結婚後の親子間における家族認知 : 中期親子関係
の質をめぐる検討
著者名(日)
西野 理子
雑誌名
東洋大学社会学部紀要
巻
39
号
3
ページ
91-104
発行年
2002-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00002269/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja結婚後の親子間における家族認知
一中期親子関係の質をめぐる検討
Do married children accept their parents
as family members?
西 野 理 子
Michiko NISHINO
1.問題の所在
家族というものはいつの時代にも存在するが、それをめぐる議論は時代による変遷が激しい。家 族研究の分野では、家族が制度や集団という確固たる存在ではなくなったことをふまえて、制度論 および集団論的アプローチからの脱却がさかんに指摘されている(野々山他、1996)。集合体として の家族を前提とするのではなく、個人を単位としてとらえなおそうというのである。あわせて、近 代化をめぐる議論の中で、家族がその機能を外部社会化してきたことが指摘され、情緒的紐帯がク ローズアップされてきている(山田、1994)。家族は生産やなんらかの役割を共同して遂行する機能 を失い、情緒的つながりのみに収鮫されつつあるというのである。こうした議論を背景に、家族は 個人が思念する範囲にすぎないとか、ネットワークとしてしか存在しないという提言がなされ(上 野、1991)、個人が家族と思う範囲すなわち家族認知の境界に焦点をあてた研究が展開されている (田渕、1996)。家族認知はまだ新しい研究対象であるが、個人の主観的な認知に着目する点に目新 しさがある。 しかしながら、親族関係にある相手成員を家族の一員に含めるかどうかという認知は、個人の主 観ではあるものの、家族との情緒的つながりの発露であると簡単に読み替えるわけにはいかないCl)。 むしろ社会規範と個人の自由な意思との狭間で培われるものであるという指摘もあり(西野、2000)、 認知の質がまず問われなければならない。本稿では、既婚者のその実親への家族認知をとりあげ、 親を家族の一員に含めるかどうかという意識が、親との関係性のいかなる次元と関連が深いかを検 討する。 ここで既婚者とその親との関係をとりあげるのは、家族の一員に含めるかどうかという認知範囲 の規範がもっとも揺れ動いているといわれているのが、この関係だからである。だがそれにとどま東洋大学社会学部紀要第39−3号(2001年度) らず、既婚者の親子関係が情緒的な紐帯かどうか、その質を確認することは、親子関係の研究にお いても一定の意義をもつものと考えられる。
2.発達的な親子関係研究にむけて
親と子の関係は、夫婦関係と並んで、家族関係のもっとも大きなテーマの一つといえる。しかし ながら、一言に親子関係といっても、1990年代までの親子関係の研究は、人生上の早期と後期の2 つの時期に集中していた。すなわち、幼い子どもとその親との子の養育をめぐる関係と、高齢の親 とそれを扶養する子どもとの介護をめぐる関係の2つである(木下、1996)。一方で近年では、早期 の親子関係と後期の親子関係の中間に位置する中期親子関係(春日井、1997)が注目されつつある。 ライフコース・アプローチや生涯発達理論の影響のもと、長期にわたる親子関係を連続的にとらえよ うという視点がこれまで欠如していたことが指摘されている(正岡、1993)。 中期の親子関係という表現には、親が子を扶養する時期と子が親を扶養することが多い時期の中 間という含意がある。子を養育・扶養する時期から移行したという意味で、対象となる子は成人して いることになる。同じく、親を子の側が扶養する時期に参入していないという意味で、親の扶養が 必要ない、すなわち、親がまだ元気で働いている時期ということになる。こうした相互に独立した 成人同士の親子関係に着目した研究の代表的なものに、宮本らの脱青年期研究(宮本他、1994;宮 本他、1997)と春日井の中期親子関係研究(春日井、1997)がある。宮本らの研究は、1991年に開 始された実証研究を主軸に、学校を卒業して就職した子どもとその親にあたる50歳台の親との関係 を明らかにしてきた。彼らは、テーマに「脱青年期」を掲げて主として子どもの側に焦点をあてては いるが、とりあげているのは親子双方である。なかでも、親と子との経済的依存関係、子どもが親 への依存からいつ脱却するのかに着目しており、親子関係の経済的な側面を検証しているといえる。 一方で春日井は、ライフコース全般にわたる親子関係の解明のための第一段階として、大学生とそ の親を対象とした実証研究に基づいて研究を展開している。