Tel81558651185.Fax81558651188.Emailttomoda@fra.affrc.go.jp
a 現所属国立研究開発法人水産総合研究センター増養殖研究所志布志庁舎(Shibushi Laboratory, National Research Institute of Aqua-culture, Fisheries Research Agency, Shibushi, Kagoshima 8997101, Japan)
ウナギ仔魚はマリンスノーの起源物質を摂取する
友 田 努,
1a黒 木 洋 明,
2岡 内 正 典,
3鴨志田正晃,
1今 泉 均,
4神 保 忠 雄,
4野 村 和 晴,
3古 板 博 文,
3田 中 秀 樹
3 (2014 年 12 月 15 日受付,2015 年 4 月 15 日受理) 1国立研究開発法人水産総合研究センター増養殖研究所南伊豆庁舎, 2国立研究開発法人水産総合研究センター増養殖研究所横須賀庁舎, 3国立研究開発法人水産総合研究センター増養殖研究所南勢庁舎, 4国立研究開発法人水産総合研究センター増養殖研究所志布志庁舎Hatchery-reared Japanese eelAnguilla japonica larvae ingest various organic matter formed as part of marine snow
TSUTOMUTOMODA,1aHIROAKIKUROGI,2MASANORI OKAUCHI,3MASAAKIKAMOSHIDA,1
HITOSHIIMAIZUMI,4TADAOJINBO,4 KAZUHARUNOMURA,3
HIROHUMIFURUITA3AND HIDEKITANAKA3
1Minami-izu Laboratory, National Research Institute of Aquaculture, Fisheries Research Agency, Kamo,
Shizuoka 4150156, 2Yokosuka Laboratory, National Research Institute of Aquaculture, Fisheries Research
Agency, Yokosuka, Kanagawa 2380316,3Nansei Main Station, National Research Institute of Aquaculture,
Fisheries Research Agency, Minami-Ise, Mie 5160193,4Shibushi Laboratory, National Research Institute of
Aquaculture, Fisheries Research Agency, Shibushi, Kagoshima 8997101, Japan
We observed the feeding incidence of Japanese eel Anguilla japonica larvae of 528 days post-hatch (dph) us-ing various organic matter formed as part of marine snow. Food organisms such as microalgae (Rhodomonas sp., Isochrysis galbana, Cyclotella sp., and Chaetoceros calcitrans) and appendicularian Oikopleura dioica were raised as the primary food source of marine snow. In algal feeding trials, 1028 day-old eel larvae ingested algal cells and transparent exopolymer particles (TEP) produced during the exponential growth phase. Furthermore, the feed-ing incidence of the larvae showed an increasfeed-ing trend within the range of 40100 with larval age (dph) and al-gal cell concentration. In appendicularian feeding trials, 9-day-old eel larvae ingested a larval tadpole body and abandoned house wreckage. The aforementioned gel-like particles were excreted smoothly out of the end of the mid-hind gut during observation. These results indicate that hatchery-reared Japanese eel larvae ingest organic matter formed as part of marine snow as well as natural eel larvae. The gelatinous substances from microalgae and appendicularian may be available as initial food sources for Japanese eel larvae because of their physical properties (buoyancy, suspensibility, absorption, aggregability, and ‰exibility) in seawater.
