1.はじめに ディーゼル排ガスには一酸化炭素(
&2
)、未燃燃料 (+&
)、窒素酸化物(12[
)、粒子状物質(30
)などの 人体や環境に有害な成分が含まれており、現在は触媒な どから構成される後処理装置により無害化されている。 これら有害成分の中で30
は、固体炭素の微粒子(すす)、 未燃燃料の高沸点成分や潤滑油からなる可溶性有機成分 (62)
)、燃料中の硫黄に由来するサルフェートなどから 構成される固体成分であり、ディーゼル ・ パティキュ レート ・ フィルター('3)
)を利用することで以 上の低減が達成されている。しかし、長期間30
を捕 集すると'3)
が目詰まりし、背圧上昇にともなうエン ジン燃焼効率の低下が起こる。そのため捕集された30
を定期的に除去することによる'3)
の再生が必要であ る。上述のように、30
はすすや62)
などの有機成分 からなることから燃焼による30
の除去、つまり'3)
の再生が可能となる。30
燃焼には°&
以上の温度 が必要であるが、通常走行時のディーゼル排ガス温度は ∼°&
と低いため、燃料の一部を排気システム 中で燃焼させるなどして30
燃焼に必要な温度を確保 する方法がとられている。この方法ではディーゼルエン ジンの特徴である低燃費性を犠牲にしており、できるだ け低温で30
燃焼を実現することが望まれている。ま た最近では、直噴型ガソリン車においても30
の排出 規制がかけられており、ガソリン ・ パティキュレート ・ フィルター(*3)
)においても同様の機能向上が求めら れている。 化学反応の促進には触媒の利用が有効である。不均一 系の触媒反応は多くの場合、固(触媒)−気(反応成分) 反応もしくは固(触媒)−液(反応成分)反応であり、 触媒表面に反応成分が吸着することで反応が進行する。 一方、30
燃焼は、固(触媒)−固(30
)−気(酸化剤) の三相が関わる反応であり)、通常の触媒開発とは異な る視点からの研究戦略が必要である)。例えば、3W
触媒 は多くの研究者によって有効性が検証されているが)、 これは酸素よりも強力な酸化剤である12
をその場(LQ
VLWX
)合成することで30
燃焼の低温化が実現されてい る。また比較的融点が低く、かつ効果的に酸素を活性化 できるアルカリ成分などを含む溶融塩型の触媒では、こ れら触媒成分が担体表面を移動して30
と効率的に接 触することで30
の低温燃焼が可能であると知られて いる)。また酸素吸放出能(26&
)を有する酸化セリ ウム系材料)や酸素イオン伝導性を持つ酸化ジルコ ニウム系複合酸化物)も高い30
燃焼性能を示すこと が報告されている。 上述した触媒の中で、3W
触媒は一部の'3)
システム に実用化されていたが)、最近になって$J
触媒の実用 化が発表された)。当初、$J
触媒による30
燃焼のメ カニズムは全く解明されていなかったが、環境7(0
を 活用することで$J
が担体表面を移動して30
と接触す遷移金属添加による Ag/ZrO
2の PM 燃焼特性の改良
竹田光平・羽田政明
名古屋工業大学先進セラミックス研究センター 〒岐阜県多治見市旭ヶ丘3URPRWLQJ(IIHFWRI7UDQVLWLRQ0HWDO$GGLWLYHVRQWKH&DWDO\WLF3HUIRUPDQFH
RI$J=U2
IRUWKH2[LGDWLRQRI3DUWLFXODWH0DWWHU
(
30
)
.RKHL7DNHGD0DVDDNL+DQHGD
$GYDQFHG&HUDPLFV5HVHDUFK&HQWHU1DJR\D,QVWLWXWHRI7HFKQRORJ\ $VDKLJDRND7DMLPL*LIX-$3$17KHDGGLWLRQRIYDULRXVWUDQVLWLRQPHWDOV(0Q&R5K3G3W)FDXVHGDQHQKDQFHPQHWRIWKHFDWDO\WLFSHUIRUPDQFHRI$J=U2
IRUWKHR[LGDWLRQRISDUWLFXODWHPDWWHU(30),QRUGHUWRJDLQWKHNQRZOHGJHVOHDGLQJWRWKHGHYHORSPHQWRIKLJKO\DFWLYH
FDWDO\VWVWKHGHWDLOLQYHVWLJDWLRQZDVSHIRUPHGIRU&RGRSHG$J=U27KHRSWLPXP&RORDGLQJZDVIRXQGWREHZW7KH
UHVXOWVRI+735732UHYHDOHGWKDWDODUJHDPRXQWRIDFWLYHR[\JHQVSHFLHVFDQEHVXSSOLHGE\WKHFRPELQDWLRQRI$JDQG&R
