1. は じ め に L-アスコルビン酸(ビタミン C)は食品業界で は最も広く利用されている抗酸化物質であるが、 長期保存時の安定性が低いことが問題である。ビ タミン Cはフリーラジカルの中和作用により強力 な抗酸化物質である。更に心臓病、白内障、免疫 系とがんの様な病気のリスクを治める効果が報告 されている1)。ビタミン C の推奨摂取量は成人 1 日あたりの 30 ~ 40 mg であるが、研究レベルで は1日あたり250 ~ 1,000 mg の範囲に拡大される。 ビタミン C は多くの果物や野菜に含まれてい る。但し、貯蔵温度と貯蔵時間または湿気、酸 素、pH、および光の影響を受けやすい。なおか つ、ビタミン C は親水系であり、水やアルコール で溶け、溶解すると酸化反応が発生する。特に高 温(>50 ℃)やアルカリ条件下で速やかに酸化が 進み、図1 に示すように毒性化合物の形成が起 こる2)。 ビタミン C 溶液の低い安定性を踏まえながら乳 化及びカプセル化技術の開発が進められている。 これらの研究はほとんどの場合、乳化やカプセル 化手法を用いて、ビタミン C を 1 ~ 5%を内包し ている2)。すなわち、ビタミン C の高安定化が可 能な技術開発が期待される。互いに混じらない水・ 油を乳化剤の作用で細かい液滴として分散させた エマルションは化粧品、医薬品、食品など様々な 用途に使用されている。 エマルションは、主に水中油滴型(O/W)エマ ルションと、油中水滴型(W/O)エマルションが 挙げられる。例えば食品エマルションでは、油相 には脂溶性のビタミン、色素、抗酸化物質等が溶 解しており、水相には水溶性の蛋白質、多糖類、 糖質、塩類、ビタミン、色素、抗酸化物質等が溶 解している。代表として、O/Wエマルションの 中ではマヨネーズ、牛乳、スープ、ソース、W/O エマルションの中ではマーガリンやバタースプ レッドが挙げられる3)。また、多相エマルション の開発が進んでおり、水相にO/W エマルション を分散した Water-in-Oil-in-Water(W/O/W)型エ マルションと、Oil-in-Water-in-Oil(O/W/O)型エ マルションの二種類が挙げられる4)。特に近年は、 食品、医薬品、化粧品など様々な用途を踏まえて W/O/Wエマルションに関心が集まっている。し かしながら、多相エマルションは一般に長期安定 性が低く、食品産業界でも用途が限られている。 <平成24年度助成>
親水性抗酸化物質を高濃度で内包した
高安定液体マイクロカプセルの作製と特性評価
マルコス ネヴェス・小林 功*・中嶋 光敏
(筑波大学生命環境系、*(独)農研機構食品総合研究所) � 平 成 24 年 度 � 親 水 性 抗 酸 化 物 質 を 高 � 度 で 内 包 し た 高 安 定 液 体 マ イ ク ロ カ プ セ ル の 作 � と 特 性 � � ネヴェス マルコス(筑波大学 生命環境系) 1. はじめに L-アスコルビン酸(ビタミン C)は食品業界では最も広く利用されている抗酸化物質であ るが、長期保存時の安定性が低いことが問題である。ビタミン C はフリーラジカルの中和作 用により強力な抗酸化物質である。更に心臓病、白内障、免疫系とがんの様な病気のリスク を治める効果が報告されている1)。ビタミン C の推奨摂取量は成人 1 日あたりの 30~40 mg であるが、研究レベルでは 1 日あたり 250~1000 mg の範囲に拡大される。 ビタミン C は多くの果物や野菜に含まれている。但し、貯蔵温度と貯蔵時間または湿気、 酸素、pH、および光の影響を受けやすい。なおかつ、ビタミン C は親水系であり、水やアル コールで溶け、溶解すると酸化反応が発生する。特に高温(> 50℃)やアルカリ条件下で速や かに酸化が進み、図 1 に示すように毒性化合物の形成が起こる2)。 L-アスコルビン酸 デハイドロ-L-アスコルビン酸 2,3-ジケト-L-グロニン酸 L-キシロソム 図 1 水 溶 液 中 に お け る ビ タ ミ ン C の 分 解 � � 3)( 一 � � � ) ビタミン C 溶液の低い安定性を踏まえながら乳化及びカプセル化技術の開発が進められて いる。これらの研究はほとんどの場合、乳化やカプセル化手法を用いて、ビタミン C を 1~5% を内包している2)。すなわち、ビタミン C の高安定化が可能な技術開発が期待される。互い に混じらない水・油を乳化剤の作用で細かい液滴として分散させたエマルションは化粧品、 医薬品、食品など様々な用途に使用されている。 エマルションは、主に水中油滴型(O/W)エマルションと、油中水滴型(W/O)エマルショ ンが挙げられる。