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地方公共団体のBCP策定手法の開発と実践に関する研究-香川大学学術情報リポジトリ

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香川大学審査学位論文

地方公共団体の BCP 策定手法の

開発と実践に関する研究

2 0 1 4 年 3 月

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目 次 第 1 章 序 論 1.1 研 究 の 背 景 と 目 的 ··· 3 1.2 既 往 の 研 究 と 本 研 究 の 位 置 づ け ··· 7 1.3 本 論 文 の 構 成 ··· 13 参 考 文 献 ··· 14 第 2 章 地 方 公 共 団 体 に お け る 業 務 継 続 計 画 の 従 来 の 考 え 方 2.1 地 方 公 共 団 体 の 業 務 継 続 計 画 (BCP) ··· 16 2.1.1 地 方 公 共 団 体 の BCP の 定 義 と 概 要 ··· 16 2.1.2 地 域 防 災 計 画 と BCP の 違 い ··· 17 2.1.3 行 政 BCP と 企 業 BCP の 違 い ··· 19 2.1.4 業 務 継 続 計 画 の PDCA ··· 21 2.2 地 方 公 共 団 体 版 BCP の 策 定 ··· 23 2.2.1 内 閣 府 防 災 担 当 の 行 政 版 BCP ··· 23 2.2.2 地 方 公 共 団 体 版 の BCP ス テ ッ プ ア ッ プ ・ ガ イ ド ··· 24 2.3 BCP の 適 用 事 例 ··· 26 2.3.1 大 阪 府 豊 能 郡 豊 能 町 の 概 要 ・ 特 徴 ··· 26 2.3.2 大 阪 府 豊 能 郡 豊 能 町 に 応 用 し た BCP の プ ロ ト タ イ プ ··· 28 2.4 大 阪 府 下 市 町 村 へ の ア ン ケ ー ト 調 査 ··· 32 2.4.1 ア ン ケ ー ト 調 査 の 概 要 ··· 32 2.4.2 ア ン ケ ー ト 結 果 に よ る BCP ス テ ッ プ ア ッ プ ・ ガ イ ド の 評 価 と 考 察 ··· 35 2.5 ま と め ··· 36 参 考 文 献 ··· 37 第 3 章 東 日 本 大 震 災 時 に お け る 行 政 対 応 と 課 題 3.1 概 要 ··· 38 3.2 東 日 本 大 震 災 に お け る 被 害 状 況 ··· 39 3.2.1 被 害 状 況 ··· 39 3.2.2 道 路 構 造 物 の 被 害 ··· 40 3.2.3 土 構 造 物 , 地 盤 , 斜 面 の 被 害 ··· 41 3.2.4 上 下 水 道 の 被 害 ··· 41 3.3 東 日 本 大 震 災 に お け る 行 政 の 対 応 と 課 題 ··· 42 3.3.1 発 災 直 後 の 行 政 対 応 ··· 42 3.3.2 1 週 間 程 度 ま で の 行 政 対 応 ··· 43 3.3.3 外 部 支 援 及 び 受 援 体 制 と 地 域 再 生 に 向 け て ··· 44 3.3.4 大 規 模 広 域 災 害 へ の 備 え に 関 す る 課 題 ··· 47 3.4 災 害 時 の 考 え 方 ··· 50 3.4.1 大 規 模 災 害 に お け る 道 路 の 役 割 ··· 50

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3.4.2 災 害 時 に お け る 情 報 や 避 難 に 関 す る 課 題 ··· 52 3.4.3 そ の 他 の 課 題 と 教 訓 ··· 54 3.5 南 海 ト ラ フ の 巨 大 地 震 モ デ ル 検 討 会 を 踏 ま え た 市 町 村 の 対 応 と 課 題 ··· 54 3.5.1 南 海 ト ラ フ の 巨 大 地 震 モ デ ル 検 討 会 の 概 要 ··· 55 3.5.2 東 日 本 大 震 災 と の 被 害 想 定 比 較 ··· 55 3.5.3 近 畿 地 方 に お け る 被 害 想 定 ··· 58 3.5.4 大 阪 府 下 市 町 村 に お け る 対 応 と 課 題 ··· 59 3.6 ま と め ··· 60 参 考 文 献 ··· 60 第 4 章 広 域 災 害 を 踏 ま え た 市 町 村 BCP 策 定 の 考 え 方 4.1 行 政 BCP の 検 討 す べ き 事 項 ··· 62 4.1.1 緊 急 危 機 管 理 に 関 す る 業 務 の 整 理 ··· 64 4.1.2 健 康 ・ 生 活 危 機 管 理 に 関 す る 業 務 の 整 理 ··· 67 4.1.3 地 域 再 生 危 機 管 理 に 関 す る 業 務 の 整 理 ··· 70 4.1.4 業 務 影 響 度 分 析 ··· 71 4.1.5 受 援 体 制 ··· 72 4.1.6 物 資 保 管 ··· 74 4.2 市 町 村 BCP と DCP 策 定 上 の 視 点 ··· 75 4.2.1 市 町 村 BCP 策 定 の 視 点 ··· 75 4.2.2 緊 急 危 機 管 理 の 視 点 か ら 見 た 従 来 の 防 災 訓 練 の 課 題 ··· 77 4.2.3 健 康 ・ 生 活 危 機 管 理 及 び 地 域 再 生 危 機 管 理 の 視 点 か ら 見 た 応 急 復 旧 対 応 の 課 題 ··· 78 4.2.4 自 己 解 決 型 か ら 広 域 連 携 対 応 型 へ の 転 換 ··· 79 4.3 ま と め ··· 82 参 考 文 献 ··· 83 第 5 章 職 員 参 加 型 ワ ー ク シ ョ ッ プ に よ る 市 町 村 BCP 策 定 手 法 の 提 案 5.1 大 阪 府 下 市 町 村 に お け る BCP 策 定 の 事 例 ··· 84 5.1.1 BCP 策 定 状 況 ··· 84 5.1.2 BCP 策 定 上 の 課 題 ··· 85 5.2 職 員 へ の ア ン ケ ー ト 調 査 と 防 災 に 関 す る 課 題 ··· 86 5.2.1 防 災 に 関 す る 意 識 調 査 結 果 ··· 86 5.2.2 防 災 に 関 す る 課 題 ··· 88 5.3 BCP の 策 定 手 法 の 提 案 ··· 90 5.3.1 基 本 的 な 考 え 方 ··· 90 5.3.2 BCP 策 定 委 員 会 の 構 成 ··· 90 5.3.3 BCP 策 定 の 流 れ ··· 91 5.3.4 職 員 参 加 型 ワ ー ク シ ョ ッ プ の 実 施 ··· 93 5.3.5 市 町 村 BCP の 策 定 に 関 す る 課 題 ··· 97

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5.4 BCP 策 定 の 事 例 ··· 98 5.4.1 BCP 策 定 事 例 紹 介 ··· 98 5.4.2 今 後 の 課 題 ··· 100 5.5 BCM 手 法 の 実 践 ··· 101 5.5.1 BCM 手 法 の 流 れ ··· 101 5.5.2 防 災 訓 練 の 種 類 ··· 103 5.5.3 防 災 訓 練 事 例 と そ の 課 題 ・ 改 善 点 ··· 104 5.5.4 BCM 手 法 に 関 す る 課 題 ··· 108 5.6 ま と め ··· 109 参 考 文 献 ··· 109 第 6 章 大 阪 府 北 摂 地 域 に お け る 広 域 対 応 へ の 展 開 6.1 中 山 間 地 域 に お け る 内 在 リ ス ク ··· 110 6.1.1 概 要 ··· 110 6.1.2 BP 法 に よ る 予 測 シ ス テ ム の 構 築 ··· 110 6.2 大 阪 府 北 摂 地 域 に お け る BCP 適 用 と 課 題 ··· 115 6.2.1 適 用 地 域 ··· 115 6.2.2 急 傾 斜 地 に お け る 崩 土 到 達 距 離 の 予 測 ··· 116 6.2.3 BCP へ の 適 用 ··· 117 6.3 広 域 災 害 を 踏 ま え た DCP の 構 築 に む け て ··· 120 6.3.1 DCP に お け る 行 政 の 意 向 調 査 ··· 120 6.3.2 DCP の 検 討 事 例 ··· 121 6.3.3 DCP の メ リ ッ ト ··· 122 6.3.4 DCP の デ メ リ ッ ト ··· 123 6.4 ま と め ··· 124 参 考 文 献 ··· 125 第 7 章 結 論 7.1 ま と め ··· 126 7.2 今 後 の 展 望 ··· 128 参 考 文 献 ··· 130 謝 辞 ··· 131 付 録 A 用 語 集 ··· 133 付 録 B 発 表 論 文 ··· 137 付 録 C 市 町 村 BCP 策 定 マ ニ ュ ア ル ··· 138

