急性冠症候群の診療に関するガイドライン
(2007年改訂版)
Guidelines for Management of Acute Coronary Syndrome without Persistent ST
Segment Elevation(JCS 2007)
合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本冠疾患学会,日本胸部外科学会,日本集中治療医学会, 日本心血管インターベンション学会,日本心血管カテーテル治療学会,日本心臓血管外科学会, 日本心臓病学会目 次
改訂にあたって……… 2 Ⅰ 総 論……… 3 1.ガイドラインの背景と目的 ……… 3 2.ガイドラインの対象 ……… 4 3.本ガイドラインで使用した略語 ……… 4 Ⅱ 診断およびリスク評価……… 4 1.病歴と身体所見 ……… 4 1 1.病 歴 ……… 4 1 2.身体所見 ……… 5 1 3.病歴と身体所見からみたリスク評価 ……… 5 2.鑑別すべき疾患 ……… 6 3.非観血的検査 ……… 7 班 長 山 口 徹 虎の門病院 班 員 一 色 高 明 帝京大学内科 井 野 隆 史 自治医科大学附属さいたま医療センター 心臓血管外科 小 川 久 雄 熊本大学大学院医学薬学研究部循環器病態学 木 村 剛 京都大学大学院医学研究科 内科系専攻内科学講座 循環器内科学 住 吉 徹 哉 榊原記念病院循環器内科 高 野 照 夫 日本医科大学 茅 野 眞 男 東京病院循環器科 筒 井 裕 之 北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学 中 村 正 人 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科 野々木 宏 国立循環器病センター内科心臓血管部門 平 山 治 雄 名古屋第二赤十字病院循環器センター内科 幕 内 晴 朗 聖マリアンナ医科大学心臓血管外科 光 藤 和 明 倉敷中央病院循環器内科 本 宮 武 司 大森赤十字病院循環器科 班 員 山 科 章 東京医科大学病院第二内科 協力員 浅 野 竜 太 榊原記念病院循環器内科 海 北 幸 一 熊本大学大学院医学薬学研究部循環器病態学 門 田 一 繁 倉敷中央病院循環器内科 川 嶋 望 北海道大学大学院医学研究科循環器病態内科学 上 妻 謙 帝京大学内科 小 林 俊 也 聖マリアンナ医科大学心臓血管外科 白 木 裕 人 稲城市立病院循環器科 高 山 守 正 榊原記念病院循環器内科 寺 岡 邦 彦 東京医科大学病院健診予防医学センター 中 川 義 久 天理よろづ相談所病循環器内科 七 里 守 名古屋第二赤十字病院循環器内科 持 田 泰 行 大森赤十字病院循環器科 山 口 敦 司 自治医科大学附属さいたま医療セン ター心臓血管外科 川 副 浩 平 草津総合病院 白 土 邦 男 齋藤病院 藤 原 久 義 兵庫県立尼崎病院 水 野 杏 一 日本医科大学内科学講座循環器肝臓老年総合病態部門 山 崎 力 東京大学大学院医学系研究科臨床疫学システム講座 (構成員の所属は2007年9月現在) 外部評価委員3 1.胸部X線検査と心電図検査 ……… 7 3 2.心エコー図検査 ……… 9 3 3.核医学検査 ……… 9 3 4.心臓CT ………10 3 5.核磁気共鳴イメージング(MRI) ………10 4.血液生化学検査 ………11 5.観血的検査 ………11 5 1.冠動脈造影と左室造影 ………11 5 2.血管内エコー法と血管内視鏡 ………13 6.リスク評価と院内および短期予後 ………14 6 1.院内予後ハイリスク患者 ………14 6 2.短期予後 ………15 Ⅲ 治 療………15 1.リスク評価に基づいた治療指針 ………15 2.緊急入院と転院 ………18 3.初期治療 ………19 4.薬物治療 ………20 4 1.抗狭心症薬 ………20 4 2.抗血栓薬 ………21 4 3.その他の薬物 ………23 5.薬物治療抵抗性狭心症 ………24 6.補助循環 ………25 6 1.経皮的治療 ………25 6 2.外科的治療 ………25 7.血行再建治療 ………25 7 1.血栓溶解療法 ………25 7 2.冠動脈インターベンション治療(PCI) ………25 7 3.冠動脈バイパス術(CABG) ………28 7 4.血行再建治療に併用する薬物治療 ………29 8.特殊な病態への対応 ………31 8 1.高齢者 ………31 8 2.腎機能障害 ………32 8 3.脳血管障害 ………32 8 4.低心機能 ………32 8 5.冠動脈バイパス術後 ………32 8 6.糖尿病 ………32 8 7.その他 ………32 Ⅳ 退院後管理 ………33 1.退院準備 ………33 2.退院後のモニタリングと検査 ………33 3.薬物治療と冠危険因子の管理 ………33 3 1.薬物治療 ………34 3 2.冠危険因子の修正 ………34 4.治療後の長期予後 ………36 Ⅴ 医療費に関する考察 ………36 Ⅵ 今後の課題 ………36 Ⅶ 文 献 ………38 (無断転載を禁ずる)
改訂にあたって
「急性冠症候群の診療に関するガイドライン」作成班 は,非ST
上昇型急性冠症候群の診断,治療に関する指 針作成のため,日本心臓病学会,日本心血管インターベ ンション学会,日本心血管カテーテル治療学会,日本冠 疾患学会,日本胸部外科学会,日本心臓血管外科学会, 日本集中治療医学会に協力を要請し,指名された内科医, 外科医がガイドライン作成班に参加した. 英語,日本語で発表された1990
年以降の研究論文に ついてコンピューターによる文献検索を2000
年に行い 選択された論文を批判的に吟味し,エビデンスに基づい て指針を作成,クラス分けを行い2002
年に最初のガイ ドラインが作成された.2005
年にガイドライン改定の 要否が検討され,部分改定を行うこととなり2006
年に 改訂版作成班が発足した.改訂版作成班は新たに2006
年3
月末までの新たな文献,エビデンスについて吟味し, 必要に応じて改訂を加えた.主な改訂点には,CT
,MRI
による診断,抗血小板薬,スタチンなどの新たな 薬剤に関する記載,薬剤溶出型ステントに関する記載, 早期侵襲的治療に関する記載が含まれる.なお,作成班 内における討議の結果で意見の一致をみた点についても 指針として加えた. 原則としてガイドラインは,1
)クラス分けした指針 およびそのエビデンスレベル,2
)ガイドラインの根拠 と解説,の順で記載した. エビデンスと専門家の意見を集約した指針はクラス Ⅰ,Ⅱ,Ⅲの形で呈示した. クラスⅠ:手技,治療が有効,有用であるというエビデ ンスがあるか,あるいは見解が広く一致して いる クラスⅡ:手技,治療の有効性,有用性に関するエビデ ンスあるいは見解が一致していない クラスⅡa
