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37

催離構第鵜38鞘)

糖尿病時の神経系異常について

東京女子医科大学内科学教室(主任 中山光重教授)

   助教授渡辺晴雄

       ワタ   ナベ   ハル   オ

(受付 昭和38年11月1日)

 糖尿病患者の脚経障害のうち,本日述べる紳経

系の障害は,いわゆる糖尿病性Neuropathyを

意味する.これは本来,末梢神経障害を示す言葉 ではあるが,本質的には同一の障害が末梢より中 枢に至る神経系の各レベルで起り得るので,実際 にはそれらすべてを包含して老えるのが妥当であ ろう.しかしながら普通は末梢神経系,殊ジこ知覚 系,自律神経系の障害を主とする症例が多いのは 周知の事実である.

 すでに18世紀末のJohn Rolloの著者には,糖 尿病患者の下肢における神経痛,パレステジーの 記載がみられ,また1864年Marchal de Calvi の糖尿病の沖経障害に関する報告以来欧米におい て,幾多の研究が追加された.

 ひるがえって,本邦におけるこの種の文献を探 ぐるに恥掻的乏しい.その中にあって綜説ではあ るが,本症の系統的研究の足がかりともなり得る すぐれた内容を有するものに豊倉の「神経研究の 進歩」第1巻4号(1956年)の綜説がある.

 さらに極めて組織的な追求を行なったものに は,沖中の第5回日本糖尿病学会討議会特別講演

(糖尿病第5巻1962年)「糖尿病患者の神経障害」

がある.

 先ず中山内科における症例をあげで説明したい と思う.症状の概略は図1に示す通りであるが,

Vitamin療法と共に,最も重要な糖代謝異常を 中心とするコントロールを行なった結果,最近は 足底部の一部に知覚異常を残すのみとなった.

 本例には両下肢の知覚鈍麻,パレステジーのほ か,軽い血管運動障害性の自律挿経症状が認めら れた.腱反射は本四にみるような充進はむしろ少 なく,大部分は減弱ないし消失傾向を示すのが普 通である.また振動覚障害も本例では認めなかつ

 永○氏 約4年前

本年5月   7月

44才 ♀ ルイ痩,多飲.

その後約1年,糖尿病と診断さる.

だるい感じが強い.

下痢が続く.

下肢の知覚異常現わる.

空腹時」血.糖値 170mg/dl

 x 気 羅 膨

vtv

fffJ,

多…

匿劉知覚鈍麻(+)

囮知寛異常(+)

圃温覚鈍麻(+)

 同じ部の冷感(十)

 PSR両側三三

 一般に反射性充進  病的反射  (一)

図1糖尿病性ノィロパチーと考えられた1例        表   1

何らかの腱反射異常         84%

アキレス腱反射減弱,消失 同         尤進

膝蓋腱反射減弱,尤進  同        充進 知覚障害  自覚痛  パレステジー  知覚鈍麻

脛骨縁振動覚障害  尺 骨 同 上 運動障害 脳神経障害 瞳孔障害

610/,

4%

450/0 120/,

86%

340/.

310/0 230/.

500/0 480/.

230/0 200/.

260/o

一661一

以上有神経症状者

自律神経またはそれに関係深い症状  四肢厩冷

 起立性低血圧  膀胱障害  関節障害  他

960/o

380/,

280/.

130/0 130/o

(2)

38

たカミ,一般にはかなり多いものである.その他,

脳神経障害,瞳孔異常,「膀胱障害も必ずしも稀で はない.これらの事実は沖中の論文より242名の 糖尿病恵者の神経症状を引用することによって明

白に理解されるであろう.その主なるものを表1 に挙げてみた.

 次に当教室における千数百例にのぼる糖尿病症 例のうち,比較的最近の症例より日常外来で遭遇

し易い自発痛,パレステジーなどについて,1〜2 の検討を加えてみた結果を示したい.パレステジ ーの出現頻度を表2に,自発痛の出現頻度を表3

表2 糖尿病者にみられたパステジーの頻度

・・才以下1・・才以上1計

軽  症 A.119

120N199

中等症

重  症200孤g%〜

3/41例 12.20/e

6/32 18.3 10/22 45.5 21/95 22.1

15/53

28.30/,

25/68 36.7 13/43 30.2 53/164

32.3

20/94 21.30/o

31/100 31.0 23f65 35.4 74/259 総計28.6

表3 同じく,カルテ上,神経痛と   記載されたものS頻度

t・・才以下・・才以上 計 軽  症 tv119

120−v199

中等症

200mg/dl・一一重  症

16/39例

41.Oo/.

9/27 33.3

8/22 36.3 33/88

37.6

25/52 48.3e/o

38/71 53.5 27/40 67.6

90/16rs

55.0

41f91

45.Oo/o

47f98 48.0 35/62 56.5 ユ23/251 総計49.0,

に挙げた.老人性退行性変化や動脈硬化性.血管性 障害を老耀し,50才未満と以上に区分した.この 点50才よりも40才を以って区分するほうが更に適 切であることは沖中の統計によっても明らかであ るが,症例数の関係で50才を採用してみた.この ことにより,50才未満において比較的純粋な形で 糖尿病性因子の影響を老察し得ると老えたのであ

る.さらに糖尿病症状の重軽度を現わす指標の一 つとして,空腹時1血糖値をとり,これを3段階

(120mg/dl未満, 120mg/dl〜199mg/dl,200 mg/dl以上)に分けることにより,糖尿病性代謝

性因子と神経症状との相関性をみようとした.結 果は次の通りである.

