2017 年 1 月 JETRO ドバイ事務所作成 ＜調査スコープ＞ 本レポートでは、イスラエル・パレスチナのインフラ開発市場を俯瞰するとともに、資源エネルギー、 電力・水、物流・交通等の各分野における主なプロジェクト、トピックを取り上げる。
イスラエルの経済とインフラ概況
イ ス ラ エ ル 経 済 は 近 年 、 他 の OECD （経 済 協力 開 発 機 構 ／ Organisation for Economic Co-operationand Development）諸国と比較して回復力が高いということが証明されている。2016 年 1 月の OECD 経済調査によると、イスラエル経済は 2015 年までの 13 年間、連続して成長した。 一方、2016 年の成長率は予想を大幅に上回る 3.8%に達したが、2017 年の成長率は鈍化する可 能性もある（イスラエルの中央銀行と OECD は 3.2%から 3.25%程度ではないかと見込んでい る）。2018 年の経済成長はさらに下落する可能性もあるが、外国企業にとってイスラエルとパ レスチナ自治区で現在進行中、もしくは今後計画されるインフラプロジェクトに関わる機会は 残されている。 イスラエルとパレスチナのインフラプロジェクトは、湾岸協力会 議（GCC／Gulf Cooperation Council）諸国で計画されているものと 比べ概して小規模で数は少ないが、今後チャンスが見込まれる分 野は多岐にわたっている。世界最大級のガス田のいくつかは、 2009 年から 2012 年にかけてイスラエル沖で発見されている。独 占禁止法規制当局（Antitrust Authority）による 2 年間の中断と調 査 を 経 て 、 エ ネ ル ギ ー ・ 水 資 源 省 （ Ministry of National Infrastructure, Energy and Water Resources）がこれら分野における 急速な発展を目指している。イスラエルは天然ガス分野に加え、 再生エネルギーの分野でも最先端の取り組みとなる新しい太陽熱発電所をネゲブ砂漠（Negev Desert）に建設する計画が進められている。 イスラエル、パレスチナ、ヨルダンの人々にとって、水道もまた大きな懸案事項である。この 地域の全住民にきれいな飲料水を届けるには、すべての政府と地域の代表者が協力することが 不可欠であり、また外国企業のサポートも必要になるだろう。紅海―死海運河計画（Red Sea-Dead Sea water canal project）のような大規模水道プロジェクトの提案もあるが、ヨルダン川西 岸やガザ地区のパレスチナの人々に対する水道インフラ整備などの小規模なプロジェクトもあ る。国際的な援助機関や開発組織にとっても、水道や他の基本的なサービスへのアクセスを向 上させることが重要課題とされている。
水道に加え、住宅、学校、病院などの基本的なインフラも建設・改修中である。イスラエル銀 行の中央統計局（Bank of Israel’s Central Bureau of Statistics）によると、イスラエルの人口は年 率 2%で伸びており、850 万人に近づいている。なお、基本的なインフラプロジェクトの多くは 国際的な援助機関や開発組織と結びついており、ヨルダン川西岸とガザ地区に居住する人々の 生活向上を目的としている。近年の武力衝突により基本的なインフラが損壊・損傷・破壊され ており、これらの施設を再建・改修するには外部からのサポートが不可欠である。 世界最大級の ガス田のいくつかは 2009 年から 2012 年にかけて イスラエル沖で 発見されている。
主なインフラプロジェクト
イスラエルとパレスチナのインフラプロジェクトに関する概要を以下にまとめる。ガス田開発、 再生エネルギー、製造業および貿易の産業分野、ならびに水道その他住宅、病院、学校などの 基本的なインフラ分野であるが、これらのプロジェクトの多くはイスラエル、パレスチナおよ び周辺諸国間の緊密な経済連携と関係改善を助長する手立てとして奨励されている。この地域 では人々が極めて接近して生活しているため、住民の生活を改善するには、すべての人々の協 力が実際的・経済的に不可欠なのである。 ガス田開発イスラエル沖のリバイアサンガス田（Leviathan Gas Field）開発は、建国以来最大のインフラプ ロジェクトになる見込みである。リバイアサンガス田の天然ガス生産量は、完全稼働時には年 間 120 億立方メートルにのぼると見積もられている。地場のデレク・グループ（Delek Group） とレシオ・オイル・エクスプロレーション（Ratio Oil Exploration）に米ノーブル・エナジー （Noble Energy Inc.）を加えた 3 社が同ガス田の企業連合であり、それぞれ 45.3%、15%、39.7% の持ち分を所有している。国内企業で、リバイアサンや地中海東岸の他のガス田を開発する経 験と機材を保有しているところが少ないため、海外からの専門的技術など十分な支援は欠かせ ないものとなっている。外国企業にとっては、新たな入札に参加する機会もある一方、すでに 地中海東岸にあるイスラエルのガス田開発に関与している契約業者と協働する可能性も存在す る。 地中海東岸の生産中および発見されたガス田 出典：www.nobleenergyinc.com 2016 年 11 月、デレク・グループ は国際金融グループの HSBC と JP モルガン から、このプロジ ェクトに対する最大 17 億 5,000 万米ドルの融資を確保した。レシオ・オイル・エクスプロレー