VSHFLHVYLDWKH$J±&RLQWHUDFWLRQUHVXOWLQJLQKLJK30R[LGDWLRQDFWLYLW\
ることで
30
燃焼が進行する現象が観察された)。こ れは$J
が融解して移動しているのではないことから溶 融塩型には含まれず、触媒移動型と呼ばれている。$J
触媒に関する研究例は多く、例えば&H2
や=U2
が有 効な担体であること)、粒子形状を制御することで30
燃焼活性が向上することなどが報告されている)。$J
は融点が低いため耐久性が課題とされてきたが、3G
と複合化することにより耐久性だけでなく、30
燃焼性 能も向上することも明らかにされている)。 現在、ディーゼル車の排ガス温度は∼°&
程 度であるが、燃費のさらなる向上により排ガス温度が低 温化する傾向にある。そのため、さらに低温で30
燃 焼を実現できる触媒の開発が必要である。本研究では、$J
触媒の更なる活性向上につながる知見を見出すこと を目的として、$J=U2
への遷移金属の添加効果を検 討した。$J3G
複合化触媒の有効性は報告されているが、 他の有効な添加物に関する報告はない。本研究の成果が 更なる触媒改良に繋がることが期待できる。 2.実験$J=U2
は、第一稀元素製=U2
(5&
)に硝酸銀水溶液を含浸・乾燥・焼成(空気中
°&
、時間)するこ とで調製した。$J
担持率はZW
とした。遷移金属(&R
1L)H&X&X0Q3W3G6Q5K
)の添加は、調製した$J=U2
粉 末 に 金 属 塩 水 溶 液(&R
(12
)・+
21L
(12
)・+
2)H
(12
)・+
2&X
(12
)・+
20Q
(1 2
)・+
2 3 W
(1 2
)(1 +
)3 G
(1 2
)6Q&O
・+
25K
(12
))を含浸・乾燥・焼成(空気中 °&
、時間)することにより行った。遷移金属の添 加量はZW
とした。また&R
添加量が、ZW
の&R$J=U2
触媒および&R=U2
触媒も調製した。 触媒キャラクタリゼーションとして、;5'
(5LJDNX
0LQL)OH[,,N9P$
)、7(0
(-(2/-(0
N9
)、+
735732
測定を行った。+
735732
測 定は、所定量の触媒を石英製反応管に充填し、+
$U
気流中(
PO
・PLQ
)、°&
・PLQ
で°&
まで昇温することにより
+
735
プロファイルを測定した。$U
気流 中で室温まで冷却後、2
$U
に切り替え°&
・PLQ
で°&
まで昇温することにより732
プロファイルを 測定した。30
燃焼反応は、固定床流通式反応装置を用い、モデ ル30
として$OGULFK
製のカーボンブラック(&%
)と 触媒をタイトコンタクト(7LJKW&RWDFW
)させる方法で 行った。触媒と&%
の重量比がになるようにメノ ウ乳鉢により分間混合した試料を秤量(PJ
)し、石 英製反応管に充填後、2
1
気流中(PO
・PLQ
)、 °&
で分間、前処理を行った。その後、°&
ま で°&
・PLQ
で昇温し、&%
と酸素の反応により生成 する&2
をガス分析装置(+RULED3*
)により連 続的に分析した。 3.結果と考察 3.1 遷移金属添加 Ag/ZrO2の PM 燃焼特性)LJ
($
)には調製した遷移金属添加$J=U2
の )LJ;5'SDWWHUQVRIWUDQVLWLRQPHWDO(ZW)GRSHG$J=U2)LJ&2IRUPDWLRQSURILOHVLQ&%R[LGDWLRQLQWKHSUHVHQFH
RIWUDQVLWLRQPHWDO(ZW)GRSHG$J=U2FDWDO\VWVLQWLJKW
FRQWDFWPRGH 近に
$J
に帰属されるピークが検出された。$J=U2
へ の遷移金属の添加による=U2
の結晶構造の変化ならび に添加した遷移金属に帰属されるピークは認められな かった。これは遷移金属の添加量がZW
と少量のた めであり、また=U2
への固溶は起こっていないことを 示唆している。)LJ
(%
)には$J
に帰属されるθ°付近の拡大図を示す。
3G
を除く遷移金属添加による$J
のピークにシフトは見られず、合金の生成は確認で きなかった。一方、3G
を添加した$J=U2
では$J
に 由来するピークの高角度側へのシフトが観察された。$J
のイオン半径がc
、3G
のイオン半径がc
であることから、$J3G
の合金が形成されていると推 察できる。)LJ
