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(1)

少 年 法 と 刑 訴 法 と の 一 接 点

9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 ,

. 

9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 ,  

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',',',',',',',',',',',',',',',',',',

上 田

二九

太 郎

﹁調布駅南口事件﹂抗告審決定の拘束力解除をめぐって

14--3•4~-777 (香法'95)

(2)

鴨良弼博士は︑かつて︑﹁苦悩する制度理念﹂と題した論文の中で︑我が国の少年審判制度について︑

あり方︑あるいは﹁健全育成﹂を達成日標とした少年法の基本理念から遠く乖離し︑

解消されるには至っていないように思われる︒

九八五年七月︶︑﹁綾瀬母子殺し冤罪事件﹂︵同一九八八年一

二 九

︱ ︱

それは︑基本

理念の相剋要囚を多分に含んでいるために︑﹁制度の健全な発展を渋滞させる傾向のとくにつよい﹂ものではないか︑

との間題点を提起された︒果たして博士の提起されたこの間題点は解決されたのであろうか︒すなわち︑この制度の

健全な発展を阻害する﹁渋滞﹂は︑現在︑解消されたといえるのであろうか︒

結論を先取りしていえば︑近時の少年審判にみられる動向は︑少年の心を傷つけない懇切を旨とした本来の審判の

その﹁渋滞﹂は︑現在でも何ら

それを端的に示す近時の諸事件としては︑﹁草加事件﹂︵事件発生時一

一月︶﹁浦安暴走族乱闘事件﹂︵同一九八九年五月︶︑﹁大高

緑地アベック殺害事件﹂︵同一九八九年六月︶などをここに挙げることができるであろう︒そして︑それらに対しては︑

自白獲得を目的とした少年に対する強引なまでの取調べや少年審判の基本的理念を忘れた審判の実態︑あるいは家裁

の事実認定能力の欠如など少年司法全般に関わる深刻な間題がつとに指摘されてきたところである︒

ところで︑近時︑少年法の基本理念に照らして明らかにそれに背反すると思われるような少年審判がまたひとつ︑

訴訟法の議論とも関連し接点を有すると思われる︑ つけ加わることになった︒複数の少年が五名の少年に対して暴行し︑傷害を負わせたとして争われた﹁調布駅南口事件﹂である︒この事件の経過は後述するとおりであるが︑本稿ではこの事件が提起した様々な重要間題のうち︑刑事

上訴審の破棄判決︵本件の場合は破棄差戻判決︶の拘束力の問題

は じ め に

14‑3・4  778 (香法'95)

(3)

少年法と刑訴法との一接点、(日fl)

を検討素材として論述することとしたい︒そしてその際︑とりわけその拘束力が下級審︵差戻審︶

る場合の問題について検討することとする︒なぜならば︑上級審判断の拘束力の問題は︑たとえば拘束力の法的性格︑

る︒そこで本稿のこの間題点をより明確にするために︑ これまで様々に議論されてきたにもかかわらず︑しかし拘

これまでそれほど十分な議論がおこなわれてきたとは思われないからであ

まず﹁調布駅南口市件

Lの内容︑本件抗告審の決定および差

戻審の決定のそれぞれの内容︵決定の根拠︶をあらかじめ確認し︑刑訴法の議論を参考としながら検討をすすめてい

※なお︑本稿は︑一九九四年

月八1︑大阪でおこなわれた関西少年事件研究会においておこなった報告を基礎にまとめたものである︒

: o

報告に際しては会員の方々からぷ唆に富む御教ぷを頂いた︒また︑本稿の執筆にあたっては︑本件に関する資料収集に際し︑伊藤俊克 弁護士︵本巾件事務局長︶︑井

t

f

弁護十︑また西坦昭利弁護

Kららから御配慮を頂いた︒御教示︑御配慮に対し︑ここに御礼中し卜i

﹁調布駅南口事件﹂

一九九三年三月一日午前

0

時三

0

分頃︑京王線調布駅南口前の広場において︑数名の少年が予備校生五名に対し因 縁をつけ暴行を加えた︒予備校生のうち一名が全治三週間を要する左眼球打撲︑外傷性虹彩炎等の傷害を負った︒別

事件の概要および審判の経過

くこととしたい︒ 束力が解除される場合の問題については︑

の内容

拘束力の及ぶ裁判所︑拘束力の及ぶ範間などをめぐって︑

二九三 において解除され

14 -3•4 779 (香法'95)

(4)

件で逮捕されていた少年

S

の供述をもとに︑事件からニヶ月以じ経った五月三日から一一日にかけて︑本件の被疑者

としてA ︑

認に

転じ

C ︑D ︑EおよびF六名の少年らが次々に逮捕された︒このうち︑

こつ

き︑

,1  

成人到達前の期日 Sの他︑少年三名は︑

て本件につき自白したが︑三名は否認した︒少年らはその後各自勾留︑勾留延長を経て︑ 警察におい

等処罰に関する法律違反﹂保護事件として東京家庭裁判所八玉子支部に送致され事件は同支部に係属した︒

少年らはそれぞれ観調措閻決定を受けて少年鑑別所に収容されたが︑この間︑A ︑B ︑Cは鑑別所送致の段階で否

Sのみが一貫して自白を維持した︒家裁の審判ではSが試験観察︑保護観察を経て保護観察処分となり︑

六名のうちA ︑

年九月二四日︶

B

六日成人になるが︑ C ︑DおよびEがそれぞれ中等少年院送致︵六月一六日から二二日︶︑

し﹂の決定を受けた︵九月一日︶︒これに対し︑Sを除くA ︑

部︶に抗告し︑高裁は﹁非行巾実を認めるに足る証拠はない﹂として被告人ら五名全員につき原決定を取り消す旨の 決定をドした︒抗告審は︑日撃証人および四察官証人に対し証人呼間したうえで︑九月一七日被告人ら全員について

﹁原決定には︑重大な事実晶認がある﹂として各原決定を取り消したものであり︑これによって事件は再び東京家裁

八王子支部に差し戻されることになった︒少年らは少年院から当日中に釈放された︒

少年のうちDの付添人は︑成人年齢到達が間近に迫っていた同人︵九月ニ︱日生まれ︶

指定・不処分決定を求めた︒

とこ

ろが

︑芋

圧戻

審は

B ︑ Fに対しては﹁非行事実な

C ︑DおよびEの五名の少年は東京高裁︵第九刑市

Dに対して何らの審判を行わないまま同人が成人に達した後︑﹁一

件記録によれば︑本人はすでに満二

0

歳を越えていることが明らかであるから﹂として︑九月一︱一日付けで事件を東

京地検八王子支部に送検した︒また︑Bについては九月二四日に審判が開かれ︑﹁東京高等裁判所決定後本日︵平成五

まで︑少年につき本件非行事実を認めるに足る新たな証拠資料の送付もなく︑少年は平成五年九月二 その前に新たな証拠資料が送付される見込みもないので︑当裁判所は︑裁判所法四条に基づき前

いずれも﹁傷害︑暴力行為 二九四

14 ‑-3•4-780 (香法'95)

(5)

少年法と刑訴法との一接点 (I:

