ブドウの早期落莫に閲す−る研究
Ⅶ 新梢基部葉からの82Pの吸収・移行について
樽 谷
勝 Ⅰ 緒 口 香川県地方のCampbell′s Early種ブドウ園の梅雨期落葉の発生原因を究明するため紅,さきに行なった調査と実 験(4,さ)に・おいて,園地の湛水・多湿,または湛水処理実験によって起こる新棺基部菓内の要素含盛の変化と不均衡 が,梅雨期落葉の一・原因となっているものと考えらかた。すなわち,梅雨期紅ブドウ園が湛水・多湿状態になること によって,土壌Ehが低下し,根の機能障害や葉の同化力減退などがみ.られ基部尭内のN,PおよびK含畳が減少し, 逆にCu含蒐の増加が諒とめられた。 本報は上述の資料から,さら紅梅雨期落葉の発生機構を究明するために′,82pを用いて基部葉からのリン酸の吸収と 移行状態を観察したものである。 本研究の遂行に.あたり,京都大学教授小林章博士ならびに本学部教授葦繹正義博士からご懇篤なるど指導を賜わり, また本実験紅対して本学部谷利一助教授,真鍋広光技官のご教示と協力をいただいた。あわせて深甚の謝意を表する。 (本報告の要旨ほ園芸学会中四国支部昭和45年度大会で発表した。) Ⅱ 材料および方法 1969年6∼7月の問,1/2000aのワグネルポッTLに植栽した1年生のCampbell′s Earlyを用い,新栴を2本分岐,伸 長させ,1枝を摘心し副槍を除き本楯のみ(除副桐枝)とし,他の 1披は鹿部の副相を伸長させたもの(有副棉枝)とし,それぞれ 木棺葉を12枚として,6月下旬までに.育成・準備した。6月30日に 土壌湿度を適湿状態紅保ったもの(適湿対伸区),湛水して硫酸寛 一傲液を潅注して■土壌還元を促進したもの(硫酸一一顧加用湛水処 理区)の2区を設けた。その両区について7月4日に,土壌Ehぉ よび細根の状態を調査したのち,RI使用施喪内に搬入し,籍1区l に示すよう紅,各校の基部第3,4節菓の表裳紅,それぞれ3つ 折りにしたガーゼを密着貼補し,a2p液(82p−H8PO4,3〃・C/粛; N/10KH2PO4)を各1柴当り6mgを表・裳のガーゼに注加した。 32p液の注加処理後,25時間ごと紅 Survey・meter紅よって, 各節菜のカウント数を測定した。また25時間後,100 フty(NoScreen)Ⅹ−レイプイルムによって,各節葉のRadio autogram(75時間露出)をとった(2・9)。さらに Geige巨M臼11er COunteI紅より各葉のカウント数を測定して,32pの基部葉からの 吸収と移行状態を相対的に比較した。 111結 果 1.土壌EhおよびpⅡ 6月30日に湛水処理を始め,7月4日に′各区の土壌払およびpH を測定した結果は寛1友紀示すとおりである。 1図 さ2P液の注加処理用ガ−ゼの 取付け状態すなわち,硫酸一鉄加用湛水処理区は, 碑湿対照区に・くらぺて,土壌Ehの低下 がいちじるしく,土壌が還元状態にある ことが認められた。 2.細根の状態 7月4日に細根の一部を採取して観察 したところ,鵠2図に示すように,適湿 筑1表 土壌EhおよびpH(7月4日測定) 往:東亜電波ⅩK製pH計HM−5A紅より測定。 対席区の細根は白色で陛仝状態であった のに対し,硫酸−・鉄加用湛水処理区の細根ほ,黒褐色∼黒色に変色し,微細な棚板はほとんど枯死状態にあった。 第2図 82P液の注加処理直前の細板状態 :適温対照区 :硫酸第一・鉄加用湛水処理区 仁 3・Sur†ey−meterによる測定 82p液の注加処理後,25時間ことにSuTuey meterによって,各節位葉の中央付近のカウント数を測定した結果は, 寛2表に示すとおりである。 寛2表 各節位葉に.おけるSurveymeterによる測定値(COunt/min.)
