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子どもの心の診療医養成研修

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Academic year: 2021

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(1)

今日の話題

• トラウマ

• PTSD

• 子どものトラウマ

• アタッチメントと解離

• トラウマ治療

• 事例

トラウマ

− 20 −

講義② 子どものトラウマ

浜松医科大学医学部医学科児童青年期精神医学講座 特任助教 

吉川 久史

(2)

トラウマとは

(van der Kolk, et al., 1996)

• トラウマ的体験の中心は、孤立無援感、無力感、

人の生命に関わる脅威である。

• トラウマによって、自分も周りも信じられなくなる。

• トラウマ症状は、侵入症状、回避、認知と気分の

変化、過覚醒となって表れる。

• ささいな出来事であっても典型的なPTSD症状が

起こりうる。

トラウマと情報処理

入力

情報処理

出力

・感覚刺激 ・ストレッサー ・トラウマ的出来事 ・運動 ・ストレス反応 ・トラウマ反応 ・対処行動 ・情報の統合 ・状況の理解 ・刺激の評価 ・長期記憶参照

(3)

トラウマは身体に残る(1)

【神経ホルモンにおよぼす影響】

• 交感神経系の活動に慢性的な亢進。

• コルチゾールの増加。

• 暴力を受け続けていると、コルチゾール反応が鈍くなるか、

すばやくベースラインに戻ってしまう。

• セロトニンの低下。

トラウマは身体に残る(2)

【辺縁系の異常】

• 海馬の体積の減少。コルチゾールの濃度が高まることで海馬が

縮小したと考えられる。

• トラウマ賦活時、扁桃核の活性化、右側視覚野の活性化、ブロー

カ領域が「スイッチが切られた状態」に。

• 右半球の活性化(入力情報の情動的な重要性の評価、入力刺激

に対する自律神経系反応とホルモン反応の制御)。

• 左半球の低活性(ブローカ領域-個人的な経験を伝達可能な言

語に翻訳する)。

(4)

PTSD

PTSD診断の歴史

• 19世紀、ヒステリー(現在の解離性障害に近い)と鉄道

事故の後遺症「鉄道脊椎」「外傷神経症」(現在の

PTSDに近い)に関心が集まる。

• 第一次世界大戦の兵士に見られた「シェル・ショック」。

• カーディナーの戦争神経症(1941)が診断基準の基礎。

• 性暴力被害の知見が加わる。

• 1980年、DSM-ⅢにPTSDが記載された。

(5)

PTSDの診断基準(DSM-5)

A. 曝露 死、死の危険、重傷、性的暴力。(体験、目撃、伝聞) B. 侵入症状 苦痛な記憶の侵入、繰り返す悪夢、再体験。 内的・外的トリガーによって引き起こされる心理的苦痛や生理学的反応。 C. 回避 トラウマ的出来事に関するものを避ける。考えないようにする。 D. 認知と気分の変化 想起不能。否定的な信念や予想、認知の歪み。孤立感。 持続的な陰性感情。陽性の感情を体験することができない。 E. 過覚醒 攻撃性、自己破壊的行動。過度の警戒心、過剰な驚愕反応。 集中困難、睡眠障害 B, C, D, Eが 1か月以上持続

PTSDについての2つの考え方

ヴァン・デア・コルクら編『トラウマティック・ストレス』(2001)

異常な状況への

正常な反応である

普通の危機的出来事の

後にも生じうる、

異常な反応である

同じ状況に曝されても、 全員が同じ反応をする わけではない。 ささいな出来事でも 典型的なトラウマ反応を 引き起こすことがある。

(6)

PTSDの有病率

米国

Kessler et al. 全米疫学調査(2007update版) HPより 日本(岡山、長崎、鹿児島のデータ) 川上ら( 2006) 「特定の精神障害の頻度、危険因子、受診行動、社会生活への影響」より ※ 生涯経験率68.3%。

複雑性

PTSDについて

• PTSDの中核症状に加えて、自己調節能力の広

範囲の混乱を伴う。

(a) 感情調節困難

(b) 対人関係能力の混乱

(c) 注意と意識の変化

(d) 悪影響を受けた信念システム

(e) 身体的苦痛あるいは無秩序

(7)

子どものトラウマ

トラウマが関係する子どもの主訴

• フラッシュバック、悪夢 (侵入)

• 特定の場所、モノ、人を避ける (回避)

• 「誰も信じられない」、「人と違う気がする」、

「もう絶対にうまくなじめない」 (認知の変化)

• 楽しくなくなる、退行 (気分の変化)

• イライラ、眠れない、集中できない (過覚醒)

• 症状で表現する (身体化症状、強迫性障害など)

• 幽霊が見える、声が聞こえる (解離)

• 暴言、暴力 (被虐待)

