Ⅺ-36
泌尿器科
担当者:中村 一郎#1 尿路・性器感染症に対する治療
Ⅰ.急性単純性膀胱炎
(1)外来治療でよい。 (2)保温、十分な水分摂取、頻回に排尿。 (3)薬物療法(経口抗菌剤):注射は必要ない。 (4)治療開始前に尿細菌培養を行う。 (5)抗菌薬の投与法 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――経口抗菌剤
5〜7日
有効
休薬
1週間後に
再発チェック
無効
感受性のある経口剤
に変更
経口抗菌剤
5〜7日
有効
休薬
1週間後に
再発チェック
無効
感受性のある経口剤
に変更
【経口薬の処方例】 ペニシリン系:SBTPC(ユナシン錠)(375mg) 1 回1錠、1 日3回 セフェム系:CPDX-PR(バナン錠)(100mg) 1 回1錠、1 日 2 回 新キノロン系:LVFX(クラビット錠)(500mg) 1 回1錠、1 日 1 回Ⅱ.複雑性膀胱炎
(1)外来治療でよい。 (2)保温、十分な水分摂取、頻回に排尿。 (3)薬物療法(経口抗菌剤):注射は必要ない。 (4)治療開始前に尿細菌培養を行う。 (5)抗菌薬の投与法: (6)尿路の基礎疾患の治療も同時に行う。 【経口薬の処方例】 ペニシリン系:SBTPC(ユナシン錠)(375mg)1 回1錠、1 日3回Ⅺ-37 セフェム系:CPDX-PR(バナン錠)(100mg) 1 回1錠、1 日 2 回 新キノロン系:LVFX(クラビット錠)(500mg) 1 回1錠、1 日 1 回
Ⅲ.急性腎盂腎炎
(1)入院治療が原則。(urosepsis の危険性を十分に説明) (2)安静、十分な水分補給、頻回に排尿または持続導尿。 (3)薬物療法:原則として注射薬を使用。 (4)治療開始前に尿細菌培養(場合により血液培養)を行う。 (5)抗菌薬の投与法: 全身状態悪化ならば緊急入院を! (6)化学療法の完了は自覚症状の消失だけでなく、尿所見、血液検査上での炎症反応の軽快 で判定。 (7)休薬 1 週間後に再発チェック。 (8)必要に応じて尿路の基礎疾患を検索し、その治療を速やかに行う。 【入院中の注射薬の処方例】 ペニシリン系: TAZ/PIPC(ゾシン) 1 日 4.5 〜 9g、分 2、点滴静注 セフェム系:CTM(セフォチアム) 1 日 2 〜 4g、分 2、点滴静注 アミノグリコシド系:AMK(アミカシン)(200mg) 1 日 2 回、点滴静注 または筋注 ペネム系:MEPM(メロペネム)(0.5g) 1 日 1.0 〜 1.5g、分 2-3、点滴静注 【解熱後の経口薬の処方例】Ⅺ-38 ペニシリン系:SBTPC(ユナシン錠) (375mg)1 回1錠、1 日3回 セフェム系:CPDX-PR(バナン錠)(100mg) 1 回1錠、1 日 2 回 新キノロン系:LVFX(クラビット錠)(500mg) 1 回1錠、1 日 1 回 CPFX(シプロキサン錠)(200mg) 1 回1錠、1 日 2 回 【入院不可能の場合の処方例】 セフェム系:CTRX(セフトリアキソン Na)1 日 1 〜 2g、分 1、点滴静注 または アミノグリコシド系:AMK(アミカシン)(200mg) 1 日 1 回、点滴静注 または筋注 + 新キノロン系:LVFX(クラビット錠)(500mg) 1 回1錠、1 日 1 回 CPFX(シプロキサン錠)(200mg) 1 回1錠、1 日 2 回
Ⅳ.急性前立腺炎