 パレステジーは総計で,259例中74例28%に認め られ,昨年第5回糖尿病学会における沖中の糖尿 病性Neuropathy・に関する特別講演でのパレス

テジーの頻度31%とほぼ一致している.重軽度と の関係は,重症に至る程多い傾向はあるが,これ を50才未満のところをみると,50才以上に比し,

この関係が一層密で,空腹時血糖値が200mg/dl 以上では急激に頻度が高くなっているのが到る.

これにより前に述べたように,50才未満であるの で比較的純粋な形で糖尿病性代謝障害性因子が,

この神経症状惹起に関与しているものと老えるの は,或る程度まで妥当であろう.

 自発痛に関しては,251例中123例(49%)に みられ,沖中の34%よりやや高い数値が認めら れ,かつ症状の重軽度には相関性を有していな い.この点につき,多少注意すべきは日常外来に おける多忙な診療は,自発痛,神経痛なる言葉を 濫用させる恐れがあることである.

 医学用語に対する潔癖性が必ずしも充分でない 点が,日常各所に散見せられるように思う.しか

しこのことはさておき,沖中の血合も後述するよ うに腱反射異常や,運動神経伝導速度の減少など に比し,糖尿病性代謝性因子との関係はかなり弱 いようである.

 以上パレステジー,自発痛に関する検討中,特に 50才未満について前者がかなり糖尿病性代謝性因 子に関係が深いことを述べた.これを更に沖中の 論文中,症候学と病因の関係を述べた部分を要約 することによって,その意味するところを考えて みたい.沖中は糖尿病患者の神経症状の病因とし て,次の5回忌を想定し検討を進めた.1)糖尿病 の病的代謝過程による神経系統の機能的障害,2)

病的代謝過程が長期間持続することによって若起 せられる神経系統の器質的障害,3)糖尿病性の一血 管変化の結果起る瓦経系統の乏血性障薯,4)動脈 硬化性一血管変化の結果起る神経系統の乏血性障 害,5)老入性退行性変化の一環としての紳経系統 の障害である.それぞれを代表する臨床的指標

一 662 一

(3)

39

罹病

期二 様令

      器質的       障害         糖尿病者

   目上症乏神経症潮回KW

糖尿病蛋白尿血   血高血圧動脈硬化牲

曲都鳥  艦的/ 血管障害

        障害 /        !ノ         空腹時         血糖        代謝障害

老人性退行 性 変 化

    ノ    ノ!

  / 腱反射の

消失,減弱

   一

  一一t一

振動覚 障 害

    N /

40オ未満の神経症状     図2

za一

   ノ!

  L/t

自発痛

1

神経症状と病因(沖中論文より要約引N)

として,初診時空腹時血糖値,糖尿病の罹病期 間,糖尿病性網膜症または高度の蛋白尿,眼底 Keith−Wagener氏分類巫以上の変化,または高 血圧および年令をとって,これらと冬神経症状と の相互関係を検討した(図2),この模式図は左半 則は糖尿病性病因との関係が深いもので,右半側 は糖尿病との関係が薄いものである.40才以上に ついてみると,腱反射の減弱ないし消失,振動覚 障害が糖尿病性代謝性因子と関係深く,40才未満 ではすべての挿経症状がこの代謝障害と密接に係 関していることが示された。以上のことよりも,

中山内科教室例のパレステジーに関する検討で得 た結果を理解し得る.なお沖中は更に臨床生理学 的な面として,正中神経で運動性末梢神経伝導速 度の涯延,臨床病理学的な面として神経東内の毛 細管密度の減少,臨床生化学的な面として脳脊髄 液の蛋白濃度の上昇などについて詳細に検討を行

なっている.

 私は以上の事実より,次の事柄を結論してこの 発言を終りたい.すなわち糖尿病自体は豊倉が述

べているように極めて内科的な疾患であり,如何 なる臓器もその本質的な代謝障害による侵襲から 免れ得ず,ただ程度の差があるのみである。そし

    一lt/

  \レ/ノ

パレステジー

て先程より述べてきた事実もそれを具体的に裏づ けているのである.したがって次のことが言え る.糖尿病時の神経系の含併症とはいっても,糖 尿病を作りあげている全身的な病的代謝過程がそ の根底にあり,その意味で腎症状,眼症状などと 共に合併症というよりは,むしろ糖尿病の部分症 状に他ならない,これに対し感染症は合併症とし

て扱うのがむしろ妥当であろう.

 かくて,私は糖尿病の本態追求のためには,こ れらすべての症状を論じ,追求するのでなければ 糖尿病の痒候学はもとより,病因論,治療体系も 成り立たないものと考える.今後,臨床症候学的,

臨床病理学的,並びに臨床生化学的な三位一体の 多面的な追求がなされねばならないと老えている

ものである.

         参考文献

 1)Rollo,工=Cases of Diabetes Mellitus Lon.

  一don, C. Dilly, 1798.

 :ol De Calvi, M.: Rechersche$ sur les Accide−

   nts Diabetiqes. Paris, Asselin, 1864.

 3) Fagerberg, S.E.: Diabetic Neuropathy.

   Acta. Med. Scand., Supp. 345, 1959.

一 663 一

4)豊倉康夫:糖尿病における犬猿系障害.

 研究の進歩14,(1956)

5)沖中重雄:糖尿病疾患者の神馬系障害,

 病5 3(1962)

神径 糖尿

参照

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