例えば食品エマルションでは、油相には脂溶性のビタミン、色素、抗酸化物質 等が溶解しており、水相には水溶性の蛋白質、多糖類、糖質、塩類、ビタミン、色素、抗酸化物 質等が溶解している。代表として、O/W エマルションの中ではマヨネーズや、牛乳、スープ、 ソースと、W/O エマルションの中ではマーガリンやバタースプレッドが挙げられる3)。また、 多 相 エ マ ル シ ョ ン の 開 発 が 進 ん で お り 、 水 相 に O/W エ マ ル シ ョ ン を 分 散 し た Water-in-oil-in-water(W/O/W)型エマルションと、Oil-in-Water-in-Oil(O/W/O)型エマ ルションの二種類が挙げられる。特に近年は、食品、医薬品、化粧品など様々な用途を踏ま えて W/O/W エマルションに関心が集まっている。しかしながら、多相エマルションは一般に 長期安定性が低く、食品産業界でも用途が限られている。特に内水相と外水相の浸透圧平衡 状態に到達すること、また油相と外水相の体積割合の決定と、親水性と疎水性乳化剤の選択 図 1 水溶液中におけるビタミンC の分解経路3)(一部改変) L-アスコルビン酸 デハイドロ -L-アスコルビン酸 2, 3 -ジケト -L- グロニン酸 L- キシロソム11 特に内水相と外水相の浸透圧平衡状態に到達する こと、また油相と外水相の体積割合の決定と、親 水性と疎水性乳化剤の選択が重要なファクターで ある。本研究では親水性のビタミン C が高濃度 に内包するW/O/W エマルションの作製方法を検 討した。手法としては図2 で示した 2 段階の乳化 プロセスを用いた。一次乳化では疎水性と親水性 の乳化剤およびゲル化剤の選択によって、ビタミ ン C を内包した W/O エマルション(内水相の体 積割合30 %)の安定化を検討した。その後、二次 乳化では W/O/Wエマルション作出方法を検討 した。 親水性であるビタミン C を 30 wt%までの高濃 度が内包するW/O/Wエマルションの新規な作製 方法の開発、さらにW/O/Wエマルションの高安 定化およびビタミン C の徐放制御について検討 した。また、W/O/Wエマルションの保存温度が ビタミン C の保持率に与える影響についても検 討した。 2. 実 験 方 法 2.1 一次乳化:ビタミンCを内包した W/O エマ ルションの作製および特性評価 連続相には大豆油またはモリンガ油(Moringa oleifera)に親油性乳化剤(テトラグリセリン縮合 リシノレート、TGCR)を 5 wt %溶解したもの を用い、分散相にはビタミン C(5 ~ 30 wt%)と MgSO(1wt%)を溶解したものを用いた。W/O4 エマルションの作製は、攪拌乳化装置(Polytron、 7,000 rpm、5min)を用いて行った。W/O エマル ションの特性評価に関しては、平均粒子径(dav) の測定を行い、なおかつdavとビタミン C の保持 率(r)の経時変化(4 ℃、25 ℃)についても検討 した。 2.2 二 次 乳 化:W/O/W エ マ ル シ ョ ン の 作 製 および特性評価 まずは、W/O エマルションについて、内水相 にビタミン C(10-30 wt %)、MgSO(1wt%)と4 ゼラチン(0 ~ 1wt%)を溶解し、油相には疎水性 乳化剤(TGCR(5wt%))を溶解し、調製した。内 水相の体積割合30 %で油相と混合し、上記の一 次乳化と同様に予備乳化を行った。その後、二次 乳化では外水相に親水性乳化剤である DGC(デ カグリセロールモノラウレート)1wt%、MgSO4 (1wt%)、糖質 10 ~ 30 wt%(グルコースあるい はフルクトース、スクロース)を溶解した。予め 調製した W/O エマルションを体積割合30 %にな るように外水相と混合し、攪拌装置(5,000 rpm、 5min)を用いて二次乳化を行った。乳化中に、 W/O エマルションの安定化のため、多糖類であ るキサンタンガム(1wt%)を添加した。 2.3 W/O および W/O/W エマルションの平均 粒子径の測定 W/O エマルションとW/O/Wエマルションの 平均粒子径は画像解析手法により測定した。W/ O/Wエマルションのサンプルは連続相で 10 倍希 釈後、粒子径を測定した。平均粒子径の算出には、 光学顕微鏡を用い、250の液滴の画像を画像解析 ソフト(WinRoof、ver 5.6、株式会社ミタニ)を 用いて、マニュアルで粒子径を測定した。また、 変動係数(CV)は次のとおり求めた。 CV(%)=(σ/dav)×100 (σ:粒子径(μm)の標準偏差) 図 2 攪拌乳化およびマイクロチャネル乳化の 2 段階を含む 多相エマルション(W/O/W 型)の作製プロセスの模式図 親水性抗酸化物質を高濃度で内包した高安定液体マイクロカプセルの作製と特性評価 d 8U{ @ILCKN