(1)入院治療が原則。(urosepsis の危険性を十分に説明) (2)安静、十分な水分補給、頻回に排尿または間欠導尿。 (3)薬物療法:原則として注射薬を使用。 (4)治療開始前に尿細菌培養(場合により血液培養)を行う。 (5)前立腺マッサージは禁忌。 (6)抗菌薬の投与法: 全身状態悪化ならば緊急入院を! (7)化学療法の完了は自覚症状の消失だけでなく、尿所見、血液検査上での炎症反応の軽快 で判定。Ⅺ-39 (8)休薬 1 週間後に再発チェックとともに前立腺マッサージを行い慢性化所見の有無をチェ ック。 (9)治癒判定後、PSA をチェック。 【入院中の注射薬の処方例】 ペニシリン系:TAZ/PIPC(ゾシン) 1 日 4.5 〜 9g、分 2、点滴静注 セフェム系:CTM(セフォチアム) 1 日 2 〜 4g、分 2、点滴静注 アミノグリコシド系:AMK(アミカシン)(200mg) 1 日 2 回、点滴静注 または筋注 ペネム系:MEPM(メロペネム)(0.5g) 1 日 1.0 〜 1.5g、分 2-3、点滴静注 【解熱後の経口薬の処方例】 ペニシリン系:SBTPC(ユナシン錠)(375mg) 1 回1錠、1 日3回 セフェム系:CPDX-PR(バナン錠)(100mg) 1 回1錠、1 日 2 回 新キノロン系:LVFX(クラビット錠)(500mg) 1 回1錠、1 日 1 回 CPFX(シプロキサン錠)(200mg) 1 回1錠、1 日 2 回 【入院不可能の場合の処方例】 セフェム系:CTRX(セフトリアキソン Na)1 日 1 〜 2g、分 1、点滴静注 または アミノグリコシド系:AMK(アミカシン)(200mg) 1 日 1 回、点滴静注 または筋注 + 新キノロン系:LVFX(クラビット錠)(500mg) 1 回1錠、1 日 1 回、または CPFX(シプロキサン錠)(200mg) 1 回1錠、1 日 2 回
Ⅴ.急性精巣上体炎
(1)入院治療が原則。(urosepsis の危険性を十分に説明) (2)安静、十分な水分補給、頻回に排尿。 (3)薬物療法:原則として注射薬を使用。 (4)治療開始前に初期尿検体で、クラミジア EIA(抗原)、尿細菌培養を行う。 (5)急性前立腺炎の合併に注意。Ⅺ-40 (6)抗菌薬の投与法: 全身状態悪化ならば緊急入院を! (7)化学療法の完了は自覚症状の消失だけでなく、尿所見、血液検査上の炎症反応の軽快で 判定。 (8)休薬 1 週間後に再発チェック。 (9)淋菌性の場合は CTRX(セフトリアキソン Na)の有用性が高い。 【入院中の注射薬の処方例】 ペニシリン系:TAZ/PIPC(ゾシン)1 日 4.5〜 9g、分 2、点滴静注 アミノグリコシド系:AMK(アミカシン)(200mg) 1 日 2 回、点滴静注 または筋注 ペネム系:MEPM(メロペネム)(0.5g) 1 日 1.0 〜 1.5g、分 2-3、点滴静注 【解熱後の経口薬の処方例】 テトラサイクリン系:MINO(ミノマイシン Cap)(100mg) 1 回1錠、1 日 2 回 新キノロン系:LVFX(クラビット錠)(500mg) 1 回1錠、1 日1回 CPFX(シプロキサン錠)(200mg) 1 回1錠、1 日 2 回 【入院不可能の場合の処方例】 セフェム系:CTRX(セフトリアキソン Na)1 日 1 〜 2g、分 1、点滴静注 または アミノグリコシド系:AMK(アミカシン)(200mg) 1 日 1 回、点滴静注 または筋注 + 新キノロン系:LVFX(クラビット錠)(500mg) 1 回1錠、1 日 1 回 CPFX(シプロキサン錠)(200mg) 1 回1錠、1 日 2 回
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Ⅵ.淋菌性尿道炎
