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1. はじめに 現代社会において情報技術は重要な社会基盤である. そのため, 多くの ICT 技術者が求められている.ICT 技術は, また, 新しい事業を作り出すためのイノベーションドライバとしの役割も期待されている. そのため,ICT 技術者は企業の競争力を強化するための重要な人材である. IC

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第5章

情報分野における共通知識体系 ICTBOK を活用した

Web ベースの自己評価支援ツール

本章の内容は以下の論文を元に加筆・修正したものである.

Mika Ohtsuki, Tetsuro Kakeshita, A Web-based Assessment Tool for Various Types of Self-Evaluation utilizing Common BOK in ICT, 3rd 2015 IEEE Int. Conf. on MOOCs, Innovation and Technology in Education (MITE), pp. 242-247.(2015 年 10 月).

概要

ICT は現代社会の基盤となっており,高度な能力を有する ICT 技術者が強く求められてい る.大学等の教育機関,ICT 分野の企業および ICT 分野の資格認証団体には,高度 ICT 人 材を育成するために統一的な教育,訓練および評価の体系を,協力して作り上げることが 期待されている.本章ではWeb ベースのアセスメントツール cresie を提案する.このツー ルは,大学レベルの情報教育カリキュラムや様々なICT 分野の資格試験および ICT のタス クプロフィールといった様々な標準的な要求データを保持している.情報系の学生や ICT 技術者は,自らの自己評価達成度データを cresie にアップロードして,そのデータを前述 の要求データと比較することができる.彼らはまた,自己評価データを他の cresie ユーザ の自己評価データ平均値と比較することもできる.すべての達成度と要求のデータは我々 が策定した共通知識体系ICTBOK の用語で記述されている.本のシステムは,カリキュラ ムのアセスメントや,ICT 人材を採用するための人材評価および要求すべき能力の妥当性 評価の際にも活用できる.

キーワード

教育の質保証,自己評価ツール,学習成果,要求アセスメント,情報教育カリキュラム,ICT 資格,タスクプロフィール,ICTBOK

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1.はじめに

現代社会において情報技術は重要な社会基盤である.そのため,多くの ICT 技術者が求 められている.ICT 技術は,また,新しい事業を作り出すためのイノベーションドライバ としの役割も期待されている.そのため,ICT 技術者は企業の競争力を強化するための重 要な人材である. ICT 技術者には様々な種類の能力が求められている[1-3].高度なシステム ICT 技術者を 体系的に育成するためには,系統的なエコシステムが必要である.そのシステムは高等教 育,産業界における人材育成,および様々なタイプの ICT 技術者を評価するための資格等 を含む.我々は,これまでの研究で,ICT 技術者を育成するための様々な取り組みの要求 レベルを分析してきた[2, 3]. 本章では,我々は様々なICT 分野での自己評価をアセスメントするための Web ベースの システム cresie を提案する.本システムは我々が企画・開発した汎用のアンケート調査・ 分析システム[4]を拡張したものである.cresie はアセスメントを支援するために以下の要 求データを保持している. 1. 大学学部レベルの 6 つの情報教育カリキュラム[5] 2. 情報処理技術者試験の 12 種類の試験区分 3. 経済産業省が策定した ICT 人材のための 3 種のスキル標準[7-9] 4. ICT 分野における典型的な業務を表現する 61 種類のタスクプロフィール[10] 5. 技術士資格(情報工学部門)の 4 つの選択科目[11] cresie ユーザは,自らの達成度や要求に対する自己評価データを cresie にアップロード できる.本ツールは,アップロードされたデータおよび標準の要求データの比較機能を提 供しており,ユーザは標準的な要求データと比較することにより自らの達成度レベルを評 価できる.この比較機能は,個別の情報教育カリキュラムの学習者に期待される達成度の ような要求データを評価する際にも有用である.本ツールは,上述した様々な種類の達成 度および要求度データを扱うことができるため,ICT 技術者育成のための広範囲の達成度 データや要求データのアセスメントが可能になる.このツールはまた,cresie のユーザ間の 相互比較機能を提供する. 本章は以下のように構成される.2 節では,比較のための参照 BOK として ICTBOK[12] を紹介する.3 節では,cresie の構成と cresie ユーザの基本的なワークフローについて説明 する.4 節では,評価機能の詳細について説明する.この比較は,重要度と知識・スキルレ ベルに基づいて実行される.我々はICTBOK を使用して様々なタイプの標準要求データを

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めの編集ツールを提案する.