副梢の 仲:艮部位 100 時 間 後 往:上欄の葉位を示す数字は,32P液を百三加処理した菓位を0とした下位と上位の節位を示す。 すなわら,適温対照区および硫酸一・鉄加用湛水処理区ともに,除副栴枝および有副桐枝にかかわらず,82pの処理 築から吸収・移行したことが明らかに認めらかる。ちなみに湛水処理区の有副輪枝における処理其の上第1節位薫の, 25時間後におけるカウント数の葉蘭分布の状態は, 礫3図のとおりである。 4.RadioautogramおよびG.M.eoⅦnterによ る測定値 (1)Radio autogram 32p液注加処理25時謂後および100時間後における 各節位実のRadioautogI・amは,寛4図,算5図の とおりである。 第3図 25時間後に.おける82Pの葉両分布 3?P処理葉の上付1節葉(湛水処理区)Survey meter紅よる測定
香川大学農学部学術報告
第4図 $2P液注加処理25時間後のRadio autogram
すなわち,各区の各枝ともに.,各節位葉に32pが移行した状態が,明りように.認められる。薬位常よっては,適湿対 照区よりも,むしろ,硫酸−・鉄加用湛水処理区のほうが,より明りように移行・分布している状態がみられる。 (2)G.M.coumterによる測定 前項の RadioautogI■amに.供した各菓に.ついて,葉身基部の中央葉脈を含む3×4C珊部位の細断切片に.ついて, G.M.connterに.より,カウント数を測定した結果V3:.,箆3表に示すとおりである。 鴇3表 Pの移行を示す柴位別G.M.counter測定値の相対比較(COuTlt/3min.) 注‥ 上欄の葉位を示す数字は,82P液を注加処理した葉位を0とした上位の節位を示す。 すなわち,硫酸一鉄加用湛水区では,適温対照区よりもカクン1数が高い葉が多い。 また,有副杓枝では先部柴な らびに副柏の伸長部位に)比較的多く82pが移行・分布していることが認められる。 Ⅳ 考 察 植物体内におけるリン酸の移行・分布ならびに・その役割については,多くの報告や記述がある(l・2・3,6・7)。植物体内 に・吸収されたリン酸は,生長の盛んな部分に移行・集積し,細胞の増加に役立っているとされており,リン酸の植物 体内での移行と分布について32pを用いた観察は多く(1,2,3,6・7・8・9),いずれも同じような結果を得ている。 葉面散布またほ葉面庭塗布された肥料や82pが,いかなる機構や過程に.よって吸収・移行・分布・集積するかは,は なはだ興味ある問題である。谷田澤・東野(2,9,10)は.,リン僧沌代謝に関する研究において,トマトおよびコムギ幼植 物の葉面庭・B2pを含むKH2PO4液を塗り,一定時間後に・植物体の各部分の放射能を検出し,リン酸の柴面吸収が可能で あり,またきわめて有望であることを報告している。潮田(わは桑を用いて,82pを桑恭の表面と裏面紅別々に塗って, これが吸収されかたを比較した結果,裏面のほうがはるかに吸収が容易であることを知り,また同じ実験に.おいて, 下位の硬化菓ほ,上位(栴)に着生し{:いる若い薬よりも吸収が劣ることを認め,葉画の構造や葉のmetabolicactivity に.よって,肥料の葉蘭吸収が支配されることを述べている。 本実験の場合,32pを加え.たKH2PO4液を基部の第3・4節薬に.注加吸収せしめたことによって,そ・れより上位の各 節敷や副梢の仲良部位に,移行・分布していることが鮭認されたことは,上記の実験や記述と共通した胎果を得てい るものといえる。 さらに潮田・黒瀬(8)ほ,RadioautogIaphに.よって葉におけるPの分布が必ずしも左右対称的でないことを観察 し,吸収されたPは睨葉を通じて移行するが,葉脈分布が左右対称でないことに起因するものであるとしている。 この点,本実験の場合,1枚の完全葉の各部位における32pの放射能を測定した結果,第3図に示すように,葉の左 右または部位によってカウント数が異なることは,同氏らの観察結果に似たものがある。 葉面から吸収されたリン酸ほ,体内の各部分および葉のいずれの部分へ・も移動するが,最も速く,多左主をこ移行する のは新補先端部の生長旺盛な組織や花蕾濫多く集積するものとされている。また根部からB2pを吸収させた場合にも, 細胞形成の活発な若い組織,分裂組織,生殖器官などに分布が多いことが述べられており(6・7−),リン酸が葉面吸収さ
れたのち紅転移する位層ほ,根から吸収した場合とはとんど同様な経過をとるものであるとされでいる。広保($〉は,ブ ドウ樹に.おけるリン敵および石灰の移動・分布について,$2pおよび邪caを用いて,根からの吸収によって実験し, 32pの吸収・移動・分布の状態は,前記の各報告の結果と劇致しているこ.とを報皆している。 このように.リン酸が,生長旺盛な新栴先端部や細胞形成の活発な組織,生殖器官(花曹・果実)に移動・分布・集 積しやすいことからして,ブドウの発育が旺盛である梅雨期に・おいて.Lは,リン酸の移動が新栴の伸長部位や肥大しつ っある果房に滴ってこいるものと考え.られる。本実験の場合に,適湿対照区よりも硫酸一戯加用湛水処理区のほうが, また除副栴枝よりも有副棺枝において二,それぞれ82pの移行・分布が明りように・認められたことは,硫酸一傲加用湛水 処理区の細根が黒変し,その機能が低下したこと,ならび紅新梢が伸長しつつあったことに・よって,基部築からのリ ソ酸の移行が,他よりも比較的容易に・行われた結果であると解することができる。