(1)外来治療でよい。 (2)保温、十分な水分摂取、頻回に排尿。 (3)薬物療法は経口抗菌剤単独または単回注射薬投与。 (4)治療開始前に初期尿検体で淋菌核酸増幅同定、クラミジア EIA(抗原)、尿細菌培養を提 出する。 (5)抗菌薬の投与法: ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― (6)治癒しない場合、クラミジアの合併を考慮。 (7)パートナーの治療を必ず行う。 【経口薬の処方例】 ペニシリン系、新キノロン系は通常効かない!(感受性あれば使用) セフェム系:CPDX-PR(バナン錠)(100mg) 1 回1錠、1 日 2 回 テトラサイクリン系:MINO(ミノマイシン Cap)(100mg) 1 回1錠、1 日 2 回 【注射薬の処方例】 セフェム系:CTRX(セフトリアキソン Na) 1g、単回投与、静注Ⅶ.非淋菌性尿道炎
(1)外来治療でよい。 (2)保温、十分な水分摂取、頻回に排尿。 (3)薬物療法は経口抗菌剤単独投与。 (4)治療開始前に初期尿検体で淋菌核酸増幅同定、クラミジア EIA(抗原)、尿細菌培養を提 出する。 (6)パートナーの治療を必ず行う。 (7)抗菌薬の投与法:Ⅺ-42 【経口薬の処方例】 ペニシリン系、セフェム系は通常効かない!(感受性あれば使用) 新キノロン系:LVFX(クラビット錠)(500mg) 1 回1錠、1 日 1 回 CPFX(シプロキサン錠)(200mg) 1 回1錠、1 日 2 回 テトラサイクリン系:MINO(ミノマイシン Cap)(100mg) 1 回1錠、1 日 2 回 マクロライド系:CAM(クラリス)(200mg) 1 回1錠、1 日 2 回 AZM(ジスロマック SR 成人用ドライシロップ)(2g)1 日 1 回、単回投与
● 尿路感染症治療の際の留意点(まとめ)
<治療の前に>
理学所見は感染巣を示唆する。検査所見や画像が前医から提供されている場合でも、必ず現 病歴の聴取と診察を行う。背部叩打、腹部・外性器視診触診、直腸診は必須である。 (1)過敏症および過去の医薬品による副作用歴の確認。 (2)既往歴および合併症の有無。 (3)現在服用中の医薬品。 (4)妊娠、授乳の有無。 (6)職業情報。 (7)腎機能低下例(高齢者など)の予測。<尿路感染症患者への生活指導>
(1)尿は我慢しない。 (2)トイレットペーパーは前から後ろへ。 (3)外陰部は清潔に。 (4)下腹部は冷やさない。 (6)通気性の悪い下着は避ける。 (7)セックスは治るまで避ける。 (8)便秘はしないよう。 (9)酒類、刺激物は飲食しない。 (10)普段から水分摂取を心掛ける。#2 周術期感染予防
泌尿器科は外科系臨床科の中でも特に多くの手法を用いて手術を行っている。その術式ごと に術野の清潔度は異なり、また同じ術式であっても患者の全身状態、術中所見(手術時間、 手技など)によって感染のリスクも変化する。<周術期感染予防の原則>
(1)開放手術が長時間にわたる場合は 3-4 時間に 1 回はゴム手袋を交換する。その他術野の 汚染状況により適宜ゴム手袋を交換する。 (2)剃毛は最小限とし、術前日の剃毛はできるだけ避け、必要な場合でも可能な限り手術直 前の剃毛とブラッシングを行う。 (3)常に迅速かつ確実な手術の遂行を心掛ける。 (4)皮膚切開の直前に抗菌薬を投与し、長時間手術では術中に 2 回目の抗菌薬を考慮する。Ⅺ-43 (5)予防的抗菌薬投与と治療的抗菌薬投与を区別して対応する。 (6)予防投与では術中投与のみ〜術後 3 日間までとし、漫然と投与しない。 (7)治療投与では 5〜14 日間をめどとし、適宜検査を行いながら適切な抗菌薬を選択、変更 する。
