千葉県環境研究センター [対象媒体:水質]
1,3-
ジクロロ-5,5-ジメチルイミダゾリジン-2,4-ジオン
1,3-Dichloro-5,5-dimethylimidazolidine-2,4-dione
別名:1,3-ジクロロ-5,5-ジメチルヒダントイン 1,3-Dichloro-5,5-dimethylhydantoin 【対象物質の構造】 CAS 番号:118-52-5 分子式:C5H6Cl2N2O2 【物理化学的性状】 項目 1,3-ジクロロ-5,5-ジメチル イミダゾリジン-2,4-ジオン 分子量 197.01 モノアイソトピック質量 195.9806 融点1) 132°C 比重1) 1.5 (d2020 )* 対水溶解度1) 0.21% (25°C) *20°C における水の密度と 20°C における当該物質の密度との比 【毒性、用途等】 〔毒性〕2) 急性毒性 :経口:LD50;1520 mg/kg (ウサギ) 、1350 mg/kg (モルモット)、 542 mg/kg (ラット) 経気道:LCLo;20 g/m3 (ラット) 〔用途〕 水処理用・家庭用品殺菌・殺藻剤、 塩素化剤、重合触媒 3) 合成中間体 2)出典:
1) Budavari, S.(Ed), The Merck Index Ver.12:2
2) 神奈川県化学物質安全情報提供システム(kis-net) 3) 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)調査
§1 分 析 法
(1) 分析法の概要
1,3-ジクロロ-5,5-ジメチルイミダゾリジン-2,4-ジオン(以下、1,3-ジクロロ-5,5-ジメチルヒダントイン:DCDMH と略す)は水溶液中で即時分解が認められ、分 析法を確立できなかった。本報告では、DCDMH の分解生成物として確認され た 5,5-ジメチルイミダゾリジン-2,4-ジオン(以下、5,5-ジメチルヒダントイン: DMH と略す)を分析する方法(注 1)について、これまでに得られた知見を示す。 水質試料に酢酸アンモニウムを添加し DCDMH の分解物である DMH を生成 させ(注2)、試料を固相カートリッジ(Sep-Pak PS2 と Sep-Pak AC2 を連結したも の)に通水する。PS2 を取り外し、AC2 を逆方向にしてアセトンを通液し、DMH を溶出する。窒素気流下で濃縮、定容後、LC/MS/MS-SRM(ESI-Positive)法で定量 する。(2) 試薬・器具
【試薬】 5,5-ジメチルヒダントイン:東京化成工業製 >98% 1,3-ジクロロ-5,5-ジメチルヒダントイン :和光純薬製 >96% メタノール :関東化学製 LC/MS 用 >99.8% アセトン :残留農薬試験・PCB 試験用 300 倍濃縮 酢酸アンモニウム :試薬特級 ギ酸 :試薬特級 精製水 :Milli-Q 水(JIS K 0557(1998) に規定される種別 A4 と同等以上の質のもの) 固相カートリッジ :Sep-Pak PS2 265 mg Waters 製 Sep-Pak AC2 400 mg Waters 製 【標準液の調製】〔標準原液〕
DMH500 mg を精秤し、メタノール 100 mL に溶解して 5.00 mg/mL の標準原液 を調製する。
〔検量線用標準液〕 DMH 標準原液を 50%メタノール水溶液で順次希釈して、3.00~100 ng/mL の 濃度範囲で検量線用標準液を調製する。また、高濃度検量線用標準液として、 1000 ng/mL の範囲まで調製する。 〔DCDMH 溶液〕 DCDMH500 mg を精秤し、メタノール 100 mL に溶解して 5.00 mg/mL の標準 液を調製する。標準原液を 50%メタノール水溶液で希釈して、各試験で使用す る溶液を調製する。 【器具】 メスシリンダー、メスフラスコ、ピペット類、マイクロシリンジ、100 mL 比 色管、ガラス製注射筒(10 mL)
GL-SPE 濃縮管 1.0 & 2.0 & 5.0 メス/6 mL :GL サイエンス製 Sep-Pak コンセントレーター :Waters 製
(3) 分析法
