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電波伝搬推定のための遺伝的アルゴリズムを用いたレイトレーシング処理の高速化法

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(1)

電波伝搬推定のための遺伝的アルゴリズムを用いた

レイトレーシング処理の高速化法

今井

哲朗

a)

Novel Ray-Tracing Acceleration Technique Employing Genetic Algorithm for

Radio Propagation Prediction

Tetsuro IMAI

†a)

あらまし レイトレーシング法は,送信点から受信点に到達するレイを幾何学的にトレースするだけで様々な 伝搬特性を一元的に推定できる魅力的な方法である.しかし,考慮すべき構造物が多く存在する伝搬環境におい ては,精度良く推定するために多くの演算処理を必要とする.したがって,以前より演算処理の高速化がレイト レーシング法の大きな課題の一つとされている.本論文では,生物が環境に合わせて進化する過程をモデル化し た遺伝的アルゴリズムをレイトレーシング処理に適用することにより,演算精度を大きく損なうことなく処理の 高速化が図れるレイトレーシング法を提案する.また,提案法のパフォーマンスを計算機シミュレーションによ り明らかにする. キーワード 電波伝搬推定,レイトレーシング法,遺伝的アルゴリズム,レイトレーシングの高速化法

1.

ま え が き

従来,携帯電話システムや無線LANのような無線 システムの設計では,サービスエリアを把握するため に電波の伝搬損推定が必須である.また,近年はシス テムに適用する時空間信号処理技術の実伝搬路におけ るパフォーマンスを評価するために,電波の伝搬遅延 と到来方向(/出射方向)の特性も推定の対象となっ てきた[1], [2].レイトレーシング法はこれらの伝搬特 性を一元的に推定できる魅力的な方法である. レイトレーシング法では,送信点から放射される電 波をレイ(Ray)とみなし,周辺構造物との相互作用 (本論文では反射,透過,回折の総称)を経て受信点 に到達するレイを幾何学的にトレース(Trace)する. 受信点における伝搬の諸特性は,トレースした各々の レイの伝搬距離と到来角度(/出射角度)及び電界(複 素振幅)を用いて求められる(詳細は文献[3]を参照). ここで,レイトレーシング演算における精度と処理量 (株)NTTドコモ,横須賀市

NTT DoCoMo, Inc., 3–5 Hikarino-oka, Yokosuka-shi, 239– 8536 Japan a) E-mail: imai@mlab.yrp.nttdocomo.co.jp はトレードオフの関係にある.すなわち,広範囲にわ たる多くの構造物を対象に相互作用回数の上限値を高 く設定してレイをトレースすれば,演算精度の向上と ともに必要となる演算処理量も増大する.したがって, 以前よりレイトレーシング処理の高速化は大きな課題 の一つとされている. レイトレーシング処理を高速化するアプローチは 大きく,1演算処理の効率化,2アルゴリズムの高速 化,3演算処理の分散化の三つに分類できる.1のア プローチでは,これまでに得られている経験や知識よ り伝搬路モデルを仮定することにより“考慮する構造 物の範囲”と“設定する相互作用回数の上限値”に制 限を加える.伝搬路モデルが適切であれば演算精度の 劣化を最小限に抑えつつ,大幅な演算量の削減が可能 となる.例えば,市街地マクロセル環境の移動伝搬推 定において効率良く三次元レイトレーシングを行うた めのVertical Plane Launch(VPL)modelはこのア プローチに該当する[4], [5].2のアプローチでは,イ

メージング法(Imaging method)やレイランチング法

(Ray-launching method)で代表されるレイのトレー スアルゴリズムの高速化を図る.このアプローチは基 本的に演算精度の劣化を伴わないが,レイトレーシン

(2)

グの前処理が必要となることが多い.このアプローチ の例としては,Visibility Graphによるイメージング 法[6]や三角グリッドによるレイランチング法[7]等が 挙げられる.最後の3のアプローチでは,レイトレー シング演算をネットワークで接続した複数の計算機に 分散させて並列処理する.このアプローチの場合,演 算精度は劣化しない.また,ネットワーク容量による 限界に達しない範囲であれば,トータルとしての演算 速度は基本的に接続された計算機/CPUの数に比例す る.実施例としては,例えば文献[8]を参照. 1 3のアプローチにおいて,最も劇的な高速化の 効果が期待できるのは1のアプローチである.ただし, 既に述べたように,もととなる伝搬路モデルが事前に 必要であり,これまでは主に実測によりモデルの構築 と検証が行われてきた.また,伝搬路は電波が伝搬す る環境(伝搬環境),例えば屋外であるか屋内であるか により大きく異なる.したがって,伝搬路モデルは想 定するすべての伝搬環境に対して用意する必要があり, 一般的に困難である.しかし,視点を変えると,各々 の伝搬環境に応じて適切な伝搬路モデルを自己組織化 するようなアルゴリズムをレイトレーシング処理と組 み合わせることができれば,極めて効果的な処理の高 速化が実現できるといえる. 本論文では伝搬路モデルを自己組織化するための アルゴリズムとして,生物が環境に合わせて進化す る過程をモデル化した遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm: GA)に着目する[9], [10].2.では遺伝的 アルゴリズムをレイトレーシング処理に適用したGA レイトレーシング法を提案する.3.では,提案法の効 果を計算機シミュレーションにより評価するための計 算モデル,計算条件,評価方法について示す.4.では, 計算機シミュレーションの結果より,提案法がレイト レーシング処理の高速化において極めて効果的である ことを明らかにする.最後に5.で,まとめと今後の 課題を述べる.

