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千葉県言語聴覚士会

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Academic year: 2021

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(1)

一般社団法人

千葉県言語聴覚士会

研修会報告集

平成24年度

一般社団法人千葉県言語聴覚士会

学術局

(2)

目 次

1.第1回研修会 平成24年5月20日(日) テーマ:発達性dyslexia における成人対象の検査を用いた評価から訓練 ・・・・・・・・・・1 講師:NPO 法人 LD・Dyslexia センター理事長、筑波大学教授 言語聴覚士 宇野彰 先生 2.第2回研修会 平成24年9月9日(日) テーマ:高次脳機能障害者の就労支援・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 講師:障害者職業総合センター 特別研究員 田谷 勝夫 先生 テーマ:栄養と摂食嚥下リハビリテーション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 講師:東京女子医科大学八千代医療センター 言語聴覚士 相楽 涼子 先生 3.第3回研修会 平成25年1月20日(日) テーマ:症例検討会 (1) 症例発表 ①中等度失語症と高次脳機能障害を呈した症例―生活保護を利用した独居生活を目指して―・・4 発表者:佐倉厚生園 言語聴覚士 佐藤 光 先生 ②高次脳機能障害へ環境が与える影響~神経ベーチェット病1症例を通して~ ・・・・・・・・・・5 発表者:亀田クリニック 言語聴覚士 赤坂 麻衣子 先生 (2)助言・講演 テーマ:重度の失語がある人とのコミュニケーション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 講師:我孫子市障害者福祉センター 主査長 言語聴覚士 竹中 啓介 先生

(3)

第1回研修会・講演

発達性

dyslexia における成人対象の検査を用いた評価から訓練

NPO 法人 LD・Dyslexia センター 理事長

筑波大学 人間系(障害科学域)教授

言語聴覚士 宇野 彰

学習障害の定義は、教育界の定義に医学界の定義が包含される関係にあるが、発達性dyslexia は、医学 界、教育界双方においても学習障害の中の中核と考えられている。発達性dyslexia の症状の中で、特に読 み障害の出現頻度に関して、ひらがなで0.2%、カタカナで 1.4%、漢字では 6.9%、書字障害も含めると全 体では約8%であると報告されている(Uno et al. 2009)。このように、発達障害の中でもっとも頻度の高 い障害群であるにもかかわらず、診断評価や訓練が可能な専門家が少ないと言う点において、対応が必要と される重要性の高い障害群であると思われる。 発達性dyslexia における大脳の機能低下部位に関して、まださまざまな議論はあるが、読み障害に関し ては左の縁上回や角回を含む側頭-頭頂結合部や左の紡錘状回を含む側頭-後頭結合部が重要な部位と考え られている。すなわち、後天性大脳損傷のある成人での失読を生じる部位と類似している。また、発達性 dyslexia では、「読み」が障害されれば「書き」も障害されるため、発達性読み書き障害と呼ばれることが 少なくないが、成人例での失読失書に類似した症状を呈するし、発達性書字障害は、成人での純粋失書に相 当する。このように、発達性dyslexia は、発達障害でありながら大脳機能や症状に関しては成人における 後天性大脳損傷後の失読や失書と類縁の障害であると思われる。したがって、成人例での検査法や訓練方法 の考え方の適用が可能な障害である。 検査に関して、発達性dyslexia の診断評価するためには、知能検査を含む認知検査と読み書きに関する 学習到達度検査が必要である。その中で、認知検査に関して成人を対象とする神経心理医学的検査や認知神 経心理学的検査のうち、知能検査としてレーブン色彩マトリシス検査(RCPM)、Matching Familiar Figure Test (MFFT)、視覚認知検査として Rey-Osterrieth Complex Figure Test(ROCFT)、音韻認識検査と して実在語と非実在語の復唱検査、モーラ抽出課題(3、4モーラ語でのモーラの抽出)、単語や非語の逆 唱( 3モーラ語、4モーラ語)、音声言語記憶検査としてAuditory-Verbal Learning Test(AVLT)などは、 実際に使用可能である。なお、MFFT に関しては、現在私たちが日本の文化に合わせた線画同定課題を標 準化中であり、2013 年中に出版する予定である。他には、言語発達に問題がないことを確認するために SLTA を用いることもある。また、成人用でも小児用でもあり、対象年齢の広い標準抽象語理解力検査 (SCTAW)も用いられる。読み書きに関する学習到達度検査としては、小児用に開発された小学生の読み書 きスクリーニング検査(STRAW)や KABC を用いる。成人対象の検査を用いる場合、小児の標準値が必 要であり、学年、年齢ごとに多量の健常データが必要となる。各課題での小児用の標準得点の公表が望まれ る。これらの認知検査や学習到達度検査を組み合わせて、診断評価だけでなく障害構造を推定することがき る。 近年の精力的な研究結果により、日本語話者の発達性dyslexia の音読や書字障害の背景となる認知障害 が判明してきている。ひらがなやカタカナ音読では、自動化能力(Automatization)という文字から言語音 に変換する効率や音韻認識能力、そして視覚記憶能力である。漢字音読に関しては、語彙力と音韻認識能力 である。漢字書字では視知覚、および視覚記憶能力であった。このように、文字表記の種類やモダリティの 違いのよっても関わる認知能力そのものや、認知能力貢献度が異なるのである。これらが、書いて覚えるこ とが困難な児童の背景となる認知能力障害なのである。苦手な認知能力をあまり使わないような訓練方法が 望まれるのではないか、と思われる。 このように、成人領域の症状の見方や訓練法にも共通性のある分野である。失語症に対応している先生が たには、是非発達性dyslexia の臨床も専門領域に加えていただきたいと思う。 ―1―