2.ICT 共通知識体系(ICTBOK)

ICTBOK[12]は 3 つのスキル標準(ITSS, ETSS, UISS)とカリキュラム標準 J07 を分析 し統合することにより策定された[5].

ITSS(IT スキル標準) [7], ETSS(組み込みスキル標準) [8], UISS(情報システムユ ーザースキル標準) [9]は,ICT 分野の様々な職種や役割の人材に求められる能力を記述す るために,経済産業省によって策定された.

情報処理学会が策定したJ07 は,6 つのドメイン:CS (コンピュータ科学),CE (コンピ ュータエンジニアリング),SE (ソフトウェアエンジニアリング),IS (情報システム),IT (イ ンフォメーションテクノロジ) および GE (一般情報処理教育)から構成されている. ICTBOK は 7 つのカテゴリ,23 の領域,および 155 の知識項目から構成される.カテゴ リと領域を,それぞれの領域に含まれる知識項目の数とともに表 1 に示す.それぞれの知 識項目は,詳細なキーワードのリストかその項目を適切に定義するための説明と関係づけ られているため,ICTBOK においては相互排他(MECE)原則が維持される. 表1 ICTBOK のカテゴリと領域 カテゴリ 領域 コンピュータサ イエンスの基礎 情報の基礎理論 (7), 数学・応用数学 (5), コンピュータアーキテクチャ (9), ハードウェア (7), オペレーティングシステム (5) メディアと HCI マルチメディア処理 (8), ヒューマンインタフェイス (3), ユーザビリテ ィ (2), 知的システム (6) ネットワークと セキュリティ 通信システム (9), 情報ネットワーク (6), ウェブ技術 (8), セキュリテ ィ (6) ソフトウェア開 発 データベース (10), アルゴリズムとデータ構造 (5), プログラミング (5), ソフトウェア工学・システム開発 (11) 情報システム プロジェクトマネジメント (6), システム運用・評価 (8) ビジネス ビジネス,経営 (8), コミュニケーション (5), 情報社会と倫理 (4) ジェネリックス キル 振る舞い (3), 思考 (3), チームワーク (6)

3.調査分析システム CRESIE

. cresie は当初,ICT 分野の学生に対する産業界の要求と,実際の学生および大学レベルの ICT 専門教育の達成度を収集・分析するための Web ベースの汎用調査システムとして開発 された[4].cresie では,様々な視点からデータを収集する調査プロジェクトの柔軟性を高