#3 泌尿器科手術における周術期管理
【術前】 •手術までの入院期間の短縮(可及的に外来で術前検査) •検尿:尿路の開放を伴う手術症例に実施 UTI 認める症例では術前に抗菌薬投与を行う •治療可能症例:原則として治癒を確認して手術を行う •治療困難な症例(カテーテル留置症例など):手術前日より抗菌薬投与を行う •剃毛は行わない: 必要なら術当日にクリッパーにて、術野の手術に支障のある範囲のみ除毛を行う 【術中】 •周術期抗菌薬投与方法 初回投与は手術開始 30 分前とする 手術時間が 4 時間を超える場合は追加投与を行う •無菌手技の遵守 •手術手技 止血の徹底、術野の洗浄 死腔の軽減:皮下縫合 •術創の洗浄 •閉鎖式ドレーンの使用 【術後】 •創部は、著しい汚染がない場合 48~72 時間はドレッシング材にて覆う •尿道カテーテル、ドレーンの早期抜去 •ガーゼ交換時の滅菌手技の徹底:手袋の着用、滅菌機材の使用 •病棟回診時の手指消毒の徹底 •耐性菌感染患者の回診は最後にする :包交カートを患者のベッドサイドまで持ち込まず、必要な物品のみをベッドサイドまで持参 し、その場で使い切ることが望ましいⅪ-44
Ⅰ.泌尿器科開腹手術における周術期感染阻止薬投与方法
Ⅱ.経尿道的手術(TUR-P、TUR-Bt など)
(1)注射抗菌薬は原則として手術当日のみ(3 日以内に終了)。 (2)術前に尿路感染症が認められる場合は術前に予防投与し菌を陰性化する。 (3)経口抗菌剤は 3-7 日程度投与。 (4)抗菌薬の投与法: (5)治癒しない場合、基礎疾患の合併を検討。Ⅺ-45 【注射薬の処方例】 セフェム系:CEZ(セファゾリン) 1g ペニシリン系:ABPC/SBT(ユーシオン S)1.5g または TAZ/PIPC(ゾシン)4.5g 手術当日:術前と3-5 時間後投与、点滴静注 【経口抗生剤の処方例】 セフェム系:CPDX-PR(バナン錠)(100mg) 1 回1錠、1 日 2 回 新キノロン系:LVFX(クラビット錠)(500mg) 1 回1錠、1 日 1 回 またはCPFX(シプロキサン錠)(200mg) 1 回1錠、1 日 2 回 <経尿道手術の注意点> 注1:ニューキノロン系薬を使用する場合は可能な限り一回投与量を高用量とすることが推 奨される。 注2:排尿障害患者、DM、各種免疫不全状態、残存腫瘍がある場合等は 72 時間を超えない 範囲で長めに使用する。それ以外の患者では単回あるいは24 時間以内の使用を考慮し てもよい。 <前立腺生検のHigh risk 群に対して> ・LVFX(クラビット錠) 500mg×1(経口) 上記最大の検査前(0.5~2 時間)、検査 2 時間後および検査 8 時間後投与に加えて、翌 日以降、常用量を2 から 4 日継続投与 ・TAZ/PIPC(ゾシン)2.25g×3(点滴静注) 検査前0.5 時間、検査 4 時間後および検査 12 時間後投与に加えて、翌日以降、ニューキ ノロン系薬常用量を2 から 4 日間投与 ※High risk 群とは、 ①前立腺体積が 75ml 以上、糖尿病、ステロイド投与中、 ②高度排尿 障害(IPSS20 以上、Qmax 12ml/ min 以下、残尿 100ml 以上)、免疫不全患者
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Ⅲ.尿道膀胱鏡検査時の予防的抗菌薬投与方法
2008 年 12 月 10 日 作成 2014 年 1 月 10 日 改定