博 士 ( 薬 学 ) 内 田 泰 輔
学 位 論 文 題 名
アシルCoA :コレステロールアシル転移酵素阻害剤の
バイオアベイラビリテイーと血清コレステロール低下作用に関する一考察
学位論文内容の要旨
アシ ルCoA:コ レス テ ロー ルアシ ル転移酵 素(ACAT)によ るコレス テロー ルのエス テ ル 化 が小 腸 や 肝臓 か ら のりポ 蛋白の 分泌に関 与して おり,ACATの 阻害薬 はコレス テ ロ ー ル低 下 薬 とし て 期 待され ている ,しかし これま で開発さ れたACAT阻 害薬は実 験 動物 で顕著な コレス テロール 低下作 用を示す にもかか わらず,ヒトで薬効の発現が認 めら れていな かった .一方, コレス テロール 代謝に関 与する主な組織は肝臓と小腸で あ る が, 小 腸 のACAT阻 害 による 薬効発現 に関する 研究は 多数報告 されて いるのに 対 し , 肝臓 のACAT阻 害と 薬 効との 関連は明 らかでな かった ,標的組 織とし て小腸の み が注 目されて いたた めに,薬 物のバ イオアベ イラビリ ティーと薬効の関連はほとんど 検 討 され て こ なか っ た .そこ で著者 は,ACAT阻害 薬のバ イオアベ イラビ リティー と 薬 効 との 関 係 を明 ら か にする ことと ,ACAT阻害薬 のヒト における 有効性 を論及す る こと を目的と して,YM17Eをモ デル化 合物とし て用い 検討を行 い,以下 の重要 な知見 を得た,
まず ,ACAT阻 害薬YM17Eの ラッ ト に お ける 基 礎 的な 体内動態 を検討 した.ラ ット にYM17Eを経口 投与し た時の血 漿中濃 度は用量 依存的 に上昇し ,用量依 存的な 薬効が 期待 されたが ,バイ オアベイ ラビリ ティーは 約10%で あらた, 一方,14C̲YMl7Eを用 い た 検討 か ら ,YM17Eの 経口吸 収率は 少なくと も40%以 上であっ たこと から,YM17E は代 謝を受け やすい ことが明 らかになった, ̄YM17Eを静脈内投与した時の分布容積は 7.21瓜こgと大きい値であり,組織移行性は高いことが示された.14C̲YMl7Eを経口投与 し た 時の 放 射 能はACATを 多く含 む消化管 に長時間 滞留し ,体内へ 吸収さ れた後は 標 的器 官である 肝臓に 高い濃度 で分布 していた ,|4C̲YMl7Eを10 mg/kg経口投与した時 の 小 腸ま た は 肝臓 内 放 射能はIC50値以上 の値が長 時間維 持されて おり, さらにACAT を含 有する肝 ミクロ ゾーム画 分およ び小腸粘 膜内の放 射能は,その多くが未変化体に 由 来 して い る こと が 明 らか に な った . 以 上の よ う にYM17Eの吸収 性,分 布性はACAT 阻害薬として好都合な結果であった.すなわち,薬効の期待される標的部位(小腸)へ比 較的 長時間存 在し, また小腸 のみな らず肝臓 へも高濃 度に分布した,報告されている 他 のACAT阻害 薬 と 比較 す ると, 吸収率, 肝臓への 移行性 において ,他薬 より勝っ て おり,より強カな効カが期待された,
次に ,YM17Eの代 謝 物 の同定 とそれら の薬理効 果への 寄与を検 討した .`YM17Eは CYP3AによってN‑脱メチ ル化を受 け,5つの代 謝物(Ml,M2a,M2b,M3,M4)が生成する こ と が明 ら か にな っ た .代謝 物のin vitroのACAT活性阻 害を調べ たとこ ろ,未変 化 体 よ り効 カ は 弱か っ た が,す べての 代謝物がACATを阻害 した.代 謝物を 静脈内に 投 与す ることに より高 コレステ ロール 食負荷ラ ットにお ける薬効を検討したところ,顕 著な 血清コレ ステロ ール低下 作用を 示した, 以上の検 討からYM17Eを投 与した 際,代 謝物 が薬効に 寄与す ることが 示され た.YM17Eと代謝 物の同時 定量法を 確立し ,血漿
中のみならず小腸粘膜および肝臓中のYM17Eおよび代謝物濃度(活性体濃度)を測定し た,経口投与時では肝臓,小腸の両組織に活性体が分布しており,薬効発現に両組織 のACAT阻害が関与することが示唆された.一方,静脈内に投与した時には肝臓に高 濃度に分布し,小腸中濃度は低く,IC50値以上に達したのは短時間のみであった.した がって,コレステロール低下作用における作用部位は投与経路により異なり,経口投 与では主に小腸のACAT阻害が,静脈内投与では主に肝臓のACAT阻害が期待された,