:エビデンス,見解から有用,有効である可 能性が高い クラスⅡa
’:エビデンスは不十分であるが,手技,治療 が有効,有用であることに本邦の専門医の見 解が一致している群は冠動脈粥腫破綻,血栓形成を基盤として急性心筋虚 血を呈する臨床症候群であるが,急性心筋梗塞,不安定 狭心症から心臓急死までを包括する広範な疾患概念であ る.急性心筋梗塞に関しては,平成
11
年度厚生科学研 究費補助金による医療技術評価総合研究事業(主任研究 者:上松瀬勝男日本大学教授)として「急性心筋梗塞の 診療エビデンス集─EBM
より作成したガイドライン」 が既に発表されている.従って本合同研究班の対象は,ST
の持続的上昇を示さない非ST
上昇型急性冠症候群で ある.この病態における心筋虚血は,破綻した粥腫と非 閉塞性血栓による冠動脈狭窄が酸素供給減少の主因であ り,また冠動脈トーヌスの亢進も酸素供給の減少の一因 となり得る.急性期治療の主な目的は,急性心筋梗塞へ の移行防止と心筋虚血の軽減による短期的な予後の改善 である. 本ガイドラインの目指すところは,本疾患群の診断, 治療,管理に関して一般に容認された方法をまとめ,医 師が臨床上の決定を行うのに役立つ診療指針を作成し, 根 拠 に 基 づ く 医 療(EBM
:Evidence-Based Medicine
) を推進することにある.本ガイドラインは多くの状況下 で,種々の患者に対応しうる普遍的な診療指針を作成すⅠ
総 論
1
ガイドラインの背景と目的
循環器疾患の病態解明は急速に進歩しており,それに 伴って治療法も大きく変化してきている.しかし最新の 情報を主治医が逐次収集して自分の患者に速やかに適用 していくことは容易ではない.そこで,疾患の診断,治 療,管理に関するデータを専門家が厳しく評価,分析し, まとめた情報から指針を作成して公表することは,我が 国の医療レベルを向上させ,患者の治療成績,予後を改 善することに大きく寄与するものと考えられる. 日本循環器学会は,1998
年から心臓血管系疾患の診 断,治療に関するガイドライン作成のために研究班を編 成し,関連学会と合同でガイドライン作成に取り組んで きた.その一環として2000
年に「急性冠症候群の診療 に関するガイドライン」作成班が発足した.急性冠症候 クラスⅡb
:エビデンス,見解から有用性,有効性がそ れほど確立されていない クラスⅢ:手技,治療が有効,有用でなく,ときに有害 であるというエビデンスがあるか,あるいは 見解が広く一致している エビデンスとなる臨床試験成績は不十分であるが,本 邦では広く専門家の意見が一致しているものは,クラス Ⅱa
’として指針に入れた.本邦で未だ使用できない手 技,治療法,治療薬で,有効性,有用性について充分な エビデンスがあるか,見解が広く一致しているものにつ いては,指針解説の末尾に別途に記載した.また本邦の 保険医療で認められていない適応や用法,用量について も解説の中で言及した.なお本文中において,本邦で認 可されている薬剤はカタカナ表示で,認可されていない 薬剤は英語で表記した. 各ガイドラインについてはエビデンスのレベル(以下 レベル)も明示した.以下の3
レベルに分類した. レベルA
:400
例以上の症例を対象とした複数の多施設 無作為介入臨床試験で実証された,あるいは メタ解析で実証されたもの レベルB
:400
例以下の症例を対象とした多施設無作為 介入臨床試験,良くデザインされた比較検討 試験,大規模コホート試験などで実証された もの レベルC
:無作為介入試験はないが,専門医の意見が一 致したもの 本ガイドライン改訂版は外部評価委員による評価を受 けた.日本循環器学会および合同研究班参加学会の承認 を得て,日本循環器学会のインターネット版でホームペ ージ上にのみ公表される.改訂版のダイジェスト版は作 成されない. 本ガイドラインは多くの臨床試験のエビデンスに基づ いているが,ほとんどの優れた臨床比較試験は欧米人を 対象として行われたものである.また特定の限定された 患者群を対象としたものであり,本邦の日常診療で遭遇 する臨床例と異なる可能性を否定できない.またこの分 野は新たな知見により病態,診断,治療に関する知識が 急速に変化しつつある点も忘れてはならない.従って, 明らかに変更すべき点が生じた場合は年単位で改訂して ホームページ上に示し,原則として本ガイドライン発表3
年毎に内容の全面的な見直し改訂が必要と考える.ることを目指している.しかし,個々の患者における最 終判断は,当該患者の状況をもっともよく知る担当医師 と患者の双方により総合的に下されるべきもので,本診 療ガイドラインはそれを支援するものである.
2
ガイドラインの対象
本ガイドラインは,急性冠症候群のうち心電図ST
の 持続的上昇を認めない非ST
上昇型急性冠症候群の成人 患者,あるいはその疑いのある患者を対象とする.急性 期の診断,短期的ならびに長期的なリスク評価,急性期 不安定期の治療,安定後の亜急性期治療などが本ガイド ラインの対象範囲であり,病態安定後の慢性期の患者は 本ガイドラインの対象ではない.急性冠症候群の疑いが ある患者も,評価の結果により虚血性心疾患である可能 性が低く,非心臓性の原因が考えられる場合はガイドラ インの対象外となる. 持続性のST
上昇を示す急性心筋梗塞患者は対象外で ある.前述の「急性心筋梗塞の診療エビデンス集―EBM
より作成したガイドライン」を参照されたい(2006
年から高野照夫日本医科大学教授を班長とする「急性心 筋梗塞の診療ガイドライン」作成班により改訂作業が始 まっている).しかし,急性心筋梗塞後に狭心症発作を 有する患者は本ガイドラインの対象とする.安定労作狭 心症は対象外であるが,急性冠症候群が疑われるが入院 治療の必要がないと考えられる低リスク例は,安定狭心 症との区別がしばしば困難であり,このような患者は本 ガイドラインの範囲に含めた.3
本ガイドラインで使用した略語
本文中に用いられる略語は以下の通りである.PCI
:percutaneous coronary intervention
ACC
:American College of Cardiology
AHA
:American Heart Association
CCU
:coronary care unit
QOL
:quality of life
Ⅱ
診断およびリスク評価
1
病歴と身体所見
1-1
病 歴