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第 1 章 序 論 1

第 1 章

序論

事業継続計画(BCP: Business Continuity Plan 以下,BCP と称する)が注目され るようになったのは,企業が災害後も経済活動を継続するための取り組み を開始した 1970 年代頃からである.この時期は,情報システムが企業の中に取り入れられ始めた 時期と一致する.当時,情報システムが停止した場合 に対する対応が十分といえず , 停止した場合の業務への影響を考えどのように対処するかが検討された.その後,情 報システムの発展と社会への 急速な浸透から,それを長期間停止させない対策が社会 的な課題となった.このように,BCP の考え方は,情報システムのバックアップを中心 に発展してきたといえる. 1980 年代 の BCP は , 欧米 にお いて は コ ンテ ィン ジェ ンシ ープ ラン ( Contingency Plan:不測事態対応計画)として認識された.情報システムへの停止以外にも,火災 や地震,水害,竜巻,テロ,暴動などによって操業を長期間にわたって停止せざるを 得ない事態に陥った場合に,どのように対応すればよいかが事前に検討されるように なった.その後,1989 年の米国サンフランシスコ周辺に被害をもたらしたロマ・プリ エタ地震において,被災地域の金融機関がコンティンジェンシープランに基づいて金 融決済の仕組みを維持したことが,その有効性を広く認識させることになった. そし て,1990 年代には,特に半導体業界において,サプライチェーンの仕組みが普及し, その維持の重要性が認識された.1999 年に台湾で発生した集集(チーチー)地震によ る部品メーカーの操業停止は,世界的に半導体産業の操業に影響を与え,それが一つ の教訓になっている.さらに,コンピュータの西暦 2000 年問題においても,情報シス テムが万一停止した場合にいかに事業を継続するかを世 界中の企業が検討したが,そ れは現在の事業継続の要素を網羅するものであった. 事業継続の重要性を広く認識させた事例として,2001 年 9 月 11 日に起こった米国で の同時多発テロがある.ニューヨークのワールドトレードセンターに入居していた金 融機関などが,対岸のニュージャージー州のバックアップオフィスを利用して,最低 限の業務を開始し,重要な事業の継続に成功した.その一方で, 比較的小規模な災害 や事故の対策とは異なり,キーパーソンの喪失,業務スペースの確保困難,重要書類

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第 1 章 序 論 2 や情報の喪失など事業継続上支障となる事項が明らかになった.また,証券取引所が 一時閉鎖されたこともあって,米国では官民をあげて事業継続への取組みが強化され るきっかけとなった 1) このような状況の中で,災害大国のわが国でも,2004年新潟県中越地震を契機に, 民間企業を中心にBCPの策定が推進されるようになった1).一方,行政機関のBCP(業務 継続計画と称し,民間企業の事業継続計画と区別化している)は,民間に比べてかな り遅れた状況にあったが,2007年6月に内閣府が「中央省庁業務継続ガイドライン第 1 版」2)を発表し,同年,国土交通省が首都直下地震(東京湾北部地震 )を想定した「国 土交通省業務継続計画」3)を策定した.そして,都道府県レベルでは, 2008年3月に徳 島県が南海地震に対応した「徳島県業務継続計画」4)を,東京都が2008年11月に国土交 通省と同様,東京湾北部地震を危機事象とした「都政のBCP東京都事業継続計画(地震 編)」5)を,大阪府が2009年6月,上町断層帯地震Aによる直下型地震を危機事象とした 「大阪府庁業務継続計画-地震災害編(第1版)」6)を,それぞれ策定した.しかし, 災害発生時に迅速な対応が求められる市町村においては,総務省が 2010年4月に調査し た全国の都道府県と市区町村におけるBCP策定状況7)によれば,都道府県のBCP策定率は 31.9%,市区町村では5.8%という状況であった.これは,行政機関が災害時に対応すべ き危機管理対策が多様で広範囲にわたり,またアクションプランでもある BCPは多様な リスクに対応したものとする必要があり,策定作業は容易ではないためBCPの普及が進 んでいないというのが実情であった.この状況を受けて,内閣府(防災担当)では,2 010年4月に「地震発災時における地方公共団体の業務継続の手引きとその解説」8)(以 下,内閣府BCPと称する)を公開し,全国の地方公共団体に対し,BCP策定の検討に着手 しその体制を整えてもらうための通達が出された. そして,2011年3月11日にマグニチュード9.0の東日本大震災が発生した.この地震 では最大震度7の強い揺れもさることながら巨大津波による被害が甚大であった.被害 の状況は,災害時対応拠点であるべき市町村の庁舎が一瞬にして流失し,本来避難場 所であるべき学校の被災,病院の孤立など想像を絶する衝撃的な事態であった.この ように,東日本大震災のような大規模かつ広域的な被害をもたらす災害においては, 一自治体の業務継続を目的として策定された内閣府BCPでは,対応できないことが明ら かになった. そこで,本研究では,東日本大震災で被災した地方公共団体の災害対応について調 査し,市町村の体制,情報収集及び発信の在り方,並びに応急復旧対応について 検討 し,町村のような比較的小規模な自治体 でも策定可能でかつ実効性が担保できる BCP の策定手法の開発ならびに実践を目指す.また,一自治体の BCP だけではなく,広域 的な展開として地域継続計画(DCP:District Continuity Plan 以下,DCP と称する) についても検討する.そして,災害発生時のリスクの軽減と多面的な対応・処理によ

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第 1 章 序 論 3

って,災害においても不可欠な 行政サービスを継続するための効率的で機能的な BCP の実用的展開を可能にする業務継続管理手法(BCM:Business Continuity Management 以下,BCM と称する)についても検討する. 本章では,以下本研究の背景と目的,既往の研究と本研究の位置づけについて述べ るとともに,本論文の構成を示す.

1.1 研究の背景と目的

わが国では,近年,大型台風の度重なる来襲によって,土石流,斜面崩壊,河川氾 濫などを伴った豪雨災害や,高潮災害が各地で頻発している.たとえば,昭和 34 年(1959 年)には伊勢湾台風による死者・行方不明者数が 5,868 人,平成 7 年(1995 年)の阪 神・淡路大震災では死者・行方不明者数が 6,472 人にものぼった 9).また,平成 16 年 (2004 年)の新潟県中越地震などの大地震によっても,長年にわたってストックされ てきた公共財の社会基盤施設や私財が一瞬のうちに失われ,多くの住民が不自由な状 況に追いやられ,厳しい生活環境下に強いられている. そして,平成 23 年(2011 年)3 月 11 日にマグニチュード 9.0 の東日本大震災が発生した.この地震では最大震度 7 の 強い揺れもさることながら巨大津波による被害が甚大で,死者・行方不明者は 1 都 1 道 10 県で合計 2 万人近くに達している. 内閣府経済社会総合研究所10)によると,世界全体に占める地域別の割合 は,過去40 図 1.1 世界の自然災害被害額(1970〜2011 年)10)

