耐震・防災対策を兼ね備えた PCaPC 造荷捌き施設の施工
―串本地区農林水産物集出荷貯蔵施設―
大阪支店 PC 建築部 寺尾守弘 大阪支店 PC 建築部 小谷 学 大阪支店 PC 建築部 屋田研郎 概要:本施設は本州最南端に位置する和歌山県串本町で建て替えられた地元漁協の水産物荷捌き施 設である.これまで使用されてきた2 棟の建物は毎年接近する台風による暴風雨や長年に亘る塩害 をうけ,耐久性の低下が顕著であった.特に主要の北棟は使用禁止に至る程の劣化状態にあり,漁 協の最盛期の操業に支障をきたす事から 2010 年に建替計画が立案された.建替計画においては, 耐塩性・施工時の環境負荷低減・大空間の確保,これら3 点が重要視され,すべての要求を満たす ことができる PCaPC 造による建替え案が採用された.また,この地は想定される南海トラフ巨大 地震に伴う影響を直接的に受けるため,津波避難タワーが併設されている点も特徴的である. Key Words:耐塩性,環境負荷低減,大空間,分割大梁 図-1 工事場所 写真-1 完成写真 1.はじめに 串本町は,2005 年に西牟婁郡串本町と東牟婁郡古座町が新設合併し,新「串本町」となった.旧串本町は 西牟婁郡に属していたが広域行政や経済面などで新宮市および東牟婁郡との結びつきが比較的強かった歴史 的経緯から合併にあわせて所属郡は東牟婁郡となった.海岸部は吉野熊野国立公園地域にも指定され,潮岬 の他,国の天然記念物である橋杭岩や世界で唯一の「非珊瑚礁海域に存在する珊瑚礁」があり日本初の海中 公園にもなった地域を含む沿岸海域がラムサール条約に登録されている.串本町の中心部に位置する串本漁 港は町の産業の中心を担う施設であり,毎朝カツオやマグロ等の新鮮な魚貝類が水揚げされている(町魚は トビウオ).特に串本町が発祥とされるケンケン漁法でとれたカツオを「しょらさん(優しい)鰹」と言い, 串本ブランドとして売り出し中である. 工事場所 寺尾守弘 小谷 学 屋田研郎2.計画概要 本物件は計画当初,階高7.0m の平屋造りとして 2010 年より計画されていたが,計画立案時と基本設計を 跨ぐ時期にあたる2011 年 3 月 11 日に東北地方太平洋沖地震が発生している.津波の被害想定に対する見直 しが各地で行われた中で,和歌山県串本町では南海トラフを震源とする巨大地震に対して,内閣府の検討会 やワーキンググループが推計した被害想定が,2012 年 8 月 29 日に公表された.マグニチュード 9.0 の地震 が発生した場合,和歌山県内で最大震度7 が予想され,串本町では津波の到達時間が最短で 2 分,津波の高 さは最大18 メートルに達するとされた.これは 2006 年に発表されていた和歌山県の従来の想定であった最 大津波高さ4.3~8.8m の約 2 倍の規模であった.図-2 に津波被害想定の推移を示す。 2006年 (和歌山県) 2012年 (国) 地震規模 マグニチュード 8.7 マグニチュード 9.0 最大津波高 4.3~8.8m 8.0~20.0m 想定浸水区域 6,292ha 10,660ha 最短津波到達時間 第 1 波のピーク:6 分 津波高 1.0m:2 分 最大被害想定(人的被害) 約 5,000 人 約 80,000 人 最大被害想定(物的被害) 約 10 万 5 千棟 約 19 万棟 図-2 平成 18 年の和歌山県被害想定と平成 24 年の国の比較 この想定津波高さをクリアする為に,階高を上げ建物本体に避難施設を設ける案等が提案されたが,コ スト高に繋がった為,最終的にはEXP-J を設け階高 8.6m の卸売市場と鉄骨造の避難タワーを併設する計 画となった.また,計画変更に伴うコスト及び工程の調整の為,約5.0 ヶ月間工程が遅れる結果となった. 図-3 に設計工程の推移,図-4 に基本設計時プランを示す. 図-3 設計工程の推移 図-4 基本設計時プラン 実 施 工 程 工 事 基本・実施設計 構造設計 意匠設計 申請・協議 意匠設計 申請・協議 工 事 計画 9月 10月 11月 12月 5月 6月 7月 8月 計画 基本・実施設計 構造設計 4月 計 画 工 程 2012.1月 2月 3月 基本計画図 行政等事前協議 基本設計 実施設計 構造設計 設備設計 確認審査・適合性判定 基本計画図 基本設計 実施設計 構造設計 設備設計 確認審査・適合性判定 行政等事前協議 着工 解体 南 海 ト ラ フ を 震 源 と す る 巨 大 地 震 に 関 す る 被 害 想 定 の 発 表