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めるために,様々な利用者タイプや,利用者タイプ毎の属性および調査タイプを柔軟に定 義できる.分析プロジェクトでは,あらかじめ定義したBOK の用語で重要度,要求レベル および達成度レベルデータをユーザから収集する. 我々は達成度と要求調査のためにICTBOK を利用する.ユーザ(調査の回答者)は,ま ずシステムに登録し,彼らの個人プロフィールを入力する.このプロフィールは電子メー ルアドレス,ユーザ名,所属組織,年齢,学歴,専門分野,卒業年,などの属性を用いて 定義される.管理者は必要な属性を追加・編集することもできる.また,学部生,大学院 生,大学教員,ICT 技術者および情報関連企業の人事担当者のような様々な利用者タイプ を定義でき,個別のユーザはシステムへのユーザ登録時に,定義済みの利用者タイプから1 つを選ぶ.個人情報を保護するために,cresie ユーザはシステムにログインする必要がある. cresie は,それぞれの利用者タイプについて,達成度レベル調査と要求レベル調査の 2 つの調査タイプを提供する. 達成度レベル調査はcresie ユーザから BOK 項目毎に達成度レベルのデータを収集する. 例えば,学生は自らの達成度レベルを,入学時およびそれぞれの学期の終わりに入力する ことができる.教員は,教育プログラム全体の成果および彼らのコースの成果を回答する ことができる.企業ユーザは自社の従業員の現在の達成度を回答することができる. 要求レベル調査は,cresie ユーザから BOK 項目毎に要求レベルおよび重要度のデータを 収集する.例えば,企業ユーザは自社の従業員への要求レベルや重要度を回答できる.ま た,資格認証団体は,提供している資格制度について,合格者に求められる要求レベルや 項目毎の重要度を回答できる. cresie ユーザは個人プロフィールや,調査タイプ毎に設定された回答項目を Web ベース のフォームから入力する.一方,達成度レベルデータと要求レベルデータはMicrosoft Excel のワークシートを使用して入力される.cresie ユーザは,システムから Excel 形式のワーク シートをダウンロードし,そのワークシートに達成度レベルデータや要求レベルデータを 入力してシステムにアップロードする. 達成度調査のためのExcel ワークシートを図 1 に示す.領域と知識項目の列は ICTBOK によって定義されている.ユーザが入力すべきセルは知識,技能,コメントの欄である. 各ユーザは達成度レベル調査様式を埋めるために,それぞれの知識項目に知識およびスキ ルレベルを入力する.コメント列はユーザがコメントを記述するためのオプションの列で ある.知識レベルとスキルレベルは0~5 の整数値(または空白)である.それぞれのレベ ル値の定義を表2 に示す.

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図1. 達成度レベル調査のための Excel ワークシート 表2. 知識とスキルレベルの定義 レベル 知識 スキル 0 その項目の内容は知らなくても良い. その項目の内容は実行できなくて も良い. 1 その項目の内容がおおむね理解でき る.(講義等で履修) その項目の内容は実行できなくて も良い.(講義等で履修) 2 その項目の内容がおおむね説明でき る.(講義等で履修) 具体的な指示が与えられれば実行 できる.(演習,実験等) 3 その項目の内容を使った議論に参加で きる.(卒論等) 大まかな指示が与えられれば実行 できる.(卒論等) 4 その項目の概念を問題解決に使える. (修論等) 作業を独力で実行できる程度に習 熟している.(修論等) 5 (未使用) その技術を他者に指導できる. 要求レベル調査のためのExcel ワークシートを図 2 に示す.達成度レベル調査シートと 同じ列に加えて,重要度を入力するための列が指定されている.ユーザはそれぞれの知識

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項目の重要度を任意の正の整数値を指定することで入力できる. 図2. 要求レベル調査のための Excel ワークシート

4.CRESIE の比較評価機能

本章では,我々は調査分析システムcresie を,3 種類の比較評価機能を提供するように拡 張する. A.重要度の計算 この機能は,ICTBOK の領域(図 3)または知識項目(図 4)毎の重要度の分布を生成す る.重要度は学部生と大学院生それぞれを対象とする要求レベルデータに基づいて計算さ れる.なお,ユーザによって重要度の合計値が異なる場合でも公平な取り扱いができるよ うに,cresie はユーザが Excel ワークシート上で入力した重みの合計を自動的に集計し,合 計値が100 になるように正規化している.

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図3. ICTBOK の領域に対応した重要度分布 要求レベル調査の主な回答者は,ICT 分野の現役技術者および ICT 企業の人事担当者で ある.学生や大学教員のような cresie ユーザは,この機能を使用して,回答者が重要と考 えている領域および知識項目を把握できる.回答者もまた,集計された重要度を確認する ことで,彼らの回答の妥当性を確認することができる. 一般的に重要度と要求レベルとの間には強い関係がある.それゆえ,学生は現在の達成 度と実際の企業の要求との違いを評価することができる.大学(教育機関)はこのデータ を,カリキュラム評価のために活用できる.

