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自動運転における警察庁ガイドラインの概要と対応
自動車の自動運転に関する研究が熱を帯びている。特区として認定された神奈川県藤沢市をはじめ、 日本各地の自治体で自動運転の研究が行われているほか、各車両メーカー、車載器メーカーや輸送関 連サービスを提供する多数の企業が研究を進めている。 日本国内のみでも毎年 4,000 人以上の尊い命が失われている交通事故の劇的な削減に大きな期待が 寄せられているが、まだ研究過程にある現行の自動運転車両においては、現状、予想もできない危険 が発生する可能性がある。自動運転にどのような危険性があり、またどのような対策をとればよいの かという研究を行うためには、実際の交通環境で実施する公道実験が欠かせない。しかしその際、研 究者とは無関係の対象に意図せぬ危害を加えたり、予期せぬ危険に研究者が巻き込まれたりする危険 性がある。 2016 年 5 月 26 日、警察庁は自動運転の研究開発を促進するため、「自動走行システムに関する公道 実証実験のためのガイドライン1」(以下、「本ガイドライン」)を公表した。本ガイドラインは自動運 転の実験のみならず、公共空間を広く利用する実験(例えばドローンによる輸送実験等)にも多くの 観点が適用できる。今後、これらの実験に参加する企業や自治体、団体がますます増加することが想 定されるが、実験中に事故が発生すれば、事故自体の損失だけではなく、自動運転に対する社会受容 性を損ねることにもなりかねない。研究者には、実験を安全に行うリスクマネジメントについて深い 理解が求められる。 本稿では、本ガイドラインを概観した上で、具体的なリスクの設定と対応について整理する。1. 自動運転ガイドラインの概要
(1) 概要 本ガイドラインの全体構成は表1の通りであり、10 の大項目に整理されている。これらを再整理す ると、「実験の前提」「実験計画」「実験車両」「事故対応」「外部連携」の 5 つの視点に分類できる。以 下、この 5 つの視点から本ガイドラインのポイントを解説する。 ■表1「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」の構成 章番号 10 の大項目 5 つの視点 1 趣旨 実験の前提 2 基本的制度 3 実施主体の基本的な責務 4 公道実証実験の内容等に即した安全確保措置 実験計画 5 テストドライバーの要件1 https://www.npa.go.jp/koutsuu/kikaku/gaideline.pdf
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東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 Copyright © 2016 6 テストドライバーに関連する自動走行システムの要件 実験車両 7 公道実証実験中の実験車両に係る各種データ等の記録・保存 8 交通事故の場合の措置 事故対応 9 賠償能力の確保 10 関係機関に対する事前連絡 外部連携 出典:「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」をもとに弊社作成 (2) 項目1~3 「実験の前提」 項目1~3は、実験を行う上での前提が記載されている。「1.趣旨」でガイドラインの位置づけが 整理され、「2.基本的制度」で現行法上の実験可能条件が示され、「3.実施主体の基本的な責務」 で十分な安全確保措置を講ずるべきことが示されている。 特に重要な点は、以下と考えられる。
<ポイント>
本ガイドラインは、これによらない方法で行う実験を禁止・制限するという趣旨ではなく、あくまで 「有益な情報を提供し、その取組(公道実証実験)を支援する」ためのものである。 以下の 3 条件を満たせば、現行法上、場所・時間にかかわらず実験を行うことができる。 ①保安基準に適合する車両に、 ②ドライバーが乗車して監視・(緊急時には)操作し、 ③法令を遵守して走行すること (3) 項目4~5 「実験計画」 「4.公道実証実験の内容等に即した安全確保措置」「5.テストドライバーの要件」では、公道実験 を行う上での計画についてまとめられている。 特に重要な点は、以下と考えられる。<ポイント>
