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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 農 学 ) 太 田 垣 駿 吾

     学 位 論 文 題 名

Analysis of the factors that affect efficient induction of     heritable transcriptional gene silencing through     C | ucu7nbeT 7nosaZC ぴ Z ダ 勿 SinfeCtion

(キュウリモザイクウイルスを介して誘導される      転 写 型 ジ ー ン サ イ レ ン シ ン グ の 効 率 と 遺 伝 的安 定 性を 決 定す る 因子 に 関す る 研究 )

学位論文内容の要旨

  従来の 交雑育 種法によって不快味やアレルゲンの原因となるタンパク質などの不良形質の緩和も しくは除去を行うには、該当成分の生合成経路に関する遺伝子の変異体の探索や交雑後代の選抜およ び固定など、多大な労カを要する。そのため、迅速かつ簡便に標的遺伝子の発現のみを抑制可能で、

かっその発現抑制が安定して次世代に伝わる育種法を開発することは非常に重要である。本論文では、

遺伝子導入以外の方法で遺伝子の発現を特異的に改変可能な新規の手法として、ウイルスベクターを 介した標的遺伝子特異的な転写抑制型ジーンサイレンシング(Transcriptional Gene Silencing; TGS)の誘 導系に着目した。

  TGSは、 プ ロ モー タ ー 領域 と 相 同 な配 列 を 持っ ニ 本鎖RNAの存 在下で核 内DNAの プロモ ーター 領域中 のシト シンがRNAを介し たDNAのメチル 化(RNA‑directed DNA methylation; RdDM)経路によ ってメチル化されることにより誘導されることが明らかとなっている。また、植物ウイルスは、ゲノ ムの高 次構造 によって 、あるい は複製 中間体においてニ本鎖RNAを形成することから、植物細胞へ の ニ本 鎖RNAの 供 給源 と し て利 用 可 能 であ る 。 さら に、 一度ゲノ ムDNA中に生じ たDNAメチル化 は自殖後代個体でも維持されるため、種子伝染しないウイルスをベクターとして用いることで、組換 えウイ ルスが 存在しな い後代個 体でもTGSによる発現抑制が維持される。これらのことを背景に、

本 論文 で は キュ ウ リ モザ イク ウイルス ベクター を介し た配列特 異的なDNAメチ ル化茄 よびTGS誘 導 系 の 開 発 と 効 率 化 、 お よ び 開 発 し たTGS誘 導 系 を 利 用 し たTGSの 機 構 解 析 を 行 っ た 。

1. 植 物 ウ イ ル ス ベ ク タ ー を 介 し た配 列 特 異的 な メ チ ル化 お よ びTGS誘導 系 の 開発 と 効 率化   キュウリモザイクウイルス(Cucumber mosaic virus; CMV)は単子葉植物と双子葉植物の両者に感染 するな ど宿主範 囲が広 く、育種 への応用に適したウイルスベクターである。そこで、まずCMVに由 来 する 新 規 のウ イルスベ クター であるCMV2‑A1ベク ターのTGS誘導 能カを検 証した 。カリフ ラワ ーモザイクウイルス(Cauliflower mosaic virus; CaMV)35Sプロモーター配列の一部をベクターに組み 込 ん だCMV2‑A1ベ ク ター を ゲ ノム の 構 成要 素 と し て持 つCMVをCaMV35Sプ ロ モー タ ー の制 御 下     ―1230―

(2)

