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日緑工誌,J. Jpn. Soc. Reveget. Tech., 41(1),39-44,(2015) 論論文文 ORIGINAL ARTICLE 砂移動にともなう埋砂と退砂が小葉楊 (Populus simonii) の生理 成長におよぼす影響 山本福壽 *1) 藤原佳奈 1) 谷口武士 2)

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(1)

論文

ORIGINAL ARTICLE

砂移動にともなう埋砂と退砂が小葉楊(

Populus simonii

)の生理・

成長におよぼす影響

山本福壽

*1)

・藤原佳奈

1)

・谷口武士

2)

・毛 惠平

3)

・山中典和

2)

1) 鳥取大学農学部 Faculty of Agriculture, Tottori University

2) 鳥取大学乾燥地研究センター Arid Land Research Center, Tottori University

3) 内蒙古大学生命科学学院 College of Life Sciences, Inner Mongolia University

摘要:中国のオルドス地方に位置するクブチ沙漠において,埋砂環境と退砂環境におかれた2008 年植栽の小葉楊(Populus simonii Carr.)の成長,形態,葉の炭素安定同位体比,気孔コンダクタンス,浸透調節物質の濃度などを比較解析した。これにより,砂の 移動が本種の成長や形態に及ぼす影響を明らかにした。埋砂環境の植栽木は退砂環境に比べて個体のサイズが顕著に増加していた。 これとともに埋砂した多くの枝が不定根を形成して伏条更新のように成長するため,複数樹幹からなる大型のクラスター構造を発達 させることがわかった。また退砂環境では水平根に根萌芽が多数発生し,複数のシュートからなる新たな株(ラメット)が増加して 分布域が拡大していた。埋砂区では葉に含まれる浸透調節物質の可溶性糖やアラニンベタインが多く,炭素同位体比 δ13C も大きい ことから,より強い乾燥ストレス下におかれているものと考えられた。 キーワード:クブチ沙漠,乾燥ストレス,浸透調節物質,Populus simonii,伏条更新,根萌芽

YAMAMOTO, Fukuju, FUJIWARA, Kana, TANIGUCHI, Takeshi, MAO, HuiPing and YAMANAKA, Norikazu: Effects of sand burial or erosion on the growth and physiology of Populus simonii trees in Kubuqi desert, China.

Abstract: Effects of sand burial or erosion caused by wind on the growth and physiology of Populus simonii trees, planted in 2008, were investigated in Kubuqi desert, Inner Mongolia, China. Sand burial greatly influenced development of stem clusters by means of layering of buried branches and tree growth. Root erosion may simulate development of many ramets derived from root suckers on horizontal roots. Buried trees with sand showed higher δ13C and accumulation of compatible solutes such as

soluble sugar and alanine betaine in leaves. These results suggest that drought stress in buried individuals was greater than that in root eroded individuals.

Key words: Kubuqi desert, drought stress, compatible solutes, Populus simonii, layering, root suckers 1. はじめに

中国内蒙古自治区のオルドス(鄂爾多斯)高原北部に位置 するクブチ(庫布其)沙漠での緑化には飛砂固定や砂移動の 制御がもっとも重要な課題となっており,特に木本植物の小

葉楊(Populus simonii Carr.)が重点的に植栽されている。

小葉楊はヤナギ科ハコヤナギ属の高木種で,乾燥地の緑化に 広く利用されている。これまでの一連の調査研究では,2012 年に砂による埋没(この稿では埋砂と呼ぶ)の影響を受けて いる砂丘斜面上と埋砂の影響のない平坦地の小葉楊の植栽 木の間で水利用特性および成長量を比較した10)。この結果, 斜面上の埋砂された植栽木は平坦地よりも大きく成長して おり,水利用効率が高く,より乾燥に対応していると考えら れた。また単木の樹液流量は埋砂した斜面上の植栽木群で大 きく,個体サイズが反映されていた。2013 年の調査では, 樹幹が埋砂した植栽後5 年の小葉楊の成長の計測とともに葉 の浸透調節能,クロロフィル蛍光収率,炭素安定同位体比な どの生理的な特性を調べた 6)。この結果,埋砂された小葉楊 の伸長・直径成長が増加しているのを確認した。また葉内の 浸透調節物質の含有量は,埋砂された植栽木で顕著に増加し ていた。これらの結果,埋砂環境では植栽された小葉楊の成 長が促進される可能性が示唆された。さらに埋砂され,砂丘 斜面上に生育する植栽木は強い乾燥環境に置かれており,こ れに生理的に適応して生育していることが明らかになった。 さらに 2013 年に鳥取大学乾燥地研究センター内の砂丘地 で行った野外実験では,小葉楊,銀白楊(Populus alba L.), および旱柳(Salix matsudana Koidz)の挿し木苗を完全な 埋砂状態で植栽したところ,いずれの樹種も埋砂によって成 長が促されることが確かめられた7)。 以上のように植栽された小葉楊などのヤナギ科植物は,砂 の移動によって埋砂環境におかれると急速に成長が促進され ると考えられる。一方,クブチ沙漠では,多くの植栽木は埋