• 良い子すぎる行動 (被虐待)

• 自傷行為、自己否定、ゲーム (これをしないともっと辛い)

(8)

子どものトラウマ

トラウマとは ひどい体験の後に、その体験に関係 する記憶、感情、行動、認知、身体反 応が残ってしまう状態。体験の処理が 止まった状態。 残ってしまうと、生活が妨害される。 残っているものに対処しようとする。そ の苦闘を通じて、人は変わってしまう。 子どものトラウマティック・ストレス ・いじめ、被虐待、DV目撃 ・ネグレクト、拒絶 ・親しい人の死 ・事件、事故、災害、喪失 ・残虐行為への荷担(Herman, 1997) ・(引っ越し、転校、手術、嘔吐など ささいなことでもトラウマになる)

トラウマ体験の中心

脅威、無力感、孤立無援感

(van der Kolk, et al., 1996)

トラウマ = こころの傷

→心的外傷後の症状

「いつもまで言ってるの?!」 それは、今でも残ってるから。

子どもとトラウマ (発達の視点)

トラウマ的出来事のあと (Herman, 1997) 成人の場合 すでに形成されている人格構造が腐食される。 子どもの場合 外傷が人格を形成し変形する。 子どもはトラウマの苦しみをカバーするような行動を編み出す。 (例:解離、過剰適応、虐待の正当化、自傷) 発達というのは、前の段階を土台にして次の段階を生きる。 前の自分は今の自分の一部になる。 トラウマは次の段階も残る。 トラウマをカバーする行動は、次の発達段階の土台になる。

土台になったら簡単には見えません。

(9)

子どもとトラウマ (大人の役割)

大人 大人も動揺する。 子どもの症状が改善しないと苛立つ。 子ども 口を閉ざす。なかったことにする。 トラウマが語られることなく、成長する。 子ども トラウマの話を打ち明ける。 次に症状を出したと きには、トラウマ由来 かどうかわかりにくく なる。 子どものトラウマ症 状への大人の関わり がその後の子どもの 症状を左右する。 →周りの環境に症状 が左右される。

長期のトラウマ被曝

愛着障害

複雑性

PTSD

解離性障害

感情

衝動

制御不全

行動

養育者

トラブル

学校

地域社会

虐待

いじめ

孤立無援感

脅威

無力感

フラッシュバック

愛着問題

不登校

非行

発達障害は

リスクを高める

恥辱 困惑 悲嘆

(10)

アタッチメントと解離

愛着(アタッチメント)

タッチ

メント

tach

(touch)

ment

at

(ad)

~の方へ

くっつく

こと

(11)

愛着行動

(Bowlby, 1969, 1982)

愛着行動

(attachment behaviour)

・ 接近をもたらす子どもの行動

・ 他者を求め、他者に接近しようと

する行動

養育行動

(caregiving behaviour)

・ 子どもの愛着行動に報いる

親の行動

愛着行動は成長

に伴って変化する

愛着行動の機能

略奪者

(predator)

からの保護、防御

母子間の空間的関係

(Bowlby, 1969, 1982)

子どもの愛着行動

愛着と相反する

子どもの行動、

たとえば探索行動や遊び

母親の養育行動

養育態度とは相反する

母親の行動

・ ネグレクトと過干渉が基本。 ・ 身体的・心理的虐待は付加的要素。

(12)

内的ワーキングモデル

(Internal Working Model; IWM)

(ボウルビィ, 1993)

子どもの愛着行動

愛着と相反する

子どもの行動

母親の養育行動

養育態度とは相反する

母親の行動

・ 母親の行動の仕方

についてのモデル

・ コミュニケーションの

仕方についてモデル

・ (母親と相互交渉を

行う)自分自身につい

てのモデル

母親との相互交渉を通じて、生後2~3年の間に

形成される、対人関係についての認知構造。

解離

正常ならばあるべき形での知識と体験との統合と連絡が成立

していないこと

(Putnam, 1997)。

解離

① 記憶の障害

② 自己コントロールの障害

③ 自己感覚の障害

解離性障害の

3大症状 Herman(1992)

健全な身体感覚(五感、対人・対物距離感覚などの障害)

(13)

トラウマ治療

トラウマを扱うポイント

トラウマの体験の中心

脅威

無力感

孤立無援感

生活の安全 衣食住を 満たす 傾聴 気持ちの理解 患者の自発性・能動性を大切に 対処法の確認、指導 (指導は押しつけにならないように) PTSDについて心理教育をする 治療可能であることを伝える (希望を処方する) 人との つながりを 大切に 患者の願いを 見つける

(14)

TSCC (Trauma Symptom Checklist for Children)