公道走行前に、実験施設等での走行試験を十分に積み、実験車両が安全に公道を走行可能で あることを確認する。 公道での実験は、想定外の事態が生じにくい環境(歩行者・自転車の通行がない、または少ない 環境)から始め、徐々に環境を変える等、段階的に実施する。 実験の関係者間で認識を共有すべき事項を書面化し、関係者に周知する。 テストドライバーは、常に運転者としての責任を負うことを認識する。 テストドライバーは、以下の 3 要件を満たしていることを確認する。 ①相当の運転経験を有し、かつ、運転技術が優れていること ②自動走行システムの仕組みや特性を十分に理解していること ③公道実験前に、自動走行システムを用いて運転し、緊急時の操作に習熟していること3
東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 Copyright © 2016 テストドライバーは、常に車両の状態を監視し、緊急時に必要な操作を行うことができる必要があ る。 ※本ガイドライン項目4(3)に示されている「安全確保措置」は、本質的に非常に重要な点だが、実 験の目的・内容、公道の状況に応じて具体的な対応が異なるため、上記ポイントからは除外した。 (4) 項目6~7 「実験車両」 「6.テストドライバーに関連する自動走行システムの要件」「7.公道実証実験中の実験車両に係る 各種データ等の記録・保存」には主に車両に関する条件が示されている。 特に重要な点は、以下と考えられる。
<ポイント>
自動走行システムは、ドライバーが安全確保のための必要な操作を行うことができる必要がある。 自動走行システムは、ドライバーとの間で車両操作の権限委譲が適切に行われる必要がある。 適切なサイバーセキュリティの確保に努める。 実験中の事故・違反を事後検証するため、ドライブレコーダーやイベントデータレコーダーを搭載 し、周囲の状況、各種車両データやセンサの作動状況を記録・保存する。 (5) 項目8~9 「事故対応」 「8.交通事故の場合の措置」「9.賠償能力の確保」には、事故発生時の対応が記載されている。 特に重要な点は、以下と考えられる。<ポイント>
事故発生時には、直ちに運転を停止し、負傷者を救護し、危険防止措置を講じ、警察に報告す る必要がある。 事故原因を調査し、再発防止策を講ずるまでの間は公道実証実験を控える。 自賠責保険に加え、任意保険に加入して適切な賠償能力を確保する。 (6) 項目10 「外部連携」 「10.関係機関に対する事前連絡」には実験の実施主体以外との連携について記載されている。 特に重要な点は、以下と考えられる。<ポイント>
実験の目的・内容を踏まえた助言を受けるため、警察、道路管理者、地方運輸局等に対し、実験 計画を事前に連絡する。 本ガイドラインの内容を表に整理したものを本稿末に付記した。実験の際に確認するチェックリス ト作成の参考にしていただきたい。4
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2. ガイドライン適用の具体的な流れ
本ガイドラインをどこまで、どのように適用すべきだろうか。本ガイドラインは、これによらない 方法で行う公道実証実験を禁止するものではない旨が明記されており、安全確保のための「絶対の基 準」とまでは言えないが、可能な限り遵守すべきと考える。本ガイドラインは安全に実験を行うため の対策として行うことを広く示しており、もれなく対応することで、事故発生の可能性および事故時 の被害を大きく減らせると考えられるからである。 また、万一、実験中に事故が発生した場合、研究者は事故当事者に対しても、社会に対しても、実 験計画における安全確保措置に関して説明責任が求められる。未知の領域への挑戦であるため、リス クをゼロにすることを事前に保証することはできないが、ゼロに近づける努力が妥当であったかどう かは、事後的に評価されることとなる。その評価の 1 つの観点として、「本ガイドラインをどのように 適用したか」がある。前述の通り、極力、本ガイドラインを網羅した計画が望ましいが、少なくとも、 「検討した結果、この対策は不要と判断した」という記録を残す対応が求められると考える。事故を 起こさないためには、事故が起こることを想定した上で、あらかじめ対策を打つことが必要である。 具体的な対応としては、計画を立てた段階で、本ガイドラインの各項目に対応した対策をそれぞれ 実施できているか確認することをお勧めする。ただ、本ガイドラインそのものは個別の実験計画に対 応しているわけではないため、このまま実験計画に当てはめようとしても、適合有無を判断すること は困難な項目が多い。特に、本ガイドライン項目4(3)に示されている「適切な安全確保措置を講 ずるべき」という項目は、実験の目的、内容、公道の状況によって具体的な対策は千差万別と言える。 