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第 1 章 序 論 4 年間(1970~2010年)では,アジア地域が発生件数の38.6% ,死者数の55.0%,被災 者数の89.0%,被害額の42.5 %と大きな割合を占め,わが国の自然災害による被害額 の割合は世界の15%を占めている.さらに,世界的には災害発生件数の増加に伴って経 済被害の規模も増加傾向にあり,特に阪神・淡路大震災(1995年),米国のハリケー ン・カトリーナ(2005年),中国の四川大地震(2008年)で非常に大きな損失が発生 している.特に,ハリケーン・カトリーナでの経済被害額は,数百億ドルから千数百 億ドルと推計されており,史上最大規模とされていたが,図 1.1のとおり,東日本大震 災の経済被害額はこれを大幅に上回り,史上最大規模の災害となっている. 平成24年 (2012年)国土交通白書9)では,「日本は,世界の0.25%という国土面積に比して,地震 (M6.0以上)の発生回数は20.8%」,「我が国の人口約50%に資産の約75%は洪水氾濫 区域に集中」と記載されている.今後,社会資本の受ける被害はますます多くなるこ とが推察される.このような社会的,経済的な要求,さらに は,大規模な地震災害に 対し,地方公共団体,特に,住民と最も身近に接している市町村では,災害応急対 策活動及び災害からの復旧・復興活動の主体として重要な役割を担 っている. さらに内閣府では,東日本大震災を受け平成24年8月29日に南海トラフ巨大地震対 策検討ワーキンググループを設置して検討した。その報告11)の中で,被害が最大とな る場合の被害想定(表1.1)や2003年の中央防災会議の被害想定を遙かに上回る想定震 源域(図1.2)を公表している. わが国では,2004 年新潟県中越地震を契機に BCP の策定が推進され,行政機関でも 2007 年 6 月に内閣府の中央省庁業務継続ガイドライン発表以降,都道府県を中心に策 定が始まった.しかし,総務省の 2012(平成 24)年版情報通信白書 12)によれば,業務継 続計画の策定状況のアンケート結果において,策定済みと答えた団体は全体では約 1 割と依然低く,地方公共団体別にみると都道府県では約 4 割に達するものの,町村で は 3.5%にとどまっていることが示された(図 1.3). 表 1.1 被害が最大となるケースと 2003 年中央防災会議時想定との比較 11)

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第 1 章 序 論 5

しかし,東日本大震災を踏まえて,策定に向けて検討中と答えた団体が市区で 34.6%,

図 1.3 業務継続計画(BCP)策定状況12)

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第 1 章 序 論 6 町村で 33.0%に及ぶなど市町村の規模にかかわらず業務継続計画への認識が高まって きている. BCP は,図 1.4 の概念図 13)に示すとおり,不測の事態が生じた場合でも通常の日常 業務を中断せず,また仮に日常業務に支障が生じた場合でも可能な限り短期間にその 再開が図れるように立案された計画である.そのため,非常時優先業務に位置付ける べき業務を特定し,さらに,その業務継続が迅速かつ高水準で実施するための短期的 および中期的な取り組みが定められている.このように,BCP は地域防災計画の業務に 2つの役割,すなわち,①応急対応の業務,②住民の生活に関わる重要な通常業務, などの非常時優先業務の特定とその対応が求められる. これまでの日本における BCP は,直下型地震や海溝型地震,新型インフルエンザな どのように単一の危機事象を想定して策定されてきている.これは,被害の種類や規 模や影響範囲を決めなければ対策を検討できないという防災計画の延長線上で BCP を 捉えて来たことが原因である.しかし,東日本大震災のような大規模広域複合災害の 場合,次々に発生するリスクに対し,どの BCP を発動すれば有効かの判断が困難であ る.また,将来において経験していない新しいリスクが生まれる可能性も十分にある. 新しいリスクが発生するたびに新しい BCP を用意することは現実的ではない.今後は, BCP が本来目指している概念,すなわち理由はどうあれ重要な中核的業務をいかに継続 させるか,万一中断した場合にいかに迅速に復旧させるかが重要であり,危機事象を 問わず防災・減災対策を考慮した BCP の策定が必要である. このような状況の中,筆者が所属する研究グループでは,2009 年 4 月から BCP が比 図 1.4 BCP の概念 13)

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第 1 章 序 論 7 較的容易に策定できる市町村向けのステップアップ・ガイドの作成を開始し,その成 果を研究論文として発表した 13).しかし,この研究ではまだ文書としての BCP の策定 支援に重点をおいており,市町村のどの箇所で被害が発生するか、発生すればどのよ うな事態が生じ,どの程度の規模の被害になるのかといった具体的な分析・評価のも とに,BCP の策定を支援するものになっていない.また,隣接の市町村同士の BCP の整 合性や地域に所在する各企業の BCP との整合性などがとれていない場合も想定される ため,有効に機能しない可能性がある.今後は,このような問題点や課題を克服して, 比較的小規模な町村が自らの力で実効性を担保できる BCP の策定ならびに実践できる 手法の開発が求められる.

1.2 既往の研究と本研究の位置づけ

1.2.1 国外における地方公共団体の BCP の研究動向及び普及状況

諸外国における BCP の普及率の状況に関する調査報告書 14)によれば,経済産業省は, 米国・英国・韓国の三カ国に対して,表 1.2 のとおり BCP 普及関連施策に関する情報 収集を行なっている.各国とも,過去の被災経験により BCP 推進のための枠組みが必 要であることが認識され,新たな法的枠組みの下,民間企業への BCP の普及が政府主 導で推進されている状況である.以下において,米国と英国の BCP 普及状況を示す. 表 1.2 各国 BCP 関連法制度の概要比較

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第 1 章 序 論 8 まず,米国では,2001 年アメリカ同時多発テロ事件の強い影響を受け,公的機関お よび民間企業全体の災害対応力を向上させる必要があるとの認識のもと,米国国土安 全保障省(以下,DHS と称する)の主導による施策が推進されている.米国のイ ンフラ 企業(交通,金融,ガス,電力,水道など)の 85%が民間企業となっている.そのた め米国内では,インフラ企業が災害や事故などで業務が停止した場合の影響について 懸念が強まっていた.このようなインフラ企業の多くが,災害対策計画や緊急対応計 画,業継続計画を策定しているが,その実効性について担保する仕組みは存在してい ない.また,中小規模の企業について,災害対策や緊急事態対策が進んでいないこと も問題として認識されている.さらに,2001 年米国同時多発テロや 2005 年のハリケー ン・カトリーナ被災の際には,民間企業にも 大きな被害が発生し,市民生活への影響 が拡大した.しかし,事前に緊急事態対応計画類を準備していた企業は比較的被害が 少なかったとも報告されている. 米国の KPMG 社の調査によると,表 1.3 のとおり,米国の企業における BCP や BCM を 開始した理由として,事業の継続が最も多く,その他の理由としては,コンプライア ンス,顧客の要求,業界水準,法規制といったものが挙げられている.米国の各機関 へのヒアリング調査の内容は,以下のとおりである. DHS へのヒアリング内容 14)によると, 連邦政府では,民間企業で言うところの事業 継続計画を策定しているところは無いと認識している.州政府レベルでも,事業継続 計画は無いと認識している.一方,緊急事態対応計画(コンティンジェンシープラン) 表 1.2 各国 BCP 関連法制度の概要比較 表 1.3 米国における BCP,BCM を開始した理由

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第 1 章 序 論 9 などについては,ほとんどが準備している.特に,人命救助や市民の最低限の生活を 確保するために必要な業務については,緊急事態でも実施できるよう各組織で準備を している.おそらく,日本の地方公共団体の地域防災計画の非常時に行う業務を指し ているものと思われる. 次に, ニューヨーク市 14)(以下,NY 市と称する)では, 緊急事態対応計画として, 緊急対応計画,医療・保健対応計画,人員計画,業務継続計画などを準備している. 上述したように,米国では重要インフラの 85%を民間組織が運用しており,その事業 継続が NY 市の継続において非常に重要との認識がある.米国の業務(事業)継続とい うのは,インフラの継続につながるものと思われる.NY 市が想定する重大なリスクの 一つが,大型ハリケーンの直撃であり,それに備えた避難計画や防護施設の準備を進 めている.民間も同様に,大企業だけでなく,中小企業でも,NY 市全体のレジリエンス (危機時の耐性と急回復する力)の向上が必要であるとの認識に基づいて準備を進め ている. 次に,英国では,2004 年民間緊急事態法(以下,CCA2004 と称する)に基づき,災害 対応については,地方の公的機関を中心とした積極的な取組みが行われている.しかし, 地域全体の災害対応力の向上のためには,ライフライン企業等の協力が不可欠であり 自主的な協力が求められているが,既存の法律の枠組みでは限界があることが認識さ れており,CCA2004 の見直しが行われている.また,事業継続マネジメントの手法につ 図 1.5 英国において脅威と認識されているリスク14)

