熟練者の切り方技術を習得するためのスタイラスナイフの提案
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(2) 得を目指す.これにより,切る動作の筆圧と座標の計測を 行う.本論文では,タブレット上で紙を切るときに必要と なる筆圧の情報を利用者へフィードバックすることで,シ ステムが適切な筆圧を利用者へ提示する機能の効果につい ての調査の結果について述べる. 本稿では 2 章では巧緻性とタブレット端末を利用した入 力デバイスに関する関連研究について述べる.次に,スタ イラスナイフの設計について 3 章で述べる.4 章ではスタ 図 2. イラスナイフを利用する初心者と熟練者の切り方の比較方. スタイラスナイフ. Fig. 2 Stylus knife.. 法について述べ,5 章で考察について述べる.6 章では今 後行うことを予定している展望について述べる.. 2. 関連研究 巧緻性を育てる研究はいくつかある.その一つにタッチ スクリーンを親指と人差し指による操作で行うゲームを通 して,指の筋肉を制御することでニューロンへの刺激を促 すことが示されている [3].この研究ではヒトがタブレット 端末を操作するときの脳波を測定することで,巧緻性の向 上に効果があることを明らかにした.また,指先に装着す る入力装置とタブレット端末で塗り絵を行うシステムがあ る [1].この研究では子供たちが指に直接インクをつけてお 絵かきをする遊びに着目をしたものであり,子供たちへの 目と手の運動による支援を行っている.その他に,ヒトは 触力覚情報を手先による操作だけでなく,ペンなどの道具 を介しても間接的に巧緻性を刺激することができる.道具. 図 3. タブレット端末が計測できる値. Fig. 3 Measurable data by tablet computer.. を使った高精度で繊細な動きは,手先のみの制御以上に高度 な技能を必要とするため,巧緻性への活性化が期待できる.. 動作誘導を行わせることで利用者の技術習得を促す効果を. そのため,ペン型などの入力デバイスを開発し,絵を描くこ. 持つ.本研究では紙とナイフによる創作活動である切り絵. とを通して脳の活性化を促す研究がいくつかある.その一. に着目し,これまでに無い「切る動作」を可能にする入力デ. つに TAKO-Pen(Tactile Augmented Kinesthetic IllusiOn. バイスを開発する.切り絵は絵画の中でも切った場所を手. Pen) というペン型の力学インターフェースがある [2].こ. で触れることで芸術を触覚で感じることができる数少ない. れは吸引圧刺激による錯覚を利用することで,繊細な力の. 芸術である.しかし,切り絵は一般的には使用されないデ. 制御をする技術の会得をサポートをする.また,ペン型以. ザインナイフを使うという点でも難易度が高いため,初心. 外の新しい入力デバイスとしてブラシの形にした物があ. 者への支援は必須である.以上のことから,切る動作の入. る [4].従来のタブレット端末でお絵かきをする場合,ペン. 力デバイスを開発することは,他の研究では見られなかっ. 型デバイスによる入力のみで,ソフトウェアの機能により. た切る動作を積極的に行わせることが可能とする.. ブラシやスプレー風の効果を描画している.この研究によ り,利用者はブラシで絵を描く動作から,ペンでは体験で きない独特な手の動きを体験し,芸術を制作することがで. 3. スタイラスナイフの設計 3.1 スタイラスナイフの使い方について. きる.これらの研究ではペン型デバイスによる入力で創作. スタイラスナイフはタッチペン (apple applepencil) のペ. 活動をすることで,遊びが持つ従来の幼児段階での触力覚. ン先にデザインナイフの刃を取り付けたものである (図 2).. 情報による巧緻性を育てる効果の促進が期待できる.その. 利用者はタブレット端末 (apple ipadPro 9.7inch) 上に固定. 他にも,芸術の学習支援などをコンピュータグラフィック. した紙 (濃黒切り絵用紙) を切る.タッチペンの使用感と同. (CG) やインタラクティブ技術を用いた研究が行われてい. じ動作で先端の刃で紙を切る.タッチペンが持つ座標習得. る. その一つに,文字を書くときの筆圧を誘導することで,. 機能で刃の先端の座標と筆圧を計測する (図 3).本稿で使. ただ創作をするのではなく,上手な文字を書くための技術. 用するタブレット端末のでは座標を 0.2mm まで計測する. 習得を含んだ研究がある [5].利用者が触覚デバイスによる. ことができる.この時,タブレット端末はナイフよりも硬. 制御をすることで,書き方や筆圧といった情報を評価し,. いモース硬度 9 の強化ガラスと,紙を切るときに感じる刃.
