発見! 酒井恒博士による幻の著書
U n k n o w n book written by Dr. Sakai
一 寸 木 肇
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. は じ め に 日本甲殻類学会初代会長の酒井恒博士は,専門書 だけでなく児童向きの本も執筆され,甲殻類をはじ め海の生きものについての普及 ・啓発を図られた. 2012年,今まで知られていなかった酒井恒博士執 筆による 児童書が,神奈川県足柄上郡大井町の某宅 から見つかったので,報告する ..--;酉弄薄士.(/)克重書
酒井博士が執筆した一般書の中でよく知られてい るのは,1
蟹J
( 酒井,1956) で,本書はその後内容 を書き加えるなどし,1
蟹 その生態の神秘」とし て1980年 に 講 談 社 か ら 再 出 版 さ れ た ( 酒 井 , 1980a). 博士が児童向きに執筆した「潮干狩の動物研究」 (酒井, 1952) も,その後1980年に国土社の少年少 女科学名著全集の一冊として,改訂増補版が出版さ れている( 酒井, 1980b). また,1
海辺の動物J
( 酒井,1967) は,児童向け にわかりやすく海辺の動物観察への誘いが書かれ, 筆者も学生時代に愛読し,海岸動物の生活とその研 究に魅了された. 博士の児童書は,子どもの目線に立った諮り口 で,海の生きものの生活や,その観察の仕方がわか l 大井町教育委員会 干258-8501 神奈川県足柄上郡大井町金子1995 Oi Town Board of Education, 1995 Kaneko, Oi, A shigara-kami, Kanagawa 258-8501, JapanE-mail: shougaku@ town.oi.kanagawa.jp
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Japanりやすく記述されている . . 幻 の 著書 との出会L
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酒井恒博士は, 2007年( 平成19年) にその出身 地で ある神奈川県足柄上郡大井町の名誉町民に選出 された. しかし,酒井博士の著書が町の図書館には ほとんど所蔵されていないことから,筆者は町内や 近隣の市町の関係者にお願いして,著書の所在を確 認、してきた. 今回見つかった酒井恒博士の著書「寅験本位課 外理科文庫 カニとエビの生活J
( 酒井,1931:以 下,カニとエビの生活) は,大井町金手在住の山本 孝夫氏所蔵のもので, 2012年6月に他の酒井博士の 著作とともに見つかった. 本著については, 1999 年に神奈川県立生命の星 ・地球博物館が開催した特 別展「カニの姿一酒井コレクションから一」の図録 に掲載されている酒井博士の著作リ スト( 佐藤, 1999) にも掲載されておらず,博士にごく近い関係 者の聞でも,その存在は知られていなかった. 博士 自身も,自分の半生を神奈川新聞に連載 (1977 1978年) した 「わが人生」や,遺稿集「明治 ・大 正 ・昭和三代の想い出J
( 酒井,1987) の中で,こ の本のことには一切触れていられない..
1
力ニとエビの生活」の体裁と編集方針 本書の表紙には,上段にエビとカニが描かれ,下 段には 「貧験 本 位 課 外 理 科 文 庫 カニとエビの生 活」のタイトルがある( 図 1) . 中表紙をめくると, 薄紙に「アカテガニ」と印刷され,さらにめくると図1 . I r カニとエビの生活』の表紙. 図2. アカテガニの図. 口絵としてカラ ー刷 りで野外でのアカテガニが描か れている( 図2). 同様 に3 ペー ジ分,イワカeニやマ メコブシカボ ニな ど11 種類のカニが原色で描かれて いる( 図3,4). カニの種名を見ると , ウミモクズガニ( ケフサイ ソカボニと思われる) , タラミタ( ベニツケガニ) ,ヅ ガニ( モクズガニ) など,現在では使われていない 図3. 薄紙に種名が印刷されている. 図4. 薄紙をめくった状態. 名が,片仮名で記されている( 括弧内の和名は筆者 による) . それに続く 6ペ ー ジには,モノクロ写真 で,カニ類をはじめ,
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くる まえびJ