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第 1 章 序 論 10 いては,BS25999 規格の普及によって官民を通じて一般化されている.CCA2004 以前の 英国には,脅威から市民を保護するための平時準備について定めた「 1948 年民間防衛 法 106」と緊急時の対応について定めた「1920 年国家緊急権法 107」の二つの法律が, 市民保護の枠組みとして並存していたが,討議の結果,2つの法を廃止し, 2004 年 11 月 18 日に CCA2004 が成立した.CCA2004 は,テロリズム,自然災害,伝染病,ライ フラインや社会インフラの停止などの幅広い緊急事態から市 民を保護するための法的 枠組みである.具体的には,地方自治体等による市民保護活動とその事前計画の義務 化と緊急事態発生時における中央政府の緊急権の強化の二つの柱によって,市民保護 を包括的,迅速かつ強力に実施することを目的としている.英国において,脅威と認 識しているリスクは,図 1.5 のとおりである.自然災害よりもサイバー攻撃や疫病, 新型インフルエンザなどが上位にランクされている. 英国の地方自治体(都道府県,市町村レベル)では,「地方レジリエンス・フォーラ

ム(Local Resilience Forum)」を定期的に開催し,地域の市民団体や事業者と緊急事 態対応に関する情報交換を実施している.また,ほぼ全ての広域自治体が「( ○○)レ ジリエンス」又は「(○○)緊急対応計画」との名称のウェブサイトを運営している. 英国の広域自治体とは,日本の都道府県にあたり,合計 119 の自治体がある.上記ウ ェブサイトの典型的な内容は,「緊急対応計画」,「現在のリスク状況と解説」,「緊急対 応計画や事業継続計画の作り方」,「緊急時訓練,セミナーのお知らせ」などである. 英国の各機関へのヒアリング調査の内容は,以下のとおりである. 英国内閣府へのヒアリ ング内容 14)によると, 英国の重要インフラ ・レジリエンシ ー・プログラムでは,重要インフラ 9 分野について,短期的には洪水から保護するた めの早期評価と対策の実施,長期的にはあらゆる脅威に対してレジリエンシーを確保 することを目標としている.そして,2007 年の洪水で被害を受けた自治体については 災害対策のレベルが向上しているが,被害を受けていない自治体については有意な変 化が見られないことが明らかになっている.重要インフラの依存度について,それぞ れの組織が,事業継続に不可欠な依存関係を把握することが重要 であると考えており, その上で事業継続について周知したりすることになる.そこで課題となるのは,法律 の問題というよりは,各組織間のコミュニケーションに問題があると捉えている. ロンドン市 14)では, ロンドン・レジリエンス・フォーラムに属する組織として,ロ ンドン緊急事態計画チームがロンドン地域全体の緊急事態対応計画をまとめている. ロンドン地域全体では,CCA2004 で定められた第一レベル対応者として 33 の区,政府 機関,医療機関,湾岸警備隊,環境省があり,また第二レベル対応者として各種ボラ ンティア組織,民間企業などがある.2001 年以前は,各区で緊急事態に対応していた が,9・11 同時多発テロ事件をきっかけとして,ロンドン地域全体で緊急事態に対応 する必要が生じた.このチームが,複数の区や組織が緊急事態に関する情報収集や対

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第 1 章 序 論 11

応の調整を一手に行っている.

エセックス郡(Essex County)役所 14)では,エセックス郡の事業継続計画が,2003 年

(CCA2004 制定前)から実施されている.BCM 体制構築がスタートしたのは,金融業界 から BC Manager が配属されてからである.その後は,BS25999 にしたがって実施して おり,各部署でのビジネスインパクト 分析(BIA:Business Impact Analysis 以下, BIA と称する),重要業務の洗い出しなどを行っている.新型インフルエンザ流行を想 定した計画は,2007 年から準備をしており,各自治体で事業継続の計画に携わる職員 数は,250 人以上いる.そして,自治体としての重要業務を 20 程度絞り込み,それぞ れの業務に責任者を指名している. そして,ロンドン市も同様であるが,エセックス郡役所でも,公的機関に要求され る災害時緊急対応(Emergency Planning)と自治体の平常時の業務・サービスを分けて おり,後者については,民間企業と同様に BS25999 に基づいて,BCP を策定し,運用 しているという点である.

1.2.2 国内における地方公共団体の BCP の研究動向及び普及状況

前述したように,総務省が 2010 年 4 月に調査した全国の都道府県と市区町村におけ る BCP 策定状況 7)によれば,都道府県の BCP 策定率は 31.9%,市区町村では 5.8%にあ り,BCP の普及が進んでいなのが実情である.内閣府(防災担当)では, 2010 年 4 月 に地方公共団体向けに BCP 策定の手引きとその解説 8)を公表開し,全国の地方公共団 体に対して BCP 策定を推進するよう通達を出している.しかし,2011 年 3 月 11 日に東 日本大震災が発生するまで普及が進んでいない状況が続いた. しかし,東日本大震災 後も企業の BCP 策定率の高さに比べて,地方公共団体の BCP 策定率は以前低い状況が 続いている. 丸谷,森,新井,田和,天國 15)は,2007 年に関西府県市へのアンケート調査により, 地方自治体の BCP の特徴とその策定推進に関する考察を行っている.ここでは,地方 自治体が BCP を策定する場合には,他の地方自治体との相互協力・連携が有効である と述べており,都道府県・政令市のレベルで連携の動きのない地域に対して,BCP の専 門家や支援組織が,情報交流を支援する役割を果たすことが重要であると 指摘してい る. 西村,福島,須走 16)は,2008 年に BCP 策定のために社員参集時間マップの手法を用 いることにより,目的地までの参集時間を 容易に算定する方法を示し,このマップに 対策要員の参集開始地点を重ね合わせることで,地震発生後の時間 経過ごとにおける 参集要員を評価している.そして,発災後,「いつ」,「誰」が目的地まで 参集できるの かを求めることにより,現実的で有効な復旧活動が可能になると示し ている.市町村 では,本格的な BCP 策定の前段階でまずこのような取り組みが求められる.

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第 1 章 序 論 12

川本・坂田・白木・伊藤・保田・堂垣17)は,2010 年にライブ管理(Live Design Management

リアルタイム管理)の考え方による社会基盤施設の維持管理手法を提案し,通常時の 道路や橋梁などに発生するさまざまな被害とその対応策を事前に検討し,その結果を もとに災害発生直後のライブ(リアルタイム)な対応を実現する方法を提案している. 具体的には,種々の条件下で実施した被災シミュレーションを ニューラルネットワー クの一つである SOM を用いてデータベース化し,それをもとに災害発生時の被害に類 似した事前学習データを抽出してその対応策例を示すことで,リアルタイムに効果的 な対応が可能になることを示している.このような考え方は,最近ではシナリオ・プ ランニングと称され災害時の実効性を担保する方法として注目されており,市町村の BCP 策定において検討が望まれる. 副島 18)は,2008 年に企業が BCP を策定する上での問題点を指摘し,古典的なプロジ ェクト管理手法である PERT/CPM を用いた復旧時間の定量化手法を提案している.そし て,この手法により全体の復旧所要時間に最も影響のある復旧工程をクリティカルパ スとして特定することにより,対策の優先順位を判断できることを示している.さら に,対象ハザードを地震とし た場合に,この手法を用いて既往の地震被害予測結果を 効果的な BCM につなげることを示している.このような手法も市町村の BCP 策定にお いて検討が望まれる. 磯打・真野・白木・井面 19)は,2011 年に建設業の BCP 策定支援システムの開発を通 して得られた知見から,地域継続力向上の方策を提案している.また,東南海,南海 地震のような巨大地震が発生した場合,被災箇所は広域に広がり,迅速な対応を図る 上でも個別企業の BCP 策定はもちろんのこと,地域全体の継続を念頭にした DCP 戦略 を事前に構築しておく必要があると示している.大規模広域災害時においては,複数 の市町村の連携が不可欠であり BCP 策定においてこのような考え方に基づいた検討が 強く望まれる.