2. GA

レイトレーシング法

レイのトレースアルゴリズムには一般的にイメージ ング法とレイランチング法が知られており,これらは 演算精度及び演算処理量においてそれぞれ異なった特 徴をもつ[3], [8].遺伝的アルゴリズムを各々のトレー スアルゴリズムに対して適用することは可能であるが, 本論文では送受信点間のレイを厳密にトレースするこ とができるイメージング法への適用法を提案する. 図 1 面とエッジの組合せから設定されるレイパス Fig. 1 Ray-paths set up from combination of planes

and wedges. 2. 1 基 本 概 念 レイのトレースに送信点若しくは受信点の鏡像(イ メージ)を用いるイメージング法では,まず図1に示 すように,レイが送信点(Tx)から受信点(Rx)ま で伝搬する経路(パス)を面とエッジの組合せから設 定する.次に設定した各々のパスに対して相互作用を 伴うポイントを幾何学的に探索することによりレイを トレースする.ここで,面/エッジの数をM,トレー スするレイの相互作用の回数をNとすると,面とエッ ジの組合せとして設定されるパスの数NallMNと なる.すなわち,N > 1の場合,考慮する面/エッジ の数Mの増加に対してレイのトレース処理は非線形 に激増することを意味する.ここで,一般的に,設定 したMN 本のパスの中には“最終的にレイが存在せ ずに棄却されるパス”や“レイは存在するが受信特性 に与える影響が極めて小さいパス”が数多く存在する. ただし,これらのパスを事前に判別することはできな い.したがって,イメージング法は極めて演算効率の 悪い方法といえる. 提案法はGAを用いることによりトレースの対象パ スを適切に制限し,演算効率を向上させることにより レイトレーシング処理の高速化を図る.なお,以降で は,これまでの“考え得るすべての面/エッジに対して レイのトレースを行う”イメージング法を簡単に“従 来法”と呼ぶこととする. 2. 2 基本モデル 本節ではGAをイメージング法に基づくレイトレー シング処理に適用するためのモデルについて述べる. なお,本論文で基本とするGAは単純遺伝的アルゴリ

ズム(Simple Genetic Algorithm)である[9], [10].

GAでは対応形質が異なる遺伝子の列で染色体を定

(3)

図 2 個体群モデル Fig. 2 Population model.

することにより各々の個体に多様性をもたせる.すな わち,個体は複数遺伝子の一つの組合せで表現され, その組合せ総数が表現可能な個体の種類となる.一 方,2.1で述べたように,イメージング法ではレイの パスを面/エッジの組合せにより表現し,その組合せ 総数がレイトレーシング処理対象の総パス数となる. このように,GAの個体表現とイメージング法のパス 表現は極めて類似している.したがって,レイの1パ スをGAの1個体とみなせば,一般的なGAの個体 群のモデルはイメージング法のパラメータに容易に置 き換えることが可能である.具体的には,図2に示す ように,遺伝子を面/エッジに,染色体を設定パスの 面/エッジの組合せに対応させて1個体を1パスとみ なす.この場合,染色体のサイズはトレースするレイ の相互作用の回数Nであり,各々の遺伝子がとり得 る値は面/エッジの番号(m1∼mMM:考慮する面/ エッジの総数)となる.また,個体群はパス群となる が,そのサイズ(1世代当りの個体数)Ncの上限値は Nall(= MN)となる. 図2の個体群モデルを前提とする提案法の基本処 理フローについて述べる.まず,Nall組の“考え得る 面/エッジの組合せ”の中からランダムにNc組を選択 し,それらを初期パス群(第一世代)として設定する. 次に,各々のパスに対してレイのトレース及び電界計 算を行う.ここで,提案法では各々の個体(パス)の 適応度をトレースしたレイの受信電力で定義する.パ スの適応度評価では,適応度によりソートした順序で 各々のパスのラベルを振り直す.続いて,得られた結 果があらかじめ設定した終了条件を満たすか否かを判 定し,条件を満たしていない場合には,GA特有の“選 択”,“交叉”,“突然変異”の操作に基づいてパス群の 再設定(世代の更新)を行い,再設定したパス群に対 してレイのトレースを行う.以上を終了条件が満たさ れるまで繰り返し,条件を満たした場合には,所望の 伝搬特性(トータルの受信電力,遅延スプレッドなど) を算出して処理を終了する.なお,GAでは,世代を 重ねる過程で,既に適応度を計算した個体が幾度も発 現する.適応度計算の処理負荷が軽い場合にはそのた びに適応度を再計算してもよいが,処理負荷が重い場 合にはこの再計算がトータルの演算速度に与える影響 を無視することができない.提案法では処理負荷が極 めて重い“レイのトレース処理”が適応度計算に含ま れる.したがって,提案法を実際にコーディングする 場合には,既に受信電力を計算したパスは再計算を行 わないように,パスの計算情報(トレースしたレイの 受信電力,伝搬距離など)を一時的にメモリに記憶さ せ,必要に応じて情報を抽出するようにした方が理想 的/効率的である. “初期パス群の設定”と“パス群の再設定”におい て,提案法では次のルールに従ってパスを設定/再設 定する. ルール1:同一の面/エッジが連続する組合せは 対象外 ルール2:面/エッジの組合せが同一となるパス はパス群において唯一 “同一の面/エッジが連続する組合せ”,例えば,図1 に示す“Tx→ m1 → m1 → · · · →Rx”の組合せはレ イを明らかにトレースできない.ルール1はこのよう な組合せのレイトレーシング処理をあらかじめ避ける ためのものである.なお,ルール1を適用した場合の 組合せ総数はM (M− 1)N−1となる.一方,ルール2 はパス群の中に同一経路(面/エッジの組合せ)をも つパスが増殖することを避けるためのものである. 終了条件は演算精度と演算処理量を決定する重要な 要因である.その条件には様々な方法が考えられるが, 本論文では次式で定義する演算率ρを終了条件の指標 とする. ρ = 1 Nall



i Ncal(i) (1) ただし,Ncal(i)は第i世代において初めてパス群の中に 発現し,適応度を計算したパスの数.ユーザはあらか じめ演算率のしきい値ρth(ただし,0≤ ρth≤ 1の 実数)を定めておき,演算は実際の演算率がこのしき い値を超えた時点で終了させる.演算率を用いること の利点は,“イメージング法の対象パスを制限するこ

(4)

図 3 連鎖モデル Fig. 3 Chain model.

