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ヒト膵癌細胞株の造腫瘍性を低下させる 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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     博 士( 医学 )陳 学 位 論 文 題名

Dominant negative HIF‑1 a は

ヒト膵癌細胞株の造腫瘍性を低下させる 学位論文内容の要旨

【緒言】

  膵癌 の特 徴の ー っと して ,血 管 造影 など の検 査上 腫瘍 血管 が少 なく,むしろ栄養 血管が 蚕 食 さ れ て 閉 塞 し て い る 場合 さえ あ る事 が知 られ て いる .し たが って 膵 癌細 胞は 常に 血流 不 足 の 状 態 に 置 か れ て い る と 考 え ら れ る , 低 酸 素 適 応 応 答 の マ ス タ ー 遺 伝 子 産 物で ある hypoxia−inducible factor−1(HIF―1)はHIF−laとHIF―ipのへテ 口ダイマーからなり,低酸 素 下でHIF一laの 分解 が抑 制さ れて 常 時っ くら れて い るHIFーipと2量体 を 形成 して 核移 行す る と考 えら れて い る, 核移 行し たHIFー1は ,glucose transporterや解糖系酵素,血管 新生因 子などの遺 伝子発現を亢進させる.本研 究では,dominant negative HIF−la (dnHIF−la)遺伝 子 を 作 製 し , こ れ を 導 入 し た 膵 癌 細 胞 の 増 殖 能 をin vitroお よ びin vivoで 検討 した .さ ら に.in vivoに おけ る腫 瘍組 織へ のglucose UPtakeを検 討し ,こ れに 関 与す る遺 伝子 発現 を 検 索 す る こ と に よ り , 膵 癌 細 胞 の 増 殖 に お け るHIF―la蛋 白 の 役 割 を 解 析 し た .

【方法と結 果】

1. Dominant negative HIF−la導入株 の樹立:Dominant negative HIF−la (dnHIF−la)遺伝子 は ,HaltermanMWら の 報 告 に 従 い 作 製 し た ,dnHIFーlaのcDNAを 発 現 ベ ク タ ーpcDNA3.1 に 組み 込み ,HIF一laを 恒 常的 に発 現し てい る 膵癌 細胞 株PCI−43に 導入した.導入ク ローン の う ちdnHIF―la発 現 の 確 認 さ れ た3ク 口 ー ンdnH3,dnH7およ びdnHl0を 用い た, 同様 に空 ベ ク タ ーpcDNA3.1を 導 入 し た ク 口 ー ン(V3)を 導 入 対 照 ク 口 ー ン と し て 用 い た . 2. dnHIF−la導 入PCI43細胞 の増 殖能 :各 細 胞株 を, 低酸 素培 養 チャ ンバ ーを 用 いて1%02 濃 度 , グ ル コ ー ス 無 添 加 培 養 液DMEMに10%FBSを 添 加し た培 養液 にて 培 養し た. 低酸 素・

低 グ ル コ ー ス の 条 件 で は ,3株す べて のdnHIF―la導 入株 の増 殖がV3細 胞 のそ れに 比較 し,

有 意に 抑 制さ れて いた , また ,5Xl06個の 細胞 をSCIDマウ スの 背部 皮下 移 植後 の腫 瘍形 成を 観 察 す る と , 親 株PCI43お よ びV3は増 殖し 続 ける のに 対し ,dnH3 dnH7お よびdnHl0の 増殖 は 移 植 後8ー11日 目 よ り 抑 制 さ れ , dnH3,dnH7は21日 目 ま で に 完 全 退 縮 し た . 3. dnHIF―la導入 細胞におけ る低酸素誘導遺伝子の発現低 下:Northern blotにより検 討した glucose transporter―1(Glut−1)と 解糖 系 酵素aldolaseAのmRNA発現 は ,正 常酸 素分 圧下

(N)ではい ずれの細胞においでも同等 あったが,低酸素分圧下(H)ではV3のそれはNに比ベ,

約2倍 に 増 強 さ れ た が ,dnH3,dnH7お よ びdnH10の そ れ ら は 全 く 増 強 さ れ な か っ た. 同様

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に, RTーPCRで検索した血管新生因子.vascular endothelial growth factor (VEGF)遺伝子 の発 現もdnH3,dnH7およびdnHl0おい ては低酸 素応答 による増 強が観察されなかった.

