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Coherent Anti-Stokes Raman Spectroscopy を用いた高分子のCoherent 振動緩和課程の研究-香川大学学術情報リポジトリ

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Academic year: 2021

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1 氏 名( 本 籍 ) 専 攻 学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学 位 授 与 の 要 件 学位授与の年月日 学 位 論 文 題 目 論 文 審 査 委 員 香西 貴典(香川県) 材料創造工学専攻 博士(工学) 博甲第110 号 学位規則第4 条第 1 項該当者 平成27 年 3 月 24 日

Coherent Anti-Stokes Raman Spectroscopy を用いた高分子 の Coherent 振動緩和課程の研究 (主査) 中西 俊介 (副査) 石井 知彦 (副査) 鶴町 徳昭

論文内容の要旨

研究の背景 化学反応や生体分子反応など、物質の反応の様子を理解するうえで分子レベルでの挙動 を理解することが不可欠であると考えられている。この分子レベルでの挙動として考え られるのが、分子振動である。たとえば、化学反応の場合、レーザーを用いて分子振動 を制御し、収率の向上を目指す研究や、反応途中の中間体の様子を調べる研究が行われ ている。そして、生体分子反応の場合、熱エネルギーにより分子振動が起こり、その振 動を巧みに酵素反応などに利用していると考えられている。 このように、物質の反応の様子は分子レベルでの理解・解明が必要であり、興味がもた れ盛んに研究が進められている。 研究の目標 本研究では、高分子中における分子振動に着目し、分子振動を調べる分光法の一つであ るCoherent Anti-Stokes Raman Spectroscopy(CARS) を用いて研究を行ってきた。

我々が行っている分子振動に関する研究は、励起した分子振動の持つエネルギーの移動 が、分子の構造や分子の結合状態によってどのように影響されるかについて知見を得る ことを目的に、実時間におけるコヒーレント分子振動ダイナミックスを調べる研究を進 めている。 物質におけるマクロレベルでの振動の振る舞いについては数多く研究が行われている が、ミクロな振動ダイナミックスに関する研究は比較的少ない。基礎的な物性である振 動ダイナミックスを研究することで、高分子中の振動エネルギー移動の理解を深めたい と考えている。 研究の特色 我々が課題としている研究目的は、「高分子材料におけるコヒーレント振動緩和のメカ

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ニズムと分子振動エネルギー緩和の解明」であり、この研究目的をフェムト秒レーザー 励起のCoherent Anti-Stokes Raman Spectroscopy (CARS)法を用いることで達成する ことができると考えている。CARS 法はすでに気体分子、結晶などに応用されている方 法であるが、高分子材料に対する応用例がほとんどない状況である。それは、気体分子 や結晶に比べて高分子の構造が複雑であり、高分子材料中におけるコヒーレント振動緩 和が超高速で生じると予想されるため、検出できないと考えられたためである。しかし、 フェムト秒レーザーの登場により、この時間領域における測定が非常に簡便になってお り、多くの振動ダイナミックスの研究が行われている。実際にPoly vinyl alcohol(PVA) のCH2、OH 基にたいして行った測定において、それらのコヒーレント振動緩和を常温 において検出することに成功した。加えて、Polyethylene に関しては低温における CH2 基のコヒーレント振動の緩和を検出した。この研究において独創的な点は、コヒーレン ト振動緩和を通じて、振動コヒーレンスの減衰に寄与するフォノンによる位相擾乱効果 と振動エネルギー緩和効果を分離し、それぞれの寄与の仕方を確立しようとする点であ る。これらの研究により、高分子材料における振動エネルギー散逸、骨格フォノンと分 子振動の相互作用の大きさについての知見を得ることができ、高分子材料の熱的性質の 理解を向上することができると期待している。

Coherent Anti-Stokes Raman Spectroscopy (CARS)

Coherent Anti-Stokes Raman Spectroscopy (CARS)とは、フェムト秒パルスレー ザーを 3 本利用し、サンプルをコヒーレント振動励起状態に遷移させる。そして、プ ローブ光と呼ばれるパルスレーザーを他の 2 本とは遅らせて入射させることにより、 コヒーレント振動励起状態にあるサンプルからのCARS 信号の時間変化を測定するこ とでコヒーレント振動状態の時間変化を測定することが可能となる。高分子中の置換基 の特定にはRaman のデータベースを利用する。置換基はそれぞれ固有の振動数を持っ ているので、Raman データベースと比較することで断定することができる。

審査結果の要旨

本 学 位 論 文 は 、 非 線 形 光 学 分 光 法 の 一 種 で あ る Coherent Anti-Stokes Raman Spectroscopy (CARS)を用いてフェムト秒領域の分子振動ダイナミックス、特にコヒーレン ト振動緩和についての研究を行い、そこで得られた新しい知見をまとめたものである。分 子振動を調べた対称物質はPolyvinyl alcohol (PVA), Polymethyl methacrylate (PMMA), Polyethylene (PE)などのよく知られた高分子であるが、それらのコヒーレント分子振動緩 和が検出されたのは本研究が初めてである。

本学位論文は以下のように構成されている。

第1 章では分子振動を調べる手法として用いる Raman 散乱の歴史を振り返り、Raman 散乱を用いた分子振動研究の現状を概観するとともに、それと相補的な分子振動の研究手