抗告審では少年ごとにおこなわれた原審︵第一次家裁審判︶

から提出された資料あるいは抗告審での証人呼間調内を少年全員との関係で使用した︒

抗告審が本件犯行と少年らとの結びつきを否定する根拠とした証拠のうち︑

められる︒すなわち︑①加害者を全近距離から目撃した証人

Tの供述︑②少年

S

の供述および特に犯行時刻と関連す

る ︑

S

の勤務するパチンコ店の勤務時間が記録されたタイムカード︑③少年

A ︑BおよびCについて取り調べた警察 2 

(1

日にはEに対しても検察官送致決定を目い渡した︒ 受けて差戻審は︑ 捜在をおこない︑ 記東京高等裁判所の本件送致事実に関する認定に従い︑本件については非行事実を認めるに足る証拠はないとして︑少年を保護処分に付さない﹂との決定が言い渡された

他方︑差戻審の裁判官は︑成人到達までにやや時間のあった残りの二名の少年

A ︑

を急がず︑処分を決定して言い渡す期日を﹁一一月じ旬以降に指定する﹂こと︑

を行うLことをE

の付添人に対して表明した︒これを受けて腎察は︑日撃証人への働きかけなどを含む大規模な補充

‑ 0

月六日以降︱一月までの間に約一五

0

通にも及ぶ追送致書類を差戻審に送付した︒この結果を

︱一

月︱

二日

これに対して東京地検八王子支部は︑九四年二月二八日︑

抗告審決定および差戻審決定の内容 抗告審決定の内容

二九五 CおよびEについては期日指定

およびその間﹁警察による補充捜脊

まず

AおよびCにつき刑事処分相甘として検察官送致の決定をドし︑また同月二五

すでに不処分決定を受けていた

Bを含むA ︑

E

の五名全員を傷害罪︑暴力行為等処罰法違反で東京地裁八王子支部に起訴した︒ C ︑

D

およ

の審判を統一し︑原審段階で用いられた資料︑付添人

とりわけ重要なものは次の四点にまと

︵ な

Bは九月二六日に成人に到達している︶︒

14 3• 4 ‑781 (香法'95)

(6)

② 少 年

Sの供述について 官調書︵の信用性︶︑④少年Dに関する被害者および警察官の識別証註︵の信用性︶の各点である︒この四点の抗告審

決定の内容はそれぞれ以下のとおりである︒

目撃証人T

の供

述と

は︑

Tが加害者の暴行を至近距離から日撃した際の状況を記載した警察調書の他︑原審決定後︑

付添人自身がTから録取した内容を書面に記載したものである︒特に後者は︑

被疑少年らの写真による面割り︑面通しをしたときの状況に関するものであり︑自分が日撃した犯人は︑写真あるい

は面通しされた者の中にはいなかった︑

抗告審はこの点を屯視したようである︒すなわち︑このT供述について抗告審は︑﹁Tはもともと本件に何ら利害関

係のない第三者たる目撃者であり︑至近距離から犯人の行動を相当の時間冷静に観察し︑

犯人と会話をしているというのであるから︑犯人の識別については︑最も重要な立場にある人物であることが明らか﹂

であ

り︑

したがって犯人の﹁容貌︑服装等についてかなり細かく正確な記憶を持っていたと認められる﹂とし︑その

T

が﹁捜費段階において︑写真面割の際示された

A

等の写真を含む前記写真台帳の中に︑自分が日撃した犯人がいな

いと述べただけでなく︑面通しの際にも︑﹃ABは︑自分が目撃した犯人とは別の人物である︐

極めて重要である﹂と指摘した︒

そし

て︑

に対する極めて重要な反証である﹂とも述べた︒

これは︑少年五名の逮捕の契機となり︑終始︑犯行につき自白を維持している少年

Sの供述に関するものである︒

警察官に対するSの供述によれば︑犯行日時前日の一一月二八日は︑

① 目 撃 証 人

Tの供述について

との内容を持つ書面であった︒ Tが警察において調書を取られた際の

さらにTのこうした供述は︑﹁信用性が高く︑ しかも︑二回にわたって︑

と明言した事実は︑

S自白以下の本件の積極証拠

パチンコ店に隼番勤務であったために午後五時頃

二九 六

14  3・4  782  (香法'9S)

(7)

少年法と刑訴法との一接点(ヒ田)

こ ︒

③ 少 年

A

B

︑Cの各警察官調書について

たっていて現にそのように勤務したのに

︵現にそのように勤務したのだとすれば︑

二九七 の趣旨だと思われる︒

1 1活弧内筆

には勤務を終えて帰宅し︑

審は

この

供述

は︑

五時半頃友人とともに調布駅南口に行きそこで犯行に及んだという︒しかしながら︑抗告

S

の勤務先のタイムカードの記載と矛盾すると指摘した︒すなわち︑付添人から提出された

S

務先のタイムカードの打刻によれば︑二月二八日の

Sの出勤時刻は﹁一五時二七分﹂︑退出時刻は﹁一一三時

0 ‑

︱分

﹂と

打刻されており︑これによれば

S

供述に示された当日の諸行動は現実にはありえないことになる︒そこで︑この

S供

述の内容と現実に打刻されているタイムカードとの矛盾をどう考えるかについて抗告審は︑﹁背日︑

S

が吊番勤務に%

者︶︑同人のタイムカードに︑出勤時刻︑退出時刻のいずれについても︑遅番勤務に相当する時刻が記載されるなどと

) よ

A

こと

t

これ

は︑

タイムカードの性質上︑通常考えられないことであり︑⁝⁝

S

証人

自身

も︑

全く事実に反する記載が何故行われるに至ったかについては︑説明できない状態である︒したがって︑﹃当時早番勤務

であった︒﹄という

Sの前記供述は信用できない﹂と判断し︑ タイムカードに右のような

s

供述に依拠するのではなく︑現実にタイムカードに打

刻されていた時刻に依拠して当日の

Sの行動を認定した︒そして︑抗告審は︑

s

供述の信用性につき︑﹁そうすると︑

前に引用した犯行に全る経過に関する

S

の供述は︑全部事実に反することが明らかである︒右供述の中には︑⁝⁝か なり具体的な部分もあるのであるが︑これらが全て虚構である疑いが強いといわなければならない﹂との結論を導い

A ︑BおよびC

らに対する腎察官の取調べ状況およびそれら供述と客観的な犯行事実との間の矛盾に関係

するものである︒すなわち抗告審は︑まず

A

の取調べ状況と自白について︑﹁

A

が︑当日︑取調べの警察官から厳しい

追及を受けた結果︑否認を通すことは困難であると感じ︑事実を認めて取調官の心証を良くしようという迎合的な気

14‑‑3.4~733 (香法'95)

(8)