(4)

第2回研修会・講演

高次脳機能障害者の就労支援

障害者職業総合センター

特別研究員 田谷

勝夫

H22年度地域障害者職業センターを利用した高次脳機能障害者は全利用者の2.6%であり、利用者の就 職率は56.6%であった。高次脳機能障害について「人間行動の神経心理学的モデル(上田)」、「フレキシ ヒの脳地図」など様々な神経心理学的概念・モデルを紹介した。また行政上の高次脳機能障害の定義、日常 生活上の困難さに注目した名古屋市総合リハセンターの分類等も紹介した。ラスク研究所の「神経心理ピラ ミッド」では高次脳機能の階層性の最上階に自己への気づきがあり、高次脳機能障害者の障害受容の困難さ を示した。高次脳機能障害の評価は、その症状の見えにくさ、不安定性などのため検査結果などの定量的評 価に合わせて、日常生活・社会生活上の具体的なエピソードを的確に記述できることが重要である。高次脳 機能障害の支援では、医療リハビリは直接的アプローチ、代償的アプローチが中心になるが、職業リハビリ は補償的アプローチ、環境調整的アプローチが中心となる。地域障害者職業センターの職場復帰支援プログ ラムの基本的な考え方は、残存能力の活用、障害者と事業主の両者への支援、きめ細かい支援、事業主を中 心とした支援ネットワークの形成としている。就労支援においては、障害者の支援だけでは不十分であり、 雇い入れる企業側への両方の支援が必要である。制度に関する話題として、日本脳外傷友の会等の働きによ り高次脳機能障害者が精神保健福祉手帳を取得することが可能になり、「障害者雇用納付金制度」における 障害者雇用数にカウントされるようになった。復職と新規就労では、復職はこれまで培った人間関係が前提 にあるため比較的周囲の理解が得られやすいが、一方で新規就労は一から理解してもらう必要があるためそ の困難さは増す。以前の職業リハは施設内訓練が中心だったが、現在はジョブコーチによって、実際の職場 の仕事を通じた具体的・直接的訓練を行うことが可能になった。ジョブコーチは高次脳機能障害者の就労支 援には欠かせない存在となった。障害者の雇用を支援する機関は、地域障害者職業センター、障害者就業・ 生活支援センター、障害者職業能力開発校など様々あり、その役割を説明した。医療リハと職業リハとの連 携を深めるためには、医療側はまずはどのような方でも職業リハに紹介してみて、職業リハがどのように評 価したか、その方がどうなったかのフィードバックを受けることが重要である。それにより医療サイドも職 業リハの適応を知ることができ次の支援につながっていく。具体的な事例として、記憶障害を持ち病院と職 業リハビリが連携し、メモリーノートを使って実際に就業に至った例を紹介した。予め高次脳機能障害委員 会の質問について回答した。千葉県の現状として、高次脳機能障害支援ネットワーク連絡協議会、千葉障害 者職業センターの利用状況、家族会について紹介した。障害受容への支援は、渡邊修氏のモデルを使って説 明した。医療と地域職業センターとの連携は、本報告者が過去に行った研究結果を引用し、医療リハに求め ること、医療リハが求めることをそれぞれ紹介した。今後、言語聴覚士と職業リハビリが更に連携を深めて いき、一人でも多くの高次脳機能障害者の就労が可能になることを期待したい。

(5)