子ども用トラウマ症状チェックリスト

不安尺度 ・ 男の人を怖いと感じる ・ いろいろ心配する 抑うつ尺度 ・ ひとりぼっちだと感じる ・ 泣く 怒り尺度 ・ 口げんかをいっぱいする ・ ほかの人をひどい目にあわせたくなる 外傷後ストレス尺度 ・ 悪い夢やとても怖い夢を見る ・ 思い出したくないことを思い出してしまう 解離尺度 ・ 何かを忘れてしまったり、思い出せない ・ 誰か別の人になったふりをする 性的関心尺度 ・ エッチで汚い言葉を言いたくなる ・ 体にエッチな感じがある ・ Briereが開発。8~16歳が対象。54項目(TSCC-Aは44項目)。 ・ 「全くない」「たまにある」「ときどきある」 「いつもある」から答える。 ・ 素点から標準得点を算出する。 ・ 2つの妥当性尺度 過小反応、過剰反応 ・ 6つの臨床尺度 不安尺度 抑うつ尺度 怒り尺度 外傷後ストレス尺度 解離尺度(明らかな解離、ファンタジー) 性的関心尺度(性的とらわれ、性的苦悩)

IES-R (Impact of Event Scale-revised)

改訂出来事インパクト尺度

IES(Horowitz et al, 1979)の改訂版 として、米国のWeissらが開発した。7歳~成人が対象 ・ 侵入症状、過覚醒症状、回避・マヒ 症状を測定する。 ・ 22項目5件法。 ・ トラウマの出来事に関連した症状 に最近1週間どの程度悩まされた かをたずねる。 ・ 「全くなし」「少し」「中くらい」 「かなり」「非常に」から回答 侵入症状 ・ 睡眠の途中で目がさめてしまう。 ・ 別のことをしていても,そのことが頭から 離れない。 ・ そのことについて,感情が強くこみあげてくる ことがある。 回避症状 ・ そのことを思い出させるものには近よらない。 ・ そのことは考えないようにしている。 ・ そのことについては話さないようにしている。 過覚醒症状 ・ イライラして,怒りっぽくなっている。 ・ ものごとに集中できない。 ・ 警戒して用心深くなっている気がする。

(15)

子どものトラウマ治療のポイント

〇 安全の確保と安心の提供 ・ 環境調整 ・ 親治療 〇 心理教育 ・ 「わかってもらえた」と思ってもらう。 〇 自発性 ・ 萎縮していないこと ・ 自発的な自己開示があること 〇 苦痛への対処法の習得 ・ リラクゼーション技法、すでにある対処法 ・ 治る可能性を感じるだけでも可。

準備

介入

〇 発達支援 ・ スキルトレーニング ・ 学校の勉強 ・ 年間行事などの体験 〇 トラウマ処理 EMDR TF-CBT (トラウマフォーカストCBT) EST (自我状態療法) HT (ホログラフィートーク) TFT (思考場療法) BSP (ブレインスポッティング) SE (ソマティックエクスペリエンス) ・ 思い出すのが怖くて、治療を嫌がることがある。 ・ 疾病利得が隠れている場合がある。 ・ 症状で訴えている場合がある。

注意点

EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)

• Eye Movement Desensitization and Reprocessing

• EMDRの目的は『トラウマ記憶の再処理』である。 • 記憶は、断片化された状態から、全体に統合されていく。 → 映像が変化したり、気づきが得られたり、捉え方が変わる。 → その結果として、感情的苦痛がやわらぐ。

適応的な記憶ネットワーク

達成経験、これまでの努力、親愛の情を向けてくれた人、 大切にされた経験、承認された経験、正確な知識、 リラックス体験、趣味や好きなもの全般、尊敬する人物、 「もうおびえなくてもいいんだ」 (脅威はない) 「無理だと思っていたけど、できると思える」(無力じゃない) 「自分は一人じゃないということがわかった」(孤立していない)

(16)

EMDRのエビデンス

子どものPTSDに対するEMDRの効果(Rodenburg et al., 2009)2008年までに公刊された7本の子どもに対するEMDRの効果研究を メタ分析。 ・ EMDRは未治療群や未確立の技法群と比べて適度な効果がある。 ・ 認知行動療法よりもさらに付加的効果がある。 EMDRのエビデンス • 最初の効果研究: Shapiro, 1989

• メタ解析: EMDRはCBTとならんでPTSDに有効(Van Etten & Taylor, 1998 など)。 • 国や機関による推奨: PTSDの治療に際してCBTやストレスマネジメント と同様にEMDRを用いることが推奨(WHO, 2013)

EMDRの手続き

① 苦痛を感じる 場面の想起 ② 認知 気分 苦痛の大きさ 身体感覚 ④ 苦痛が 低下するまで 実施 ⑤ 適宜、 心理教育 ③ 眼球運動か Tac/AudioScanで 刺激を加える

参照

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