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Part 1 高 校 教 育 を 取 り 巻 く 環 境 の 変 化 変 わる 高 校 教 育 第 1 回 授 業 改 善 -- 学 習 者 中 心 の 授 業 への 転 換 に 向 けて-- 授 業 改 善 が 求 められる 背 景 と 注 意 点 産 業 能 率 大 学 経 営 学 部 ( 元

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 近年、高校教育を取り巻く環境が変わりつつある。 2013 年度から完全実施された学習指導要領では、さま ざまな変更がなされた。例えば、国語を中心に全教科で 「言語活動の充実」が求められ、英語の授業については 基本的に英語で行う方針が打ち出された。中学校までの 指導内容の確実な定着、個に応じた指導の推進、道徳教 育の重視なども強調されたほか、理科の科目再編なども あり、高校における指導に大きな影響を与える改訂とな った。  さらに、今後の高校教育へ大きな影響を与えそうな動 きが既に始まっている。例えば、中央教育審議会初等中 等教育分科会に高校教育部会が設置され、高校教育の在 り方について議論されている。将来の学習指導要領改訂 に向けて、2012 年からは初等中等教育調査研究協力者 会議において「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目 標・内容と評価の在り方に関する検討会」が始まった。 外国語教育については 2013 年に「CAN-DO リスト」と して学習到達目標設定のための手引きが公開された。グ ローバル化への対応も強化され、2014 年度からスーパ ーグローバルハイスクールの指定事業が新設されたり、 国際バカロレア課程認定校の増加に向けた検討が始まっ たりしている。スーパーサイエンスハイスクールなどを 中心に、理数教育の充実に向けた支援も推進されている。  そして個々の高等学校では、社会や教育政策の変化に も対応しながら、教育目標や地域の特徴、生徒の実態な どに合わせて、多様な教育改善に取り組んでいる。  「変わる高校教育」では、そうした変化について、高 等学校の取り組みや個々の先生の工夫、各都道府県の教 育委員会の施策などから紹介していく。  4・5月号のテーマは「授業改善-学習者中心の授業 への転換に向けて-」である。現行の学習指導要領で「言 語活動の充実」が強調されたように、生徒が一方的に授 業を聞き板書を写すだけでなく、生徒同士で話し合った り発表したりレポートをまとめたり、多様な活動を交え た授業を行うことが、高校にも求められている。  また、「自分の授業に行き詰まりを感じている」「合格 実績を上げたい」「生徒の居眠り防止」「中退防止」など、 それぞれの理由から、全国のさまざまな高校で、生徒の 能動的な学びを取り入れた授業への転換が試みられてい る。  そうした授業改善の動きを、高校内と高校外の両面か ら見ていく。

第1回

C

ONTENTS

Part 1

 高校教育を取り巻く環境の変化 授業改善が求められる背景と注意点 産業能率大学経営学部(元・埼玉県立高等学校教諭) 小林 昭文教授 都道府県の取り組み ①埼玉県教育委員会 ②鳥取県教育委員会

Part 2

 高校の取り組み    埼玉県立浦和高等学校    鳥取県立鳥取西高等学校    専修大学附属高等学校    近畿大学附属高等学校 ………p17 ………p20 ………p22 …………p24 ………p27 …………p30 …………p33 事例1 事例4 事例3 事例2

授業改善

-学習者中心の授業への転換に向けて-

変わる高校教育

(2)

授業改善が求められる背景と注意点

産業能率大学経営学部(元・埼玉県立高等学校教諭)

小林 昭文教授

 ところが、絶え間なく新たな知識が生まれ技術革新が 起こる知識基盤社会になると、高度の専門的な素養・能 力を備えた上で、多種多様な分野の人と協働しながら、 新しい時代を切り拓いていくことができる人材が求めら れるようになりました。同時期に経済も低成長となり将 来の見通しが不安定な時代となり、学校教育の在り方も 再考が求められるようになりました。  そうした社会状況の変化に応じて、現行の学習指導要 領(高校は 2009 年告示)では、小中高、各教科を通じ て「思考力・判断力・表現力の育成」や「言語活動の充実」 が強調されました。AL型授業はこれらを実現する授業 方法として、注目が集まっているのです。  それでは、具体的なAL型授業の例を見ていきましょ う。現在、私は高校の現場から離れておりますが、2013 年 3 月までは埼玉県立越ヶ谷高校に勤務し、<図表>の ような流れで、生徒のグループワークを中心とした物理 の授業を行っていました。現在でも、校内研修などに講 師として招かれたときには、先生方を生徒役として模擬 授業を行い、実際に体験してもらっています。  授業の冒頭では、その時間の学習内容を説明します。 パワーポイントとプリントを使い、板書・ノートをしな いことで、グループワークの時間を確保しています。  続いて生徒同士で話し合いながら問題を解きます。そ の際、私はグループの間を歩き回りながらグループの様 子を見て、生徒の質問に対応したり、「グループで協力で きていますか?」「あと5分しかないですが、大丈夫です  近年、さまざまな高校で授業改善が進められている。 教師が生徒に対して教え込む講義が中心の授業から、話 し合いや発表など、生徒の多様な活動を取り入れた授業 への転換が試みられており、こうした授業を総称して「ア クティブ・ラーニング(能動的学習)型授業」(以下、 AL 型授業)という。ここでは、AL 型授業が求められる 時代背景や、導入の際のポイントなどについて、以前か ら自身の高校物理の授業に取り入れるとともに、高校退 職後は全国の高校等で AL 型授業の導入について助言を 行ってきた、産業能率大学経営学部の小林昭文教授に話 を伺った。  調べ学習、体験学習、PBL(プロブレム/プロジェ クト・ベースド・ラーニング)、グループ・ディスカッシ ョン、ディベート、グループ・ワークなど、学習者が授 業に能動的に参加しながら学ぶ方法を総称して「アクテ ィブ・ラーニング(能動的学習)型授業」または AL 型 授業と言います。AL型授業は大学を中心に取り組みが 広がってきましたが、近年は高校でも導入が増えていま す。その理由は、「自分の授業に行き詰まりを感じている」 「合格実績を上げたい」「生徒の居眠り防止」「中退防止」 など、さまざまです。  AL型授業が求められるようになった背景には、工業 化社会から知識基盤社会へと社会構造が転換するととも に、社会で求められる力が変化してきたことがあります。 工業化社会は、少数のリーダーと多数のフォロワーで構 成されることが特徴です。そのため、学校教育では、忍 耐強さ、従順性、協調性といった特徴をもつ人材(= 優 秀なフォロワー)を効率的に育成することが求められま した。「私語の禁止」「先生に従うのが良い子」「板書さ れたことをノートにとる」といった学校教育の特徴は、 工業化を推進してきた時代に形成されたのです。経済が 右肩上がりだった頃は、どの学校を卒業してもそれに応 じた仕事があり、労働者も終身雇用制度で守られてきた ため、こうした学校教育も機能していました。

知識基盤社会への変化を受け

AL 型授業に注目が集まる

グループワークを中心とし

振り返りを重視したアクティブ・ラーニング

小林 昭文(こばやし・あきふみ) 産業能率大学経営学部教授。2013年3 月まで埼玉県立越ヶ谷高校教諭として、 AL型の物理授業を開発し、実践してき た。定年退職後はAL型授業を全国に広めることを目標として、全 国の高校の校内研修などに赴き、授業の実演や、導入に向けた助 言などを行っている。「日本教育新聞」に連載を執筆しているほか、 ブログなどを通じて、AL型授業に関する情報を発信している。河 合塾教育研究開発機構研究員、河合塾コスモ講師、日本教育大学 院大学講師も務めている。 Blog:「授業研究AL&AL」 http://d.hatena.ne.jp/a2011+jyugyoukenkyu/