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図4. ICTBOK の知識項目に対応した重要度分布 B.調査項目毎のレベル別度数分布 この機能は,3 種の調査データについてのレベルの分布を生成する.3 種類の調査データ とは,企業の要求レベルデータ,大学(教育機関)の達成度レベルデータ,および学生の 達成度レベルデータである.cresie ユーザが学生の種別(学部生か大学院生か),知識/スキ ルの別,ICTBOK の領域および知識項目を指定すると,3 種類の調査データについて,レ ベル別の度数分布が表示される(図5).さらに,利用者自身の回答を強調表示することで, 度数分布内での位置を把握することもできる.例えば,図 5 では学生の自己評価が深紫色 で強調されている.

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図5. 三種類の回答のレベル別頻度分布 この機能を使うことによって,ユーザは収集されたデータにおける企業の要求,大学の 要求および学生の達成度の詳細な違いを分析できる.大学(教育機関)は,学生の実際の 達成度データや企業の要求レベルデータと自己評価データを比較することで,自らのカリ キュラムの中で,どの知識項目を強化すべきかを検討できる.企業は,大学の達成度レベ ルデータおよび学生の達成度レベルデータと彼らの要求レベルデータを比較することで, どの程度の知識・スキルを要求するのが妥当かを知ることができる. C.分析結果の比較機能 ユーザは,分析結果の比較機能を利用して,自己評価データと cresie に登録された様々 な要求レベルデータを比較することができる.登録されたデータは,ICTBOK の用語と表 2 に示したレベルで表現されている.例えば,図 6 は,ある学部生がその達成度レベルデー タをJ07-CS 領域の要求レベルデータと比較した結果である.この例ではすべての ICTBOK の知識項目が出力されているが,特定の条件を指定して当てはまる知識項目だけ表示する ことも可能である.ユーザは,自己評価と選択した登録データの知識またはスキルレベル を比較するために“>”,“=”または“<”の演算子を使用して絞り込み条件を指定できる. ユーザの現在の位置

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図6. J07 の CS 領域の要求レベルデータと学生の達成度レベルデータの比較 登録した利用者タイプに関わらず,全ての cresie ユーザはこの機能を使用できる.例え ば,教育機関やカリキュラム設計者であれば,彼ら自身のカリキュラムを J07 のようなカ リキュラム標準やIT 資格の要求レベルデータと比較することで評価することができる.人 材育成の任にある企業ユーザであれば,従業員の評価データと何らかのタスクプロフィー ルの標準的な要求データと比較することで,この機能を彼らの従業員の能力評価や研修内 容の改善のために活用できる. この比較機能は,自己評価データと86 個の登録された要求データとの間の関係性を明確 にする.この比較は,自己評価を通じた様々な取り組みの改善促進にも有用なことが期待 される. 次節では,86 個の登録データと,各ユーザの評価(アセスメント)のためにどのように この比較を活用するかについて議論する.