【試料の採取及び採取試料の前処理】 環境省「化学物質環境実態調査実施の手引き」(平成21 年 3 月)に従う。試 料採取後に100 mmol/L になるように酢酸アンモニウムを添加してから(注 2)、 【試験液の調製】を行う。 【試験液の調製】(注3) 水質試料 100 mL をあらかじめコンディショニングをした固相カートリッジ (Sep-Pak PS2 を上段、Sep-Pak AC2 を下段に連結したもの:注 4)に 10 mL/min の 流速で通水する。試料の入っていた容器は、0.1%ギ酸水溶液 20 mL、次いで精製 水20 mL で洗浄し、洗液も通水する。通水後 PS2 は取り外し、AC2 に注射筒で空 気を通気して間隙水を除去する。AC2 を逆方向にしてアセトン 6 mL で受け器の 濃縮管にDMH を溶出し、窒素気流下で約 0.5 mL まで濃縮する。50%メタノー ル水溶液で2 mL に定容して、これを試験液とする。 【空試験液の調製】 試料と同じ量の精製水を用い、酢酸アンモニウムを添加してから【試験液の 調製】の項に従って操作し、得られた試験液を空試験液とする。 【測定】 〔LC/MS 条件〕 LC 使用機器 : Waters 製 Alliance 2695カラム : GL Sciences 製 Inertsil ODS (2.1 mm×250 mm, 3 μm) 移動相 : A:精製水 B:メタノール 0 → 10.0 min A:B = 40:60 カラム流量 : 0.2 mL/min カラム温度 : 30°C 試料注入量 : 10 μL MS
使用機器 : Waters 製 Quattro micro API キャピラリー電圧 : 4.0 kV コーン電圧 : 30 V コリジョンエネルギー: 15 eV ソース温度 : 120°C デゾルベーション温度: 450°C コーンガス : N2 50 L/hr デゾルベーションガス: N2 750 L/hr イオン化法 : ESI(+) 測定モード : SRM モニターイオン(m/z) : 129.0 > 58.0 (定量用) 129.0 > 101.0 (確認用) 〔検量線〕 5 種類以上の検量線用標準液 10 μL を LC/MS/MS に導入して分析する。50%メ タノール水溶液の溶媒ブランク試験液からは対象物質のピークが検出されない ことを確認する。対象物質の濃度と得られたピーク面積値からDMH の検量線を 作成する。得られた対象物質のピーク面積値から検量線を作成する。寄与率が 0.995 以上であることを確認する。各測定点における計算濃度と、実際に添加し た濃度との%偏差が±15%以下であることを確認する。 〔定量〕 試験液10 μL を LC/MS/MS に導入して分析する。得られた対象物質のピーク 面積値から検量線を基にしてDMH 濃度を求める。 〔濃度の算出〕 試料水中のDMH 濃度 CDMH(ng/L)は次式により算出する。 CDMH (ng/L) = (Cs-Cb) × E / V Cs :検量線から求めた対象物質濃度 (ng/mL) Cb:空試験液の対象物質濃度 (ng/mL) E :試験液量 (mL)
V :試料水量 (L) 本分析法に従った場合、以下の数値を使用する。 E = 2.0 (mL) V = 0.100 (L) 〔装置下限値(IDL)〕 本分析に用いた LC/MS/MS の DMH、及び分子量で換算した場合の DCDMH のIDL を次に示す(注 5)。 表1 IDL の算出結果 *:DCDMH の M.W. 197.01、DMH の M.W. 128.13 から当量換算した値
注 解
(注1)分析値は、5,5-ジメチルヒダントインを分解物として生成する可能性が ある3-ブロモ-1-クロロ- ジメチルヒダントイン、1,3-ジブロモ- 5,5-ジメチルヒダントイン等の類似化合物由来のもの、及び最初から存在す る5,5-ジメチルヒダントインの分析値を合計した値となる。 (注2)残存している DCDMH の分解(イミダゾリジン骨格の 1 位と 3 位の 2 つ の塩素を水素に置換)を促進するために、100 mmol/L になるように酢酸ア ンモニウムを試料水に添加する。保存性試験の結果から、添加後4 時間 でDMH まで分解することを確認している。 (注3) 分析法の検討が中止となったため、測定方法の検出下限値(MDL)や環境 水での添加回収率等を求めていない。これまでに検討した範囲で、試験液 の調製方法や分析法のフローチャート等を記載する。 (注4)固相カートリッジは、それぞれアセトン 10 mL、精製水 20 mL でコンデ ィショニングしたものを使用する。 (注5)IDL は「化学物質環境実態調査実施の手引き」(平成 21 年 3 月)に従っ て、表2 のとおり算出した。IDL 測定時のクロマトグラムを図 1 に示す。 