(3) 表 1. 計測で使用した図形の切り方. Table 1 Details of the figure used in the measurement. 図形. 長さ. 切る順番. 切る回数. 直線. 100mm. 上から下へ. 1回. 円. 円周 300mm. 12 時の方角より右回り. 1回. 表 2. デザインナイフを利用するときの高度. Table 2 Average altitude of utility knife. 直線 熟練者. 図 4. 円. 計測で使用した図形:(A) 直線,(B) 円. Fig. 4 Measurement pattern configures.. 平均. 分散. 平均. 分散. 40.5. 0.5. 40.6. 0.6. Rouded to the first decimal place. 表 3. 実験で利用する図形の切る手順. Table 3 Details of the figure used in the experiment. 図形. 長さ. 切る順番. 切る回数. の食い込みを再現するために,ナイフより柔らかいモーズ. 直線. 100mm. 上から下へ. 1回. 硬度 3 のタブレット用フィルムを備えている.これらの 2. 波線. 120mm. 上から下へ. 1回. 重フィルムにより,強化ガラスはディスプレイを守りフィ. 三角形. 一辺 30mm. 左斜辺,右斜辺,底辺. 3回. ルムが紙らしさを再現し.スタイラスナイフは利用者の筆. 円. 円周 300mm. 12 時の方角より右回り. 1回. 圧を 100 段階で計測する.刃が紙に接した状態から筆圧を 加え始め,筆圧の段階が 60 のとき紙が切れる. コネクタはタッチペンへデザインナイフの刃を取り付け るためのものである.タッチペンへの筆圧を強くすること. 4. 初心者と熟練者との切り方の比較方法 4.1 実験内容. で刃への筆圧も同様に強まる.コネクタは利用者がスタイ. 初心者と熟練者の切り方や筆圧がどれだけ違うのか,ど. ラスナイフを利用する時,紙と刃は 40 度で接する.タッ. のような場所で差がでやすいのかを計測する実験を行っ. チペンの側面に刃を固定した場合,タッチペンへの筆圧が. た.被験者は初心者 5 名 (全て男性,平均年齢 22.3 歳) と. 十分に伝わらず,デザインナイフを使用する場合の筆圧と. 作家として活動をしている熟練者 5 名 (男性 4 名,女性 1. は大きく異る結果となった.また,タッチペンの底面に設. 名,切り絵歴 2 年 2 名,4 年 2 名,5 年 1 名,平均年齢 27.2. 置した場合,利用者の視点からでは刃が十分に見えないた. 歳) とする.各被験者は 4 種類の単純な図形 (直線,波線,. め,扱うことが難しくなると判断した.以上の結果から,. 三角形,円) を 5 回ずつ切る (図 5).被験者は各図形を切. 利用者に見やすい場所でタッチペンへの筆圧が刃へ伝えや. る向き・順番は決められた指示に従って切るこれらの図形. すいという点からタッチペンの上面に刃を設置した.この. は初心者向けの基本動作の練習として本に掲載されている. 時,刃を固定する高度は 3.2 で後述する調査から,熟練者. 教材である.タブレット端末に描画された図形が,紙に投. がデザインナイフを利用するときの高度としている.これ. 影されており,被験者はその図形を切る (図 6).. らの条件に適した形状をしたコネクタを 3D プリンタによ り出力した.. 4.2 切る動作の手順について 被験者がスタイラスナイフで図形を切るときの座標・筆. 3.2 刃の高度の調査 スタイラスナイフを設計するための事前調査を行った.. 圧を計測する.そのため,全ての被験者へ絵を切るときの 手順を統一させている.その中での計測されたデータを切. 被験者は作家として活動をしている熟練者 5 名 (切り絵歴. る動作の手順に従って次の 3 つの段階に分ける (図 7).. 2 年 3 名,3 年 2 名) とする.この調査の目的は熟練者が. 入り 刃が紙に触れ始めるまでの区間で,筆圧が測定され. デザインナイフを利用するときの高度を調査することであ. ていない状態から上昇を開始し筆圧が 60 へ至るまで. る.計測方法は 100mm の直線円周 300mm の円をそれぞ. の範囲とする,. れ 5 回ずつ指定された向きに沿って切る (図 4,表 1).そ. 裁ち 刃が紙を切っている状態が続く区間で,初めに筆圧. の結果,デザインナイフともに熟練者は約 40 度の傾きで. が 60 に達してから,最後に再び 60 を下回るまでの範. 利用していることが分かった (表 2).以上の調査より,ス. 囲とする.. タイラスナイフのコネクタにより,タッチペンを持った状. 上げ 刃の動きが止まり紙から離れるまでの区間で,最後. 態で 40 度の傾きでコネクタについた刃が紙に接すること. に筆圧が 60 を下回り始めてから筆圧が 0 になるまで. ができる設計とした.これより,従来のデザインナイフの. の範囲とする.. 使用感に限りなく近い状態を再現している..