④ 

か な

;B

が一応事実を認めたものの︑その供述内容が許しく具体性に欠け︑

または︑他の証拠と符合しないなど︑調書を

否認していた

Bがどのような取調べにより︑

ている﹂と指摘し︑また︑

その後の取調べにおいて取調官のポ唆︑誘導に従い︑次第に供述を

訂正していったという疑いを否定することができない﹂と述べ︑

嘩になった﹂との自白が被寅者の証けと反しているとして︑ また犯行の状況についても︑

その供述の信用性を否定した︒ Aの

また

B

に対する取調状況について抗告審は︑強引な取調べはしていないと供述する担升警察官

Wの供述は︑﹁門初

どのような経過で自白するにポったかについて︑説得力ある説明に欠け

Bが自白し始めた当日の調書が伺ヽり作成されていないのは不自然であり︑その理由として︑

取るに足りる程度に達していなかったため︑調青を作らなかったのではないか﹂とかなり踏み込んだ判断を示した︒

さらに︑犯行状況に関する駆げ察段陪で

O J

B 供述が取調官が代わるたびに変遷している点についても︑﹁右のように日

時を接しての取調べにおいて︑取調官が変わるごとに︑理由もなく供述が転々とするというのは︑甚だ異常というほ

Bが︑自らの記憶に珪づいてではなく︑時々の取調官の意を迎え︑

ないかとの強い疑いを感じさせる﹂

と し

︑ 次に任意同行されて取調べを受け︑犯行を自白した少年

Cの威己祭段陪での供述についてもその内容自体に重大な疑

問があるとした︒すなわち︑被害者一名を広場まで引きずっていき︑

て変遷︑増加していることなどにつき︑﹁Cの自白は信用し難い﹂

その示唆︑誘導に従って供述したのでは

Aの自白と同様にその自白の信用性に疑間を投じた︒

そこで乱暴を加えた人数が取調べが進むにつれ と判断した︒

少年

D

に関する被曹者

M

および警察官Hの識別証月について

少年D

については︑被害者

M

および犯行時に現場に駆けつけた警察官

H

が捜府段階において識別供述をおこなって いる︒原審はこれらの供述の信川性は高いと判断したが︑抗告審は反対にこの点を否定した︒

﹁擦れ違い様に間 持ちもあって︑身に就えのない本件犯行を認め︑ 二九八

14 3・4  784 (香法'95)

(9)

少年怯と刑訴法と(})寸妾点

C l :

差戻審決定の内容 本件差戻審が示す上級審判断の拘束力とその解除に関する理解は︑以下のようなものである︒

まず、差戻審は、上級審判断の拘束力に関する一般的な考えjjとして、「差し戻しを受けた裁判所は抗告審の中~該事 件についてなした判断に従って︑審判しなければならない﹂と述べ︑裁判所法四条を挙げて︑

ト級審の判断に従って判断する必要のあることを認めた卜で︑

とも認めた︒すなわち︑﹁少年事件のれ実審の判断韮準時は︑差戻後の裁判所の決定時であるから︑差戻後捜在機関が

新たな証拠資料を送付し︑あるいは︑差戻後の裁判所があらためて証拠調をし︑同裁判所が抗告審の判断の基礎とな った以外の証拠資料を付加して判断するときは︑抗告審の事実認定じの判断に拘束されない﹂とし︑さらに少年審判

( 2 )  

と比べて一層疑問であると判断した︒

二九九 一般的に下級審はその

しかし︑同時にその拘束力は解除される場合のあるこ

までに長期間が経過していること︑現場において

H

が犯人とごく短時間しか接触していないことから︑その供述は

M

認めることは困難だと判断した︒J,

 

J

戚ば

察官

H

の五

月一

: o

日 ︑

五月一工ハ日の識別供述についても抗告審は︑

識別

月の日時が経過し︑Mの記憶が相中ー簿らいでいたと推開されるために︑

抗告審はその識別供述について裔い信用性を

まず

Mの識別供述に関して抗告審は︑

れる

のに

五月一九日になってそれを識別できたのは︑

たことから思い出したに過ぎず︑

四月一八日の最初の取調べの段階では

M

D

を識別できなかったと推測さ

)l

 

o l

これに影評されて︑同一人と思い込んだ疑いが強い﹂とした︒ D

が犯行時と同じ服装︵ジャンバー︶を着用してい

D

の容貌︑体つき等については必ずしも十分な記憶はないとし︑したがってM

は ︑

﹁互真に写った

D

の容貌等から記位を喚起したというより︑犯人とよく似たジャンバーを着た疫に強い印象を受け︑

そして︑本件の犯行の日から五月

1

日ま

でに

約一

.ケ

14  3・4  785  (香法'95)

(10)

規則五一一条を引用し︑﹁抗告裁判所から差戻を受けた事件については︑更に審判をしなければならない﹂のであるから︑

﹁差戻後の裁判所が事実認定のために証拠調をすることを否定していない﹂

除の前提となる証拠調をおこなうことも可能である旨を述べている︒ 三

00

として︑差戻審が抗告審決定の拘束力解 このような理由を前提として本件差戻審は︑本件について抗告審決定の拘束力を解除し︑少年に対して検察官送致

の決定を下したことについて次のように述べた︒すなわち︑﹁本件については差戻後地検支部から新日撃者の供述調内

等を含む約一四六点の証拠資料が送付され︑且つ︑冴裁判所が︑一︱名の証人呻間をした結果後記のような新事実が

判明した。従って当裁判所は、抗告審決定の『本件について非行事実を認めるに足る証拠はない。〗とする判断に拘束

されることなく︑抗告審の判断の基礎となった以外の証拠資料を付加して本件非行事実の存否につき判断できる﹂と︒

いったいどのような根拠︵証拠︶

を﹁新証拠﹂として差戻審は採用し︑抗告審の拘束 力を解除したのかということである︒これについて差戻審は︑上述した抗告審のあげる①\④の四つの差戻決定の理 由について検討している︒ここでは便宜的に抗告審が非行事実不存在の論拠とした①から④を差戻審ではそれぞれ①

から④として抗告審に対応させて確認することとしたい︒

① 

差戻審は︑抗告審が重視した日撃証人

T

の証言は︑﹁偽証の疑いが極めて強く伯用できない﹂とした︒差戻審によれ

ば︑抗告審決定後︑

T

は再び警察官から参考人として取調べを受け︑そこで

T

は︑﹁少年の中には自分の子供と同級生

がおりこの事件の犯人達とかかわり合いたくないという気持ちになった﹂とか︑﹁同じ団地に住む少年のことが気にな

って写真帳の中の人物の写真などは気を留めて見るようなことはせず︑

しまった﹂等々の供述をおこなっていると指摘し︑ 目撃証人

T

の供述について そこで次に間題となるのは︑

ついつい犯人はこの写真帳にはないと言って

また︑被疑少年の親や付添人から

T

に対し働きかけがあったとも

14 ‑3・4  786  (香法'9.5)

(11)

少年法と刑訴法との一寸妾点(上田)

指摘した︒こうしたことから︑差戻審は︑﹁自分が目撃した犯人は︑写真あるいは面通しされた者の中にはいなかった﹂

とする

T

供述には信用性がないと判断した︒

② 

抗告審が﹁全て虚構である疑いが強い﹂と断じた少年

S

の供述について︑差戻審は逆に︑﹁

S

の自白の不自然な点︑

どのものではない﹂と述べた︒そして︑

時刻の問題に関しては︑抗告審決定後に収集された

S

自身の差戻審における証言や︑警察官作成による参考人︵前記

パチンコ店の上司︑同僚など︶

って差戻審が導いた結論とは︑

7

ょ ︑

‑S

│ 

いず

れも

此.