とでレイトレーシング処理量の削減を図る”ことを目 的とする提案法のパフォーマンスを直接的に評価でき ることにある.例えば,演算率がρであった場合,提 案法の演算量(ただし,レイのトレース処理のみ)は, 従来法における演算量のρ倍であるといえる. 2. 3 連鎖モデル 本節では,多くの受信点を面的に配置した場合の計 算,いわゆるエリア計算を前提とした場合のGA適用 モデルについて述べる. GAのパフォーマンスは初期に設定する個体群に大 きく依存する.すなわち,適切な個体群を初期に設定 することができれば,少ない演算率で高い演算精度を 得ることができる.しかし,一般的に適切な個体群を 初期に見つけることは困難である. ところで,今,従来法を用いて二つの受信点Aと Bに対してレイのトレーシングを実行した場合を考え る.2点間の距離が遠く離れている場合には受信点A と受信点Bにてトレースされるレイのパス(ここで は,面/エッジの組合せ)は大きく異なる.しかし,こ の距離を短くしていくと両受信点のレイパスには同一 のものが多く含まれるようになり,最終的には完全に 一致する.これは,“2点間の距離が短く”かつ“受信 点Aの演算が既に終了”している場合,提案するGA レイトレーシング法においては“受信点Aの最終パス 群が受信点Bの良好な初期パス群になり得る”ことを 意味する.以上の考えをもとに,複数の受信点を連鎖 的に計算するモデルが次に提案する連鎖モデルである. 連鎖モデルについて図3を用いて具体的に説明す る.本モデルでは,まず,計算エリア内にある受信点 に対して,隣り合う受信点間距離∆rが互いに短くな るように演算順序を設定する(コース設定).次に,受 信点を 初期化受信点Rx0:初期パス群を基本モデルに 従ってランダムに設定する受信点 通常受信点Rx:初期パス群を隣接の受信点(演 算コースにおいて一つ前の受信点)にて演算した結果 を設定する受信点 の2種類に分ける.ここで,∆R (≥ ∆r)は初期化受 信点間の距離であり,∆R = ∆rと設定した場合には すべてが初期化受信点となり,∆R =∞と設定した 場合にはスタート点を除いてすべてが通常受信点とな る.なお,すべてが初期化受信点となることは,連鎖 モデルが適用されないことを意味する.また,図3に おいて,ρ(0)thρthはそれぞれ初期化受信点及び通常 受信点において設定する演算率のしきい値であり,基 本的にρ(0)th > ρthとなるように設定する.最後に,連 鎖モデルを適用した際のGAレイトレーシング法の処 理フローを図4に示す.

3.

計算機シミュレーション

本章では,提案するGAレイトレーシング法のパ フォーマンスを計算機シミュレーションにより評価す るための計算モデル,計算条件,評価方法について述 べる. 3. 1 計算モデル 本論文では提案法を容易に効率良く評価するため, 図5に示す水平面内二次元モデルを用いる.構造物 はすべて水平面に垂直な壁面(高さ:無限大,厚み:

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図 4 連鎖モデルを適用した提案法の処理フロー Fig. 4 Flow of proposed method with chain model.

なし,幅:有限)であるとし,本モデルではそれらを 2 km× 2 kmの計算エリア内に複数配置する.ただし, 壁面の位置と向きはともにランダムとする.また,本 モデルで定義する壁面は一つの面と二つのエッジ(水 平面に垂直で長さが高さ方向に無限)で構成されるも のとする.したがって,M0個の構造物を配置した場 合の面/エッジの総数M3M0である. 送信点Txは図 5に示す座標(0,−500 m)の位 置に固定とする.また,受信点は,その位置がP1 1: (0,500 m)に固定,P2 2:P1 から距離∆rの円周 上,P3 3:設定するコース上に位置する場合の3種類 とする.P1は提案法の基本モデルの適用効果を評価 する場合に使用し,P2とP3は特に連鎖モデルの適用 効果を評価する場合に使用する. 3. 2 計 算 条 件 表 1に計算条件を示す.考慮する構造物(壁面) 図 5 計算モデル Fig. 5Calculation model.

は材 質を コンク リー ト( 比誘 電率:6.76,導 電率: 0.0023 S/m),幅を30 mとし,配置する数M0は10∼ 300とした(面/エッジの総数Mは30∼900).トレー スの対象は,最大透過回数:で反射/回折の回数N が2となるレイとする.ただし,本シミュレーション では“同一の壁面内で反射/回折を連続して繰り返す 組合せ”は2.2で述べたルール1に加えてトレースの 対象外とする.レイの受信電力は,周波数を2 GHz, 1回当りの透過損を10 dBとし,反射係数と回折係数 の計算にそれぞれ2層媒質におけるフレネル反射係数

及びUTD(Uniform Theory of Diffraction)を用い ることにより求めるとする.なお,フレネル反射係数 とUTDの詳細は付録参照. 次にGAに関する条件について述べる.パス群の サイズNcは面/エッジの総数M 及び反射/回折数 N (= 2)に応じて大きく設定すべきであると考え,本 シミュレーションではNc= 2M Nとする.ただし,最 小サイズは100とする.次世代の生成は連続世代型で あるエリート保存方式とする[9], [10].具体的には,前 世代の中から適応度の高いNc/3をエリートとして選 択し,これらは無条件に次世代に残す.残りの2/3Nc はランダムに選ばれたエリートのペア間で1点交叉 (交叉位置はランダム),突然変異(確率Pm= 0.01

(6)

表 1 計 算 条 件 Table 1 Calculation conditions.