急性冠症候群を疑う患者においては詳細な病歴聴取が 非常に大切である.とくに胸痛の部位,性質,誘因,持 続時間,経時的変化,消失,随伴症状などに注意する. 胸痛だけでなく,既往歴,冠危険因子や家族歴について も聴取する1)胸 痛
急性冠症候群における胸痛の性質は,重苦しい,圧迫 される,締め付けられる,息がつまる,焼けるようなと いう表現が多く,痛みというより不快感として訴えるこ ともある.刺されるような痛みやチクチクする痛み,触 って痛むものは狭心痛ではない,呼吸や咳,体位変換の 影響を受けない. ①胸痛の部位は前胸部,胸骨後部が多く,放散痛は下顎, 頸部,左肩ないし両肩,左腕,心窩部に出現する. ②胸痛の持続時間は数分程度が多く,長くても15
∼20
分である.30
分以上持続する場合は重症の急性冠症 候群を考える.胸痛の持続が20
秒以下の時は狭心痛 ではない. ③胸痛の誘因としては急ぎ足,昇段,重いものを持つな どの労作中のみでなく,安静時にも出現する.精神的 興奮や食事でも起こる.早朝は胸痛の閾値が低く,発 作が出現しやすい.安静狭心症では夜間睡眠中に起こ ることが多い. ④胸痛の経時的変化から安静時狭心症,新規発症型狭心 症,増悪型狭心症かを区別する. ⑤胸痛が安静およびニトログリセリンで1
∼5
分で消失 する場合は安定狭心症のことが多い.症状の消失に10
分以上かかる場合には,非心臓性胸痛か,逆に重 症の急性冠症候群を考えなければならない. ⑥随伴症状として呼吸困難,めまい,意識消失,吐き気, 嘔吐,冷汗を伴うときは重症であり,心筋梗塞を考慮 しなければならない.発熱を伴うときは肺炎,胸膜炎, 心膜炎などを考慮する. ⑦虚血性心疾患の明らかな既往があり,その症状に類似 するか,より症状が強い場合は急性冠症候群の可能性 が高い.2)既往歴
同様の症状は過去にないか.心筋梗塞の既往や冠動脈 造影を受けたことはないか,脳血管障害,末梢血管疾患 はないか.他医の診断,治療は受けていないか,などを 聴取する.3)家族歴
親,兄弟に心臓病はいないか.若年発症の冠動脈疾患 の家族歴は重要である.家系内に突然死,急死はないか. その死因は何かなどを聴取する.4)冠危険因子
三つ以上の危険因子(年齢,男性,喫煙,高脂血症, 糖尿病,高血圧)がある場合は可能性が高くなる.1-2
身体所見
高血圧,喫煙,糖尿病,高脂血症,肥満,精神的スト レスなどの有無について聴取する. 急性冠症候群では身体所見が必ずしも診断確定に有用 ではないが,注意深い診察が虚血性心疾患に伴う合併症 の発見,胸痛を起こす他疾患との鑑別に役立つ.以下の 点に注意する. ①顔色と意識:苦悶様かどうか.チアノーゼ,冷汗はな いか.質問への応答はどうか.精神状態はどうか. ②血圧:血圧の上昇,血圧の左右差はないか.ショック 症状はないか. ③脈拍:徐脈か,頻脈か.不整はないか.脈の大きさ, 緊張度はどうか.四肢の脈も触知する.緊急カテーテ ルなど動脈アクセスの確保のためにも重要である. ④呼吸:呼吸数,呼吸の深さ,速さをみる.呼吸が楽な 体位は何か.肺のうっ血を示唆する湿性ラ音,特に背 側面の湿性ラ音の有無を聴取する. ⑤心音,心雑音:Ⅲ音,Ⅳ音は聴取しないか.Ⅱ音の奇 異性分裂はないか.収縮期雑音,拡張期雑音はないか. 特に乳頭筋不全症候群を示す僧帽弁逆流雑音の有無を 聴取する. ⑥頸部:頸静脈の怒張,頸動脈の血管雑音.甲状腺腫, などを確認する. ⑦末梢循環と皮膚:眼瞼結膜,上肢,下肢,手指の色, 温かさ,チアノーゼの有無を確認する.下肢,臀部の 浮腫はないか. ⑧腹部と鼠径部:拍動性腫瘤(大動脈瘤),血管雑音, 肝腫大の有無を確認する.腸蠕動音はどうか. 急性冠症候群の身体所見には,胸部所見,聴診所見, 心拍数や血圧などを含めても特異的といえるものはな い.胸痛中の診察により,胸痛がおさまると消失するⅢ 音・Ⅳ音または奔馬調律,両肺野のラ音などは発作中の 左室収縮能の低下を反映している可能性がある.また消 長する僧帽弁逆流雑音は乳頭筋機能不全を示唆してお り,それぞれ冠動脈疾患の存在を疑わせる根拠となる. 高血圧,黄色腫,アキレス腱の肥厚などは冠動脈疾患の 危険因子の存在を示しており,頸動脈や大腿動脈の雑音, 足背動脈の脈拍減弱などは非冠動脈性ではあるが粥状硬 化症の存在を示唆している.大動脈弁狭窄症でも狭心症 と同様の症状がみられることがあり,収縮期雑音も必ず 確認しておく.虚血性心疾患を疑わせる胸部症状を有し, 頻脈,収縮期血圧の低下,肺野の湿性ラ音のある患者は 入院72
時間以内の致死的合併症の発生率が高いとする 報告もあり,十分に注意する必要がある.1-3
病歴と身体所見からみたリスク評価
本邦では不安定狭心症の分類として旧来から新規労 作,増悪型労作,新規安静の3
型とする1975
年のAHA
の分類(表1)1)が使用されてきた.しかし,狭心症発作 の様式からのみでは予後判定は困難であり,1989
年に, 重症度,臨床像,治療の状況を加味してBraunwald
が新 しい分類(表2)を提唱した2).この分類は予後の予測 に有用であり,治療戦略の決定に寄与するとの報告が多 数ある3),4).さらに,Ahmed
らはこの分類が冠動脈造影 所見ともよく一致していることを報告している5).本邦 でもこの分類を使用することが一般的になっている.そ れを展開して,急性冠症候群の可能性を3
段階に評価す る方法がAHA/ACC2002
年のガイドラインに示されて いる.また,不安定狭心症患者の死亡あるいは非致死的 心筋梗塞発症の短期リスクの把握については,The
Agency for Health Care Policy and Research
(AHCPR
) による不安定狭心症の診断・治療に関するガイドライン 6)に示されていたが,こちらもAHA/ACC2002
年のガイ ドラインで改定された(表3)7). 非ST
上昇急性冠症候群のリスク評価についていくつ かの報告がある.しばしば用いられているTIMI-
リスク スコアは,①年齢(65
歳以上),②三つ以上の冠危険因 表 1 不安定狭心症の分類(AHA,1975 年)TypeⅠ 新規労作狭心症(new angina of effort)
新たに発生した労作狭心症,あるいは少なくとも6カ月 以上発作のなかったものが再発したもの.
TypeⅡ 増悪型労作狭心症(angina of effort with changing pattern) 労作狭心症の発作の頻度の増加,持続時間の延長,疼痛 および放散痛の増強,軽度の労作でも生じやすく,ニト ログリセリン舌下錠の効果が悪くなったもの. TypeⅢ 新規安静狭心症(new angina at rest)
安静時に発作を生じ,15分以上持続しニトログリセリ ンに反応しにくい場合であり,ST上昇ないし下降,T波 の陰転を認めるもの.
