1
|保険・年金フォーカス 2017-02-28|Copyright ©2017 NLI Research Institute All rights reserved
1―はじめに
ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社を巡る状況については、基礎研レポート「ドイツの医
療保険制度(2)―公的医療保険の保険者との競争環境下にある民間医療保険及び民間医療保険会社の状
況」(2016.4.4)(以下、「前回のレポート」という)の中で、その現状と国全体の医療保険制度の中で
の位置付けについて、2014 年度ベースの数値に基づいて、報告した。
今回と次回のレポートでは、前回のレポートのうちの数値に関わる部分を中心に、2015 年度ベース
に更新する12
。まずは、今回のレポートでは、民間医療保険の普及状況について報告する。
2―民間医療保険の普及状況-被保険者-
この章では、民間医療保険の普及のうちの被保険者の状況について報告する。
1|代替医療保険
民間医療保険連盟(PKV)の資料に基づくと、次ページの図表が示すように、2015 年度末におい
て、公的医療保険を代替する代替医療保険1
のうち、完全医療保険1
の被保険者数が878 万人、介護
保険の被保険者数が941 万人となっている。ともに、2014 年度に比較して若干減少している。
この主たる理由としては、所得の減少や家族の一員となること等の理由で、公的医療保険に移動し
ている人数が、民間医療保険に移動してくる人数を上回っていることが挙げられる。公的医療保険と
民間医療保険の間の移動状況については、2011 年までは、民間医療保険への流入超過であったが、公
1
ドイツの医療保険制度全体の概要及びその中での民間医療保険の位置付けや各種の制度の具体的な内容等については、基
礎研レポート「ドイツの医療保険制度(1)~(3)」を参照していただきたい。
2 以下の数値については、基本的には、ドイツ保険協会(GDV)の「Statistical Yearbook of German Insurance 2016」及
び民間医療保険連盟(PKV)の「Financial report for private healthcare insurance 2015」からの数値に基づいているが、
両者の数値は必ずしもベースが同じにはなっていない。PKV をデータ・ソースとする GDV の資料についても、GDV の
資料に基づくとしている。また、GDV の資料で必ずしも数値の整合性が取れていないと思われるものについても、原資料
の数値を尊重した。なお、2015 年度の公表資料においては、2014 年度以前の数値の修正等も行われている。
2017-02-28
保険・年金
フォーカス
ドイツの民間医療保険及び
民間医療保険会社の状況(1)
-2015 年度結果-
取締役 保険研究部 研究理事
年金総合リサーチセンター長 中村 亮一
TEL: (03)3512-1777 E-mail : [email protected]
2
|保険・年金フォーカス 2017-02-28|Copyright ©2017 NLI Research Institute All rights reserved
的医療保険の加入要件等の制度変更の影響もあり、2012 年からは公的医療保険への流出が上回ってい
る。
(1)完全医療保険
なお、完全医療保険にはドイツ国民の約1 割が加盟しているが、所得水準の差異等を反映して、旧
西ドイツの州からの被保険者が9 割以上を占めており、旧東ドイツの州からの被保険者は 1 割未満に
過ぎない。
さらに、完全医療保険の被保険者の構成は、以下の図表の通りとなっており、①財政支援3
を受けて
いる公務員やその家族等が約半分を占めており、②男性が5 割、女性が 3 割強、子供が 2 割弱の構成
比となっている。
(2)長期介護保険
長期介護保険の被保険者数は、完全介護保険に比べて約 63 万人多い。これは、ドイツポスト
(Deutsche Post AG)やドイツ鉄道(Deutsche Bahn AG)の職員が含まれてくることによる影響が
大きい。
2|付加医療保険
一方で、公的医療保険に対する付加的な保障を提供する付加医療保険1の被保険者数4は2,477 万人
3 公務員やその配偶者、子供等は、医療給付等に対して、連邦政府や地域や地方当局からの財政的な支援が行われる。
4 1 人の被保険者が複数の契約に加入している場合、複数カウントされる。
代替医療保険の被保険者数 (単位:万人)
完全医療保険 長期介護保険
①2014年度 883 947
②2015年度 878 941
③ ②-① ▲5 ▲6
(※)民間医療保険連盟の資料に基づく。
公的医療保険と民間医療保険の間の移動状況 (単位:千人)
2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年
①公的→民間 325.0 360.7 362.0 338.4 297.7 274.5 284.7 233.7
②民間→公的 148.6 147.5 129.8 130.4 130.6 154.2 143.9 154.7