には遷移金属添加$J=U2
の&%
燃焼反応に おける&2
生成の温度プロファイルを示す。&%
のみ では°&
以上で燃焼が起こるが、担体である=U2
と 混合することで&%
の燃焼温度は°&
付近に低下した。
&%
燃焼には=U2
単独でも有効であるが、$J=U2
との混合により
&%
の燃焼温度は更に低温化し、&%
の 燃焼ピーク温度は°&
となった。これは$J=U2
上 で活性化された酸素種が&%
燃焼に有効に作用している ことを示唆する結果である。また)LJ
から明らかな ように、遷移金属添加$J=U2
の&%
燃焼特性は添加 した金属種により大きく異なる。)H
、1L
、&X
、6Q
を添 加した触媒では、$J=U2
と比較して&%
燃焼温度は高 温側にシフトした。一方、0Q
、&R
、5K
、3G
、3W
の添 加により&%
燃焼温度は低温側にシフトし、$J=U2
の 触媒特性が向上することがわかった。中でも3G
や5K
などの貴金属種との複合化が有効であった。これは$J3G
複合化触媒が有効であるとの既報の結果とよく一 致している。本研究の成果として特に興味深い点は、遷 移金属種である&R
を添加することにより、$J3G
や$J5K
と同等の&%
燃焼特性が実現されたことである。$J&R
の複合化効果はこれまで報告されておらず、新し い知見である。 3.2 Co 添加 Ag/ZrO2の PM 燃焼特性)LJ
には&R
添加量の異なる$J&R=U2
の&%
燃焼反応における
&2
生成の温度プロファイルを示す。ZW
の&R
を添加した場合、&%
燃焼温度は$J=U2
とほぼ同程度であるが、
&2
生成ピークがブロードになり、&R
添加により&%
の燃焼速度が低下することがわかった。一方、
∼ZW
の&R
添加により、&%
燃焼温度が
°&
から°&
まで低温化し、&R
による反応促進効果が見られた。ただし、添加量が
ZW
の場合は、&2
生成ピークが若干ブロード化したことから、&R
の 最適添加量はZW
であることがわかった。)LJ
に は比較として測定した&R=U2
の&2
生成プロファイ ルも示すが、$J=U2
と比較して高温で&%
燃焼が起こ )LJ&2IRUPDWLRQSURILOHVLQ&%R[LGDWLRQLQWKHSUHVHQFH RI$J&R=U2FDWDO\VWVZLWKGLIIHUHQW&RFRQWHQWVLQWLJKW FRQWDFWPRGH;5'
パターンを示す。ベースとして用いた=U2
の結晶構 造は単斜晶であり、$J
を担持することによる結晶構造への 影響は見られなかった。また$J=U2
ではθ°付
果、いずれの触媒においても
QP
程度の$J
粒子の存 在が観察され、&R
添加による$J
粒子の粗大化は見ら れなかった。また興味深いことに、$J&R=U2
で は$J
粒子の近傍に&R
が存在している様子が明らかと なった。$J
と&R
が何らかの相互作用をしていること が推察される。30
燃焼反応においては活性化された酸素種が重要な 役割を担っていることが推察される)。そこで$J
と&R
の相互作用により酸素種の挙動が異なるものと考え、+
735732
測定を実施した。)LJ
($
)に示すように、$J=U2
では°&
以下の温度域に水素消費ピークが 観察された。これは$J
粒子表面に酸素種が存在するこ と を 示 唆 す る 結 果 で あ る。 ま た&R=U2
で は∼ °&
にブロードなピークと°&
にシャープなピー クが観察された。酸化コバルトは∼°&
の温度域で
&R
→&R
→&R
の逐次的な還元が進行することが知られており)、
&R=U2
で観察された種類のピー クは低温側から&R
→&R
、&R
→&R
に帰属するこ とができる。一方、$J&R=U2
では$J
粒子表面の酸 素 種 に 帰 属 さ れ る∼°&
付 近 の ピ ー ク と&R
→&R
による°&
にピークが観察され、$J
種 と&R
種が共存していることが+
735
からも確認でき た。$J&R=U2
の 水 素 消 費 ピ ー ク 面 積 は、$J
と&R
含有量が同じにも関わらず$J=U2
、&R=U2
と比較し て大きいことは興味深い点である。これは$J
と&R
の 相互作用により、活性な酸素種の生成量が増大している ことを示唆する結果である。)LJ
(%
)には+
735
後に測定した732
プロファイルを示す。ピーク面積は 触媒に取り込まれる酸素量に相当するが、$J&R=U2