宮本らが家政学・家計という経済学的 観点を重視するのに対し、春日井は個人の選択を重視するライフスタイル論を提唱しているという 違いがあるが、両者ともに未婚の成人子とその親との関係を中期親子関係として抽出している。 しかしながら、成人した子どもとその親の関係を問う時、子どもが未婚であるとは限らない。中 期の親子関係には結婚後の関係も含まれるはずであるが、近年の中期親子関係研究は未婚子に限定 されているといえる。宮本と共同研究者であった山田は、未婚青年の親との同居を日本独自の全体 社会水準の現象としてとりあげ、「パラサイトシングル」という流行語を生んだ(山田、1999)が(2)、 そこで注目された成人子も未婚者に限定されていた。 では、介護や扶養以外の既婚の成人子とその親との関係がこれまでまったく研究されてこなかっ たかといえば、決してそうではない。「修正拡大家族」という用語に象徴されるように、結婚した子どもとその親との間に活発な援助関係が存在することは古くから指摘され続けてきた。また、第2次 世界大戦後の民法改正による直系家族制度から夫婦家族制度への変更をうけ、実態としての直系三 世代同居の問題は、家族社会学の大きな課題として長らく追求されてきた(杉岡、1990)。さらに、 家族関係の中でも祖父母役割が着目され、子育ての援助者としての親の役割が近年新たに注目され ている。ただし、こうした研究は、集団としての家族、ないしはネットワークとしての家族を関心 の単位として想定している。援助関係の場合、援助の当事者は個人であるが、援助単位として機能 しているものと想定されているのは、多くの場合、家族集団である。子ども夫婦から構成される家 族世帯と、親が所属する家族世帯との間に、助言やプレゼント、さまざまなサービスを含む交換関 係が観察されている。直系同居でも、跡取りの長男家族のみを同居というかたちで世帯内に包摂し(3)、 ほかのきょうだいを世帯外へ放出するという、同居世帯単位の移動を検討してきたといえる。 高齢期の親子関係を把握する上でも、結婚後の中期の親子関係をふまえた上で、生涯にわたる親 子関係をとらえることが重要になってくるという先の指摘をふまえれば、個人の発達という視点か ら、既婚者とその親の関係を問うことがあらためて要請されている。本稿は、こうした問題意識に 立ち、既婚子とその親との関係を発達的な観点から捉えることを目指す。
3.関係性の次元
ここで問題としている親子関係は、複数の次元から把握することができる。Bengtson, V. L. and Roberts, R. E(1991)は、世代間の一致度をあらわす本質的要素を定義する中で、親子関係 を6つの次元に整理している。すなわち、(1)関係(接触)、(2)情緒(アタッチメント)、(3)同意、 (4)機能(手段的な支援のパターンないしは資源の共有)、(5)家族主義(個々の成員が家族に義務 を負うとする規範ないしは期待)、そして、(6)構造(家族の相互作用の「機会構造」であり、家族 成員の人数や地理的近接性等に反映される)である。 既に述べたように、子による親の扶養や介護を別とした既婚の子どもとその親の関係は、援助ネ ットワークと同別居という観点からこれまで研究されてきた。援助ネットワークの単位は夫婦を中 心とする家族世帯であり、援助の当事者になることが多い既婚女性は、自分のために互助関係を構 築しているというよりは自分が所属する世帯を代表する援助のエージェントと位置づけられてきた。 これを個人の観点からとらえなおすと、既婚子とその親との関係でこれまでとりあげられてきたの は、援助という支援パターンないしは資源の次元と、同別居という接触および行動の次元のみであ ったといえる。 また、同別居では、跡取りの場合には結婚しても実の親と同居、あととりと結婚した娘ないしは 婿の場合には義理の親との同居、ほかの位座を占める子どもの場合は実の親との別居という直系一 子同居制度の規範がどれほど維持されているかが問題とされてきた。これは、規範の次元である。東洋大学社会学部紀要第39−3号(200】年度) さらに、規範の共有度という世代間の一致が問題とされ、親子間の同意が扱われてきた。しかしな がら、情緒の次元に関する考察は不足していたといわざるをえない。 そもそも、情緒概念についてはまだ洗練されているとはいい難い。同じ意識でも、規範が社会学 的な概念として精緻化の対象となってきたのに対し(Marini, M. M.,1984)、情緒は心理学で主に 扱われてきた。しかしながら、『新版心理学事典』(平凡社)によれば、情緒と情動、愛情、感情と いった類似概念を識別できる共通したコンセンサスはない。家族だという認知と関連する概念にも、 アイデンティティ(自己同一性)、アタッチメント(愛着)、コミットメント(関与)と複数ある。 