5.アセスメントのための要求データ

自己評価データ 登録されたデータ

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データは,J07 カリキュラム標準,タスクプロフィール,および各種の ICT 資格が求める 要求レベルデータを,ICTBOK の用語で記述したものである.本節では,この要求レベル データと前節で紹介した比較機能を,評価(アセスメント)の際にどのように活用するか について検討する. A.情報教育カリキュラム標準 J07 情報専門学科におけるカリキュラム標準 J07 は,情報処理学会により提案された大学レ ベルの情報教育のための知識体系を取りまとめたものである[5].J07 は ACM,IEEE Computer Society および AIS が策定した Computing Curricula 2005(CC2005)[13]と互 換性がある.教育内容の多様性を考慮して,J07 および CC2005 には, コンピュータ科学 (CS),コンピュータエンジニアリング (CE),ソフトウェアエンジニアリング(SE),情報 システム(IS),インフォメーションテクノロジー(IT)という 5 つの領域が定義されてい る.J07 はさらに,全ての大学生を対象として一般情報処理教育(GE)の知識体系も定義 している. 我々は先行研究[2]で,それぞれの J07 領域について 155 個の ICTBOK 知識項目に対す る重要度と要求レベルを求めた.J07 領域間の重要度分布の違いが生じるのは,各領域の教 育目標が異なるためである.J07 の 6 領域に関する要求データは cresie に登録されている ため,アップロードされたユーザデータと比較できる. J07 は情報専門教育カリキュラムを設計する際の重要なガイドラインであるため,大学に とって彼らのカリキュラムの自己評価データを J07 各領域の要求データと比較することに は大きな価値がある.カリキュラム設計者は,各 J07 領域との差をチェックすることで彼 らのカリキュラムの要求レベルデータを評価できる.学生は,彼らがどの教育プログラム で学ぶべきかを決定するために,J07 の要求データを利用できる.彼らはまた,彼ら自身の 達成度を評価するために,そのデータを利用できる. J07 の要求データはまた,企業にとってもどの学生を採用すべきかを判断するために価値 がある.多くの日本の大学は J07 に基づいて彼らのカリキュラムを設計しているので,企 業は自身が必要とする職種への要求に近いサブドメインを使用している大学を選択するこ とができる. B.i コンピテンシ・ディクショナリのタスクプロフィール i コンピテンシ・ディクショナリ [10] (iCD)は経済産業省が所管する IPA(情報処理推進 機構)によって,ICT 技術者のためのタスクプロフィールや知識体系(BOKs)に求められ る能力を定義し,情報技術領域の様々な取り組みの間の関係を明確化するための知識,ス キル,タスクを関連づけて定義したものである.しかし,iCD で定義された知識,スキル, タスクは相互に排他的(MECE)ではないため,体系的な比較は不可能だった.この問題 を克服するために,我々はiCD の知識と ICTBOK の間の対応付けを行った[3].こうして,

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相互排他(MECE)原則に従った対応を通じて,関係を明確にするための定量的な分析と 比較が可能になった. iCD において,それぞれのタスクは,複数のスキルや知識を組み合わせて定義される. タスクプロフィールは ICT 技術者の様々な業務に対応しており,複数のタスクを組み合わ せて定義されている.iCD ではクラウドビジネス創造,ビジネスプロデューサー,データ サイエンティスト,セキュリティスペシャリスト,受注ソフトウェア開発など61 種類のタ スクプロフィールが定義されている.我々は,ICTBOK と iCD の対応関係を利用して,そ れぞれのタスクプロフィールについてICTBOK の語彙を用いた要求レベルデータを生成し た. タスクプロフィールは対応する業務が必要とする能力を表している.そうした要求レベ ルデータは,学生や ICT 技術者がスキルアップやキャリアアップを図る際に有用である. 彼らは,cresie が提供する分析結果の比較機能を用いて,目的とする職業に対応するタスク プロフィールと自己評価を比較することにより,どのような能力を身に付けるべきかを判 断できる.大学も,この要求データをカリキュラム策定や学生の就職活動支援のために活 用できる. 企業の人事担当者が人材募集をする際には,提供する要求データが企業にとって必要な ものかどうかを確認するために,彼らの企業に相応しいタスクプロフィールを選択するこ ともできる. C.ICT 資格 ICT 分野には数多くの資格制度がある.我々は,cresie に登録するデータを作成するため に,二つの国家資格(情報処理技術者試験と技術士)の分析を行った[11]. 情報処理技術者試験は,日本では最も普及したIT 資格試験である.情報処理技術者試験 はIPA によって運営されており,レベル 1(IT パスポート試験)からレベル 4(高度試験) に至る12 の試験区分を有する.我々は情報処理技術者試験の全カテゴリの各シラバスを分 析し[2],分析結果を示す 12 種類の要求レベルデータを cresie に登録した. 技術士は文部科学省により提供されている.技術士資格は情報技術分野を含む工学の広 い領域をカバーしている.情報分野の技術士資格の受験者は 4 つの選択科目のうちひとつ を選んで解答しなければならない.最近,政府のワーキンググループが,技術士(情報工 学)分野の知識体系(BOK)を策定した.我々はこの BOK(案)を分析し,それぞれの選 択科目に対応する4 種類の要求レベルデータを作成した[3]. これらの要求データを,cresie 利用者の達成度レベルと比較することによって,利用者は 出願前にどの選択科目ならば合格する可能性が高いかを判断することができる. 学生が卒業して社会に出た後は,彼らの自己評価データを活用して,彼らのスキルアッ