1.2.3 既往の研究に対する本研究の位置づけ

東日本大震災以降,多くの市町村が BCP の視点を考慮して地域防災計画の見直しを 実施しているが,まだその多くがコンサルタント業者への委託という形で行われてお り紙面上での見直しに終わっている.市町村の職員が様々な状況を想定して,主体的 に対応可能な実行計画(アクションプラン)の作成には至っていないのが現状である. 従って,見直しが行われている地域防災計画のもとに迅速な対応が可能かと問われる と,そうではないと応えざるを得ない状態にある.こうした現状を打破するために は, 市町村の職員が主体的に関わって策定された 実用的な展開が可能な BCP 策定が急務で ある. 本研究では,比較的小規模な地方公共団体である町村の職員が 主体的に関わって BCP

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第 1 章 序 論 13 の策定が可能な手法の開発を行い,図上訓練等を通してその実効性を担保するための 手法を提案する.具体的には,まず既往の BCP に不足する事項を抽出し,それを補完 する方法論を展開する.そして,BCP の実用的展開の可能性を探る.また,災害発生時 のリスクの軽減や,対応・処理の多様化によって,行政のサービスが確保できる効率 的で機能的な BCP の実用的展開について考える.さらに,災害が大規模化・広域化す ることに対応するために,本研究では,災害時に有効に機能する BCP の策定手法と広 域的な BCP である DCP を考慮した対応策について検討する.最終的には,これら提案 手法を効率的に実践可能とする管理手法(BCM)を提案する.

1.3 本論文の構成

本論文は,序論から結論を含めて 7 章で構成されている.序論と結論を除いた 2 章 から 6 章までの関係及び論文構成を図 1.6 に示す. 図 1.6 論文構成図

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第 1 章 序 論 14 第 1 章では,本研究の目的および背景を整理するとともに,関連分野における既往 の研究を概観し,本研究の位置づけを明確にする. 第 2 章では,地方公共団体における業務継続計画の従来の考え方 について述べる. まず,地方公共団体坂の BCP の定義と概要について整理し,従来の地域防災計画と BCP の違いや企業 BCP と行政 BCP の違いについて整理し,企業向けに策定している事業継 続計画ステップアップ・ガイドを参考に,地方公共団体版の BCP ステップアップ・ガ イドを作成する.そして,内閣府(防災担当)が発表した 内閣府 BCP との相違点につ いて述べ,大阪府豊能郡豊能町に適用した BCP の例を述べる.さらに,大阪府下市町 村へのアンケート調査より府内の BCP 策定状況やステップアップ・ガイドの評価結果 とその考察について述べる. 第 3 章では,第 2 章で示した一自治体を対象とした従来の BCP では,東日本大震災 のような大規模広域災害には対応できないことから,東日本大震災時における地方公 共団体の被害及び対応状況をもとに問題点ならびに 課題を抽出する.具体的には,土 木学会誌を中心とした災害調査報告記事および被災地支援に従事した職員へのヒアリ ング,さらに被災地でのインタビュー等から,被災した市町村等の災害時対応につい て整理し,大規模広域災害における地域防災計画の見直しの視点と発災後の行政の初 動体制や情報収集・共有・発信の在り方,応急復旧対応における市町村 BCP のあるべ き方向性について述べる. 第 4 章では,第 3 章の課題分析結果をもとに,大規模広域災害を対象とした市町村 の BCP 策定の考え方について検討する.具体的には,行政 BCP 策定に際して検討すべ き事項を整理し,市町村 BCP と DCP 策定上の留意点について取りまとめる. 第 5 章では,第 4 章の考え方を踏まえ,職員参加型ワークショップによる市町村 BCP の策定手法を提案する.具体的には,中山間地域に位置する大阪府北摂地域の町役場 を事例に挙げ,職員参加型のワークショップによる BCP の策定から実現可能なアクシ ョンプランの策定に至るまでの過程を提案する. 第 6 章では,第 2 章から 5 章で得られた成果を踏まえ,中山間地域における広域対 応への実践的な展開について述べる.具体的には,大阪府豊能郡豊能町を中心とした 大阪府北摂地域の中山間地域の道路ネットワークに適用して,土砂災害等に伴う道路 閉塞等による市町村 BCP 策定の在り方と,被災後の対応を効果的に実施するための広 域的な DCP 策定の重要性を述べる. 第 7 章では,本研究で得られた成果をまとめ,残された課題と今後の研究を展望す る.

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第 1 章 序 論 15

参考文献

1) 丸谷浩明:事業継続計画の意義と経済効果~平常時に評価される実践マネジメント へ,ぎょうせい,2008.5. 2) 内閣府防災担当:中央省庁業務継続ガイドライン,第 1 版~首都直下地震への対応 を中心として~,2007.6. 3) 国土交通省:国土交通省業務継続計画,2007.6. 4) 徳島県:徳島県業務継続計画,Ver.1,2008.3. 5) 東京都:都政の BCP 東京都事業継続計画 地震編,2008.11. 6) 大阪府:大阪府庁業務継続計画 地震災害編,第 1 版,2009.6. 7) 総務省ホームページ:http://www.soumu.go.jp/. 8) 内閣府ホームページ: http://www.bousai.go.jp/jishin/gyoumukeikaku/link.html. 9) 国土交通省:平成 24 年(2012 年)度国土交通白書, http://www.mlit.go.jp/hakusyo/ mlit/h24/. 10) 内閣府経済社会総合研究所:統計から見た震災からの復興,2012.4. 11) 内閣府防災担当:南海トラフの巨大地震対策検討ワーキンググループ,報道発表資 料,2012.8.29. 12)総務省:平成 24 年版情報通信白書, http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/index.html. 13) 坂田朗夫,松本和也,川本篤志,伊藤則夫,白木渡,堂垣正博:地方公共団体にお け る 業 務 継 続 計 画 策 定 ガ イ ド の 提 案 , 安 全 問 題 研 究 論 文 集 , 土 木 学 会 , Vol.5, pp.19-24, 2010.11. 14) 経済産業省:ホームページ http://www.meti.go.jp/ 15)丸谷浩明,森伸一郎,新井伸夫,田和淳一,天國邦博:地方自治体の BCP の特徴と その策定推進に関する考察,地域安全学会梗概集 (21),pp. 95-100, 2007.11. 16)西村浩一,福島誠一郎,須走重康:事業継続計画のための社員参集時間マップの作 成,地域安全学会梗概集 (23), pp.37-38, 2008.11. 17) 川本篤志・坂田朗夫・白木渡・伊藤則夫・保田敬一・堂垣正博:ライブ管理による 道路ネットワークの危機管理に関する提案,第 25 回信頼性シンポジウム講演論文 集,pp.130-135,2010.12. 18) 副島紀代:地震被害予測に基づく事業継続影響度の評価手法,大林組技術研究所報, No.72,2008. 19) 磯打千雅子・真野昴平・白木渡・井面仁志:建設業の事業継続 (BCP)策定支援によ る地域継続力向上方策の提案,安全問題討論会 `11 資料集, 土木学会,pp.59-64, 2011.11.

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第 2 章 地方公共団体における業務継続計画の従来の考え方 16

第 2 章

地方公共団体における業務継続計画の

従来の考え方

2.1 地方公共団体の業務継続計画(BCP)

2.1.1 地方公共団体の BCP の定義と概要

大規模な災害などが発生した場合,行政機関には,応急対応業務や特に住民生活に 関わる通常業務など,特定した非常時優先業務の実施に全力投球することが求められ ている.行政機関は災害や事故などの発生直後において,一般企業に比べて,被害へ の応急対策が極めて重要である.したがって,行政機関が BCP を導入する場合,平時 の事業の継続が中心になるのではなく,災害や事故 の発生後に非常時の応急対応業務 が優先して実施することになる.しかし,行政機関が重要な業務継続に支障をきたす 被害を受けた場合,応急対応業務 を実施できるだけの人,物,金,情報などの組織資 源,道路,上下水道,電気,ガスなどの社会資産である ライフラインなどの確保が困 難になる.従って,災害発生直後に実施すべき事業の優先順位付けが必要になる.ま た,平時に行っている業務でも継続が必要な 業務もあるため,それらを明確にし,応 急対応業務と合わせて発災直後に実施する重要性を判断しておく必要がある. このように,BCP とは,人,物,金,情報,ライフラインなどの利用可能な資源に制 約がある状況下で,非常時の優先業務を特定し,その業務継続に必要な資源の確保と 配分,そのための手続きの簡素化,指揮命令系統の明確化などへ必要な措置を講じ る ことである.具体的には,第 1 章で示した図 1.4 に示すように,業務立ち上げ時間の 短縮や発災直後の業務レベルの向上などの効果を得て, 赤の破線の状況から赤の実線 で示す高いレベルで業務が継続できる状況に変えることを通じて,適切な業務の執行 を目的とした計画である 1) 地方公共団体の BCP が保有する特徴的事項は,次のとおりである. ①災害発生後に優先される非常時の業務,いわゆる応急対応の業務と重要な通常業