そのため、具体的な実験計画を本ガイドラインに照らして確認する場合には、本ガイドラインの記 述を具体的なチェック項目に落とし込んだ上で対策を検討するプロセスが必要となる。以下、参考と して想定される実験の流れに沿った具体化の検討例を示す。 (1) 実験計画の立案 まず実験者は当日の計画を記した実験計画書を準備するべきである。これは本ガイドライン項目 10にある通り、関係者間での合意事項を確認するとともに、安全対策について、警察等に共有する ためである。 計画書に記載されるべき安全対策の主要な点は、前述の本ガイドライン項目4(3)に示されてい る「公道の状況に応じて(中略)適切な安全確保措置」と言える。この点はより詳細に検討が必要で あり、表 2 に本ガイドラインをもとに対策を作り出すステップを例示した。 表 2 は「適切な安全確保措置」について、掘り下げたものである。本ガイドライン内には「実験の 目的」「内容」「公道の状況」に応じてと記載があるため、まず、それぞれに対して対策を取っている か検討することとし、さらにそれぞれに対してより課題を具体化した。例えば、表 2 の「公道の状況」 の対策では、公道での危険につながりうるものとして、「交通参加者」「特殊な事情による変化」「天候」 「運転手」等に分けて分類し、具体化している。このような分類により、あらかじめ道路周辺環境の 確認、先導車の配置、運転手指導等の対策がありうることがわかる。これをチェック基準の形にまと めたものを表内に記載した。 これらの対策を実際に行うかどうかは実験の目的や内容によるため、一概には言えない。また、上 記は一例であり、実験したい機能によっては全く異なる観点が入る可能性もある。ただし、少なくと5
東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 Copyright © 2016 もこれらの検討ステップを踏んでいることが重要である。上記はガイドラインの1項目に対して行っ たものであるが、これらの検討をガイドライン全体に対して実施しておくことが望ましい。このよう な検討をもとに計画書を作成すること自体が事前の十分な検討を促し、事故発生を抑止する効果があ る。これらを踏まえて計画書の作成を行うことができれば、関係者の理解も得やすいものになると考 える。 ■表2 ガイドラインに基づく対策検討の流れの例(実験計画) 【ガイドライン本文】公道の道路交通環境を事前に確認し、公道実証実験の目的や内容及び当該公 道の状況に応じて、必要と考えられる場合には、適切な安全確保措置を講ずるべきである。 検討するべきこと より具体的には チェック基準例 今回の公道実証実験の 目的は何か? ・実験で確認したい機能は何 か? ・どのような場面が実験した い機能に適しているのか? 走行ルートを実験前に決定し、ルート内に 今回検討したい機能を発揮することので きる場面が含まれていること、また、現在 対応することができないことがわかって いる場面が含まれていないことを確認す る。 今回の公道実証実験の 内容はどんな内容か? ・実験の具体的な手順は決ま っているか? ・実験時間や、実験の場所に 不必要な危険はないか? 走行計画を実験前に決定し、長時間運転 や、危険がわかっている場所に接近したり する等、危険を増幅する計画ではないこと を確認する。 当該公道の状況は、実 験を行うのに適切か? ・実験中に同じ交通環境にい る交通参加者はどのような人 たちか? 走行ルートを実験前に決定し、交通量・交 通参加者の特徴(通学路である等)等が実 験目的から見て適当であることを確認す る。または、危険性を低下させる対策をと っている。 ・交通環境は実験当日も普段 通りの状態か? 走行ルートを実験前に決定し、当日に工 事・イベント等で利用できない状態になっ ていないことを確認する。 ・実験当日、交通環境に異常 は起きていないか? 当日走行前に、落下物や事故等で実験ルー トが利用できない状態になっていないこ とを確認する、または先導車を用意し、ル ートの確認を行う。 ・実験当日、天候に異常は起 きていないか? 当日走行前に、雪・凍結等で実験ルートが 不適切な環境になっていないことを確認 する。また、発生した場合の対応を事前実 験および実験計画で確認する。