︳細

な点

であ

り︑

⁝⁝

S

供述全体としての信用性を害するほ

S

供述の信用性の裏付けにとって最も重要なタイムカード記載の出勤︑退社 の供述調書を含む約二十数点に及ぶ証拠資料が使用された︒そして︑これら資料によ

つまるところ︑﹁タイムカードの打刻はかなりいい加減で︑⁝⁝タイムカードに打刻さ

れた時間は︑現実の出勤︑退出時間を反映していないことがあった﹂ということにある︒そして︑犯行日時前日の二

月二八日に

S

はその供述どおり午後五時頃退社したが︑カードに﹁二三

・ O

二﹂と打刻されていたのは︑

その供述どおり︑二月二八日は︑早番であり︑同日午後五時頃自宅に帰ったことになるので︑

抗告審決定にあるような虚偽の供述ではない﹂という結論を下した︒

③ 

S

の同僚が

当日

S

がまだ打刻していないことに気づき︑代わりに打刻したものと推認されると判断した︒その結果︑差戻審は︑

S

の供

述は

︑ 差戻審は︑この三少年の捜究段階における供述の信用性をいずれも認めた︒すなわち︑少年らの捜査段階における

供述は︑被害者︑目撃者︑相共犯者等の供述と微妙に食い違う点も多い一方で︑少年らは記憶にない点はよくわから

ない旨を供述しているとし︑まず︑

A

の自白調書については︑取調官の示唆︑誘導に基づくものとは思われないこと︑

少年

A

B

C

の各警察官調内について 他の者との供述の不一致︑供述自体の変遷は︑

少年

S

の供述について

0

1

14--3•4-787 (香法'95)

(12)

0

条によって検察官送致の決定を下したのである︒

被害者の供述と食い違いがあることも少年が任意に供述したことの裏付けとなると判断し︑

いても取調官がポ唆︑誘導できるような事柄ではなく︑

も符合しており信用性があると判断した︒なお︑

① 

また︑犯行現場にいたと認められる各警察官との供述内容に

Cについての個別の検討はおこなわれていない︒

少年Dに関する被害者

M

および警察官Hの識別証言について

差戻審は︑抗告審決定後の

M

の警察官調内および差戻審における証言から︑

また

0 ニ

Bの供述内容につ

M

がD

につき記憶を喚起したのは︑抗 告審のいうように︑面割りの際︑犯人とよく似たジャンバーを着用した

Dを見たことによってではなく︑

マジックミ ラー越しに斜め向かいに立った

D

の目線の位置が︑犯行時

M

が腕を胴んだ犯人と同じだったからであって︑

ーに影響されたのではないから︑

M

の識別証言には信用性があるとした︒

また

H

の識別証言の伯用性も肯定した︒すなわち︑前記五月二

0

日の警察官調書の記載は具体的であり︑

識別までにニヶ月が経ち︑犯人とごく短時間接触したに過ぎないとしても︑﹁その職業を考えると︑ ジャンバなるほど

いちがいにその供

なお︑差戻審は︑少年

Bについても︑﹁B

が現場にいたと思われる﹂旨の供述をした識別証人

N

︵本件被害者︶の臀

以上のように差戻審は︑抗告審決定後の補充捜脊によって得られた瞥察調書等一四六点︑あるいは差戻審における

一名の証人尋間の結果から︑﹁新事実が判明した﹂として︑抗告審決定の拘束力を解除し︑改めて非行事実の存在を

認め

Aに対し︑﹁この際刑事処分を受けることが少年の人格︑社会性の健全な発達をはかる上で必要﹂だとして少年

法二三条一項︑ 察調書を新たな証拠資料として使用している︒ 述に信用性がないとはいえない﹂

と述

べた

14--3•4-788 (香法'95)

(13)

少年法と刑訴法との—•接点(}:

上級審の判断が下級審の判断に対して拘束力を持つことは︑刑訴法において︑学説上︑

ころである︒民訴法とは異なり︑刑訴法にはこの点についての明文の規定はないものの︑通常︑裁判所法四条の﹁上

拘束力解除に関する刑訴法の学説・判例

て論述することとしたい︒

本件の問題点 以上︑﹁調布駅南口事件﹂の事実の概要と審理の経過および抗告審決定︑差戻審決定について概観した︒本稿が取り

上げる破棄判決の拘束力解除との関連でいえば︑問題点は次の点に集約されるであろう︒すなわち︑抗告審の破棄差 戻決定の拘束力は︑差戻審において提出された﹁新証拠﹂によって解除されるとしても︑

一般的に果たしてどのような内容の証拠を意味しているのか︑

t

級審判断の下級審判断に対する拘束力は︑

どのような証拠によって解除されるのかを検討することであり︑

事訴訟法におけるこの点の議論へと視点を向けることとしたい︒

一般的に認められていると

そもそも そしてそれに照らして本件差戻審が﹁新証拠﹂とし て採用したものは︑果たして﹁新証拠﹂といえるに値するものであったのかという点である︒

ところで︑この間題解決の糸口を探るために︑以下では本件︵少年法︶

の問題の検討をひとまずおき︑我が国の刑 そしてその後︑再び本件の問題の検討に立ちかえっ

0

三 ここでいう﹁新証拠﹂とは︑

14‑3•4-789 (香法'95)

(14)

2キ

級審の裁判所の裁判における判断は︑

いる︒そしてこの法文の趣旨は︑ 三

0

その事件について下級審の裁判所を拘束する﹂という文言がその根拠となって もしド級裁判所が上級審の裁判内容に拘束されず︑それを自由に変更することが許 されるとすれば︑無用の手続がいつまでも繰り返されることになって事件は終局的な解決をみないことにもなりかね ないとか︑あるいは被告人の人権の側面から︑拘束力を認めないと二重の危険や迅速な裁判を受ける権利が侵害され るからだと説明されている︒もっとも︑同時にこの拘束力は︑差戻後のいわゆる﹁新証拠﹂の提出をもって解除され

ることもまた一般に認められるところである︒

ところで︑この﹁新証拠﹂提出による拘束力解除の理由は︑﹁︵拘束力は︶破棄当時の証拠状態でのみ働くので︑新 しい証拠の取調をすれば︑拘束力は消滅する︒その場合には︑従前の判決と同一の事実認定をして何らさし支えはな

い︵括弧内筆者︶﹂とか︑あるいは﹁事実点についての判断は︑証拠が同一であることを前提としてのみ拘束力がある︒

従って︑ド級審においてあらたな証拠を追加して従前と同一の事実認定をすることは差支えない﹂と説明されている︒

すなわち︑差戻後の新たな証拠状態の下では︑差戻前と事実認定の前提が異なるのだから

t

級審の拘束力もまたなく

なるというわけである︒そしてこれは︑ほとんど異論をみない考え方であるといってよい︒ただ︑ここで確認してお

くべきことは︑拘束力の解除をもたらす﹁新たな証拠状態﹂とは︑あくまでも﹁新たな証拠﹂によってもたらされる

のであって︑﹁新たな証拠調べ﹂によってもたらされるのではないということである︒なぜならば︑

もしもそれが後者 を意味するものであるとすれば︑上級審の判断に拘束力を認めることの意味はほとんどなくなってしまうからである︒

ところで︑刑訴法判例においても上級審の判断の拘束力が﹁新証拠﹂によって解除される場合のあることが承認さ

14 3•4~-790 (香法'95)

(15)

少年法と刑訴法との一接点(上田)

( 1 )  