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第 2 章 地方公共団体における業務継続計画の従来の考え方 17 務が特定されている. ②緊急時における非常時の優先業務の目標レベルや復旧時間が定められている. ③緊急時に提供できる行政サービスのレベルが関係機関で 予め協議されている. ④災害拠点や避難所などの代替施設が確保されている. ⑤全職員が,BCP に関して,コミュニケーションを図る仕組みを保有している. ⑥PDCA サイクルを取り入れた,BCP を定期的に更新したり改善したりする仕組みが 確立されている. また,丸谷 1)は,行政機関が BCP を導入することの意義として次の点を挙げている. a.企業の BCP が“経営”の観点から立案されているのに対し,行政機関の BCP は“ガ バナンス”の観点から立案される. b.必要な要素や資源の確保に関して,実現可能な計画に改善していく効果がある. c.被害想定に即した対応策を事前に検討することで,多くの選択肢からなる計画の 立案に効果的である. そして,BCP は策定した時点ですべてが終了するわけではない.それを文化として定 着させる意味も含め,訓練などの実施によって,継続的な改善 等が可能な仕組みを持 っていることが肝要である.このような BCP を運用したり管理したりするマネジメン トシステムが BCM で総称されるシステムであり,これについては,2.1.4 で説明する.

2.1.2 地域防災計画と BCP の違い

市町村における地域防災計画とは,表2.1のとおり,災害対策基本法第42条の規定に 表 2.1 災害対策基本法 関係条文抜粋2)

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第 2 章 地方公共団体における業務継続計画の従来の考え方 18 基づき,市民の生命,財産を災害から守るための対策を実施することを目的とし,災 害に係わる事務又は業務に関し,関係機関及び他の地方公共団体の協力を得て,総合 的かつ計画的な対策を定めた計画である3) 一方,BCP は,非常時優先業務に位置付けるべき業務を特定し,さらに非常時優先業 務の業務継続が迅速に高い水準でなされるようにするための短期的取組み及び中期的 取組みを定めたものである.両者の相違点を表 2.2 に示す. 表 2.2 に示すように,地域防災計画は次の 3 つの役割を持っている. ① 人命の安全確保 ② 物的被害の軽減 ③ 拠点レベルでの対策と対応 ただし,地域防災計画には,業務を継続するという視点が欠落している. これに対し,BCP は上述の地域防災計画の3点に加えて以下の業務を含んでいる.す なわち,「応急対応の業務」,「住民の生活に関わる重要な通常業務」が別途計画される. 表 2.2 地域防災計画と業務継続計画(BCP)の相違点4)

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第 2 章 地方公共団体における業務継続計画の従来の考え方 19 このように,BCP は,図 2.1 のとおり災害時の業務だけでなく,通常業務の中でも住 民生活に関わる優先度が高い重要な業務や発災後に新規発生した優先度の高い業務も 含まれ,発災してから3日程度までの緊急危機管理的な取組みと 3 日程度から 1 ケ月 程度までの健康・生活危機管理的な取組みなどを定めたものである.この内容につい ては、第 4 章で述べることとする. 次に,BCP の策定には,様々な被害状況の想定が必要であり,その被災状況に対して どのような体制でだれがどのような役割を担い行動するかを検討して おく必要がある. このようなシナリオは地域防災計画では作成され ていない.これまで,地域防災計画 は,地震などの災害時においてどこの地区でどういった被害が発生するのかといった 細かな想定なしに計画されるものである.現に,2007 年の能登半島地震で被災した輪 島市や新潟県中越沖地震に襲われた柏崎市も,地域防災計画はあったものの,事前準 備について検討していなかったために,不意打ちの災害となった 2).また,2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災では,災害時対応拠点であるべき市町村庁舎の喪失, 本来避難場所であるべき学校での被災や病院の孤立など想定外の事態が数多く発生し た.このようなことから,最悪の被害想定を考慮した計画,すなわち,BCP を策定して おくことが重要である.

2.1.3 行政 BCP と企業 BCP の違い

我が国における BCP の取り組みは,2004 年 10 月 23 日に発生した新潟県中越地震を 機に民間企業から始められた.その後,行政機関はその動きに注目し,その重要性を 認識した.これまでのところ,BCP 策定済の行政機関は,企業に比べて,圧倒的に少な 図 2.1 BCP の範囲 4)

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第 2 章 地方公共団体における業務継続計画の従来の考え方 20 い.たとえば,2007 年 10 月時点で東京証券取引所の一部上場企業および非上場企 業の 売り上げ上位 3,000 社を対象に野村総合研究所が行った“BCP(事業継続計画)に関す るアンケート調査”によれば,6割以上の企業が“すでに BCP を策定済”,または, “策定中”としている.これに対し,行政機関での普及率は 1 章の 1.1 で示したとお り著しく低い状況である. 行政と企業との BCP の相違点を確認するため,「中央省庁業務継続ガイドライン第 1 版~首都直下型地震への対応を中心として~」5)と内閣府の「事業継続計画ガイドライ ン第一版〜わが国企業の減災と災害対応を中心として〜」6)の 2 冊のガイドラインを調 査した.両者を外見からみれば,「ステークホルダーや自らに関わる負担を最小にする」 という点では同じようであるが,内的には違いがある.表 2.3 に示したように,企業 は,企業活動の停止によるステークホルダーへの影響,または社会的ニーズや企業の 社会的責任(Corporate Social Responsibility)を念頭に策定されるケースが多い.

一方,行政 BCP は,行政が日頃地域に行う行政サービスの滞りを原因に起こるさま ざまなことが 5 つに分けて書かれる.重要なことは,国民の身体,生命または財産へ

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第 2 章 地方公共団体における業務継続計画の従来の考え方 21 の被害の拡大を,民間企業の事業継続などの支障を招かないためにも必要としている. BCP における適用の範囲の違いはもちろんのこと,民間企業の BCP は行政の BCP が知ら ず知らずに包括されることになる.これは,民間企業は市町村など行政機関の復旧や 復興の具合に左右されるからである.それに企業は経営していくために利益を目的と しなければならない.一方,行政は利益を目的とせず,地域を機能させることを目的 としている.

2.1.4 業務継続計画の PDCA

2.1.1 で述べたが,BCP が策定できると,それで終わりではない.それでは環境の変 化による災害の変化への対応は極めて難しい.また,職員の人事異動や各部署の事務 の変更などにも対応しなくてならない.そのため,改善や更新を常に念頭に置かなく てはならない.そこで,新たに必要となる理念が BCM である.これは,策定した BCP に基づいて非常時の優先業務を効果的に遂行するために,業務継続計画を管理・運用 していく必要があるという考え方である.ここに,BCM は,市町村等で計画された重要 業務について,職員の教育・訓練により点検や是正措置を行い,計画の見直しを行 う という考え方である.特に,管理に大きく関わる人・物・金・情報は 変化するものな ので,常に変化の状況を把握しておく必要がある.これらを踏まえた BCM のイメージ を図 2.2 に示す.また,BCM に包含される PDCA サイクルは,図 2.3 のように,螺旋上 に向上を目指すサイクルのことを指す.PDCA とは,Plan(計画)→Do(実行)→Check (点検・検証)→Action(計画の見直し)の各々頭文字をとっての名称である.この 螺旋的向上の中で BCP の持続的完全を行うことが重要である.防災教育サイクルを進 めて PDCA 図 2.2 BCM イメージ図 6)

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第 2 章 地方公共団体における業務継続計画の従来の考え方 22 PLAN … -PLAN DO ACTION CHECK DO ACTION … … … -CHECK