血清コレステロール低下作用における肝臓ACAT阻害の関与は,未だよく理解され ていない.YM17Eを経口投与および静脈内投与すると,ほば用量に依存した血清コレ ステロールの減少がみられた.しかし,YM17Eを経口投与した時の消化管からのコレ ステロール吸収抑制効果は顕著であったが,静脈内に投与した時には投与直後に小腸 ACAT活性が阻害され,小腸からのコレステロール吸収もやや抑制されたのみであっ た,ACAT阻害薬のコレステロール低下作用はそのほとんどが小腸からのコレステロ ール吸収抑制と,それに続く肝臓内コレステロールの減少で説明されてきたが,静脈 内投与の結果はそれ以外の作用機序が存在することを示している.YM17Eを静脈内投 与した時,肝ACAT活性は用量依存的に低下したが,肝臓内コレステロール濃度に変 動はなかった.本研究で用いたモデルにおいては肝臓内コレステロール濃度の決定因 子はコレステロール吸収量であり,肝臓ACAT活性は大きく影響しないことが示され た.通常食のラットにTriton WR1339を投与した高脂血症モデルラットは,VLDLの分 泌亢進により血液中のコレステロール濃度が上昇するが,YM17Eを10 mg瓜g投与する と血清コレステリルエステル濃度上昇を抑制した.また高コレステロール食負荷モデ ルラットにおけるmIーLDLのクリアランスは,YM17Eをの経口投与および静脈内投与 すると有意に増大した,以上の検討からYM17Eを静脈内投与した時の血清コレステロ ール低下作用は,主に肝ACAT阻害により引き起こされることが明らかになり,その 作 用 機 序 は 肝 臓 か ら の VLDL分 泌 抑 制 で あ る こ と が 推 察 さ れ た , 以上のよ うにYM17Eの血 清コレステロール低下作用に対する肝ACAT阻害の寄与 を小腸のそれから分離評価することが可能になった,また,薬物の血漿中濃度と血清 コレステロール低下作用の関係から,小腸および肝の薬効への寄与を評価することが できた.その結果,肝ACATの寄与を期待するには高い血漿中薬物濃度が要求される ことが明らかになった.また経口投与時では小腸でのコレステロール吸収抑制効果の ため血漿中濃度が低くてもコレステロールが低下するが, ̄nu17Eを高用量投与した時 には 血 漿 中濃 度 が 増大 し 肝ACAT阻 害 も 寄与してく ることが 明らかに なった.
YM17Eはヒトにおいても吸収率が高いことが予想され,代謝物と合わせた血漿中薬 物濃度は既報のACAT阻害薬と比較して高かった.本薬はACAT阻害薬として初めて ヒトにおいて血清コレステロールの低下効果を示したが,血漿中濃度および血清脂質 低下作用の関係は,ラットに静脈内投与した時の状況に近かった.したがってヒトで 見られたコレステロール低下効果に対しては,小腸とともに肝臓のACAT阻害関与が 示唆された.
これまでAakT阻害薬のバイオアベイラビリティーと有効性の相関を明らかにする 目的で研究を行ってきたが,バイオアベイラビリティーの低いACAT阻害薬は小腸の 関与のみが期待され,バイオアベイラビリティーの増大により小腸のみならず肝臓の ACAT阻害の寄与も期待できることを明らかにした,またヒトにおいてもACAT阻害 薬 の パ イ ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ー 増 大 に よ り そ の 有 効 性 が 期 待 さ れ た ,
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学位論文審査の要旨 主 査 教 授 鎌 滝 哲也 副 査 教 授 野 村 靖幸 副査 助教授 徳光幸子 副査 助教授 横井 毅
学 位 論文 題 名.
アシ ルCoA:コ レ ステ ロールア シル転移酵 素阻害剤の
バイオアベ イラビリテイーと血清コレステロール低下作用に関する一考察
高コレステロール血症は我が国の代表的な成人病として早急に解決しな ければならない代表的な疾患である。高コレステ口ール血症は多くの疾患の 原因ともなり得ることから、新しいヌカニズムで奏効する薬物の開発が望ま れている。新しいコレステ口ール低下薬としてアシルCoA:コレステ口ール アシル転移酵素(ACAT)の阻害が注目されてきたが、種々の問題があり成功例 はなかった。本研究では、なぜこれまでにACAT阻害薬が医薬品として開発 できなかったのかに注目して研究し、数々の新知見を得た。本研究は新規な コレステロール低下薬の開発に関して有用な概念を提供するものであり、以 下 に 詳 述 す る よ う に 極 め て 優 れ た 研 究 成 果 で あ ると 評 価さ れ る。
1)モデル化合物YM17EのACAT阻害と体内動態
これまで開発が試みられたACAT阻害薬は実験動物で顕著なコレステ□ール 低下作用を示すにもかかわらず,ヒトで薬効の発現が認められなかった.一 方,コレステ口ール代謝に関与する主な組織は肝臓と小腸であるが,小腸の ACAT阻害による薬効発現に関する研究は多数報告されているのに対し,肝 臓のACAT阻害と薬効との関連は明らかでなかった.そこで、まずYM17Eの ラットにおける体内動態を検討した.14C−YM17Eを用いた検討から,YM17E の経口吸収率は少なくとも40%以上であった.YM17Eを静脈内投与した時の 分布容積は大きく,組織移行性は高いことが示された. 14C−YM17Eを経口投 与した時の放射能はACATを多く含む消化管に長時間滞留し,体内ヘ吸収さ れた後は標的器官である肝臓に高い濃度で分布していた.さらにACATを含 有する肝ミク口ゾーム画分および小腸粘膜内の放射能は,その多くが未変化
体に由来していることが明らかになった.