3.工事概要 3.1.工事概要 工事名称 :串本地区農林水産物集出荷貯蔵施設 発注者名 :和歌山東漁業共同組合 所 在 地 :和歌山県東牟婁郡串本町串本漁港地先 用 途 :卸売市場 階 数 :地上2 階 建築高さ : 9.2 m 建築面積 : 3,344.95 m2 延床面積 : 3,760.40 m2 構 造 :PCaPC 造(一部 S 造) 基 礎 :杭基礎 設 計 :株式会社 センク21 監 理 :株式会社 岡本設計事務所 施 工 :株式会社 小森組 P C 施工 :株式会社 ピーエス三菱 大阪支店 工 期 :2012 年 12 月 1 日~2014 年 3 月 31 日 図-5 構造パース P C 工期 :2013 年 7 月 15 日~2013 年 9 月 5 日 3.2.構造計画 本施設はスパン方向27m,桁行方向 9.6m×9 の全長 86.4m,階高 8.6m という大空間の荷捌きスペースが PCaPC 柱・梁,PC 床版の組合せで構築されている.特に 27m スパンの大梁は 3 分割で工場製作され,500t クレーンにて支保工上に架設,トップコンクリート打設後にプレストレス導入し一体化されている.図-5に 構造パースを示す.分割梁に関してはトップコンクリート打設後に緊張を行うため,施工時の応力を考慮せ ず,一貫計算で算出した値を直接使用して検討を行った.検討の結果,梁せいは1,800mm,となったが,梁 中央部をT型断面とする事で部材の軽量化を図った.図-6 に主要部材の断面リストを示す.最終的に分割大 梁の重量は一体化後の重量で約55.4t になり梁の中央部 2 箇所を支保工で支承して施工を行った.写真-2 に 分割大梁の施工状況を示す. 図-6 主要部材 断面リスト 写真-2 分割大梁施工状況
4.PCaPC 工事計画 4.1.PCa 部材の製作及び現場工程 PCa 部材の製作はピー・エス・コンクリート(株)兵庫工場で,スパン方向大梁部材(30p:549t),桁方向 大梁部材(36p:415t),(株)安部日鋼で柱部材(40p:677t), DT 床版(138p:502t),バルコニー版(18p:54t) をそれぞれ製作した.製作期間は2013 年 4 月中旬より 2013 年 7 月中旬までの約 3 ヶ月であった.部材数は 合計262p,部材重量は 2,197t となった.図-7 に製作工場範囲を図-8 に製作及び現場工程を示す. 部材の構造断面及び最大寸法,コンクリート強度はそれぞれ柱部材1,100×1,400(17.71t/P)Fc=60N/mm2, 桁梁部材600×1,000(16.15t/P)Fc=60N/mm2,スパン梁(分割梁)700×1,800(20.25t/P)Fc=60N/mm2, DT 版 2,000×300(4.90t/P)Fc=50N/mm2,バルコニー版 2,420×250(3.43t)Fc=50N/mm2となる. 図-7 製作工場範囲 図-8 製作及び現場工程 DT 床版(138p) 安部日鋼 バルコニー版(18p) 安部日鋼 桁梁部材(36p) ピー・エス・コンクリート 兵庫工場 スパン梁部材(30p) ピー・エス・コンクリト兵庫工場 柱部材(40p) 安部日鋼 2月 3月 2013.1月 6月 型枠工事 鉄骨工事 プレキャスト工事 土工事 杭工事 鉄筋工事 コンクリート工事 4月 5月 7月 8月 9月 10月 2014.1月 2月 3月 屋外付帯工事 ガラス工事 塗装工事 内外装工事 設備工事 11月 12月 梁部材 柱部材 床版部材 ALC工事 建具工事 屋根・樋工事 金属工事 左官工事 防水工事 杭打ち工事 土工事 基礎配筋 基礎型枠 ALC工事 支保工 鉄骨工事 基礎CON打設 腰壁・デッキ・スラブ・土間CON打設 PCaPC工事 地上躯体・パラペット他型枠 左官工事 防水工事 庇 庇鉄骨 金属工事 鉄骨部サッシ・トップライト PC部サイン ガラス工事 屋外付帯設備工事 設備工事 プラットフォームCON 内外装工事 製作図 型枠 型枠 型枠 梁部材製作 柱部材製作 床版部材製作