でGFP遺伝子を発現している形質転換体Nicotiana benthamiana 16c系統(16c系統)に接種した結果、

RdDMに よりGFP遺 伝 子 のTGSが高 効 率 で誘 導 さ れ るこ と が 示さ れ た 。一 方 、CMV2‑A1ベ クタ ー に 存在 す る2b ORFを 完 全に 欠 失 させたCMV2‑H1ベ クター に上記と 同一のCaMV 35Sプロモー ター 配列を 挿入した 場合に は、16c系統に 接種して も効率的なTGSを誘導することは出来なかった。こ の2b ORFの有 無はウ イルスの 蓄積量 には影響 を与えて いなか ったもの の、CMV2‑A1ベクターを用 いた場 合の方が 、CMV2‑H1ベクター を用い た場合よ りもCaMV 35Sプ ロモー ター配列と相同な配列 を持つsmall interfering RNA(35S:siRNA)が核内に多く蓄積していた。さらに、2bタンパク質を発現す るM舷 ろロc乱mBY2プ ロトプ ラストに 対してFAM標識 したsiRNAをトラ ンスフ ェクショ ンするこ と により 、2bタンパ ク質存在下ではsiRNAの核への移行が促進されることが明らかと詮った。以上の 結果か ら、CMV2‐A1ベクター は、植 物細胞へ のニ本鎖恥瞼の供給源としての働きの他に、2bタン パク質 によるTGS促進 作用も有 する、TGSを高 効率で誘導可能なウイルスベクターであることが示 された。

  続 い て、CMV2‐A1ベクター を介したTGS誘 導系のさ らなる 効率化を 目的と し、DNA脱メチル 化 酵素遺伝子の発現抑制下における、CMV2 ̄A1ベクターを介した外来性プロモーターへのメチル化誘 導効率の増強作用について解析した。まず、″.細6粥嫺におけるDNA脱メチル化酵素遺伝子旭R〔聊 の配列を基に〃.6P門脇伽た聯aより焔風脚遺伝子を単離した。次に、迅速かつ簡便に遺伝子発現を抑 制可能なVirus‐inducedgenesilencingの手法を用い、mR〇J田遺伝子の発現抑制下および通常発現下の 16c系 統におけ る、CMV2−A1ベクタ ーを介し ・たCaMV35Sプロモーターへのメチル化の誘導効率を 比 較し た 結 果、m凪 硲| 遺 伝 子の 発現 抑制下 では、外 来性CaMV35Sプロモ ーター に対するDNAメ チル化 がより高 頻度で 誘導されることが明らかとなった。以上の結果より、DNA脱メチル化を行う 酵素遺 伝子の発 現量とCMV2一A1ベク ターを介 した外来性プロモーターへのメチル化誘導との間に は負の 相関があ り、こ の酵素遺伝子の発現抑制により、外来性遺伝子に対するTGSがより強く誘導 される可能性が示された。

2. CMVベクターを用いたTGSの誘導および維持機構の解析

  現 在までに 、RdDM経路 に関与す る遺伝 子は多数 同定さ れている ものの 、RdDMを引き起こすRNA 配 列 の長 さなどがDNAメ チル化お よびTGSの誘導 に影響を 与える のか否か につい てはほと んど明 ら か とな っていな い。そ こで、長 さある いは部位 の異なる 種々のCaMV 35Sプロモ ーター配 列を CMV2―Alベク タ ー に組 み 込 み、RNA配列 の構成とDNAメ チル化お よびTGSの誘導 との関係 性を解 析した。その結果、35S:siRNAの蓄積量は挿入配列の違いによる影響を受けなぃものの、ゲノム中に 挿 入 さ れたCaMV 35Sプ ロ モー タ ー 領域 に 対 す るDNAメチ ル 化、 およびTGSの誘 導効率は 挿入配 列 の長さの 制約を 受けるこ とが明ら かとな った。最後に、TGS誘導個体から得たCMV非伝搬の自殖 第1世 代(Sl植物 体 ) を用 い 、TGSの 誘導 源 と し て用 い たRNAの 違い がTGS維 持 にも た ら す影 響 について解析した。その結果、接種当代時に‑116一十1の領域を標的とした場合のみ、Sl植物体での ゲ ノム中に 挿入さ れたCaMV 35Sプ ロモータ ー領域の メチル 化の解除 、およ びそれに伴うGFP遺伝 子 のTGSか らの復 帰が検出された。このことから、一度誘導されたメチル化が自殖を経て安定に維 持 されるか 否かは 、RdDMの誘導 源とし て用いるCaMV 35Sプロモーター配列の部位が影響すること が明らかとなった。

‑ 1231

(3)