第2回研修会・講演

栄養と摂食嚥下リハビリテーション

東京女子医科大学八千代医療センター

言語聴覚士 相楽

涼子

本講演では「栄養と摂食嚥下リハビリテーション」について、特に栄養評価の観点から講演を行った。内 容としては摂食嚥下障害を呈した架空の症例を挙げ、その症例に対して栄養評価を行い、対応策を提示した。 そして、症例の訓練内容や訓練経過を報告した。 講演前半では、まず『縦隔悪性腫瘍術後の76歳男性』の架空の症例の現病歴を説明した。 次に栄養評価方法に関して、主観的包括的栄養評価(SGA)、客観的栄養評価(ODA)を紹介した。ま た、客観的栄養評価では静的栄養評価指標である体重の変化・身体測定・生化学検査値、動的栄養評価指標 ではRapid Turnover Protein・蛋白代謝動態などについて、具体的な計測方法や検査基準値を説明した。 そして、必要エネルギー量の算出および身体活動と運動の強度表についても説明した。 講演後半は、講演前半部の内容をもとに、症例の栄養評価を行った。 症例の生化学検査や身体計測値を把握し、栄養投与の内容から摂取しているエネルギー量や必要エネルギ ー量を算出した。その結果、症例の栄養状態は不良と判断した。栄養投与方法として、症例は長期に渡り中 心静脈栄養(TPN)を使用していたが、この点についても再検討が必要であるとした。ここで、経管栄養 法である経腸栄養法と経静脈栄養法の概要や、それぞれの利点、不利点に関して説明した。また、日本静脈 経腸栄養学会の『栄養投与ルートの決定』の図を紹介した。その中でも経腸栄養を早期に開始することの重 要性として、本来的な消化・吸収機能の維持、免疫機能の維持があり、腸管を長期に使用しない場合にバク テリアル・トランスロケーションを引き起こす可能性があることを強調した。 当院の栄養サポートチームの活動についても若干触れ、症例の栄養状態改善のために、輸液内容の変更、 胃ろう造設、経腸栄養剤の種類や滴下速度等、提案したことを説明した。 最後に、嚥下訓練としては積極的に経口訓練を行わず栄養状態の改善を追いながら間接的嚥下訓練を行っ た経過、当院退院時の様子と3ヶ月間のリハビリテーション病院での訓練終了後の状態を報告した。症例は、 当院での訓練開始当初は訓練拒否が続いたが栄養状態の改善に伴い訓練意欲が向上した。当院退院時、経口 摂取には至らなかったが、その後のリハビリテーション病院での訓練を経て、自宅退院時には常食を摂取で きるようになり、その表情も見違えるように良くなっていた。 総括として、摂食嚥下評価・訓練の依頼があった際、STは症例の摂食嚥下機能評価のみの把握では不十 分であり、今回紹介した症例のように訓練拒否があった場合など、何故そのような事態が起こっているのか を多角的に考慮する必要があり、その一つとして『栄養』という視点があるのではないか、ということを提 案した。そのためにも適切な栄養評価が実施できることは、STにとって重要であると強調した。 ―3―

(6)

第3回研修会(症例発表①)