キーワードTEP,ウナギ,餌料生物,微細藻類,尾虫類,放棄ハウス,マリンスノー ニホンウナギ Anguilla japonica 仔魚の飼育に有効な 人工懸濁態飼料1)の開発はシラスウナギ人工生産を成功 に導いた。しかし,開発された人工飼料はアブラツノザ メ Squalus acanthias 卵を主成分としたものであり,自 然界でウナギ仔魚が摂餌する天然餌料とは性状(栄養組 成,物性など)が異なるものと考えられる。また,適正 な飼育環境(温度,光条件など)が解明されていないこ ともあり,極めて成長が遅く,シラスウナギまでの生産
替餌料を確立する必要がある。種苗量産化に向けて生産 効率を飛躍的に高めるためには,高成長を促し,より低 コストで,飼育管理が容易となる水槽・環境を汚染しな い生物餌料2)に近いものの探索努力が必須である。一方 で,天然のウナギ目仔魚はマリンスノー3)や尾虫類の放 棄ハウス,動物プランクトンの糞粒46)を食べていると 言われてきた。実際に,2009 年にウナギ産卵場で採集 されたニホンウナギ前葉形仔魚(全長 7.6 mm)(https:// www.fra.aŠrc.go.jp/kseika/211028/program5.pdf,水 産総合研究センター第 7 回成果発表会講演要旨,2015 年 4 月 13 日)には消化管の後半部に尾虫類の放棄ハウ スと動物プランクトン糞粒が観察されている(望岡ら, 未発表)。そのような中,2012 年にはウナギ仔魚が植物 プランクトンを専食する動物プランクトンの栄養段階に 近く,諸説ある中でもマリンスノー説が最も有力である ことが明らかとなった。7)しかし,マリンスノーとは様 々な起源をもつと考えられる懸濁態有機物(particulate organic matter,以下 POM)の一般的名称であり,実 際にウナギ仔魚が利用しているものの実態は依然として 不明である。
マリンスノーの起源となる物質のひとつとされる透明 細胞外重合体粒子(trasparent exopolymer particle,以 下 TEP)には,溶存態有機物(dissolved organic mat-ter,以下 DOM)が重合する非生物的な生成過程や細菌 による生成も報告されているが,基本的には植物プラン クトン由来の酸性多糖類から生成されると考えられてい る。8)実際に,2013 年の西マリアナ海嶺海域におけるウ ナギ産卵場生態調査ではマリンスノーの起源とされる尾 虫 類 の 放 棄 ハ ウ ス9)や TEP10)の 存 在 が 確 認 さ れ て い る。そこで,本研究ではウナギ仔魚の初期餌料開発の シーズとすることを目的に,マリンスノーの供給源とな る可能性のある餌料生物を培養し,それらの産生物質を 含んだ培養水のウナギ仔魚に対する給与効果を観察した。 材料と方法 餌料生物の選定 本研究では,初期餌料源となる餌料 生物の候補として 4 種の微細藻類と 1 種の尾虫類を検 討した。微細藻類の選定条件として,入手容易である, 海産種である,安定培養可能である,多糖類を産 生すること,および凝集塊形成によりウナギ仔魚の摂 食行動に支障が出ないよう藻体直径が 510mm 位であ ることとした。微細藻類の 3 種は,独水産総合研究セ ンター増養殖研究所南勢庁舎育種研究センターから保存 株を輸送して同南伊豆庁舎で拡大培養した。藻類株はク リプト藻類ロドモナス Rhodomonas sp.(藻体直径 10 藻類キートセロス Chaetoceros calcitrans(藻体直径 45 mm)である。一方,尾虫類は同横須賀庁舎の地先海域 で採集したワカ レオタマボヤ Oikopleura dioica(全長 0.55.0 mm)を継代培養しながら給与試験に供試した。 各餌料生物の特徴は以下の通りである。11)ロドモナスは 米粒形,イソクリシスは楕円形の遊泳性単細胞であり, 共に不等運動性の鞭毛を持つ。キクロテラは短円筒形の 沈降性単細胞であり,他 3 種よりも顕著に多く多糖類 を産生する。細胞は通常単体だが,粘液糸により繋がっ た鎖状群体を作る場合もある。キートセロスは小型長方 形の浮遊性単細胞であり,4 つの角に刺毛を持つ。