臨地実習受け入れ体制の見直し ~教育担当副看護師長の役割を通して~ 千葉大学医学部附属病院 久田 真弓 Ⅰ.背景と動機 当院では今年度より各病棟に教育担当副看護師長が配置され、自身がその役割を担うこ とになった。その役割とは病棟における看護職員への教育的指導や支援、看護研究の支援・ 実施、また看護学生や研修生の学習の支援である。今回本研修への参加を機に、自身の役 割に照らし合わせて病棟の臨地実習(以下、実習)受け入れ体制の現状ついて 、見直しを 検討しようと考えた。 現状の実習受け入れ体制の課題として次の4 点を挙げた。1点目は、スタッフや管理者 が実習要綱を確認する体制や、いつ、どのような学生が実習にくるのかを把握できるよう な体制が整備されていないことである。これは、学生のレディネスを把握しないまま指導 を行うことや、統一した指導が行われないことにつながると考えられる。2点目はスタッ フへ学習成果をフィードバックする体制がないことである。 指導の成果を感じられないこ とは、指導に対するやりがいを持てず、実習がただ負担なものに感じられ指導の効果が下 がる可能性がある。現在の学生指導体制は兼任制であり、兼任制・専任制についてはそれ ぞれメリット・デメリットがある 1)。従って部署にあった体制を検討していく必要があり、 スタッフの負担を増やすことなく、指導に対してやりがいを感じられるような体制を検討 していくことが必要である。3 点目は、スタッフと教員の役割分担について明確に示され ていないことである。これは、スタッフが指導と業務との時間調整をうまく行えないこと や、学生の実習時間の延長につながる原因になると考えられた。4 点目は、スタッフが教 員に学生との看護実践を任せる場面を目にすることが多くあり、 実習指導に看護師が携わ る意義をスタッフが理解できていないことである。学生は、看護師と看護を行う場を共に することで、事象の捉え方や個別的な援助方法などさらなる看護への関心を喚起させる 2)、 と言われていることから実習では、可能な限りスタッフが直接看護実践を指導することが 望ましいと考えられる。 以上の課題の解決と自身の病棟における役割の明確化に 向けた取り組みとして、具体的 な計画を以下に示す。 Ⅱ.目的 1.実習が、学生・スタッフ双方にとってよい影響を与え合うものとなるような 受け入れ 体制を整備する。 2.教育担当副看護師長の役割のうち「看護学生や研修生の学習を支援 する」ことについ て、病棟での具体的な役割・行動を明確にし 、自身の役職に責任を持ち意欲的に活動す ることができる。
Ⅲ.目標 1.スタッフが、実習期間や学生のレディネスを事前に把握し、学生に合わせて指導でき るようになる。 2.スタッフが、前向きに指導に取り組めるように、指導した成果 を把握できる体制を整 える。 3.教育担当副看護師長とスタッフ、教員の役割分担を 明確にして提示する。 4.自身のクリニカルラダーの「学習・教育・研究能力」欄の項目すべてが 自己評価 a(求 められる行動が十分にとられていた)、他者評価b(求められる行動がおおむねとられて いた)以上となる。 Ⅳ.方法 1.病棟スタッフに対して、本研修での学びや今回の計画立案に至った経緯などについて 報告する。立案した計画内容について説明し、協力を得る。(8月初旬) 2.病棟スタッフに向けて、現在の実習受け入れ体制についてのアンケート(事前アンケ ート)調査を実施し、現状を把握し直す。(8月中旬) 3.上記のアンケート結果と課題を照合し、教育担当副看護師長の役割に基づいて病棟の 実習受け入れ体制について検討し、病棟の学生指導要綱としてまとめる。同時に病棟に おける自身の役割を明確にする。(9月初旬~) 4.作成した学生指導要綱の確認を管理者とスタッフに依頼し、見直し・修正をする。 5.病棟スタッフへ、学生指導のあり方について伝達講習を行う。(10 月下旬) 6.学生指導要綱に沿って、順次実習指導を開始する。(11 月実習受け入れ開始から) Ⅴ.倫理的配慮 アンケート調査は無記名とし、個人が特定されないようにする。また得られた情報は学 生指導の改善に講じることを目的として取り扱いには十分注意することを伝える。 Ⅵ.評価 1.学生指導要綱に沿って実習を受け入れた結果についてスタッフへアンケート(事後ア ンケート)調査を行う。学生指導要綱は、追加・修正を加えるなどしてより精度の高い ものへ仕上げていく。 2.院内で定められた評価時期にクリニカルラダー評価を行う。 Ⅶ.実践内容とその結果 研修終了後、研修参加に伴う協力への感謝の気持ちをメッセージに込めてスタッフ全員 へ贈った。それに対し、スタッフの中には、研修の様子や学びなどについて関心を示した 者もあった。その後改めて研修での学びや実践計画について 書面を作成し報告会を開催し た。スタッフ全員が負担なく参加できるように、20 分程度を目安に数回に分けて報告、説