論 文

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砂されるばかりでなく,砂移動によって根株部が裸出してし まうような状況(本稿では退砂と称する)におかれる危険性 も極めて高い。しかしながら,このような砂移動が生み出す 埋砂環境や退砂環境が植栽された小葉楊の成長や形態形成 におよぼす影響について比較解析した研究成果はほとんど ない。特に乾燥した移動砂丘地の緑化には,砂の堆積による 植栽苗木の埋没や飛散による根の裸出の影響についての基 礎的データの収集は不可欠である。 そこで本研究では,クブチ沙漠の移動砂丘地に 2008 年の 同時期に植栽され,埋砂と退砂というまったく異なる環境に 置かれている小葉楊の植栽木を調査対象とし,砂移動が生理, 成長,形態形成などに及ぼす影響ついての比較解析を行った。 2. 材料と方法 2.1 調査概要 調査期間は,2014 年 8 月 21 日から 26 日の 5 日間である。 調査地は,中国内蒙古自治区オルドス高原北部に位置するク ブチ沙漠内の移動砂丘地(北緯40 度 18 分, 東経 109 度 41 分,標高1,080 m)である。クブチ沙漠の環境については宮崎 ら6)が詳述している。 調査対象の樹木は,2008 年に植栽された小葉楊の 20 本で ある。植栽は約2 m の大型の挿し木苗を用い,砂地に深さ約 50 cm の植穴を掘って行われた。図-1 に対象木の配列の平面 図を示す。小葉楊20 本のうち,正確に東西方向に沿って植 栽されている10 本の配列線上に東西 80 m の直線を引き,こ れを調査の基準線とした。この10 本は,基準線の西側 40 m 内に入るように調査区を設定した。これらは砂の移動によっ て根株部位や根系の一部が完全に裸出しており,退砂区10 本として取り扱った(写真-1)。また東側 40 m の直線から やや南方には樹幹の下部が砂に埋没した10 本が生育してお り,これらを埋砂区10 本として調査した。退砂区 10 本のう ち,西端の最も地盤が低い位置にある個体の地盤高を0 m と したとき,退砂区10 本の平均地盤比高は 1.5±0.3 m(平均± 標準誤差),埋砂区10 本は 4.5±0.4 m であった。したがっ て埋砂区の植栽木は退砂区の風下に位置しており,西から東 に向かう砂の移動によって埋砂されたものと推定された。 2.2 調査項目 2.2.1 調査木の成長と形状 植栽木の計測項目は樹高,樹冠投影面積,地際の樹幹直径, および胸高直径(DBH)である。埋砂区ではあらかじめ 1 本 (図-1 の矢印)の根元を掘り,樹幹の最下段が 199.5 cm の 地下にあり,植栽当初の根が水平に伸長していることを認め た。また埋砂した枝から不定根が多数発生しており,伏条更 新と同様の現象が生じていることを確認した(写真-2)。た だし,埋砂区各個体の樹高,胸高直径,および埋砂した枝の サイズ評価はすべて現在の地盤を基準に計測した。一方,退 砂区では,裸出した根系の上端部を基準として計測した。樹 冠投影面積は,東西方向,南北方向の樹冠幅を測り,その平 図-1 小葉楊 20 本の分布図 退砂区の植栽木 10 本(□)は東西 方向に直線的に植栽されている。矢印は埋砂区の植栽木(●) のうちの埋砂深を確認した個体。埋砂深は根元を掘り,当 初の根の位置を計測して求めた。

Fig. 1 The distribution of 10 root-eroded (□) and 10 sand buried (●) Populus simonii trees. The root-eroded trees were planted in the west and east direction. The depth of sand burial was measured after digging roots of one sand buried tree.