d srS[-<9I>AMFJGLS[8 |=_;h @ILCKN e 8THMED8ynd
3. 結 果 3.1 一次乳化:高濃度のビタミンCを内包した W/O エマルションの作製と特性評価 攪拌乳化法において回転数が W/O エマルションの作製 に与える影響: 異なった回転数を用いた場合、ビタミン C (10wt%)を内包する W/O エマルションの平均 粒子径(dav)と変動係数(CV)の結果を図 3 に示し た。回転数 5,000rpm 以上とすることで、乳化を 行うことができた。回転数増加に伴う W/O エマ ルションのdavは 3.0μm から 2.0μmまで低下し た。なお、CVは 13 ~ 20 %に徐々に増大し、多 分散化が進行した。 ビタミン C の濃度が W/O エマルションの作製に与える 影響: ビタミン C を異なった濃度(10 ~ 30 wt %)で 内包した W/O エマルション(大豆油系またはモ リンガ油系)のdav及び CVを図 4 に示した。作製 されたエマルションのdavは 2.2 ~ 3.1μmであり、 油相の種類には依存せずに、ビタミン C の濃度の 増加に伴い、少し増加した。ビタミン C 内包 W/ Oエマルションの安定性については、4 ℃で保存 した場合はdavが 1 ヶ月以上に変化せずに安定で あったが、25 ℃で保存した場合はdavとCVが経 時的に増大して色調の変化が確認された。この色 調変化はビタミン C の酸化に起因するものと思 われる。また、高濃度(30wt%)のビタミン C を 内包した W/O エマルションが、ビタミン C水溶 液に比べて保持率を高く維持できること、ならび に W/O エマルションへの内包化によるビタミン C の徐放制御が可能であることを見出した。 W/O エマルションにおけるビタミン C 保持率の検討: 図 5 に貯蔵温度(4 ℃、25 ℃)がビタミン C の保 持率に与える影響を示した。ビタミン C を10 ~ 30wt%の濃度で内包する W/O エマルションにつ いて、4 ℃で保存した時にビタミン C の保持率は min)を用いて二次乳化を行った。乳化中に、W/O エマルションの安定化のため、多糖類であ るキサンタンガム (1% (w/v)) を添加した。 2.3 W/O および W/O/W エマルションの平均粒子径の測定
W/O エマルションと W/O/W エマルションの平均粒子径は画像解析手法により測定した。W/O/W エマルションのサンプルは連続相で 10 倍希釈後、粒子径を測定した。平均粒子径の算出には、 光学顕微鏡を用い、250 の液滴の画像を画像解析ソフト (WinRoof、ver 5.6、株式会社ミタ ニ)を用いて、マニュアルで粒子径を測定した。また、変動係数(CV)は次のとおり求めた。 CV(%)= (σ/dav)×100 (σ:粒子径(µ m)の標準偏差) 3. 結果 3.1 一次乳化:高濃度のビタミンCを内包した W/O エマルションの作製と特性評価 攪拌乳化法において回転数が W/O エマルションの作製に与える影響: 異なった回転数を用いた場合、ビタミン C(10%)を内包する W/O エマルションの平均粒 子径(dav)と変動係数 (CV)の結果を図 3 に示した。回転数 5000 rpm 以上とすることで、 乳化を行うことができた。回転数増加に伴う W/O エマルションのdav は 3.0µm から 2.0µm ま で低下した。なお、CV は 13~20%に徐々に増大し、多分散化が進行した。 図 3 回 転 数が ビ タ ミ ン C を 内 包 す る W/O エ マ ル シ ョ ン に 与 え る 影 響3) 記号(a, b, c, d)は平均粒子径の有意差を示す(P=0.05)。 ビタミン C の濃度が W/O エマルションの作製に与える影響: ビタミン C を異なった濃度(10~30%)で内包した W/O エマルション(大豆油系またはモ リンガ油系)のdav及び CV を図 4 に示した。作製されたエマルションのdavは 2.2~3.1µm で あり、油相の種類には依存せずに、ビタミン C の濃度の増加に伴い、少し増加した。ビタミ ン C 内包 W/O エマルションの安定性については、4℃で保存した場合はdavが 1 ヶ月以上に変 回転数, n(���) 平 均 粒 子 径 , dav ( µ � ) 変 動 係 数 , C V ( % ) 図 3 回転数がビタミンCを内包する W/O エマルションに 与える影響3) 記号(a, b, c, d)は平均粒子径の有意差を示す(P=0.05)。 