Quality

Time 図 2.3 PDCA サイクルのイメージ図 サイクルへ入るが,螺旋的に向上されることが目的で,その都度,防災教育サイクル の内容も改良されていく必要がある.そうでなければ,螺旋的向上を目的としている PDCA サイクルの意味が薄れてしまう.このためにも,各段階で BCP の性能を維持すべ き,確認事項をチェックリストなどの形で盛り込んでおく必要がある.さらに,その チェックリストについて改善余地があれば,随時更新していくようにすることが望ま しいと考える.以下では,BCP における PDCA の説明を述べる. (1) PLAN(計画の策定) 中央省庁業務継続ガイドラインの策定フローをベースに適宜対応させて BCP を策定 の作業を進める.上記で述べたように,BCP は策定して終わりではない.すなわち,第 1版で完成ではなく,常に時勢や環境に応じて改訂されねばならない.BCP の策定には, 組織内の各部署で相互に連携しながら円滑に検討する必要がある.それゆえ,業務継 続計画の強化に向けた行動計画への取り組みは,組織全体で意思統一を図った上で策 定に着手することが望ましい. (2) DO(教育・訓練の実施) 各職員の災害時における即応力や計画の実効性の向上を図る上で,教育や訓練の実 施が不可欠である.異動による新任者などへの教育は対象職員が BCP 発動時にどのよ うな行動をとるべきか,予めどのようなことを知り,備えるべきかを明確にし,直ぐ 見直し

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第 2 章 地方公共団体における業務継続計画の従来の考え方 23 に実際の災害が起きた場合にも所要の行動がとれるようにする. このような目的を持った訓練を行う場合には,各個人の動きが予想通りのものとな っているか記録等をとり,これらの記録等に 基づいて訓練後に分析を行い,計画上の 手順や計画の内容に問題点があれば,計画の見直し を適宜図ることが有効である.た だし,すべての訓練において,このような対応を行うことは経費的にも労力的にも負 担となる恐れがある.したがって,より簡易な方法での訓練も適宜組み合わせて実施 すべきである 7) (3) CHECK(点検・検証) 最初から完全な BCP ができあがるわけではない.訓練や計画のテスト・実行等を通 じて問題点を洗い出し,課題の検討を行い, 改善すべきところを改善し,計画を更新 するという継続的な改善によって業務継続力を向上させていくことが 重要である.な お,点検・改善の作業は,常に気づいた事項があればそれを記録し,毎年の BCP の改 定の機会にそれを反映させるなど ,定型化された作業負担が少ない方法で行うことが 望ましい 7) 職員一人ひとりが適宜点検・改善を進める意識をもち,人事異動や業務プロセス変 更のたびに,業務継続上の問題がないかを考え,必要な対処を講じていく(新たな連 絡先への登録,その業務担当者の代替担当者の確保・育成,他の資源への依存関係の 変化の確認等)ことが,各部署で自発的に行われるような心構えが浸透することも重 要で,そのための教育・訓練が実施されることが望ましい. (4) ACTION(計画の見直し) 上述の PLAN・DO・CHECK の各項目で浮上したさまざまな問題点,改善点を一度この 段階で整理し,BCP への反映を図る.ここでもう一度,計画に漏れがないかを 上層部の 職員(業務継続計画において熟知された者) などによって確認し,計画の見直しを行 う.

2.2 地方公共団体版 BCP の策定

2.2.1 内閣府防災担当の行政版 BCP

内閣府(防災担当)では,内閣府 BCP4)を作り,2010 年 4 月 23 日付で全国の都道府 県知事に,本手引きと解説をもとに地震発災時における業務継続体制の検討を求める 通知文を送った.上述の手引きは,表 2.4 のように構成されている.なお,本通知は, 都道府県だけでなく,都道府県内の市町村に対しても速やかに周知することを呼びか けているが,市町村 BCP の進捗は依然進んでいないのが現状である.

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第 2 章 地方公共団体における業務継続計画の従来の考え方 24 表 2.4 地方公共団体の業務継続の手引きの構成4) 様式 名 称 様式 1 業務継続体制を検討する対象と非常時の業務継 続体制 様式 2 被害状況の想定 様式 3 非常時優先業務に係る情報 様式 4 職員の参集想定フォーム 様式 5 必要資源に係る確保状況 様式 6 対策実施計画 様式 7 指揮命令系統の確立 様式 8 緊急連絡先リスト

2.2.2 地方公共団体版の BCP ステップアップ・ガイド

2.1.3 と 2.1.4 を踏まえて,地方公共団体版の BCP を策定するにあたり,必要となる 3 部で構成した地方公共団体版ステップアップ・ガイド(以下,市町村 BCP ガイドと称 する)8)を作成した.作成にあたっては,特定非営利活動団体事業継続推進機構 9)が企 業向けに作成した業務継続計画ステップアップ・ガイドを 参考にした.企業であれば, 上記機構のステップアップ・ガイドを用いることにより,第 2 部完了で簡略的な BCP が策定できるとされ,その時点で十分な内容を網羅し,最後の第 3 部における訓練等 の結果を受けて BCP を修正し,改善していく構成となっている. 企業版のステップア ップ・ガイドの中で,地方公共団体に関係のない以下の項目は,削除した. ① 業務に必要な部品,材料,サービス等の代替調達 ② 地域との協調・地域貢献 ③ 在庫のあり方の見直し さらに,各ステップにおける説明文章は,多くの市町村に対し一般的な内容にし, また,市町村に必要な視点(業務中断による地域や住民への影響を考慮する視点等) を加筆修正した. そこで,市町村 BCP ガイドは,表 2.5 のとおり企業版と同様 3 部から構成すること とする.すなわち, 第 1 部 BCP の基礎になる防災対策の実施と確認 最初の Step1 では,“BCP とは何か”で始まり,Step11 の“簡易手法による目標 復旧時間の決定”で構成される.

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第 2 章 地方公共団体における業務継続計画の従来の考え方 25 2) 第 2 部 重要業務を認識し,簡略 BCP の策定 行政でも BCP の必要性が認知され,認識も高まっている.そこで,本ガイドでは, 簡略 BCP の策定を目指す. 3) 第 3 部 本格的な BCP に向けて 第 2 部で重要業務を認識し,簡易な業務継続計画を作成して,その運用を行なっ ている.そこで,PDCA を行うことで本格的な BCP の策定に向けて,作業を実行す る. なお,表 2.5 の右の様式欄は,2.2.1 で説明した内閣府 BCP の内容を示す. 表 2.4 地方公共団体の業務継続の手引きの構成 4) 様式 名 称 様式 1 業務継続体制を検討する対象と非常時の業務継続 体制 様式 2 被害状況の想定 様式 3 非常時優先業務に係る情報 様式 4 職員の参集想定フォーム 様式 5 必要資源に係る確保状況 様式 6 対策実施計画 様式 7 指揮命令系統の確立 様式 8 緊急連絡先リスト 表 2.5 市町村 BCP ガイドの構成10) 第 1 部 BCP における基礎的防災対策 (様式) Step 1 業務継続計画(BCP)とは何か 2 貴自治体が直面する災害、リスクは何か (様式 1) 3 緊急時の地域防災拠点の確保と情報発信 4 緊急時の対応体制と指揮命令系統 (様式 4) 5 緊急時の安否確認と庁内緊急連絡網 (様式 8) 6 避難,二次災害防止,備蓄などの既存の対策改善 (様式 6) 7 重要な情報のバックアップ 8 緊急対応手順の整理 9 建物・設備の災害危険度の概略把握と多大な投資 を要さない対策 10 自治体の重要業務の選定 (様式 3) 11 簡易手法による目標復旧時間の決定 (様式 3) 第 2 部 簡略 BCP の策定 Step 12 基本方針と策定体制 13 リスク評価と被害想定 (様式 2) 14 重要通常業務の継続の制約となる要素・資源の把握 15 重要通常業務を継続する方法(戦略)の検討 16 キーパーソンの代理が確保できる体制 (様式 7) 17 情報・通信システムの途絶リスクの把握と対策 (様式 5) 18 拠点,設備その他資源の代替性の確保の検討 19 BCP の発動と業務継続対応手順の整理

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第 2 章 地方公共団体における業務継続計画の従来の考え方 26

2.3 BCP の適用事例

筆者が勤務している大阪府豊能町役場は,大阪府の北摂地域に 位置する中山間地の 地方公共団体である.ここでは,BCP の適用事例として豊能町役場が位置する大阪府豊 能町を取り上げる.