ションはプロジェクトの割り当て 6 億米ドルのうち、約 2 億米ドルは調達済みであると報道さ れているが、ノーブル・エナジーの資金調達はこれからで、未確認情報であるが、同社はこの ためにリバイアサンガス田の持ち分のうち 10%を売却する可能性があるとのことである。なお 資金の調達状況は、イスラエルの独占禁止法規制当局（Antitrust Authority）がガス田開発プロ ジェクトの将来の実行可能性に疑問を投げかけ、2 年間の中断と審査を経たのちに発表されて いる。 開発の第 1 フェーズは投資額 40 億米ドルで、イスラエル国内とヨルダン、エジプト、パレスチ ナにガスを供給する計画である。契約はすでに締結されており、これにはヨルダン国営電力会 社（NEPCO／Jordan’s National Electric Power Company Ltd）との 100 億米ドルの契約も含まれて おり、他にも詳細は明らかでないが、国内外の多くの企業と契約を結んでいる。トルコや南欧 など他の市場への輸出が拡大するにつれ、今後リバイアサンガス田への投資額は 100 億米ドル に達する可能性もある。また 25 億米ドル規模の第 2 フェーズでは、年間生産量が 210 億立方 メ ー トル に引 き 上げ られ る可 能 性も ある 。 2019 年には天然ガスの採掘が始まる予定であ る。 天然ガスは、トルコの市場まで 500 キロメー トルの海底ガスパイプラインを新設して運ぶ 計画であり、この費用は 20 億米ドルと見込ま れている。一方エジプト市場への輸出には、 エジプトの地中海沿岸にある既存の LNG プラ ントまで、新たに 450 キロメートルのパイプ ラインを建設する必要がある。またキプロス からギリシャまでは 1,300 キロメートルのパ イプラインを敷設し、その先はイタリアの既 存パイプラインに接続するという可能性もあ る（このプロジェクトのコストは 57 億米ド ルと見積もられている）。 右図は、地中海東岸のガス田と域内の他国を 結ぶパイプラインの提案ルートを示している。 外国企業は、今後締結される契約とともに、パイプライン建設に伴う入札情報の公表も注視す る必要がある。 再生可能エネルギー 地中海東岸のガス田開発はイスラエルにとって重要な優先事項とみなされているが、その一方 ではネゲブ砂漠でアシャリム太陽熱発電所（Ashalim Solar Thermal Station）の一環として、完 成すれば世界一高くなると予測されるタワー式太陽熱発電所（ソーラータワー）を建設してい る。このタワーは高さ 250 メートル、およそ 5 万枚の鏡で覆われることになっており、プロジ ェクトコストは約 8 億米ドルと算出されている。2014 年に米ブライトソース・エナジー （BrightSource Energy）と仏アルストム（Alstom）、イスラエルのインフラ投資ファンド NOY
出典: イスラエル エネルギー・水資源省（Israel Ministry of National Infrastructure, Energy and Water Resources）
（NOY Infrastructure & Energy and Investment Fund）が設立した 特別目的会社であるマガリム・ ソーラーパワー（Magalim Solar Power Ltd）が開発チームを率いている。フランスのフェルベッ ク産業煙突（Ferbeck Industrial Chimneys）が設計、オーストリア・ザルツブルグのグライトボ ウ社（Gleitbau-Salzburg GmbH）が建設を担当しており、米ゼネラル・エレクトリック（GE）が 太陽熱受熱蒸気発生器（SRSG／Solar-Receiver Steam Generator）を供給する。スイスのリフト技 術大手ヘブテック（Hebetec Engineering）がプロジェクトの最終フェーズでこの SRSG をタワー の最上部に吊り上げ、設置することになっている。欧州投資銀行（European Investment Bank） とハポアリム銀行（Bank Hapoalim）が建設・運営に関する融資を行っている。アシャリム太陽 熱発電所は 4 つに分けられた区画の、それぞれに異なった太陽エネルギー発電技術を装備する 予定であり、発電量は最大 310MW になると見込まれている（イスラエルの人口の最大 5%の使 用量を供給する見込み）。2016 年には、資金難に直面したスペインの大手エンジニアリング企 業アベンゴア・グループ（Abengoa Group）に代わり、イスラエルのシクン＆ビヌイ（Shikun &