上野(1991)は「ファミリー・アイデンティティ」という概念を提唱したが、アイデンティティ概 念はそもそも、E. H. Ericksonが提唱した概念で、自己概念、自己価値self−seteem等の概念と の関連をふまえて用いられるべきものである。また、コミットメントは、必ずしも意識水準に限定 される概念ではなく、対象への行動的な関与も含む、より幅広い概念である。一方でアタッチメン トは、『新版心理学事典』(平凡社)によれば、「人間と情緒的に結びつきたいという要求をもつ状態 をいう」。Thompson, L,&Walker, A.(1984)は先行研究をふまえて、アタッチメントを、「特 定の人物への情緒的依存、他者と比較してその人物に特段の好意を寄せること、そして、その人物 に近づきたいと願うことと定義」している。またCicirelli, V. G.(1989)によれば、アタッチメン ト概念は、2者間の情緒的emotional or affectional紐帯のことである。 冒頭で述べたように、家族認知がなにを含意するものであるのか、その質を検討するにあたって、 情緒的な次元との近接性をとくに明らかにすることが要請されている。その際、アタッチメントの 概念との接合性を考えるのが当面の課題になろう。
4.仮
説
家族の認知を全国規模で調べているのが全国家族調査(NFR 98)である(4)。野々山(2001) は、NFR 98のデータを用いて、別居の既婚子とその親双方の家族認知の分布を確認し、それが 「特定の規範的な偏向など有さずにそれぞれが任意な個別的選好にもとついて」(p.90)いると指摘 している。同じくNFR98の別居既婚子と親の家族認知のデータを用いて、春日井(2001)は、家 族に含めるかどうかという家族境界の認知が、地理的距離や同居成員のような個人的選好度の低い 変数より、関係性の評価や相互作用頻度のような個人的選好度の高い変数との関連が強く、またそ の関連が親子関係規範からの自由度が低いグループより高いグループで明確であることから、家族 認知を個人選好的であると結論付けている(5)。一方で、西野(2001a)は、最年長のきょうだいへ の認知を取り上げ、それが相互作用の頻度などの生活実態と強く関連することを指摘している。澤 口(2001)も、家族発達の観点から、きょうだいへの認知が結婚という出来事経験を契機として変 化する過程であることを指摘している。家族への認知ではないが、子どもとの関係満足度は、子どもとの接触の質に対する満足度に、つ づいて子ども側の潜在的行動と、子どもとの接触の量に対する母親の満足度に関連することが指摘 されている(Houser, B.&Ber㎞an, S. L,1984)。1齪度は、主観的な評価という意味では情 緒的な水準の指標と考えられる。また、家族内の世代間接触を従属変数とした1990年までの過去25 年間の主たる研究成果をレビューした結果では、子どもの性と、居住地の近接性、親の社会経済的 地位の3つがもっとも重要な独立変数であった(Mancini, Jay A., and Rosemary, B., l g8g)。 これらは、家族のおかれた構造をあらわす指標である。そして、Mancini、Jay A. and Benson, M.J.(1984)の整i理によれば、親子関係に影響を及ぼす要因には、その来歴history、出来事 context events、関係性の質、規範や動機、政策がある。出来事を要因の一つに指摘しているのは、 先の澤口の発達的な視点と重なる。 また、Cicirelli, V. G.(1989)は、生涯にわたる親子間の援助交換を説明する理論として、平等 理論、義務理論、アタッチメント理論の3つをあげている。彼は、高齢の親を子どもが援助する関 係を念頭において、平等理論は家族関係を説明するには不適合だとした上で、義務理論よりアタッ チメント理論を支持している。彼によれば、義務理論では、成人した子どもは、高齢の親の面倒を みるのは自分たちの義務ないしは責任だと思っていることが前提となる。以前の親の援助へのお返 しとして、かつ/あるいは、高齢の親の面倒をみるよう期待されているという文化規範に基づいて である。だが彼は、日常生活の中での些細な援助(ベビーシッティング、買い物、家事など)を義 務によって説明するのが適切かどうか、疑問を提示している。なお、平等理論では対等な交換関係 が成立していることが前提となり、相互的な援助があることが親子間を説明する理論といえる。 以上のこれまでの研究をふまえて、個人がその個々の親族成員を家族の一員と認めるかどうかと いう家族認知の質を検討するために、親への家族認知が親子関係のいずれの次元と関連が深い性質 のものかを問うことになる。