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1. 腸管出血性大腸菌 (EHEC) の系統解析 上村健人 1. はじめに近年 腸管出血性大腸菌 (EHEC) による食中毒事件が度々発生しており EHEC による食中毒はその症状の重篤さから大きな社会問題となっている EHEC による食中毒の主要な汚染源の一つとして指摘されているのが牛の糞便である

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Academic year: 2021

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1.腸管出血性大腸菌(EHEC)の系統解析

上村 健人 1.はじめに 近年、腸管出血性大腸菌(EHEC)による食中毒事件が度々発生しており、EHEC による食中毒はその 症状の重篤さから大きな社会問題となっている。EHEC による食中毒の主要な汚染源の一つとして指摘 されているのが牛の糞便である。これまでの報告によれば EHEC を糞便中に保有する牛は 0.6~11.9% といわれており、牛枝肉汚染の機会となり得ると畜場における解体処理が公衆衛生上重要視されてい る。 また EHEC による食中毒発生時は、感染拡大及び再発防止のために原因菌の DNA を用いた分子疫 学的解析が実施されている。EHEC については特にパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)による分 子疫学的解析が行われ、国立感染症研究所を中心にデータベースの構築が進んでいる。しかしながら、 PFGE 法は、特別な装置を必要とし、解析に日数と煩雑な操作が必要とされる。そのためより迅速で簡 便な方法の開発が進められている。 宮城県食肉衛生検査所でも EHEC 保有状況調査を行っており、平成 25 年度には大腸菌 O157(以下 O157)が 147 頭中、外皮においては 27 頭、糞便においては 16 頭で認められた。保有牛の出荷地や生 産農場が多岐にわたるため、検出菌を元にした疫学調査が望まれるが、上述の技術的な理由もあり調 査は行われていない。 そこで今回、PFGE 法に比べて迅速で外部発注も可能な DNA 塩基配列決定法を用いて当所で分離 された O157 の分子疫学的解析を行い、汚染源、汚染経路の推定及び食中毒菌との関連性の調査を することを目的とした。まず EHEC に特徴的なベロ毒素(VT)遺伝子の存在を確認した後、VT 遺伝子を Lin らの方法によって増幅し、増幅された DNA フラグメントの塩基配列を決定し、その塩基配列の差異 による解析を試みたので、その結果を報告する。 2. 材料および方法 ① 供試菌 平成 25 年 2 月から平成 26 年 2 月に A~H の 8 農場出荷牛から分離された外皮由来 O157 を 27 検 体、糞便由来 O157 を 16 検体用いた。 ② DNA テンプレート

供試菌を PrepMan Ultra Reagent50μl にけん濁させ、100℃5 分間加熱し、室温で 5 分間放置した後 14,000 回転 5 分間遠心し、その上清を DNA テンプレートとした。

③ VT 試験(PCR Typing 法)

厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長通知(平成 26 年 11 月 20 日)「腸管出血性大腸菌 O26、O103、O111、O121、O145 及び O157 の検査法について」(食安監発 1120 第 1 号)に収載されて いる O-157(ベロ毒素 1 型、2 型遺伝子)PCR Typing Set Plus(TaKaRa 社)(以下 PCR Typing キット)を使 用した。PCR 法については、上記 PCR Typing キットの説明書に記載された方法に従い行った。増幅産 物は 3%Nusieve3:1Seakem アガロースゲルを使用して電気泳動し、エチジウムブロマイド染色後、UV 照 射下で VT1 遺伝子については 349bp、VT2 遺伝子については 112bp の位置におけるバンドの有無を 確認した。

(2)

④ DNA 塩基配列解析 a. Lin らの方法による、VT 遺伝子の PCR 増幅 プライマーについては、下記表1に示したプライマーを用いた。このプライマーで VT1 及び VT2 遺伝 子両者とも約 900bp の大きさの DNA フラグメントが増幅される。PCR 反応液については表2に示した組 成で、反応条件は 94℃1 分、43℃1.5 分、72 ℃1.5 分を 40 サイクル行った。増幅産物は、1%アガロース ゲルにて電気泳動し、エチジウムブロマイド染色後、UV 照射下で 900bp 付近にバンドがあることを確認 した。 表2 PCR 反応液の組成 表1 Lin らの報告による VT 遺伝子検出プライマー b. DNA 塩基配列の決定と解析