化せずに安定であったが、25℃で保存した場合はdavと CV が経時的に増大して色調の変化が 確認された。この色調変化はビタミン C の酸化に起因するものと思われる。また、高濃度(30%) のビタミン C を内包した W/O エマルションが、ビタミン C 水溶液に比べて保持率を高く維持 できること、ならびに W/O エマルションへの内包化によるビタミン C の徐放制御が可能であ ることを見出した。 図 3 ビ タ ミ ン C を 内 包 す る W/O エ マ ル シ ョ ン の 貯 蔵 安 定 � (25℃ )3) (a)大豆油系、(b)モリンガ油系。平均粒子径:dav(黒)、変動係数:CV(白抜き)。 ビタミン C の濃度:●○=10%、■□=20%、▲△=30% 。 W/O エマルションにおけるビタミン C 保持率の検討: 図 4 に貯蔵温度(4℃、25℃)がビタミン C の保持率に与える影響を示した。ビタミン C を 10%~30%の濃度で内包する W/O エマルションについて、4 ℃で保存した時にビタミン C の 保持率は 50%に達した。また、油相の種類にも関わらずビタミン C の保持率に有意差はなか 平 均 粒 子 径 , dav ( µ � ) 変 動 係 数 , C V ( % ) 平 均 粒 子 径 , dav ( µ � ) 変 動 係 数 , C V ( % ) 保存時�(days) 保存時�(days) 大豆油系 モリンガ油 系 図 4 ビタミンCを内包するW/Oエマルションの貯蔵 安定性(25℃)3) (a)大豆油系、(b)モリンガ油系。平均粒子径:dav(黒)、変動係数: CV(白抜き)。 ビ タ ミ ン C の 濃 度: ● ○ =10wt %、 ■ □ = 20wt %、 ▲ △ = 30wt% 。 化せずに安定であったが、25℃で保存した場合はdavと CV が経時的に増大して色調の変化が 確認された。この色調変化はビタミン C の酸化に起因するものと思われる。また、高濃度(30%) のビタミン C を内包した W/O エマルションが、ビタミン C 水溶液に比べて保持率を高く維持 できること、ならびに W/O エマルションへの内包化によるビタミン C の徐放制御が可能であ ることを見出した。 図 3 ビ タ ミ ン C を 内 包 す る W/O エ マ ル シ ョ ン の 貯 蔵 安 定 � (25℃ )3) (a)大豆油系、(b)モリンガ油系。平均粒子径:dav(黒)、変動係数:CV(白抜き)。 ビタミン C の濃度:●○=10%、■□=20%、▲△=30% 。 W/O エマルションにおけるビタミン C 保持率の検討: 図 4 に貯蔵温度(4℃、25℃)がビタミン C の保持率に与える影響を示した。ビタミン C を 10%~30%の濃度で内包する W/O エマルションについて、4 ℃で保存した時にビタミン C の 保持率は 50%に達した。また、油相の種類にも関わらずビタミン C の保持率に有意差はなか 平 均 粒 子 径 , dav ( µ � ) 変 動 係 数 , C V ( % ) 平 均 粒 子 径 , dav ( µ � ) 変 動 係 数 , C V ( % ) 保存時�(days) 保存時�(days) 大豆油系 モリンガ油 系 平均粒子径, dav (μm) 変動係数, CV (%) 回転数, n( r p m ) 平均粒子径, dav (μm) 変動係数, CV (%) 変動係数, CV (%) 平均粒子径, dav (μm) 保存時間(days) 保存時間(days) (a) (b) 大豆油系 モリンガ油系
13 50 %に達した。また、油相の種類にも関わらずビ タミン C の保持率に有意差はなかった(P>0.05)。 W/O エマルションのdavはそれぞれ 1 ヶ月間 4 ℃ と 25 ℃で保存した場合、2.6 ~ 3.4μm であった。 また、保持率は貯蔵温度に依存していることが分 かった。これらの結果は Leeらの文献と一致して いる2)。W/O エマルションにビタミン C を内包 することで、保持率の向上が得られた。なおかつ、 25 ℃貯蔵におけるビタミン C 水溶液の保持率よ りも、W/O エマルションでの保持率の方が顕著 に高いことが示された。この結果は、水溶液中に おいてビタミン C が素早くイオン化するためと 考えられる。 3.2 W/O/W エマルションの安定性 浸透圧はW/O/W エマルション液滴の安定性に 重要な役割を果たしていて、逆にラプラス圧の影 響でエマルションが不安定になる。さらに、分散 相に電解質を少量添加することでラプラス圧に対 抗する効果を示し、エマルションの安定性向上に 繋がると考えられる5)。