上記のBengtson, V. L. and Roberts, R. E(1991)は6次元をあげ ていたが、(3)同意については、ほかに研究例が少なかった。同意は二者間に成立するものであっ て、個人単位で収集したデータを適用するには不適切だからと考えられる。そこで、①行動面での 接触関係、②1青緒的な紐帯、③援助関係、④規範、⑤構造(子どもの性、同別居、地理的近接性等 を含む)という5つの次元から親子関係をとらえ、家族認知がそのいずれの次元と関連が深いのか を検討することにする。ただし、発達的な視点の有効性をふまえて、結婚後の経過年数も考慮に含 むことにする。実際、NFR 98データでみると、実の親を家族の一員だと思う者の占める割合(家 族認知率)は若い対象者層ほど高い(日本家族社会学会・全国家族調査(NFR)研究会、2000、 p. 37)。なお、最後に触れるが、先行研究で指摘されていた来歴の重要性は、横断的なデータの性質上、 本稿では検討できない。
東洋大学社会学部紀要第39−3号(2001年度)
5.用いるデータと分析方法
本稿では、日本家族社会学会が1998年度に実施した全国家族調査(NFR 98)のデータを用いて、 上記の仮説を検証する。NFR 98は全国確率標本であり、出生コーホート単位で抽出されており、 本稿の目的に合致するデータだからである(6)。NFR 98(6,985サンプル)のうち、1941∼1970年 出生(調査時点で28∼57歳)で既婚(配偶者が健在な者)、かつ、父母のうち少なくともどちらかが 健在な者を抽出した。さらに、撹乱要因を除くために、離死別経験がある者を除外した。以上の条 件に該当する者は2,861名であった。さらに、結婚後の経過年数によって結婚コーホートを設定する ために、結婚時期が不明の3名を除いて、以下の分析には2,858サンプルのデータを用いた。 家族認知が結婚を契機として発達的に推移することをふまえて、分析にあたっては結婚後の経過 年数に着目し、5年幅の結婚コーホートを設定した(7’ (8)。本サンプルの結婚コーホート別の基 本的な属性および家族認知率は以下の表の通りである。なお、本稿で被説明変数となる親に対する 家族認知は、実の父親および母親それぞれに対して「今現在、「あなたの家族」の一員だと思います か」とたずね、「はい」「いいえ」「どちらともいえない・わからない」のいずれかに答えてもらった 回答のうち、「はい」と答えた率を算出した。父親、母親のいずれかが健在で家族と認知している場 合も含めて父母に対する認知率として算出している。 表1 結婚コーホート別にみた対象者の性別、年齢分布および親に対する家族認知率(%) 性 別 年 齢 親へのN
男 性 女 性 28∼32 33∼37 38∼42 43∼47 48∼52 53∼57 家 族 歳 歳 歳 歳 歳 歳 認知率 結婚後 0∼4年 294 57.5 42.5 67.3 22.8 8.5 LO 0.3 85.7 5∼9年 467 50.5 49.5 36.6 467 12.2 3.6 0.9 76.0 10∼14年 480 46.5 53.5 4.0 44.4 36.9 13.3 L3 0.2 72.5 15∼19年 507 49.7 50.3 67 43.8 38.7 9.3 L6 70.8 20∼24年 497 45.1 54.9 8.0 47.3 39.2 5.4 72.0 25年以上 613 36.9 63.1 6.4 46.3 47.3 67.0 仮説の説明要因は、以下のように操作化した。まず、①行動面での接触関係は、「この1年間に、 「話らしい話」をどのくらいしましたか(電話なども含めます)」への回答を、②情緒的な紐帯は、 関係の良好度の回答を、それぞれ分布を考慮して再カテゴリー化して用いた。③援助関係は、経済 的援助(小遣い、仕送り、贈与、貸金など)および非経済的援助(身の回りの世話、家庭の家事や 留守番、看病や介護、相談や愚痴の相手など、自分や相手の役に立つこと)のやりとりがあったか どうかをたずね、援助の担い手・受け手を問わずになんらかの援助経験の有無という変数を作成した。④親子関係の規範については、NFR 98では「子どものためなら、親は自分のことを犠牲にす べきだ」、「親の面倒をみるのは長男の義務である」、「親が年をとって、自分たちだけでは暮らして いけなくなったら、子どもは親と同居すべきだ」という3つの質問をし’ i 5点尺度で回答を得てい る。回答分布はほぼ適正であったので、それらを分析に投入した。最後に、⑤構造をあらわす変数 として、子ども、すなわち対象者の性別、同居を含む居住地の地理的距離を取り入れた。地理的距 離は、回答の分布を考慮して再カテゴリー化した。採用したカテゴリーは表2に示したとおりであ る。 