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か?」といった質問によって話し合いを促したりします。  最後に振り返りとして、確認テストを行い、リフレク ションカードを書かせます。振り返りは、学習内容を定 着させるとともに学習態度の改善につなげるために、非 常に重視しています。  リフレクションカードでは、生徒は「問題が解けなく て困っていたら、友達が教えてくれたのでとても良かっ た。これからも友達に質問したい」、あるいは「友達に教 えたらよくわかったと言ってくれて嬉しかったから、こ れからはもっと積極的に教えたい」などと書きます。そ れが次回の授業での行動につながり、また新たな気づき があるという経験が積み重なることで、生徒の学び方が 変わっていくのです。  同じ授業を受けても生徒によって「もっと意見を言う べきだった」「人の意見をしっかり聴いていなかった」と いったように感想は異なります。できれば、リフレクシ ョンカードに書かれた内容を、読み上げたり見せ合った りしてグループで共有し、生徒の新たな内省を促すのが 理想です。また、できるだけ教師がコメントをしたりア ンダーラインを引いたりして返すと良いでしょう。ただ し、時間的な制約から、私も毎回は行えませんでした。  AL型授業は、とにかく行ってみることが大切です。 しかし、より効果的に授業に取り入れるためには、学習 理論を学ぶ必要があります。  私が学習に関する理論で重要だと考えるのは、組織行

学習のための理論を学ぶことが

より有効なアクティブ・ラーニングにつながる

動学者のデービット・コルブが提唱する、学習を結果で はなくプロセスとして捉える「経験学習モデル」です。 これは、具体的な経験→内省的な観察→抽象的な概念化 →能動的な試みというサイクルを回すことによって人は 学習するというもので、振り返りを重視しています。私 の授業も、経験学習モデルを意識して構成しています。  生徒の学習を促す実践的な理論とスキルを学ぶことも 重要です。AL型授業での教師の役割は、従来の授業に おける「sage on the stage(壇上の賢人)」から「guide on the side(学習者に寄り添う導き手)」に変わり、生徒 がより良く学ぶためのサポートをする力が求められます。  教師はAL型授業がうまく行かないとき、その原因を 教材や生徒や環境に求めがちですが、「子どもをどう見る か」「どう介入するか」という根本的なスキルが不十分な 場合も多いように感じます。こうしたスキルを身につけ るためには「コーチング」「メンタリング」「構成的グル ープエンカウンター」「ファシリテーション」などの理論 を学び、スキルトレーニングを受けると良いでしょう。  私の場合は「アクションラーニング(質問会議)」を学 んだ経験が授業に生きています。アクションラーニング とは、グループで現実の問題の解決策を考える過程で生 じる行動とそれに対する振り返りを通じて、グループの 学習する力を伸ばす教育手法であり、互いに質問と回答 を繰り返しながら話し合いが進んでいくことに特徴があ ります。  私はこの理論を取り入れ、教師が生徒に発しがちな「指 示・命令」「禁止」「批判」ではなく、質問をすることに よって授業を進めていました。例えば、「話し合いを進め なさい」という指示を、「あと5分ですが、大丈夫ですか?」 という質問に変えるだけで、生徒は何をすべきか自ら考 え、能動的に活動を始めます。課題となるのは、相手の 内省を促すような質問を、適切なタイミングで流暢に発 することです。そうした方法は、理論を学び、その上に きちんとしたスキルトレーニングを受けることで身につ けられると考えています。  ただし、こうした理論やスキルは精神医学やカウンセ リングの世界から始まり、ビジネスの世界でも使われる ようになったものであり、学校教育の中で、特に教科科 目の授業に生かすことは想定されていません。  従って、次善の策として、ビジネスマン対象のワーク ショップなどに参加することも良いと思います。理想を <図表>小林先生の物理の授業構成

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いえば、誰かが学校教育の場面で活用できるようにアレ ンジして、それらを教員研修などに取り入れていけると 良いと思います。授業改善に関する今後の大きな課題だ と思います。  授業改善を進める際に注意すべきなのが、生徒の安全・ 安心を保証することです。例えば、「AL型授業を行えば、 教科書が終わらなくても良い」と主張する先生や、教科 書とは異なる資料を使って授業をする先生もいます。し かし、大学入試等との関係から、教科書とは離れた授業 をすると不安になる生徒がでる可能性もあります。この ような視点も必要だと思います。  学習指導要領の「活用」の部分は教師が創意工夫を凝 らしてよいと思いますが、「習得」の部分は教科書に準拠 した内容とするべきでしょう。  生徒の反応を見ながら授業を変えていくことも重要で す。私の場合は、毎回の授業で生徒にリフレクションカ ードを書かせて回収し、生徒が求めていることを探って いました。生徒の欲求や要求の全てを授業に取り入れる ことはできませんが、良い提案を反映させることで、生 徒に自分たちも授業作りに参画しているという意識が生 まれ、より能動的に学習に取り組むようになるという効 果もありました。  また、取り組みを始めてみて、生徒に合わないと感じ た場合は中断しても良いと思います。先生が無理をしな い、生徒に無理強いをしないということも大切です。  実は私が最初にAL型授業に全面的に転換することを 生徒に提案した時には猛反対を受けました。その時に私 が提案したのは「私が全く教えない」という方法でした。 生徒達は「それでわかるわけがないよ~」「パワポも見せ てくれないの?それはイヤだ~」などと騒ぎました。  ここで私は無理をしないことにしました。生徒にも無 理強いをしたくありませんでした。私は、「では3回だけ トライアルをしましょう。3回目までに概ねみんなが賛 成できる方法になったらそれで行きましょう。そうなら なかったら、今までの形で進める。それでどうですか?」 と「交渉」したのです。  振り返ってみると、この時の経緯が生徒達の参画意識 を高めたと思います。また、この時から私は目の前の生 徒の意見だけを聞いていました。  これが「実践者」としての大事なことだと思っています。 「理論家」の仕事は一般的な解を求めることかも知れませ ん。しかし、私たち実践者は目の前の生徒達のために役 立つ授業を開発することが本来の仕事なのです。  授業改善と同時に進めていただきたいのが、組織開発 です。新しい授業に挑戦する場合、最初は教師も生徒も 慣れず、上手く行かないこともあるでしょう。そうした とき、一人で取り組みを継続するのは困難です。AL型 授業を学校全体で推進できるように組織の構造や風土を 変えることが必要だと考えています。例えば、教科を越 えて研究授業を行ったり、気軽に相互参観できる授業公 開週間を設けたり、ベテラン教師が若手教師の授業を参 考にしたりといった方法が考えられます。  私が勧めるのは、研究授業と研究協議の在り方の転換 です。これまでの研究協議は、授業者が一方的に参観者 から改善点を指摘されるような雰囲気になりがちで、研 究授業の担当(= 授業者)となることを嫌がる先生も見 られました。これを「授業者を傷つけない振り返り会」 に変えることで、研究協議の雰囲気は一変し、効果も向 上します。  具体的には、「参観者は意見ではなく質問をする」「授 業者は質問されたことに簡潔に答える」といったルール を設けた上で、「授業で使用したワークシートはどのよう に作ったのですか?」「あの場面でなぜAさんを指名した のですか?」「Bのグループに何度も足を運んだのはなぜ ですか?」といった質問を繰り返し、協議を進めていき ます。質問に対する答えを考えることで、研究授業を実 施した教師の振り返りになるのはもちろん、質問を考え ることで参観者も自分の授業に対するヒントを得ること ができるのです。  私はこれまで、AL型授業に関する研究会や、全国の 高校の校内研修などに講師として赴き、AL型授業の導 入に向けた助言を行ってきましたが、年々、関心を持つ 高校が増え、さまざまな高校が組織的に取り組み始めて いることに手ごたえを感じています。今後、より多くの 高校が、生徒に合った授業改善を進めることを期待して います。