均値から円の面積を算出し,投影面積とした。退砂区,埋砂 区の位置座標や標高はGPS (Global Positioning System, GARMIN 社 eTrex vista Hcx)を用いて計測した。 2.2.2 埋砂による伏条更新と根萌芽 埋砂区では埋砂した主幹と枝は明確に区別できるが,写真 -2 のようにほとんどの枝は発根していると推定し,枝を埋砂 によって伏条更新中の個体として数えた。また退砂区では10 本すべての水平根に形成されていた根萌芽の位置,株数,株 内のシュート本数,および各シュートの長さを計測した。 2.2.3 葉面積 植栽木の生理的な調査と分析は,時間と分析経費節減のた め,埋砂区と退砂区の植栽木各 10 本のうち樹高の大きいも のから順に7 本ずつを選抜して行った。さらに退砂区の根萌 芽については7 株を任意に選抜し,それぞれの最大のシュー ト1 本を特定し,合計 7 本の萌芽シュートを調査対象とした。 埋砂区および退砂区の各植栽木からは約1.5 m の高さに展開 している10 枚の葉を採取,また退砂区の 7 本の根萌芽シュ ートそれぞれから 10 枚の葉を採取した。すべての試料は鳥 取大学乾燥地研究センターに持ち帰り,葉面積計を用いて面 写真-1 退砂によって裸出した小葉楊の根と根萌芽株(左) および埋砂した小葉楊の10 個体(右)

Photo 1 A root-eroded tree showing exposed root system and a cluster of root suckers on a horizontal root (left) and 10 sand buried trees (right).

N20m

S20m

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積を計測した。

2.2.4 炭素安定同位体比

埋砂区と退砂区の調査対象木および根萌芽株から無傷の葉 10 枚を採取し,生重量を測定後,紙封筒に入れ鳥取大学乾燥 地研究センターに持ち帰った。送風乾燥機(RY-120HL, ALP Co. Inc. Japan)で 80 ℃の温度で 48 時間乾燥させ,乾燥重 量を測定した。乾燥試料を遠沈管に取り,振盪機で 24 時間 粉砕した。粉末状のサンプルを錫カプセルに1 mg 入れ,質 量分析計(Flesh2000 & Delta S, Thermo Fisher Scientific Inc. MA, USA)を用い炭素安定同位体比(δ13C)を測定した。