明した。内容や計画について反対意見などはなかった。 1.現状の把握とその結果 新人は学生指導に携わる経験を持っていなかったため、新人以外のスタッフを対象とし、 実習の受け入れをどのように感じているかについて現状を把握するためのアンケート調査 を実施した。無記名で回答を依頼し、回収率は 100%であった。 実習開始前に学生の学習段階などを把握していると回答したスタッフは 5%であった。 また、学生の実習目標を把握し、それに合わせた指導ができていると感じているスタッフ も 5%であった。学生の指導者になることについては「指導はしたいが、学生がどのよう な目標を持っているか分からず、どこまで教えていいのか分からない」と回答したスタッ フが最も多く、次いで「責任がある」「自身の勉強にもなる」と回答したスタッフが多かっ た。「自分に余裕がない」「学生指導の役割を担えているか不安である」などの回答もあり、 スタッフは、質の高い学生指導を行いたいと考えてはいるが、学生のレディネスを把握し ていないことによる疑問や、指導者としての役割が 分からないことに対する不安などを感 じていることが分かった。また、スタッフの 71%が学生指導は業務に支障がある、57%が 学生指導にやりがいをあまり感じていないと回答していた。実習に関して教育担当副看護 師長へ期待する役割については、「事前に学生に関するお知らせをしてほしい」と記入した スタッフが最も多く、その他「自分たちが時間的・技術的理由で関わりが不十分になる点 をカバーしてほしい」という回答が多かった。以上の結果と、院内で開催された臨地実習 指導担当者会議や A 大学看護学部との合同会議に参加して得た情報を参考に、実習の受け 入れ体制を検討した。 2.実習の受け入れの実際 (1)教員との役割分担 研修終了後から報告書作成までに、専門学校2校、大学1校の実習を受け入れた。各学 校とも事前に教員と日程を調整し、実習スケジュールや学生への対応方法などについて検 討した。専門学校の場合、教員が病棟にいる時間が短かったため、教育担当副看護師長が 学生指導を担当することとした。大学の場合は、教員が専従で病棟に出向いていたが2部 署を掛け持ちであったため、担当表を作成し交代で学生指導を行うこととした。学生指導 担当となる時の指導方法について各教員と詳細に打ち合わせ、さらに大学の実習の際には 教員の指導方法を学ぶ機会を一日設け、学生への対応方法や指導の実際などを見学し、学 びを深めた。 (2)スタッフとの役割分担 学生には多くの看護師と接してもらいたいと考えたため日々の学生指導はスタッフが行 うこととした。教員と打ち合わせた内容を伝えると共に、教員が学生とどのような関わり をしているのか、スタッフにはどのような関わりを期待しているのか等を伝え、スタッフ の役割が明確になるよう努めた。 (3)スタッフへの働きかけ 実習開始前に、スタッフへ学生指導の在り方について伝達講習を行う計画であったが 、
時間的調整がつかず行うことができなかった。代わりに「実 習を受け入れる心構え」と題 して実習を受け入れることに対する考え方や、学生への関わり方のポイントなどを記載し た資料を作成して全員が見られる場所に掲示した。さらに、実習開始 2 週間程度前に、実 習期間や学生の紹介、実習の目的・目標などを記載した資料を作成し掲示した。資料作成 にあたっては、スタッフの目に留まりやすいように、色や字体を変えたりイラストを挿入 したりするなど工夫した。また学生個別にファイルを作成し、実習期間や実習の目的・目 標、学生の看護ケア指導分類表などを記載した資料を挿みその日担当となったスタッフが 改めて確認できるようにした。実習開始後は学生の記録も挿み、学生の学びをスタッフも 確認できるようにした。さらに簡単な引き継ぎ事項を記入できる用紙を準備し、 その日担 当したスタッフに記載を依頼し、実習期間中、学生に継続した指導ができるようにした。 (4)勤務体制 病棟師長と相談し、実習期間中は、教育担当副看護師長である自身が、可能な限り日勤 となるように調整をした。自身が不在の日は他の副看護師長へ役割を引き継ぎ対応しても らうことにした。学生指導担当の日は、患者を担当せずに学生指導に関わる業務だけを行 った。しかし、実習期間中であっても日勤の人数は変わらないため、学生担当として一名 が専従になることはスタッフの負担を増加している印象があった。そこで、学生指導に加 えて重症度の低い患者を数名担当してみることにした。またその他の病棟業務をいくつか 兼務するなど、スタッフの負担が増加しないよう試みた。しかしこれは、 学生への対応や 実習記録の確認に支障を生じさせてしまうことにもつながった。以上の経過を踏まえてス タッフと話し合いを行った結果、実習期間中の勤務体制を次のように変更することにした。 ①教育担当副看護師長が学生指導を担当する日は、看護ケアや患者搬送などのサポートに 専従するフリーの看護師を設けず、教育担当副看護師長が学生指導に加え、可能な範囲で 病棟業務をサポートする。②教育担当副看護師長が学生指導を担当しない日も、教員のサ ポートとして学生に関わることができる体制をとる 。 (5)学習成果のフィードバック 実習終了前に開催される学生カンファレンスに参加した。学生の学びを聞くとともに、 病棟看護師の対応はどうだったか、具体的に学びとなった看護実践場 面や印象に残った看 護師像はあったかなどの質問をして、病棟の評価を行う機会とした 。実習終了後、学生の 学びや感想等を記載した用紙を作成し、実習への協力に対するお礼とともにスタッフ全員 が確認できる場所へ掲示した。またカンファレンスで個人名のあがったスタッフに対して は、個別に学生からの評価や感想を伝えるようにした。 (6)実習指導要綱の作成 実習を受け入れながら要綱を作成し活用していく計画であったが、受け入れ体制につい て試行錯誤を繰り返してきたため、要綱(案)が完成したのは実習受け入れが終盤にせま った時となってしまった。
Ⅷ.評価 新人も含め、学生指導に携わったスタッフ全員を対象とし、実習受け入 れ体制の見直し のための取り組みに関する評価についてアンケート調査を実施した。 無記名で回答を依頼 し、回収率は 75%であった。実習開始前に学生の学習段階などを把握していると回答した スタッフは 50%と上昇していた。学生の実習目標を把握しそれに合わせた指導ができてい ると感じているスタッフは 39%と上昇しており、目標1は達成に近づいたと考えられる。 学生の指導者になることについては「きちんと指導できているか不安である」と回答した スタッフが多かった。しかし「学生の看護観にも影響するので責任をもってしっかりやろ うと思う」「忙しいときは大変だが、学生が理解したと思える時は楽しい」などの回答もあ り、自身の指導に不安を抱えながらも、指導者として前向きな姿勢 を持っていることが分 かった。学生の学習成果を知ることで指導に影響はあったと回答したスタッフは 39%であ り、「次の指導につなげやすい」「どういう学びをしてくれたのか分かるのでよかった」「や りがいを感じる」「頑張ろうと思った」などの記述があった。学生指導に少しやりがいを感 じていると回答したスタッフが 56%と最も多くなり、スタッフの学生指導に対する意識は 向上したと考えられ目標2も達成に近づいたと考える。教員と教育担当副看護師長、スタ ッフの役割分担については実習開始前に提示できたため目標3は達成とする。 目標4に対 してクリニカルラダー評価を実施し、8 項目中自己評価で 2 項目を b 評価とした。管理者 評価においては全て a 評価となりほぼ目標は達成できたと考える。 Ⅸ.まとめと今後の課題 今回短い期間であったが、実習の受け入れ体制の見直しに取り組み、 わずかではあるが スタッフの意識を変えることができたのではないかと考える 。実習指導要綱は今後の実習 で活用し、見直しや修正を行い、より病棟の体制に則したものにしていく必要がある。今 後、病院の再開発計画に伴い看護職員数の増加も検討されており、実習の受け入れも拡大 すると考えられる。今回の研修での学びを生かし、私たちが中心となって病棟スタッフへ 呼びかけ、「未来の仲間を育てる」という姿勢で学生を受け入れていきたい。 