a によって増幅された DNA フラグメントを、NucleoSpinⓇ Gel and PCR Clean-up(マッハライ・ナーゲ ル社)を用いて精製した。

その後 Lin らのプライマー(Sense 及び Antisense)、PCR Typing キットの VT1 用プライマーEVT-1、 EVT-2 及び VT2 用プライマーEVS-1、EVC-2 を用いダイターミネーター法によるシーケンスリアクショ ン(BigDye®Terminatorv3.1CycleSequencing Kit、ライフテクノロジーズ社)を行った。その後ゲル濾過 (Sephadex G-50、GE ヘルスケア社)を実施し、DNA シーケンサー(Applied Biosystems3500 ジェネティ ックアナライザ、ライフテクノロジーズ社)により塩基配列を決定し、その結果については blast 解析した。 4. 結果 ① VT 試験(PCR Typing 法) 全 43 検体中、VT1 遺伝子を検出できたものが 38 検体、VT2 遺伝子を検出できたものが 41 検体であ った。これらの内わけは VT1 及び VT2 遺伝子をもつものが 38 検体、VT2 遺伝子のみをもつものが 3 検体、どちらの VT 遺伝子も検出できないものが 2 検体であった(表 3)。 ② DNA 塩基配列による解析 43 検体のうち、41 検体について Lin らのプライマーによって PCR 増幅することができた。 Lin らのプライマーを用いた DNA シーケンシングの結果は、シグナルが 2 重になっているものが多く、 もしくはまったくシグナルが検出されないものがあり、DNA 塩基配列の解析ができなかった。PCR Typing キットのプライマーを用いたものは、VT1 遺伝子については、EVT-1、EVT-2 両方でシグナルが 検出され、Lin らの方法によって増幅した DNA フラグメント全域(約 860bp)の塩基配列を決定することが でき(図 1)、VT1 遺伝子をもつ 38 検体全てにおいて同一の配列となった。一方 VT2 遺伝子については EVS-1 ではシグナルが検出されたが、EVC-2 ではシグナルが 2 重になっており、増幅した DNA フラグ メントの EVS-1 から 3’末端までの配列約 630bp の塩基配列の決定にとどまった(図 1)。VT2 遺伝子の塩 基配列は 2 種類存在しており、2 種類両方とも持っているものが 1 検体存在した(表 3)。

VT1 遺伝子の塩基配列は、国立感染症研究所の腸管出血性大腸菌(EHEC)検査・診断マニュアル(以 下 EHEC マニュアル)のサブタイプ分類 STX1a、STX1c、STX1d の 3 種類のうち STX1a に対応する GenBank accession No.M19437 と 1 塩基違いであったので、STX1a とした。VT2 遺伝子の塩基配列は、

試薬 容量 DNAテンプレート 10μ l 滅菌精製水 69.5μ l 10 × Ex Taq Buffer 10μ l dNTP mixture 8μ l Takara Ex Taq HS 0.5μ l Sense:1μ l Antisense:1μ l 計 100μ l 50μ M プライマー Sense 5' -GAA CGA AAT AAT TTA TAT GT- 3'

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EHEC マニュアルのサブタイプ分類 STX2a、STX2b、STX2c、STX2d、STX2e、STX2f、STX2g、STX2h の 8 種類のうち STX2a に対応する GenBank accession No.X07865 と、もう一方は STX2c に対応する GenBank accession No.AB015057 と一致していた。

5. まとめ ・ PCR Typing 法により 43 検体中 41 検体の VT 遺伝子を検出できた。 ・ Lin のフラグメントは、Lin らのプライマーを用いても塩基配列を決定することはできなかった。 ・ PCR Typing キットのプライマーを用いて DNA 塩基配列の解析が可能であった。またこの方法で VT 遺伝子のサブタイプまで決定することができた。今回塩基配列の解析が可能であった領域では、VT1 遺伝子では全て同一であり、VT2 遺伝子では 2 種類が検出された。 6.考察