2.2.5 気孔コンダクタンス

2014 年 8 月 26 日の 8 時 55 分から 9 時 49 分にかけて,気 孔コンダクタンスの計測を行った。計測には,ポロメーター (Delta - T 社製 Porometer - AP4)を使用した。測定には各 調査木7 本の陽樹冠に相当する南東方向の枝を選抜し,約 1.5 m の高さに位置する葉 3 枚を測定した。根萌芽 7 株について も同様にそれぞれの葉3 枚を測定した。3 枚の測定値を平均 してそれぞれの調査木または根萌芽の計測値とし,7 本また は7 株の平均値を算出した。 2.2.6 浸透圧調節物質 1) 糖・糖アルコール:糖,糖アルコールの分析試料について は,3 日間晴天後の 2014 年 8 月 26 日午後,各調査木 7 本の 約1.5 m の高さに位置する健全葉を 10 枚程度採取した。根 萌芽7株についても同様にそれぞれの葉 10 枚を測定した。 試料は裁断後に混和し,0.5g を正確に計り取り,5 ml の 80 %エタノール中で粉砕した。さらに遠心分離後(5,000 rpm, 10 分,10℃),残渣から 2 回,同様に抽出した。抽出液を混 和し,60℃の乾燥機中で 2 ml 以下までエタノールを蒸発さ せ,蒸留水を添加して10 ml とし,これをろ過後,高速液体 クロマトグラフHPLC (RF-10 AxL, shimadzu Co, Japan)で ポストカラム法により糖類の分析を行った。 2) ベタイン類:炭素安定同位体比分析に使用した乾燥葉を用 (n=10) いた。粉砕葉をマイクロチューブに0.065g 入れ,蒸留水 1 ml 加え,75℃で 20 分間熱抽出を行った。遠心分離後(15,000 rpm,10 分,20℃),上澄みを分取し冷凍保存した。保存試 料をフェナシルエステル化反応させ,キャピラリー電気泳動 装置(CAPI-3300, Otsuka Electronics Inc. Japan)でグリ シンベタイン(GB),β-アラニンベタイン(β-AB),およ びγ-ブチロベタイン(γ-BB)含有量を測定した。 なお,表1 の生育状況データについての統計処理はt検定 を,また表2,表 3 の生理的な解析データについては Scheffe のF 検定を用いて行った。 3.結果 3.1 調査木の成長と形状 地上高は,埋砂区が退砂区よりもやや大きかったが有意差 はなかった(表-1)。DBH と地際径もまた,埋砂区と退砂区 間で有意差はなかった。しかしながら,埋砂区の個体は約2 m も樹幹下部が砂に埋没しているため,埋砂区の個体はすべて 退砂区をはるかに上回る大きさと考えられた。一方,埋砂区 の個体の樹幹投影面積は,退砂区に比べて有意に大きかった (p<0.01)。 3.2 埋砂による伏条更新と根萌芽 3.2.1 埋砂区の伏条更新 埋砂区において,調査木1 本あたりの,砂に埋没して頂部 のみが露出している枝の数は平均で50.1±4.9 本であった。な お,埋没した枝は主幹を中心に放射状に分布しているため, どの植栽木に属するかを判定するのは容易であった。図-2 の 埋砂枝の地際直径の頻度分布をみると,直径2 cm 未満で長 さ1~1.5 m 程度の埋砂枝が多かったが,最大のものは長さ (樹高)5 m,地際径 8 cm にも達していた。なお,全埋砂枝 501 本の長さと地際径の平均はそれぞれ 1.19±0.05 m, 1.43±0.06 cm であった。これらの多くは不定根の形成によっ て伏条更新し,次第に複数のクローンの集団からなるクラス ター構造を形成していく可能性が高いことが確かめられた。 3.2.2 退砂区と根萌芽 写真-2 埋砂した主幹と枝に発生した不定根 埋砂深は 199.5cm (図-1 の矢印の個体)。

Photo 2 Adventitious roots on the buried stem and branches of the arrow-marked tree in Fig.1. The depth of sand burial was 199.5cm.

表-1 埋砂区および退砂区の植栽木各 10 本の地上高,胸高直

径,地際直径および樹幹投影面積 **は t 検定により

1%の危険率で有意。n.s.は有意差なし。

Table 1 Tree heights, stem diameters at breast height and at the ground level and projected canopy areas in buried and root eroded trees.

( t-test, **:p<0.01 ,n.s.: not significant) 埋砂区 退砂区

地上高(m) 4.5±0.6n.s. 3.9±1.2 胸高直径(cm) 6.1±1.6n.s. 6.3±2.5 地際径(cm) 9.3±1.8n.s. 10.7±3.0 樹冠投影面積(cm2) 43.6±12.3** 16.2±7.1

(4)

退砂区では水平に展開している根から多くの株状に発達し た根萌芽シュートが観察された(写真-3)。図-3 は退砂区の 植栽木周辺に展開する根萌芽株の分布状況,図-4 は根萌芽株 を構成するシュート本数階別の株数の頻度分布である。根萌 芽株の合計数は 394 株であった。またシュートの総本数は 1,653 本,1 株内の平均シュート数は 4.2±0.3 本であった。 多くの株は1~6 本のシュートで構成されていたが,最大 48 本のシュートを持つ株も確認された。 図-5 に退砂区 10 個体が並ぶ東西の調査基準線からの距離 と株数との関係を示す。また根萌芽シュートの長さの頻度分 布を図-6 に示す。萌芽株は退砂区の 10 本が並ぶ東西の基準 線から南北方向0~1 m の間に数多く形成され,距離が遠く なるほど少なくなる傾向を示したが,基準線から南北方向に 約10 m 離れた位置でも観察された。株を構成する萌芽シュ ートの本数や長さについては,基準線からの距離とは明確な 0 50 100 150 200 0 20 40 60 80 100 120 140 0 50 100 150 200 0 100 200 300 400 500 図-4 根萌芽シュートの本数階ごとの株数の頻度分布

Fig. 4 The frequency distribution of clusters on the basis of the number of root suckers.