子(家族歴,高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙),③既 知 の 冠 動 脈 有 意(
>50
%) 狭 窄, ④ 心 電 図 に お け る0.5mm
以上のST
偏位の存在,⑤24
時間以内に2
回以上 の狭心症状の存在,⑥7
日間以内のアスピリンの服用, ⑦心筋障害マーカーの上昇,の要素によって算出される.2
週間以内の主要心血管合併症発生頻度はスコアが増加 するごとに相乗的に高くなる8).PURSUIT
試験9)では20
項目以上の予後予測因子が認められたが,最も重要 な因子は,①年齢,②心拍数,③過去6
週間における狭 心症のうち最も重症のCCS
分類程度,④収縮期血圧, ⑤ST
低下の存在,⑥心不全の所見,であり30
日間のイ ベント発症率はこれらの要因の有無から推定できると報 告している.このように急性冠症候群の診断あるいは重 症度評価,予後予測は,病歴,簡単な診察および検査か ら得られるものであり,正確な病歴,身体所見の把握が 重要である. しかし,急性冠症候群においては非定型的な症状も決 して稀ではなく,無症状のこともある.43
万人あまり の急性心筋梗塞を登録した米国の研究では,急性心筋梗 塞の33
%は来院時に胸痛がなく,無胸痛群は胸痛群と 比べて,高齢(74
歳vs 67
歳),女性(49
%vs 38
%), 糖尿病(33
%vs 25
%),心不全の既往(26
%vs 12
%) のある患者で多く認められた10).こういった胸痛を伴わ ない急性心筋梗塞患者は病院受診までの時間も長く,診 断も遅れやすく,適切な治療,再灌流療法の施行率も低 いため院内死亡率も2.21
倍と高く,注意が必要である.2
鑑別すべき疾患
病歴ならびに身体所見から急性冠症候群とその他の疾 患を鑑別しなければならない.特に注意が必要なものと して1
)胸痛発作を伴う例,2
)心電図異常が見られる例, 表 3 短期リスク分類 高リスク 中等度リスク 低リスク 病歴 胸痛 持続時間 亜硝酸薬の有効性 随伴症状 安静時 48時間以内に増悪 20分以上の胸痛 現在も持続 無効 冷汗,吐き気 呼吸困難感 安静時,夜間の胸痛 2週間以内のCCSⅢ ないしⅣ 20分以上,以内の胸痛の 既往があるが現在は消失 有効 労作性 2週間以上前から始まり 徐々に閾値が低下する 20分以内 有効 理学的所見 新たなⅢ音 肺野ラ音 汎収縮期雑音(僧帽弁逆流) 血圧低下,除脈,頻脈 正常 心電図変化 ST低下≧0.5mm 持続性心室頻拍 左脚ブロックの新規出現 T波の陰転≧3mm Q波出現 正常 生化学的所見 トロポニン T上昇 (定性陽性,> 0.1ng/ml) (定性陽性,< 0.1ng/ml)トロポニン T上昇 (定性陰性)トロポニン T上昇なし 尚,次の既往や条件を1つでも有する患者は,ランクを1段階上げるように考慮すべきである. 1.陳旧性心筋梗塞 2.脳血管,末梢血管障害 3.冠動脈バイパス術および経皮的冠動脈形成術 4.アスピリンの服用 5.糖尿病 6.75歳以上 表 2 不安定狭心症の分類(Braunwald,1989) 〈重症度〉 ClassⅠ:新規発症の重症または増悪型狭心症 ・最近 2カ月以内に発症した狭心症 ・1日に3回以上発作が頻発するか,軽労作にても発 作が起きる増悪型労作狭心症.安静狭心症は認めな い. ClassⅡ:亜急性安静狭心症 ・最近 1カ月以内に1回以上の安静狭心症があるが, 48時間以内に発作を認めない. ClassⅢ:急性安静狭心症 ・48時間以内に1回以上の安静時発作を認める. 〈臨床状況〉 Class A:二次性不安定狭心症(貧血,発熱,低血圧,頻脈 などの心外因子により出現)Class B:一次性不安定狭心症(Class Aに示すような心外因 子のないもの) Class C:梗塞後不安定狭心症(心筋梗塞発症後2週間以内 の不安定狭心症) 〈治療状況〉 1)未治療もしくは最小限の狭心症治療中 2)一般的な安定狭心症の治療中(通常量のβ遮断薬,長時 間持続硝酸薬,Ca拮抗薬) 3)ニトログリセリン静注を含む最大限の抗狭心症薬による 治療中
がある.また鑑別すべきものとして
3
)胸痛に類似し た症状を呈する疾患,4
)心筋虚血を誘発する病態,が ある.問診により,胸痛が起こる状況や胸痛の放散部位 を詳細に聴取することは重要である.感冒様症状や発熱 などその他の臨床症状により鑑別診断が容易になること もある.心電図検査,胸部X
線写真,血液生化学検査は 鑑別診断には必須である.また心エコー図検査は有用で ある.さらに確定診断にはCT
,MRI
,肺血流シンチグ ラム,冠動脈造影まで必要なことも多い. 急性冠症候群と鑑別する必要のある疾患(胸痛発作を 伴う患者あるいは心電図異常がみられる患者)には以下 が挙げられる. ①冠動脈疾患:労作狭心症 ②心筋疾患:急性心筋炎,肥大型心筋症,拡張型心筋症 ③心膜疾患:急性心膜炎 ④大動脈疾患:急性大動脈解離 ⑤弁膜疾患:大動脈弁狭窄症 ⑥肺疾患:肺血栓塞栓症,胸膜炎,気胸,肺炎 ⑦消化器疾患:急性腹症(急性膵炎,胆石症,胃十二指 腸潰瘍穿孔など) ⑧皮膚骨格疾患:帯状疱疹,肋間神経痛,肋骨骨折 ⑨脳血管障害:クモ膜下出血 ⑩心因性:心臓神経症,パニック障害,そのほか その他に急性冠症候群と鑑別する必要のある心筋虚血 を誘発する病態としては,1
)酸素需要を増加させる疾 患,2
)酸素供給を減少させる疾患,なども挙げられる. 冠動脈疾患がなくてもこれらの病態に陥ると,狭心症と 同様の症状が出現するようになるので注意が必要であ る.また,安定狭心症もこれらの病態を合併すると発作 を生じやすくなり,不安定狭心症の状態となる. ①酸素需要を増加させる疾患:高体温,甲状腺機能亢進 症,管理不良の高血圧症,持続性頻拍(上室性,心室 性) ②酸素供給を減少させる疾患:貧血,肺疾患,血液粘度 の増加3
非観血的検査
3-1
胸部 X 線検査と心電図検査
1)胸部X線
クラスⅠ1
.心臓疾患(うっ血性心不全,心臓弁膜症,虚血性 心疾患)および心膜疾患,または大動脈疾患(解離 性大動脈瘤)の徴候・症状のある患者で胸部X
線検 査を行う.(レベルB
) クラスⅡa
1
.肺・胸膜疾患および縦隔疾患の徴候・症状のある 患者で胸部X
線検査を行う.(レベルB
) クラスⅡb
1
.全ての胸痛患者で胸部X
線検査を行う.(レベルC
) クラスⅢ なし 急性冠症候群の診断における胸部X
線検査は,鑑別診 断と重症度評価の上で重要と考えられる.心拡大,肺う っ血,肺水腫,胸水の有無を客観的に評価する上で胸部 単純X
線検査は重要である.心拡大は,心筋梗塞既往, 急性左心不全,心膜液貯留,大動脈弁または僧帽弁閉鎖 不全に伴う左室容量負荷が存在することを示す.鑑別診 断の対象には胸痛を来す疾患全てが含まれる.胸部X
線 検査は,肋骨疾患,気道疾患,肺・胸膜疾患,縦隔疾患, 心臓および心膜疾患,肺・体血管疾患の形態的診断には 有用である.特に診断確定に急を要する重要な鑑別疾患 としては,大動脈解離と肺血栓塞栓症がある.上行大動 脈解離では冠動脈を巻き込んで急性心筋梗塞を合併する こともあり,診断に苦慮する場合も多い.従って,胸部 X線検査で上縦隔陰影の拡大,二重陰影,大動脈壁内膜 石灰化の偏位を認める場合は,本症も疑って超音波検査,X