日本 国内ではイソクリシスの天然での出現はまれであるが, 他 3 種 は 日 本 各 地 の 海 水 域 や 汽 水 域 に 出 現 す る 。 な お,ワカレオタマボヤは雌雄異体の被嚢動物であり,日 本各地の沿岸域,時に内湾域で濃密に出現する。 餌料生物の培養 藻類は細口ポリカーボネート瓶(容 量 5 L,ASONE)16 個を用いて植え継ぎ培養を行っ た。培養水には 1mm カートリッジフィルター(TCW-1N-PPDE, ADVANTEC)で精密濾過した海水を加熱 滅菌処理(123°C,28 分間)して用い,水温管理は恒温 室内の空調設備(17.2±0.6°C)により行った。なお, ロドモナスの培養のみは上記同様に処理した 80 希釈 海水(塩分27)を用いた。栄養塩には市販の藻類培養 液(KW21,第一製網)を用い,培養開始時に海水 1 L 当たり 1 mL の割合で添加した。また,珪藻類 2 種への ケイ酸供給には含水ケイ酸ゲル(ゲルカルチャー,第一 製網)を海水 1 L 当たり 1 g の割合で添加した。通気は フッ素樹脂チューブ(q4×6 mm,ASONE)で行った。 培養期間は 68 日間とし,対数増殖期に至った段階で 培養水中の凝集物を 25mm ナイロンプランクトンネッ ト(P25,アース)で濾過して給与試験に供した。TEP の産生状況は,収穫した培養水の一部を定法8)により Alcian blue 染色して検鏡確認した。 尾虫類は回転式培養装置12)で継代培養しながら初期 餌料源となる放棄ハウスを準備した。水温は恒温室内の 空調設備によりウナギ仔魚の飼育水温と同じ 23°C に調 節し,培養水には地先海域で採水した微細藻類を含む自 然海水を 10mm ナイロンプランクトンネット(NY10-HC,アース)で濾過して用いた。その他の培養方法は Sato et al.13)に準じた。 親魚とふ化仔魚 ウナギ親魚には志布志庁舎および南 勢庁舎で養成中の漁獲天然魚と雌化人工魚を用いた。餌 料生物の給与試験には,これら親魚から誘発産卵14)ま たは人工授精15)により得られた受精卵からふ化した仔 魚を 56 日齢時点(全長 6.06.5 mm)で搬入して用いた。
餌料生物の給与試験 藻類を用いた試験では前日まで 人工懸濁態飼料1)を与え,前日の午後から 18 時間無給 餌として空腹状態にした。試験容器には 200 mL ビー カー(SIBATA)を用いた。飼育用水には 1mm カート リッジフィルターで濾過し,流水型殺菌装置(フロンラ イザ FDL-2,千代田工販)で紫外線照射した海水(23 °C)を用いた。その後,対数増殖期に達した藻類培養 水,または培養水を冷蔵庫(0°C)に一晩静置して藻体 を沈降させた上澄み(TEP を含む)を後述する濃度に なるように添加した。効率的な摂取には十分な濃度が必 要であると考えられるが,一方で藻体と TEP の凝集塊 がウナギ仔魚の針状幼歯に掛かり摂食行動に支障が出な い濃度が望ましい。そこで,予備調査により藻類培養水 の細胞濃度を便宜的に次に示す範囲で設定した(キクロ テ ラ 5 40 万 cells / mL , ロ ド モ ナ ス 20 160 万 cells / mL,キートセロス 100800 万 cells/mL,イソクリシス 50400 万 cells/mL)。なお,上澄み濃度も同様である (キクロテラ 520,ロドモナス 1020,イソクリシ ス 1020)。試験容器には各日齢の仔魚 515 尾ずつ を収容し,24°C 恒温室にて光量子束密度平均 3.80mmol m-2s-1で 1 時間静置して給与した。光量子束密度は データロガー(LI-1400,LI-COR)と光量子センサー (LI-192SA,LI-COR)を用いて測定した。その後,m-アミノ安息香酸エチルメタンスルホン酸塩(MS222, 三共)を用いて麻酔し,実体顕微鏡(MZFL,LEI-CA)で消化管への取り込みを観察した。 一方,尾虫類を用いた試験では前述の培養装置12)に 設置した 3000 mL ビーカー(IWAKI)3 個に 5 日齢仔 魚それぞれ 5,6,20 尾を収容し,無給餌のまま 9 日齢 までワカレオタマボヤと共存させた。試験期間中は飼育 水の交換を行わず,23°C 恒温室にて光量子束密度 0.53 1.50mmol m-2s-1で管理した。上記の光条件は,ウナ ギ仔魚が 10mm 濾過海水のみのガラスビーカー内で間 欠的に静と動を繰り返す程度の遊泳活性を維持できる範 囲を事前に探索して設定したものである。そして,9 日 齢時点で全数取り上げて麻酔し,実体顕微鏡で消化管へ の取り込みを観察した。 結 果 藻類の給与試験 各藻類の TEP 産生量は未調査であ