萌芽シュート本数階階

図-5 退砂区 10 本が並ぶ東西の基準線から南北の方向 10m までの間に出現する根萌芽株数

Fig. 5 The number of clusters from the east-west line of root-eroded trees to the distance of 10m.

東西の基準線からの距離(m)

図-2 埋砂区における埋砂枝の地際直径階ごとの頻度分布

Fig. 2 The frequency distribution of stem diameters of buried branches at the ground level in the buried trees.

図-6 根萌芽シュート長階ごとの本数頻度分布

Fig. 6 The frequency distribution of the number of root suckers on the bases of sucker length.

地際直径階(cm)

写真-3 退砂区の水平根上に発生した根萌芽シュートの株 Photo 3 A cluster of root suckers developed on the

horizontal root of a root- eroded tree.

図-3退砂区の植栽木 10本(□)の周辺に発生した根萌芽株(○) の

分布状況 植栽間隔は約4m

Fig.3 The distribution of root sucker clusters (○) and the root-eroded trees (□). Planting intervals are 4m.

-10 -8 -6 -4 -20 2 4 6 8 10 基準線から南 (- )北 (+ ) ( m) 本 数 萌芽シュート長階(cm)

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n=7) (n=7. ただし退砂区の総可溶性糖のみ n=5) 関係が認められなかった。根萌芽シュートの総本数1,653 本 の平均長は17.1±0.4 cm であった。シュートは 25 cm まで の小さなものがほとんどであったが,最大のものは1 m 近く にまで成長していた。なお,クラスターの中には枯死した萌 芽シュートが数多く確認されたが,半数以上は基準線から南 北0~2 m までの間に認められた。 3.3 葉面積 葉面積については,埋砂区の個体の葉面積は根萌芽シュー トと同程度の大きさであり(表-2),ともに退砂区の個体に比 べて有意に大きかった(p<0.05)。 3.4 炭素安定同位体比 炭素安定同位体比δ13C は埋砂区の個体でやや大きく,退砂 区の根萌芽シュートは有意に小さかった(p<0.05,表-2)。 3.5 気孔コンダクタンス 8 時 55 分~9 時 49 分に測定した気孔コンダクタンスは埋 砂区の調査木が退砂区よりも有意に高い値を示した(表-2)。 3.6 浸透圧調整物質 3.6.1 糖・糖アルコール 分析したスクロース,フルクトース,およびガラクトース のうち,グルコースが最も多く蓄積し,検出された糖類の80% 以上を占めていた。その他の糖はフルクトースがやや多かっ たものの,スクロースとガラクトースの蓄積量はわずかであ った。重量で表した糖の総量は埋砂区の個体は退砂区に比べ てかなり多かった。根萌芽シュートの糖の含有量もまた退砂 区の個体に比べて多い傾向を示した。また今回の分析では, 糖アルコールがほとんど検出されなかった。 3.6.2 ベタイン類 検出されたベタインは,グリシンベタイン(GB)と β-ア ラニンベタイン(β-AB)であった(表-3)。特に β-AB の含有 量が顕著に多く,埋砂区の個体は退砂区の個体や根萌芽シュ ートの葉に比べて有意に多かった。 4.考察 クブチ沙漠では樹高が約2 m,根元径約 2 cm の大苗が深 さ50 cm ほどの植穴に植栽される3)。本調査において埋砂区 1個体の埋砂深を計測したところ,約2 m であった。この個 体の地上部高の実測値は4.72 m であったが,植栽当初の根 の位置から計測した実際の樹高は約6.7 m に達していたこと になる。また埋砂区では樹冠の投影面積が大きくなっていた が,これには埋砂された枝が伏条枝として発根,成長し,ク ラスター構造となることに起因する。最大の枝由来の更新個 体は樹高5 m にも達していた。立石ら10)は,埋砂された斜面 上の個体が埋砂によって急速に成長が促進されたことを観察 した。また宮崎ら 6)も,埋砂刺激が植栽された小葉楊の若木 の成長を促進することを認めた。さらに宮崎ら7)は,小葉楊, 銀白楊,旱柳3 種の挿し木苗木が埋砂によって急速に成長す ることを見出している。本調査区においても同様の埋砂によ る成長促進現象が認められたことから,埋砂刺激による小葉 楊の成長促進は普遍的な現象であると考えられる。 埋砂刺激が及ぼす環境変化としては光の遮断,土圧の増加, あるいは酸欠による呼吸阻害などが考えられる。宮崎ら 7) 埋砂された小葉楊苗木の幹からエチレン生成が急増すること を認めている。短期間に水没したウキイネ(Oryza sativa L., cv. Habiganj Aman II)は急激なエチレン生成に続いて,節 間成長が急増することが知られる5)。埋砂環境におかれた小 葉楊の成長が促進されるときにも,エチレンが何らかの生理 的役割を果たしている可能性が高い。 退砂区では,多くの根萌芽株が水平根上に形成されている のを認めた。根萌芽数は母樹から1 m 程度の範囲に多かった が,10 m ほど離れた部位でも確認された。さらに根萌芽シュ ートの大きさや株を構成するシュート数は母樹からの距離に は関係がなかった。これらのことから,根萌芽の発生数は母 表-2 埋砂区と退砂区の調査木および根萌芽の葉面積,炭素安 定同位体比(δ13C),および気孔コンダクタンス 異な る文字は5%の危険率で有意であることを示す(Scheffe のF 検定)。