により生成する.終了条件には2.2で述べた演算率ρ を使用する.ただし,前述したように,本シミュレー ションではルール1に加えて“同一の壁面内で反射/ 回折を連続して繰り返す組合せ”も対象外としている ことから,式(1)における総パス数Nallは, Nall= 3M0(3M0− 3)N−1 = M (M− 3)N−1 (2) となる.また,適応度の高いNc/3をエリートとして 選択するエリート保存方式を用いて次世代を生成する 場合,“設定する演算率しきい値ρth”と“演算が終了 した時点の演算率ρ”の関係は



ρth≤ ρ < ρth+ ∆ρ, ρth> ρmin ρ = ρmin, otherwise (3) と表せる.ただし,ρminは第一世代(初期世代)終了 時点の演算率,∆ρは第i世代において初めて演算を 行うパスの総パス数に対する割合であり, ρmin= Nc Nall, ∆ρ = 2 3 Nc Nall (4) で与えられる.更に,式(2)と表1の計算条件を考慮 すると,ρmin= 4/(M− 3)∆ρ = 8/{3(M − 3)}と なる. 3. 3 評 価 方 法 評価指標は互いにトレードオフの関係にある“演算 量”と“演算精度”とし,いずれも従来法による結果 を基準とする. 提案法の演算は大きく,レイトレーシング演算(レ イのトレース及び電界計算)とパス群の再設定演算 (GA特有の“選択”,“交叉”,“突然変異”の操作に基 づく演算)に分けられる.ここで,レイトレーシング 演算は共通であることから,この処理量は従来法と提 案法の間で容易に比較することができる.一方,パス 群再設定演算は提案法固有のものであり,その処理量 はプログラムを作成する際のコーディングに大きく依 存する.したがって,トータルの演算処理量に対して 従来法と提案法を正当にかつ一般化して比較すること は困難である.そこで,本論文では“パス群再設定演 算はレイトレーシング演算よりも十分に処理負荷が軽 い”と仮定する.すなわち,演算量は式(1)で定義し た演算率で評価する. 演算精度は従来法の値を真とする受信電力の演算誤 差として評価する.すなわち,従来法による受信電力 をP0[dB],提案法による受信電力をP [dB]とすると, 演算誤差Perr[dB]は Perr= P− P0 (5) で与えられる.ここで,本論文では受信電力をトレー スして得られたレイの電力加算値で定義する.した がって,パス数を制限している提案法の演算誤差Perr は必ず負の値となる.なお,以降では演算誤差の絶対 値|Perr|を特に“絶対誤差Err”と呼ぶ. ところで,提案法の絶対誤差は設定する演算率しき

(7)

い値が大きいほど,すなわち,パス群の再設定回数が 多いほど小さくなる.したがって,基本モデルのみに 基づく提案法の絶対誤差Errは,初期パス群に対す る誤差Err0とパス群の再設定による演算精度の改善 量f (ρth)を用いて, Err = Err0− f(ρth) (6) と表せる.なお,0 < Err ≤ Err0であることから, 0≤ f(ρth) < Err0である.更に,連鎖モデルを提案 法に適用すると,初期化受信点から第i番目となる通 常受信点の絶対誤差Err(i) は, Err(i)=



Err0− f0



ρ(0)th



, i = 0 Err(i−1)+ gi(∆r)− fi(ρth), i≥ 1 =Err0−f0



ρ(0)th



+ i



j=1 {gj(∆r)−fj(ρth)} (7) と表せる.ただし,fi(ρth)とgi(∆r)はそれぞれ第i 番目受信点における“パス群の再設定による演算精度 の改善量”と“第(i− 1)番目受信点と距離が∆r離 れていることによる絶対誤差の増加量”である.ここ で,“Err(i−1)+ gi(∆r)”は初期パス群として設定し た第(i− 1)番目受信点の最終パス群に対する絶対誤 差であり,その値は平均的にErr0以下となる.した がって,初期段階における絶対誤差が小さいことから, 第i番目受信点において同一の演算率しきい値ρthを 設定した場合には連鎖モデルを適用した方が絶対誤差 Err(i)は小さくなると期待できる.また,第i番目受 信点の第(i− 1)番目受信点に対する絶対誤差の増加 量∆Err(i) は式(7)より,

∆Err(i)= Err(i)− Err(i−1)

= gi(∆r)− fi(ρth) (8) と表せる.この式より明らかなように,連鎖モデル適用 時の絶対誤差は,受信点の移動に伴い,∆Err1 (i) < 0 (i = 1, 2,· · ·)の場合には次第に小さくなり,逆に 2 ∆Err(i)> 0 (i = 1, 2,· · ·)の場合には累積的に増 加することとなる.

4.

シミュレーション結果

4. 1 基本モデルの適用効果 まず,基本モデルの適用効果,すなわち“イメージ 図 6 演算率しきい値と演算誤差の関係 Fig. 6 Relationship between threshold value of

calculation rate,ρth, and calculation error.

