55:171 はじめに 今回われわれは galactocerebroside(Gal-C)抗体のみ陽性を 呈した純粋感覚型 Guillain-Barré 症候群(GBS)と考えられる 症例を経験したので報告する. 症 例 症例:67 歳,男性 主訴:起立困難 既往歴・家族歴:特記すべきことなし. 生活歴:喫煙 1 日 6 本× 45 年,飲酒歴なし,常用薬なし. 現病歴:独居で自立していたが,2011 年 7 月某日,先行感 染なく両下肢の動かしにくさを自覚.3 日後に道で転倒し,動 けなくなっているところを発見され当院救急入院. 入院時現症:バイタルサイン異常なし,口腔・眼の乾燥な し,リンパ節腫脹なし,皮疹・出血斑なし,胸腹部異常なし, 足背動脈触知良好,前脛部浮腫なし. 神経学的所見:意識清明,見当識良好,脳神経異常なし, 四肢筋力・筋緊張正常,筋萎縮なし.指鼻指試験異常なく, 踵膝試験は両下肢で拙劣.上腕二頭筋・三頭筋・腕橈骨筋反 射いずれも両側で減弱,膝蓋腱・アキレス腱反射も両側で減 弱,病的反射みとめず.起立不安定,Romberg 徴候陽性,歩 行不可.四肢先端しびれあり,他覚的表在覚異常なし.振動 覚・位置覚は両下肢で感知せず.自律神経異常なし. 検査所見:血算,凝固,一般生化学異常なし,HBs 抗原, HCV抗体,TPHA,HIV 抗体は陰性.HbA1c 5.3%,抗核抗体, SS-A抗体,SS-B 抗体,MPO-ANCA,PR3-ANCA,Hu 抗体は陰 性,血清 Mycoplasma IgM 抗体陰性,便培養で Campylobacter jejuni検出せず.CVR-R正常.胸腹部造影 CT,上部・下部内
視鏡で悪性腫瘍なし.髄液では,細胞数 2/mm3(すべて単核
球),蛋白 53.0 mg/dl,IgG index 0.52,ACE 0.0 U/l.神経伝導 検査では運動神経・F 波異常なく,感覚神経は上下肢で振幅 低下をみとめた(Table 1).脊髄 MRI 異常なく後索病変なし. 近畿大学に糖脂質抗体測定依頼.糖脂質抗体は確立された 既存の ELISA 法をもちいて測定1).治療前血清をもちいて
短 報
Galactocerebroside
抗体のみが陽性であった
純粋感覚型 Guillain-Barré 症候群の 1 例
小河 秀郎
1)*
中島 敦史
1)小橋 修平
1)寒川 真
2)楠 進
2) 要旨: 症例は 67 歳男性.某日,両下肢違和感出現.3 日後に道で転倒し当院救急入院.入院時,脳神経系異常 なし.四肢筋力保たれるも両下肢深部覚障害のため起立困難.深部腱反射減弱,表在覚障害なし.腰椎 MRI 異常 なし.神経伝導検査は運動神経異常なく,上下肢で著明な感覚神経振幅低下あり.Gal-C 抗体陽性であり,純粋感 覚型 Guillain-Barré 症候群(GBS)と診断.免疫グロブリン大量静注療法をおこなうも深部覚障害残存し入院 53 日 目に転院.Gal-C 抗体のみ陽性の純粋感覚型 GBS 症例の報告はなく貴重な症例と考えられた. (臨床神経 2015;55:171-173)Key words: galactocerebroside 抗体,Guillain-Barré 症候群,純粋感覚型
*Corresponding author: 公立甲賀病院内科〔〒 528-0074 滋賀県甲賀市水口町松尾 1256 番地〕
1)公立甲賀病院内科
2)近畿大学神経内科
(受付日:2014 年 3 月 10 日)
Table 1 Nerve conduction studies. Motor nerve conduction study
Distal latency (ms) Amplitude (mV) Conduction velocity (m/s) F wave latency (ms) Median 3.6 15.7 52 26.4 Ulnar 4.5 12.4 50 20.0 Tibial 5.5 15.2 43 41.4
Sensory nerve conduction study (antidromic). Amplitude (mV) Conduction velocity (m/s) Median 1.1 52 Ulnar 2.0 57
臨床神経学 55 巻 3 号(2015:3) 55:172
GM1,GM2,GM3,GD1a,GD1b,GD3,GT1b,GQ1b, Gal-C,GalNAc-GD1a に対する抗体(IgM, IgG)を測定.Gal-C
IgG抗体のみが陽性でその他の抗原に対する抗体は IgM,IgG いずれのクラスもすべて陰性.GD1a/GD1b,GD1b/GT1b, GM1/ GalNAc-GD1a,GM1/GD1a に対する IgG 抗体もすべて 陰性.IgG Gal-C 抗体のみが陽性であり,GM1,GD1b など末 端に galactose 基をもつ糖脂質には反応しないことから Gal-C に対する特異性は高いと考えた.以上より純粋感覚型 GBS と 診断した. 臨床経過:免疫グロブリン大量静注療法後,両下肢位置覚 は膝関節,足関節で軽度改善したが,足趾の位置覚は高度障 害残存.振動覚は両下肢で 3 秒と軽度改善.歩行器歩行可能 となり入院 53 日目に他院転院. 考 察 本例は Gal-C IgG 抗体のみ陽性であった純粋感覚型 GBS の 1例である.感覚神経障害の鑑別診断については,シルマー テスト,ガムテストはおこなっていないがシェーグレン症候 群を示唆する所見なく,SS-A・SS-B 抗体とも陰性であり,急 性発症であったことから,シェーグレン症候群関連末梢神経 障害は否定的と考えた.また,諸検査で悪性腫瘍みとめず, Hu抗体も陰性であり,傍腫瘍症候群も否定的と考えた. 飯島らによると,純粋感覚型 GBS は,脱髄型,後根神経節 型,脊髄小脳型に分類され,後根神経節型はさらに大径細胞 型と小径細胞型に分類される2).本症例は後根神経節型 - 大 径細胞型と考えられた.Gal-C 抗体は,マイコプラズマ関連 脳症やマイコプラズマ感染後 GBS の患者で報告されている が3)4),感覚型 GBS に Gal-C 抗体のみが検出された症例は報 告されていない.Gal-C は髄鞘に広く存在し5),感覚神経に局 在しているとする報告はない.