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こともできる.大学であれば,学生の能力を伸ばす上で,どの資格が適切かを検討できる. 資格制度の設計者は,情報処理技術者試験や技術士(情報工学)の要求レベルデータを活 用することで,現在の資格制度の改良や,新しい資格制度の策定を行うこともできる.

6.様々な BOK で記述された能力を ICTBOK での記述に変換する機能

情報分野では様々な BOK が策定・活用されている.情報教育カリキュラム J07 は 6 つ のBOK から構成される.IPA は情報処理技術者試験に対応する BOK[6]と,異なる IT 技 術者のタイプに対応した 3 つのスキル標準[7-9]を提供している.技術士の資格は具体的な 知識を記述するためのBOK を選択科目毎に策定している.

IEEE-CS(IEEE Computer Society)は SWEBOK ガイド[14]をソフトウェア工学およ びIEEE-CS が提供する資格制度の基盤として策定した.PMBOK [15]は,プロジェクト管 理分野におけるデファクト標準の BOK として広く知られており,PMP 資格(Project Management Professional)とも対応している. cresie の比較機能は,様々な BOK,情報教育カリキュラム,タスクプロフィールおよび ICT の資格試験の間の関係を統一的に表現できるように,ICTBOK に基づいて構築されて いる.そのため,cresie の利用者は,要求レベルデータや達成度レベルデータを ICTBOK の用語で作成する必要がある.一方で,彼らが普段から慣れ親しんでいるBOK の用語で要 求レベルデータや達成度レベルデータを記述できることが望ましい.そこで,本節ではそ のような機能を実現する. 幸い,iCD は J07 のドメイン,情報処理技術者試験,3 つのスキル標準,SWEBOK, PMBOK, BABOK, 5つの ITILのドメインおよび SQuBOK等,25種類の BOKを含む[10]. そこで,我々は,これらのデータを活用するために,ICTBOK の知識項目をこの 25 種類の BOK 群と対応付ける機能を開発した[3].本機能は以下の 4 つの機能から構成されている. 1. 知識項目毎の設定編集機能(図 7) 2. スキル項目毎の設定編集機能(図 8) 3. ICTBOK 領域へのマッピング結果(図 9) 4. ICTBOK 知識項目へのマッピング結果(図 10) 図7 は知識項目毎の設定編集機能を示す.まず,利用者はまず,25 種類の BOK から 1 つをBOK コンボボックスで選択する.図 7 では,利用者が BABOK を選択した場合の知 識項目が示されている.この画面において,K-Lv は知識レベル,S-Lv はスキルレベル,Imp は重要度をそれぞれ示す.利用者はK-Lv,S-Lv,Imp の値を自由に編集できる[16]. また,ボタン「各知識の設定をクリア」を押すことで,知識レベル,スキルレベル,重 要度を全てクリアすることもできる.