表2 親に対する家族認知の二項ロジスティック回帰分析の結果 変数項 カテゴリー B Wald値 オッズ比 【結婚後経過年数】 【接触】 【関係良好度】 【経済的援助】 【非経済的援助】 【規範1】 子どものためなら 親は犠牲に 【規範2】 親の面倒をみるのは 長男の義務 【規範3】 子どもは高齢の親と 同居すべき 【子どもの性別】 【地理的近接性】 定 数 (年に数回以下) 週3∼4回以上 週に1∼2回 月に1∼2回 (悪 い) 良 好 どちらかといえば良好 (な し) あ り (な し) あ り (そう思わない) そう思う どちらかといえばそう思う どちらかといえばそう思わない (そう思わない) そう思う どちらかといえばそう思う どちらかといえばそう思わない (そう思わない) そう思う どちらかといえばそう思う どちらかといえばそう思わない (女 性) 男 性 (片道3時間以上) 同 居 隣・近居 片道1時間未満 片道3時間未満 5 0 0 一
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30/792
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モデルカイ2乗値 自由度 ケース数 506.301** 22 2571 注:カテゴリー変数の対比参照カテゴリーは表側のO内に表示。 **P<.01 *P<.05東洋大学社会学部紀要第39−3号(2001年度) 上記の各要因と実の親に対する家族認知との関連をそれぞれ確認した上で、これらの変数間の関 連をみるために、多変量解析を行った。多変量解析の方法としては、親に対する認知を「家族の一 員と思う」か否かという二値変数に加工し、統計ソフトSPSSを用いて二項ロジスティック回帰分 析を行った。この分析法は、被説明変数が二値のカテゴリーの場合に用いられる多変量解析の手法 で、説明変数にはカテゴリー変数と数値変数の両者を、さらに交互作用項も含めて回帰係数および オッズ比‘9)を算出することができる。オッズ比算出の比較に際して参照したカテゴリーは、表2 および表3の表側の()内に示している。 表3 結婚コーホート別にみた、親に対する認知の二項ロジスティック回帰分析の結果 変数項 カテゴリー 結婚後 0∼9年 10∼19年 20年以上 【結婚後経過年数】 【接触】 【関係良好度】 【経済的援助】 【非経済的援助】 【規範1】 子どものためなら 親は犠牲に 【規範2】 親の面倒をみるのは 長男の義務 【規範3】 子どもは高齢の親と 同居すべき 【子どもの性別1 【地理的近接性】 定 数 (年に数回以下) 週3∼4回以上 週に1∼2回 月に1∼2回 (悪 い) 良 好 どちらかといえば良好 (な し) あ り (な し) あ り (そう思わない) そう思う どちらかといえばそう思う どちらかといえばそう思わない (そう思わない) そう思う どちらかといえばそう思う どちらかといえばそう思わない (そう思わない) そう思う どちらかといえばそう思う どちらかといえばそう思わない (女 性) 男 性 (片道3時間以上) 同 居 隣・近居 片道1時間未満 片道3時間未満 0.917* 2.877** 2.066* L491 5.065* 2.226 O.971 1.210 0.948 0.811 1.298 3.683 1.309 L708* 1.246** 1.010 0.877 1196* 7.068** 0.975 0.710 L388 0.461 O.971 3.466** 3.057** L677* 4.064** 1.619 1.135 0.964 L278 0.962 0.952 0.463 1.337 1.267 1.742** 1.147 1.235 1.971** 12.284** O.804 0.673* O.670 0.420 0.981 4.501** 1.876* L218 9.486** 4.118** 1273 L417 0.817 0.946 0.871 1.111 0.876 0.858 1.658 1.321 1.246 1.859** 11」52** 1.115 0.756 LO20 0.184* モデルカイ2乗値 自由度 ケース数 98.168** 22 717 181.905** 22 886 244.416** 22 968 注:カテゴリー変数の対比参照カテゴリーは表側のO内に表示。オッズ比のみ表示。 **p<.01 *p<.05