授業改善を自律的に持続可能な組織をつくり

学校全体で取り組むことが重要

生徒の意見を聞きながら

目の前の生徒に合った授業方法を模索する

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東京大学 大学発教育支援コンソーシアム推進機構と

連携して県立高校に協調学習を導入し、年々実践校が増加

埼玉県教育委員会

学力向上基盤形成事業」を立ち上げ、協調学習に取り組 む高校を募った。その結果、研究推進校(授業実践と公 開研究授業を行う)9校、研究協力校(授業実践を行う) 1校、研究推進委員(研究に参加する教員)26 名が中 心となって、実践を通じた研究が始まった。同時に6つ の教科部会も立ち上がった。  「協調学習は生徒の主体的な学びを促すことに主眼が あり、小・中・高校全ての学校種、また、進学校や基礎 学力の定着に課題のある学校など幅広い学校での活用が 可能です。そのことを、校長会などを通じて予め告知を した上で高校を募ったところ、期待通り、いろいろな学 校が応募してくれました」  2010 年度の研究会では、三宅教授による協調学習の 理論の講義、協調学習の見学や体験、教科ごとの授業案 の検討などを重ねた。また、そうしてできた授業案をも とに、研究推進校や研究協力校で公開研究授業を実施し た。研究推進校による公開研究授業には多くの高校から 参観者が訪れ、授業は非常に好評であった。実践した教 員からは「一方通行の講義型授業と異なり、生徒を動か して話し合わせると生徒の反応がたいへん良く、授業の やりがいがある」といった声が報告され、参観者からは 「自分の授業でも導入したい」という声が多数上がった。  実際に協調学習に取り組む学校と教員は急速に増加し、 2013 年度には研究推進校 19 校、研究協力校 57 校、研 究推進委員 212 名となった。芸術(美術、書道)や家庭、 保健体育、農業、工業、商業、情報、看護、福祉など実 技系教科や専門教科でも取り組まれるようになり、教科 部会は 16 に増えた<図表1>。  事務局も「これほどの学校と教員が参加する事業は、 これまでにありませんでした」と、予想を超えた勢いで の広がりに驚いている。  埼玉県では、東京大学の「大学発教育支援コンソーシ アム推進機構(CoREF)」と連携し「協調学習」の手法 の研究と実践を行っている。2010 年度から 2011 年度の 「県立高校学力向上基盤形成事業」や、同事業を継承し た 2012 年度から 2014 年度の「未来を拓く『学び』推進 事業」等を通じて、生徒の学力向上につながる継続的な 授業改善を推進している。これらの取組について、埼玉 県教育局県立学校部高校教育指導課(以下、事務局)に 話を伺った。  埼玉県教育局は、近年の高校生について、「授業に対 する態度が受動的である」ことなどから、「21 世紀の国 際社会をたくましく生きていける生徒を育むには、生徒 が授業に積極的にかかわり、学べるような授業スタイル が必要ではないか」との問題意識をもっていた。  そうした折、2008 年に、大学の知の教育現場での活 用を推進することを目的として、全国の5大学等が参加 する「大学発教育支援コンソーシアム」が発足し、とり まとめを行う東京大学に大学発教育支援コンソーシアム 推進機構(CoREF)が設立された。CoREF では副機構 長の三宅なほみ教授が中心となり、認知科学を基盤とし て人が質の高い学習をするための学習理論を構築し、実 践につなげることをめざしている。  CoREF は、「多様な理解が統合されて考えが深まる」 「一人ひとりが仲間とのかかわりのなかで、自分なりに 納得する」「自分なりの納得が適用できる範囲が広がる」 という特徴をもつ「協調学習」と、「協調学習」を引き 起こす手法の1つとして、「知識構成型ジグソー法」(25 ページ参照)を提案。全国の学校や教育委員会と連携し て、導入を推進している。  埼玉県はこの手法を、生徒の主体的な学びによるコミ ュニケーション能力、問題解決能力、情報活用能力の育 成に有効だと考えた。また、CoREF も研究の成果を実 践する現場を求めていたことから、2009 年度から連携 に向けた協議を開始。そして 2010 年度には「県立高校

開始4年で、協調学習の指定校は

研究推進校 19 校、研究協力校 57 校に拡大

都道府県の 取り組み❶ <図表1>関係校数・研究推進委員数等の推移 事業名 年度 推進校研究 協力校研究 推進委員 教科部会研究 県立高校学力 向上基盤形成事業 2010 年度 9校 1校 26 名 6教科 2011 年度 13 校 19 校 66 名 8教科 未来を拓く 「学び」推進事業 2012 年度 14 校 38 校 129 名 13 教科 2013 年度 19 校 57 校 212 名 16 教科

(6)

した案をアップし、さらに助言をもらう、というように、 授業案を練り上げていくことができます。また、授業案 は共有することができていますので、『A 先生の授業案 を私の学校に合わせてこのようにアレンジして使わせて いただきます』とコメントすると、その授業案を作成し た教員から注意点のアドバイスがあるなど、サイトはよ り良い授業案を作る場として活用されています」  知識構成型ジグソー法による協調学習に取り組んだ成 果について、事務局は次のように語る。  「自分の教科や学校の中だけでなく、学校を超えて、 さらには県も超えて、生徒のよりよい学びのために志を 同じくする教員が知恵を出し合い、お互いの授業をより よくしていこうという動きが出てきていることに、手ご たえを感じています。また、知識構成型ジグソー法とい う1つの手法を共有しているため、どの教員も同じ土俵 で議論することができます。この点も、協調学習が短期 間でこれだけ広がった理由のひとつだと考えています」  全ての授業を協調学習にする必要はないが、今後も協 調学習の導入を推進したい、と事務局は考えている。  「講義型の授業には講義型の良さがあります。しかし、 1つの単元の中のふさわしい場面やタイミングで協調学 習を導入することにより、生徒は単元の内容について主 体的に考え、自分の言葉で他者に説明することを経験す ることになり、学習指導要領(総則)にも謳われている とおり、『言語活動の充実』を図りながら、『思考力、判 断力、表現力その他の能力をはぐくむとともに、主体的 に学習に取り組む態度を養い、個性を生かす教育の充実』 を実現することができます。ですから、単元に1回でも、 時々でも、協調学習の活用により児童生徒の活発な学習 活動が教室でみられるような状況が全県の学校に定着す るよう、今後も働きかけていきたいと思います」  2012 年度からは、高等学校初任者研修の中にも協調 学習に関する研修を取り入れている。全 25 回の研修の うち、5回を「授業力向上研修」として設定。協調学習 の理論を学んだり体験したりするほか、期間内に実際に 勤務校で協調学習を取り入れた授業を2回行い、その実 践報告などをする。受講は必須であることから、初任者 は全員が協調学習に触れることになる。また、初任者が 研修で学んだ内容を校内の指導教員などに報告して伝え ることで、ベテラン教員に協調学習が広がるきっかけと もなっている。現在では CoREF の教授等の研究者だけ でなく、協調学習を実際に授業に取り入れている高校教 員が初任者研修の講師となることも増えているそうだ。  さらに、2012 年度からは CoREF とインテル株式会社 の協力を得て「21 世紀型スキル育成研修会」を開始した。 「21 世紀型スキル」とは、2008 年に ATC21s(注) が提唱 した、将来子どもたちが知識産業社会で活躍するために 必要な 10 のスキル<図表2>のことである。そして、 それらを身につけるためには「協調的問題解決」と「ICT リテラシー、デジタル化されたネットワークで学ぶこと」 の2つの経験が重要とされている。  研修では、70 カ国で導入されている IntelⓇTeach プ ログラムをアレンジし、ICT を活用した授業作りや、知 識構成型ジグソー法の導入方法などについて学ぶ。対象 は小・中・高校・特別支援学校の代表教員で、2012 年 度から2014年度の3年間で330名が参加する計画である。  3つの事業を通して急速な広がりを見せている知識構 成型ジグソー法だが、授業案や教材の作成に大きな役割 を果たしているのが、埼玉県立総合教育センターが設置 し、県と CoREF が共同で運営しているインターネット 上の専用サイトである。  「サイトには全体の部屋に加えて教科別の部屋などの 機能があり、授業案について盛んなやりとりがなされて います。ある教員が、『こんな授業案を考えていますが ご意見ください』と授業案をアップすると、CoREF の 研究者や他の高校の教員から助言のコメントが書き込ま れます。授業案をアップした教員が助言をふまえて改善