4.2.PCa 部材の建方 PCa 部材の建て方は 7 月 15 日より開始され 9 月 3 日の完了日まで実働で 40 日であった. 図-9 にPC 工事工程を図-10 に建方順序を示す. 図-9 PC工事工程表 図-10 建方順序図 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 1 2 3 4 5 8月 9月 1階柱脚部 機械式継手充填 7月 クレーン 支保工 2SL.M1階 スパン梁架設 バルコニー版架設 1,2階 柱グラウト 2FL.M1階 スパン梁緊張 梁グラウト 片付け・機材返却 支保工解体 2階 柱PC鋼棒緊張 2SL桁梁緊 2SL.M1階 桁梁PCW入線 2FL.M1階 桁梁目地充填 2FL.M1階 桁梁架設 2階柱脚部 機械式継手充填 2階 柱建方 2階 鋼棒先建 1階 柱建方 1階 鋼棒先建 準備工事 1階 柱PC鋼棒緊張 2SL階 桁梁PCW入線 2SL階 桁梁目地充填 2SL階 桁梁架設 合成床版 DT版架設 2SL.M1階 スパン梁目地充填 2SL.M1階 スパン梁PCW入線 2FL.M1階 桁梁緊張 強度発現養生期間 (20N/mm2以上) トップコンクリート 打設 スラブ筋配筋・型枠 PC鋼棒 32φ-80c 機械式継手 528箇所 柱部材 20P 梁部材 18P 7s-15.2 4c×2梁 プッシングマシーン使用 PC鋼棒 32φ-80c PC鋼棒 32φ-80c 柱部材 20P 機械式継手 528箇所 梁部材 18P 5s-15.2 4c×2梁 プッシングマシーン使用 7s-15.2 4c×2梁 両引 PC鋼棒 32φ-80c BAL部材 18P スパン梁 30P 9s-15.2 4c×10梁 DT床版 138P スラブ部配筋・型枠 トップコン打設 5s -15.2 4c×2梁 両引 9s-15.2 4c×10梁 両引 外部足場・梁支保工 プッシングマシ-ン用 ステージ 梁支保工 緊張用足場 BAL支保工梁支保工 10t×2台 500t×1台 ①1 階柱部材建方 ②2SL 階桁梁架設 ④2FLM1 階桁梁・バルコニー版架設 機械式継手接続 PCW 入線 目地充填 鋼棒緊張 ③2 階柱部材建方 機械式継手接続 目地充填 PCW 入線 桁梁緊張 鋼棒緊張 ⑤スパン梁架設 目地充填 PCW 入線 ⑥DT 版架設・トップコン打設 スパン梁緊張
柱部材は製作の関係上,運搬時の荷姿が現場での架設方向と変わってくるため,柱部材の架設は仮置き後, 柱の向きを直してから所定の位置に設置した.柱の取り付は柱内部に配置された PC 鋼棒を予め基礎部分に 埋め込んだ PC 鋼棒と接続し,柱頭部にて仮締めを行うことで自立させた.これにより,建て入れサポート を使用せずに建ち調整を行うことができた.柱の接合方法は PC 鋼棒だけではなく,鉄筋も併用し機械式継 手で接合している.写真-3 に柱の架設状況を示す. 写真-3 柱部材架設状況 梁部材は運搬車両から直取りでする事で作業の省力化を図り,1日平均で9p(3梁分)の架設を行った.長辺 方向は全長が86.4mありPC鋼より線の長さは約90mとなった.そのためPC鋼より線の挿入作業はプッシング マシーンを使用し,素線1本ずつ入線をおこなった.写真-4に梁の架設状況を示す.桁梁の使用鋼材は2階と R階でそれぞれ7c-5s-15.2φ,4c-5s-15.2φを使用し,4970KN,3550KNの緊張力を導入した. 3分割大梁は一部材あたり20t以下となる様に目地位置を決定したが,PC鋼材の配線のR部分と重なる位置 であった.そのため通常使う飛出しシースは使用せず,目地部をコッター上の形状とし,分割シースにて施 工を行った.また,分割梁の緊張力は6c-9s15.2φを使用し,約9,600KNの緊張力を導入した.部材の架設, 目地充填,PC鋼材入線の一連の作業を延べ4日で完了した.写真-5に梁部材の施工状況,図-11に目地詳細を 示す. 写真-4 梁部材架設状況
図-11 目地詳細図 写真-5 目地施工状況 DT 床版のPC 鋼材は 4c-1s15.2φ が使用されており,中央サポートがなくてもトップコンクリートの荷重 に耐えることが可能である.写真-6 に DT 床版の施工状況、写真-7 に製作状況を示す. 写真-6 DT 床版施工状況 写真-7 DT 床版製作状況 5.まとめ 本工事はPCa・PC 工法の特性を最大限に生かす事のできた工事であり, 柱,梁,床部材等精度の高い工 場製品を現場で組み立てることで,支保工・型枠・廃材および騒音などを減らし,施工時の安全性・作業性 の向上に貢献することができた.また,PCaPC 構造の建築物は在来工法より約 25%程度の CO2を削減できる とされている.高強度・高品質のコンクリートを使用する PCaPC造は建物寿命が長く,建設と解体での年間換 算発生 CO2が少ない為,環境負荷低減に貢献していると言える.