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BABOK は 228 の知識項目と 4 つのスキル項目を持つ.他の BOK に比べ,知識項目に対 してスキル項目の数が非常に少ない.他にもスキル項目数が知識項目数よりも少ないBOK もいくつかある.この点を考慮して,我々は,スキル項目毎に知識レベル,スキルレベル, 重要度を編集する機能を実装した(図 8).スキル項目毎の設定編集機能を用いて利用者が 知識レベル,スキルレベル,重要度を編集すると,ボタン「スキル・知識から設定をコピ ー」を押すことで,編集結果を知識項目毎の設定に変換できるため,編集の負担を減らす ことができる. 我々はまた,スキルと知識への設定を消去する機能も提供している.ボタン「各スキル の設定をクリア」はそのために用意している. 利用者が選択したBOK において,当該 BOK 用語での知識レベル,スキルレベル,重要 度の編集が完了すると,本機能は,そのデータをICTBOK の用語を用いた知識レベル,ス キルレベル,重要度に自動変換する(図9,図 10). ICTBOK の各領域における知識レベル,スキルレベルおよび重要度は,ICTBOK と利用 者が選択したBOK の対応関係に基づいて次のように計算される.計算結果の例を図 9 に示 す.  ICTBOK 領域の知識レベル:利用者が選択した BOK の知識項目の中で当該領域に 対応する項目の知識レベルの最大値  ICTBOK 領域のスキルレベル:利用者が選択した BOK の知識項目の中で当該領域 に対応する項目のスキルレベルの最大値  ICTBOK 領域の重要度:利用者が選択した BOK の知識項目の中で当該領域に対応 する項目の重要度の合計値 ICTBOK の各知識項目における知識レベル,スキルレベルおよび重要度も,ICTBOK と 利用者が選択した BOK の対応関係に基づいて次のように計算される.計算結果の例を図 10 に示す.  ICTBOK 知識項目の知識レベル:利用者が選択した BOK の知識項目の中で当該知 識項目に対応する項目の知識レベルの最大値  ICTBOK 知識項目のスキルレベル:利用者が選択した BOK の知識項目の中で当該 知識項目に対応する項目のスキルレベルの最大値  ICTBOK 知識項目の重要度:利用者が選択した BOK の知識項目の中で当該知識項 目に対応する項目の重要度の合計値 cresie ユーザが分析結果の比較機能を用いる際には,アセスメント(評価)のための自己 評価データを用意するために,本機能を用いて計算した結果を活用できる.

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7.おわりに

本章では,達成度レベルと要求レベルを表す様々な自己評価データと,情報教育カリキ ュラム標準,iCD タスクプロフィール,および ICT 資格に対応した 86 個の要求データとを 比較するための評価機能を開発した.このアセスメント機能はまた,自己評価データ間の 相互比較機能を提供している.我々はまた,25 種類の BOKs の用語を用いて自己評価デー タを編集する機能とそのデータをICTBOK での記述に変換する機能を開発した. このため,cresie のユーザは,ICT 領域の様々な活動間の達成度や要求の関係を容易に理 解できる.cresie ユーザはまた,様々な ICT 領域間の関係を理解することができる.この ような理解が,高度なICT 教育,企業における ICT 人材育成,ICT の資格や認証を含む ICT 専門家の育成のための一貫性のあるシステムの基礎となるだろう. cresie は元々,汎用の調査システムとして企画・開発された.その調査結果は様々な種類 の要求レベルデータおよび達成度レベルデータの変遷を分析するためにも活用できる. cresie が十分な数のユーザを持てば,新しい情報教育カリキュラムや ICT の資格や認証を 開発するためにその結果を提供することが可能になるだろう.我々は cresie がそのような ICT 領域の学生,専門家そして様々な教育あるいは専門機関の相互交流ツールとなること を期待している.

参考文献

[1] ISO/IEC 24773:2008: Software engineering - Certification of software engineering professionals - Comparison framework, 2008.

[2] T. Kakeshita, M. Ohtsuki, “Requirement analysis of computing curriculum standard J07 and Japan information technology engineers examination using ICT common body of knowledge”, Journal of Information Processing, Vol. 22, No. 1, pp. 1-17, January 2014.

[3] T. Kakeshita, M. Ohtsuki, Relationship Analysis among Curriculum, Qualification, BOK and Task Profile in ICT Field, 3rd 2015 IEEE Int. Conf. on MOOCs, Innovation and Technology in Education (MITE), pp. 117-122.