物質名 IDL 試料量 最終液量 IDL 試料換算値 (ng/mL) (L) (mL) (ng/L) DMH 0.71 0.100 2.0 14 DCDMH 換算値* 1.1 0.100 2.0 22表2 IDL の算出結果 対象物質名 DMH 試料量 (L) 0.100 最終液量 (mL) 2.0 注入液濃度 (ng/mL) 3.00 装置注入量 (μL) 10 結果1 (ng/mL) 3.12 結果2 (ng/mL) 2.93 結果3 (ng/mL) 3.06 結果4 (ng/mL) 3.42 結果5 (ng/mL) 3.14 結果6 (ng/mL) 3.33 結果7 (ng/mL) 3.37 平均値 (ng/mL) 3.195 標準偏差(ng/mL) 0.1822 IDL (ng/mL)* 0.71 IDL 試料換算値 (ng/L) 14 S/N 比 13 CV (%) 5.7 *IDL= t (n-1, 0.05)×σn-1×2 図1 DMH の IDL 算出時のクロマトグラム(3.00 ng/mL 標準液)
§2 解 説
【DCDMH の分解性について】 DCDMH(図 2)の水溶液中のマススペクトルで、塩素の 1 つが水素に置換した と考えられる化合物(図3:以下、モノクロロ体と略す)、塩素が 2 つとも水素に min 2.00 4.00 6.00 8.00 % 0 100 F1:MRM of 2 channels,ES+ 129 > 58 5.451e+003 130208_218 3.64 3.02 0.91 4.16 5.31 6.62 8.599.15置換したと考えられるDMH(図 4)のイオンが観測された。DCDMH 標準液調製 直後でも、モノクロロ体のイオン強度はジクロロ体(DCDMH)の分子イオンより も大きく、水溶液中での即時分解が予想された。 N N Cl H3C H3C O Cl O N N Cl H3C H3C O H O N N H H3C H3C O Cl O N N H H3C H3C O H O 図2 DCDMH (ジクロロ体) 図3 モノクロロ体 図4 DMH 〔DCDMH 標準物質のマススペクトル〕 DCDMH 標準物質のマススペクトルを図 5 に、DCDMH 及び水溶液中で生成 したと考えられるモノクロロ体、DMH をプレカーサーイオンとしたときのプロ ダクトイオンのマススペクトルを図6~8 に示す。また、各化合物のモノアイソ トピック質量を表3 に示す。 図5 DCDMH 標準液のマススペクトル 図6 DCDMH 標準液中の分子イオン(ジクロロ体)をプレカーサーイオン(m/z 197.0)としたときのプロダクトイオンのマススペクトル m/z 60 80 100 120 140 160 180 200 220 % 0 100 130221DCDMH_MSMS10M02P 28 (0.282) Daughters of 197ES+ 1.03e7 92 169 m/z 100 110 120 130 140 150 160 170 180 190 200 210 220 % 0 100 130220DCDMH_MS10M02P 36 (0.363) Scan ES+ 8.66e7 163 129 127 197 165 185 199 モノクロロ体 [M+H]+ DCDMH [M+H]+ DMH [M+H]+
図7 DCDMH 標準液中で生成したモノクロロ体をプレカーサーイオン(m/z 163.0)としたときのプロダクトイオンのマススペクトル 図8 DCDMH 標準液中で生成した DMH をプレカーサーイオン(m/z 129.0)とし たときのプロダクトイオンのマススペクトル 表3 DCDMH、モノクロロ体、DMH のモノアイソトピック質量 物質名 モノアイソトピック質量 DCDMH (ジクロロ体) 195.9806 モノクロロ体 162.0196 DMH 128.0586 m/z 60 80 100 120 140 160 180 200 220 % 0 100 130221DCDMH_MSMS10M04P 31 (0.312) Daughters of 163ES+ 8.25e6 92 69 58 163 135 m/z 60 80 100 120 140 160 180 200 220 % 0 100 130221DCDMH_MSMS10M06P 29 (0.292) Daughters of 129ES+ 1.09e6 58 129 101