で最も多く、かつ低温から酸素の取り込みが可能である ことがわかる。以上の結果より、$J
と&R
を複合化す ることで、$J
表面の酸素種だけでなく&R
種からも活 性な酸素種の供給が可能となり、このような触媒表面で の酸化還元(5HGR[
)挙動の改善が高い30
燃焼性能を 示した要因と考えられる。 4.まとめ 高い30
燃焼特性を示す$J=U2
の更なる性能改良 を目指し、遷移金属の添加効果について検討した。)H
、1L
、&X
、6Q
はQHJDWLYH
な 効 果 を 与 え た が、0Q
、&R
、5K
、3G
、3W
の添加により30
燃焼特性は向上した。&R
添加$J=U2
について詳細な検討を行い、最適な&R
添 加量はZW
であること、$J
粒子近傍に&R
種が存在 すること、$J
と&R
の複合化効果により30
燃焼に有効 な酸素種が供給されることを明らかにした。$J
触媒の30
燃焼性能向上につながる知見を得ることができた。 )LJ7(0LPDJHVRI$J=U2DQG$J&R=U2DQG('6 VSHFWUDDFTXLUHGDWWKHSRLQWVKRZQE\FLUFOH )LJ;5'SDWWHUQVRI&RGRSHG$J=U2 ることから、$J&R=U2
の高い&%
燃焼特性は$J
と&R
の複合化効果によって発現したものと考えられる。 3.3 Ag-Co/ZrO2の高い PM 燃焼特性の要因$J=U2
への&R
添加による30
燃焼特性向上の要因 を調べるため、種々のキャラクタリゼーションを行った。)LJ
には&R
添加量の異なる$J&R=U2
の;5'
パ ターンを示すが、&R
添加量によらず、ほぼ同じ;5'
パターンが観察された。=U2
や$J
の結晶構造に対す る&R
の影響は小さいことを示唆している。)LJ
には$J=U2
と$J&R=U2
の7(0
像と7(0
写真に丸 で示した領域の('6
スペクトルを示す。元素分析の結REFERENCES ) %$$/YDQ6HWWHQ00DNNHH-$0RXOLMQCatal. Rev.() ) 小渕存、内澤潤子、難波哲哉、自動車技術会No.16-15 シンポジウム講演番号 20154800() ) 6/LX;:X':HQJ0/L-)DQAppl. Catal. B () ) - 2L8FKLVDZD$ 2EXFKL$ 2JDWD 5 (QRPRWR 6 .XVKL\DPDAppl. Catal. B() ) 3+DZNHU10\HUV*+XWKZRKO+7K9RJHO%%DWHV
/ 0DJQXVVRQ 3 %URQQHQEHUJ SAE Technical Paper () ) ..ULVKQD$%XHQR/ySH]00DNNHH-$0RXOLMQ Appl. Catal. B() ) <,PDGD1.DNXWD$8HQR.<RVKLGDChem. Lett. () ) 5.LPXUD63(ODQJRYDQ02JXUD+72NXERJ. Phys. Chem. C() ) 00DFKLGD<0XUDWD..LVKLNDZD'=KDQJ.,NHXH Chem. Mater.()
) 0+DQHGD57DJXFKL0+DWWRULJ. Ceram. Soc. Jpn. ()
) .+DUDGD+<DPDGD$7DNDPLBull. Chem. Soc. Jpn. () ) KWWSZZZMPMFRMSGLHVHOFUWKWPO ) KWWSZZZPLWVXLNLQ]RNXFRMSQHZVSGI WRSLFVBSGI )柿崎慶喜、古川孝裕、諫山彰大、若林誉、第回触 媒討論会、講演番号*() ) ($QHJJL-/ORUFD&GH/HLWHQEXUJ*'ROFHWWL$ 7URYDUHOOLAppl. Catal. B() ) 71DQED60DVXNDZD$$EH-8FKLVDZD$2EXFKL
Catal. Sci. Technol.()
) .6KLPL]X+.DZDFKL6.RPDL.<RVKLGD<6DVDNL $6DWVXPDCatal. Today() ) 0 +DQHGD$ 7RZDWD Catal. Today () )都築宏一郎、松尾雄一、青柳聡、大中真之、高原亮策、 古 川孝 裕、 若 林誉、 柿 崎慶 喜、自動車技術会論文集、 () ) 71DQED60DVXNDZD$$EH-8FKLVDZD$2EXFKL Appl. Catal. B() ) 0+DQHGD<.LQWDLFKL1%LRQ++DPDGDAppl. Catal. B()