもののTHF中でPtCl2を攪拌すると明らかな質感の変化が見られ、PtCl2から trans-[Pt(thf)2Cl2]への反応が進行したものと考えられる。PtCl2は固体状態で無限格子構造を 取るため非常に反応不活性であることが知られており、PtCl2と錯体6aとの反応は進行しに くいが、一度THF中でtrans-[Pt(thf)2Cl2]にすると錯体6aとの反応が速やかに進行することが 見出された。錯体8bと同様緑色の反応生成物は沈殿としても反応溶液としても得られたが、

これらは[PtII2(CH3NH2)2(NHCOC(CH3)3)2Cl(thf)]Cl (14) と[PtII2(CH3NH2)2(NHCOC(CH3)3)2Cl2] (8a) の混合物と思われる (Scheme 2-14)。

Scheme 2-13.

Scheme 2-14.

錯体14及び8aはClが配位平面に配位しているため、これまでの検討ではBrのものよりも 引き抜き効率が悪いと考えられる。このためPtBr2を用いて同様の反応を試みたところ、

trans-[Pt(thf)2Br2]は形成されているようであるが、錯体6aとの反応は非常に遅く、この場合

には錯体6aからpivalamidate配位子の脱離を伴う二量化反応がかなり進行してしまうようで

あった。

逐次合成によるpivalamide架橋Pt(II)多核錯体構築の試み

得られた錯体14と錯体8aとの混合物を用いて、2-2-2-2での検討結果に従い、one-podで合

成したAgNHCOC(CH3)3との反応を試みた。錯体8aとの反応の場合と同様、Agにより多少部

分酸化を受けるものの、pivalamidateが導入された[PtII2(CH3NH2)2(NHCOC(CH3)3)4] (13a) が

(25)

得られていることがESI MSにより確認された。これより、trans-[Pt(thf)2Cl2]との反応と、

one-podで合成したAgNHCOC(CH3)3との反応を繰り返すことで逐次合成が可能であると考

えられる。それを実践すべく、得られた錯体13atrans-[Pt(thf)2Cl2]との反応を行ったとこ ろ、反応溶液から目的のPt(II)三核錯体である[PtII3(CH3NH2)2(NHCOC(CH3)3)4Cl(thf)]Cl (15a) と[PtII3(CH3NH2)2(NHCOC(CH3)3)4Cl2] (15b) の生成がESI MSにより確認された。これらのPt 三核錯体と未反応の二核・単核錯体の分離精製を試みたが、三核錯体、二核錯体共に不活 性雰囲気下においても容易に分解してしまい、これらを分離することはできなかった。そ のため、出発原料との混合物ではあるものの、先程の反応溶液に対してさらにone-potで合 成したAgNHCOC(CH3)3 を加えたところ、反応の進行度はさらに低下しつつも目的のPt(II) 三核錯体である[PtII3(CH3NH2)2(NHCOC(CH3)3)6] (16) が一部生成していることが確認され た。しかし、この反応を注意深く観察すると、錯体16の生成時にはAgNHCOC(CH3)3との反 応前よりもPt(II)二核錯体やPt2Ag骨格を持つと思われる錯体の量が増えてしまっているこ とが確認された。つまり、Ag塩を加えることで錯体15a15bが寧ろ減少するという結果が 得られた。

このようなPt鎖骨格の分解については、上述のTlやPbの検討以外にも過去に報告がなさ れている。例えば、三座配位子である3,3-dimethylglutarimidate (DMGI)架橋Pt(II)二核錯体 HH-[PtII2(bpy)2(DMGI)2]2+水溶液を65℃に加熱すると、HT体への異性化を経て、Pt(II)単核錯 体[PtII(bpy)(DMGI)(OH2)]+へと分解することや、このDMGI架橋Pt(II)二核錯体に対して

PdII(bpy)Cl2を反応させると、金属核の置換を伴いPt二核錯体からPtPd二核錯体へと変換され

ることが、K. Matsumotoらにより見出されている (Scheme 2-15)。26 このPtからPdへの変換 が優先的に起こる原因については触れられていないものの、類似のα-oligopyridilamineを架 橋配位子に有するEMACの系において、大抵の第一遷移金属には配位するが第二遷移金属 にはあまり配位しないことなどと合わせて考えると、1 van der Waals半径のより大きいPt

(1.75 Å)よりも、よりvan der Waals半径が小さいために多少は静電反発が小さいと考えられ

るPd (1.63 Å) が好まれたのであろうと推察される。Pt2Ag骨格の形成についても、過去に

B. Lippertらによって1-methyluracil(MeU)を架橋配位子に有する白金ブルーPt(2.25)4の“前 駆体”としてPt2Ag錯体が報告されている (Fig. 2-14)。30 その際には言及されていないが、

MeU架橋のPt二核錯体を用いたPt三核錯体の合成は達成されなかったことを考えると、

Pt2Ag錯体の方が安定であると言えるであろう。以上より、Pt(II)三核錯体は安定な錯体とし

て得難いものと考えられる。

(26)

Scheme 2-15.

2−1でも述べた通り、pivalamideはMeU等の環状アミド類と比較して非常に配位能力が

高いことが 検

て い る こ と と 合 わ せ て 考 え て も 、 既 知 の 環 状amidate架 橋Pt(II)二 核 錯 体 と 比 べ て

ivalamidate架橋の場合、錯体の安定度は多少上昇していると思われる。一縷の望みを抱い

てしまい、その結果、今度はAgとPtの置換反応やPt鎖の解離が進行してしまう Fig. 2-14 Pt2Ag complex

Fig. 2-15 ESI MS spectra of the reaction solution of the tetranuclear Pt(II) complex.

討で(分解のpathはあるものの)Pt(II)三核錯体が得ら 知られている。上記の

れ p

さらに同様の検討を繰り返したところ、生成量は少なく、またESI MS測定時に部分酸化 を受けるようではあったものの、目的のPt(II)四核錯体も得られることが見出された(Fig.

2-15)。

以上より、pivalamideを用いた場合定量的な逐次合成が不可能であることも明らかとなっ た。その最も大きな原因は、Pt(II)多核錯体の配位平面からのhalide配位子の引き抜きが進行 しにくいことであると思われる。halideの置換が極めて進行しにくいためにAg塩を用いる必 要性が生じ

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