最判一九五一年︱一月一五日︵刑集五巻︱二号二三七六頁︶ のコメントを付け加えておくこととしたい︒ れている︒刑事裁判における事実認定に際しては︑﹁控訴審が差戻判決の破棄理由として︑差戻前の原審および控訴審において適法に取調べた証拠によって事実の誤認ありとした場合には︑事件の差戻しを受けた原審は︑新たな反証のあらわれない限り︑控訴審の事実の認定に反する認定はできない﹂︵札幌高判一九五四年四月二七日高刑集七巻三号四

そこで次に問題としなければならないことは︑過去の刑訴法判例において

L

級審の破棄判決の拘束力が﹁新証拠﹂

によって︑差戻後︑解除された事例を考察し︑

ことであろう︒あわせて︑

本稿では︑通常︑刑訴法体系書に挙げられている二件の最高裁判例を考察し︑

︽事案︾駐物運搬被告事件 それによって︑判例上︑﹁新証拠﹂とされたものをここで確認しておく

それは果たして﹁新証拠﹂といえるものであったのかどうかも検討しておく必要があろう︒

その各々について︽検討︾として若干

被告人は︑昭和二三年四月二二日︑東京都港区芝浦所在の米軍補給部隊から東京都中央区築地所在の米第四九陸軍 病院別館へ米軍砂糖︑菓子類を貨物自動車で運搬する際に︑人夫

N

よりチュウインガム千個入り一箱の運搬を依頼さ

れ︑それが盗品であることを諒知しながら右病院別館まで運搬した︑

審理の経過は︑差戻前の東京高裁︵第一次控訴審︶

告審

において肥物運搬罪により有罪とされたが︑上告審︵第一次上

では被告人には右物品が盗品であったとの認識がなく︑

差し戻された︒

しかし︑差戻審︵第二次控訴審︶

六六

頁︶

というわけである︒

として起訴された事案である︒

またそれが盗品であったとの証拠もないとして破棄︑

は︑差戻後︑証拠を追加して運搬罪を維持したために弁護人は﹁原

0

14--3•4-791 (香法'95)

(16)

と考えるならば︑ ﹁理由不備ないし採証法則違反として破棄差戻された後の第一一審が証拠を追加して同一事実を認定した場合には︑必ずしも上級審の裁判所の裁判における判断と相反する判断をしたことにはならない﹂︒

本件は︑被告人は︑連搬した物品が盗品であることを認識していなかったのであるから︑

立しないと争われたものである︒

護人

t

告趣意によれば︑差戻後の被告人の原審法廷における供述だけであったという︒

と思ったのです﹂というものであって︑

がないから︑盗んだものとは思わなかったか﹂と理屈詰めで間われたために︑

はそうは思いませんでした﹂

とこ

ろで

るの

か︑

こうした羞戻後の被告人の法廷での供述が果たして﹁新証拠﹂として認められ という点である︒第一次上告審の破棄差戻判決の拘束力を解除するほどの証明力はないとする弁護人の主張 にも加えて︑後に述べるように﹁新証拠﹂とは︑あくまでも新たな証拠方法から得られた新たな証拠資料をいうもの

この事案では︑原審において取り調べられたのはそもそも﹁新証拠﹂などではなくて︑同一の証拠

ここで間題となるのは︑ を維持したわけである︒ 今から思えば︑

︽検

討︾

上告棄却 ︽

判決

要旨

︾ 判決は裁判所法第四条に違背して︑判決を言い渡した違法がある﹂などとして再び

t

告し

た︒

ところで第二次控高審が従前の肘物運搬罪を維持するために追加した証拠とは︑弁

その供述とは︑被告人が

N

が盗んだものと思えますが︑山一時はそばに進駐軍の兵隊も居たし︑私は

N

が兵隊から貰ったものだ しかもそれは︑被告人が原審裁判長から﹁

N

が進駐軍の品物を持っている筈

﹁今から思えばそう思えますがその当時

と答えたに過ぎないものであった︒原審はこの被告人供述を追加して従前の貯物運搬罪

そもそも肌物運搬罪は成

0

ー ︑

L/ 

14・3・4  792 (香法'95)

(17)

少年法と刑訴法との一接点

U : : .

方法︵本事案の場合は被告人︶に対して﹁新たに証拠調べ﹂がおこなわれたに過ぎないのだから︑破棄判決の拘束力

最判一九五五年︱二月一六日︵刑集九巻一四号一 1

七九

七頁

︽事案︾特別公務員暴行陵虐致死被告淋件

被告人は︑昭和八年からー県巡脊を命じられ︑

犯の捜杏その他の職務を担喝していたが︑昭和一九年一月一 1

一日

午前

0

時頃から同一一時頃までおよび同日午後一

時過ぎ頃から同四時頃まで︑

X

警察署経済保安係室において炭坑現場監督であった

A

を経済事犯の被疑者として取調

中︑手拳又はその他の鈍器をもって同人の頭部を数回殴打して暴行を加え︑これにより同人を翌二二日午前五時過ぎ

x

警察署留置場内において︑外傷性蜘蛛膜下腔並びに硬脳膜下腔出血に基づき死亡するに至らしめたとして起訴さ

本事案は︑警察署内部で生じた腎察官による暴行事件であって︑密室で起き︑

の証言などの直接証拠がないため︑実行犯の特定は困難を伴った︒本件審理は次のような経過を辿った︒第二審︵第

一次控訴審判決︑昭和二三年八月一三日︶ れ

た︒

( 2 )  

︵病気などを原因とするものではないこと︶︑ その後勤務していた

X

警察署において経済保安係

t

任として経済事

かつ被告人は否認し︑また目撃証人

は︑複数の鑑定証人の証言や瞥察官の証言などによって︑①被害者

A

の死

亡の原因は頭部を鈍器のような物で殴られた外傷によるものであること

A

には︑本件につき取り調べられた後︑何らかの身体的症状がみられること︒すなわち警察留置場内に帰房した際︑

A

は﹁幾分か萎れいた﹂︑あるいは

A

から﹁就寝許

の巾し出﹂があったと警察官が証言していること︑③その認めらn J

れた身体的症状のあった時刻は︑鑑定人の鑑定証言︑すなわち

A

の受但は︑死亡前二四時間ないし二

0

時間以内であ は解除されずになお存続しているものと解すべきである︒

0

14 -3•4--793 (香法'95)

(18)

﹁特別公務員暴行陵虐致死被告事件において︑被害者の解剖所見のみを基礎として受偽時と死亡時との時間的間隔を

推認し︑これにより或る幅をもった受傷時を推認した上︑

から証拠と推理によって加害者を認定しても差支えなく理由不備の違法があるとはいえない﹂︒ 上告棄却 ︽

判決

要旨

るという鑑定証言と符合すること︑③その間︑被害者と接触した数名の警察官から割り出していくと外傷を加えた者

は被告人であること︑のそれぞれの点を認定し︑同人を特別公務員暴行陵虐罪および傷害致死罪で有罪とした︒

これに対して上告審︵第一次上告審判決︑昭和︱︱七年︱二月二五日︶は︑第一次控訴審判決は︑②について︑何ら

かの身体的症状の認定は︑

むしろ警察官の供述の趣旨と矛盾するものであり︑確たる証拠に基づかない単なる想像で

一次控訴審判決にとって都合のよい部分のみを採用したこと︑ しかないこと︑③について︑受傷時は死亡前二四時間ないし︱

1 0

時間以内だとの認定は︑鑑定人の鑑定証言のうち第

を理由としてこれを破棄し差し戻した︒

これを受けて差戻審︵第二次控訴審判決︑昭和二九年五月二九日︶

は︑上記②について第一次控訴審判決とは判断 の基礎を変更し︑何らかの身体的症状の存在という前提をとらないこと︑③について︑複数の鑑定証人の鑑定書︵解

剖所

見︶

のみをもとに受傷と死亡との時間的間隔を﹁数時間乃至十数時間︑長くも二四時間以内﹂と推定し︑この推 定期間中に被害者と何らかの交渉を持ち︑同人に接する機会を有した者のうちから被告人を特定することとし︑これ