③ ①-② 176.4 213.2 232.2 208.0 167.1 120.3 140.8 79.0
2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年
①公的→民間 244.9 288.2 227.7 232.0 159.9 123.9 115.5 120.4
②民間→公的 151.0 146.5 153.2 157.6 162.4 161.2 145.7 140.2
③ ①-② 93.9 141.7 74.5 74.4 ▲ 2.5 ▲ 37.3 ▲ 30.2 ▲ 19.8
(※)民間医療保険連盟の資料に基づく。
完全医療保険の被保険者構成(2015年度末) (単位:万人)
男性 女性 子供 合計
財政支援有 175 175 78 429
(構成比) (19.99%) (19.94%) (8.91%) (48.84%)
財政支援無 268 101 79 449
(構成比) (30.55%) (11.57%) (9.04%) (51.16%)
合計 444 276 157 878
(構成比) (50.54%) (31.51%) (17.95%) (100.00%)
(※)民間医療保険連盟の資料に基づく。
3
|保険・年金フォーカス 2017-02-28|Copyright ©2017 NLI Research Institute All rights reserved
となっており、追加の医療保障ニーズへの高まりを反映して、2014 年度に比べて 43 万人増加してい
る。
さらに、商品別にみてみると,外来付加保険が786 万人,病院付加保険が 598 万人,歯科治療保険
が1,495 万人、疾病給付金保険が 358 万人となっており、2014 年度との比較では、歯科治療保険を
中心に増加している。
過去からの被保険者数の増加率の推移をみると、完全医療保険及び付加医療保険ともに、その増加
率が顕著に低下してきている。特に、完全医療保険については、ここ4 年間、被保険者数が減少して
いる。一方で、付加医療保険については、完全医療保険を上回る増加率で推移してきているが、ここ
2 年間の増加率は 2%未満にとどまっている。
3|基本タリフ1
2009 年 1 月から、(代替医療保険を提供する)民間医療保険会社は、公的医療保険の給付サービス
に相当する「基本タリフ(Basistarif)」5
を提供しなければならなくなった。基本タリフは、民間医療
保険連盟が保険監督法に基づいて設計している業界共通の統一料率商品であり、①加入時の年齢別に
保険料が決定されるが、健康状態は加味されない、②保険料水準は公的医療保険の平均最高保険料を
上回ってはならない、等の制約がある。
この基本タリフの 2015 年度の被保険者数は、29,400 人であり、2009 年の設立当初から、大幅に
増加している状況にはない。
5
国民皆保険を実現するための第1 段階の措置として、2007 年 7 月からは、「標準タリフ(Standardtarif)」の提供が義務
付けられていたが、第2 段階の措置として「基本タリフ(Basistarif)」が導入されることになった。
基本タリフへの加入状況 (単位:人)
2014年 2015年 増加率
28,700 29,400 2.44%
修正標準タリフから 2,900 2,700 ▲6.90%
無保険者 11,200 11,200 0.00%
公的医療保険から 500 500 0.00%
同一保険会社の他の契約から 12,600 13,500 7.14%
他の保険会社の他の契約から 1,000 900 ▲10.00%
その他の新規加入者 500 600 20.00%
(※)民間医療保険連盟の資料に基づく。
合 計
付加医療保険の被保険者数 (単位:万人)
外来付加保険 病院付加保険 歯科治療保険 傷病給付金保険 付加医療保険
①2014年度 773 587 1,441 358 2,434
②2015年度 786 598 1,495 358 2,477
③ ②-① 13 11 54 0 43
(※)民間医療保険連盟の資料に基づく。各保険の数値の合計が付加医療保険の数値になっているわけではない。
民間医療保険の被保険者数の増加率
(単位:%)
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
完全医療保険
1.38
1.57
0.71
1.04
2.06
0.96
0.91
▲ 0.22
▲ 0.74
▲ 0.63
▲ 0.53
付加医療保険
7.48
9.30
7.45
6.40
2.38
2.41
2.41
2.56
2.04
1.87
1.76
合 計
5.40
6.76
5.34
4.80
2.29
1.99
1.98
1.77
1.26
1.20
1.15
(※)民間医療保険連盟の資料に基づく。
4
|保険・年金フォーカス 2017-02-28|Copyright ©2017 NLI Research Institute All rights reserved
なお、1994 年に導入された「標準タリフ(Standardtarif)」については、2015 年度末で 45,800 人で、対前
年300 人の増加となっている。その 9 割近くの 39,200 人が財政支援を受けていない。
