はじめに
この書物は,教育学部で数学を主な科目として聴講する諸君に,その学 習の手助けになればと思って書いたものである. 内容は「線型代数編」と「整数入門編」からなる. 筆者が奉職する佛教大学教育学部では,代数学分野を受講する最初の1 年間に,本書の「線型代数編」の内容を身に付ける.他大学でも,教育学 部のほとんどはそうではないだろうか.最初の1年間ということは,行列 や行列式の性質に慣れることが主たる目的で,「固有値」「対角化可能性」 「ジョルダンの標準形」などはこのテキストには含まれていない.それら はその後の学習になる. 第5章の行列式は,章の初めにも説明したとおり,置換を使わないで, いきなり展開式で定義する.これは筆者が05年の講義で行った方法であ る.そのときに使った教科書は参考文献1)でありそれに従ったわけであ るが,他にもこの方法で述べたテキストはあるようだ.行列式の基本性質 と計算法に早く慣れるには大変効果的であったので,本書でも採用した. だがそのことによって,いくつかの主張の完全な証明ができなくなってし まい,第5章では証明を付けないまま先へ進むことを余儀なくされる.論 理的な完全さを求める諸君には物足りないかと思われる.そのような読者 のために,付録の章「置換による行列式の定義」を付け加えた.この章に よって,証明なしで進むことの「気持ちの悪さ」は完全に払拭される.是 非読んでいただきたい. 第6章は一般的な(いわゆる抽象的な)「ベクトル空間」の理論である.ii はじめに ベクトルと線型変換の「近代的な」扱いが述べられている.先行する章と は,気分ががらりと変わるはずである.「基底」「次元」など,数学全体に おいて重要な役割を果たす概念が,この章で説明される. 「整数入門編」は,短い叙述だが,このあと代数学のどの方面に入るにし ろ,その「入門」としての役割を果たしている,と思う. 教壇に立つ人たちの立場でいえば,「線型代数」が高校の教材でありこの 「整数入門」は小・中学校の教材で,履修の順序が逆ではないかと思われる かもしれない.しかし一読されればわかるように,整数を学習するのは, 線型代数や集合論など,数学にある程度慣れてからのほうがよい. これだけでは物足りない読者諸君(そのような人がたくさん出てほしい) には参考文献を挙げておいた.是非先へと進んでいただきたい.「整数」は 魅力あるテーマである. 本書の執筆を薦めていただいた佛教大学の同僚である黒田恭史氏や通信 教育部の方々には,終止暖かい励ましの言葉をいただいた. S出版社勤務の村岸直美氏からは,構成的な面も含めた多くの有益な助 言をいただいた. また,「線型代数編」はその原稿の一部分を,05年秋学期に佛教大学教 育学科2回生諸君の講義に使用したが,そのときに学生諸君から細かいと ころまで親切な注意を受けた. お世話になった皆さん,どうも有難うございました. 最後になったが,共立出版㈱の赤城圭氏には校正,体裁など,細心の注 意を払っていただいた.深く感謝いたします. 2006年立春 著 者