( l H )  

らから従前の被告人有罪の判断を維持した︒

これに対し︑弁護人は︑﹁本件被害者の死亡時と受傷時との時間的間隔を数時間乃至二四時間以内と推定しそれを絶

対として被告人を断罪した原判決はあまりにも独断的だと言わなければならない﹂などとして上告した︒

その推認時間内において︑被害者と交渉を持った者のうち

0

14~3.4 794 (香法'95)

(19)

少年法と刑訴法との一接点(上田)

﹁上告趣意第三点について︒本件差戻し前の第二審判決は︑被害者

0

の受傷後︑なんらかの身体的症状を生じたこと

を前提として︑同人の死亡と受傷との時間的間隔を判定したものでありその該判決破棄の原由がこの点に存在したこ

とは所論のとおりである︒しかるに差戻し後の原審は新たに多数の証拠調べを実施して証拠を追加すると共に︑就中

右破棄の原由となった死亡と受傷との時間的間隔判定の基礎を︑右差戻し前の原審とは異なり︑専ら解剖所見に関す

る証拠によって認定したものであることは記録及び原判示によって明らかである︒されば差戻し後の原判決は︑破棄

判決の示した判断と少しも抵触するものではないことは極めて明白である﹂︒

︽検

討︾

本件は︑差戻前と差戻後とでは判断の基礎を異にするものの︑結論としては︑従前の被告人有罪の判断が差戻後に

も維持されたものである︒差戻前の第一次控訴審判決は︑被告人によるA

取調

べの

後︑

Aが﹁幾分やつれてみえた﹂

という警察官証言や︑あるいは﹁就寝の申し出﹂がAからあったという警察官証言から︑脳内出血に関わる何らかの

自覚症状があったと認められるとし︑この自覚症状の存在を前提として被告人の有罪を認定したものである︒しかし︑

この点について第一次卜告審は確たる証拠に韮づいておらず︑原審の単なる想像でしかない︑

れに対して差戻審は差戻前と異なり︑自覚症状の存在を前提とはせずに︑ とはねつけている︒こ

ただ

Aの遺体を鑑定した鑑定証人の解剖所

見からのみ受傷時と死亡時との時間的間隔を認定し︑またそれを局限せず︑﹁数時間乃至十数時間︑長くも二四時間以

内﹂という形である程度輻を持たせた上で︑その間にAと接触した警察官の中から被告人を推定していくという方法

をとったのである︒本最高裁判決︵第二次上告審︶

ところで︑本事例について注意すべきことは︑第一次上告審の破棄理由は理由不備に基づいたものであって︑事実

誤認に基づいたものではないということである︒ は︑そうした認定方法に対しての判断であった︒

したがって︑本事例は︑事実誤認を理由とする破棄判決の場合では

0

14 -3•4--795 (香法'95)

(20)

について ないから︑本稿が想定している﹁新証拠﹂による拘束力解除の間題とは杓干︑判決の場合であっても︑差戻の前後で

A

有罪を導く諒証過程を変吏するについては慎屯でなければならないというこ

とである︒本市案の場合︑

前は﹁脳出血の白党的虻状があった﹂ことを前提として

A

釘罪を結論づけているのに対し︑差戻審はこの前提を採ら

ずにA

打罪の結論を導いているのだから︑結謳は同一でもそれを尊くプロセスはそれぞれ異なっている︒しかし︑苑 スを採ったが理由が不十分で失敗したので︑差戻後はじあるいはいというプロセスを採ることも

能だということにn J

なってしまう︒だがそれでは訴訟胄事者︑

ねな

い︒

この事例については少なくとも次いことが指摘できるであろう︒すなわち︑

すでにみたように︑

したがって︑本事案の場合︑ 戻の前後で結論の前提が変更されるとすれば︑﹁被古人有罪﹂という同一の結論を祁くのに︑差戻前は

P l

というプロセ

もっ

とも

理由不備を理由とする破棄

A f f

罪を導く論

r J T 過程は差戻の前後で変更している︒すなわち︑差戻

なかんずく被告人の防御ぷ権が場合によっては危険に晒されることになりか

﹁脳出血の自立的柾状があった﹂というA

有罪の前提事実を第一次控訴審が採用 したのであれば︑差戻審でもその前提巾実に依拠して結扉を科く必要があったのではないか︒そして︑その前提事実

﹁第一次控訴審判決は単なる想像でしかなく︑何らの証拠に韮づいていない﹂

ば︑やはりその前提事実についての証拠︵﹁新訛拠﹂︶が必要であり︑

と卜告審が判断したのであれ それが証明された後︑差戻審はそれに依拠して 判断しなければならず︑﹁差戻前には確たる証拠はなかったが︑差戻後に発見されたこれこれの証拠に基づけば脳出血 の自覚的症状があったと認められる﹂という論理を経由して

A有罪という結論を導かなければならなかったのではな

かろうか︒卜級審判断の拘束力はド級審判断が採る論証過程にも及ぶものかどうか今後の検討課題としておきたい︒

ところで︑本事例における

A

有罪という結論を尊くために重要な点とされている︑受楊時と死亡時との時間的間闊 の認定について差戻審は︑新たな鑑定証人についても取り調べているけれども︑韮本的に同じ鑑定証人に対して差戻

ニュアンスを異にしているといえる︒

. ︱

1 0  

14  :l. 4 796  (香法'95)

(21)

少 年 法 と 刑 訴 法 と の .接凡~(f:

る。 発 差戻後は専ら鑑定証人の解剖所見に依拠して判断しただけであるから︑ ただ時間的間隔を認定するのに依拠するものとして︑差戻前は解剖後の鑑定証人の常識的発言に依拠したのに対し︑ 後に再び取り調べているといってよく︑結局︑従前と同じ鑑定証言に依拠して判断したに過ぎないものといえよう︒

見さ

れ︑

る右の一三パ3最高裁判例は︑実はいずれも﹁新証拠﹂

この点について従前とは異なる﹁新証拠﹂が

それが提出されたというわけではほとんどなかったといってよい︒

このように見てみると︑新しい証拠の取調べによって上級審判断の拘束力が解除された事例であると考えられてい

による拘束力解除の問題をぷす事例ではなく︑

については︑拘束力を解除するのに従前の証拠方法につき﹁新たに取調べ﹂を実施したに過ぎない事例であること︑

( 2 ) 判例については︑事実誤認を前提とするものではないために本来の

また︑﹁新証拠﹂による拘束力解除を示すその他の最高裁判例としては︑

証拠について︑ 八

年一

0

月二五

1

刑集

1一一巻︱一号九六一頁︶があるが︑本判例について評釈をおこなった田宮教授は︑﹁判旨は同一

ともかくも新しく証拠調をやり直せばよいと考えているようなふしがある﹂と指摘しておられる︒こ

の指摘は少なくとも

( 1 )