るが,培養水を Alcian blue 染色した結果,TEP は対数 増殖期のすべての藻類において確認できた(Fig. 1)。 ウナギ仔魚による藻類の摂取量にはばらつきがあり消化 管が膨潤した飽食個体は少なかったものの,観察した 1028 日齢のすべてにおいて TEP および藻体の摂取を 確認できた。また,摂取した内容物が中後腸から肛門に まで達した個体が過半数で観察された(Fig. 2)。藻類 培養水そのものを添加した場合の摂取個体率はキクロテ ラで 60100(3/55/5),ロドモナスで 20100(1/ 55/5),キートセロスで 40100(2/55/5),イソク リシスでは 17100(1/65/5)となった。なお,キ クロテラ以外の藻類では摂取個体率がふ化後日齢および 添加した藻類の細胞濃度に伴い高くなる傾向であった (Table 1)。一方,TEP を含む上澄みのみの摂取個体率 はキクロテラで 100(4/45/5),ロドモナスで 80 100(8/1010/10),イソクリシスでは 4055(4/ 106/11)となり,各藻類とも添加濃度による差がない 傾向であった(Table 1)。ウナギ仔魚には,遊泳しなが ら口を開閉する行動が常態的に観察された。また,体幹 を Ω 姿勢16)にして瞬発的に突進するような行動も時折 観察された。しかしながら,それらの行動を確認した時 点で直ちにサンプリング検鏡を行っていないため,それ が能動的な摂食行動かどうかは判断できなかった。仔魚 の分布状況については,中表層に浮遊・静止した個体や 水平移動する個体もいれば,底層と中表層を緩慢に鉛直 移動している個体も半数ほど観察された。しかし,サメ 卵主体懸濁態飼料を与えた飼育1)に見られるような水槽 底面への蝟集とは明らかに分布が異なっていた。 尾虫類の給与試験 ウナギ仔魚を収容した 5 日齢の 時点でビーカー内には変態後のワカレオタマボヤ幼若体 (ふ化 12 日目)と放棄ハウスが約 58 個/mL の密度で 発生していた。しかし,試験開始時点では仔魚は輸送ス トレスの影響を受けており,かつ発達段階初期でもあっ たため,遊泳活性が低く摂食行動は観察できなかった。 その後,ワカレオタマボヤの日齢・体サイズに関わらず ウナギ仔魚を同居させた状態を維持したところ,7 日齢 には遊泳活性が回復した。そして,9 日齢には各ビー カーの摂取個体がそれぞれ 3,1,1 尾となり合計 16 (5/31)の個体において消化管内に内容物が観察され た。また,前腸部や中後腸には放棄ハウスと見られる半 透明物質が確認でき,肛門からは発生段階初期のオタマ ジャクシ型幼生17)の尾部と見られる形状物の排泄を確 認した(Fig. 3)。なお,ウナギ仔魚の分布と遊泳行動 は藻類試験と同様であり,遊泳しながら口を開閉する行 動が常態的に観察された。 考 察 本研究結果は,自然界におけるウナギ目仔魚の食性に 関する既往知見47)を実験室規模で検証した初めての事 例であり,今後の初期餌料開発を進めるうえで重要な情 報を含んでいると考える。今回用いた餌料生物からの産 生物質は,天然ウナギ仔魚が摂餌するマリンスノー7)の 性状(栄養組成,物性など)を明確に示すものではない が,初期餌料の基質,いわゆるプラットフォームとして 利用できる可能性がある。本研究では,これまでに餌料 としての使用実績があり比較的に培養が容易な微細藻類
Fig. 1 Transparent exopolymer particle (TEP) exudates by two microalgae stained with Alcian blue. Many particles and microor-ganisms are attached to TEP. a, Rhodomonas sp.; b, Cyclotella sp. Scale bar is 10 mm.