初任者教員研修にも協調学習を導入し

全ての教員が協調学習のスキルをもつ時代へ

インターネット上のサイトを通し

学校を超えて日常的に授業案の検討が可能に

<図表2> ATC21s による 21 世紀型スキル 【カテゴリ 1 】思考の方法(Ways of Thinking) 【1】創造力とイノベーション 【2】批評的思考、問題解決、意思決定 【3】学びの学習、メタ認知(認知プロセスに関する知識) 【カテゴリ 2 】仕事の方法(Ways of Working) 【4】コミュニケーション 【5】コラボレーション(チームワーク)

【カテゴリ 3 】仕事のツール(Tools for Working)

【6】情報リテラシー

【7】情報通信技術 ICT に関するリテラシー

【カテゴリ 4 】社会生活(Skills for Living in the World)

【8】地域と国際社会での市民性 【9】人生とキャリア設計

【10】個人と社会における責任(文化に関する認識と対応)

(注)ATC21s…Assessment and Teaching of 21st Century Skills Project の略。シスコシステムズ、インテル、マイクロソフトの3社とメルボルン大学 の研究者などが中心となった、国際プロジェクト。

(7)

協調学習の授業法を含む3つの教員研修を通し

生徒の主体的に学ぶ力を育む授業改革に取り組む

鳥取県教育委員会

東 京 大 学 大 学 発 教 育 支 援 コンソーシアム 推 進 機 構 (CoREF)の三宅なほみ教授が推進する「知識構成型ジ グソー法」(25 ページ参照)を知り、この手法を導入す ることを通して学べば、学習科学に基づいた授業改革が 推進できるのではないかと感じた。そこで、三宅教授や 大島教授の協力も得て、「知識構成型ジグソー法」を取 り入れた授業改革への取り組みを始めたのである。  2011 年から実施されている「新時代を拓く学びの創造 プロジェクト」においては、「高校生自らが学び、思考力、 判断力、表現力を高める授業改革」をめざし、知識構成 型ジグソー法をはじめとした学習理論を取り入れた研修 を実施した。具体的には、県立高校の教員を対象とした、 高等学校教科専門研修、学習理論研修、ミドルリーダー 育成研修の3つの研修である。(注 1)  「高等学校教科専門研修」は、英語、国語、数学、理科、 地歴・公民の6教科について、授業の在り方を研究し、 授業実践に向けた指導過程を共同で作成する研修である。 この研修は、先端の教育学の理論や実践を取り入れ、内 容は教科によって変えている。「この研修をきっかけに、 教員が学校を超えて教材を検討するような研究会があち こちにできたら良いと考えました」(千代西尾指導主事)  「学習理論研修」は、教科を問わず、新しい授業観を 理解するとともに、とりわけ「知識構成型ジグソー法」 を体験・実践することで、学習科学を学び、自分たちで 授業を設計する研修である。講師には三宅教授と大島教 授を招き、5回にわたって実施した。  「ミドルリーダー育成研修」は、教科専門研修や学習 理論研修を受講した教員が校内で授業改善を進められる ように体制を整えられるミドルリーダー(改革推進者・ ファシリテーター)を育成することを目的としている。 管理職や、校内で指導的立場にある教員などを対象に、 学校組織マネジメントやリーダーシップ、人材育成等、 学校の組織改革や組織活性化をテーマとした研修を3回 にわたって実施した。  鳥取県では 2011 年度から、全ての高校生が進路目標 を実現できる学力を育成するための効果的な施策を立案 する「新時代を拓く学びの創造プロジェクト」を実施し ている。めざすのは、高校生自らが学び、思考力、判断力、 表現力を高める授業をつくるための授業改革である。プ ロジェクトの成果と今後の展望について、高等学校課高 校教育主査兼高校教育企画室の御舩斎紀室長と、同企画 室の千代西尾祐司指導主事に話を伺った。  「新時代を拓く学びの創造プロジェクト」では、高校の 校長を中心に学識経験者、全国模試実施業者の分析研究 スタッフなどで学力向上推進委員会を組織し、高校生の 学力の問題を分析し、指導方法の研究などを行った。そ の中で、「学校によっては土日に課題を出して週明けにテ ストを行うなど、教員も生徒も過密スケジュールで学習 に取り組んでも、それに見合うほど成績は向上せず、高 校現場は学力向上の取り組みに行き詰まりを感じていた。 また、教員が面倒をみればみるほど子どもたちは受け身 になることが問題とされた」と御舩室長は振り返る。  解決策を模索する中で、県内外の高校の課題解決型の 協働的な学習やその発表の場を視察すると、生徒たちが 生き生きと学んでおり、「ここに学力を伸ばすヒントがあ るのではないか」と感じた。  一方で 2003 年当時、県教育センターに勤務していた 千代西尾指導主事は「学校教育における知識観や学習観 は、現代の社会で求められているものと乖離しているの ではないか」という問題意識をもっていた。そんな折、 静岡大学情報学部の大島純教授に出会い、学習科学や認 知科学の知見に基づいた、学習者の協調によって知識を 育む理論に触れた。そして、こうした考え方を授業に持 ち込むことが、社会で求められる力を養うことにつなが ると考え、大島教授と学習科学の研修講座を実施したが、 当時は取り組みやすい授業手法がなかったこともあり、 実践の広がりには至らなかった。  しかし学力向上推進委員会で今後の方策を考える中で、

学力向上策について手詰まりを感じる中での

学習科学を基にした協調学習との出会い

学習科学に基づいた授業改革が

研修を通じて徐々に浸透

都道府県の 取り組み❷ (注1)平成 24 年度高等学校学力向上委員会報告書(鳥取県)

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でモバイル端末を活用し効果を高めようとしている。(注3) また、操作説明会や教員自主研修を開催したほか、9月 ~ 10 月には2校で公開授業を行った。  「これまで ICT というと、生徒に教材や動画を見せる など、教員が指導するための利用が中心でした。この事 業ではそれにとどまらず、生徒が話し合ったり考えたり する活動を促進するための『学びの道具』として使う方 法を研究しています」(千代西尾指導主事)