中等度失語症と高次脳機能障害を呈した症例

―生活保護を利用した独居生活を目指して―

佐倉厚生園

言語聴覚士 佐藤 光

【症例】70代、男性、右利き、生活保護を利用して一人暮らし、【診断名】脳梗塞(左中大脳動脈領域)【神経 学的所見】右片麻痺(軽度)、歩行障害【神経心理学的所見】失語症、高次脳機能障害 【初回言語機能面評価】 SLTAを実施した。<聞く>単語理解、仮名理解は全問正答であったが短文理解は7/10、口頭命令は6/ 10と短文レベルより低下見られた。<話す>単語の復唱、単語(漢字・仮名)音読、仮名一文字の音読は全問 正答であった。呼称は19/20であり残りの一問はヒント後正答であった。短文の復唱は3/5、短文の音読 は4/5と共に一文字の誤りを認めた。語列挙は12語、まんがの説明は段階4であった。<読む>単語(漢字・ 仮名)は全問正答であった。短文の理解は7/10、書字命令は7/10と短文レベルより低下を認めた。<書 く>漢字単語の書字、仮名一文字の書取は全問正答であった。仮名単語の書字は4/5、漢字単語の書取は3/ 5、仮名単語の書取は4/5、短文の書取りは3/5であった。まんがの説明は段階3であった。<計算>12 /20であった。 【認知機能評価】RCPM:23点/36点(年齢平均26,9点)、RBMT:標準プロフィール点11点、 スクリーニング点5点、WAIS-Ⅲより抜粋:PIQ70、知覚統合79、処理速度63であった。【長期目 標】自宅での独居生活【訓練実施期間】発症後約2ヶ月時から6ヶ月間【訓練内容】理解面:短文聴理解課題1 /6選択、文章完成課題7択→10択 表出面:呼称課題(中~低頻度語)、短文音読、まんがの説明課題、文 章完成課題(語頭文のみ表示)、語想起課題、書字課題その他:計算課題、売店を利用した買い物訓練、金銭管 理、外出訓練【外出訓練】本症例が入院前より使用している近隣スーパーへ当院より徒歩で行き、歩行中の注意 力、事前に購入を計画した品物を探索・購入することが出来るかを評価。【訓練経過】入院期間中より退院後の 生活を想定した評価を行い、訓練に反映させる事を目的に担当スタッフ、市役所担当者と連携し、外出訓練の計 画を立案、実施した。実施後、認知機能面の課題としては、歩行中の注意力低下、金銭の計算能力の低下、細か な手順を要する物の操作の困難さが挙げられた。課題を踏まえて上記訓練を実施。その結果言語機能面に加え、 その他認知機能の向上をわずかに認めた。2度目の外出訓練では動作は依然緩慢ではあるが、店員に欲しい品物 の場所を聞き、落ち着いて金額を確認し助言なしで支払いをすることが可能であった。【まとめ】結果として本 症例は介護保険(要支援1)を取る事が出来て、僅かではあるが配食サービス、ヘルパー、デイケアでのサービ ス提供が受けられる事となった。質疑応答では独居に必要な環境設定について、外出訓練実施における当院での 手続きなどについてご質問やご助言をいただいた。本症例を通して、失語症やその他高次脳機能障害を呈するが、 ADLが自立レベルにあるため、公的支援による援助が受けにくい患者様に対し、訓練室から出た、実際の場面 での能力を評価することは、訓練を検討していく上でも、情報提供をする上でも必要であると、改めて実感させ られた。また、一方で外出訓練が実施できない場合でも、退院後の生活を踏まえた評価をする必要があり、評価 方法の検討が必要と思われる。現在当院では、評価バッテリーは決定しておらず、担当STが各々検査結果など から予測しているため、今後の検討事項としていきたい。

(7)

第3回研修会(症例発表②)

高次脳機能障害へ環境が与える影響~神経ベーチェット病1症例を通して~

亀田クリニック

言語聴覚士 赤坂 麻衣子

<症例発表要約> 神経ベーチェット病の再燃により、高次脳機能障害を呈した症例について、入院当時から退院後の外来リハ ビリまで1年半に渡って関わった症例。 [高次脳機能評価]感覚性失語症、状況理解力低下、注意力低下、記憶力低下、脱抑制傾向あり。失語症状 は改善し、やりとりが可能となるも、言語機能面での弱さはあり。行動が落ち着かず、感情のコントロール ができないことが主症状であった。入院当初は課題へ集中できず、評価バッテリーを実施することが出来な かった。再燃から1年以上経過してから実施したWAIS-Ⅲでは、言語性IQ57動作性IQ86であり、 特に言語面での低下を認めていた。 [経過]介入した1年半の間に本症例は生活場所が3か所移動し、環境や対応が変わることで症状の変化が みられた。STとしての関わりは、各時期でのご本人の症状を評価し、対応方法をご家族と相談して実践し ていくという関わりが主であった。<生活場所①:入院時>本人に馴染みのない病院で、行動を制限される ことが多かったため、混乱し、院内のルールを守ることが出来なかった。<生活環境②:両親との同居>ご 本人にとって慣れた場所であったが、両親からは行動に対して指摘や注意を受けることが多く、依然落ち落 ち着かない状況であった。<生活場所③:夫との同居>慣れた環境であり、且つ夫が症状を理解し、ご本人 に合わせた対応をすることができ、落ち着きがみられ始めた。 [まとめ]発症から、時間経過とともに、高次脳機能障害の改善は徐々にみられている。しかし本症例では、 機能面の改善だけでなく、環境の変化によっても症状の落ち着きがみられた印象を受けた。今回本症例を担 当し、高次脳機能障害へ対して、環境調整や周囲の対応が症状を落ち着かせる要因となることを改めて感じ た。客観的な視点を持ちながら長期的に向き合い、周囲の対応方法へ対するアプローチをしていくことも、 STにとって重要な役割であると感じた。 <ご助言頂いたこと> STだけの関わりが主になっているが、OTなど他職種とも連携を図っていくことで、より良い視点が得ら れ、より良い関わりとなっていく可能性がある。 <感想> 今回発表させて頂くことで、普段の診療の振り返りをする良い機会となりました。他職種との連携について のご指摘をいただき、また情報交換会では他施設での取り組みなども聞くことができ、大変勉強になりまし た。ご協力頂きました先生方、ご参加・ご助言頂きました先生方、本当にありがとうございました。 ―5―

