本章では道路ネットワークが有するリスクのうち,自然斜面・切土斜面に着目し,
斜面の崩壊により道路交通が阻害されるリスクを確率的に評価する方法を提案した.
そして,その提案手法を大阪府北摂地域の中山間地に位置する大阪府豊能郡豊能町内 の道路ネットワークに適用して,斜面崩壊に伴う道路閉鎖等による危機的状況の把握 並びに復旧上の課題を指摘し,被災後の対応を効果的に実施するための BCP 策定の重 要性を示した.
近年,過去に例のない想定を超える災害が多数発生しており,中山間地域では山体 崩壊のような想定以上の災害についても視野にいれていく必要がある.想定外災害に 適切に対応するためには,リスクを限定的なものとせず可能な限り大規模かつ広域に わたる被害に対して対応する必要がある.
今後は,そのような想定外の事態に対しても解析し,得られた結果を BCP に基づく 改修計画の立案,復旧体制の整備,諸資材の備蓄計画などに反映し,地方行政版の実 践的 BCP の策定に繋げたいと考えている.
また,BCP の視点から DCP を評価すると,DCP の対策が実現すれば BCP の推進にも有 利として積極的な評価ができる面も多い一方で,DCP の持つ限界の側面も認識していか なければならない.このため,ある程度は,行政や企業の自己責任として個々の BCP・
BCM を推進していかなければならないと考える. しかし,「BCP は DCP にすべて包含さ れるべき」とか,「DCP を BCP よりも先に行わないと意味がない」といった考え方を強 いることは,策定作業が重たいものとなってしまう可能性がある.しかし, 可能な限 り DCP と BCP の双方を進めるべきであると考える.
第 6 章 大阪府北摂地域における広域対応への展開 125
参考文献
1) 坂田朗夫,伊藤則夫,川本篤志,白木渡:道路ネットワーク上の内在リスク分析 を踏まえた行政 BCP 策定に関する研究,土木学会論文集 F6(安全問題),土木学会,
Vol.67,No.2,Ⅰ_71-Ⅰ_76,2011.
2) 建 設 省 河 川 局 砂 防 部 傾 斜 地 保 全 課 , 建 設 省 土 木 研 究 所 砂 防 部 急 傾 斜 地 崩 壊 研 究 室:がけ崩れ災害実態について (昭和 50 年~52 年)(資料集),1978.3.
3) 建設省河川局砂防部傾斜地保全課,建設省土木研究所急傾斜地崩壊研究室:がけ 崩れ災害実態について(昭和 53 年~57 年),1983.8.
4) 伊藤則夫・白木 渡・今井慈朗・井面仁志・石川浩:自己組織化特徴マップを用い た斜面崩壊予測システムの高精度化に関する研究 ,第 15 回ファジイシステムシン ポジウム講演論文集,1999.6.
5) T.コホーネン著,徳高平蔵ら監修:自己組織化マップ 改訂版,シュプリンガ-・ジ ャパン,2005.6.
6) 社会情報サービス統計調査研究室:
http://software.ssri.co.jp/stat-web2/sample/example_17.html.
7) 大阪府池田土木事務所:土砂災害危険箇所図,池田土木事務所管内 (その 3) 8) 株式会社三菱総合研究所:2013 年度地域経済産業活性化対策調査,2012.3.
9) 白木渡:「地域防災の新展開-地域継続計画( DCP)の考え方-」,かがわ自主ぼう 連絡協議会会報”防災の輪”,第 30 号,2009.9.
10) 丸谷浩明:事業継続計画(BCP)と防災計画・DCP との関係の考察,国土交通政策 研究所報 49 号 2013 年夏季,2013.
11) 内閣府防災担当:事業継続ガイドライン あらゆる危機的事象を乗り越えるための 戦略と対応,2013.8.
第 7 章 結 論 126
第 7 章
結論
7.1 まとめ
本研究では,東日本大震災で被災した地方公共団体の災害対応について調査し,市 町村の体制,情報収集及び発信の在り方,並びに応急復旧対応について,BCP 策定にあ たっての課題を抽出し,比較的小規模の町村においても策定可能な実効性のある BCP 策定に向けて検討した.また,一自治体の BCP 策定にとどまらず,複数の自治体が広 域的に連携して策定する DCP についても検討した.そして,災害発生時のリスクの軽 減と多面的な対応・処理によって行政サービスを確保し,効率的で機能的な BCP の実 用的展開論,すなわち,行政の災害時に備えた管理手法である BCM についても検討し た.
本研究の成果を各章ごとにまとめると以下の とおりである.
まず,第 2 章では,行政機関の BCP 策定までのノウハウを整理した BCP ステップア ップ・ガイドを作成し,人材の不足が著しい地方の市町村での活用を目指した.しか し,ここで作成した BCP ステップアップ・ガイドは,あくまで特定の事象に対応した ものであり,行政の使命である①人命の安全の確保,②物的被害の軽減,③拠点レベ ルでの対策と対応および④地域住民へのサービス提供をフォローしたものと なってい ない.
そこで,地域を守るため,各市町村の BCP を近隣市町村や企業の BCP などと連携さ せ,地域の BCP,すなわち,DCP を構築し実践することが必要となる.そのためには,
まず市町村ごとの BCP の普及が不可欠である.各市町村で BCP の普及が進めば,それ を相互に関連することで点から線になり,さらに企業などと連携することで面となる.
そうすることで地域社会に求められた諸機能の継続が可能となり,それが DCP となる.
しかし,多くの業種が関連してくると整合性などの問題が多く浮上するのは必至であ り,まだまだ検討の余地が残されている.