[4] T. Kakeshita, M. Ohtsuki, “A Web-based Survey System to Analyze Outcomes and Requirements: A Case for College Level Education and Professional Development in ICT”, 9-th International Conference on Education and Information Systems,

Technologies and Applications (EISTA 2011), pp. 82-87, July 2011. [5] 情報処理学会, “情報専門学科におけるカリキュラム標準 J07”, 2009.

http://www.ipsj.or.jp/12kyoiku/J07/J0720090407.html [6] 情報処理技術者試験, https://www.jitec.ipa.go.jp/

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[8] IPA, “組み込みスキル標準 (ETSS)”, 2008.

https://www.ipa.go.jp/sec/softwareengineering/std/download.html [9] IPA, “情報システムユーザースキル標準 (UISS)”, 2010.

https://www.ipa.go.jp/jinzai/itss/uiss/uiss_download_Ver2_2.html [10] IPA, “i-コンピテンシ・ディクショナリ (iCD)”, 2014.

https://www.ipa.go.jp/jinzai/hrd/i_competency_dictionary/index.html [11] 技術士資格, https://www.engineer.or.jp/sub02/

[12] 掛下哲郎,山本真司, “IT 分野のスキル標準を用いた知識・スキル項目の体系化と教 育プログラムの分析事例”, 情報処理学会論文誌, Vol. 49, No. 10, pp. 3377-3387, 2008. [13] ACM, AIS and IEEE-CS, Curricula Recommendations,

http://www.acm.org/education/education/curricula-recommendations

[14] IEEE Computer Society, Software Engineering Body of Knowledge (SWEBOK V3 Guide), 2015. http://www.computer.org/web/swebok/v3-guide

[15] A Guide to the Project Management Body of Knowledge: PMBOK Guide (5th-Ed.), Project Management Institute, 2013.

[16] International Institute of Business Analysis, A Guide to the Business Analysis Body of Knowledge (BABOK Guide), http://www.iiba.org/babok-guide.aspx

図 1.  達成度レベル調査のための Excel ワークシート  表 2.  知識とスキルレベルの定義  レベル  知識  スキル  0  その項目の内容は知らなくても良い. その項目の内容は実行できなくて も良い. 1  その項目の内容がおおむね理解でき る. (講義等で履修) その項目の内容は実行できなくても良い.(講義等で履修) 2  その項目の内容がおおむね説明でき る. (講義等で履修) 具体的な指示が与えられれば実行できる.(演習,実験等) 3  その項目の内容を使った議論に参加で きる. (卒
図 3. ICTBOK の領域に対応した重要度分布  要求レベル調査の主な回答者は, ICT 分野の現役技術者および ICT 企業の人事担当者で ある.学生や大学教員のような cresie ユーザは,この機能を使用して,回答者が重要と考 えている領域および知識項目を把握できる.回答者もまた,集計された重要度を確認する ことで,彼らの回答の妥当性を確認することができる. 一般的に重要度と要求レベルとの間には強い関係がある.それゆえ,学生は現在の達成 度と実際の企業の要求との違いを評価することができる.大学(教
図 4. ICTBOK の知識項目に対応した重要度分布  B.調査項目毎のレベル別度数分布  この機能は, 3 種の調査データについてのレベルの分布を生成する.3 種類の調査データ とは,企業の要求レベルデータ,大学(教育機関)の達成度レベルデータ,および学生の 達成度レベルデータである. cresie ユーザが学生の種別(学部生か大学院生か),知識/スキ ルの別, ICTBOK の領域および知識項目を指定すると,3 種類の調査データについて,レ ベル別の度数分布が表示される(図 5).さらに,利用者自身の
図 5.  三種類の回答のレベル別頻度分布  この機能を使うことによって,ユーザは収集されたデータにおける企業の要求,大学の 要求および学生の達成度の詳細な違いを分析できる.大学(教育機関)は,学生の実際の 達成度データや企業の要求レベルデータと自己評価データを比較することで,自らのカリ キュラムの中で,どの知識項目を強化すべきかを検討できる.企業は,大学の達成度レベ ルデータおよび学生の達成度レベルデータと彼らの要求レベルデータを比較することで, どの程度の知識・スキルを要求するのが妥当かを知ることができ
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