【分析法】 〔フローチャート〕 DCDMH を DMH として分析する場合の、分析法のフローチャートを図 9 に示す。 図9 分析法のフローチャート(参考) 〔検量線〕 DMH の検量線を図 10 に示す。また、検量線データ一覧を表 4 に示す。 図10 DMH の検量線 (3.00~50.0 ng/mL) (50.0~1000 ng/mL) * 2 次式で近似 y = 353.68x - 36.714 R² = 0.9992 0 5000 10000 15000 20000 0 10 20 30 40 50 応答 値 濃 度 (ng/mL) y = -0.0366x2+ 258.35x + 6751.8 R² = 0.9996 0.0E+00 5.0E+04 1.0E+05 1.5E+05 2.0E+05 0 200 400 600 800 1000 応答 値 濃 度 (ng/mL) 酢酸アンモニウムを添加 Sep-Pak PS2 取り外し * 100mmol/Lになるように 濃 縮 窒素気流下で 0.5 mL程度まで LC-MS/MS ESI-Positive 定 容 50%メタノール水溶液 2 mL標線まで 10 mL/min 溶 出 Sep-Pak AC2を 逆方向にして アセトン 6 mL Sep-Pak PS2 + Sep-Pak AC2
固相抽出 100 mL 水質試料* 0.1%ギ酸水溶液 20 mL×1回 精製水 20 mL×1回 で試料採取容器を洗い込み 試料採取後に
表4 DMH の検量線データ一覧 標準液濃度 (Cs) (ng/mL) 応答値 DMH(As) (m/z 129.0 > 58.0) 3.00 993 5.00 1862 10.0 3256 30.0 10842 50.0 17523 100 34861 300 80451 500 126655 1000 228579 〔DMH 標準物質のマススペクトル〕 DMH 標準物質のマススペクトルを図 11 に、m/z 129.0 のプロダクトイオンの マススペクトルを図12 に示す。 図11 DMH 標準物質のマススペクトル 図12 DMH(m/z 129.0)のプロダクトイオンのマススペクトル m/z 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150 % 0 100 130206DMH_MSMS13P 39 (0.393) Daughters of 129ES+ 1.48e6 58 129 101 m/z 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150 % 0 100 130206DMH_MS03P 35 (0.353) Scan ES+ 2.61e7 129 60 プレカーサーイオン 定量用 確認用
〔操作ブランク試験〕 操作ブランク試験結果を表5 に示す。DMH として IDL の 2 倍程度の操作ブラ ンクが検出された。 表5 操作ブランク試験結果 物質名 試験数 検出濃度(ng/L) DMH 2 tr*,27 * 1 検体はクロマトグラム上でピークを検出 図13 操作ブランクのクロマトグラム 〔添加回収試験〕 精製水への添加回収試験結果を表 6 に示す。DCDMH 標準物質を添加したと きのクロマトグラムを図 14 に、DMH 標準物質を添加したときのクロマトグラ ムを図15 に示す。 表6 添加回収試験結果 試料名 物質名 試料量 (L) 添加量 (ng) 試験 数 検出 濃度 (ng/L) DMH 回収率 (%) 変動 係数 (%) 精製水 DCDMH 0.100 120 DMH 換算量* 78 3 722 93 3.5 DMH 0.100 80 3 785 98 3.1 *:DCDMH の M.W. 197.01、DMH の M.W. 128.13 から当量換算した値 min 2.00 4.00 6.00 8.00 % 0 100 F1:MRM of 2 channels,ES+ 129 > 58 2.444e+003 130307_037 3.54 2.29 1.51 3.54 3.88 8.66 5.445.728.29 8.92
図14 DCDMH 添加回収試験(精製水)のクロマトグラム 図15 DMH 添加回収試験(精製水)のクロマトグラム 〔保存性試験〕 水溶液中での DCDMH の分解性を把握するために保存性試験を行い、河川水 中でDCDMH が残存しないことを確認した。また、水溶液中で DCDMH または モノクロロ体が残存している場合、これらの化合物の塩素がすべて水素に置換した DMH としてモニタリングができるように、アンモニア/ギ酸(NH4/FoAc)、酢酸アン モニウム(AmAce)の添加を試した。 <試験方法> 【試薬・試験液の調製】 DCDMH をメタノールで溶解し、DCDMH 標準原液(5 mg/mL)を調製後、表 7 に示した100 μg/mL 濃度の各試験液を調製した。 min 2.00 4.00 6.00 8.00 % 0 100 F1:MRM of 2 channels,ES+ 129 > 58 5.132e+004 130307_039 3.55 min 2.00 4.00 6.00 8.00 % 0 100 F1:MRM of 2 channels,ES+ 129 > 58 4.762e+004 130307_042 3.55