Fig. 2 The gut contents of hatchery-reared Japanese eel Anguilla japonica larvae in the algal feeding trial. a, TEP produced by Cy-clotellasp. (arrow) were excreted out of the end of the mid-hind gut on 16 dph (days post-hatch); b, TEP produced by Chaetoceros calcitrans (arrow) in the foregut on 17 dph; c, TEP produced by Rhodomonas sp. (arrow) in the mid-hind gut on 18 dph; d, algal cells and TEP produced by Isochrysis galbana (arrow) in the foregut on 21 dph. Scale bar is 0.1 mm.
Fig. 3 The gut contents of hatchery-reared Japanese eel Anguilla japonica larvae in the appendicularian feeding trial. a, a discard-ed house (DH) producdiscard-ed by the appendicularian Oikopleura dioica (arrow) in the foregut on 9 dph (days post-hatch). Scale bar is 1.0 mm; b, a larval tadpole body (arrow) was excreted out of the end of the mid-hind gut on 9 dph. Scale bar is 0.1 mm.
Table 1 Feeding incidence of hatchery-reared Japanese eel Anguilla japonica larvae on algal cells and TEP originating from four microalgae
Tested food item Addition to treatment seawater Feeding incidence (ˆsh ingested/ˆsh observed)on various days post-hatch of larvae Cyclotellasp. 10 dph 16 dph 18 dph 23 dph
Cell concentration (×104cells/mL) 5 3/5
10 5/5 5/5 20 4/5 40 4/5 Percentage of supernatant() 5 5/5 10 3/10 4/4 20 6/10 5/5 Rhodomonassp. 11 dph 19 dph 26 dph 17 dph Cell concentration (×104cells/mL) 20 5/5 4/5
40 1/5 5/5 5/5 80 4/5 5/5 5/5 160 4/5 Percentage of supernatant() 10 8/10 20 10/10 Chaetoceros calcitrans 12 dph 17 dph 20 dph Cell concentration (×104cells/mL) 100 7/15 5/5
200 2/5 6/15 5/5 400 3/5 13/15 5/5 800 5/5
Isochrysis galbana 14 dph 21 dph 28 dph 19 dph Cell concentration (×104cells/mL) 50 3/5
100 1/6 4/5 5/5 200 4/6 5/5 5/5
400 5/6 5/5
Percentage of supernatant() 10 6/11
20 4/10
Liquid layer of algal culture water after left standing overnight, including TEP