2)YM17Eの代謝と薬効
YM17Eの 代謝 物 の同定 とそれら の薬理効 果への寄 与を検討 した。YM17Eは CYP3AによってN一脱メチル化を受け,5つの代謝物(Ml,M2a,M2b,M3,M4)が生 成 す るこ と が明 ら か にな っ た ,代 謝 物のin vitroのACAT活性 阻 害 を調 べ た と ころ , 未 変化 体より 効カは弱 かったが ,すべて の代謝物 がACATを阻害 し た .ま た 、 コレ ステ口 ール低下 作用にお ける作用 部位は経 口投与では 主 に 小 腸のACAT阻 害が ,静脈内 投与では 主に肝臓 のACAT阻害が 予想され た.
ACAT阻 害 薬の コ レス テ口ール 低下作用 はそのほ とんどが 小腸から のコレス テ口 ール吸収 抑制と, それに続 く肝臓内コレステ口ールの減少で説明されて きた 。YM17Eを静脈 内投与し た時,肝ACAT活性は用 量依存的に 低下したが,
肝臓 内コレス テ口ール 濃度に変 動はなかった, これらを含めた種々の検討 か らYM17Eを 静脈 内 投与 し た 時の 血 清コ レ ス テ口 ール低 下作用は ,主に肝 ACAT阻 害 によ り 引き 起こされ ることが 明らかに なり,そ の作用機 序は肝臓 からのVLDL分泌抑制であることが推察された.
以上 の よ うにYM17Eの 血 清コ レ ス テ口 ー ル低 下 作用に対 する肝ACAT阻 害 の寄 与を小腸 のそれか ら分離評 価することが可能になった.また,薬物の血 漿中 濃度と血 清コレス テ口ール 低下作用の関係から,小腸および肝の薬効へ の 寄 与を 評 価 する ことが できた. その結果 ,肝ACATの寄 与を期待 するに絃 高い 血漿中薬 物濃度が 要求され ることが明らかになった.また経口投与時で は 小 腸で の コ レス テロー ル吸収抑 制効果の ため血漿 中濃度が 低くてもコ レ ス テ 口ー ル が 低下 す るが ,YM17Eを 高用 量 投 与し た時に は血漿中 濃度が増 大し肝ACAT阻害も寄与してくることが明らかになった.
3)ヒ トにおけ るACAT阻害
YM17Eはヒ トにおい ても吸収 率が高いこ とが予想 され,事 実代謝物と合わせ た 血 漿中 薬 物濃 度 は既報 のACAT阻害薬 と比較し て高かった .本薬はACAT阻 害薬 として初 めてヒト において血 清コレステ口ールの低下効果を示したが,
血漿 中濃度お よび血清 脂質低下作 用の関係は,ラットに静脈内投与した時の 状況 に近かっ た.した がって、ヒ トで見られたコレステロール低下効果に対 し て は, 小 腸と と もに肝 臓のACAT阻害 の関与が 示唆された .以上の 研究結 果 か ら、 パ イオ ア ベイラ ピリティ ーの低いACAT阻害薬は小 腸の関与 のみが 期待 され,バ イオアベ イラピリテ ィーの増大させると小腸のみならず肝臓の ACAT阻 害 の寄 与 も期 待できる ことを明 らかにな った.また ヒトにお いても ACAT阻 害薬 の パ イア ベ イ ラピ リ ティ ー 大 きく そ の有 効 性 が期 待 され た . 以上、本研究は新しぃコレステ□ール低下薬の開発に重要な概念を提案した。
本論文『アシルCoA:コレステ口ールアシル転移酵素阻害剤のバイオアベイ ラピリティーと血清コレステ口ール低下作用に関する一考察』に含まれる研 究成果は薬学における基礎および応用のいずれにおいても優れており、博士
(薬学)の学位を受けるに充分値するものと認めた。