表7 保存性試験を行った試験液 試験液標記 保管場所 調製方法 初期濃度 (μg/mL) 明所1 24°C 蛍光灯下 DCDMH 原液を精製水で希釈 100 暗所1 24°C 暗所 DCDMH 原液を精製水で希釈 100 暗所2 24°C 暗所 DCDMH 原液を精製水で希釈 100 pH 5 24°C 暗所 pH 5 緩衝液1)で希釈 100 pH 7 24°C 暗所 pH 7 緩衝液2)で希釈 100 pH 9 24°C 暗所 pH 9 緩衝液3)で希釈 100 NH4/FoAc 24°C 暗所 精製水で希釈時にNH4、FoAc 4) を添加 100 AmAce 24°C 暗所 精製水で希釈時にAmAce 5) を添加 100 河川水1 24°C 暗所 河川水6) で希釈 100 河川水2 24°C 暗所 河川水6) で希釈 100 MeOH1 7) 24°C 暗所 MeOH で希釈 100 MeOH2 7) 24°C 暗所 MeOH で希釈 100 精製水ブランク8) 24°C 暗所 2% MeOH / H2O 0 河川水ブランク8) 24°C 暗所 2% MeOH / H2O 0 1), 2), 3) フタル酸塩 pH 標準液(pH 4.01)、中性りん酸塩 pH 標準液(pH6.86)、ほう酸塩 pH 標準 液(pH 9.18)を 20 倍希釈後、塩酸または水酸化ナトリウムで pH をそれぞれ 5、7、9 に調製。 4) 試験液中の濃度がそれぞれ 0.5%になるように、アンモニア(NH4)、ギ酸(FoAc)の順で添加。 5) 試験液中の酢酸アンモニウム(AmAce)濃度が 100 mmol/L になるように添加。 6) 試験当日に採水した河川水を 5 時間静置し、上清を分取して河川水試料(1, 2)とした。 7) 参考として、メタノール溶液を作成した。 8) 精製水、河川水でブランク溶液を調製した。(測定結果は、すべて不検出) 【保存条件】 各試験液を、24~25°C に保たれた室内に遮光して保管した。明所保存のもの は、遮光しないで常時、実験室の蛍光灯下で保管した。 【測定・解析】 各試験液の一部を、調製直後(0 時間後)、4 時間後、1、3、7、14、28、42 日 後に分取し、そのままLC/MS で測定を行った。 各試験液中のDCDMH、モノクロロ体、DMH をモニタリングして、それぞれ のピークの応答値(面積値)を求め、各化合物の残存性を確認した。 <保存性試験時の LC/MS 条件> LC 使用機器 :Waters Alliance 2695 カラム :XBridge Phenyl (2.1 mm×100 mm×3.5 μm) 移動相 :A:精製水 B:メタノール 0 min A:B = 65:35
0 → 6.0 min B:40 → 90 linear gradient 6.0 → 12.0 min A:B = 10:90
カラム流量 :0.2 mL/min カラム温度 :30°C 試料注入量 :10 μL MS
使用機器 :Waters Quattro micro API キャピラリー電圧 :4.0 kV コーン電圧 :30 V ソース温度 :120°C デゾルベーション温度:400°C コーンガス :N2 50 L/hr デゾルベーションガス:N2 500 L/hr コリジョンエネルギー:15 eV イオン化法 :ESI(+) 測定モード :SRM モニターイオン(m/z) :197.0 > 92.0 (DCDMH) 163.0 > 92.0 (モノクロロ体) 129.0 > 58.0 (DMH) <結果> 1. DCDMH の測定結果(図 16) ① 精製水中では、明所、暗所ともに調製直後のDCDMH の面積値は 500 前後で あり、継時的に減少傾向を示したが、1~2 週間後でもピークが検出された(図 17)。 ② 河川水中への調製直後の試験液では DCDMH は検出されたが、4 時間後の測 定では不検出になった(図18)。 ③ pH 7 水溶液、及びアンモニア/ギ酸(NH4/FoAc)、酢酸アンモニウム(AmAce) の水溶液中では、調製直後からDCDMH は検出されなかった。また、pH 9 水 溶液でも4 時間後からは不検出であった。 図16 DCDMH(ジクロロ体)の応答値(面積値)の推移 0 500 1000 1500 2000 2500 0 7 14 21 28 35 42 MeOH1 MeOH2 明所 暗所1 暗所2 pH5 pH7 pH9 NH4/FoAc AmAce 河川水1 河川水2 ( day ) ( Area ) ( Area )