(4) 図5. 実験で利用した図形:(A) 直線,(B) 波線,(C) 三角形,(D) 円. Fig. 5 Experimental pattern configures: (A) line,(B) wave, (C) triangle,(D) circle.. 図 9. 入り段階での座標の遷移の例. Fig. 9 Example of changes points in pressing stage.. 図 6. 計測の様子. Fig. 6 The experimental with line 図 10. 初心者が三角形を切るときの特徴. Fig. 10 Character in cut triangle by novice.. 初心者は紙を切る十分な筆圧がない状態で切り続ける傾向 がある.そのため,一部分では十分に切れていない部分が 残りやすい結果となった.特に,初心者は入りの始点から ずれが確認でき,加圧が完了するまで平均 6mm の移動を 図 7. 切る動作の手順:(A) 入り,(B) 裁ち,(C) 上げ. Fig. 7 Procedure of operation to cut: (A) pressing,(B) cutting,(C)finishing.. していた.これは熟練者の約 4 倍の距離である.一方,熟 練者は図形に関わらず入り区間における筆圧の増加量が高 いため,入りして 2mm 以内に全熟練者が裁ちの状態へ移 行していた.これらの結果から,初心者への裁ちでは切り 始める前か,移動 2mm 以内に筆圧の案内を行う必要があ ることが分かった.また,全ての熟練者と多くの初心者と 熟練者ともに 1mm 以内のずれで決められた位置へ入りが されていた (図 9).このグラフでは縦軸が横幅,横軸が縦 幅を表しており,右側へ進むほどシステム上では上から下 へ切っている様子の 1 回分を表している.図 9 より,熟練 者と初心者ともにズレなく線を切れてはいないが,熟練者 は約 1.6mm のズレがあり,一方で初心者の 1 人は最大で. 図 8. 直線の入り段階における平均した筆圧の遷移. Fig. 8 Changes in pressing stage of average pressure.. 3mm ズレている者もいたことを表す. その中でも,三角形では 2,3 回目の入りの始点位置が 前回の終点位置から 5mm 程度わざとずらして切る初心者. 5. 切る動作毎の考察 5.1 入り段階の結果. が多くいた (図 10).その理由について聞いた結果,一般 的にカッターナイフで線を切る場合,切った線の手前から 重なるように切ることで前回の切った線と接しやすくする. 直線を切る場合,全ての熟練者が初心者より速い段階で. ためであった.しかし切り絵の場合,線からはみ出るよう. 筆圧を増加させていた (図 8).筆圧のグラフでは縦軸は筆. に切る跡が残ることや,はみでることでその近くを切る場. 圧の段階,横軸は時間 (秒) を表す.この流れは他の図形で. 合に干渉することを防ぐことが重要となるため,可能な限. も同様に見られた.初心者は切りながら筆圧を確かめてい. り切った線と接する位置で入りや上げをすることが推奨さ. ることに対し,熟練者は適切な筆圧へと速やかに遷移する.. れている.熟練者の中にも同様の意見を持つ者もいたが,.