4. SCIDマウス皮下増殖細胞のGlut−1蛋白の発現:免疫組織化学染色により観察したSCID マウス増殖腫瘍組織におけるGlut―1はIV3では腫瘍細胞にも陽性であったが,dnH3,dnH7お よびdnHl0の腫 瘍細胞には陰性であった,これらの所見は,V3細胞はin vivoではGlut―1 蛋自を強く発現するが,dnHIF―1導入細胞においてはその発現が抑制されることを示して いる,また,宿主の問質細胞はいずれの腫瘍組織でもGlut−1陽性であった.このことは観 察 し た 腫 瘍 組 織 が い ず れ も 低 酸 素 状 態 に な っ て い る こ と を 示 唆 し て い る . 5.腫瘍組 織における血管内皮細胞の検討:CD31抗体陽性の血管内皮細胞の頻度はV3の腫 瘍組織に比べdnH3腫瘍細胞でも抑制されなかった,

6. SCIDマ ウ ス 皮 下 増 殖 腫 瘍 細 胞 の グ ル コ ー ス 取 り 込 み : ア イ ソ ト ー プ 標 識 2ーfluorodeoxyglucose (FDG)を用し,ゝて検討した腫瘍組織へのglucose uptakeはV3に比ベ dnHIFーla導入細胞では低下し,dnH'3群では有意差をもって低下した.一方,血液および筋肉,

肝臓でのFDGの取り込みは各群で有意の差はなかった.

7. dnHIF―la導入細胞の低酸素・低グルコース誘導アポトーシス:正常酸素分圧下および低 酸素分圧下のみでは各細胞のアポトーシス百分率は4―5%程度で全く差がなかった.一方,

低酸素・低グルコースの条件ではV3のアポトーシスが8.07%であったのに対し,dnHIF―la 導入細胞dnH3,dnH7およびdnHl0ではそれぞれ24. 65%.26. 21%,および18. 02%とアポト ーシス百分率が上昇した,3回の実験において,同様結果が得られ,dnHIF―la導入細胞の低 酸 素 ・ 低 グ ル コ ー ス に よ り 誘 導 さ れ る ア ポ ト ー シ ス の 増 強 は 有 意 で あ っ た .

【考案】

  本研究により,HIFーlaを恒常的に発現している膵癌細胞株PCI43のSCIDマウスにおける 造腫瘍性がdnHIF−la遺伝子導入によって抑制された.この造腫瘍性の低下には,HIF―1に よって発現が制御されているGlut−1,嫌気性解糖に関与するaldolaseAなどが関与してい ることが,in vivoでもGlut―1の発現が抑制され,腫瘍組織へのグルコース取り込みが抑制 されたことから明らかになった.また,in vivoの腫瘍組織環境に近づけた低酸素・低グルコ ースの培養条件下ではdnHIF―la導入株のアポトーシスが高頻度にみられたことは,HIF―la がこれらの低酸素・低グルコースによって誘導されるアポ卜ーシスを抑制し,in vivoでの腫 瘍細胞の生存を助けていることを示唆した.一方,従来の報告では,HIFー1の機能を阻害す ると血管新生因子の産生が抑制され,血管新生が阻害されると考えられてきたが. HIF‑1の 機能低下と血管新生阻害とが少なくとも膵癌においては相関しなかった.以上の結果は,

HIF―1の機能を阻害することが膵癌治療において有用な武器となることを示唆しており,今 後 の 課 題 と し て dnHIF―la導 入 に よ る 遺 伝 子 治 療 の 開 発 が 期 待 さ れ る .

【結語】

HIF‑la蛋白 を発現している膵癌細胞株PCI43の造腫瘍性が,dominant negative HIF‑la導 入により抑制されることを示した.また,その機序として,この細胞において亢進している糖 代謝の抑制によることを明らかにした.

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学位論文審査の要旨

主 査   教 授   玉 木 長 良 副 査   教 授   加 藤 紘 之 副 査   教 授   秋 田 弘 俊 副 査   教 授   細 川 真 澄 男