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東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 Copyright © 2016 ・交通環境について、運転手 は事故防止に十分な知識をも っているか? 運転者が危険を予測して適切に事故防止 できるよう、交差点や狭路等、走行するル ート上で考えられる危険についてあらか じめ危険場面を抽出し、指導を行ってい る。または、危険性を低下させる対策をと っている。 危険なことが起きた、 あるいは天候・交通環 境が急変したらどうす るのか? ・もし何らかの異常が見つか ったらどうすればいいのか? 実験計画を定め、走行ルート、想定される 危険、実験中断の条件、緊急時の連絡体制 について記録するとともに、関係者・特に ドライバーと共有している。 出典:「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」をもとに弊社作成 (2) 車両の準備 自動運転車は独自の改造が必要になるため、車両に関する点もガイドラインの多くを占める。車両 についても、ガイドラインの項目の 1 つを詳しく検討する例を示す。 ■表3 ガイドラインに基づく対策検討の流れの例(実験車両) 【ガイドライン本文】公道実証実験に用いる車両が道路運送車両の保安基準の規定に適合している こと 検討するべきこと より具体的には チェック基準例 車 両 が 公 道 を 走 行 する の に 問 題 な い こ と はど う や っ て 示 せ ば い い か? 改造車は車検を通過できるか? 実験車は車検を通過しており、 その後車検に影響する改造が なされていない。 走行前、車両に異常が起きていない か? 車両の整備状況について、実験 前に日常点検を行う。 出典:「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」をもとに弊社作成 表 3 は本ガイドラインの項目2に対応している。先の検討と同様に行い、事前の検査と当日の検査 の双方が必要と考えた。 車両に関するガイドライン項目は多く、検討項目も多い。しかし、そもそも実験車両の安全を検討 するための実験であるので、設計自体が安全であることを検討する意味でも十分な確認が必要である。 (3) 事故時の対応と外部連携 事故時の対応に関するガイドラインの項目は具体的・限定的な記載がなされているものが多く、比 較的、対策検討しやすい記述が多い。最も重要なのは関係機関への周知と考える。周知内容の詳細検 討は実験計画の検討とも重複するので、ここでは割愛する。
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東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 Copyright © 2016 周知は対策の実効性を高めるとともに、見逃していた危険性がないか議論することにもつながる。 また、万が一事故や危険が起きた際は多数の関係者による対応が必要になるため、その準備という意 味もある。周知については、想定するリスク、その対応、実験の中止基準、万が一の事態の連絡方法 や対応方法を確認し、極力早い段階で報告を行い、関係者間で合意しておくべきである。また、これ ら関係者への周知を行った、ということも記録に残すべきである。
3. 最後に:ガイドラインの活用
本ガイドラインは実験にあたっての考え方を記載しており、実際の利用にあたっては利用者が細目 を具体化し、対策を検討する必要がある。行った安全対策が十分であるということを保証することは 難しいが、研究者以外の関係者も含めて意見を求め、複数の観点から対策の安全性を確認したうえで 実験を行うべきである。本稿で述べた対策はあくまで一例であり、実験の危険性や実施の難易度に応 じ、適切な程度を検討いただきたい。 今後も、自動車に限らず、新しいサービスが社会に展開される際には様々な形で公共の環境内で実 験が行われることがありうる。本ガイドラインに記載されている事前実験や計画作成の重要さ等はあ らゆる研究で言える一般的な事実である。特に AI 活用等、機械と利用者の双方が絡むようなケースは 場面がよく似ており、活用性が高いと思われる。自動運転に限らず、是非、本ガイドラインを公共環 境内の実験をはじめ、製品・サービス開発等にも有効に活用いただきたい。 [2016 年 8 月 2 日発行] 自動車リスク本部 〒100-8050 東京都千代田区大手町 1-5-1 大手町ファーストスクエア ウエストタワー23 階 Tel. 03-5288-6586 Fax. 03-5288-6628 http://www.tokiorisk.co.jp/8