線CT
検査,MRI
検査などで鑑別しておく必要がある. 肺動脈の途切れ,遮断,区域性乏血が認められた場合は 肺血栓塞栓症を疑って超音波検査,X
線CT
検査などを 行う必要がある.2)安静時心電図検査
クラスⅠ1
.胸部不快感が持続している患者においては速やか に(10
分以内に)12
誘導心電図を記録するべきで ある.また,急性冠症候群に一致する胸部不快感の 病歴があるが,評価する時点では既に寛解している 患者においても可能な限り迅速に12
誘導心電図を 記録するべきである.(レベルC
) クラスⅡa
1
.全ての胸痛患者で安静時心電図を記録する.(レベ ルC
)2
.虚血性の胸痛が疑われる患者に,病院収容前に救 急車内で12
誘導心電図を記録する.(レベルB
) クラスⅡb
なしクラスⅢ なし 急性冠症候群では発症早期の的確な診断が重要であ り,検査方法の進歩した現在でも簡便な心電図検査は重 要な位置を占めている.診断には来院時の心電図所見と その推移が重要である.極く早期の場合には胸痛があっ ても心電図変化がまだ現れていない場合や,非発作時に は心電図が正常な場合も少なくない10).従って,本症が 疑われる場合は一回の心電図検査だけで判断せず,時間 を置いて繰り返し記録すること,比較することが重要で ある.また,その患者の以前に記録された心電図が入手 可能な場合,比較することによって診断の精度は大きく 上昇する.実際には,急性冠症候群を疑わせる胸痛を有 する患者が来院した場合は,直ちに
12
誘導心電図を記 録し,ST-T
変化,Q
波あるいは陰性U
波の有無をチェ ックする.隣接する2
誘導以上における0.1mV
以上のST
上昇は,通常ST
上昇型心筋梗塞を示唆する所見であ り,再灌流療法の適応を検討する.ST
部分の低下が認 められる患者では,不安定狭心症か,あるいは非ST
上 昇型心筋梗塞の可能性が考えられるが,最終的に両者の 鑑別は,心筋障害の生化学的マーカーが検出されるか否 かによる.第Ⅲ誘導における孤立性のQ
波やV1
・V2
誘 導におけるQS
パターンは正常例でも認められ,他の所 見を参考にする必要がある.ただし,胸痛を訴えている 患者の心電図所見が完全に正常であっても急性冠症候群 の可能性を否定はできない.そのような患者の1
∼6
% は急性心筋梗塞(定義上,非ST
上昇型心筋梗塞)であり,4
%以上が不安定狭心症であることが報告されている. ①ST
上昇を示す場合: 持続性のST
上昇に加えて,R
波の減高,Q
波のいず れかあるいは両方が認められる場合は,急性心筋梗塞 が疑われる.一方,一過性のST
上昇は冠攣縮性狭心 症が疑われる. ②ST
低下を示す場合: 一過性のST
低下は狭心症が疑われる.但し,V1
∼V4
誘導におけるST
低下は純後壁梗塞でも認められる ので鑑別が必要である.またST
上昇と違い,ST
低下 では12
誘導心電図から虚血部位診断を行うことは不 正確であることも承知していなければならない. ③T
波・U
波が変化を示す場合:T
波・U
波の変化は重要である.左右対称性のT
波の 増高,尖鋭化(hyperacute T wave
)は急性心筋梗塞の 初期変化でもあり,経時的に心電図を取りながら典型 的心筋梗塞の心電図へ変化して行くか否かを観察す る.同様の変化は冠攣縮性狭心症でも認められる場合 があり,鑑別を要する.また,陰性T
波は急性冠症候 群においてはしばしば認められる所見であり,心筋虚 血領域の再分極の異常を反映していると考えられてい る.Hanies
らは,不安定狭心症において新たに陰性T
波 が出現した場合は,重症冠動脈狭窄病変が存在すると 報告している11).また,陰性U
波も心筋虚血を示す重 要な所見とされ,高度冠動脈病変の存在を示唆する.3) 運動負荷心電図検査
クラスⅠ1
.治療により症状が安定し運動負荷が可能な患者で, 運動負荷心電図検査を行う(負荷前よりST
変化の あるもの,左脚ブロック,左室肥大,早期興奮症候 群,ジギタリス投与時,ペーシング調律の患者を除 く).(レベルC
) クラスⅡ なし クラスⅢ1
.病状が安定していない時期に運動負荷心電図検査 を行う.(レベルA
) 負荷心電図の目的は以下の2
点である. ①冠動脈疾患を有する可能性の高くない患者において 虚血の有無を評価する. ②リスクを評価する. この情報は,さらに次の診断ステップや治療法に進む べきかを決定する鍵となる.全ての運動負荷試験は急性 冠症候群が安定した後に行われるべきである.どの負荷 試験を選択するかは,安静時心電図の所見,運動が可能 な患者かどうか,各施設における実施可能な検査技術, 専門家の有無などに基づいて決定される.トレッドミル またはエルゴメーターを用いた多段階亜最大負荷試験は 簡便であり,コストもかからず,解釈法も普及している ので,運動可能な患者で,ベースラインの心電図におい てST
部分の異常が無い場合にはまず選択されるべき検 査である.6.5METs
以下の低い運動負荷において誘発される虚血 は,冠血流の予備能力に重大な制限があることを示唆し ている.これらは通常,高度の冠動脈の狭窄によっても たらされるものであり,心事故のハイリスクや,退院後 の重症の狭心症と関連がある.血行再建の禁忌が無い限 り,早期の冠動脈造影を行い血行再建の適応を判断する.6.5METs
以上の高い運動負荷に,虚血の証拠なしに到達できる場合は,機能的に重症ではない冠動脈の狭窄であ ると考えられる.不安定狭心症患者と非
ST
上昇心筋梗 塞患者(計740
名の男性患者)を対象に退院直前に運動 負荷心電図検査を施行した成績では,虚血性ST
変化を 示した誘導数と最大運動耐容量は一年間心筋梗塞回避患 者数に逆相関することが示されている12).なお,「ACC/
AHA
の負荷試験に関するガイドライン」および「慢性 安定狭心症に関するガイドライン」が参考となる13),14).3-2
心エコー図検査
クラスⅠ 1.急性冠症候群の患者に心エコー図検査を行う.(レ ベルC
)2
.治療により安定した急性冠症候群の患者で,心電 図による評価が困難な患者に運動負荷あるいは薬剤 負荷心エコー図検査を行う.(レベルB
) クラスⅡa
なし クラスⅡb
1.胸部症状が存在するとき,心電図で異常が明らか でない急性冠症候群の疑いのある患者に心エコー図 検査を行う.(レベルB
) 2.急性冠症候群が明らかで冠動脈造影と左室造影を 行う予定が無い患者に対する左室機能を評価する ための心エコー図検査(レベルC