そこで次の実験として、 外水相に異なる糖質の添加と、内水相にゼラチン の添加の効果について調べた。 ビタミン C を内包する W/O/W エマルションにおける 糖質添加の影響: 図 6 に糖質の添加がエマルションの作製に与え る影響を示した。ビタミン C を内包する W/O エ マルションの内水相にゼラチンを添加することに より、CV値の低い単分散液滴の作製ができて、 った(P>0.05)。W/O エマルションのdavはそれぞれ 1 ヶ月に 4℃ と 25℃で保存した場合、2.6 ~3.4µm であった。また、保持率は貯蔵温度に依存していることが分かった。これらの結果 は Lee らの文献と一致している2)。W/O エマルションにビタミン C を内包することで、保持率 の向上が得られた。なおかつ、25℃貯蔵におけるビタミン C 水溶液の保持率よりも、W/O エ マルションでの保持率の方が顕著に高いことが示された。この結果は、水溶液中においてビ タミン C が素早くイオン化するためと考えられる。 図 4 貯 蔵 温 度 が W/O エ マ ル シ ョ ン に お け る ビ タ ミ ン C の 保 持 率 に � え る 影 響3) (a)大豆油系、(b)モリンガ油系。貯蔵温度:4℃(黒)、25℃(白抜き)。 ビタミン C の濃度:●○=10%、■□=20%、▲△=30% 。▼:ビタミン C 水溶液の保持率(25℃) 3.2 W/O/W エマルションの安定性 浸透圧は W/O/W エマルション液滴の安定性に重要な役割を果たしていて、逆にラプラス圧 の影響でエマルションが不安定になる。さらに、分散相に電解質を少量添加することでラプ 保存��(days) 保存��(days) ビ タ ミ ン C の 保 持 率 ,r ( % ) ビ タ ミ ン C の 保 持 率 ,r ( % ) 大豆油系 モリンガ油 系 水溶 液 図 5 貯蔵温度が W/O エマルションにおけるビタミンCの 保持率に与える影響3) (a)大豆油系、(b)モリンガ油系。貯蔵温度:4℃(黒)、25℃(白抜き)。 ビ タ ミ ン C の 濃 度: ● ○ = 10wt %、 ■ □ = 20wt %、▲ △ ▲ △ = 30wt% 。 ▼:ビタミン C 水溶液の保持率(25 ℃) ラス圧に対抗する効果を示し、エマルションの安定性向上に繋がると考えられる 5)。そこで 次の実験として、外水相に異なる糖質の添加と、内水相にゼラチンの添加の効果について調 べた。 ビタミン C を内包する W/O/W エマルションにおける糖質添加の影響: 図 5 に糖質の添加がエマルションの作製に与える影響を示した。ビタミン C を内包する W/O エマルションの内水相にゼラチンを添加することにより、CV 値の低い単分散液滴の作製 ができて、エマルション安定性の向上に繋がることがわかった。また、ゼラチンのゲル化と キレート作用が安定性の向上に関係するとみなされた。 図 5 糖 質 の � � が � � � � � (dav) と � � 係 � ( CV) に 与 え る 影 響5) (上) W/O エマルションのdavと CV、 (下) W/O/W エマルションのdavと CV。 より安定した W/O/W エマルションを作製するため、各水相のバランスのとれた組成を調べ た。一次乳化プロセスで調製した W/O エマルション液滴のdavは 2.5µm と、CV は約 20%であ った。また、二次乳化プロセスによる調製したエマルション液滴のdavが 12~20µm と、CV が � � � � � , dav ( µ � ) � � 係 � , C V ( % ) � � � � � , dav ( µ � ) � � 係 � , C V ( % ) ラス圧に対抗する効果を示し、エマルションの安定性向上に繋がると考えられる 5)。そこで 次の実験として、外水相に異なる糖質の添加と、内水相にゼラチンの添加の効果について調 べた。 ビタミン C を内包する W/O/W エマルションにおける糖質添加の影響: 図 5 に糖質の添加がエマルションの作製に与える影響を示した。ビタミン C を内包する W/O エマルションの内水相にゼラチンを添加することにより、CV 値の低い単分散液滴の作製 ができて、エマルション安定性の向上に繋がることがわかった。また、ゼラチンのゲル化と キレート作用が安定性の向上に関係するとみなされた。 図 5 糖 質 の � � が � � � � � (dav) と � � 係 � ( CV) に 与 え る 影 響 5) (上) W/O エマルションのdavと CV、 (下) W/O/W エマルションのdavと CV。 より安定した W/O/W エマルションを作製するため、各水相のバランスのとれた組成を調べ た。