博 士 ( 環 境 科 学 ) 山本 学 位 論 文 題 名
ENVIRONMENTAL ‑ GEOMORPHOLOGICAL STUDIES ON EROSION AND DEBRIS TRANSPORT
(侵食と砂礫の輸送に関する環境地形学的研究)
学位論文 内容の要旨
博
本論文 では ,流域 の水路 におけ る土 砂の主 な輸送 形式で ある混 相流 ,浮流 ,掃流 にっいて,そ れらの 発生要 因, 出現頻 度,土 砂濃度 と流れ との 関係を 流域斜 面の侵 食過 程およ び水路における 運動形 態の解 明を 通して 明らか にした 。本論 文は 以下の5章 からな る。
第1章 は 序論で あり, 本研究 の環 境科学 的意義 づけを 行い, 研究 目的お よび対 象とし た地 域・
施設を 述べて いる 。人間 や動植 物の立 地基盤とナょっている流域の地形は,斜面で侵食された土砂 が混相 流,浮 流, 掃流と いった 様式で 輸送さ れる ことで 形成さ れてい る。 そこで ,これらの輸送 様式ご とのプ ロセ スを, 流域斜 面の侵 食過程 およ び水路 におけ る運動 形態 の解明 を通して明らか にする ことを 目的 とした 。調査 地には ,大規 模な 噴火活 動によ り不安 定土 砂が大 量に堆積したた めに, 混相流 とし ての泥 流が頻 発した 有珠山 山麓 の流域 と,固 結した 細粒 な赤黄 色土壌が厚いた めに, 浮流に よる 土砂移 動が継 続して 発生し やす い沖縄 島の流 域を選 んだ 。より 粗粒な岩屑が輸 送され る掃流 形式 にっい ては, これら の流域 の水 路で生 じてい るが, 水路 床近く の運動を観察す ること はきわ めて 困難で あるの で,掃 流時の粒子の運動を明らかにするために室内実験を行った。
第2章 は ,1977・1978年の噴 火活 動によ り降下 火砕物 質に 覆われ た有珠 山山麓 の流域 で生 じた 泥流に っいて 論じ ている 。調査 は渓床 におい て地 形変化 および ,流動 堆積 物の堆 積量,粒径,粒 子密度 を調べ ,斜 面上で は基準 のピン を埋設 して 侵食量 ,およ び小流 域か らの表 面流出量を測定 した。
そ の 結 果 ,細 粒 火 山 灰 の降 下 後 ,2ケ月 間 (1978年9〜lO月 )に,3回 の泥流 が発生 した 。こ のと き の 降 雨 状 況か ら , 最 小5 mm/10minの降 雨 に よ り 表面 水 流 が 発 生し て い ること がわ かっ た。表 面水流 は, 地表面 を覆っ た火山 灰層の 透水 性が低 いため に生じ たも ので, 斜面ではこの水 流によ ルリル 間地 ,リル のいず れの微 地形上 でも 侵食が 進行し た。こ のと きの侵 食深は,ピンを 用いた 測定に より ,それ ぞれ深 さ34mm,56mmに達 したこ とが明 らかと なっ た。そ れに伴って,多
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量の 土砂が 渓床に 供給 されて おり, これと 支流 の渓床 付近の 侵食に よる土 砂が 泥流の 流出土砂を 形 成 した 。 す な わ ち ,泥 流 に よ る 流出 土 砂 量 は ,堆 積 土 量か らみる と3回それ ぞれ1,200而,
17,200ボ ,103,000ボ で あ り, そ の と き の 流出 水 量 は 降雨 状況と 斜面堆 積物 の含水 状況か ら 3,000而 ,3,900ボ ,12,600mと 求 め られ た , そ の 結果 , 泥流は5〜21mm7minの降 雨に よって 体 積 濃 度0.3〜0.9の 高 濃 度 の 混 相 流 と し て 流 動 し た こ と が 明 ら か と な っ た 。 第3章 で は ,流域 から の浮流 土砂流 出の典 型例と して ,赤黄 色土壌 で構成 され る冲繩 島北部 の 事例 を論じ た。調 査滋 裸地に おいて ,降雨 によ る表面 流出の 発生, ルルと りル 間地の 微地形ごと の侵 食量, また流 域の 河川に おいて 流量と 浮流 土砂量 を測定 した。
その 結 果 , 裸 地化 し た 斜 面 では , 最 小2 mm710minの 降 雨に よ り 水 流 出が 生 じ る。こ の表面 流出 と雨滴 の作用 によ り,リ ル間地 では地 表面 がほぼ 一様に 侵食さ れるが ,リ ルの水 路内ではり ル水 流の集 中によ り, 裸地化 した斜 面のり ル流 域面積 ・地点 勾配と ともに 侵食 量が増 加する。ま た, 土壌は 粒径O.Imm以下 の細 粒分で 構成さ れるの で,ほ とん どがこ の侵食 により 流出し,浮流 土砂 を形成 する。 この ことは 小流域 におい て確 認され た。す なわち ,浮流 土砂 の流出 は裸地斜面 から の出水 と同時 に濃 度が増 加し, 降雨が 停止 して裸 地での 侵食が 止まる と濃 度が急 減した。ま た浮 流土砂 の粒径 が土 壌の細 流分と 一致し た。 さらに ,河川 水路に 流出し た土 砂は, シアーの大 きな 水路底 近くか ら水 面付近 にまで まき上 がり ,浮遊 して輸 送され ること が水 路断面 における土 砂濃 度の分 布の直 接測 定から 明らか となっ た。