3―民間医療保険の普及状況-収入保険料及び給付額-
この章では、民間医療保険の普及のうちの収入保険料及び給付額の状況について報告する。
1|収入保険料
収入保険料は36,822 百万ユーロ、うち代替医療保険が 28,042 百万ユーロ(完全医療保険が 25,846
百万ユーロ、長期介護保険が2,196 百万ユーロ)、付加医療保険が 7,984 百万ユーロとなっている。
このように、代替医療保険からの保険料が全体の3/4 以上を占めている。
この民間医療保険の収入保険料水準は、公的医療保険の収入保険料の2 割弱に相当している。
ドイツ保険協会(GDV)の資料に基づくと、2015年度の収入保険料は、対前年 1.4%増加している。この増
加率は、2012 年から、過去において批判が増加していた導入的タリフ(Einsteigertarifen:Starter tariffs)
6
の販売推進を止めたこともあり、2014 年度までの 5 年間毎年低下してきていたが、2015 年度は若干反転さ
せている。
商品別では、公的医療保険に対する付加的な給付を提供する公的医療付加保険や長期介護付加保険が
他の商品に比べて、相対的に高い進展率を示している。
6
限定された給付水準で、低い保険料水準からスタートして、その後保険料が増加していく商品
民間医療保険-収入保険料の商品別内訳の推移- (単位:百万ユーロ)
1990-2000 2000-2010 2010-2015
9,546 20,712 33,270 36,820 8.1% 4.9% 2.0%
6,435 15,729 26,168 28,080 9.3% 5.2% 1.4%
完全医療保険 6,435 13,722 24,072 25,875 7.9% 5.8% 1.5%
長期介護保険 - 2,009 2,096 2,205 9.9% 0.4% 1.0%
3,111 4,532 6,407 7,990 3.8% 3.5% 4.5%
公的医療付加保険 1,619 2,858 4,338 5,335 5.8% 4.3% 4.2%
傷病給付金保険 725 896 1,019 1,130 2.1% 1.3% 2.1%
疾病給付金保険 767 778 611 700 0.1% ▲2.4% 2.8%
長期介護付加保険 - - 439 825 - 20.9% 13.4%
- 449 696 750 6.9% 4.5% 1.5%
(※)ドイツ保険協会(GDV)の資料に基づいて、民間医療保険連盟の分類に再構成(筆者作成)。2015年は暫定値のため、縦の合計値は一致していない。
医療保険全体
代替医療保険
付加医療保険
特殊保険
1990年 2000年 2010年 2015年 保険料年平均進展率
民間医療保険の収入保険料(商品別内訳) (単位:百万ユーロ)
完全医療保険 長期介護保険
保険料(2015年度) 28,042 25,846 2,196 7,984 795 36,822
(構成比) (76.2%) (70.2%) (6.0%) (21.7%) (2.2%) (100.0%)
(※)民間医療保険連盟の資料に基づく。
代替医療保険 付加医療保険 特殊保険 合計
民間医療保険の収入保険料の推移 (単位:百万ユーロ)
2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年
保険料 33,270 34,667 35,628 36,051 36,323 36,820
(増加率) (5.7%) (4.2%) (2.8%) (1.2%) (0.8%) (1.4%)
(※)ドイツ保険協会(GDV)の資料に基づく。
5
|保険・年金フォーカス 2017-02-28|Copyright ©2017 NLI Research Institute All rights reserved
なお、医療保険の収入保険料は、生命保険・損害保険を含めた保険会社全体の収入保険料 193,904
百万ユーロの2 割弱に相当しているが、医療保険に対するニーズの高まりを反映して、ここ四半世紀で、こ
の比率は徐々に増加してきている。
2|給付額
総給付額(老齢化積立金(生命保険の責任準備金に相当)への繰入額や保険料返還を含む)の推移
は、以下の通りとなっている。これまでは、老齢化積立金への繰入額の増加率が高かったが、ここ数
年間は、高齢化の影響等もあり、老齢化積立金への繰入額は横ばいで、代わって保険料返還準備金(RfB)
への繰入額の増加率が高くなっている。
保険種類別では、医療費用保険(完全医療保険等)が全体の9 割程度を占めているが、近年は長期
介護保険の給付額の増加率が高い。
給付タイプ別では、通院給付のウェイトが高いが、近年歯科治療給付額の増加率が高くなっている。
民間保険会社における医療保険の位置付け(医療保険会社の収入保険料シェア) (単位:百万ユーロ)
1990年 2000年 2010年 2015年 1990年 2000年 2010年 2015年
69,888 131,335 178,844 193,904 100.0% 100.0% 100.0% 100.0%
生命保険会社 27,403 61,225 90,355 92,662 39.2% 46.6% 50.5% 47.8%