2.3.1 大阪府豊能郡豊能町の概要・特徴

大阪府豊能郡豊能町は,大阪府の北摂地域(図 2.4 参照)に位置する市町村の一つで, 京都府と兵庫県に隣接する地域にある.東地区は,2013 年 3 月末現在,人口約5千人 で南東部一帯の標高は約 350m~600mで,気温は大阪市街地の中心部より 3℃程度低 い.さらに,中山間地であるため,急傾斜地危険箇所が多く,近年の 集中豪雨などの 影響で過去に数回,土砂災害などにより緊急交通路 である国道が全面通行止めになる 事態が発生している.一方,西地区は,2013 年 3 月末現在,人口約1万7千人で標高 約 150~250m の新興住宅地である.また,山地で隔てられた東地区と西地区とを直接 結ぶ道路はない.そのため,両地域間の移動は他の 市町や府県を経由しなければなら ない. また,豊能町では,2009 年 10 月に図 2.5 に示す豊能町危機管理指針12)を作成している. 同指針では,すべての危機事象が想定され, 災害対策基本法を根拠法令とした「豊能町地 域防災計画」や国民保護法を根拠法定とした 「豊能町国民保護計画」などを含んでいる. ここで BCP は,地域防災計画や国民保護計画 などの各計画の実効性を検証してそれぞれの 危機事象に応じて対応した計画として位置づ けられる. 第 3 部 本格的な BCP 策定に向けて Step 20 分析を踏まえた目標復旧時間の運用判断 21 災害・事故後の財務的な安定性の検討・改善 22 投資を含む本格的な対策戦略と立案と実施 23 応援協定,共助・相互扶助 (様式 8) 24 BCP の運用と周知・定着 25 BCP の訓練と見直し 図 2.4 大阪全図11)

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第 2 章 地方公共団体における業務継続計画の従来の考え方 27

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2.3.2 大阪府豊能郡豊能町に応用した BCP のプロトタイプ

2.3.1 では,豊能町がどのような特性を持つ地域かを述べ,BCP を策定する上でさま ざまな問題点があることを示した.まず,町域が山地によって東地区と西地区に分断 されている点である.また,災害の履歴を確認すれば,風水害が非常に目立つ ことで ある.このことから都市部にはない山間部特有の土砂の崩壊や河川の氾濫などを被災 想定に考慮する必要がある.さらに,有馬高槻断層帯が近くを通っていることから, 直下型地震の被災を想定する必要がある. 以上のことから,豊能町の東地区と西地区では,被災時の物資の輸送や救急車輌の 通行に必要な道路の確保が最重要課題である.豊能町の本庁舎は東地区の中心部に位 置しており,大阪府自然災害総合防災対策検討(地震被害想定)報告書 13)によれば, 有馬高槻断層帯が地震を引き起こした場合, 図 2.6 の丸で示される豊能町域は,最大 震度が 6 強になると予想されており,住宅の倒壊,道路の断絶,斜面の崩壊など町の 全域で被災する可能性が高いと考えられる.被害想定の結果13)-15)を表 2.6 にまとめた. BCP を発動する際の災害対応拠点となる本庁舎が,地震によって機能喪失に至る事態 は避けなければならない.例え機能喪失しても被害軽減を図り,早期復旧できるため に,本庁舎の耐震性の確保は不可欠である. 図 2.6 震度分布及び液状化危険度(有馬高槻断層帯地震)13)

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第 2 章 地方公共団体における業務継続計画の従来の考え方 29 さらに,豊能町では, 1981 年(昭和 56 年)5 月以前に建てられた建物が多く存在 するため,震度 6 強の地震によって大きな被害が出ることが危惧される .しかし,そ れらすべての建物に補修や補強を直ちに行うことは極めて難しい.そこで, 基本的に は避難所や一時避難所に指定されている建築物,すなわち,災害時に重要な役割が期 待されている建物から優先的に補修や補強を進めることとなる. また,災害時の拠点 となる本町東地区の庁舎の一部や西地区の支所も 1981 年以前の旧耐震基準で建設され ており,災害時に倒壊して使用できない場合を想定して 職員が集合するための代替え 拠点の場所など,事前に決めておく必要がある. このように,災害時に想定される様々な事態を整理するのが BCP 策定の初期段階に おいて必要になる.ここでは, 2.2 に示した市町村 BCP ガイドをもとに,ケーススタ ディとして豊能町の BCP 策定を行う. まず表 2.7 に示すように,初動対応と最優先業務の抽出基準を整備し,初動業務を フェーズ1,最優先業務を発災後の経過時間によりフェーズ2 ‐①およびフェーズ2 ‐②として,限られた人的・物的資源を集中して投入する. 表 2.6 豊能町の災害概要(有馬高槻断層帯地震)13)-15)

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第 2 章 地方公共団体における業務継続計画の従来の考え方 30 発災直後において実施すべき優先業務は初動対応(フェーズ1) として示されるが, その中でも最も重要な業務は職員の安否確認と生命の確保である.国土交通省の BCP16) では,災害発生から半日後の参集人数は3割強とされているが,豊能町のような中山 間地では,土砂災害危険区域や地すべり危険箇所などが多数存在するため,1日経過 後の参集人数は 3 割に達しないと思われる.ちなみに,大阪府庁業務継続計画 17)の参 集率を参考にして豊能町の参集可能人員の算出をすると, 図 2.7 のとおり1日目で約 70 人となり全職員の 30%を下回っている.豊能町地域防災計画 14)では,発災後,1日 表 2.7 初動業務と最優先業務の一覧

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第 2 章 地方公共団体における業務継続計画の従来の考え方 31 目(B号配備)で約 100 人必要と記載されており,約 30 人が不足することになる. したがって,平常時,災害時それぞれにおいて,職員確保の ための対処策を事前に 講じておく必要がある.BCP が発動されるような非常時には,全職員が業務継続の重要 性や業務継続における各自の役割などを十分に理解しておくように,BCP を日頃から組 織全体に浸透させておく必要がある.これには, ①説明会などによる職員への周知, ②部課長会議などを通した部署間の情報共有化,③初動時の行動などが記載された職 員用携行カード,④業務継続に係る理解や浸透を図るための研修や訓練などが欠かせ ない. しかし,豊能町 BCP の策定にあたっては,内閣府 BCP と同様に庁舎は存続し,水道・ 電力・通信等のライフラインについても数時間程度で復旧可能であると設定している ため,東日本大震災のような 庁舎が津波で流出するような広域的な大規模災害は想定 してない.また,一般的な業務内容と業務開始目標時間については, 表 2.8 のとおり 内閣府の手引きの中にも記載されているが,これらの内容については,本研究で検討 した市町村 BCP ガイドでも,全て網羅している. 図 2.7 業務資源の確保にかかる想定(豊能町職員参集)

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第 2 章 地方公共団体における業務継続計画の従来の考え方 32

2.4 大阪府下市町村へのアンケート調査

2.4.1 アンケート調査の概要

地方公共団体を対象として,①BCP がどの程度浸透しているか,②BCP の策定の状況 はどうか,③現段階で BCP にどのような課題があるか,などの 13 の質問項目を設けて アンケート調査 8)を実施した.アンケートの対象,方法,期間,質問数は以下の通り である. 対 象:大阪府下 43 市町村の防災関連部局 方 法:郵送調査法(市町村 BCP ガイド,チェックリスト,調査票を同封) 期 間:2009/12/21~2010/01/15 質問数:13 問,BCP に関する質問は7問(表 2.9 参照) アンケートの結果を表 2.9 に示す.これによれば,BCP の認識度として,“知ってい る”と応えた市町村は 81%(22 市町村)であった.さらに,71%(19 市町村)が“重 要かつ必要だと考えている”と回答している.これらの結果から,BCP の重要性は認知 表 2.8 業務開始目標時間別の業務選定基準表 4)

図 1.3  業務継続計画(BCP)策定状況 12)図 1.2  新たな想定震源域11)
表 2.3  行政 BCP と企業 BCP の相違点 5) 6)
図 2.5  豊能町危機管理指針フロー図 12)
図 3.2  南海トラフ沿いのプレート境界地震 17)
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参照

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