判例を見る限りにおいては︑﹁八海事件﹂のみにあてはまるものではないといえよう︒した

がっ

て︑

じ級審判断の拘束力が解除されたというためには︑

だとしながら︑巾実

L

︑ はないことになる︒ 次に

まず

( l )

判例

あくまでも新たな﹁証拠︵資料︶﹂が不可欠であり︑

単に改めて﹁証拠調﹂をおこなえばよいというものではないとする学説と︑拘束力解除のためには﹁新証拠﹂が必要

﹁新たな証拠調﹂でそれを認める傾向のある判例との間にはかなりの開きがあるように思われ

~

ただ

いわゆる﹁八海事件﹂最高裁判決(‑九六 ﹁新証拠﹂による拘束力解除の事例で

14  3・4  797 (香法'95)

(22)

(1

破棄判決の二つのパターンと﹁新証拠﹂ 討することとしたい︒ 刑訴法の学説および判例を踏まえ︑ 拘束力を解除する﹁新証拠﹂

既述したように︑

容と検察官側が提出する﹁新証拠﹂

四 検

の意味

ここで拘束力を解除する﹁新証拠﹂

上級審の判断は所与の証拠状態の下で拘束力を有するから︑差戻後︑新たな証拠が発見され証拠 状態が変動すればその拘束力は破られる︒このことは学説︑判例ともに承認しているところである︒

判例の双方を考察して感じられることは︑

こなわれてこなかったのではないかということである︒

しか

し︑

﹁新証拠﹂を要求することは︑

の意味を明らかにしておきたい︒

しかし︑学説︑

という点についての議論や︑あるいはまたそれと関連する間題として︑果たして被告人側が提出する﹁新証拠﹂

の内容とを同列に理解してよいのかという点についての議論は︑従来︑

の内

さほどお

どのようなものでも証拠でありさえすれば拘束力が 解除されるというものではないであろうし︑また︑被告人に検察官と同じ内容を持つ 被告人の負担の間題として酷であろう︒さらに︑拘束力を解除するほどの証拠が﹁新証拠﹂にあたるのだとする論は︑

単なる循環でしかないから︑当然ながらここでの解答にはならない︒

そこで︑以下では︑

いったいどのような性格を持った証拠が

﹁新証拠﹂の意味について検 ﹁新証拠﹂として認められるのか

14--3•4--798 (香法'95)

(23)

少年法と刑訴法との一接点(上田)

ひとくちに破棄判決といっても︑

まず

すなわち︑い第一審有罪︑第二審破棄差戻︵無罪的破棄判決︶を経て差戻審へと至るパターンと︑⑮第一審 印の場合とは︑通常︑差戻審において検察官が拘束力の解除を志向する場合であろう︒この場合には破棄判

決の拘束力を固く若える必要があるように思われる︒具体的に﹁拘束力を固く﹂考えるという趣旨は︑差戻審におい

て検察官は必ず﹁新証拠﹂を提出しなければならず︑

いうことである︒

と解

する

ここでは次のような二つのパターンの破棄判決を想定することができるように思

︵有罪的破棄判決︶を経て差戻審へと全るパターンの二つである︒

それが提出されない以卜︑破棄判決の拘束力はなお存続すると

その意味で︑この場合の﹁新証拠﹂提出は︑拘束力解除のための必要条件だといえる︒

官が提出する﹁新証拠﹂とは︑原則として︑﹁新たな証拠方法﹂によって得られた﹁新たな証拠資料﹂を意味するもの

つまり︑従前と同一の証拠方法を差戻審で新たに調べ直したからといって︑それによって直ちに拘束力が 解除されるというわけではない︒これに対して︑⑯の場合とは︑通常︑差戻審において被告人が拘束力の解除を志向 する場合であろう︒この場合には破棄判決の拘束力を緩く考える必要がある︒具体的に﹁拘束力を緩く﹂考えるとい

う趣旨は︑差戻審において被告人は﹁新証拠﹂を提出すればもちろんのこと︑ また︑検察

しかし仮に検察官に求められるような 意味での﹁新証拠﹂を提出しなかったとしても︑差戻審が職権で従前の同一証拠に対する﹁新たな証拠調べ﹂をおこ なえば︑拘束力が解除される場合もあるということである︒その意味でこの場合の﹁新証拠﹂提出は必要条件ではな

く︑十分条件として捉えておけば足りる︒

さらに︑﹁新証拠﹂の内容も印と⑯とでは異なったものとして捉える必嬰がある︒まず①の場合に検察官が提出しな

ければならない﹁新証拠﹂とは︑直接的にであれ︑また間接的にであれ︑犯罪事実の存否に向けられたもの︑それを

証明するものでなければならず︵直接証拠︑間接証拠の必要︶︑偽証等︑別に犯罪を構成するような事実を証明する場 無罪︑第二審破棄差戻 わ

れる

14--3•4--799 (香法'95)

(24)

第一は︑﹁新証拠﹂の要否の側面である︒すなわち︑破棄判決の拘束力を解除するために検察官は﹁新証拠﹂提出の に

思わ

れる

ここでいう﹁新証拠﹂に該当しないからである︒ 合を除いて︑原則として︑弾劾証拠や回復証拠などの補助証拠はここでいう﹁新証拠﹂にはあたらないものと解する︒それに対して︑間の場合に被告人が提出する﹁新証拠﹂とは︑直接証拠︑間接証拠はもちろん︑弾劾証拠や阿復証拠などおよそ事実認定に供される一切の資料を指すものと解する︒そのように理解すると拘束力を解除する﹁新証拠﹂

の間題に帰着することになる︒の内容の問題は一種の﹁証拠能力﹂

した

がっ

て︑

たとえば︑﹁

X

y

を殺すのを見た﹂という日撃証人

z

の証言︵直接証拠︶が決め手となって︑第一審

では

X

有罪となったものの︑第二審では﹁

N

の証言には信用性がない﹂との理由で差し戻された場合には

︵い

の場

に該当する︶︑検察官としてはN

とは別個の直接証拠︑間接証拠を発見し︑これを提出しなければ拘束力は解除されな

い︒差戻審における

Z

は従前と同一の証拠方法であり︑また︑乙証言の信用性を回復する諸々の証拠︵回復証拠︶は︑

あるいは逆に︑﹁Xが

Y

を殺すのを見た﹂という目撃証人

z

の証言には﹁信用性がない﹂と第一審ではX無罪となっ

たのに︑第二審ではブ

Lの証言には信用性がある﹂との理由で差し戻された場合には︵伽の場合に該門する︶︑被告人

としてはN

の証言の信用性を弾劾する証拠を提出すれば拘束力は解除する︒あるいはまた︑被告人が弾劾証拠を提出

しなくとも差戻審が公判廷で再度︑

z

を取り調べることによって︑

乙の証言には﹁信用性がない﹂という従前の心証

を維持できれば第一一審の破棄判決に拘束されることなく︑なお第一次第一審の判断と同様の判断を下すことができる︒

したがって︑この

5

の場合の破棄判決の拘束力とは︑差戻審裁判官に対する心理的な拘束を意味するにとどまる︒

以上のことを前提とすると破棄判決の拘束力を解除する﹁新証拠﹂の間題は︑次の二つの側面から考察できるよう

三一四

14  3・4  800 (香法'95)