学 位 論 文 題 名

Dominant negative HIF‑1 a は

ヒト膵癌細胞株の造腫瘍性を低下させる

  膵 癌 の 特 徴 の ー づ と し て 、 血 管 造 影 な ど の 検 査 上 、 腫 瘍 血管 が 少 な く、 む し ろ栄 養 血 管 が 蚕 食 さ れ て 閉 塞 し て い る 場 合 さ え あ る 事 が 知 ら れ て い る 。 した が っ て 、膵 癌 細 胞は 常 に 血 流 不 足 の 状 態 に 置 か れ て い る と 考 え ら れ る 。 低 酸 素 適 応 応 答の マ ス タ ー遺 伝 子 産物 で あ るhypoxia‑inducible factor‑l (HIF‑1) はHIF‑1ぱ とHIF‑1pの へ テ ロ ダ イ マ ー か ら な り 、 低 酸 素 下 でHIF‑1ぱ の 分 解 が 抑 制 さ れ て 常 時 っ く ら れ て い るHIF‑118と2量 体 を 形 成 し て 核 移 行 し 、glucose transporterや 解 糖 系 酵 素 、 血 管 新 生 因 子 な ど の 遺 伝 子 発 現 を 亢 進 さ せ る と 考 え ら れ て い る 。 申 請 者 は 、dominant negative HIF‑1ロ(dnHIF‑1ば ) 遺 伝 子 を 作 製 し 、 こ れ を 導 入 し た 膵 癌 細 胞 の 増 殖 能 をin vitroお よ ぴin vivoで 検 討 し た。 さ ら に 、in vivoに お け る 腫 瘍 組 織 へ のglucose uptakeを 検 討 し 、 こ れ に 関 与 す る 遺 伝 子発 現 を 検 索 す る こ と に よ り 、 膵 癌 細 胞 の 増 殖 に お け るHIF‑1ロ 蛋 白 の 役 割 を 解 析 し た 。   dnHIF‑1口 遺 伝 子 をHalterm anMWら の 報 告 に 従 い 作 製 し 、 発 現 ベ ク タ ーpcDNA3.1 に 組 み 込 み 、HIF―1aを 恒 常 的 に 発 現 し て 膵 癌 細 胞 株PCI‑43に 導 入 し た 。 導 入 ク 口 ー ン の う ちdnHIF‑1口 発 現 の 確 認 さ れ た3ク 口 ー ンdnH3,dnH7お よ びdnHl0お よ び 空 ベ ク タ ーpcDNA3.1を 導 入 し た ク ロ ー ン(V3)を 導 入 対 照 ク ロ ー ン と し て 用 い た 。 各 細 胞 株 を 、 低 酸 素 培 養 チ ャ ン バ ー を 用 い て1%02濃 度 、 グ ル コ ー ス 無 添 加 培 養 液DMEMに10%FBS を 添 加 し た 培 養 液 に て 培 養 し 、 低 酸 素 ・ 低 グ ル コ ー ス の 条 件 で は 、3株 す べ て のdnH IF‑1 ロ 導 入 株 の 増 殖 が V3細 胞 の そ れ に 比 較 し 有 意 に 抑 制 さ れ る こ と を 観 察 し た 。 ま た 、 SX10゜ 個 の 細 胞 をSCIDマ ウ ス の 背 部 皮 下 移 植 後 の 腫 瘍 形 成 を 観 察 す る と 、 親 株PCI43お よ びV3は 増 殖 し 続 け る の に 対 し 、dnH3, dnH7お よ びdnH10の 増 殖 は 移 植 後8‑11日 目 よ り 抑 制 さ れ 、dnH3っdnH7は21日 目 ま で に 完 全 退 縮 し た 。Northern blotに よ り 検 討 し たglucose transporter‑l (Glut‑l) と 解 糖 系 酵 素aldolaseAのmRNA発 現 は 、 正 常 酸 素 分 圧 下(N)で は い ず れ の 細 胞 に お い で も 同 等 あ っ た が 、 低 酸 素 分 圧 下(H)で はV3の そ れ はN に 比 ベ 約2倍 に 増 強 さ れ た が 、dnH3、dnH7お よ ぴ dnH10の そ れ ら は 全 く 増 強 さ れ な か っ た 。 同 様 に 、RT‑PCRで 検 索 し た 血 管 新 生 因 子vascular endothelial grow th factor

321 ‑

(4)

(VEGF) 遺 伝 子 の 発現 も dnH3 、 dnH7 お よび dnH10 おい て は低 酸 素応 答 によ る 増強 が 観察されなかった。SCID マウス皮下増殖腫瘍組織のGlu t‑l 蛋白を免疫組織化学染色によ り 観察すると V3 で は腫瘍細胞 にも陽性で あったが、 dnH3 , dnH7 および dnH10 の腫瘍細 胞には陰性であった。一方、宿主の問質細胞はいずれの腫瘍組織でもGlut‑l 陽性であっ たから、観察した腫瘍組織がいずれも低酸素状態になっていることが示唆された。しかし、