) クラスⅢ なし 胸痛を訴え,救急外来を受診する患者の診断とリスク の層別化にベッドサイドの心エコー図検査は有用であ る.心機能や,他の器質的心疾患の有無についても評価 することができる.また,心エコー図検査は,大動脈解 離,肺血栓塞栓症などの疾患との鑑別にも有用である. 急性冠症候群では冠動脈病変の著しい狭窄のため胸部症 状(胸痛,胸部絞扼感など),心電図変化が出現する. 注意深い病歴の聴取により診断がつけられることが多い が,病歴や心電図変化が明らかでない場合に,胸部症状 の出現時に心エコー図検査により左室壁運動異常が観察 され,かつ胸部症状が改善した後に壁運動異常が消失す るような,可逆的変化をとらえられれば急性心筋虚血と 診断できる.その壁運動異常の出現部位や範囲から責任 冠動脈の推察が可能である15),16).不安定狭心症で入院 した患者に対する72
時間以内の心エコー図検査におい て,左室壁運動スコア,駆出率,僧帽弁逆流を指標に用 い,この3
指標が一定の基準を上回り正常と判断されれ ば,入院中の心事故発症率は陰性予測値が100
%で判断 できると報告されている17).3-3
核医学検査
1)不安定期における核医学検査
①安静時心筋灌流画像 クラスⅠ なし クラスⅡa
1
.胸痛のため来院した患者で,来院直後に施行した, あるいは反復施行した心電図および血液検査で急性 冠症候群の可能性が低いと診断された場合に,安静 時心筋灌流画像を施行する.(レベルB
) クラスⅡb
1
.急性冠症候群が明らかで冠動脈造影と左室造影を 行う予定が無い患者に対する左室機能を評価するた めの心臓核医学検査(レベルC
) クラスⅢ なし 不安定狭心症と安定狭心症との安静時心筋灌流の相違 をタリウム心筋シンチグラムで検討すると,一過性欠損 は不安定狭心症で100
%,安定狭心症では12
%であり, 不安定狭心症では高率に異常を認める18).不安定狭心症 における心電図とタリウム心筋シンチグラムを比較する と,後者で異常が高頻度に認められ19),院内心事故発生 の予測にも有用であった20).テクネシウム製剤であるセ スタミビおよびテトロフォスミンによる安静時心筋シン チグラムによる診断は,タリウム心筋シンチグラムと同 様に心電図より感度および特異度に優れており21)−23), 心臓死,心筋梗塞および冠血行再建術などの心事故を予 測できる24)−34).胸痛が出現して極めて早期の心筋梗塞 の診断については,トロポニン-
Ⅰの感度が12
%である のに対し,安静時心筋シンチグラムは73
%で,特異度 は各々100
%および93
%であり,心筋シンチグラムが血 液検査より心筋梗塞の早期診断に優れているとの報告も ある35),36).梗塞発症後8
時間以上経過した場合の感度は トロポニンⅠ90
%,心筋シンチグラムは92
%で,特異 度は各々96
%および67
%であった36).従って,心電図 検査や血液検査で異常を認めない場合に安静時心筋灌流 画像で診断できれば,経過を観察する時間を短縮できる. 心筋灌流画像に異常を認めた場合には冠動脈造影検査を 勧め,正常であった場合にはリスク評価のために運動負 荷検査を勧める37).②安静時脂肪酸代謝画像あるいは交感神経画像 クラスⅠ なし クラスⅡ
a
なし クラスⅡB
1
.胸痛のため来院した患者で,来院直後に施行した, あるいは反復施行した心電図および血液検査で急性 冠症候群の可能性が低いと診断された場合に,安静 時脂肪酸代謝画像あるいは交感神経画像を施行す る.(レベルB
) クラスⅢ なし リスク領域を評価するためには再灌流前にトレーサー を投与する必要があるが38),高度の心筋虚血による脂肪 酸代謝あるいは交感神経の障害は心筋虚血状態が改善し た後も持続するので,急性心筋虚血の有無,リスク領域 の部位および範囲の評価に役立つ39)−46).これらの画像 で心筋虚血が示唆された場合は冠動脈造影が必要であ る.2)安定期における核医学検査
①運動負荷あるいは薬剤負荷心筋灌流画像 クラスⅠ1
.胸痛のため来院した患者で,12
時間から24
時間に わたり心電図および血液検査で経過を観察し,急性 冠症候群の可能性が低いと診断された場合に,運動 負荷心筋灌流画像を施行する.(レベルB
)2
.負荷方法は運動負荷を原則とし,十分な運動負荷 の不可能な患者では薬剤負荷を選択する.(レベルB
)3
.運動負荷心筋シンチは,運動可能な患者で,安静 時の心電図においてST
部分の低下(0.10mV
以上), 左室肥大,脚ブロック,心室内伝導障害,ペーシン グ調律,早期興奮症候群,ジギタリス効果のある場 合に良い適応である.(レベルB
) クラスⅡ なし クラスⅢ なし 低リスク患者における運動負荷検査の安全性は確立し ている41),47).心筋虚血の有無,リスク領域や範囲の評 価は心電図単独よりも心筋灌流画像が優っている.特に 心電図に左室肥大,伝導障害など安静時の心電図におい てST
部分の評価が困難である患者には良い適応である. 不整脈を認めない患者では心電図同期心筋SPECT
で撮 像して,心筋灌流に関する情報と同時に左心機能に関す る情報も入手し,冠動脈疾患の診断および予後判定に用 いることができる.3-4
心臓 CT
マルチスライスCT
(MSCT
あるいはMDCT
)の普及 および画像処理の進歩により冠動脈に高度の石灰化がな け れ ば 冠 動 脈CT
(CT coronary angiography
:CTCA
) は冠動脈造影に代用可能な域に達している48),49).CTCA
は冠動脈内腔だけでなく,動脈壁も描出できるため,動 脈硬化性プラークの性状評価に優れており,とくに急性 冠症候群発症の原因となる破綻する可能性の高い不安定 プラーク(vulnerable plaque
)を検出するモダリティー として期待されている50),51). 急性冠症候群にCTCA
を行うにはいくつかの制約が あるため十分なエビデンスはないが,急性冠症候群が強 く疑われる症例を対象に救急室レベルでCTCA
を行っ たSatoh
らの検討では,診断/感度ともきわめて高く, 急性冠症候群の診断にCTCA
は有用と報告している52). 今後のエビデンスの集積が必要である.3-5
核磁気共鳴イメージング(MRI)
MRI
は,一回の検査により左室壁運動,左室灌流, 心筋線維化を評価することができる.さらに非侵襲的に 冠動脈を描出することも可能である.このため急性冠症 候群が疑われる症例に対して,非侵襲的に高い精度で診 断できる可能性がある.病歴,心電図より急性冠症候群 と診断され,待機的冠動脈造影が予定されている比較的 高リスクの症例を対象とした検討では,左室壁運動,左 室灌流,心筋線維化,MRI
による冠動脈造影を組み合 わせることにより,急性冠症候群の診断に対するMRI
の感受性,特異度は96
%,83
%と報告されている53).比 較的低リスクの症例を対象とした検討では,MRI
によ る左室壁運動,左室灌流,心筋線維化の評価による急性 冠症候群の診断の感受性,特異度は84
%,85
%と報告 されている54).いずれの研究もTIMI
リスクスコアに対 してリスク評価が改善するとしている.MRI
は検査機 器および解析方法の進歩が著しく,今後急性冠症候群の 非侵襲的診断法として期待される.しかし,現時点では, 急性冠症候群を対象とした心臓MRI
のエビデンスが少 なく,検査方法が標準化されておらず,検査機器や検査 時間の施設間格差も大きいので,診断および治療方針を決定する検査としては必須とはいえない段階である.