や尾虫類を培養することでマリンスノーの起源物質を供 給し,天然ウナギ仔魚と同様に海水中に浮遊懸濁した状 態で摂取させることができた(Figs. 2, 3)。微細藻類を 用いた事例では,ふ化後日齢と細胞濃度に伴い摂取個体 率と消化管の充満度が高くなる傾向も見られたことから (Table 1),添加濃度と遭遇持続時間によっては摂餌機 会の向上も期待できる。本試験で観察された遊泳しなが らの口の開閉行動は海水を飲みながら微粒子を摂取して いる可能性4)を示唆するものとも考えられる。また,時 折観察された Ω 姿勢16)がヒラメ Paralichthys olivaceus と同様に攻撃行動あるいは摂餌行動の前兆とするなら ば,大型粒子(TEP 凝集物や放棄ハウス・尾虫類幼生) を餌として認識している可能性も考えられる。このよう な行動は,シオミズツボワムシ Brachionus plicatilis sp. complex の S 型株を与えた飼育事例においても 9 日齢 ウナギ仔魚で確認されている。18)尾虫類を用いた事例で は,発生段階初期の幼生17)と放棄ハウスのみならず培 養水中に存在する微細藻類由来の TEP も利用できる可 能性があるため,仔魚の成長過程に伴う餌料系列を考慮 する上でも複合的な初期餌料源として期待できる。一方 で,TEP および放棄ハウスとも透明に近いため,本研 究では仔魚の消化管充満度を正確に把握することはでき なかった。しかし,検鏡下において消化管を圧迫・開腹 することにより,これらゲル状物質の存在を確認できた ことから(Figs. 2a, 3b),実際の取り込み状況について は観察結果よりも高く評価できる可能性もある。今後 は,消化管充満度の定量化についても検討する必要があ る。 現状のウナギ仔魚飼育は,アブラツノザメ卵主体の懸 濁態飼料1)を水槽底面に敷き詰めて仔魚の負の走光性を 利用して水槽底面に蝟集させ,強制的に短時間摂餌させ る形態である。このため,摂餌不良や給餌・残餌洗浄に
会が増加し,初期成長・生残の改善も期待できる。ま た,環境負荷の少ないマリンスノー様の懸濁態飼料なら ば通常の換水により残餌は自然排出されるので飼育管理 も簡素化できる可能性がある。なお,TEP8)や放棄ハウ ス5)自体は多糖類を主体とする栄養価の低い物質である ため,長期的な飼育に供する場合には成長・生残につな がる必須栄養素が不足している可能性があり,何らかの 栄養強化を検討する必要があると考えられる。 海洋生態系において TEP は細菌などの生息場あるい は付着基質となっており,微小な従属栄養者や粘液食者 にとって栄養価の高い有機物であることが知られる。8) また,2009 年に実施された西マリアナ海嶺海域におけ るウナギ産卵場生態調査で採集されたニホンウナギ前葉 形 仔 魚 ( https: // www.fra.aŠrc.go.jp / kseika / 211028 / program5.pdf,水産総合研究センター第 7 回成果発表 会講演要旨,2015 年 4 月 13 日)の消化管には尾虫類 の放棄ハウスや動物プランクトン糞粒が一部の個体で見 られるものの,多くの個体では TEP に物性が似たゲル 状物質が消化管の大半を占める様子が観察されている (望岡ら,未発表)。これらのことから,実際にウナギ仔 魚が栄養源として利用しているのは成長・生残に必要な 適度の栄養素と有用細菌を備えた消化吸収しやすいゲル 状物質ではないかと推測される。咽頭部が狭小なウナギ 仔魚19)にとって,このようなゲル状物質は摂食行動を 主につかさどる嚥下機能を正常に維持する上でも有利な のかもしれない。自然界に存在するマリンスノーはゲル 状物質(TEP など)や粘膜状構造物(放棄ハウスなど) を基質として微粒子(細菌,原生動物,動植物プランク トンの死骸,糞粒など)が複雑に絡まっているものと推 測されている。38,20,21)また,海水中には有機物濃度の高 い微小環境いわゆる“ホットスポット”といわれるゲル マトリックスが不定形かつ不均一に存在することが知ら れる。22)すなわち,ウナギ仔魚は発達段階初期から海水 を飲み続けることにより,23)放棄ハウスやマリンスノー などの巨視的サイズの粒子のみならず,海水中に潤沢に 存在する,よりミクロスケールの DOM・POM やコロ イド粒子,24)サブミクロン粒子25)を栄養源としている可 能性が高く,こうした凝集物のひとつである“ホットス ポット”22)を利用している可能性も考えられる。これら のことは,ウナギ仔魚が貧栄養の外洋域で生息するため の戦略の一つとも推測され,動物プランクトンレベルの 低次栄養段階7)であることに起因しているのかもしれな い。 一方で,本研究のような人為的環境下においてウナギ 仔魚の中層摂餌を促すためには生息海域に倣った環境制 化手法の開発と併せて仔魚への継続的な給与効果を検証 する必要がある。 謝 辞 本研究推進にあたり,格段のご配慮をいただいた増養 殖研究所養殖システム部長の日向野純也博士ならびに同 資源生産部長の 田 博氏に厚くお礼申し上げる。本稿 をとりまとめるにあたり,中央水産研究所水産遺伝子解 析センターの張 成年博士には貴重なご助言をいただい た。ここに記して深甚なる謝意を表する。さらに,本稿 のご校閲を賜った匿名の査読者の方々ならびに担当編集 委員には多数の有益なご助言をいただいた。心から感謝 申し上げる。本研究は農林水産技術会議委託プロジェク ト研究「天然資源に依存しない持続的な養殖生産技術の 開発」の一環として行われた。 文 献
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