ング法にGAを適用することによる基本的な効果”に ついて明らかにする.なお,受信点はP1の1点のみ とした. 図6はM0 = 5 0として,式(6)に示す演算率しき い値ρthと演算誤差Perr(=−Err)との関係を評価し た結果である.ただし,演算誤差は壁面の配置を100 通り変更して得られた平均値である.また,図には, 考え得るパスの中から(ρth× Nall)本のパスをランダ ムに選択した場合の結果をランダム法として併せて示 してある.図より,演算率が同一であれば提案法はラ ンダム法に比べて常に絶対誤差が小さくなることが分 かる.このランダム法との差分がGAを用いることに よる演算利得といえる.この演算利得は設定する演算 率しきい値が小さいほど大きい.例えば,ρth= 0.5 の場合に演算利得は約2 dBであるが,ρth= 0.2の場 合には約7 dBとなる.また,これらの見方を変える と,許容誤差に対する演算量の削減効果を評価するこ とができる.例えば,許容する絶対誤差を4 dBとす れば,ランダム法の演算削減率は5割(ρth= 0.5よ り)であるのに対して,提案法では8割(ρth= 0.2 より)となる. 図7はρth= 0.2とした場合の壁面数M0と演算誤 差Perr(=−Err)との関係である.ただし,演算誤差 は壁面配置を100通り変更して得た平均値である.こ の結果より,ランダム法の絶対誤差は壁面数によらず ほぼ一定であるのに対して,提案法では壁面数が多い

(8)

図 7 壁面数と演算誤差の関係

Fig. 7 Relationship between the number of walls,

M0, and calculation error.

ほど絶対誤差が小さくなることが分かる.換言すれば, 演算利得が大きくなる.これは,壁面数(面/エッジの 総数)が増えた場合,“受信電力に影響を与えるパスの 数は総パス数Nallと同程度に増加する”が,“それら のパスを構成する面とエッジの種類はそれほど増えな い”ことを意味する.すなわち,受信電力が大きなレ イは比較的限られた面/エッジで反射/回折を伴う.こ のような場合には積み木仮説(詳しくは文献[9], [10] を参照のこと)を前提とするGAが特に効果的に動作 するため,提案法の演算利得が大きくなったと考える. 4. 2 連鎖モデルの適用効果 (1) 最終パス群の参照効果 初期化受信点と通常受信点がともに1点である場合 のシミュレーション結果から,連鎖モデルの基本とな る“隣接する受信点において既に得られている最終パ ス群を参照”することによる効果について明らかにす る.ただし,計算モデルと計算条件は図5と表1に同 じとし,通常受信点と初期化受信点の位置はそれぞれ P1及びP2とした.なお,以下に示す結果は,壁面の 位置と向きに加えて初期化受信点の円周上位置も併せ てランダムに100通り変更し,得られた値を平均化し たものである. まず,初期化受信点(i = 0の受信点)からの距離∆r と通常受信点(i = 1の受信点)の演算誤差(−Err(1)) との関係を図8に示す.ただし,演算率しきい値は (0)th, ρth) = (1, 0)としていることから,Err(0)= 0 図 8 受信点間距離と演算誤差の関係 Fig. 8 Relationship between distance, ∆r, and

calculation error. 及びf1(0) = 0である.すなわち,Err(1)= g1(∆r) であることから,図8はGAの演算と全く無関係な, 距離のみに依存する誤差成分g1(∆r)の特性を示して いる.∆r = 0の場合,両受信点は完全に一致してい ることからg1(∆r) = 0である.しかし,初期化受信 点からの距離∆rが長くなると,2点間の伝搬環境に 相違が生じてくることからg1(∆r2) > g1(∆r1)(ただ し,∆r2> ∆r1)となる.また,∆r > 100 mの領域 では∆rが長いほどM0= 10と50の結果に大きな差 が生じる.これは,2点間の伝搬環境の相違が,受信 点間距離∆rに加えて構造物の配置(構造物のエリア 内密度)にも依存するためと考える.そこで,本論文 では,距離が∆rだけ離れた場合に生じる伝搬環境の 変化量ηη =



∆r A/M0 (9) で仮定する.ただし,Aは構造物(壁面)を配置した領 域の面積である.したがって,



(A/M0)は壁面を配 置した平均的な間隔を表し,伝搬環境の変化量ηはこ の配置間隔で規格化した2点間距離を意味する.図8 の横軸をηに変更した結果を図9に示す.ただし,A は図5に示したように2 km× 2 kmである.図9よ り,η≤ 0.3である受信点を初期化受信点として結果 を参照すれば,絶対誤差g1(∆r)は1 dB以下に抑えら れることが分かる.なお,同図においてM0 = 10と

(9)

図 9 平均壁面配置間隔で規格化した受信点間距離と演算 誤差の関係

Fig. 9 Relationship between distance normalized by average interval of structure position,η, and calculation error. 50の演算誤差がほぼ一致していることから,式(9)の 仮定は妥当であるといえる.また,式(8)よりη = 0.3 を与える受信点間距離∆rは,M0 = 10の場合:約 190 m,M0= 5 0の場合:約85mと求められる. 次に初期化受信点と通常受信点の演算率の関係を 図10に示す.横軸は初期化受信点において設定する 演算率しきい値ρ(0)th であり,縦軸は通常受信点におい て絶対誤差の許容値Err(target)= 3 dBを得るために 必要な最小の演算率しきい値ρthである.なお,ρthの 値は二分法[11]を用いて求めている.また,M0= 10, 20,50における最小演算率ρminは式(4)よりそれぞ れ0.15,0.07,0.03であり,この値以下にしきい値を 設定した場合には実効的にGAは動作しない.図 10 では値ρ(0)th ≤ ρmin若しくはρth≤ ρminとなる領域に ハッチングを掛けている.また,図に示す曲線は,特 性を容易に評価できるように次のシグモイド関数より 非線形回帰した結果である. ρth= a + b 1 + exp



c



ρ(0)th + d



(10) ただし,abcdは回帰により決定されるパラメー タである. 図10より,ρ(0)th を大きく設定することにより通常 受信点で必要とされるρthは小さくなることが分かる. これは,通常受信点におけるρthの演算に伴う精度の 改善量f1(ρth)が式(7)より, f1(ρth) =−f0