4
血液生化学検査
クラスⅠ1
.胸痛または胸部不快感を示す患者の早期リスクの 層別化に心筋障害の生化学的マーカーを用いる.(レ ベルB
)2
.急性冠症候群を疑う全患者で,生化学的マーカー であるクレアチニンキナーゼ(CK
およびCK-MB
) および心筋特異度が高い心筋トロポニン(トロポニ ンT
,トロポニンI
)を測定する.(レベルC
)3
.胸痛発症後6
時間以内の測定で生化学的マーカー が陰性の場合も,発症6
∼12
時間後に再度測定する. (レベルC
) クラスⅡa
1
.胸部症状発症後6
時間以内の患者に,心筋トロポ ニンに加えてミオグロビンも測定する.(レベルC
) クラスⅡb
1
.C
反応性蛋白(CRP
)および他の炎症マーカーを 診断の補助とする.(レベルB
) クラスⅢ なし 生化学的マーカーについては従来から急性心筋梗塞で はCK
(CK-MB
),ミオグロビン,GOT
,LDH
などの心 筋逸脱酵素や心筋構造蛋白が血中に流出することが知ら れ,広く診断と重症度判定に用いられてきた.一方,不 安定狭心症で心筋逸脱酵素の軽度上昇を示す患者は,急 性心筋梗塞発症の危険度が高い病態にあると推測されて きたが,心筋特異性の低いこれらのマーカーによる重症 度評価はしばしば困難であった.近年,モノクローナル 抗体を用いた免疫測定法により心筋組織に特異的なトロ ポニンT
,トロポニンI
の微量レベルでの測定ができる ようになり,健常人との鑑別が可能となった55)−57).非ST
上昇型急性冠症候群における心筋トロポニン測定の 有用性は多施設共同研究で広く検証され,急性冠症候群 の診療に関する2000
年の「ACC/AHA
ガイドライン」 においても重要な位置を与えられている.心筋トロポニ ンの正常上限値の設定によりCK-MB
が上昇しない程度 の微小心筋障害も検出でき,このような病態は不安定狭 心症の中の30
%を占めるとされる.CK-MB
は総CK
値 との比を考慮すれば心筋障害評価の意義は高く,従来と 同様に用いることが可能である.ショック,直流通電な どにより骨格筋損傷があると総CK
値とともにCK-MB
も上昇するが,骨格筋損傷では両者の比は5
%を超えな い点で鑑別可能である.同様に血中ミオグロビンも骨格 筋損傷で増加し心臓特異性は低いが,これが否定できれ ば心筋障害発現後にもっとも迅速に,1
時間で上昇を始 める.生化学的マーカーを用いた急性冠症候群の評価で は,測定が簡便で,かつ迅速に(できれば30
分以内) 結果が得られることが重要である.この点から,トロポ ニンT
の迅速定性ならびに定量測定法は有用であると考 えられ,市販されているキットではベッドサイドで採血 後10-12
分後に測定結果を得ることができる58). これらの生化学的マーカーによるリスク評価について は,心筋トロポニンT
およびI
の上昇と患者の予後との 関係が広く検討されていて59)−62),死亡および心筋梗塞 の予測因子として有用であり,治療指針の決定にも有効 であることが示されている63).胸痛のため救急部門を受 診した患者で心電図がST
上昇を示さずCK-MB
値も正 常な患者においても,トロポニンI
の上昇が認められれ ばその上昇の程度に応じ早期死亡率は1.0
%から7.5
%ま で直線的に増加し62),また胸痛に加えて心電図でST-T
変化を認め血清CK-MB
の上昇を示す患者でも,トロポ ニンT
の上昇が30
日予後を予測させる最良の因子であ ると報告されている64).CK-MB
も非ST
上昇型急性冠 症候群の30
日および6
ヶ月後の死亡率と強い相関が認 められている65).新しい心筋マーカーのヒト心臓由来脂 肪酸結合タンパク質(H-FABP
)は発症2
時間以内の心 筋障害が診断可能である.一方,血中CRP
値は急性炎 症 を あ ら わ す マ ー カ ー で あ り, 不 安 定 狭 心 症 に てCRP0.3mg/dl
以上はそれ未満に比べ早期心事故を3
倍高 率に生じると報告されている.CRP
は冠動脈硬化の粥 腫不安定化のマーカーとして着目されていて66),不安定 狭心症で急性炎症反応の指標が上昇している場合は,無 症状であっても不安定性が持続している,あるいは再発 しやすいことを示している可能性がある67).5
観血的検査
5-1
冠動脈造影と左室造影
1)冠動脈造影
クラスⅠ1
.薬物治療に抵抗し心筋虚血発作を繰り返す患者, あるいは初期治療により一旦安定が得られた後に症 状が再燃した患者では緊急に冠動脈造影を行う.(レ ベルB
)2
.短期リスクの高い不安定狭心症患者では準緊急に 冠動脈造影を行う.(レベルB
)3
.初期治療により安定が得られた短期リスクが高度 ∼中等度の不安定狭心症患者に冠動脈造影を行う. (レベルA
)4
.各種非侵襲的検査により高度な虚血所見や左室機 能低下が認められる不安定狭心症患者に冠動脈造影 を行う.(レベルB
)5
.6
ヶ月以内にPCI
を施行している不安定狭心症患 者に冠動脈造影を行う.(レベルB
)6
.冠動脈バイパス術の既往がある不安定狭心症患者 に冠動脈造影を行う.(レベルB
)7
.冠攣縮性狭心症が疑われる患者に冠動脈造影を行 う.(レベルC
) クラスⅡa
なし クラスⅡb
1
.短期リスクの低い不安定狭心症で,各種非侵襲的 検査でも高度な心筋虚血所見や左室機能低下が認め られない患者に冠動脈造影を行う.(レベルC
) クラスⅢ1
.反復する胸部不快感があるが心筋虚血の客観的所 見に乏しく,過去5
年以内の冠動脈造影所見が正常 である患者に冠動脈造影を行う.(レベルC
)2
.冠血行再建の適応がない不安定狭心症患者,ある いは冠血行再建によりQOL
,生存期間の向上が見 込めない患者に冠動脈造影を行う.(レベルC
)3
.合併疾患のため冠動脈造影の危険性がその利点を 上回る患者に冠動脈造影を行う.(レベルC
) 冠動脈造影の適応を判断するときには,冠動脈造影に 伴うリスクとその利点を勘案することが重要で,患者の 短期リスクの評価が欠かせない(表2
).冠動脈造影を施 行することの利点としては,(1
)冠動脈病変の重症度に 基づき予後を推測し,適切な治療を選択するための重要 な情報が得られる,(2
)血行再建の実施により予後の改 善,抗狭心症薬の減量や入院期間短縮が期待できる,な どがあげられる68).一般的に急性冠症候群が疑われる場 合は可能な限り冠動脈造影施行可能な施設に収容すべき である.急性冠症候群において緊急冠動脈造影の適応と されるのは,十分な薬物治療下においても発作を繰り返 す患者,新規または増悪した僧帽弁逆流や心不全所見(湿 性ラ音,Ⅲ音)を認める患者,不安定な血行動態を呈す る患者,危険な不整脈の認められる患者である4),6),69)− 71).また非侵襲的検査で左心機能低下がある場合や,灌 流域の大きな前下行枝病変や多枝病変例などの高リスク が疑われた場合も,早期に冠動脈造影を施行し,血行再 建の適応を判断することが重要と考えられる16),72)−75). 急性冠症候群に対する治療戦略は冠動脈造影および血 行再建の施行時期によって早期侵襲的治療戦略と早期保 存的治療戦略の2