腫 瘍組織にお ける CD31 抗体陽性 の血管内皮 細胞の頻度 は V3 に比ベdnH3 で も減少しな かった。また、アイソトープ標識 2‑fluorodeoxyglucose (FDG) を用いて検討した腫瘍移 植 10 日目の担癌マウスの glucose uptake は、血液および筋肉,肝臓では各群で有意の差 は なかったが 、腫瘍組織 では V3 群に比ベ 、 dnHIF‑1 ば導入群で低下し、dnH3 群では有 意差をもって低下した。さらに、in virto において、低酸素・低グルコース誘導アポトー シス細胞の頻度観察した。その結果、正常酸素分圧下および低酸素分圧下のみでは各細胞 のアボトーシス百分率は 4‑5 %程度で全く差がなかったが、低酸素・低グルコース条件で は V3 の アポトーシ スが 8.07 %であ ったのに対 し、 dnHIF‑1 ぱ導入細胞 dnH3 , dnH7 およ び dnH10 ではそれぞれ24.65 %, 26.21 %,および18.02 %とアポトーシスの頻度が上昇した。

3 回の実験において同様結果が得られ、 dnHIF‑1a 導入細胞の低酸素・低グルコースによ り 誘 導 さ れ る ア ポ ト ー シ ス の 増 強 は 有 意 で あ る こ と を 確 認 し た 。    以上の成績より、申請者は、in vivo の低酸素・低栄養状態にある膵癌細胞株PC143 細 胞は HIF‑1 の転写活性を介し、Glut‑l およぴ aldolaseA などの遺伝子発現を促し、アポト ー シスから逃 れ増殖し統 けるが、 dnHIF‑1a 遺伝 子導入によって HIF‑1 の転写活性が抑 制されると、癌細胞へのグルコース取り込み効率が悪くなり、アポトーシスに陥り退縮す ると推察した。また、膵癌細胞ではその産生するVEGF が血管新生にほとんど関与してな いと考えた。

   公開発表にあたり、副査加藤教授より、1 )膵癌 PCI43 以外の細胞株dnHIF‑1 、ロを導 入 、 2 ) dnHIF‑1 口 導入 3clones で の 発現 効 率の 差 につ い ての 考え、3 )VEGF の結果 が従来の報告と逆の結果になった理由、4 )血管の豊富な癌での HIF‑1 ぱの関与を考える 上で、血管の豊富な大腸癌を使った経験などについて、副査秋田教授より、1 )in vitro で の dnH3 導入細胞の 増殖が正常 酸素分圧で も96 時間で落ちていた理由、 2) in vitro で は VEGF がdnHIF‑1 ぱ導 入細胞で抑 制されたの に invivo では腫瘍血管数が減少しなか ったことの説明のために、 In vivo ではVEGF の免疫組織染色をしたか、3) in vivo での ア ポトーシス 検討、 4 ) dnHIF‑1a を用いた遺 伝子治療と化学療法との併用について、

副 査細川教授 より、 1 ) dnHIF‑1 ば遺 伝子治療の 適応癌の HIF‑1 口発現からみた性格、

2 )膵癌では腫瘍血管新生に VEGF があまり関与してない可能性について、主査玉木教授 より、1 )アポトーシスが低酸素だけでは誘導されないことから低グルコースが重要では な い か、 2 )全 て の dnHIF‑la 導 入 細胞 で は Glu t‑,l の 発現 が抑 制された結 果と FDG uptake 抑制 が dnH3 のみで有意であった結果との解離の解釈についてなどの多くの質問 が出された。申請者はこれらの質問に対して、自らの実験経験および、これまでの学習し て知識を駆使して、適格に回答した。

   本研 究は、 dnHIF‑1a 遺伝 子を用いて 、低酸素条件下でその発現が増強される HIF‑1

a が、癌細胞のin vivo 増殖性を、また、 in vitro においては低酸素・低グルコースの条件

下 での増殖性 を助長していることを、HIF‑1 によって発現が制御されている Glut ー1 、

(5)

aldolaseA 、VEGF などの遺伝子発現の検索も含めて、明らかにした点で高く評価される。

本研究の成果は、今後、dnHIF‑1 口遺伝子を用いた癌の遺伝子治療に応用されることが 期待される。

   審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども

併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。

参照

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