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3‑2 冠危険因子の修正

ドキュメント内 GL改訂_山口班.indd (ページ 34-38)

クラス

I

1.禁煙と最適体重の達成,維持.毎日の運動療法と 食事療法(レベル

B

2.血圧は高齢者では140/90mmHg未満,若年と中年 者では130/85 mmHg未満,糖尿病あるいは腎障害 のある患者では130/80mmHg未満を目標とする高 血圧の管理(レベル

B

3.糖尿病における高血糖の厳重な管理(レベル

B

) 4.総コレステロール220mg/dl以上,

LDL

コレステロ

ール140mg/dl以上の患者にスタチン系薬など高脂

血症治療薬を投与する.(レベル

A

)治療目標は総 コレステロール180mg/dl未満,

LDL

コレステロー ル100mg/dl未満とする.(レベル

C

5.

HDL

コレステロールが40 mg/dl未満の場合,他の 脂質異常の有無にかかわらずフィブラート系薬剤,

またはニコチン酸誘導体,またはスタチン系薬を投 与する.(レベル

B

クラスⅡ   なし クラスⅢ   なし

Antithrombotic Trialists

Collaboration

ATT

292で は 1997年までの287件にのぼる臨床試験をメタ解析して いる.不安定狭心症を含む冠動脈疾患を扱った55試験 のメタ解析ではアスピリンによる心血管イベント低減効 果が示された.また,長期連用時のアスピリン投与量は 75〜150mgの低用量が160〜325mgの中用量と心血管 イベント低減効果において差のないことが示され,低用 量が推薦された.これらの成績に基づき,2002年の

ACC/AHA

不安定狭心症と非

ST

上昇型心筋梗塞の診療 ガイドライン」ではアスピリン75〜325mgを投与する ことが勧告されている.アスピリンアレルギー患者には クロピドグレル75mg/日の投与,さらに不安定狭心症と 非

ST

上昇型心筋梗塞患者では9ヶ月間アスピリンとク ロピドグレルの併用療法が推薦された7.1999年の

ACC/AHA/ACP-ASIM

慢性安定狭心症患者の管理に関 するガイドライン」でもアスピリン1日75〜325mgを 禁忌のない限り推薦している293

 日本での臨床成績は限られているが,石川らの成績

294や,多施設共同研究

JAMIS-1

JAMIS-2

295でもアス ピリンの効果が認められている.この3つの成績で見る 限り日本人ではアスピリン1日50〜100mg前後で効果 を発揮しうると考えられるが,至適量についてはなお検 討を要する.本ガイドラインでは

ATT

292の成績と日本 循環器学会の循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法 に関するガイドライン296を参考に1日75〜150mgを採 用した.日本において使用可能なアスピリン製剤の規格 とアスピリン投与量の実態を考慮すれば,これを1日 81〜162mgと読み替えても良いと思われる.

 アスピリン禁忌の患者ではチクロピジン1日200mg が有効かも知れない.チクロピジンは効果発現までに数 日を要すること,肝機能障害や好中球減少症と,まれで あるが血栓性血小板減少性紫斑病を誘発する可能性があ り,欧米では同じチエノピリジン誘導体で副作用の少な いクロピドグレルに薬剤選択が切り替わっている.我が 国ではクロピドグレルは2006年に市販されたが,虚血 性脳血管障害のみが適応であり,冠動脈疾患には健康保 険の適応がない.日本における

JAMIS

試験ではアスピ リンと共に,トラピジル300mg/日の投与によっても心 血管イベントの発生が有意に低下することが示され,さ ら に

Japan Multi-center Investigation for Cardiovascular Diseases-Mochida

JAMIC-M

)でもトラピジル投与が 心血管イベントの発生を抑制し,予後を改善することが 示された297

 1965年にプロプラノロールが急性心筋梗塞の院内死 亡率を低下させることが示されてから298,β遮断薬の 心筋梗塞二次予防を検討した多くの大規模臨床試験が行 われ299301,その有効性は1985年頃にはほぼ確立した