なお、出身地、居住地、学歴、世帯収入等の属性を投入したモデルも検討したが、これらの属性 の効果はきわめて小さく、ほとんど有意ではなかった。規範、情緒、接触などさまざまな水準で義 理の親との同居が影響していることも考え、義理の親との同居(ダミー変数)を投入したモデルも 検討したが、やはり有意ではなかった。また、変数間の想定される交互作用項もそれぞれ検討した が、有意な交互作用項はなかったため、以下の分析は主効果だけを取り扱っている。 上記の10変数を説明変数として強制投入し、親への家族認知を被説明変数とする二項ロジスティ ック回帰分析を行い、各変数の効果を標準化した上でどの変数が実の親への家族認知を左右する大 きな要因となっているかを調べた結果が表2である。また、10年幅の結婚コーホートごとの結果を 同じく表3にあらわした。モデルのカイ2乗値は、いずれにおいても0.1%水準で有意であった。ま た、判別率㈹)は全体で75.6%、結婚後0∼9年で79.1%、10∼19年で73.6%、20年以上で75.0%で ある。
6.分析結果
まず、全体を対象にした分析結果をみると(表2)、実の親を家族の一員と認めるかどうかに有意 に影響していたのは、結婚後の経過年数、行動面での接触関係、情緒面での関係性の良好度、性別、 そして規範の一部と、地理的近接性のうちの一部であった。経済的および非経済的援助の有無は、 まったく関連がなかった。規範も、「親が高齢になったら子どもは親と同居すべき」という同居と関 連した変数において、それも「そう思う」と強く肯定している場合にのみ、有意な関連が認められ ただけであった。 オッズ比に着目すると、もっともオッズ比が高かったのは、地理的近接性の中の「同居」であっ た。「同居」している者は「片道3時間以上」かかる距離に居住している者に比べて10倍以上も認知 率が高いという結果となった。続いて、情緒面での関係の良好度、行動面での接触関係もオッズ比 が高かった。関係が「悪い」者と比べて「良好」な者は5.4倍、「どちらかといえば良好」な者は2.4 倍も認知率が高い。話らしい話を「年に数回以下」しかしない者に比べて、「毎日」ないしは「週に 3∼4回以上」している者は認知率が3.4倍、「週に1∼2回以上」話している者では2.3倍であった。 また、子ども自身が男性であると、女性に比べて認知率は2倍近かった。一方で、結婚後の経過年 数は、有意ではあるもののオッズ比は1にきわめて近く、結婚後の経過年数によって認知率がそれ ほど大きく左右されているとはいえなかった。なお、年数は1年単位であるため、カテゴリー変数 に比べてオッズ比が低く算出されるのは当然である。そこで、年数を数年幅のカテゴリーに加工し ても分析したが、やはり結婚後の経過年数は相対的に大きな要因とはなっていなかった。 また、地理的近接性は、「同居」で認知率が高いほかに、「片道3時間未満」では有意ではないが、 「片道1時間未満」で認知率が「片道3時間以上」に比べて0.7倍と低く、直線的ではない関連を指 示していた。東洋大学社会学部紀要第39−3号(2001年度) つづいて、10年幅の結婚コーホート別に同様の分析を行ったところ(表3)、ほぼ同様の結果がえ られた。同居していることと行動面での接触が頻繁であること、そして子どもが男性であることは、 いずれの結婚コーホートでも、親への家族認知を高める1%水準で有意な要因となっていた。しか しながら、全体の分析では有意であったいくつかの効果が、各結婚コーホートでは必ずしも有意に は認められなかった。ひとつには、結婚後の経過年数は、結婚後あまり時間が経過していない「結 婚後0∼9年」のコーホートでのみ有意にすぎず、それも有意水準が5%水準でしかなかった。接 触関係や関係の良好度も、全体の分析ではいずれのカテゴリーも有意であったが、結婚コーホート 別の分析では、違いが顕著でないカテゴリー間では有意には認められなかった。ほかに、規範の効 果にも一部、違いが認められた。 オッズ比を結婚コーホート間で比較すると、子どもの性別はいずれのコーホートでも約2倍と安 定した効果をもっていたが、同居要因は結婚後10年以上のコーホートで、関係の良好度は結婚後20 年以上のコーホートできわめて効果が大きかった。接触要因の効果も、結婚後の経過年数の長いコ ーホートほど大きかった。結果として、いずれのコーホートでも第1に同居していること、第2に 関係が良好であること、第3に週に3∼4回以上と頻繁に会話をしていることが家族であるという 認知を高める大きな要因となっていたが、結婚後の経過年数の短い「結婚後0∼9年」のコーホー トではこの要因の大きさにそれほどの差がなかった。言い換えれば、「結婚後10∼19年」のコーホー トでは同居要因が、「結婚後20年以上」のコーホートでは同居要因と関係の良好度がきわめて大きな 効果のある要因となっていた。
7.考
察