(25)

少年法と刑訴法との一接点 (l:

( 2 )  

負担を負うが︑被告人の﹁新証拠﹂提出は十分条件であるということである︒第二は︑﹁新証拠﹂の内容の側面である︒

すなわち︑検察官が提出すべき﹁新証拠﹂の内容は︑原則として直接証拠ないし間接証拠に限定されるけれども︑被 告人が提出する﹁新証拠﹂にはそうした限定がなく︑犯罪事実の存否に直接︑間接に向けられたものでなくても﹁新 とりわけ後者の意味する﹁新証拠﹂とは︑あたかも再審において議論される﹁証拠の新規性

Lの間題と類似性を有

する︒すなわち︑再審理由として要求される新規な証拠とは︑証拠能力があり︑

らないのは当然であるが︑証拠方法のみならず証拠賓料をも意味すると解されているから︑新証人や新書証が出現し ただけでなく︑同一証人が供述を変更したり︑供述拒否権の行使をやめた場合︑被告人︑共同被告人が供述を翻した 場合もここでいう新規な証拠に該門する︒破棄判決の拘束力解除を求めて被告人が提出する﹁新証拠﹂もこれと同様 に︑同一の証拠方法に対するものであっても構わない︒犯罪事実の認定に供する資料であれば広くそれを﹁新証拠﹂

として用いてよい︒したがって︑被告人が使用する﹁新証拠﹂は︑検察官が使用するそれとは自ずと意味内容も異な

ってくる︒その意味でこの﹁新証拠﹂

目撃証人の﹁新証拠﹂性

かつ証明力があるものでなければな

の間題は片面的に取り扱われるべきものであるといえよう︒

ところで︑検察官が提出する﹁新証拠﹂は︑上述したように︑原則として直接証拠ないし間接証拠に限られるとし

ても︑さらに考慮すべき間題がある︒とりわけ目撃証人の取扱いがここでは間題となる︒上述した事例切のうち︑﹁

X

Y

を殺すのを見た﹂という目棺証人は

Z l

けで

なく

三一 五

さらに複数の目撃証人が存在すると想定しよう︒この場合︑

差戻審において︑

Z I

とは別の日撃証人

Z z

2 3

2 4

⁝・:を﹁新証拠﹂だとして提出することができるだろうか︒もし︑ 証拠﹂として提出できるということである︒

14  3・4  801  (香法'95)

(26)

ことができるように思われる︒ これが許されるとすれば︑捜脊機関は︑複数存在する目撃証人を一人︑る

︒し

かし

上級審で無罪的破棄判決がドされるたびに また一人と小出しにし︑拘束力の解除を主張することが論理上可能だということにな それでは刑事手続であれ︑少年審判手続であれ︑手続に否応なくのせられた被疑者あるいは少年は︑上 下の審級審の間を結局往来することになるから︑上級審の判断に拘束力を認めた趣旨が没却されてしまう︒したがっ て︑差戻後︑新たな目繋証人が見い出され︑公判手続ないし少年審判手続においてその者を﹁新証拠﹂として提出し ようというのであれば︑捜脊機関は︑事件灯初にはその日撃証人の存在を認識できなかった旨を積極的に証明しなけ

れば

なら

ず︑

それが果たされない以上は︑当該目撃証人は﹁新証拠﹂

それゆえ︑捜脊機関が初動捜住の段陪で間き込みの対象とし︑

いは他の目撃証人の証言で卜分犯罪事実の証明が

能だと判断したために︑証拠として巾請しなかった者については︑n J

その者を従前に取り調べた目撃証人とは異なる﹁新証拠﹂だとして差戻審において提出させることはできない︒﹁新証

拠﹂として提出できるのは︑捜脊機関が山︳初の捜査段階ではどうしても認識できなかったが︑公訴提起後︑あるいは

審判開始後︑初めてその存在を認識するに哨ったような目撃証人に限られるものと考える︒

﹁新証拠﹂の意味の相違の根拠

このように︑拘束力解除をもたらす﹁新証拠﹂

(3

として認められないものと解する︒

また現実に間き込みをおこなったが︑他の証拠ある の意味は︑検察官の側面から考察した場合と被告人の側面から考察

した場合とでは異なる内容を持つものとして把握しなければならない︒この場合︑

その

根拠

は︑

以下のことから導く 周知のように刑訴法四

0

二条︑四一四条は︑被告人あるいは被告人のために控訴あるいは上告した事件については︑ ︵羞戻審がおこなわれるたびに︶ 三一六

14  3・4 ..  802 (香法'95)

(27)

少年法と刑訴法との一接点(じ田)

であると位置づけることが

n J

であ

る︒

この

原則

は︑

原判決よりも重い刑を言い渡すことができない旨を規定する︵不利益変更禁止の原則︶︒上訴したばかりにかえって刑

が重くなる危険があっては︑被告人は自らの上訴権を放棄してしまうことにもなり兼ねないからである︒

ところで︑この原則は︑原判決よりも﹁直い刑を科してはならない﹂というわけであるから︑通常︑自判について

戻後の判断が屯くなっては︑

いず

れに

せよ

︑ 妥当する原則であるが︑同時に︑破棄差戻ないし破棄移送の場合にも自判の場合と同様に妥門する︒差戻前よりも差

やはり被告人は

t

訴権の行使を躊躇してしまうことになるからである︒

一方では裁判所に対し︑原審の判断よりも不利益に変更してはならないという義務を付課した原則であ るということができ︑他方で被告人に対しては︑原審の判断よりも不利益に変更されないという権利を保障した原則 ところで︑この不利益変更禁止の原則は︑破棄差戻の場合にも妥当するのであるから︑右に例示した破棄判決の二

つのパターンのうち︑田について考えると︑被告人は第一審の有罪判決につきこれを不服として上訴したのであるか ら︑第二審がそれを破棄し差し戻した場合には︑少なくとも差戻審では無罪判決を含む第一次第一審の判断よりも里 くない刑を選択しなければならないことになる︒被告人としては︑少なくとも第一次第一審判決よりも刑の重くない 判決︑あるいはさらに無罪判決の獲得を期待できるわけである︒しかし︑この場合︑破棄判決の拘束力が脆弱だと︑

被告人のこの一種の期待権︵とりわけ無罪となるだろうという期待︶は簡単に崩れてしまい︑ひいては不利益変更禁

止の原則も脆弱なものになってしまう︒そこで︑とりわけ︑﹁不利益に変更されない﹂という被告人の権利をより強固

なものとするためには︑量刑の側面からだけではなく︑拘束力の解除をもたらす検察官提出の﹁新証拠﹂の側面︑す

の側面からも絞りをかける必要がある︒それがまさに︑原則として犯罪事実の存否に関す

なわち一種の﹁証拠能力﹂

る証拠のみを﹁新証拠﹂として把握しなければならないとする理由である︒

三一 七

14‑‑3・4  803 (香法'95)

参照

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