302.その後の

ACE

阻害薬や急性心筋梗塞の再灌流療法 の有効性が確立し,普及した時代における

CAPRICORN

試験303でも,カルベジロールが左心機能障害を伴った 心筋梗塞患者の予後を改善している.ただし,血行再建 術が成功した低リスク患者全例にβ遮断薬を投与すべき か否かについては十分検討されていない.我が国で心筋 梗塞患者にβ遮断薬とカルシウム拮抗薬のいずれかを投 与した臨床試験では心血管死亡,再梗塞,入院を要する 不安定狭心症などの発生には有意差が認められなかった が,心不全の発生と冠動脈スパスムによる不安定狭心症 の発生はβ遮断薬で多かった304.この結果から日本人 ではβ遮断薬の投与にあたり心不全の発生と冠動脈スパ スムの発生に留意すべきである.日本ではβ遮断薬の使 用は10〜56%と比較的低率に留まっていたが,2002年 にカルベジロールの少量投与が心不全の保険適応とな

り,以後投与頻度が増加している.

 すでに虚血性心疾患を有する患者では,血清コレステ ロール値に関わらず,スタチン系薬が心血管イベントを 減少させることが示されてきた188),305),306.また,急性 冠症候群患者に対する発症後早期からのスタチン系薬投 与の効果を検討した大規模臨床試験191),307では慢性期の 心血管イベントの再発抑制が示された.その後,さらに 強力に

LDL

コレステロールを低下させるスタチン系薬 投与法が心血管イベントの再発を強く抑制することも示 されている192),193.わが国での後ろ向き研究でもスタチ ン系薬が心筋梗塞後の心事故発生率を有意に低下させる ことが示されている308.しかし,日本人についての冠 動脈疾患二次予防のための血清総コレステロール値や

LDL

コレステロール値をどのレベルまで下げるべきか の検討はほとんど行われていない.本ガイドラインでは 2002年の日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患診療ガイ ドライン」309に準じ,2002年の

ACC/AHA

の「不安定狭 心症と非

ST

上昇型心筋梗塞診療ガイドライン」7を参考 にした.

 急性心筋梗塞症例に対する

ACE

阻害薬の有用性は死 亡や心不全予防については確立している310

ACE

阻害 薬の心筋梗塞予後改善効果は左室の

remodeling

を抑制 して慢性期の心拡大,心不全,心臓死の発生を抑制する ことにある311

HOPE

試験の報告によると,高リスク 患者ばかりでなく左室機能障害のある中程度リスクの冠 動脈疾患患者においても

ACE

阻害薬の長期投与は死亡 や心血管事故の発生頻度を減少させた312.急性心筋梗 塞症例に対する

ARB

の有用性は未だ確立したとは言い 難いが,

ACE

阻害薬とほぼ同等の成績を認めた大規模 臨床試験が複数ある313),314

 日本循環器学会の「心筋梗塞二次予防に関するガイド ライン」315に従えば,硝酸薬は狭心症や虚血所見の有る 患者では頓用や短期的投与の有効性が認められている が,長期的投与の予後改善効果はない.カルシウム拮抗 薬は狭心症や虚血所見のある患者では短期的投与の効果 はあるが,長期的投与の予後改善効果はなく,心筋梗塞 には短時間作用型カルシウム拮抗薬投与は禁忌である.

ただし,心拍数を低下させるカルシウム拮抗薬では長期 予後を改善する可能性が示され316,最近の長時間作用 型カルシウム拮抗薬では有効性と安全性が報告されて,

アムロジピンと長時間作用型ニフェジピンの有効性が見 直されるようになった304),317),318.経口抗凝固薬は血栓 危険因子の高い患者でのみ適応がある.

 冠危険因子管理における高血圧の治療目標は日本高血 圧学会の「高血圧治療ガイドライン」319に従った.

4 治療後の長期予後

 退院後の長期予後に関しては,

PCI

CABG

による冠 動脈血行再建の有無や薬物療法,冠動脈危険因子のコン ト ロ ー ル の影 響が考え ら れ る.