通りに分けられる.早期侵襲的戦略で は,禁忌がなければ入院した全患者に早期に待機的冠動 脈造影を施行し,適応があれば血行再建治療を行う.早 期保存的戦略では,臨床的に高リスクと判断されるか, 十分な薬物治療によっても心筋虚血発作を繰り返す患者 に対してのみ冠動脈造影を施行する.従って,冠動脈造 影施行時期はどのような治療戦略をとるかによって大き く異なる. この治療戦略の優劣については1994
年以来10
年以上 にわたり議論されてきた76)−79).バルーンのみによる治 療が主流であった時代に不安定狭心症,非Q
波心筋梗塞 患者を対象としたTIMI
ⅢB
試験では,6
週間後の死亡, 心筋梗塞発症,負荷試験陽性といった主要成績は早期侵 襲的戦略群と早期保存的戦略群に有意差はなかったが, 再入院の必要性は侵襲的戦略群の方で有意に少なかった としている(7.8
%対14.1
%)78).また非Q
波梗塞920
例 を対象としたVANQWISH
試験では,早期侵襲的治療を ルーチンに行うことはほとんどの場合有効ではなく,か えって早期のリスクを増大させると結論した80).一方, ステントが積極的に使用されるようになった時代のFRISC
Ⅱ試験,TACTICS-TIMI18
試験,RITA-3
試験で は早期侵襲的治療群の遠隔期心事故は早期保存的治療群 と比べ有意に低率であり,特に重症例ほど早期侵襲的治 療が有益であったとしている81)−85).近年報告されたメ タ解析でも早期侵襲的治療の有効性が認められている が,この戦略をとる場合,初期には血行再建術に伴う心 筋梗塞などのリスクが伴うことには注意が必要である86) −88).本邦で侵襲的治療と保存的治療を無作為に比較し た報告はないが,胸痛や心筋虚血が遷延している患者で は早期に冠動脈造影を実施する施設が多い.特に広範なST
低下所見を呈する患者には,重症多枝病変で早期の 冠動脈バイパス術を要する症例が含まれており,その適 応の確認に冠動脈造影は必要である89). 一般に不安定狭心症の冠動脈造影所見では有意狭窄の ないものが10
∼20
%占めるとされている72).また本邦 では,欧米に比べて冠攣縮の関与した安静時狭心症が多 いといわれているが90),91),冠攣縮は造影上正常に近い 部位に生じる場合や器質的狭窄部位に一致して起こる場 合があり,造影によってそれを明らかにすることは治療 方針決定に役立つ.再建術後の患者に狭心症が再発した場合には,早期に 積極的に冠動脈造影を施行して再血行再建の要否を確認 する必要がある.高リスク患者の生命予後改善のためや, 広範囲な虚血心筋を救済するために血行再建術が必要と なることが多いためである.冠動脈バイパス手術後のグ ラフト疾患は
PCI
により良好な拡張が得られることが多 く,積極的に冠動脈造影を行うことに意義がある.また バルーンPCI
直後には2
∼11
%で急性冠閉塞が発生し92) −95),ステント留置術後には約1
%に亜急性血栓性閉塞 が発生するので96),97),このような場合にもPCI
を再施 行するために緊急冠動脈造影が必要となる.またPCI
後9
ヶ月以内の狭心症再発は再狭窄の可能性が高く98),99), やはり血行再建術再施行を前提とした冠動脈造影の適応 となる.なお,不安定狭心症で初回インターベンション 治療を施行した場合には,再狭窄時にも不安定狭心症の 病態を呈することが多いといわれている98). 冠動脈造影の不利益 冠動脈造影の不利益としては,侵襲的手技による合併 症発生,不必要なPCI
の増加,それに伴う医療費の増大 などが挙げられる.一般に冠動脈造影の合併症としての 死亡率は0.2
%以下で,脳血管障害,心筋梗塞,出血な どの合併症は0.5
%以下とされている100).本邦での心筋 梗塞患者を対象としたカテーテル関連合併症に関する厚 生省長寿科学研究事業研究班の調査では,冠動脈造影検 査に伴う合併症は60
歳未満では5.4
%,70
歳以上では9.1
%に出現している101).特に脳塞栓,脳出血といった 重篤な合併症は老年者に認められ,また血栓溶解療法に よる出血性合併症も明らかに老年者で多かったとしてい る.したがって事前に脳血管障害あるいは重症高血圧の 既往の有無を確認することが重要である.また,老年者 では皮膚や皮下組織が脆弱であり,カテーテル検査を行 うときには,穿刺部血腫や仮性動脈瘤などの血管損傷を 生じ易いので注意を要する.十分な病歴の把握と身体所 見からカテーテル手技を安全に行い得るかを判断し,慎 重に冠動脈造影の適応を決定する.その他で,熱性疾患 の合併,血液凝固線溶系の異常,重篤な造影剤アレルギ ー,高度の腎機能障害,高度の閉塞性動脈硬化症などは 一般にカテーテル検査の禁忌であり,このような患者に は原則として緊急冠動脈造影は避けるべきである.2)左室造影
クラスⅠ なし クラスⅡa
1
.非観血的検査により左室機能が評価できない患者 に左室造影を行う.(レベルC
) クラスⅡb
1
.左室収縮能や生存心筋の評価が必要な患者に,冠 動脈造影とともに左室造影を行う.(レベルC
) クラスⅢ1
.腎機能低下などの合併疾患があり,左室造影によ り得られる情報よりも危険性の方が上回ると考えら れる患者に左室造影を行う.(レベルC
) 虚血性心疾患においては冠動脈病変枝数と左室機能は 長期予後に影響する重要な要因である102),103).左室造影 では左室容積,駆出率,左室局所壁運動などの情報を得 ることができる.局所壁運動の定量的解析手段としては センターライン法が普及しており104),105),壁運動が残存 していることは生存心筋の証明となる. 従来より左室造影は左室収縮能評価法の標準的検査法 として施行されてきた.左室造影の利点としては,心エ コー図検査と異なり,ほとんどすべての患者で再現性の 高い良好な画像を記録できることが挙げられる.明らか な根拠はないが,左室造影による合併症の危険性が低い と予想される場合には,冠動脈造影に伴って左室造影を 施行してもよいと思われる.不明瞭な心エコー図画像し か得られない患者においては左室造影が有用である.5-2
血管内エコー法と血管内視鏡
1)血管内エコー法(IVUS)
クラスⅠ なし クラスⅡ なし クラスⅢ なし 血管内エコー法は,従来の冠動脈造影法による形態的 評価と異なり,血管内腔面積,血管総断面積や粥腫面積 の定量的評価が可能な唯一の検査法である.また,冠動 脈造影では評価できない石灰化病変の描出や血管リモデ リングの検出にも優れている.従って,急性冠症候群の 発生機序とされる粥腫の亀裂や解離等の形態的評価やPCI
後の血管壁,内腔拡張状態の評価には役立つと思わ れる.また,急性冠症候群患者の治療戦略やPCI
の終止 点の決定にも冠動脈造影以上に有益な情報が得られる. しかし,現在までの大規模試験の成績では,血管内エコー法の併用により