第4章 で は ,掃流 輸送 にっい て水路 実験か ら掃流 時の 粒子の 運動形 態を明 らか にした 。実験 で は, まず流 域水路 の状 態を模 して人 工水路 を造 成し, 粒径5. 5mmの 礫を1.5g/sずつO.0019〜 0. 0035 ni/sの 流量 中に供 給して 掃流状 態を 出現さ せた。 さらに その状態において水路側面から 2台 のビ デ オ カメ ラを用 いて運 動礫 を撮影 し,そ の映像 の立 体画像 解析に より礫 の運動 形態 を詳 しく 調べた 。
その 結果 ,流れ は水深 が上下 流に一 定な 等流状態であり,レイノルズ数は12,600〜17,900で乱 流, フル― ド数は1.8で 射流の 状態で あっ た。.流量の増加とともに水路床の勾配は小さくなり,
礫は その水 路床の 底部 に限っ て分布 し,水 路中の礫の平均濃度は(1. 6〜3. 2)/10000と低い状態 で あ った 。 礫 粒 子 の 運動 は ,1/60秒の 時間 間隔で その軌 道を追 跡して みる と,水 路底部 から飛 び上 がりな がら, 横断 方向の 右岸側 に移動 し .下がりながら左岸方向にもどる螺旋状の軌道をと る躍 動をす ること が明 らかと なった 。さら に, 礫は径 深に比 例する 横幅を もつ 輸送帯 のなかを移 動し っつ輸 送され るこ とをと らえる ことが でき た。
第5章 で は 本研究 の成 果を総 括して いる。 混相流 ,浮 流,掃 流の発 生には 土砂 礫の供 給量, 粒
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子 の 特 性 , 流 れ の 状 態 が 関 与 す る こ と を 示 し た 。 す な わ ち , 泥 流 を も た ら す 混 相 流 は 多 量 の 不 安 定 土 砂 の 存 在 と 降 雨 の 発 生 と が 組 合 わ さ っ た と き に 発 生 す る 。 浮 流 は , 斜 面 の 細 粒 士 層 が 降 雨 に と も な う り ル 流 に よ っ て 侵 食 さ れ , 流 出 し た 細 粒 物 質 が 水 流 の 上 面 に た っ す る 浮 遊 状 態 を 形 成 す る こ と に よ っ て 出 現 す る 。 降 雨 強 度 に よ っ て 比 較 す る と , 浮 流 の 発 生 は , 混 相 流 の 発 生 よ り 弱 い 降 雨 強 度 で も 可 能 で あ る 。 さ ら に , 掃 流 は 粗 粒 の 砂 礫 が 低 濃 度 で 輸 送 さ れ る と き に 出 現 し , そ れ ぞ れ の 礫 粒 子 は 水 路 底 に 近 接 す る 部 分 で 螺 旋 運 動 を し な が ら , 躍 動 を く り 返 し て 運 搬 さ れ て い る と いえる。
学位論文審査の要旨 主査 教授
副査 教授 副査 教授 副査 教授
小 野 有 五 菊 地 勝 弘 中尾欣四郎 福 田 正 己
本 論 文 は 流 域 に お け る 砂 礫 の 主 要 な 輸 送 形 式 で あ る 混 相 流 ・ 浮 流 ・ 掃 流 に っ い て , そ れ ら の 発 生 要 因 ・ 出 現 頻 度 ・ 土 砂 濃 度 と 流 れ と の 関 係 を , 流 域 斜 面 で の 侵 食 過 程 お よ び 水 路 に お け る 砂 礫 粒 子 の 運 動 形 態 の 解 析 を 通 じ て 明 ら か に し た も の で あ る 。
論 文 は5章 か ら な り , 第 一 章 で は , 序 論 と し て 本 研 究 の 環 境 地 形 学 的 意 義 づ け を 述 べ る と と も に , 研 究 の 目 的 お よ び 野 外 観 測 を 行 っ た 二 地 域 の 概 観 を 述 べ て い る 。 第 二 章 以 下 が 本 論 に あ た る 。 第 二 章 で は , 混 相 流 の 典 型 例 と し て ,1977―78年 の 噴 火 活 動 に よ り , 厚 い 降 下 火 砕 物 質 に 覆 わ れ た 有 珠 山 山 麓 の 流 域 で , 細 粒 火 山 灰 の 降 下 後 ,2ケ 月 間 に 発 生 し た 泥 流 に っ い て の 分 析 を 行 つ た 。 