  遺伝子導入法は特定遺伝子の発現を恒常的に改変可能な技術であるものの、日本では遺伝子組換え 作物が未だに一般社会に受け入れられておらず、現状では育種手法として用いることは難しい。本研 究で は、キュ ウリモ ザイクウ イルス に由来す るCMV2‑A1ベクター がTGS誘導に適 したウ イルスベ クター である ことや、 一過的な ニ本鎖RNAの供給の際にTGSが遺伝的に安定に維持されるのに必要 な因子 などを 明らかにした。これらの知見は、ウイルスベクターを介して内在性遺伝子へTGSを誘 導することにより、遺伝子組換えによらずに作物の形質を改善する技術の実現に大きく寄与すると期 待される。

‑ 1232

(4)

学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査

副査 副査

准教授 教授 教授

金澤 増田 喜多村

    章     税 啓介

     学位論文題名

Analysis of the factors that affect efficient induction of     heritable transcriptional gene silencing through      く 幺 CUYnber yn,osaZC ぴ Z ダ Z イ SinfeCtion

( キ ュ ウ リ モ ザ イ ク ウ イ ル ス を 介 し て 誘 導 さ れ る     転 写 型 ジ ー ン サ イ レ ン シ ン グ の 効 率 と 遺 伝 的 安 定 性 を 決 定 す る 因 子 に 関 す る 研 究 )

  本 論 文 は99頁 か ら な る 英 文 論 文 で あ り 、 図32と 表2を 含 む 。 別 に 、 参 考 論 文2編 が 添 え ら れ て い る 。

  従 来 の 交 雑 育 種 法 に よ っ て 不 良 形 質 の 緩 和 も し く は 除 去 を 行 う に は 多 大 な 労 カ を 要 す る た め 、 迅 速 か つ 簡 便 に 標 的 遺 伝 子 の 発 現 の み を 抑 制 可 能 で 、 か っ そ の 発 現 抑 制 が 安 定 し て 次 世 代 に 伝 わ る 育 種 法 を 開 発 す る こ と は 非 常 に 重 要 で あ る 。 本 研 究 で は 、 交 雑 育 種 法 に 代 わ る 手 法 と し て 、 ウ イ ル ス ベ ク タ ー を 介 し た 標 的 遺 伝 子 特 異 的 な 転 写 型 ジ ー ン サ イ レ ン シ ン グ(TGS)の 誘 導 系 に 着 目 し た 。TGSは 、 プ ロ モ ー タ ー 領 域 と 相 同 な 配 列 を 持 つ 二 本 鎖RNAの 存 在 下 で 核 内DNAの プ ロ モ ー タ ー 領 域 中 の シ ト シ ン がRNA を 介 し たDNAの メ チ ル 化(RdDM)経 路 に よ っ て メ チ ル 化 さ れ る こ と に よ り 誘 導 さ れ る 。 ま た 、 あ る 種 の 植 物 ウ イ ル ス は 、 ゲ ノ ム の 高 次 構 造 に よ っ て 、 あ る い は 複 製 中 間 体 に お , い て ニ 本 鎖RNAを 形 成 し 、 か つ 種 子 伝 搬 し な い こ と か ら 、 植 物細 胞 ー の一 過 的 な 二 本 鎖RNAの 供 給 源 と し て 利 用 可 能 で あ る 。 こ れ ら の こ と を 背 景 に 、 本 研 究 で は キ ュ ウ リ モ ザ イ ク ウ イ ル ス(CMV)ベ ク タ ー を 介 し た 配 列 特 異 的 なDNAメ チ ル 化 お よ びTGS 誘 導 系 の 開 発 と 効 率 化 、 お よ び 開 発 し たTGS誘 導 系 を 利 用 し たTGSの 機 構 解 析 を 行 っ た 。 得 ら れ た 結 果 は 、 以 下 の よ う に 要 約 さ れ る 。

  本 研 究 で は 、 第 一 に 、 CMVに 由 来 す る 新 規 の ウ イ ル ス ベ ク タ ー で あ るCMV2‑A1ベ ク タ ー のTGS誘 導 能 カ を 検 証 し た 。 カ リ フ ラ ワ ー モ ザ イ ク ウ イ ル ス (CaMV) 35Sプ ロ モ ー タ ー 配 列 の 一 部 を 組 み 込 ん だCMV2‑A1ベ ク タ ー を ゲ ノ ム の 構 成 要 素 と し て 持 っ