 将来的には Web 上で議論ができる Knowledge Forum 等のツールを活用して、県内のみならず他県にもつなぎ、 他の高校の生徒とも議論できるようにしたり、動画教材 等をインターネットサーバーにアップし、自宅でも使え るようにしたりするようなことも検討している。  こうした教育環境の整備も通じて、鳥取県教育委員会 では、生徒が能動的に参加する授業を、今後もさらに推 進していく。  「3つの研修の中でも管理職に特に評判が良かったの が学習理論研修です。自校に帰って『良い研修だった』 と管理職や同僚に報告する教員も多く、実践者も増えて いきました。そのため、2013 年にも学習理論研修のみ、 継続して実施することにしました。参加者は自分の授業 に導入することを前提に考えている教員がほとんどで、 研修は大いに盛り上がりました」(御舩室長)  2013 年度の学習理論研修は、三宅教授と静岡大学大学 院教育学研究科附属学習科学研究教育センター(RECLS) の益川弘如准教授の2名を講師として迎えた。(注2)  学習理論研修を受けた教員に対するアンケートを見る と、「自分の授業観が変わった」「生徒が生き生きする」 といった内容の記述が多く見られる。また、研修受講後、 何らかの形で知識構成型ジグソー法による授業を定期的 に継続して実施している教員が多い<図表>。  そこで、鳥取県教育委員会は同様の学習理論研修を今 後も継続することとしている。御舩室長は「この2年間で、 県立高校教員全体の約1割が学習理論研修を受講しまし た。あと2年くらい続ければ、学習科学という共通の土 台をもとに、各学校で教科を超えた授業研究が進むので はないかと期待しています」と言い、千代西尾指導主事 も「導入を強いるのではなく、口コミで良さが広がって いくといいですね」と話す。  2012 年 11 月には、県立鳥取西高校(27 ページ参照) で「学びの文化祭」と名付け、教員7名の知識構成型ジ グソー法の公開授業とシンポジウムを行い、他校からも 多くの教員が参観に訪れた。2013 年 11 月には鳥取西高 校の継続実施に加えて県立境港総合技術高校でも「学び の文化祭」が開かれるなど、取り組みが広がっている。  さらに、2013 年度から 2014 年度にかけて「ICT を活 用した学習環境の研究事業」を実施し、静岡大学の大島 教授と連携して、ICT を使った協調学習の実践研究を進 めている。具体的には、2013 年度の夏季休業中に、県立 鳥取西高校と県立智頭農林高校に 40 台前後の iPad、 iPad 管理用 PC、モバイルの無線 LAN 環境などを導入。 プロジェクター等は既存のものを新しい環境で使えるよ うにした上で、校内サーバーに教材を置いて閲覧できる ようにするなど ICT 環境を整え、知識構成型ジグソー法 <図表>学習理論研修を受講した教員の感想と実施頻度

ICTを活用し

生徒の学びをさらに促進する

(注2) 『鳥取大学教育研究論集』第 4 号、2014 年、鳥取県の高等学校教育における学習理論研修を通した学習科学の知見の導入 (注3)大島純・大島律子・益川弘如・千代西尾祐司・林耕介・小林徹.( 投稿中 ) モバイルテクノロジを利用した協調学習の授業設計指針の理論的考察 (注4) 東京大学 CoREF 平成 24 年度活動報告書 協調が生む学びの多様性 第 3 集 P152 (注5) 東京大学 CoREF 平成 25 年度活動報告書 協調が生む学びの多様性 第 4 集 P38-40 2012 年度の学習理論研修(第4回)の受講者の感想を単文に分解しカ テゴリ分けし、度数の多い順に並べたもの。 カテゴリ分けの項目 度数 (a) 〔授業観・学習観の変容〕・考え方の変化、改革推進への実感 38 (b) 〔授業手法の理解〕・知識構成型ジグソー法の理解 36 (c) 〔授業改革への必要性の理解〕・協調活動への良さへの気付き、実感 33 (d) 〔授業者同士によるコラボレーションの意義〕・指導案を共に練る意義 27 (e) 〔自らの授業実践の変容〕・授業に活かしたい思い、生徒への還元 26 (f) 〔自己の変容〕・自信、不安、過去の振り返りと対比、意識の変化 16 (g) 〔その他の記述〕・他、上記カテゴリに含まれない記述 14 学習理論研修受講者(教員)の感想の分析(注4(n=38)) 学習理論研修受講後に知識構成型ジグソー法を授業で実践している頻度 平成24年度と25年度 受講者の知識構成型ジグソー法実施頻度(注5) 知識構成型ジグソー法を授業で活用する頻度 24 年度平成 (n=40) 平成 25 年度 (n=61) a ほぼ毎日(週のうち 3 ~ 4 回) 7.5% 0% b 頻繁に(週のうち 1 回以上) 5% 1.6% c ちょくちょく(週に 1 回か 2 週に 1 回くらい) 10% 13.1% d ときどき(月に 1 回か、2 月に 1 回) 15% 32.8% e 今まで、1 回~ 2 回ほど試してみた 30% 36.1% f やってない 12.5% 6.6% 無回答 22.5% 6.6%

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知識構成型ジグソー法を授業に取り入れ

生徒の思考力や表現力を深める

埼玉県立浦和高等学校

も容易に活用できると考えるようになりました」  そして初年度、同じ1年生の担任団で「英語Ⅰ(当時 科目名)」の授業を担当していた教員 2 人やALTと一緒 に指導案をつくり、全クラスでジグソー法による授業を 試みた。  当初は一部の教員の取り組みであったが、「事業」の 一環として研究推進校が実施・公開する検証授業を通し て、この手法を導入する教員が増えていった。検証授業 では、複数の教科の授業を同日に、担当外の教科も観ら れる形で公開したことで、他校から多くの参観者を集め た。活動する生徒の様子を見て、ジグソー法に興味を持 つ教員も増えてきたという。  「ジグソー法を取り入れた授業では生徒が活発に発言 することなどから、『たまに導入するには良い』との感想 を耳にすることができました。また、ワークシートや授 業案があれば使ってみたいという要望もあったため、作 成した教材は共有するようにしています。異動などによ り入れ替わりはありますが、協調学習を試みる教員は毎 年増えています」  ジグソー法の優れた点について、第一に生徒の主体性 や表現力の育成に効果的であることを挙げる。  「英語の授業では以前からペアワークを取り入れていま したが、中には少し話すだけで活動をやめてしまう生徒 もいます。しかしジグソー活動では、そのグループで自 分だけが知っている内容を説明しなければならないため、 誰もが一定以上の発言をしなければなりません。責任を 持って発言しなければならないという側面が、主体性や 表現力の育成に効果的と考えています。  英語のペアワークも、ジグソー法の授業を実施した後 のほうが活発になります。エキスパート活動やジグソー 活動を経験することで、友達に意見を言うことに抵抗が なくなり、よりわかりやすい説明を試みるようになる生 徒も見られました。普段の授業や学習にも良い影響があ るようです」  埼玉県立浦和高等学校は、1895(明治 28)年に埼玉 県第一尋常中学校として設立されて以来の伝統をもつ男 子校で、東京大学などの難関大学に例年多くの卒業生が 進学する、全国でも有数の進学校として知られている。 同校は 2010 年度に埼玉県の「県立高校学力向上基盤形 成事業」(20 ページ参照、以下「事業」)研究推進校に指 定されて以来、多くの教科で協調学習に取り組んでいる。 実際に協調学習による授業を利用した手応えについて、 英語科の池野智史先生に話を伺った。  協調学習の研究推進校に応募した関根郁夫・前県立浦 和高校長(現・埼玉県教育長)は、東京大学大学発教育 支援コンソーシアム推進機構(CoREF)の活動や協調学 習の手法の1つである知識構成型ジグソー法(コラム参 照・以下ジグソー法)に造詣が深く、「進学校でも導入す る価値がある」と考えた。校内から研究推進委員を募り、 初年度は数学科2名、英語科2名、国語科1名が委員と なった。(2013 年度は数学科3名、英語科3名、理科1名、 家庭科1名)  「『事業』の研究会では参加教員がまず、ジグソー法の 模擬授業を受け、一連の過程を体験しました。既に行わ れていた観点からの説明では、正解は1つだが正解に至 る過程が複数ある課題について、グループのメンバーが それぞれ異なるプロセスを学び、互いに説明し合うこと で理解を深め、正解を導き出す教育手法と伺いました。 当初、第一には理科や数学での導入を想定しているよう でしたので、英語や国語では取 り組みにくいのではないかと感 じましたが、その後、言語活動 を重視するという点に注目しま した。皆でいろいろな材料を共 有して新たな考えを模索する、 すなわちアウトプット活動を重 視する手法としても利用できる と発想を転換し、英語や国語で 高校の取り組み