一次乳化プロセスで調製した W/O エマルション液滴のdavは 2.5µm と、CV は約 20%であ った。また、二次乳化プロセスによる調製したエマルション液滴のdavが 12~20µm と、CV が � � � � � , dav ( µ � ) � � 係 � , C V ( % ) � � � � � , dav ( µ � ) � � 係 � , C V ( % ) 図 6 糖質の種類が平均粒子径(dav)と変動係数(CV)に 与える影響5) (上)W/O エマルションのdavと CV、(下)W/O/W エマルションの davとCV。 親水性抗酸化物質を高濃度で内包した高安定液体マイクロカプセルの作製と特性評価 った(P>0.05)。W/O エマルションのdavはそれぞれ 1 ヶ月に 4℃ と 25℃で保存した場合、2.6 ~3.4µm であった。また、保持率は貯蔵温度に依存していることが分かった。これらの結果 は Lee らの文献と一致している2)。W/O エマルションにビタミン C を内包することで、保持率 の向上が得られた。なおかつ、25℃貯蔵におけるビタミン C 水溶液の保持率よりも、W/O エ マルションでの保持率の方が顕著に高いことが示された。この結果は、水溶液中においてビ タミン C が素早くイオン化するためと考えられる。 図 4 貯 蔵 温 度 が W/O エ マ ル シ ョ ン に お け る ビ タ ミ ン C の 保 持 率 に � え る 影 響3) (a)大豆油系、(b)モリンガ油系。貯蔵温度:4℃(黒)、25℃(白抜き)。 ビタミン C の濃度:●○=10%、■□=20%、▲△=30% 。▼:ビタミン C 水溶液の保持率(25℃) 3.2 W/O/W エマルションの安定性 浸透圧は W/O/W エマルション液滴の安定性に重要な役割を果たしていて、逆にラプラス圧 の影響でエマルションが不安定になる。さらに、分散相に電解質を少量添加することでラプ 保存��(days) 保存��(days) ビ タ ミ ン C の 保 持 率 ,r ( % ) ビ タ ミ ン C の 保 持 率 ,r ( % ) 大豆油系 モリンガ油 系 水溶 液 ビタミン C の保持率, r(%) ビタミン C の保持率, r(%) (a) (b) 保存時間(days) 保存時間(days) 大豆油系 モリンガ油系 変動係数, CV (%) 変動係数, CV (%) 平均粒子径, dav (μm) 平均粒子径, dav (μm) 水溶液 水溶液
浦上財団研究報告書 Vol.21 (2014) 14 エマルション安定性の向上に繋がることがわかっ た。また、ゼラチンのゲル化とキレート作用が安 定性の向上に関係するとみなされた。 より安定した W/O/W エマルションを作製す るため、各水相のバランスのとれた組成を調べ た。一次乳化プロセスで調製した W/O エマルショ ン液滴のdavは 2.5μmと、CV は約20 %であっ た。また、二次乳化プロセスによる調製したエマ ルション液滴のdavが 12 ~ 20μm と、CVが約 20 %~ 25 %に増大した。さらに、糖質の添加に より、dav値が20 ~ 30%低下した。 内水相にビタミン C を10%を内包する W/O/W エマルション液滴の顕微鏡画像を図7 に示した。 外水相への糖質添加の結果が、無添加系やグル コース系の場合は 2 日までクリーミングが発生 しなかったのに対して、スクロースおよびフルク トースの添加系で急速にクリーミングが発生した。 ビタミン C 保持に関わる動力学解析: W/O/W エマルション におけるビタミン C の 保持機構について、以下の一次反応速度式で評価 した : ln CAA/CAA,0 = -kt (CAA とCAA,0はビタミン C の濃度、 k は速度定 数、t は 4ºC での保存時間) 初期過程でビタミン C 保持の動力パラメーター がビタミン C 保持率の実験結果のフィッティング を適用し求めた。その結果を図8 に示した。すべ ての W/O/W エマルションについて、相関(r2値) が > 0.95 であり、一次速度論が妥当と考えられる。 本研究では、水中での安定性が低いビタミン C の高安定化を図るため、高濃度のビタミン C を含 む内水相を必要に応じてゲル化させて安定化した W/O/W エマルションの作製技術の開発を図るこ とを目的としている。図9 に本研究によるビタミ ン C 安定化の模式図を示した。ビタミン C を高 濃度(30 wt %まで)で内包した W/O エマルショ ンが、ビタミン C 水溶液に比べて保持率を高く 維持できること、ならびに W/O エマルションへ の内包化によるビタミン C の徐放制御が可能で あることを示した。 