医療保険会社 9,556 20,712 33,270 36,820 13.7% 15.8% 18.6% 19.0%
損害保険会社 32,939 49,398 55,219 64,422 47.1% 37.6% 30.9% 33.2%
(※)ドイツ保険協会(GDV)の資料に基づく。元受保険会社のみ
収入保険料 シェア
保険会社全体
民間医療保険-給付額の内訳(保険商品別) - (単位:百万ユーロ)
2000-2010 2010-2014
13,614 21,915 24,790 4.9% 3.1%
医療費用保険 11,912 19,196 21,763 4.9% 3.2%
傷病給付金保険 - 840 875 - 1.0%
疾病給付金保険 - 504 487 - ▲0.9%
長期介護保険 471 698 880 4.0% 6.0%
(※)ドイツ保険協会(GDV)の資料に基づく。
2000年 2010年 2014年
医療保険全体
年平均進展率
民間医療保険-給付額の内訳(給付タイプ別) - (単位:百万ユーロ)
2000-2010 2010-2014
13,143 21,216 23,910 4.9% 3.0%
通院給付 5,265 9,556 10,742 6.1% 3.0%
入院給付 4,662 6,425 7,085 3.3% 2.5%
歯科治療 1,852 3,214 3,936 5.7% 5.2%
その他 1,363 2,019 2,148 4.0% 1.6%
(※)ドイツ保険協会(GDV)の資料に基づく。
年平均進展率
医療保険全体
2000年 2010年 2014年
民間医療保険-給付額の内訳- (単位:百万ユーロ)
1990-2000 2000-2010 2010-2014
9,504 24,087 38,612 42,168 9.7% 4.8% 2.2%
給付額 7,325 13,815 22,171 24,828 6.6% 4.7% 2.9%
RfB繰入 584 2,861 3,760 5,159 17.2% 2.8% 8.2%
老齢化積立金繰入 1,595 7,410 12,681 12,181 16.6% 5.5% ▲1.0%
(※)ドイツ保険協会(GDV)の資料に基づく。
2010年 2014年 年平均進展率
総給付額
1990年 2000年
6
|保険・年金フォーカス 2017-02-28|Copyright ©2017 NLI Research Institute All rights reserved
医療保険の給付額(老齢積立金繰入を含む)は、生命保険・損害保険を含めた保険会社全体の給付
額209,216 百万ユーロ(2014 年度)の約 2 割に相当し、損害保険と並ぶシェアを占める形になって
いる。
(参考)医療保険普及率の国際比較
一人当たりの保険料及び対GDP 保険料比率で見た医療保険の普及率(2015 年度)でみると、①保険密
度を示す1人当たりの保険料は453 ユーロで、欧州の中で、オランダの 2,426 ユーロ、スイスの 1,080 ユーロ、
アイルランドの508 ユーロに次いで、第 4 位、②普及率を示す対 GDP 保険料比率も 1.22%で、オランダの
6.9%、スイスの 1.6%、スロベニアの 1.3%に次いで、第 4 位となっている。
医療保険の普及率等は、公的医療保険制度との役割分担が大きく影響しており、民間医療保険に大きく
依存しているオランダやスイスが高いものとなっているが、ドイツもこれらに次ぐ国となっている。
4―まとめ
以上、2015 年度数値に基づいて、ドイツにおける民間医療保険の普及状況について報告してきた。
ドイツの民間医療保険は、公的医療保険制度の代替をその主たる機能としつつ、高まる医療保障ニ
ーズに対応する観点から、補完及び補足的な機能を充実させることで、着実に保険料を増加させ、そ
の位置付けを高めてきている状況がみてとれた。
次回のレポートでは、民間医療保険会社の経営効率や財務状況について報告する。
以 上
民間医療保険-普及率の推移- (単位:ユーロ)
2000年 2010年 2013年 2015年
一人当たりの保険料 252 407 447 453
対GDP保険料比率 0.98% 1.29% 1.25% 1.22%
(※)Insurance Europeの資料に基づく。
民間保険会社における医療保険の位置付け(医療保険会社の給付額シェア) (単位:百万ユーロ)
1990年 2000年 2010年 2014年 1990年 2000年 2010年 2014年
71,253 152,534 189,253 209,216 100.0% 100.0% 100.0% 100.0%
生命保険会社 34,909 88,080 107,361 121,663 49.0% 57.7% 56.7% 58.2%
医療保険会社 9,504 24,050 38,612 42,168 13.3% 15.8% 20.4% 20.2%
損害保険会社 26,840 40,404 43,281 45,385 37.7% 26.5% 22.9% 21.7%
(※)ドイツ保険協会(GDV)の資料に基づく。元受保険会社のみ、収入保険料とは異なり最新データは2014年を使用している。
保険会社全体
収入保険料 シェア