図17 DCDMH を精製水中で保存したときのクロマトグラム 図18 DCDMH を河川水中で保存したときのクロマトグラム 2. DCDMH から生成したモノクロロ体の測定結果(図 19) ① 精製水中では42 日後でも 16000~34000 程度のモノクロロ体の面積値が検出され、 調製直後と比較しても同程度であった。河川水中では継時的に減少傾向を示し、 42 日後の面積値は 70~80 程度となった(図 20)。 ② 酢酸アンモニウム(AmAce)水溶液中では 4 時間後からモノクロロ体は不検出と なったが(図 21)、アンモニア/ギ酸 (NH4/FoAc) 水溶液中では 14 日後まで 検出された。また、pH 7 水溶液中でも分解が促進され、24 時間後からは不検 出であった。 図19 DCDMH から生成したと考えられるモノクロロ体の応答値(面積値)の推移 min 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 % 0 100 F1:MRM of 4 channels,ES+ 197 > 92 1.044e+003 120918_008 H2O Annsho1-0h 3.90 484 3.90 484 3.90 484 1.37 3.90 484 9.96 5.06 6.06 8.69 11.03 min 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 % 0 100 F1:MRM of 4 channels,ES+ 197 > 92 4.288e+002 120924_025 H2O Annsho1-7d 3.64 81 2.53 1.94 4.18 6.13 6.47 8.69 11.20 調製直後:暗所1 (0 hr) 7 日後:暗所 1 (7 day) min 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 % 0 100 F1:MRM of 4 channels,ES+ 197 > 92 3.624e+002 120918_021 Kasensui 1-0h 3.32 53 3.32;53 0.32 3.32 53 5.896.63 8.53 9.11 11.12 min 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 % 0 100 F1:MRM of 4 channels,ES+ 197 > 92 2.942e+002 120918_042 Kasensui 1-4h 2.92 1.94 0.02 3.26 6.18 7.71 11.29 8.96 調製直後:河川水1 (0 hr) 4 時間後:河川水 1 (4 hr) 0 20000 40000 60000 80000 0 7 14 21 28 35 42 MeOH1 MeOH2 明所 暗所1 暗所2 pH5 pH7 pH9 NH4/FoAc AmAce 河川水1 河川水2 ( day ) ( Area ) ( Area )
図20 河川水中で DCDMH から生成したと考えられるモノクロロ体のクロマトグラム 図21 DCDMH 水溶液に酢酸アンモニウムを添加して保存したときのモノクロロ体 のクロマトグラム 3. DCDMH から生成した DMH の測定結果 ① 精製水中では調製直後には約20000 であった DMH の面積値が、42 日後の明所 で240000、暗所で 310000 程度まで増大した。河川水中の面積値は一定の傾向 を示さず、河川水1 と 2 の値の差も大きかった(図 22、図 24、図 25)。 ② pH 5 水溶液の DMH の面積値は 28 日目まで上昇傾向を示したが、42 日後は減 少していた。pH 7、pH 9、アンモニア/ギ酸 (NH4/FoAc)各水溶液の 3 日目以 降の測定値は、一定の水準で推移した(図23)。 ③ 酢酸アンモニウム(AmAce)水溶液では、調製直後から DMH の面積値が 150000 前後の一定の水準で推移した(図23、図 26)。 