Binui Holdings Ltd）が別の区画の 121MW の太陽熱発電プラントの建設を担うことになった。イ
スラエル財務省（Finance Ministry）は技術コストの低下に伴い、ソーラー産業の発展を後押し している。
製造業と貿易
イスラエルとヨルダンは、この 2 カ国にとって初めての共同インフラプロジェクトとみられる 「ヨルダンゲートプロジェクト（Jordan Gate Project）」と銘打った共同工業地帯（ Joint
Industrial Zone）の築造に着手した。数百万米ドル規模のこのプロジェクトは、イスラエルとヨ
ルダン両国に雇用をもたらし、進出企業は 2 国間の経済活動を促進するための法令、税金など 幅広い恩恵が受けられる。工業地帯のヨルダン側は工場、イスラエル側は物流エリアとなり、 製品をイスラエルの港に輸送することになる。プロジェクトに必要なイスラエル側の投資は 5,250 万米ドルと見積もられている。2015 年 11 月には北部イスラエルのバレー・オブ・スプリ ングス地域協議会（Valley of Springs Regional Council）が両国の施設をつなぐため、ヨルダン川 にかける橋の建設を入札にかけた。この橋の建設コストはおよそ 1,440 万米ドルと見積もられ、 プロジェクトの費用に組み込まれている。
水道
2016 年 6 月、9 億米ドルプロジェクトの紅海―死海運河計画（Red Sea-Dead Sea water canal）
第 1 フェーズに 17 企業が提案書を提出した。このプロジェクトはイスラエル、ヨルダン、なら びにパレスチナの人々に上水を供給することを目的としている。建設の大部分はヨルダン側で 行われるが、イスラエル内務省（Israeli Interior Ministry）とヨルダン水道省（Jordanian Water
Ministry）は、2015 年 12 月に共同入札の実施を発表している。
脱塩プラントの建設もヨルダン南部の都市アカバ（Aqaba）に計画されており、イスラエルの 都市エイラート（Eilat）とアラバ地域（Arava region）に飲料水を提供する。落札企業は全長 180 キロメートルの運河の建設と運営に対し、25 年にわたり責任を負う。世界銀行と欧米諸国 の多くがプロジェクトの資金面を後押ししていると報道されている
出典：ドイチェ・ベレ（Deutsche Welle） http://www.dw.com/en/red-sea-water-may-not-save-drying-dead-sea/a-18284472 2016 年 12 月には、イスラエル水道公社（Israeli National Water Company）、通称 MEKOROT が ヨルダンへの配水量を倍増させるため、5.5 キロメートルの配水パイプライン（Kinneret-Beit
Shean water pipeline）の建設事業主体に選定された。この事業は 2013 年に締結された紅海―死
海プロジェクト（Red Sea-Dead Sea Project）契約の一環として進行しており、これと引き換え に、イスラエルはアカバに建設予定の脱塩プラントから水を受け取ることとなる。
2017 年 1 月、イスラエル民政官事務所（Coordinator of Government Activity in the Territories、
COGAT）とパレスチナ自治政府民生庁（Minister of Civil Affairs）は、イスラエル－パレスチナ
共同水委員会（Israeli-Palestinian Joint Water Committee）の活動を再開する協定に調印した。同 委員会の目的はヨルダン川西岸とガザ地区の水関連インフラを整備・拡大することであり、こ れは独立したパレスチナ国家の樹立に向けて欠かせない一歩でもある。また、当地域について は 23 年水戦略計画（23-year water strategy plan）も発表されており、新たな契約締結のチャン スにつながる可能性がある。
一方でパレスチナ地区の小・中規模プロジェクトでは、パレスチナ社会インフラ開発プログラ ム（PCID／Palestinian Community Infrastructure Development Program）がパレスチナの人々の水 と衛生設備へのアクセスを改善しようと努めている。またこのプログラムは、人々の基本的な ニーズに対応するため、より小規模の地域インフラプロジェクトも提供する予定である。米国 国際開発庁（USAID）によると、PCID プロジェクトは 2013 年に開始、2018 年に終了予定であ り、総コストは 1 億米ドルの見込み。主要実施パートナーは難民支援機関の ANERA（American