事例1

前校長の「進学校にも有効」との考えから

協調学習の研究推進校に応募

主体性や表現力の育成、教科への興味関心の

喚起、思考の深化にも有効

池野智史 先生 Part

2

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 第三は、生徒が深く思考できることである。  「通常の講義型の授業では、生徒の発言のために使え る時間が限られるため、教員が想定していない意見や、 もう少し深めれば筋の通った結論を導けそうな意見が出 たときに、教員が軌道修正したり思考を遮ったりしてし まう場合があります。しかしジグソー法の授業では、生 徒同士が話す時間を多く確保することで、その類の視点 を有益に活用できる場合があります。また、グループに 分かれて活動しているとき個別にアドバイスすることも できます。必要に応じて促すことで生徒の考えをより深 められると考えています」  第二に挙げるのは、教科への興味・関心を喚起する効 果である。  「授業アンケートで、この手法による授業を今後も続け たいかどうかを聞いたところ、『毎回でも実施してほしい』 『頻繁に実施してほしい』という回答が大半でした。これ は特に、普段の授業ではつまらなそうにしている生徒や、 なかなか内容に集中できない生徒に強く見られた傾向で あることが印象的です。特に習熟度別のクラス分けを行 っているわけではありませんが、ジグソー法をうまく利 用することで、英語が苦手な生徒も英語への興味関心を 持ち続けられるのではないかと期待しています」 <図表>エキスパート活動の教材例  あるテーマについて複数の視点で書かれた資料を グループに分かれて読み、自分なりに納得できた範囲 で説明を作って交換し、交換した知識を統合してテー マ全体の理解を構築したり、テーマに関連する課題 を解いたりする活動を通して学ぶ、協調的な学習方法 の一つで、以下のような活動を含む。ここでは3つの 資料を使って活動する場合を例に紹介する。 ①授業における問い(学習課題)を投げかけ、生徒 はそれぞれ答えを考える。 ②エキスパート活動:生徒を3つのグループ(A、B、 C)に分け、それぞれのグループに学習課題のヒント となる、異なる学習資料の一部を示す。各グループは、 メンバーで協力し合い、他人に説明できるように十分 に理解する<図表>。 ③ジグソー活動:A、B、Cのグループから1人ずつ 集めた3人で構成する班をつくり、班ではそれぞれ自 分がエキスパート活動で得た知識を説明し、お互いが 全ての知識を理解した上で、①の課題の回答を導き 出し、回答と意見をまとめる。 ④クロストーク:各班が話し合った内容を、クラス全 体の前で発表し、意見交換をする。他の班の、自分 たちとは異なる話し合いの経過や回答を聞いて、新た な発見(気づき)を得る。 ⑤最後に、冒頭の問いの回答を、生徒一人ひとりが 自分の言葉で書きとめる。

知識構成型ジグソー法

コラム

(提供:池野先生) ※ 東京大学大学発教育支援コンソーシアム(CoREF)ホームページなどから編集部で作成

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 反面、ジグソー法で難しいのは生徒への介入の程度で ある。「事業」の研究会では、指示を必要最低限に留め、 極力介入しない方が良いとされているが、実際には生徒 が話し合いに慣れるまでの行程が円滑に進まない事態が 時たま起きる。  「例えばエキスパート活動で話し合いがうまく進まない グループがあると、次のジグソー活動で全てのグループ の話し合いが滞ってしまいます。これを防ぐため、私の 場合、話し合いの時間が8分間あるとしたら、5分間は グループの様子を見て、残り3分間で話し合いが全く進 んでいないというグループにアドバイスをするなど、工 夫をしています」  今後の課題は、生徒の状態をどう見極めていくかであ る。ある時、話し合いに参加せずにずっと黙っている生 徒が最後の 30 秒でグループ全体の意見をまとめる発言 をしたことがある。他メンバーの聞き役に徹しながら考 えを深めている様子を見定めるのは困難なのである。  では、実際の英語の授業では、どのようにジグソー法 を導入しているのだろうか。池野先生は、「いつもより深 く理解してほしい」内容に関する英文を読んで意見をま とめる授業や、気分転換を兼ねて教科書を離れた文章を 読む授業で導入することが多いという。  「とはいえ、『事業』では、読解、文法、コミュニケー ション、パラグラフライティングと、多様な場面での授 業案を作成しました。考え方次第でさまざまな場面で導 入できると思います」  また、英語の表現力を高めたい場合は英語のみを使い、 考えを深めることに重きを置く場合には日本語で話し合 うことにするなど、目的に応じて使用言語を選択してい るという。ただし、ジグソー活動やエキスパート活動で は日本語を使って構わないとする場合でも最後のクロス トークは英語で行うよう指示し、英語での表現力向上を めざしている。  授業の難易度については「平均的な成績の生徒が少し てこずるくらい」に設定するとのことだ。  「こうすると英語が得意な生徒も『少しわかりづらい』 と感じている生徒に説明することを通して、さらに理解 を深めることができます。また、ジグソー活動では、同 じ活動でも生徒に応じて難易度を調整することができま す。例えば、英語が苦手な生徒はエキスパートグループ でまとめた文章を読みあげて紹介するように、得意な生 徒は何も見ずにエキスパート活動で得た内容を説明する ように促す、などの対応を通して行っています」  最後に、こうした授業に取り組む頻度を聞いた。  「全ての授業に必ずこの手法を取り入れるのは現実的 といえませんし、講義形式の授業も必要です。形式に変 化があることも重要であるという考えから、私の場合、 1回の授業全てをジグソー法で行うのは1学期に1回程 度にしています。エキスパート活動は席が隣り合う3人 で、ジグソー活動は前後3人で行うというように、グル ープ分けが容易な指示を選んでいます。また、20 分程度 の小規模な活動を行ってみることもあります。  その他にも日常の授業で、英語科ではペアワークを頻 繁に取り入れたり、数学科では生徒が問題を解説する時 間を設けたりと、協調的な学びの場は確保されています。 生徒が何らかの形で授業に主体的に参加する時間を取り 入れようという意識は、教員の間に確実に広がっている と感じています」