分析の結果、同居していれば親を家族の一員と認知する傾向が高いことが確かめられた。同居に 続いて、関係の情緒的な良好さと行動面での接触関係、そして性別が認知を大きく左右していた。 その一方で、援助関係とはまったく関係がなく、規範もほとんど関連していなかった。 同居の場合、単なる居住関係にとどまらず、規範の影響を内在していると解釈することもできる だろう。というのも、同居している者は、親子が同居すべきという規範を内面化しているゆえに実 践している可能性があるからである。しかしながら、今回の多変量解析の結果からは、「親が年をと ったら子どもと同居すべき」あるいは「長男が親の面倒をみるべき」という同居に直結する規範の 作用とあわせても、同居していること自体の独立した効果が認められた。ここでの同居は、規範要 因の効果の小ささおよび相互作用などの他の要因の有意性などから考えると、生活実態として解釈 すべきであろう。 同居が生活実態をあらわす指標と解釈できるのであれば、家族認知は行動面での接触と情緒面で の紐帯とあわせて、実生活との関連がきわめて強いことが明らかになったといえる。そしてその関連は、結婚後の経過年数の長いコーホートほど顕著であった。先に、家族認知に関連する可能性の ある情緒的なつながりを示す概念として、アタッチメントをあげた。アタッチメントは特定の人物 への情緒的紐帯をあらわす概念であったが、情緒には明確な概念定義がなく、それゆえにアタッチ メント自体も情緒的紐帯を求める状態まで含める幅広い概念となっていた。そうであれば、本稿で の分析結果からは、家族に含めて認めるという意識はアタッチメントに近い可能性が示唆される。 家族であるという認知が、厳密な意味での情緒にとどまらず、生活の実態も含めて特定の人物との 密接なつながりをあらわしていると解釈できるからである。 一方で、子ども側が男性であると認知率が高かったが、これも、日本社会では男性の方が親と同 居しているためと考えることができる。しかしながら、本稿で採用した多変量分析の手法は、他要 因の効果を排除した標準化した効果を析出する方法であり、事前に変数の分布も検討した上で両変 数を分析に含めている。交互作用も確認したが認められず、子どもの性別の効果は独立して認めら れた。実際に、親に対する認知率は、同居している者では98%と圧倒的多数を占めるが、別居者に 限定すると、女性より男性で優位に高い。また、別居者だけに同様の多変量分析を行っても、女性 より男性で優位に認知率が高かった。同居とは関係なく、男性が女性より親を家族と認知する傾向 は確かに認められるわけである。男性の方が女性より親への愛着が深いという精神分析論を持ち出 す以前に、男性が跡取りとみなされる長男相続の規範の存在を考えざるを得ない。規範は本稿の分 析ではほぼ効果がなかったが、規範にも複数の種類があり、さらに検討しなければならないといえ よう。 さらに、結婚後の経過年数は、結婚後10年未満と経過年数の短い期間においてある程度有意な効 果をもっており、出来事経験の発達的な効果は出来事経験からの持続期間に依存することが示され ていた。本稿では、結婚前の親子関係は密着していることを前提に、結婚後の発達的変化に焦点を あてた。だが、本来は未婚期からの連続性を問うべきであり、結婚という出来事を契機とした変化、 それ以降の変化を縦断的に確かめる必要がある。そうした分析が可能な縦断データが待たれるとこ ろである。 謝 辞 本稿では、日本家族社会学会全国家族調査研究会が実施した、NFR 98(第1回全国家族調査)データを、東京 大学社会科学研究所付属日本社会研究情報センターから提供を受けて利用した。調査の実施に尽力された研究会 のメンバーの方々にこの場を借りて御礼申し上げる。なお、NFR98は、平成10∼12年度文部省科学研究費補助 金「基盤研究(A)(D」(研究代表者:森岡清美、課題番号10301010)の助成を得て実施されたものであるr, 【注】 (1)認知と一言にいっても、社会規範に近いものから生活実態に近いものまで異なる水準でとらえられてきて おり、研究の関心にも違いがある(西野、2001a)。本稿では、個人が具体的な親族成員個々人を自分の家族 に含めているかどうかという水準の認知を家族認知としている。
東洋大学社会学部紀要第39−3号(2001年度) (2)宮本はその後、青年期に関する理論的研究を展開し、欧米と日本との比較に関心を移し、山田とは関心を 異にしている。 (3)地域によっては娘となることもある(前田卓、1992)。 (4)国立社会保障・人口問題研究所(旧厚生省人口問題研究所)も家族認知を調べているが、それはNFR98と は異なる水準での調査となっている。詳しくは西野(2000)を参照。 (5)春日井は検証の手段として回帰分析を用いている。しかしながら、正規分布をしない認知への回答を従属変 数とする多変量解析において、回帰分析は適切ではなく、その結果は検証されたとはいえない。また、親子 関係規範の設定方法にも疑問が残る。 (6)NFR 98の詳細については、日本家族社会学会・全国家族調査(NFR)研究会(2000)を参照のこと。 (7)結婚コーホートは同時期に結婚を経験した集団であり、NFR 98のように1時点調査の場合、結婚してから 調査時点までの経過年数が同じ集団ということになる。そのため、結婚コーホートと結婚後経過年数が同じ 集団とは同一の一群をさしている。 (8)分析に先立って、出生コーホートと結婚コーホートのいずれが適切かを検討したが、年齢より結婚後の経 過年数の方が家族認知率に大きく寄与しており、本稿では結婚後経過年数から結婚コーホートを設定した。 (9)オッズ比は、参照カテゴリーと比較して該当カテゴリーの場合に、被説明変数すなわち家族認知率が何倍に なるかを示している。 (10)ここでの判別率は、モデルで予想される値と実際の観測値との一致率である。 惨考文献】 Aldous, J.&Klein, D. M.,1991,“Sentiment and Services:MOdels of lntergenerational Relationships in Mid−1ife,”Journal ofMarri(rge and the Family,53, pp.595’608. Bengtson, V. L. and Roberts, R, E.,1991,“intergeneratienal Solidarity in Aging Families:An Example of Fomal Theory(bn8tru㏄ion,”Journal ofMarri(rge and the Family 53, pp.856・ 870. Cicirelli, VictOr G.,1989,“Helping Relationship8 in Later Lifb:A Reexamination,”in Mancini、Jay A., Aging Panents and Adult Children, Lexington Books. Houser, B.&Berkman, S. L.,1984,“Aging Parent!Mature Child Relationships,”Journαl of Marriage and the Family, pp.295・299. Mancini, Jay A. and Benson, M. J.,1989,“Aging Parent8 and Adult Children:New Views on Old Relati皿8hips,”in Mancini, Jay A.,Aging Parents and Adult Children, Lexington Books. Mancini, Jay A., and Rosemary, B.,1989,“Aging parents and adult children:Research themes in intergenerational re}ations,”clournal ofMarricrge and the 1弛η2躍y,51, pp.275・291. Ma血i, M. M.,1984,”Age and Sequencing Nom8 in the Transition to Adulthood,”Secial Forces,63, pp. 229−243. Ro8si, A. S. and Rossi, P. H.,1990,0f Human Bonding:Parent・child Relations Across the Life Course, Aldine de Gruyter:New York. Thompson, L.&Walker, A.,1984,“Mothers and Daughters:Aid Patterns and Attach皿ent,”Journal of ハ(arri(rge and¢んe Family,ρpL 313−322. 上野千鶴子、1991年、「ファミリィ・アイデンティティのゆくえ」、シリーズ「変貌する家族」第1巻r家族の社 会史」、岩波書店. 春日井典子、1996年、「中期親子関係における共有体験:母娘間の感情次元の分析を中心に」「家族社会学研究」 8.、 pp.139−149. 春日井典子、1997年、「ライフコースと親子関係」行路社. 春日井典子、2001年、「主観的家族境界からみる親子ライフスタイル」清水新二編「現代日本の家族意識」文部 省科学研究費基盤研究(A)「家族生活についての全国調査」報告書2− 4. 木下栄二、1996年、「親子関係研究の展開と課題」、野々山久也、袖井孝子、篠崎正美編rいま家族に何が起こっ ているのか:家族社会学のパラダイム転換をめぐって」ミネルヴァ書房、pp.136− 158.
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東洋大学社会学部紀要第39−3号(2001年度) 【Abstract】