ρ(0)th



+ g1(∆r) + Const

Const = Err0− Err(target) (11)

で与えられることによる.また,∆r = 10,100 mの 場合ではρ(0)th →1(この場合,f0(1) Err0)とすれ ばρth≤ ρminにまで小さく抑えることが可能である が,∆r = 1000 mの場合ではρ(0)th →1としてもρthρminよりも値が大きな下限値をもってしまう.例 えば,M0= 5 0の場合の下限値は約0.2である.これ は図8に示した特性と密接な関係にある.M0 = 5 0 の場合,図8において受信点間距離∆r = 10,100, 1000 mに対応する絶対誤差はそれぞれ0.4,1,5dB であった.したがって,∆r = 1000 mではρ(0)th →1 としても通常受信点の絶対誤差を5dBから3 dBにす るためにρth= 0.2に相当する演算が必要である.以 上より,g1(∆r) > Err(target)の場合には,ρthより も値が大きな下限値をもつこととなる. ∆rρ(0)th を一定として壁面数M0 を変化させた 場合,図 10において壁面数M0が少ないほど所要 の演算率しきい値ρthは大きくなっている.これは, M0≤ 50の領域において壁面数を減少させると,距離 に依存する誤差成分g1(∆r)は図8に示すように小さ くなるものの,それ以上に初期化受信点における絶対 誤差Err(0)(= Err0− f0(0)th))が図7に示すように 大きくなるためである. 以上が初期パス群の設定に隣接する受信点の最終パ ス群を参照することによる効果である.本方法は初期 パス群をランダムに設定する場合と比べて, 演算率が同じであれば演算精度の向上 許容誤差が同じであれば演算量の削減 に極めて効果的であるといえる.また,受信点間の環 境変化が小さく,かつ隣接受信点で得られている演算 精度が高いほど,その効果は大きい. (2) 連鎖による効果 “最終パス群の参照”を複数受信点で連鎖させるこ とによる効果についてシミュレーションより明らかに する.計算モデルと計算条件は図5と表 1に同じで ある.ただし,壁面数はM0= 5 0とした.なお,壁 面の位置と向きは図5に示すとおりである.演算コー スは座標(−1000 m−1000 m)をスタート点として 図5に示すようにY 軸に対して蛇行するように設定 した.詳しくは,コース上においてスタート点から第

(10)

(a) M0=10 (b) M0=20

(c) M0=50

図 10 初期化受信点と通常受信点の演算率しきい値の関係

Fig. 10 Relationship between threshold values of calculation rate at initialized point P2and at normal point P1.

i番目(i = 0, 1,· · · , 40400)となる受信点の座標(xi, yi)は, xi =



−1000 + ∆r · j if k is even 1000− ∆r · j else yi = −1000 + ∆r · k (12a) ただし, j = i mod (2000/∆r + 1) k = [i/(2000/∆r + 1)] (12b) と定義した.なお,式(12b)において,[j]jを超え ない最大の整数を表すガウス記号である.また,本シ ミュレーションでは受信点間距離∆rは10 mとした. なお,受信点の総数は40401ポイントであり,受信点 の1ステップの移動に対する伝搬環境の変化量ηは式 (9)より0.035である.また,∆R =∞(初期化受信 点はスタート点のみ)としている. まず,連鎖モデル適用による誤差の距離特性を図11 に示す.スタート点では演算率しきい値をρ(0)th = 0.01

(11)

図 11 連鎖モデルの適用効果 Fig. 11 Effect of proposed chain model.

表 2 演算率しきい値ρthと世代数Ngeの関係 Table 2 Relationship between threshold value of

cal-culation rate, ρth and generation times,

Nge. (< ρmin)と設定したことから絶対誤差は22 dBと極 めて大きい.しかし,その後の受信点においては演算 率しきい値ρthがたかだか0.03であっても,受信点の 移動に伴い絶対誤差は次第に減少する.これは,式(8) の絶対誤差の増加量∆Err(i)が計算エリア内におい て平均的に負の値になり,連鎖モデルの効果が有効に 機能していることを意味する.また,絶対誤差がほぼ 0 dBとなるのは,ρth= 0.03,0.05,0.1,0.2に対し てそれぞれスタート点から230,140,90,30 mの距 離である.ここで,1受信点の演算に必要となる世代 数Nge(ただし,平均値)と設定する演算率しきい値 ρthは表2の関係にある.したがって,図3,図4に 示したように“通常受信点における初期パス群は前受 信点の最終パス群と同一”であることを考慮,すなわ ち“通常受信点における初期パス群の世代は前受信点 の最終世代と同世代である”と考えれば,ρth= 0.03 の場合には23世代(10 m進むごとに一つ世代が変わ ることより)をかけて絶対誤差をほぼ0 dBにしたと 図 12 連鎖モデル適用時における通常受信点の演算率し きい値と演算誤差の関係