図 7 ビタミン C 内包する W/O/W エマルション液滴の 顕微鏡画像:外水相の糖質有無の影響6) した。 図 6 ビ タ ミ ン C 内 包 す る W/O/W エ マ ル シ ョ ン 液 滴 の 顕 微 鏡 画 像:外 水 相 の 糖 質 � 無 の � �6) 外水相への糖質添加の結果が、無添加系やグルコース系の場合は 2 日までクリーミングが 発生しなかったのに対して、スクロースおよびフルクトースの添加系で急速にクリーミング が発生した。 ビタミン C 保持に関わる動力学解析: W/O/W エマルション におけるビタミン C の保持機構について、以下の一次反応速度式で評 価した: ln CAA/CAA,0 = -kt (CAAとCAA,0はビタミン C の濃度、k は速度定数、t は 4ºC での貯蔵時間) 初期過程でビタミン C 保持の動力パラメーターがビタミン C 保持率の実験結果のフィッテ ィングを適用し求めた。その結果を図 7 に示した。すべての W/O/W エマルションについて、 相関(r2値)が> 0.95 であり、一次速度論が妥当と考えられる。
無添加
フルクトース
グルコース
スクロース
保�時間, t(days) ビ タ ミ ン C 保 持 の 動 力 パ ラ メ ー タ ー 図 9 多相エマルション中への内包によるビタミンCの 高安定性化の模式図5) 左側:水中で不安定なビタミン C; 右側:内水相のゲル化による高濃 度のビタミン C を内包する安定化した W/O/W エマルション ビタミン C 濃度:●=10%、■=20%、▲=30%。CAA=0 %は内水相中のビタミン C の初期濃度を示 す。 本研究では、水中での安定性が低いビタミン C の高安定化を図るため、高濃度のビタミン C を含む内水相を必要に応じてゲル化とさせて安定化した W/O/W エマルションの作製技術の 開発を図ることを目的としている。図 8 に本研究によるビタミン C 安定化の模式図を示した。 ビタミン C を高濃度(30 wt%まで)で内包した W/O エマルションが、ビタミン C 水溶液に比 べて保持率を高く維持できること、ならびに W/O エマルションへの内包化によるビタミン C の徐放制御が可能であることを示した。 図 8 多 相 エ マ ル シ ョ ン 中 へ の 内 包 に よ る ビ タ ミ ン C の 高 安 定 性 化 の 模 式 図 5) 左側:水中で不安定ビタミン C; 右側:内水相のゲル化による 高濃度のビタミン C を内包する安定化した W/O/W エマルション 4. まとめ 本研究では、ビタミン C を安定させるために W/O/W エマルションの適用を図った。水溶 液中のビタミン C の挙動の基礎的理解、安定化システムの構築が見出された。これらの結果、 適切な条件のもとでビタミン C は長期間安定化され、初期の特性を維持できる分散系の開発 が可能となった。また、安定したビタミン C の成功例は、皮膚浸透などの最終的な用途の例 を挙げることができ、その機能を維持することが期待される。ビタミン C を高濃度で内包す る W/O/W エマルションを低温貯蔵した場合、検討期間(35 日間)中に液滴サイズはほとん ど変化せず物理的に安定であった。W/O/W エマルションは、貯蔵 30 日後にビタミン C の比 較的高い保持率を示し、その保持率は動力学的に一次反応により解析できた。得られた結果 は高濃度ビタミン C などの重要なビタミンを W/O/W エマルション系に利用する技術として、 食品業界での用途が期待される。また、多相エマルションやマイクロカプセル化によりビタ ミン C を安定的に内包化する技術の開発により、飲料用途に実用的に応用可能な液体マイク ロカプセルの作出が期待される。 図 7 4� に � � る ビ タ ミ ン C 保 持 動 � の � � 変 化 6)(不安定)
図 8 4ºCにおけるビタミンC保持動態の経時変化6) ビタミン C 濃度:● =10 wt%、■ = 20 wt%、▲ = 30 wt%。 CAA= 0%は内水相中のビタミン C の初期濃度を示す。 保存時間, t(days) ビタミン C 保持の 動力パラメーター, In CAA / CAA, 0 (days)Ǣ ɆɚɆtĨĬdkUctTǠȗuƨý]T/Dèu ɚ ɆøƩņ^ȘbdkU ïƜNJt¯¢´Á Ɇïāf -%- ³¾ºÁƦƯuȾœȲƿìĞ tǐ dkU Ğ ¯ ¢ ´ Á ï ā f -%- ³ ¾ º Á Ʀ Ư u Ⱦ œ Ȳ ƿ ìɐĪ Ɯ NJ u Ǡ ȗ Ƃ Ʊ u ŋ ȼɈ ĪƜNJyuǠȗƨýuǩƊ]TƱƨýǡ¾ÅǡuĥĐv ź|p½Å´Á] Džƻds\mkutķdoTÀÅ[x°¾§ÅuƨýǡpřȤt½Å´Á ]DžƻdkU ¯¢´Á æŧtȶ Āûijȋƈɐ -%- ³¾ºÁ t[` ¯¢´Á uæŧƔƐtnXoT×ÈuÆƕćŖȤńŅpȎ ädk :< !