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しゃこ」な どが 12 種類掲載されて い る. ここでは種名が平仮 名表記である . なお,監修者として次の2名の名が あり,I
序」を執筆している. 東京文理科大学教授理学博士福井玉夫東 京 高 等 師 範 学 校 教 授 安 東 寄 郎 序には, 今 までは興味を主とした理科の 読み物が多かっ た. しかし,今回の文庫は,観察と実験とを本位と している . そこで次の5 つのことに留意した. ①この本を読みながら ,直ぐに実験できること. ②実験 ・観察するのになるべく身の回りにあるもの を利用したり , 自分で作ったりすること . ③実験 ・観察の材料は,最もふつうのものを採る. 大きく明確な図を入れ,図鑑としても利用できる こと . ④色刷りの図を多く入れ,実物を街併とさせるよう にしfここと . とある( 原文のまま) . また,本文庫の著者は,何 れも新進の理学や博物学の研究者であることも記さ れている . さらに,この文庫の刊行については,当 時の東京文理科大学に生まれた理科教育学会の有志 によって刊行会が組織されたとある. また ,巻末に は8 巻に及ぶ文庫本のタイトルが広告として掲載さ れ,本書がそのうちの一冊であることがわかる. 奥 付を見ると, 193 1年( 昭和6年) に印刷 ・発行され ており,著者は「酒井恒j,発行者は「課外理科文 庫刊行会j,発売所は「青野文魁堂
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とある..
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力ニとエビの生活」の内容 目次は,次のようになっている . なお,仮名遣い は可能な限り原文にしたがった. 1.i
あかてがに」とその一族 2.i
こめっきがに」の一騎打ち 3.i
しほまねき」と潜行艇4.
温和な 「こぶしがにJ
5. 泳ぎの達者な「がざみ」類 6. かくれて棲むもの 7. 変装者 8.i
平家蟹J
と「かひかぶり」9.
棲めば都一「かくれがにJ
10. 川 に棲む蟹 「づが に」と「さ はがに」 11.i
いせえびJ
と「くるまえびJ
12. てつぱうえび 13.i
やどかりJ
の生活 14. もぬけの殻 15.i
えびji
かに」の母性愛 16. 卵から横這ひまで 17. ふなむし 18. われから 19.i
ふぢつ ぼ」 と 「かめのてJ
20.i
ふくろむし」と寄生生活 21. 顕微鏡下に踊る 22.i
えびji
かにJ
類と人生 23. 標本の保存 どの項目でも,子どもに語りかけるように綴ら れ,平易な文章となるよう ,ユーモアあふれる表現 やたとえ話が,各所に使われている. 一方,多用さ れているエビやカニのスケ ッチ は, どれも精徹であ り,文章の内容とともに科学的に正確であれという 博士の思いがひしひしと伝わってくる . また,i
こめっきがに 」や「 しおまねき 」などの カニの行動は,見事なまでに活写され,細かな観察 に基づいて書かれたことが読み取れる. そして,何 よりも特記しておきたいのは,全体を通してあふれ る博士の生きものへの愛情だ. 小さな生きものを心 から慈しんでいる様子が各文章から伝わってくる . さらに,少年少女たちにエビやカニなどの甲殻類に ついて,より知ってもらいたいというメッセ ー ジ が,全体を貫いている. 誰でも読み進めるうちに, 野外へ出でて自分の目で確かめたい衝動にかられる にちがいない 22の「えびJ i
かに」類と人生の項では ,i
…目 にもとまらない小さな 「みじん こ」でも次から次へ とたど って行 けば,私達の食料品とな ってゐるので す. かうして考へて見る時,地球上に生存してゐる 生物はすべてお互いに密接な関係で結びつけられて ゐることがわかって来ます」と,食物連鎖の話から 生態系の考え方を伝えている. 最後の章で博士は標本の保存について触れ,研究 への誘いとともに,i
若し: 採集した標本の中で名前 のわからないのが出て来たならば,アルコールにつ けたま』小包みにして著者( わたくし) のところへお送りになればしらべて差し上げます」と,連絡先 も記し,いつでも支援する用意があることを伝えて いる. なお,本書には,今では人権的な配慮で使われな くなった言葉や表現が随所に見られるが,当時の時 代背景を考えると,本全体の内容に影響するもので はないと考える. 圃 お わ り に 「カニと エビの生活