Fig. 12 Cumulative probability of calculation error with threshold value of calculation rate at normal point as a parameter when applying chain model. いえる.なお,受信点の移動とともに伝搬環境が急激 に変化することにより,例えば図11の1や2のポイ ントのように絶対誤差が前受信点よりも増大する場合 もある.このような場合においても,連鎖モデルが適 用されていれば絶対誤差は再び減少に向かうことが 図11より分かる. 図11と同一の設定でコース終点まで演算を実効し た結果を誤差の累積分布で図12に示す.なお,図12 には比較のために連鎖モデルを適用しない,すなわ ち各々の受信点を個別に演算した場合(ただし,演 算率しきい値はρth= 0.2)の結果も併せて示してあ る.図より,(0)thρth) = (0.01, 0.03)であっても絶 対誤差の累積50%値は約1 dBと極めて小さいことが 分かる.換言すれば,許容する絶対誤差を1 dBとす れば97%もの演算量が削減可能となる.一方,演算量 がほぼ同一とみなせる個別演算(ρth= 0.2,without chain model)と(0)th, ρth) = (0.01, 0.2)の結果を比 較すると,演算量が同じであれば連鎖モデルの効果に より演算精度を大幅に改善できることが分かる. 次に,スタート点(初期化受信点)の演算精度がエ リア全体に与える影響について述べる.スタート点の 演算率しきい値ρ(0)th をパラメータとし,コース終点ま で演算を実行した結果を誤差の累積分布で図13に示 す.ただし,ρth= 0.01 < ρminと設定したことから,

(12)

図 13 連鎖モデル適用時におけるスタート点(初期化受 信点)の演算率しきい値と演算誤差の関係 Fig. 13 Cumulative probability of calculation error

with threshold value of calculation rate at start (or initialized) point as a parameter when applying the chain model.

通常受信点においてGAは実効的に動作していない.

また,比較のため図12と同様に個別演算(ρth= 0.2

without chain model)の結果も併せて示してある. 個別演算(ρth= 0.2,without chain model)よりも

誤差は大きいものの,ρ(0)th を大きく設定してスタート 点の演算精度を向上させるとエリア全体の精度も確実 に向上している.これは,図8,図9において示した ように,スタート点の演算精度が高ければその周辺に 存在する受信点の演算精度も向上するためである. 以上,初期化受信点と通常受信点の演算率しきい値 を適切に組み合わせて設定すれば,少ない演算で演算 誤差を大幅に改善することが可能といえる. (3) 初期化による効果 前述したように,連鎖モデルを適用すれば受信点の 移動とともに絶対誤差を減少させて0 dBに近づける ことが可能である.しかし,設定する演算率しきい値 ρthが適切な値よりも小さい場合,この絶対誤差の減 少速度は図11に示したように遅くなる.特に突発的 な環境の変化が頻繁に生じるような場合,絶対誤差は 十分に減少する前に再び増加してしまい,結果として エリア全体の演算精度は悪くなる.このような場合に は初期化受信点(ただし,ρ(0)th ρthに設定)の複数 配置が効果的であると考える.そこで,最後に,初期 (a) ∆R = ∞ (b) ∆R = 100 m 図 14 連鎖モデルにおける初期化の効果 Fig. 14 Effect of initialization in chain model.

化受信点を複数配置することによる効果について示す. 図14はρ(0)th = 0.5とし,∆Rまたは100 m とした結果である.ただし,他のすべての条件(計算 モデル,計算条件,演算コースなど)は図12,図13 に同じである.図14より,∆R = 100 mとすること でエリア内の演算精度は向上することが分かる.た だし,当然のことながら,通常受信点の演算率しきい 値ρthが大きくなるとその効果は小さくなる.また, ρ(0)th ρthと設定することから,エリア内における初 期化受信点の割合が増えると演算量も同様に増加する.

(13)

表 3 シミュレーション結果の比較 Table 3 Comparison of simulation results.

したがって,初期化受信点を複数配置する場合にはこ れらに十分留意する必要がある. 図12,図14に示した主な結果の演算率と演算誤差 をまとめて表3に示す.連鎖モデルを適用することに より,少ない演算で演算誤差を大幅に改善できる.例 えば,(∆R, ρ(0)th, ρth) = (∞, 0.5 , 0.05)の設定は従来 法に対したかだか6%の演算量で絶対誤差(平均値): 1.23 dBを実現できる.参考のため,計算エリア内にお ける受信電力の分布を図15に示す.ただし,図15(a): 従来法の結果(本論文の定義より,演算誤差を求める際 の基準となる結果),図15(b):個別演算(ρth= 0.2

without chain model)の結果,図15(c):連鎖モデ ル(∆R =∞, ρ(0)th = 0.5, ρth= 0.05)の適用結果で ある.この結果からも連鎖モデルの有効性は明らかで ある.ただし,一方で,図15(c)の例えば範囲Aで 示した部分から,連鎖モデルが環境の変化に対して十 分に追従できていない場所が少なからず存在している こともうかがえる.

5.

む す び

本論文では,レイトレーシング法を用いた伝搬推定 において,演算精度を損なうことなく演算処理の高速 化が図れる“GAレイトレーシング法”を提案した.本 方法では,イメージング法に基づくレイトレース処理 に遺伝的アルゴリズムを適用することにより効率良く 演算処理量を削減する.また,水平面内二次元モデル を用いたシミュレーションよりGAレイトレーシング 法のパフォーマンスを評価し,得られた主な結果は以 下のとおりである. 推定すべき受信点が1点である場合,従来の 20%の演算処理量で誤差は平均4 dB程度. 推定すべき受信点が複数である場合,従来の 6%の演算処理量で誤差は平均1 dB程度. ただし,計算モデルにおいて設定した壁面の数は50 であり,トレースしたレイの反射/回折回数は2回で ある. レイトレーシング処理を高速化するアプローチは大 きく,1演算処理の効率化,2アルゴリズムの高速化, 3 演算処理の分散化の三つに分類でき,提案法は1の アプローチに属する.ここで,これらのアプローチは 互いに排他的な関係にはない.したがって,提案法は 他のアプローチ(2と3)による高速化法(ただし, イメージング法を前提)と効果的に組み合わせること が可能である.また,十分な効果が得られない可能性 はあるが,1のアプローチに属する高速化法(ただし, イメージング法を前提)とも基本的には組み合わせる ことができる.これらを考慮しつつ,より実際的な伝 搬推定システムへの提案法の実装方法及びその効果を 検討することが今後の主な課題である.また,遺伝的 アルゴリズムはレイランチング法に基づくレイトレー ス処理にも適用可能である.レイランチング法の演算 精度と演算処理量はレイの出射本数に大きく依存する.