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15 4.ま と め 本研究では、ビタミン C を安定させるために W/O/W エマルションの適用を図った。水溶液中 のビタミン C の挙動の基礎的理解、安定化システ ムの構築が見出された。これらの結果、適切な条 件のもとでビタミン C は長期間安定化され、初 期の特性を維持できる分散系の開発が可能となっ た。また、安定したビタミン C の成功例は、皮 膚浸透などの最終的な用途の例を挙げることがで き、その機能を維持することが期待される。ビタ ミン C を高濃度で内包するW/O/W エマルショ ンを低温貯蔵した場合、検討期間(35日間)中に 液滴サイズはほとんど変化せず物理的に安定で あった。W/O/W エマルションは、貯蔵 30日後 にビタミン C の比較的高い保持率を示し、その保 持率は動力学的に一次反応により解析できた。得 られた結果は高濃度ビタミン C などの重要なビタ ミンをW/O/W エマルション系に利用する技術と して、食品業界での用途が期待される。また、多 相エマルションやマイクロカプセル化によりビタ ミン C を安定的に内包化する技術の開発により、 飲料用途に実用的に応用可能な液体マイクロカプ セルの作出が期待される。 謝 辞 本研究の実施にあたり、多大な研究助成を賜り ました(公財)浦上食品・食文化振興財団ならび に関係者各位に心より感謝を申し上げます。また 共同研究者としてご尽力いただきました Nauman Khalid 氏に深く感謝いたします。 文 献
1) Bendich, A. (1990) Antioxidant micronutrients and immune responses, in: A. Bendich, R.K.Chandra (Eds.)
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2) Lee, J., Kim, J., Han, S., Chang, I., Kang, H., Lee, O., Oh, S., & Suh. K. (2004) The stabilization of L-ascorbic acid in aqueous solution and water-in-oil-in-water double emulsion by controlling pH and electrolyte concentration. Journal of
Cosmetic Science, 55, 1-12.
3) Khalid, N., Kobayashi, I., Neves, M. A., Uemura, K., Nakajima, M. (2013) Preparation and characterization of water-in-oil emulsions loaded with high concentration of L-ascorbic acid. LWT- Food Science and Technology, 51, 2, 448-454.
4) McClements, D. J. (2004) Food Emulsions: Principles,
Practice and Techniques (2nd ed.), CRC Press, Boca Raton, FL, pp. 233–268.
5) Khalid, N.,Neves, M. A., 小林功,植村邦彦,中嶋光敏. (2013) ビタミンCを高濃度で内包したW/O エマルショ ンの作製と特性評価. 日本食品科学工学会, 第60回記 念大会, 実践女子大学, 東京, 要旨集 2Fa12, p. 105. 6) Khalid, N., Kobayashi, I., Neves, M. A., Uemura, K.,
Nakajima, M. (2013) Preparation and characterization of water-in-oil-in-water emulsions containing a high concentration of L-ascorbic acid. Bioscience, Biotechnology,
and Biochemistry, 77, 6, 1171-1178. 親水性抗酸化物質を高濃度で内包した高安定液体マイクロカプセルの作製と特性評価