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3 法である赤外分光法の現状を比較して、両者の特徴や違い説明している。その後、Raman 散乱の発展形としてレーザーの進歩とともに開発されてきたフェムト秒CARS 分光法の現 状とその分子振動ダイナミックス研究への応用についてまとめている。 第2 章ではまず Raman 分光法の理論的な取扱の概略を古典的モデルと量子力学モデルで 説明している。そして、本研究で測定するCARS 信号の本質を理解するために、時間に依 存する Schrödinger 方程式を出発点として密度行列の時間発展の方程式を導き出し、摂動 論を用いてCARS 信号の理論的表式を導出している。その表式から、CARS 信号の励起パ ルス光強度依存性、伝搬方向、分子振動のコヒーレント振動緩和時間の測定方法などが理 論的に示され、実験で測定される信号の解析の基礎となっている。 第3 章では本研究で用いる3つの高分子試料 PVA, PMMA, PE それぞれの作製方法及び その特徴を述べるとともに、研究対象とするCH2基、OH 基の部位を示している。その後、

Raman スペクトルを測定するための Raman 分光装置と、フェムト秒 CARS 分光法を行う ために用いたレーザーシステム及び光学系を説明している。最後に、CARS 信号の解析方 法をまとめている。

第4 章ではフェムト秒 CARS 分光法により検出したそれぞれの高分子における分子振動 のコヒーレント振動緩和の結果と、それから導かれる新たな知見についてまとめている。 (a) PVA の実験結果では、まず Raman 散乱スペクトルを示し、CH2基とOH 基に由来する

Raman ピークを同定している。その後、CH2基とOH 基に対して得たフェムト秒 CARS 分光法の結果を示し、Fourier 変換スペクトルから得た情報を基にした信号波形への Fitting から、CH2基とOH 基の常温におけるコヒーレント振動緩和時間を導出している。 CH2基では反対称伸縮振動モードのコヒーレント振動緩和時間が対称伸縮振動モードよ り短いことを見出している。また、OH 基のコヒーレント振動緩和時間が CH2基より長 いという予想外の結果を報告している。 (b) PMMA の実験結果では、まず Raman 散乱スペクトルを示した後、CH2基に対して得た フェムト秒CARS 分光法の結果を示し、PVA の場合と同様な方法で CH2基の常温におけ るコヒーレント振動緩和時間を導出している。PMMA でも反対称伸縮振動モードのコ ヒーレント振動緩和時間が対称伸縮振動モードより短いことを見出している。 (c) PE の実験結果でも、まず Raman 散乱スペクトルを示した後、詳しい解析で 2 種の CH2 基が存在することを明らかにした。その後、常温と 6K で測定した CH2基のフェムト秒 CARS 分光法の結果を示している。冷却することにより CH2基のコヒーレント振動緩和時 間が長くなることを初めて見出し、その解析から対称伸縮振動と反対称伸縮振動の寿命が それぞれ225fs, 45fs と極端に短いという結論を導き出している。 第 5 章では論文全体を総括し、本研究における高分子の分子振動ダイナミックスの結果 が非常に斬新であり、分子振動緩和の新たな描像を提供していることを述べ、今後のさら なる研究が分子振動エネルギー拡散の理解を深めるであろうことを推測している。 申請者は、フェムト秒CARS 分光法を高分子に適用し、高分子の CH2基とOH 基のコヒー

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4 レント振動緩和時間を初めて検出した。また、コヒーレント振動緩和時間の温度変化につ いても初めての知見を得ている。これらの研究結果は極めて新規性が高く、斬新な結論を 得るなど、高く評価できる結果となっている。研究全般を通して非常に困難な実験を行い、 その解析も数学的に緻密な方法で行われていると判断できる。そのため、申請者は優れた 研究能力を有するものと認められる。 本学位論文を構成する主論文は4編で、いずれも申請者が筆頭著者である。2編は国際 会議論文であるが、著名な国際会議の Proceedings である。ほかの2編が掲載された学術 雑誌は、Chem. Phys. Lett., J. Raman Spectroscopy であり、それぞれが国際的に著名な雑 誌であり、Impact Factor も高い。従って、本学位論文は充分なオリジナリティと国際性 を有すると評価できるため、合格と判断する。

最終試験結果の要旨

本学位論文の公聴会を平成27 年 2 月 12 日 15:00 より開催し、その後に最終試験を実施 した。まず、公聴会では申請者は約50 分にわたって論文内容を説明し、その後に審査委員 及び公聴会参加者からの質問が尽きるまで約1 時間 20 分にわたる質疑応答を行った。この 公聴会では、「3000cm-1の分子振動しか観測できない理由は何か」「コヒーレント分子振動 緩和は高分子の凝集状態によって大きく変わるのではないか」、「対称、反対称伸縮振動モー ドは観測できているのになぜPE では CARS 信号にビートが観測できないのか」、「CARS と同様な時間分解測定を通常のRaman 散乱で行えないのか」、「PE で 2600cm-1のラマン ピークが温度変化するのはなぜか」、「ラマン分光法と赤外分光法の本質的な違いは何であ るか」、「温度変化の測定で 2 点だけの測定では少なすぎるので、もっと多くの温度で実験 すべきである」、「高分子試料の作製において溶媒を完全に飛ばしていないと、残留溶媒の 影響が大きい」など多岐にわたる質問、コメントが参加者から出され、申請者はそれらに 的確に回答を行った。 公聴会終了後に審査委員による口頭試問として最終試験を実施した。申請者は審査委員 からの質問に適切に回答を行った。 以上、学位論文、公聴会での研究内容の説明と質疑応答及び審査委員による最終試験で の口頭試問での回答から判断して、申請者が提出した博士学位論文は博士(工学)の学位 に値するものであり、また申請者は幅広い学識と十分な研究能力を有するものと本学位審 査委員会は認め、本最終試験の評価を合格とする。

参照

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