Lin らのプライマーによる DNA 塩基配列の解析ができなかったのは、Lin らのプライマーが、VT1、 VT2 及びそのサブタイプまで幅広く増幅できるプライマーであるため、複数の VT 遺伝子を増幅してし まい、シグナルが重なってしまっていることが考えられた。しかし PCR Typing キット VT1 用プライマー EVT-1、EVT-2 及び VT2 用プライマーEVS-1、EVC-2 を用いて Lin のフラグメントの DNA 塩基配列を 決定できることがわかった。 糞便と外皮については、同一牛から両方検出された 9 組の検体中で、7 組の検体は同一の O157 が 検出された。2 組の検体の糞便と外皮で異なる O157 が検出された。これは今回検出された以外にも糞 便と一緒に排出されている O157 があり、それが外皮には付着していた可能性が考えられる。 8ヶ所の農場ではいずれも、各農場において 1 種類の VT 遺伝子型を示している。これらを VT1 遺伝子 の有無、VT2 遺伝子サブタイプ(STX2a 型あるいは STX2c 型)で 3 グループに分類できる。 (VT1+VT2(STX2a 型) : D、 VT1+VT2(STX2c 型) : A,B,C,E,G,H、 VT2 のみ : F 今回解析できた VT1 遺伝子(STX1a 型)と VT2 遺伝子(STX2a 型)の塩基配列は、1996 年に大阪府堺 市でおきた EHEC の集団食中毒の原因菌である EHEC-O157 堺株の VT1、VT2 遺伝子の塩基配列と 一致していた。このことは牛の糞便が EHEC による食中毒の主要な汚染源の一つとして指摘されている こととも一致しており、牛解体時の衛生的な枝肉処理の重要性がうかがえた。 最後に本研究を進めるにあたり、多大なるご指導を頂いた石巻専修大学柴田清孝教授に深謝申し上 げます。 図1 VT 遺伝子ゲノム構造

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表3 43検体の O157解析結果 菌 No.

農場

と畜日 検出部位 PCR Typing 法 DNA 塩基配列決定法 備考 VT1-type VT2-type 1

A

平成 25 年 5 月 22 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2c 2

A

平成 25 年 5 月 22 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2c 3

A

平成 25 年 5 月 22 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2c 4

A

平成 25 年 5 月 22 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2c 5

A

平成 25 年 5 月 22 日 糞便 VT1.VT2 STX1a STX2c 同一牛 6

A

平成 25 年 5 月 22 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2c 7

A

平成 25 年 5 月 22 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2c 8

A

平成 25 年 5 月 22 日 糞便 VT1.VT2 STX1a STX2c 同一牛 9

A

平成 25 年 5 月 22 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2c 10

B

平成 25 年 7 月 24 日 糞便 VT1.VT2 STX1a STX2c 11

B

平成 25 年 7 月 24 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2c 12

B

平成 25 年 7 月 24 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2c 13

B

平成 25 年 10 月 30 日 糞便 VT1.VT2 STX1a STX2c 14

C

平成 25 年 11 月 28 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2c 15

D

平成 25 年 6 月 20 日 糞便 VT1.VT2 STX1a STX2a 16

D

平成 25 年 6 月 20 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2a 17

D

平成 25 年 6 月 20 日 糞便 VT1.VT2 STX1a STX2a 同一牛 18

D

平成 25 年 6 月 20 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2a 19

D

平成 25 年 6 月 20 日 糞便 VT1.VT2 STX1a STX2a 20

D

平成 25 年 6 月 20 日 糞便 VT1.VT2 STX1a STX2a 同一牛 21

D

平成 25 年 6 月 20 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2a 22

D

平成 25 年 6 月 20 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2a 23

D

平成 25 年 6 月 20 日 糞便 VT1.VT2 STX1a STX2a 同一牛 24

D

平成 25 年 6 月 20 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2a 25

D

平成 25 年 6 月 20 日 糞便 VT1.VT2 STX1a STX2a 26

D

平成 25 年 6 月 20 日 糞便 VT1.VT2 STX1a STX2a 同一牛 27

D

平成 25 年 6 月 20 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2a+STX2c 28

E

平成 25 年 8 月 19 日 糞便 VT1.VT2 STX1a STX2c 同一牛 29

E

平成 25 年 8 月 19 日 外皮 ND 30

E

平成 25 年 8 月 19 日 外皮 ND 31

E

平成 25 年 8 月 19 日 糞便 VT1.VT2 STX1a STX2c 同一牛 32

E

平成 25 年 8 月 19 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2c 33

E

平成 25 年 8 月 19 日 糞便 VT1.VT2 STX1a STX2c 同一牛 34

E

平成 25 年 8 月 19 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2c 35

E

平成 25 年 8 月 19 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2c 36

E

平成 25 年 8 月 19 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2c 37

E

平成 25 年 8 月 19 日 糞便 VT1.VT2 STX1a STX2c 38

F

平成 25 年 3 月 5 日 外皮 VT2 STX2c 39

F

平成 25 年 3 月 5 日 外皮 VT2 STX2c 40

F

平成 25 年 11 月 25 日 外皮 VT2 STX2c 41

G

平成 25 年 7 月 24 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2c 42

G

平成 25 年 7 月 24 日 外皮 VT1.VT2 STX1a STX2c 43

H

平成 25 年 11 月 28 日 糞便 VT1.VT2 STX1a STX2c

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参照

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