SYMPHONY

試 験と

SYMPHONY-2

試験に登録された急性冠症候群患者のう

ち,生存退院した15904人の90日予後の規定因子を検 討した報告320では,死亡,心筋梗塞再発,緊急血行再 建を要する虚血の再発に対する悪化因子として高齢,入 院中の虚血再発,入院中の利尿薬投与,入院中の心筋マ ーカー上昇,心不全があげられている.逆に予後改善要 因としては,入院中の

PCI

,良好な腎機能が示されてい る.入院中に上記の増悪要因を認めた患者では,より慎 重な退院後管理が必要である.

Ⅴ 医療費に関する考察

クラスⅠ

1.狭心症として典型的な胸痛を訴え,胸痛時心電図 で虚血性変化を認めない場合,胸痛時にテクネシウ ム99mセスタミビ

SPECT

心筋シンチグラムを施行 し心筋虚血を同定する.(レベル

B

クラスⅡ   なし クラスⅢ   なし

 急性冠虚血症候群の診断,治療に関する費用効果を検 討した論文は少なく,本邦では詮索した限りでは見当た らない.

Radenski

らは,狭心症として典型的な胸痛を訴え,胸 痛時心電図で虚血性変化を認めない患者を対象とし,胸 痛時にテクネシウム

-99m

セスタミビ

SPECT

心筋シンチ グラムを施行し,未施行例を対照とし比較検討した321. 心死亡,非致死的心筋梗塞,血行再建を心事故とすると,

心筋シンチグラムの心事故発症に対する

sensitivity

解析 の結果では費用の増加は認められなかった.従って,心 筋シンチグラムにより心筋虚血を同定することは,急性 冠症候群の診断において安全で感受性が高く,かつ費用 対効果のよい手法であると結論された.

 急性冠症候群発症後24時間以内に抗凝固療法を開始 することは,短期臨床成績を改善する.我が国では認可

されていないが,低分子ヘパリン

Enoxaparin

は,未分 画ヘパリンに比べて,発症30日以内の冠動脈造影,冠 動脈形成術の施行頻度を減少させ,医療費節約効果を示 したと報告されている322

PRISMPLUS

研究で

tirofiban

の入院7日間の経済効果 を検討した後ろ向き分析では,

tirofiban

治療群では薬剤

費が82,065フラン増加したが,難治性心筋虚血,心筋

梗塞発症を減少させ,最終的には患者100人毎に54,899 フランの費用減少効果があったと報告されている323. ま た,

PURSUIT

研 究に お け る 費 用 分 析で は,

eptifibatide

の使用により寿命を1年延ばすのに16,491ド ルを要し,1QALY(

quality adjusted life year

)延ばすの に19,693ドルを要したという324.米国ではこれが5万 ドル以下ならば,施行するに値すると考えられており,

本薬を急性冠症候群に使用することは経済的に有効であ ると結論づけている.しかし本邦では血小板膜糖蛋白Ⅱ

b/

a

阻害薬は認可されていない.

Ⅵ 今後の課題

 急性冠症候群における病態の解明が進み,診断ならび にリスク評価における生化学的マーカーの重要性は広く 認識されるようになった.しかし,冠動脈病変の不安定 化を反映する確実な指標はなく,また急性冠症候群にお ける炎症マーカーの位置づけも明確ではない.

 従って,薬物治療は狭心症発作のコントロールを目標 として行われるが,症状のコントロールが病変の安定化 を意味しているかどうかは明らかでない.また,薬物治 療の有効性には限界があり,薬物抵抗性の狭心症が存在 する.薬物抵抗性狭心症に対する

PCI

は合併症のリスク が高いと報告されており,不安定化粥腫を安定化させる 薬物治療の確立が待たれる.最近,抗高脂血症薬スタチ ンによる粥腫安定化作用が報告され,大きな期待が寄せ られている.

 治療戦略に関しては,早期侵襲的治療戦略と早期保存 的治療戦略の優劣が今後明らかになるであろう.治療成 績は新しいデバイスなどの治療手段の進歩や薬物治療の 進歩により大きく改善される.必然的に治療戦略も時代 とともに変わるべきである.急性冠症候群に対する

PCI

の主要合併症は低率となったが,微少な梗塞を示唆する

CK

上昇は決して低率でなく,

PCI

に伴う末梢塞栓に対 する対策が成績向上につながると思われる.

 本邦の特殊な状況としては未認可の薬剤が多いことが

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