目的に応じて時間や手法を調整し

柔軟に授業に取り入れる

◇所在地:埼玉県さいたま市浦和区領家 5-3-3 ◇沿革:1895 年 埼玉県第一尋常中学校として設立 1899 年 埼玉県第一中学校と改称 1901 年 埼玉県立浦和中学校と改称 1948 年 学制改革により埼玉県立浦和高等学校と改称 1999 年 単位制導入 ◇学級編成:[全日制]普通科 1 学年 10 クラス、2、3 学年 9 クラ ス (2013 年度) ◇生徒数:男子 1,138 名 2014 年 2 月 1 日現在 ◇特色:第二代の藤井宣正校長による造語「尚文昌武(文を尊び、 武を盛んにする)」を掲げ、グローバル社会における真のリー ダーとなる人材育成をめざす。2012 年度・2013 年度入試で は東京大学合格者数が全国の公立高校の中でトップとなるなど 高い進学実績を誇るだけでなく、2012 年に科学技術振興機構 が創設した「科学の甲子園」第1回大会で優勝、2013 年には ラグビー部が全国高校ラグビー大会出場を果たすなど、文武両 道を実現している。授業では、1999 年より単位制を導入、 2007 年からは隔週土曜日に授業を実施している。1996 年よ り英国のパブリックスクールであるウィットギフト校との姉妹 校提携により短期派遣制度や長期交換留学制度を設けている。 ◇卒業生の進路:2013年3月卒業生 400名  ・進学先:4年制大学 164 名 ・合格者の内訳(現役生、延数):国公立大学(大学校含)116 名 私立大学 192 名 埼玉県立浦和高等学校

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全校を挙げて「協同学習」を導入

鳥取県立鳥取西高等学校

力向上策が限界にきているのではないかという意見が出 ました。そこで、生徒個人が努力するだけでなく、生徒 同士が刺激し合って力を引き出すことはできないだろう かと考えるようになったのです」(山本教頭)  2012 年には「協同学習」に関心のある坂口祐二校長が 着任。鳥取県教育委員会も「学習理論研修」などを含む「新 時代を拓く学びの創造プロジェクト」事業(22 ページ参 照)をスタートさせ、知識構成型ジグソー法(注2)を用い た協調学習など、学習理論に基づいた授業改革を推進す る方針を打ち出した。これらをきっかけに、鳥取西高校 では学校全体で授業改革に取り組むようになった。  2012 年度には県の「学習理論研修」に5名(英語、国 語、数学、理科、地歴公民)の教員を派遣するとともに、 教科内で報告会を開き、校内で研修の内容を共有した。  さらに 10 月には、研修に参加した教員が中心となって 公開授業を行った。知識構成型ジグソー法による協調学 習を取り入れた授業を公開し、他校・他県からも多くの 参観者が集まった。  11 月には鳥取県教育委員会と合同で「学びの文化祭」 を開催。公開授業を行ったほか、東京大学の三宅なほみ 教授や静岡大学の大島純教授を招いて学習科学に関する シンポジウムを開催した。  2013 年度には、生徒がより自主的に、積極的に活動で きる場面の企画・運営を目的として、分掌に「企画部」 を新設した。『授業改革』『教育企画』『文化活動』の3 つの業務を主に担当し、鳥取西高校における教育 改革の中心的な役割を担っている。『授業改革』 には、「協同学習」の推進に加え、授業アンケー トの実施・分析が含まれる。『教育企画』は、全 学年縦割りで行う課題研究「思索と表現Ⅰ」の実 施と、知識構成型ジグソー法や、ICT を活用した 授業の実践などが主な内容である。『文化活動』 には、生徒の知見を広げるための国際理解の取り 組みや講演会の企画などがある。  鳥取県立鳥取西高等学校は、鳥取藩校「尚徳館」の伝 統を受け継ぐ伝統校であり、京都大学や大阪大学、鳥取 大学をはじめとする国公立大学や有名私立大学に多くの 合格者を輩出する、県でも有数の進学校である。2013 年 度の重点目標のひとつに「鳥西 学びのコミュニティづ くり」を掲げ、生徒相互の協同的な学習を取り入れた主 体的な学びを創造すると同時に、深く学ぶことの喜びを 感じ合える共同体づくりに取り組んでいる。協同学習の 取り組みについて、教頭の山本英樹先生、企画部部長の 中田典子先生、企画部教育企画主任の福田賀博先生に話 を伺った。  鳥取県立鳥取西高校では 2012 年から、教科の授業や 総合的な学習の時間に「協同学習」(注1) を取り入れた授 業を実践している。導入の背景には、難関大学への合格 者数が伸び悩んできたことがある。  「本校の生徒はほとんどが大学への進学を希望してい ます。学力の高い生徒が多く、教員も生徒の希望する進 路実現のために補習授業や添削指導などできる限りのこ とをしているにもかかわらず、学力が伸びなくなってき たと感じていました。そこで教員同士で、生徒は潜在的 な力はもっているはずなのに、なぜ伸び悩んでいるのだ ろう。どこかに突破口はないだろうかと話すようになり ました」(中田先生)  「話し合いの中で、教員が一方的に教える伝統的な授 業方法や、土日などに課題を与えて指導するといった学

生徒の潜在的な力を引き出すために

新たな授業手法を模索

「企画部」が中心となって授業改革を推進

山本英樹 教頭 (注1)協同学習の定義には諸説あるため、この原稿では鳥取西高校での定義として括弧つきの「協同学習」としている。 (注2)知識構成型ジグソー法…東京大学 大学発教育支援コンソーシアム推進機構(CoREF)の三宅なほみ教授が提案している「あるテーマについて 複数の視点で書かれた資料をグループに分かれて読み、自分なりに納得できた範囲で説明を作って交換し、交換した知識 を統合してテーマ全体の理解を構築したり、テーマに関連する課題を解いたりする活動を通して学ぶ、協調的な学習方法 の一つ」である。(CoREF ホームページより) 中田典子 先生 福田賀博 先生

(13)

 そして、企画部が中心となり、2013 年度には「学習理 論研修」への参加、「学びの文化祭」の開催とともに、鳥 取西高校内で行っている公開授業のテーマを「協同学習」 として、多くの教員が知識構成型ジグソー法による協調 学習などを取り入れた授業を行った。  なお、鳥取西高校では、知識構成型ジグソー法だけで なく、生徒がともに学び合う活動を取り入れたさまざま な教育手法を実践している。例えば、以前から福田先生 の数学の授業では、問題演習の時間に生徒同士で学び合 う活動を取り入れているし、中田先生の英語の授業では ペアワークを積極的に取り入れている。そして、こうし た取り組みを総称して「協同学習」としている。  福田先生は、さまざまな「協同学習」の中でも、知識 構成型ジグソー法の特長を次のように捉えている。  「知識構成型ジグソー法には他の人が知らない事柄を 説明する場面が全員にある点が特長です。話すことが苦 手な生徒も、必ずグループのメンバーに説明しなければ ならず、他の手法だといつも教えられる側にな っている生徒も、知識構成型ジグソー法では教 える側になることが良いと考えています。他の 教育手法にも良さがありますから、場面に応じ て使い分けることが大切だと思います」(福田先 生)  同じ教育手法でも、教科によって方法は異な る。例えば、知識構成型ジグソー法でも、福田 先生の数学の授業では「生徒にとって新しい知 識を、生徒たちで学び合って理解する」ことを 目的に、単元の導入で使っている。中田先生の 英語の授業では、「教科書の内容と関連のある テーマについて3つの立場の英文を読ませ、グ ループでそのテーマに関する意見をまとめてプ レゼンテーションさせる」など、生徒の理解を 深めることを目的に、まとめの場面で使っている。  「『協同学習』にもいろいろな手法があります。 本校では、それぞれの教員の経験や他の事例を 参考にしながら、教科や単元の特色、そして何 より目の前の生徒に合った手法を導入していこ うと考えています」(山本教頭)  2013 年度には、「思索と表現Ⅰ」を導入した。前期の 総合的な学習の時間(14 回)を使って、3学年合同でグ ループ学習を行い、現代社会の課題について解決策を提 案する取り組みである。具体的な流れを見ていこう。  4月には、オリエンテーションの後に、生徒の興味・ 関心に応じてチーム分けとテーマ設定を行う。まず、教 員が研究フィールド<図表1>を提示し、生徒は第3希 望まで提出。3年生の希望を優先しながら、各学年2名 ずつ6名のグループを作り、グループごとに研究フィー ルドに関するテーマを設定する。  2013 年度のテーマには、「日本の教育において、子ど もの受け身の姿勢をどうすれば改善できるか」「スポーツ で優秀な成績を残す人と豊かさとの関係」「火星に移住 できるか」などがあった。地域に注目し「鳥取県で地域 活性化の起爆剤として注目されている『砂像』を県外に どう発信したらよいか」というテーマに取り組んだグル ープもあった。