図22 DCDMH から生成したと考えられる DMH の応答値(面積値)の推移 (精製水、河川水、メタノール溶液中) min 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 % 0 100 F1:MRM of 4 channels,ES+ 163 > 92 3.861e+003 120918_015 100mM AmAc-0h 2.71 618 2.08 11.51 min 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 % 0 100 F1:MRM of 4 channels,ES+ 163 > 92 6.454e+002 120918_036 100mM AmAc-4h 2.11 1.74 0.63 2.69 4.29 6.19 7.58 9.8010.96 11.62 調製直後:AmAce 水溶液 (0 hr) 4 時間後:AmAce 水溶液 (4 hr) min 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 % 0 100 F1:MRM of 4 channels,ES+ 163 > 92 8.054e+002 121030_021 Kasensui 2-42d 2.11 1.81 2.98 80 5.29 4.90 5.777.298.05 10.40 11.70 調製直後:河川水2 (0 hr) 42 日後:河川水 2 (42 day) min 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 % 0 100 F1:MRM of 4 channels,ES+ 163 > 92 5.143e+004 120918_022 Kasensui 2-0h 2.92 15031 0 200000 400000 600000 800000 0 7 14 21 28 35 42 MeOH1 MeOH2 明所 暗所1 暗所2 河川水1 河川水2 ( day ) ( Area ) ( Area )
図23 DCDMH から生成したと考えられる DMH の応答値(面積値)の推移 (pH を調製した水溶液、NH4/FoAc、AmAce を添加した水溶液中) 図24 精製水中で DCDMH から生成したと考えられる DMH のクロマトグラム 図25 河川水中で DCDMH から生成したと考えられる DMH のクロマトグラム 図26 DCDMH 水溶液に酢酸アンモニウムを添加して保存したときに生成した DMH のクロマトグラム 調製直後:河川水2 (0 hr) 0 200000 400000 600000 800000 0 7 14 21 28 35 42 pH5 pH7 pH9 NH4/FoAc AmAce ( day ) ( Area ) ( Area ) min 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 % 0 100 F1:MRM of 4 channels,ES+ 129 > 58 7.630e+005 120918_015 100mM AmAc-0h 1.87 153047 min 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 % 0 100 F1:MRM of 4 channels,ES+ 129 > 58 7.722e+005 121030_015 100mM AmAc-42d 1.89 157961
調製直後:AmAce (0 hr) 42 日後:AmAce (42 day)
min 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 % 0 100 F1:MRM of 4 channels,ES+ 129 > 58 1.998e+005 120918_008 H2O Annsho1-0h 3.16 1.90 20159 min 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 % 0 100 F1:MRM of 4 channels,ES+ 129 > 58 1.459e+006 121030_007 H2O Annsho1-42d 1.89 309274 3.14 調製直後:暗所1 (0 hr) 42 日後:暗所 1 (42 day) 42 日後:河川水 2 (42 day) min 