住宅、健康および学校 米国国際開発庁（USAID）は、パレスチナ社会のために適切な住宅や健康関連施設、学校をサ ポートする活動にも関わっている。地域建設プログラム（LCP）は、パレスチナの人々のために 学校やクリニック、水や衛生サービスへのアクセスの改善など、小・中規模のインフラプロジ ェクトをヨルダン川西岸地区の全域にわたり展開している。同庁によると、このプロジェクト は 2013 年に開始、2018 年に終了予定であり、3 億米ドルのコストが見込まれている。主要実 施パートナーは米ブラック＆ヴィーチ（Black & Veatch）、以下パレスチナ企業でヘブロンのア ラブ・ブラザーズ建設（Arab Brothers Construction & Infrastructure）、オサイリー貿易請負 （Osaily Trading Contracting Co.）、ガザ地区の SAQA 建設（SAQA Skills & Quality Construction） と SAK（Saqqa and Khoudary Co. Ltd.）、ヨルダン側西岸地区中心都市ラマッラーのタリフィ請 負再建設（Tarifi Contracting & Reconstruction Company）および TGC（Technical Group Company
for General Contracting）である。
2016 年 1 月には、ガザ地区のハマド市（Hamad City）で住宅建設の第 1 フェーズが完了したと の発表があった。このプロジェクトはカタールが資金を拠出したイニシアティブ（Qatar-funded initiative）の一環であり、パレスチナの家族に 3,000 戸の共同住宅を提供するものであ る。カタール、イスラエルおよびパレスチナ自治政府は協力し、このプロジェクトに資材を提 供している。またカタールはハマド市の開発のため、全体で 1 億 4,500 万米ドルを確保してい ると報道されている。 しかしながら厳密に言えば、これらのインフラプロジェクトは必ずしも、すべてが経済的に援 助を必要とするパレスチナの人々のニーズに応えるものではない。最近オープンしたラワビ市 （Rawabi City）はヨルダン川西岸の中流・上流階層のパレスチナ人向けの施設である。パレス チナの不動産デベロッパーであるバシャール・マスリ（Bashar Masri）氏が主導する、このプロ ジェクトの第 1 フェーズは 12 億米ドルと見込まれており、バシャール氏の企業であるマッサ ール・インターナショナル（Massar International）とカタール政府が出資している。ラワビ市 の完成時には、最大 3 万人が居住できる 6,000 戸の共同住宅と、ビジネス向けの商用オフィス 空間の街となる予定である。 交通と物流
エルサレム―テルアビブ高速鉄道（Jerusalem—Tel-Aviv Express Rail Line）
この 2 都市間を結ぶ新しい鉄道建設プロジェクトであり、移動時間を現在の約 90 分から約 30 分に短縮する計画である。プロジェクトは現在建設段階で、2018 年には開業する予定である。 総コストは 17 億 8,000 万米ドルと見積もられている。
テルアビブのレッドライン LRT（Red Line LRT in Tel-Aviv）
全長 24 キロメートルのライトレール（LRT）路線であり、そのうち 12 キロメートルは地下を走 行することになる。現在建設が進められており、最初の LRT 路線は 2021 年に開業予定である。 プロジェクトの総コストは 42 億米ドルと見積もられている。
道路では、イスラエル縦断高速道路 6 号線（Cross Israel Highway〈Road 6〉）を北方向（BOT ス キーム）と南方向へ延長するプロジェクトがある。総コストは 70 億米ドルと見込まれている。
事業会社のネティベイ・イスラエル（NETIVEI Israel （国営道路インフラ公社））はイスラエル 国内の高速道路開発を担う、政府所有の企業である。
海運では、約 20 億米ドルをかけてアシュドッド（Ashdod）とハイファ（Haifa）の港に 2 つの 大規模コンテナターミナルを建設する計画がある。2021 年の稼働時にはコンテナ取扱量全体で およそ 5%増加すると見込まれている。
エイラット（Eilat）近郊のラモン国際空港（Ramon International Airport）にかかるコストは 4 億 4,600 万米ドルになると見込まれている。ラモン国際空港は、既存のエイラット空港（Eilat Airport）とオブダ空港（Ovda Airport）に代わる新空港となる予定である。イスラエル空港管理 局（IAA／Israel Airport Authority）が新空港の建設・運営全般を担当している。
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