(5) 図 11. 曲線における裁ちの筆圧の遷移. 図 13. Fig. 11 Changes in cutting stage of pressure.. 上げ段階の筆圧の移り変わり. Fig. 13 Changes in finishing stage of pressure.. 5.3 上げ段階の結果 熟練者と初心者との筆圧の遷移を示す (図 13).入り段 階の遷移と同様に熟練者は素早く上げを行っていた.これ らの結果から,初心者は熟練者よりも長い距離を上げの段 階にあてていることが分かった.また三角形の時,上げの 終点位置が初心者は 5mm 以上延長した切り方をしていた. 図 12. 曲線での座標の例. Fig. 12 One of changes points in cutting stage.. この切り方は入りの始点位置と同様の理由であることか ら,始点の強調と同様に終点位置を提示することで熟練者 らしくなると予想される.. その場合でも前回の終点の位置から 0.5mm 程度のズレに 抑えている.ただし,初心者も直線や曲線の始点は熟練者. 6. おわりに. と近しい位置で切ることができていたため,切る線の始点. 本稿では,クラフトアートの一つである切り絵を作成す. を強調した提示をすることで入りの始点位置は熟練者らし. るための技術として重要とされている筆圧に ついて熟練者. くなると考えられる.. と初心者のデータを取得するためのデバイス (スタイラス ナイフ) について提案する. これまで,我々は切り絵の筆. 5.2 切り段階の結果. 圧の重要性に着目し,タブレットコンピュータとタッチペ. 裁ち段階での遷移は切る図形の内容により様々な結果が. ンで構成される切り絵練習帳を作成した.そこで,より詳. 得られた.その中でも特に大きな違いが見られたものにつ. 細なデザインナイフの使用情報を習得できるスタイラスナ. いて述べる.直線のように図形の中でも単純なものの場. イフを開発した.これにより,利用者の切った座標と筆圧. 合,途中で筆圧が乱れることはないが,波線では弧の頂点. の遷移から,初心者と熟練者に単純な 4 種類 (直線,波線,. 周辺のの切る向きが変わる部分は筆圧を安定させることが. 三角形,円) の図形を切らせることで,違いを明らかにし. 難しい.初心者は強すぎる筆圧で切る者が多く,切る場所. た.切る動作を「入り」 「裁ち」 「上げ」の 3 つの行程に分. の角度を変える毎に静止してタブレット端末を回転させて. け,それぞれの比較を行った.その結果,図形の特徴毎に. 切る.そのため,特に角度が大きく変わる弧の頂点部分の. 初心者と熟練者に違いが見られた,曲線や円を切るときの. 前後では不安定な筆圧となるため,滑らかな波線に切れな. 筆圧を保たせることや,三角形では既に切られた線との座. い結果が多く見られた (図 11).同様に円を切る時も 1 回. 標の違いがあることを明らかにした.. の動作で切るために,タブレットを回転させる時はスタイ. 我々はタブレット端末上に筆圧の情報や切るための線毎. ラスナイフを接したまま固定し,十分に回転をさせてから. に切り始める点,切り上げる点を切る絵柄に合わせて提示. 再び切る動作を繰り返していたため,波線と同様に筆圧が. するし,単純な図形ではなく絵柄を利用した支援システム. 不安定な状態となった (図 12).グラフでもその結果途切. の開発を計画している.今後は,簡単な指定された絵柄の. れるように表示されている.一方,熟練者は適切な筆圧を. みに留まらず,利用者が選んだ絵柄での切り絵の支援を計. 維持できるため,手首をひねるように使うことで停止する. 画している.. ことなく滑らかに切ることができる.また,円を切るとき もナイフの軸を固定しながら紙を固定しているタブレット 端末を回転させながら切る.これらの結果から,適切な筆 圧を連続して提示することで維持させるとともに,曲線に. 参考文献 [1]. 応じて手首をひねらせることや,タブレット端末を回転さ せることを促すことで,熟練者らしい切り方の学習を支援 することを目指す.. [2]. Hettiarachchi, A., Nanayakkara, S., Yeo, K. P., Shilkrot, R. and Maes, P.: FingerDraw: More Than a Digital Paintbrush, Proceedings of the 4th Augmented Human International Conference, AH ’13, New York, NY, USA, ACM, pp. 1–4 (online), DOI: 10.1145/2459236.2459237 (2013). Konyo, M.: TAKO-Pen: A Pen-type Pseudo-haptic In-.
(6) [3]. [4]. [5]. [6]. terface Using Multipoint Suction Pressures, SIGGRAPH Asia 2015 Haptic Media And Contents Design, SA ’15, New York, NY, USA, ACM, pp. 16:1–16:2 (online), DOI: 10.1145/2818384.2818399 (2015). Larsen, L., Jensen, T., Christensen, M., Lundbye-Jensen, J., Langberg, H. and Nielsen, J.: Changes in corticospinal drive to spinal motoneurones following tablet-based practice of manual dexterity, Physiological Reports, Vol. 4, No. 2 (online), DOI: 10.14814/phy2.12684 (2016). Ryokai, K., Marti, S. and Ishii, H.: I/O Brush: Drawing with Everyday Objects As Ink, Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems, CHI ’04, New York, NY, USA, ACM, pp. 303– 310 (online), DOI: 10.1145/985692.985731 (2004). Y. Murase, N. K. and Murakami, K.: Effectiveness of 3D Use of Haptic and Visual Informations for a Calligraphy System, Proceedings of International Workshop on Advanced Image Technology, Busan, Korea, pp. 74–77 (2016). 東 孝文,金井秀明:切り絵初心者の上達を目的とする切 り絵練習帳の提案と評価 (先進的デバイスを活用した学習 支援システムの開発や実践/一般),日本教育工学会研究報 告集,Vol. 15, No. 2, pp. 15–22 (2015)..
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