第 7 章 結 論 127 第 3 章では,東日本大震災の教訓を受け,直接住民対応を実施しなければならない 市町村の事業継続の視点で検討した.まず,土木学会誌を中心とした災害調査報告記 事および被災地支援に従事した大阪府豊能町役場の職員へのヒアリング,さらに香川 大学で実施された被災地でのインタビュー等から,被災した市町村の災害時対応につ いて整理し,大規模広域災害における地域防災計画の見直しの視点と発災後の行政の 初動体制や情報収集・共有・発信の在り方,応急復旧対応における市町村 BCP のある べき方向性について示した.また,大規模 災害における道路の役割,災害時における 情報の課題や避難に関する課題などを取り上げた. さらに,内閣府中央防災会議によ り 2012 年 8 月及び 2013 年 3 月に発表された南海トラフ巨大地震の被害想定を踏まえ , 行政の対応と課題についてとりまとめた.
第 4 章では,行政が検討すべき発災直後から3日間までの 「緊急危機管理」対応と 3日程度から1ケ月程度までの被災住民の生活環境の復旧のための 「健康・生活危機 管理」対応に着目し,BCP 策定においてこの時期に実施すべき事項について検討した.
具体的には,「緊急危機管理」対応では,従来の防災訓練から初動対応の課題を,「健 康・生活危機管理」対応では,応急復旧対応の課題を抽出しその留意点をまとめた.
さらに,広域連携対応型への転換についても検討した.災害時に地域住民の生命や財 産を守ることが使命である市町村の BCP の策定において,市町村自らが被災して機能 不全に陥った時にも重要業務を短期間で再稼働するための手段を検討しておくこと の 重要性について,具体例用いて示した.
第 5 章では,東日本大震災で被災した地方公共団体の災害対応について調査結果や 職員アンケート調査結果などをもとに,中山間地域に位置する大阪 府北摂地域の町役 場を事例に挙げ,実現可能なアクションプランとしての BCP 策定までの一手法を提案 した.提案に際しては,発災直後の「緊急危機管理」対応及びその後の被災住民の生 活環境の復旧のための「健康・生活危機管理」対応の視点に基づいて行った.
豊能町 BCP は,2013 年度末を目処に完成予定で,今後は,これまでのワークショッ プ形式で進めてきた戦略を活用して,業務を行うために必要となる代替の災害拠点場 所の検討や受援体制及び広域連携などのワーク 7 について,順次まとめていく予定で ある.市町村は災害時に地域住民の生命や 財産を守ることが使命で あり,その使命を 達成するためには市町村の機能が停止する事態を想定して ,重要業務を短期間で再稼 働するための手段を検討しておくことが重要である ことを示した.また,リスクを過 小評価することなく可能な限り大規模かつ広域にわたる被害を考慮し,起こりうる最 悪の事態を想定して BCP を検討すべきであることも示した.
さらに,これらの計画を管理・運用するための BCM が必要であり,地域継続につい ては,DCM が必要となるなど,多くの課題が山積している.これらの課題に対しては,
今後,さらなる研究が必要である.
第 7 章 結 論 128 第 6 章では,道路ネットワークが有するリスクのうち,自然斜面・切土斜面に着目 し,斜面の崩壊により道路交通が阻害されるリスクを確率的に評価する方法を提案し た.そして,その提案手法を大阪府北摂地域の中山間地に位置する大阪府豊能郡豊能 町内の道路ネットワークに適用して,斜面崩壊に伴う道路閉鎖等による危機的状況の 把握並びに復旧上の課題を指摘し,被災後の対応を効果的に実施するための BCP 策定 の重要性を示した.近年過去に例のない想定を越える災害が多数発生しており,例え ば中山間地域では山体崩壊のような想定以上の災害につい ても視野にいれていく必要 があることを示した.想定外災害に適切に対応するためには,リスクを限定的なもの とせず可能な限り大規模かつ広域にわたる被害に対して対応する必要がある.
また,BCP の視点から DCP を評価すると,DCP の対策が実現すれば BCP の推進にも有 利として積極的な評価ができる面も多い一方で,DCP に加わる行政や企業の数が多けれ ば多いほど,調整が困難であるといった DCP の持つ限界の側面も認識していかなけれ ばならない.このため,ある程度は行政や企業の自己責任として個々の BCP・BCM を推 進していかなければならないと考える.
7.2 今後の展望
今後は,東日本大震災を踏まえ,BCP の策定方法を見直す必要性がでている.従来の BCP は,直下型地震や海溝型地震,新型インフルエンザなどのように単一の危機事象を 想定して策定されてきた.しかし,東日本大震災のような大規模広域災害である場合,
次々に発生する想定外の事態に対し,どの BCP を発動すれば有効かの判断が今案にな る.また,将来において経験していない新しいリスクが生まれる可能性も十分に 想定 される.新しいリスクが発生するたびに新しい BCP を用意することは現実的ではない.
このため,危機事象を問わず組織自体が機能しない最悪の事態を想定して,防災・減 災対策を検討しておく必要がある.
こうしたことから,わが国においては,危機時の耐性にすぐれ,危機から急回復で きるような柔軟な経済社会・産業構造を構築して,将来に起こりうる危機への耐性を 高めておく必要がある.この危機時の耐性と急回復する力のことを「レジリエンス」
という.レジリエンスとは,柳の木のような「しなやかさ」を意味するものであり,
社会を一個の有機体=生物と見なした上で,どのような危機が訪れようとも致命傷を 避け(致命傷回避),可能な限り被害を最小化し(減災=被害最小化),被った被害の 可能な限り早期に回復できる(回復迅速性)ことである1).
今後は,原因事象である個々の災害に注目してBCPをつくるのではなく,業務継続に 必要な人、物、金、情報等などの資源に関して結果として起こることに目を向けた防