しかし,Ang らは Gal-C 抗体 陽性例では陰性例と比較して,感覚脱失と paresthesia が多い 傾向にあったと報告している4).また最近 Samukawa らは,や はり,Gal-C 抗体陽性 GBS は陰性 GBS と比較して有意に感 覚障害が多いことを報告している6).彼らの電気生理学検査 の比較では,Gal-C 抗体陽性 GBS は,運動神経伝導速度と運 動神経振幅は陰性 GBS と有意差がなかったが,感覚神経伝導 速度と感覚神経振幅が有意に低下していた.また,感覚障害 症状も Gal-C 抗体陽性 GBS で有意に高頻度であった.電気生 理学検査からは大径細胞障害が Gal-C 抗体陽性 GBS で多いこ とが示唆される.一方,Susuki らは Mycoplasma 感染後 GBS 7症例のうち急性運動神経軸索障害を示した 6 症例で Gal-C 抗体が陽性であったと報告している7).彼らは,Gal-C 抗体と 交叉反応した GM1 抗体が運動神経軸索障害に関与したと考 察しているが,GM1 抗体と Gal-C 抗体のみ陽性であった 1 例 では運動障害と感覚失調を呈しており,感覚失調には Gal-C 抗体が関与したのではないかと推測された.一方,Saida らは Gal-C免疫 experimental allergic neuritis ウサギでは,後根神経 節(DRG)と神経根の障害がめだち,失調症状をみとめたと 報告している8).ただし,DRG 細胞体の変化は乏しく,DRG 内の脱髄と間質浮腫およびリンパ球浸潤が観察された.著者 らは,DRG では blood-nerve barrier(BNB)が不完全なため 抗血清の影響をうけやすい可能性を指摘している.Gal-C 以 外のガングリオシドが比較的局在特異性を持つのに対し Gal-Cは中枢・末梢問わず広く髄鞘に分布している.そのた め Gal-C 抗体は多様な神経症状を惹起する可能性があるが, BNBが不完全な DRG でより早期に障害が現れやすく,ヒト でも感覚障害が生じやすいのではないか,とわれわれは考え ている. 純粋感覚型 GBS はまれな病態であるが,今後症例の蓄積に より Gal-C 抗体の関与が明らかになることが期待される. 本報告の要旨は,第 98 回日本神経学会近畿地方会で発表し,会長 推薦演題に選ばれた. ※本論文に関連し,開示すべき COI 状態にある企業,組織,団体 はいずれも有りません. 文 献
1) Kaida K, Morita D, Kanzaki M, et al. Ganglioside complexes: as new target antigens in Guillain-Barré syndrome. Ann Neurol 2004;56:567-571.
2) 飯島正博,小池春樹,祖父江元ら.Guillain-Barré 症候群の 亜型「純粋感覚型」.神経内科 2013;78:50-56.
3) Kusunoki S, Shiina M, Kanazawa I. Anti-Gal-C antibodies in GBS subsequent to mycoplasma infection: evidence of molecular mimicry. Neurology 2001;57:736-738.
4) Ang CW, Tio-Gillen AP, Groen J, et al. Cross-reactive anti-galactocerebroside antibodies and Mycoplasma pneumoniae infections in Guillain-Barré syndrome. J Neuroimmunol 2002; 130:179-183.
5) Dyer CA, Benjamins JA. Glycolipids and transmembrane signaling: antibodies to galactocerebroside cause an influx of calcium in oligodendrocytes. J Cell Biol 1990;111:625-633. 6) Samukawa M, Hamada Y, Kuwahara M, et al. Clinical features in
Guillain-Barré syndrome with anti-Gal-C antibody. J Neurol Sci 2014;337:55-60.
7) Susuki K, Odaka M, Mori M, et al. Acute motor axonal neuropathy after Mycoplasma infection: Evidence of molecular mimicry. Neurology 2004;62:949-956.
8) Saida T, Saida K, Silberberg DH, et al. Experimental allergic neuritis induced by galactocerebroside. Ann Neurol 1981;9: Suppl:87-101.
Gal-C 抗体陽性の純粋感覚型 GBS の 1 例 55:173 Abstract
A case of pure-sensory-type Guillain-Barré syndrome with galactocerebroside antibody
Shuro Kogawa, M.D.
1), Atsushi Nakajima, M.D.
1), Syuhei Kobashi, M.D.
1),
Makoto Samukawa, M.D.
2)and Susumu Kusunoki, M.D.
2)1)Department of Internal Medicine, Kohka Public Hospital 2)Department of Neurology, Kinki University Faculty of Medicine