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 % 0 100 F1:MRM of 4 channels,ES+ 129 > 58 3.869e+005 121030_021 Kasensui 2-42d 1.86 106874 min 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 % 0 100 F1:MRM of 4 channels,ES+ 129 > 58 1.242e+005 120918_022 Kasensui 2-0h 1.90 32551 1.53 2.94
<まとめ> ① 保存性試験結果から水溶液(精製水、河川水)中の DCDMH(ジクロロ体)は、 速やかにモノクロロ体まで分解することが確認された。しかし、モノクロロ 体の面積値は精製水中で大きな変化がなく、河川水中でも一定期間の残存が 認められた。これらのことから、水溶液中でDCDMH の 1 つ目の塩素は容易 に脱離してモノクロロ体となるが、モノクロロ体の塩素はそれほど容易には 脱離しないことが推測された。 ② 水溶液(環境水)中のDCDMH(ジクロロ体)を対象物質として分析することは、 環境水で速やかに分解してしまうため不可能であると考えられた。モノクロ ロ体は水溶液中で比較的安定して残存するが標準試薬の入手が困難であるた め、標準試薬を入手することのできるDMH を分析対象物質とした。 ③ 水溶液(環境水)中のジクロロ体、モノクロロ体のすべての塩素を脱離して DMH として分析を行うために、酢酸アンモニウムなどの添加が必要であると 考えられた。酢酸アンモニウムを添加した水溶液中では、DCDMH から生成 したと考えられるDMH の応答値は試験液調製直後から安定していて、調製直 後にはわずかに残存していたモノクロロ体も、調製 4 時間後には検出されな くなった。 【評価】 殺菌・殺藻剤等の用途として使用される DCDMH の作用や毒性等は、水溶液 中で脱離した遊離塩素によると考えられる。その易分解性により分子イオンの 状態でのモニタリングをすることができず、分析法の確立には至らなかった。 環境水中では DCDMH は速やかに分解し、モノクロロ体を経て DMH になる と考えられ、DCDMH を DMH として分析する方法の検討を行った。水溶液に酢 酸アンモニウムを添加することにより、DCDMH は 4 時間後には DMH まで分解 したが、生成したDMH は 42 日後も安定していて、分析対象物質として適して いると考えられた。 これまでに検討を行った範囲では、DMH の IDL 試料換算値を分子量で DCDMH に当量換算すると22 ng/L であった。また、精製水に DCDMH 標準液を添加し、 酢酸アンモニウムを加え、DMH として回収試験を行った結果、良好な回収率 (93%) が得られた。 【担当者連絡先】 所属先名称:千葉県環境研究センター 所属先住所:〒290-0046 千葉県市原市岩崎西 1-8-8 TEL:0436-23-7777、FAX:0436-23-2870 担当者名 :清水 明 E-mail :[email protected]
物質名 分析法フローチャート(参考) 備考 1,3-ジクロロ-5,5-ジメチルイミダゾ リジン-2,4-ジオン 別名: 1,3-ジクロロ-5,5-ジメチルヒダン トイン (DCDMH) 以下の分析フローに従いDCDMH の分解物である 5,5-ジメ チルヒダントインを定量し、その測定値を当量換算して、 DCDMH 値を求める。 5,5-ジメチルイミ ダゾリジン-2,4-ジ オン 別名: 5,5-ジメチルヒダ ントイン(DMH) 【水質】 分析原理: LC/MS/MS -SRM ESI(+) 分析条件: 機器 Waters Alliance 2695 Quattro micro API カラム Inertsil ODS (250 mm× 2.1 mm, 3 μm) 水質試料* 固相抽出
100 mL Sep-Pak PS2 + Sep-Pak AC2
* 100 mmol/Lになるように 10 mL/min 試料採取後に 0.1%ギ酸水溶液 20 mL×1回 精製水 20 mL×1回 で試料容器を洗い込み 溶 出 濃 縮 Sep-Pak AC2を 窒素気流下で Sep-Pak PS2 逆方向にして 0.5 mL程度まで 酢酸アンモニウムを添加 取り外し アセトン 6 mL 定 容 LC-MS/MS 50%メタノール水溶液 ESI-Positive 2 mL標線まで