Table 2 Leaf areas, δ13C and stomatal conductance in

leaves of the sand-buried and the root-eroded trees and root suckers. Letters in the lines indicate significant differences among samples (Scheffe’s F test, p <0.05). 埋砂区 退砂区 根萌芽 葉面積(cm2) 14.85±0.80a 6.12±0.48b 16.25±2.38a δ13C(0/00) 26.11±0.16a -26.71±0.24a -27.76±0.21b 気孔コンダクタンス (mmolm-2S-1 4.14±0.66a 1.39±0.07b 0.94±0.13b 表-3 浸透調節に関わる総可溶性糖とベタイン類(βAB:ア ラニンベタイン,GB:グリシンベタイン)の含有量 異 な る文字 は 5%の危険率で有意であることを示す (Scheffe の F 検定)。

Table 3 Contents of total sugar and betaines as osmolytes in leaves of the sand-buried and the root-eroded trees and root suckers (β-AB:alanine betaine, GB: glycine betaine). Letters in the lines indicate significant differences among samples (Scheffe’s F test, p <0.05). 埋砂区 退砂区 根萌芽 総可溶性糖 (mg/gDW) 54.45±2.89a 31.99±2.76b (n=5) 45.69±2.55a ベタイン(μmol/gDW) β-AB 0.73±0.05a 0.43±0.06b 0.48±0.03b GB 0.02±0.00a 0.02±0.00a 0.01±0.00a

(6)