こ・のような観点からすると,前報(さ) に.おいて,湛水処理によって.結果枝基部葉に・おけるPおよびKの減少ならびに各要素相互間の不均衡を生じたことは, 理解に.かたくない。 っまり,結果枝基部腰庭.おける黄変・落葉を誘起する一機構として,要素養分の移行ならびに菓内含量の変化・不 均衡現象などが考えられる。とくに底部共におけるリン酸の移行と,そかに・ともなう要素相互間の不均衡によって生 ずる基部柴の糞変・落葉紅ついては,なお究明すべき問題が残さかて:いると思われる0 引 用 文 献 (1)麻生末雄,木下光則‥作物の養分移動に潤する研 究(第1報),燐酸の吸収・移動・分布−一特にカ ルシウムの相違に.ついてニ(その1),土肥誌,26(10), 387∼390(1955). (2)東野正三,谷田渾遺彦:リン酸の代謝に・かんする 研究(第1報),放射性同位元素の利用(1),滋賀農短 大学報,1,39∼41(1952) (3)広保 正,寺見広雄:ブドウ樹の栄養生理学的研 究(第6報),りん敵および石灰の移動および分布に・ っいて,園学誌,32(2),85∼90(1963)・ (4)梢谷 勝:ブドウの早期落度紅関する研究,Ⅴ梅 雨期の湛水・多湿が早期落葉に・及ばす影響庭ついて, 香川大農学報,21,207∼215(1970)・ (5)樽谷 勝‥プドクの早期落索に関する研究,Ⅵ新 栴基部索の黄変・落莫に.及ばす紫内妻菜含量の変 化について,香川大農学報,22(2),123∼134(1971). (6)奥田 蒐:肥料学新説,東京,養賢堂(1959)・ (7)潮田常三:肥料の薬面吸収,農及園,2718ノ,861 ∼866(1952). ㈲ 潮田常三,黒瀬 遇:肥料の柴面散布に関する 研究(簡3報),32pに.よる柴面散布吸収後の養分 転移路の追跡,土肥誌,23(3),226∼227(1953)・ (9)谷田澤遺彦,東野正三:リン酸の代謝に.かんす る研究(寛2報),放射性同位元素の利用(Ⅱ),滋 賀農短大学報,2,31∼39(1952)・ (10)谷田渾遺彦,東野正三:築から吸収されたりリ ソ酸の形態の変化,菓面施肥にかんする研究(箆 3報),土肥誌,23(4),297∼301(1953)・ Ⅴ 摘 要
Campbell′sEarly種プドクの梅雨期落莫の発生機構を究明するために,1年生幼木を材料として,適温区と湛水
処理区を設け,32P液(㍑P−H8PO4,3〝C/磁;N/10KH2PO4)を基部共に注加吸収させ,基部柴からのリン酸の吸収 と移行状態を観察した。 1湛水処理を行なったブドウ樹の細根は黒変し,枯死状態に・あった。 2 32Pが基部柴から上位の各漫に移行したことが,SuIVeymeterおよひG・M・CGunte一による測定で明らかにI諦め られた。 3 Radioautogramによって,82Pの移行と分布状態を観察した結果,適温対照区よりも湛水処理区のはうが,ま た有副柏枝では先部集および副梢の伸長部位に,32Pが比較的多く移行・分布していることが認めらかた0STUDIES ON THE DEFOLIATION OF GRAPE VINES
IN THE SUMMER SEASON
ⅦAbsorption and shiftingIOf82P from theleaf of basalpart of the shoot.
Masafu]KuRErANI
SⅡmmary
In order to study the nascent state of early defoliation of grape vinesin rainy season,We Observed
the shiftingof 82P−H8PO4from thaleaf of basalpartof the shoot grown undeIprObersoilmoistureor
submerged condition usingone−yearOld plantletof Campbell′s Early・
1The root hairs of grape vines by the submerglZ7g treatment turned black and wereinthe state of
death.
2 The fact that S2P WBS Shifted from basilar leaves to the each upper leaf was distinctly observed by
the measurment with survey meter and Geiger−Milller counter.
3 As the resultof theobservationof shiftingand distributioncomparatively more 82P was shiftedand
dstributedin the proper soilmoisture conditionthaninthe submergedone,eSPeCiallyin shoot having
tateralshoot.The growing tipsoflateral shoot and upperleavesof themain shoot,mOre82PWaS found.