(5)

CMV を CaMV 35S プ ロ モー タ ーの 制 御下 で GFP 遺 伝子 を 発現 し てい る 形質 転 換体 Nicotiana benthamian ロ16c 系統(16c 系統)に接種した結果、RdDM によりGFP 遺伝子 のTGS が 高効率で誘 導されるこ とが示された。一方、CMV2‑A1 ベクターに存在する 2b ORF を完全に欠 失させたCMV2‑H1 ベクター に上記と同 一の CaMV 35S プロモータ ー配列を挿入した場合には、16c 系統に接種しても効率的なTGS を誘導することは出 来なかっ た。加えて 、CMV2‑A1 ベクタ ーを用いた場合、CMV2‑H1 ベクターを用いた 場合よりもCaMV 35S プロモーター配列と相同な配列を持つsiRNA (35S:siRNA) が核内 に大量に蓄積していることが示された。この2b タンパク質によるsiRNA の核移行の促 進は、2b タンパク質を発現する〃.tabacum BY2 プロトプラストに対するFAM 標識し たsiRNA の トランスフ ェクション 試験によっても確かめられたことから、CMV2‑A1 ベクターは、2b タンパク質|こよるTGS 促進作用も有する、TGS を高効率で誘導可能な ウイルスベクターであることが示された。

   続いて、DNA 脱メチル化酵素遺伝子の発現抑制下における、CMV2‑A1 ベクターを介 した外来性プロモーターへのメチル化誘導効率の増強作用について解析した。その結 果、 DNA 脱 メ チル 化 酵素 遺伝子で ある NbROS1 遺伝子の 発現抑制下 では、CMV2‑A1 ベクター を介した外来性CaMV 35S プロモーターに対するDNA メチル化がより高頻度 で誘導されることが明らかとなった。このことから、DNA 脱メチル化酵素遺伝子の発 現量とCMV2‑A1 ベクターを介した外来性プロモーターへのメチル化誘導との間には 負の相関があることが示された。

   最 後 に、 RdDM を引 き 起こ す RNA 配 列の 長 さ等 の 要素 が DNA メチル 化およびTGS の誘導に影響を与えるのか否かについて解析するため、長さあるいは部位の異なる 種々 の CaMV 35S プロ モ ーター配列 をCMV2‑A1 ベク ターに組み 込み、RNA 配列の構 成とDNA メチル化お よぴTGS の 誘導との関 係性を解析した。その結果、挿入配列の 違いは35S :siRNA の蓄積量に影響を与えないものの、ゲノム中に挿入されたCaMV 35S プロモー ター領域に 対するDNA メチル化、およびTGS の誘導効率は挿入配列の長さ の制約を受けることが明らかとなった。さらに、TGS 誘導個体から得たCMV 非伝搬の 自殖第1 世代を用いてTGS 維持について解析した結果、TGS が安定して維持されるか 否 か は RdDM の 誘 導 源 と し て 用 い る 配 列 の 部 位 に 依 存 す る こ と が 示 さ れ た 。

   遺伝子導入法は特定遺伝子の発現を恒常的に改変可能な技術であるものの、我が国 では遺伝子組換え作物が未だに一般社会に受け入れられておらず、現状では育種手法 として用いることは難しい。ウイルスベクターを介した内在性遺伝子に対するTGS 誘 導系は、遺伝子組換えによらずに作物の形質を改善可能な技術として期待されるが、

本 研 究 で 得 ら れ た 知 見 は 、 こ の 技 術 の 実 現 に 大 き く 寄 与 す る も の で あ る 。    以上のように、本研究の成果は、ジーンサイレンシングの機構解明に寄与するとと もに、作物の形質改変を意図した新たな遺伝子の発現制御法としての知見をもたらす

1234

(6)

ものであり、学術および応用の両面で高く評価できる。よって審査員一同は太田垣駿 吾 が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を有 す る も の と 認 め た 。

‑ 1235

参照

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