樹との距離が関係するものの,水平根の基部から末端まで, どの位置でも根萌芽の発生が起こりうるものと考えられた。 さらに根萌芽の発生は,水平根が裸出しているような状況で 形成されるようであった。このことから,根萌芽原基の分化 やシュートの成長には光が関与していることが示唆された。 こ の よ う な 根 萌 芽 の 発 生 は ニ セ ア カ シ ア (Robinia pseudoacacia Linn.)2,8)などの木本植物でもよく知られてい るが,光の直接的な影響についての解析例は少ない。一方, 草本植物のセイヨウワサビ(Armoracia rusticana)の毛状根 における不定芽の誘導には,一定期間の光照射が有効である ことが確認されている 3)。一般的に植物の頂芽優勢性に関連 して,側芽の発達や不定芽の発生には,オーキシンの濃度低 下とサイトカイニン濃度上昇が引き金になっている 9)。小葉 楊の根萌芽の分化と成長については,光の影響とともに,こ れらの植物ホルモンのバランス変化が関与している可能性が 高い。特に退砂区の植栽木が示した抑制的な伸長成長は,根 系の裸出などの生育阻害要因が関与しているようである。特 に伸長抑制は樹体内のオーキシン濃度の低下と 1)根系内部に 相対的なサイトカイニン濃度の上昇をもたらしているのかも しれない。これらの点は,今後,根萌芽発生機構を明らかに するうえで解析すべき重要な課題である。 なお,根萌芽株や株内のシュートに枯死したものも多く認 められた。根萌芽の根が一定の深さまで到達し,葉水分供給 を母樹に依存しない自立した成長が可能となるまでにはどの ような経緯を経るかについても,今後解析する必要があろう。 埋砂区と退砂区の個体の生理的な解析結果についてみると, 埋砂区では葉面積が大きく,また炭素安定同位体比δ13C はや や大きく,埋砂区で水利用効率が先行研究 6,10)と同様に高い ことが確認された。またグルコースを中心とする可溶性糖や アラニンベタインの濃度も高かったことは,宮崎ら 6)と同様 の結果を示していた。したがって埋砂区の方がより強い乾燥 ストレス環境下に置かれており,本樹種が高い浸透調節能の 発揮や水利用効率の向上によって適応しているものと考えら れた。一方,気孔コンダクタンスについては,10 時と 14 時 に計測した立石ら10)の結果とは異なっていた。本調査では8 時55 分から 9 時 49 分にかけての大気飽差が日中に比べて低 いと思われる時間帯に行ったものである。これらの結果から, 本樹種は早朝の好適な水分環境条件下で気孔を開き,効率よ く光合成を行っているものと考えられた。また炭素同位体比 がやや大きかったことから,日中のストレスが厳しくなる環 境下でも継続的に光合成を行っていることが示唆された。こ れには糖やベタインの集積などによる浸透調節能の高さが寄 与している可能性が高い。すなわち,このような埋砂区と退 砂区の個体における物質生産に関わる状況の差異が,大きな 成長差を生じさせている因子のひとつであろう。 以上の結果,小葉楊は埋砂環境での個体の成長促進と埋砂 枝の伏条更新,および退砂環境での水平根上の根萌芽の発生 という環境適応能を有することがわかった。すなわち小葉楊 は,これらの環境変化に対応して生育様式を転換し,生存と 分布域拡大を可能にしている樹種であることがわかった。 謝辞:調査は一般社団法人地球緑化クラブの原鋭次郎氏,朝 克松布尓氏に全面的な協力をいただいた。本研究は文部科学 省特別事業経費「東アジア沙漠化地域における黄砂発生源対 策と人間・環境への影響評価」の援助を受けて行われた。 引用文献

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6) 宮崎寛大・岡田憲和・立石麻紀子・山本福壽・毛 惠平 ・山中典和 (2014) 中国内蒙古クブチ沙漠に植栽後,埋 砂された小葉楊 (Populus simonii Carr.) の成長と浸透 圧調節能. 日本緑化工学会誌, 40(1): 31-36.

7) 宮崎寛大・岡田憲和・立石麻紀子・山本福壽・毛 惠平 ・山中典和 (2014) 中国の沙漠地で植栽される小葉楊 (Populus simonii), 銀白楊(P. alba)および旱柳(Salix

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9) Shimizu-Sato, S., Tanaka, M. and Mori, H. (2009) Auxin-cytokinin interactions in the control of shoot branching. Plant Mol. Biol., 69: 429-435.

10) 立石麻紀子・宮崎寛大・山本福壽・毛 恵平・岡田憲和 ・山中典和 (2013) 中国内蒙古クブチ沙漠に植栽された

小葉楊 (Populus simonii Carr.) の水利用と成長に及ぼ

す埋砂の影響. 日本緑化工学会誌, 39(1): 68-73. (2015.7.3 受理)

Table 1 Tree heights, stem diameters at breast height and  at the ground level and projected canopy areas in  buried and root eroded trees
Fig. 5 The number of clusters from the east-west line  of root-eroded trees to the distance of 10m
Table 3 Contents of total sugar and betaines as osmolytes  in leaves of the sand-buried and the root-eroded  trees and root suckers (β-AB:alanine betaine, GB:

参照

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