流 域 斜 面 に 多 数 埋 設 し た 侵 食 ピ ン に よ る 測 定 に よ っ て , 降 灰 後 の 斜 面 で の 侵 食 と 堆 積 の 過 程 を 詳 細 に 明 ら か に し , 降 雨 強 度 と の 関 係 を 調 べ る こ と に よ っ て , 泥 流 の 発 生 条 件 と 発 生 プ 口 セ ス を 解 明 す る こ と が で き た 。 す な わ ち , (1) 表 面 流 出 は , 透 水 性 の 低 い 細 粒 火 山 灰 層 が 斜 面 上 を 一 様 に 覆 っ た あ と , 最 小5 mm/minの 降 雨 強 度 の 雨 に よ っ て 生 じ , (2) こ の 水 流 に よ っ て 斜 面 上 に は り ル お よ び ガ リ ー な ど の 侵 食 地 形 が 形 成 さ れ , (3) 渓 床 に 供 給 さ れ た 土 砂 は , 降 雨 強 度 5〜21mm/10minの 降 雨 に よ っ て , 高 濃 度 の 混 相 流 と し て 移 動 し , 泥 流 を 発 生 さ せ た こ と を 明 ら か に し た 。
こ のほ か,降 下火山 灰に覆 われた 流域 斜面で は,ク リープ や表 層崩壊 による 土砂移動も発生し た 。火山 灰の降 下時 期,火 山灰の 粒径, 降雨 強度な どとの 関係に おいて これ らの斜面侵食プロセ ス を整理 し,斜 面侵 食の総 量に対 する各 プ口 セスの 割合の 時間的 変化を 明ら かにすることができ た 。この 結果, 対象 とした 流域斜 面では ,リ ル・ガ リーで の侵食 プロセ スと ,リル間地での侵食 プ ロセス の卓越 が認 められ た。
第 三章 では, 流域か らの浮 流土砂 流出 の典型 例とし て,赤 黄色 土壌に 覆われ た沖繩島北部の事 例 を解析 した。 扱っ た流域 は一次 から三 次の 流域に わたっ ており ,いず れも 流域内にはパイナッ プ ル畑や 宅地造 成の ために 森林が 伐採さ れ, 表層土 壌が侵 食を受 けて裸 地化 した斜面が広がって い る 。 こ こ で は(1)最 小2mm/10minの 降 雨 強 度 の 雨 に よ っ て 表 面 流 出 が 始 ま り ,(2)リ ル 間 地では 地表面 がほ ば一様 に侵食 される が, リルで はりル 流域の 面積・ 地点 勾配とともに侵食量 が 増加す ること が明 らかに なった 。
赤 黄色 土壌は 粒径0. Imm以 下の 細粒物 質で構 成され てい るため,ほとんどが侵食によって流出 し ,水路 断面内 では ,強い シアー をもつ 底面 付近か ら,水 面近く まで巻 き上 げられながら浮流土 砂 として 輸送さ れる 。
よ り高 次の流 域では ,流量 の増加 にと もなう 浮流土 砂濃度 の上 昇が認 められ ,流域の形状によ る 差にお いて論 じら れた。
第 四章 では, 掃流時 の砂礫 粒子の 運動形態を水路実験により解析した。.すなわち,流域水路の 状 態を模 した人 工水 路をっ くり, 粒径5. Ommの礫を1.5g/sずつO.0019〜O.0035而/sの流量を も つ流水 中に供 給し て掃流 状態を 出現さ せ, 輸送中 の砂礫 粒子の 軌道を ビデ オ画像によって解析 し た 。 こ の 結 果(1)砂 礫 粒 子 は 水路 床 の 底 部 をラ セ ン 状 に 運動 し , か つ(2)径 深 に 比例 す る 横 幅 を も っ ク ラ ス タ ー の な か を 移 動 し な が ら 輸 送 さ れ る こ と が 明 ら か に な っ た 。 第 五章 では本 研究の 成果を 総括し てい る。混 相流・ 浮流・ 掃流 の発生 条件を 整理すると,土砂 礫 の 供 給 量 , 粒 子 の 特 性 , お よ び 流 れ の 状 態 が 関 与 し て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。 本 論文 は流域 からの 土砂流 出を, 典型 的な事 例をと りあげ るこ とによ って, 混相流・浮流・掃 流 という 広い範 囲に わたっ て解析 したも ので あり, とくに これま で個別 的に 論じられてきた斜面 で の侵食 過程と 水路 での流 送過程 を結び っけ て扱っ た点で ,従来 の研究 にな い新しい視点を提示 し ている と言え る。 とくに 混相流 と浮流 にっ いては ,長期 にわた る詳細 な野 外観測をもとに,こ れ までに ない精 度で ,流域 斜面で の侵食 過程 と,泥 流や浮 流によ る土砂 流出 の発生条件を明らか に するこ とがで きた 。これ は,環 境地形 学に 対する 大きな 貢献で あり, 審査 員一同は申請者が博 士 (環境 科学) の学 位を受 けるに ふさわ しい ものと 判断し た。
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