(14)

(a) Conventional ray-tracing method using imaging method

(b) Proposed ray-tracing method without chain model (ρth= 0.2)

(c) Proposed ray-tracing method with chain model (∆R = ∞, ρ(0)th = 0.5, ρth= 0.05)

図 15 受信電力分布による比較

Fig. 15Comparison of calculated received power distributions. したがって,遺伝的アルゴリズムによりレイを効果的 な方向に適切な数で出射させることができれば,演算 精度を損なうことなく処理の高速化が期待できる.前 述の課題と併せて検討していきたい. 文 献

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(15)

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1. 反 射 係 数 図A· 1は2層媒質におけるフレネルの反射係数を 説明するためのモデルである.媒質定数εi, µi, σiの 均質な媒質iから,境界が平面で異なった媒質定数εj, µj, σjの半無限媒質jへ平面波が入射する場合のフ レネルの反射係数r||(TM入射),r⊥(TE入射)は, 入射角をθiとすれば次式で与えられる[12]. r||=µin 2 ijcos θi− µj



n2 ij− sin2θi µin2 ijcos θi+ µj



n2 ij− sin2θi (A·1a) r⊥=µjcos θi− µi



n2 ij− sin2θi µjcos θi+ µi



n2 ij− sin2θi (A·1b) ここで,nijは次式で表される媒質iに対する媒質j の比複素屈折率である. nij=



µj µi



εj− jσj/ω εi− jσi/ω (A·2) ただし,ωは入射波の角周波数である. 2. 回 折 係 数 図A· 2は,形状が楔(ウェッジ)である構造物に 電波が斜め入射する場合の回折係数を計算するための モデルである.図において,“0”faceと“n”faceはそ れぞれ電波が入射する側と回折する側の楔の面であ り,ββはそれぞれ入射波及び回折波と楔のエッ ジの接線方向とのなす角であり,φφは楔に垂直 な面に射影した入射波及び回折波の“0”faceとのなす 角であり,(2− n)πは“0”faceと“n”faceのなす角 図 A· 1 反射モデル

Fig. A· 1 Reflection model.

である.またssはそれぞれ送信点から回折点ま

での距離及び回折点から受信点までの距離である.こ れらのパラメータを用いた回折係数の具体的な計算 方法を以下に示す.なお,この方法は,一般的な完全 導体におけるUTD(Uniform Geometrical Theory of Diffraction)[13]を,文献[14], [15]の結果より導電 率が有限な媒体に適用できるように拡張された,文 献[16]による回折係数の計算法である. 回折係数は次のダイアディックで与えられる. ˜ D =− ˆβ· ˆβ Ds− ˆφ· ˆφDh (A·3) ここで,βˆβˆ及びφˆφˆはそれぞれ図に示す角度 ββ及びφφの単位ベクトルである.また,DsDhは以下で与えられる. Ds,h = −e −jπ/4 2n√2πk sin β

cot

π + (φ− φ) 2n

×F

kLa+

φ− φ

+ cot

π−(φ−φ) 2n

F

kLa−

φ−φ

+r(0)cot

π−(φ+φ) 2n

F

kLa−

φ+φ

+r(n)cot

π + (φ + φ) 2n

×F

kLa+

φ + φ



(A·4) 上式においてF (・)は次式で示すフレネル積分を表す. 図 A· 2 回折モデル

(16)

F (x) = 2j√xejx



x e −jτ2 (A·5) また,L及び(·)は以下で与えられる. L = ss  s + ssin 2 β (A·6) a±(µ) = 2 cos2

2nπN±−µ 2

, µ = φ± φ(A·7) ここで,は次式を満足する値に最も近い整数で ある. 2nπN±− µ = ±π (A·8) また,式(A·4)r(0) とr(n) はそれぞれ図A· 2に 示す“0”faceと“n”faceに対する反射係数であり,式 (A·1)で与えられる.なお,この場合,偏波面に留意 する必要があり,詳細は文献[14]を参照のこと. (平成 17 年 8 月 15 日受付,11 月 8 日再受付) 今井 哲朗 (正員) 平 3 東北大・工・電気卒.同年 NTT(株) 入社.以来,陸上移動通信に関する電波伝 搬,回線設計法の研究開発に従事.平 4 NTT移動通信網(株)(現,(株)NTT ド コモ)に転籍.平 14 年 9 月東北大大学院 工学研究科電気・通信工学専攻博士課程了. 現在,(株)NTT ドコモ IP 無線ネットワーク開発部担当課長. 平 10 年度本会学術奨励賞受賞.IEEE 会員.

図 2 個体群モデル Fig. 2 Population model.
図 3 連鎖モデル Fig. 3 Chain model.
図 4 連鎖モデルを適用した提案法の処理フロー Fig. 4 Flow of proposed method with chain model.
表 1 計 算 条 件 Table 1 Calculation conditions.
+7

参照

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