本研修に参加できたことに感謝するとともに、お世話になった千葉大学大学院看護学研 究科附属看護実践研究指導センターの諸先生方、千葉大学地域看護学講座の先生方、研修 生の皆様、病棟看護師長をはじめスタッフの皆様に心から御礼申し上げます。 Ⅹ.参考文献 1) 齋藤茂子:新カリキュラムで臨地実習をどう見直すか、看護展望、34(2)、p102、2009 2) 前川幸子:看護基礎教育における臨地実習の教育方法、日本看護研究学会雑誌、30(2)、 2007 3) 杉森みど里、舟島なをみ:看護教育学第 4 版、医学書院、2009 4)上野真由美他:臨地実習における実習環境調整―効果的な指導のための 7 項目を取り入 れて、第37 回看護学会論文集(看護教育)、p239、2006 5)豊島三枝子他:看護実習における学生の自己効力感に影響する要因-インタビュー内容 の分析-、日本看護学教育学会誌、14(3)、2005
資料
にし棟
5 階病棟 学生指導要綱(案)
Ⅰ.実習受け入れの心構え 1.実習は、学生にとって授業の一つであることを理解しましょう。 2.学生指導は、私たち看護師の業務(責務)の一環であることを理解 しましょう。 3.挨拶は、笑顔で、しっかりと返しましょう。 4.学生を呼ぶときは、個人名で呼ぶようにしましょう。 ×「学生さん」 ○「~さん」 5.すぐに対応ができないとき、学生を待たせるときなどは具体的な時間を 伝えましょう。 6.「学生は、看護師の姿勢を常に見ている」ことを自覚して行動しましょう。 Ⅱ.指導体制 1.教育担当副看護師長 ①実習期間中は、可能な限り日勤とする。 ②学校の方針に従い、学生担当専従または教員と役割を分担して実習が円滑に 進むよう配慮する。 業務体制例)学生担当+副看護師長業務 学生担当+学生の担当患者でプライマリーがいない患者を担当 学生担当+看護ケアサポート など 2.病棟スタッフ 学生を担当し、行動調整や看護ケアなどを一緒に行い、学生の実習目的に合 った指導を心がける。 Ⅲ.教育担当副看護師長の役割 1.実習開始前 ①各学校の教員と、直接または紙面にて、実習のスケジュールや学生の指導に ついて打ち合わせを行う。 ②各学校の実習目的に合わせて、看護師長と相談しながら期日までに学生の担 当患者を選定し、患者に同意を得る。 ③実習開始1 週間程前までに、スタッフへ向けて、実習開始のお知らせを行う。 ④学校の方針により教員が学生指導専従でいる施設とそうでない施設がある。 教員が学生指導専従で病棟にいる場合は、教員とスケジュールを調整し役割 分担を明確にするとともに、スタッフへ提示する。 →実習最大の目的は、 学生の看護に対する 関心と意欲を高める ことです! →実習は、病棟の 看護師と接し、現場で 直接指導を受ける ことに大きな意味が あります! →教員が、患者より同 意書を取得する →内容;学生のレディ ネスや実習目的・目 標、実習スケジュール など⑤学生個々に実習ファイルを準備する。 2.実習開始後 ①学生指導担当となった日は、学校の方針に従い、学生の行動調整や実習記録 の確認・アドバイスを行う。 ②学生を担当している看護師のサポートを行う。 注)学生を担当する看護師が1 年生の場合は、行動調整や報告は一緒に行う。 また、看護ケアについても必要時介入する。 ③学生のカンファレンスへ参加する。 3.実習終了後 学生の学習の成果(学びや感想、カンファレンスの内容など)をスッタフへ フィードバックする。 Ⅳ.病棟スタッフの役割 1.実習開始前 実習開始前までに、教育担当副看護師長が提示する実習のお知らせの内容を 確認し、学生のレディネスや実習の目的や目標、実習スケジュールを理解す る。 2.実習開始後 ①学生の担当になっていたら、指導に入る前に学生個々に準備してあるファイ ルの内容を確認する。 ②「実習受け入れの心構え」を参考に、学生と行動調整を行い、効果的な実習 ができるよう指導する。 ③勤務終了後、その日の学生への関わりについて引き継ぎ用紙に記入し、学生 ファイルへはさむ。 3.実習期間終了後 学生の学びやカンファレンスの様子についての報告内容を参考に、次への学 生指導へ生かす。 →ファイル;実習の 目的や目標、学生指導 のポイント、学生個々 の目標、看護ケア指導 分類、引き継ぎ事項記 入用紙を準備する →ファイルには、実習 の目的や目標、学生指 導のポイント、学生 個々の目標、看護ケア 指導分類表、引き継ぎ 事項用紙、前日までの 学生の記録などが入 っています 平成24 年 2 月作成