(8)

第3回学術局研修会(助言・講演)

重度の失語がある人とのコミュニケーション

我孫子市障害者福祉センター

主査長 言語聴覚士 竹中

啓介

本講演では、失語のある人(person with aphasia、以下PWA)、特に重度のPWAとのコミュニケーションについて、 ICF における活動、参加、環境の 3 つの側面から報告を行った。 活動面では、自発的な代償的伝達手段を獲得した重度の PWA について症例報告を行った。筆者は、本症例 に対して 2 年間対話を行い、得られた情報を 1 つずつ名刺カードに記述し、名刺ホルダーに収納する方法でコミ ュニケーションノートを作成した。また、対話の中でどのような情報が伝達に使用されるのかを分析した。その結果、 伝達された情報は、固有名詞が最も多く普通名詞は少なかった。また、会話で伝達される情報の多くは、4W1H すなわち「時間」「場所」「内容」「人物」「方法」で分類が可能であった。以上から、本症例の場合、会話に必要な語 彙は、具体的かつ個人に特有な情報であることを示唆し、ノートの構成は、4W1H で分類することが適切であると 思われた。 参加面では、我孫子市が推進する失語症会話パートナー派遣事業(以下、派遣事業)の概要と事務手続きの流 れを説明した。我孫子市の会話パートナーは、失語症会話パートナー養成講座とスキルアップ講座を経て派遣事 業に登録される。派遣事業は、PWA の会話の支援を高頻度に行うことが可能であり、PWA の会話の拡大と社会参 加を促進するために効果的であることを提唱した。 環境面では、重度の PWA とのコミュニケーションにおける対話者トレーニングの効果:情報伝達実験の会話分 析による検討を報告した。本研究は、重度の PWA とのコミュニケーションに必要な会話支援技術のトレーニングを 対話者に対して行い、情報伝達実験による会話分析を通じて、会話支援ストラテジーの出現頻度の変化と、会話 支援ストラテジーの有効性について検討を行った。 実験は PWA 8 名と対話者 8 名を対象に、無作為に 8 組のペアを構成し、PWA が観た動画の内容を対話者が 聞き取る形式で 5 回実施した。動画は 5 種類でランダムな順序にて使用した。実験 2 の後、全対話者に対し会話 技術講習を実施し、実験 1 と 2 はベースラインとした。実験 3 は、実験 1~2 と同じペアで行った。実験 4 は各ペア の PWA をランダムに入れ替えて実施した。実験 5 は、講習の約 2~3 週間後に実験 1~3 と同じのペアで実施し た。得られたデータは、日本語会話分析に基づいて文字化し、理解面および表出面を支援するストラテジーの出 現頻度の変化等および基本語の伝達率の変化について定量的に検証した。また、基本語の伝達率をもとに高伝 達率群と低伝達率群を抽出し、ストラテジーを使用した後の PWA の応答について定性的分析を行った。 定量的分析の結果、講習前に比して講習後では筆記および選択質問のストラテジーが増加し、WH 質問が減 少した。これらの傾向は、相手が異なっても同様であり、約 2~3 週間後も効果が持続していた。基本語伝達率は 実験 1・2 に比して実験 4 で増加した。定性的分析の結果、低伝達率群は、高伝達率群と異なり理解面を支援する ストラテジーを使用する頻度が少なく、PWA の誤反応やディスコミュニケーションが頻繁に生じていた。表出面を 支援するストラテジーの使用頻度は両群とも顕著な差はなかった。 以上から、基本語伝達率、筆記と選択質問の増加、WH 質問の抑制は講習による訓練効果と考えられた。しか し、PWA との会話的相互作用では、理解面を支援するストラテジーをバランスよく使用しなければPWA がコンテク ストを理解できなくなる場合があり、表出面を支援するストラテジーを使用してもディスコミュニケーションが生じや すく情報伝達が困難になることが明らかになった。

参照

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手話言語研究センター講話会.

一般社団法人 東京都トラック協会 業務部 次長 前川

* 一般社団法人新エネルギー導入促進協議会が公募した平成 26

※1 一般社団法人新エネルギー導入促進協議会が公募した平成 26

5月 こどもの発達について 臨床心理士 6月 ことばの発達について 言語聴覚士 6月 遊びや学習について 作業療法士 7月 体の使い方について 理学療法士

一般社団法人 東京都トラック協会 環境部 次長 前川