多様な「協同学習」を導入し

授業の幅と可能性を広げる

<図表1>「思索と表現Ⅰ」のフィールドと研究分野

学年を超えたグループによる課題解決型学習で

協力して課題を乗り越える力を育成

研究フィールド 関連キーワード(一部) *フィールドがまたがるキーワードあり ① 社会 震災復興、領土問題、マイナンバー制、少子高齢化、引きこもり、児童虐待、格差社会、フリーター、ニート ② 法 憲法改正、裁判員制度、死刑廃止論、一票の格差 ③ 教育 いじめ、学級崩壊、不登校、国際学習到達度調査(PISA)、脱ゆとり教育 ④ 経済 税制改革、財政危機、地方分権、道州制、世界の金融不安、規制緩和、金融政策、非正規雇用、GDP、TPP ⑤ 産業 東京スカイツリー開業、食糧自給率、グローバリゼーション ⑥ 国際関係 南北問題、核兵器問題、アラブの春、NGO、TPP、EU、世界紛争 ⑦ 文化 言語、芥川賞・直木賞、電子書籍、モラル崩壊、サブカルチャー ⑧ 芸術 伝統芸能、歌舞伎、能楽、祭、文化遺産 ⑨ スポーツ ワールドカップ、国技(相撲)、オリンピック ⑩ 環境 循環社会、エコロジー、温暖化、環境汚染、酸性雨、砂漠化、グリーン化、バイオ燃料、シェールガス、レアアース ⑪ 自然 絶滅危惧種、オゾン層破壊、世界遺産 ⑫ 科学 iPS 細胞、ヒッグス粒子 ⑬ 技術 クローン技術、バイオテクノロジー、再生可能エネルギー、シェールガス、レアアース、脱原発、宇宙開発、人工知能とロボット、遺伝子組み換え ⑭ 情報 インターネット、メディアリテラシー、ユビキタス社会、ブログ、個人情報保護法 ⑮ 医療 脳死、インフォームドコンセント、メンタルヘルス、医師不足、臓器移植、出生前診断、緩和ケア ⑯ 福祉 社会保障制度、公的年金制度、介護保険、ノーマライゼーション、バリアフリー、ユニバーサルデザイン、NPO、ボランティア 2013 年度は上記の 16 研究分野をまとめ、6フィールドで活動した。 第1フィールド 第2フィールド 第3フィールド ①社会 ④経済 ⑨スポーツ ②法 ⑤産業 ⑪自然 ⑦文化 ⑥国際関係    第4フィールド 第5フィールド 第6フィールド ⑫科学 ⑧芸術 ③教育 ⑬技術 ⑮医療 ⑩環境 ⑭情報   ⑯福祉

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 テーマ設定後は、資料の収集や議論を進めていく。そ の際、教員もディスカッションに加わり、必要に応じて アドバイスを行う。  7月末にはプレゼンテーションを行い、各フィールド の代表グループを選抜。9月の「西高祭」において、各 フィールドの代表が発表し、生徒の投票によって最優秀 賞と優秀賞を決定した。評価は、テーマ設定の適切性、 説明の根拠の適切性、プレゼンテーションの上手さなど の項目に従って行われた。  「思索と表現Ⅰ」は生徒にも好評であり、終了後のアン ケートを見ると「社会のことを考えることができた」「違 う学年の人と関われたことが良かった」といった記述が 多く見られた。教員も、「普段は大人しい3年生がリーダ ーシップを発揮する」など、普段の授業とは異なる生徒 の姿を見られることなどに、大きな手ごたえを感じてい る。今後は、後期の「思索と表現Ⅱ」との連携などにより、 さらに効果を高めたいと考えている。  「『思索と表現Ⅱ』は、本校が約 20 年前から実践してき た『小論文研究』を継承した取り組みです。『思索と表 現Ⅰ』においてグループで研究したテーマを、個人でも 深めて論文にまとめるなど、より効果的な方法を考えて います」(中田先生)  2013 年度の後期には、県から 46 台の iPad が配布され、 授業での活用法の研究を始めた。まずは興味のある先生 に導入してもらい、必要なアプリケーションなどの要望 を聞いている。  例えば中田先生の英語の授業では、臓器移植売買につ いて賛成の英文を読んだあと、グループで iPad を使って 反対意見の根拠となる事実や意見をリサーチし、プレゼ ンテーション、その後で自分の意見を述べるという授業 を行った。物理の授業では、iPad 向けのアプリケーショ ン「ロイロノート」を使って、波が発生する様子を少し ずつ描いたカードを、グループで波の発生順に並べ替え るという授業を行い、波の理解に役立てた。  「並べ替えた結果が視覚的に捉えられることもあり、同 じグループの生徒が1つの iPad を覗き込んで議論をして いる様子が印象的でした<図表2>。また、わからない ことがあればインターネットで調べることもできるので、 ◇所在地:鳥取県鳥取市東町 2-112 ◇沿 革:1873年 鳥取藩校「尚徳館」を継承した第四大学区第           十五番変則中学校として開校 1888年 鳥取高等女学校設立 1910年 鳥取県立商業学校開校 1949年 3校を継承した3高校が統合され、鳥取県立 鳥取西高等学校開校 1957年 商業科が分離独立し、鳥取県立鳥取商業高等 学校となる ◇学級編成:[全日制]普通科 各学年8クラス ◇生徒数:957 名(男子 489 名、女子 468 名)2013 年 10月1日現在 ◇特色:鳥取藩校「尚徳館」の「文武併進」の伝統を受け継ぎ、「高 い志を持ち、幅広い教養を身につけ社会の進歩・発展に貢献す る創造性豊かな人間を育成すること」をめざして、教育活動に 取り組んでいる。1996 年度から2学期制を、2002 年度から 45 分授業を採用している。硬式野球部は、春・夏の甲子園大 会で山陰地方最多の出場歴を誇り、新体操部も全国大会の常連 であるなど、部活動も盛んである。 ◇卒業生の進路:2013年3月卒業生 319名  ・進学先: 4年制大学 205 名 ・合格者の内訳(現役生、延数):国公立大学(大学校含)233 名 私立大学 323 名 鳥取県立鳥取西高等学校

iPad の「協同学習」への導入で

生徒の授業への主体的参加や理解につなげる

<図表2> iPad を使った物理の授業の様子 『協同学習』の効果を高めるのに有効だと感じました」(中 田先生)  「波の発生について、生徒同士で協力することで理解 に至った点に大きな意義があると思いました。本校では、 このように他者と協力して問題を解決する経験をさまざ まな場面で設定することで、生徒に教科の内容を理解さ せるだけでなく、『学ぶ力』や『課題解決力』を身につけ させていきたいと考えています」(山本教頭)  鳥取西高校がめざす「学びのコミュニティ」は、新た な伝統として歩みを進めている。

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