醸 協( ) Overview of Islamic Food Market for Export -consideratons of Halal for Brewing
Food-Yuya MurakaMi(Japan External Trade Organization(JETRO)Agriculture, Forestry, Fisheries and Food Department)
はじめに 2015 年,日本の農林水産物・食品輸出額は 7,451 億 円と,前年比 21.8% 増で過去最高を記録した。さらな る食品ビジネス市場拡大に向けて,中東や ASEAN のイスラーム食品市場への関心が高まっている。一方, イスラーム教徒(ムスリム)が多く居住するこれらの 国・地域への市場参入に際しては,「ハラール(Ha-lal)」や「ハラール認証」への理解と対応が必要だ。 本稿では,ハラールおよびハラール認証制度の概要や 輸出における注意点,認証取得の手順,主要国で異な るマーケット実態を説明するとともに,ムスリム向け に醸造食品を輸出・販売するときの留意点も合わせて 説明する。 「ハラール対応=ハラール認証取得」ではない。「何 を,どこで作って,誰に,どのように売るのか」によ って,取るべきハラール対応は異なるのである。 1.「合法的な」「許された」を意味する「ハラー ル(Halal)」 「ハラール(Halal)」とはイスラーム教における規 範であり,「合法的な」「許された」を意味する。イス ラーム世界では,クルアーン(コーラン)を合理的に 解釈し,体系化したイスラーム法(シャリーア)が社 会規範の基盤となっている。そのイスラーム法におい て,「合法」とみなされたものが「ハラール」であり, 反対に「不法なもの」「禁じられたもの」を「ハラー ム(Haram)」と呼ぶ。イスラーム教は 1 日 5 回の礼 拝,断食,メッカへの巡礼など,信仰における「実 践」を重視している。ハラールである食品を摂取する ことも,ムスリムにとっては,単なる食の禁忌や慣習 ではなく信仰の「実践」なのだ。 ハラールではない,つまりハラームであるものとは 何か。まずは「豚」。豚肉・豚肉加工品以外にも,豚 由来の原料から作られたゼラチン,乳化剤などの添加 物なども含まれる。さらには,ハラールと認められた 方法でと畜されていない肉もハラームとなる。このた め,牛肉や鶏肉,その加工品,原料となる添加物など, と畜を伴う動物由来の原料全般において注意が必要だ。 ハラールと認められたと畜方法とは,所定のトレーニ ングを受けたと畜に従事するムスリムが,クルアーン の一節を唱えながら処理をするというもの。ハラーム なもののもう一つの代表品目が「酒」。飲料としての アルコールのみならず,後述する「認証」においては, 製品の製造工程におけるアルコールの使用についても 規制されることがあるので注意が必要である。一方で, 穀物,野菜などの植物,魚,牛乳,卵,水は原則的に ハラールとみなされている。 ムスリム個人個人によって,宗教に対する考え方・ 姿勢は異なる。例えば,飲酒は禁忌だが,トルコは人
輸出に向けたイスラーム食品市場の概観
~醸造食品におけるハラール対応の留意
点を踏まえて~
日本産食品の海外輸出は,国の施策の後押しもあって増加しているが,イスラーム食品市場では,ハラー ルやハラール認証への理解と対応が必要だ。しかし,ハラールやハラール認証については,なじみが薄くよ く知られていない。また,国により詳細は異なっている。これらの実態に詳しい専門家に,ハラールやハラ ール認証,イスラーム圏のマーケットの実態について解説をいただいた。村 上 雄 哉
口 9 割がムスリムでありながらも,ビールやワインを 日常的に飲むような世俗的なムスリムが一定数存在す る。このように,宗教に対する考え方は人それぞれで あり,その商品がハラールかどうかを確認・判断する のはムスリム自身であると言える。 2.ハラール「認証」は各国が定めた認証制度 「ハラール認証」は,各国または各国内の団体が定 めた認証制度のことである。「ハラール」がイスラー ム世界共通の規範,つまり「概念」であるのに対し, ハラール認証はあくまでも各国が定めた「制度」のこ とである。マレーシアであれば,マレーシア・イスラ ーム開発庁(JAKIM),インドネシアはインドネシ ア・ウラマー評議会食料・薬品・化粧品研究所(LP-POM-MUI),アラブ首長国連邦(UAE)であれば, 食 肉・ 肉 関 連 製 品 の 輸 出 は, 連 邦 基 準 化 計 測 庁 (ESMA)およびドバイ認証センター(DAC)が管轄 している。 一般にハラール認証取得では,「農場からフォーク まで」といわれるように,その製品の原材料から消費 者の手に渡るまでのすべての過程で,ハラームなもの に触れてはならない(第 1 図)。ハラームとの接触を 防止する,つまりコンタミネーションを予防するため には,ハラール製品のみ製造するラインを別に設ける, 原材料のトレーサビリティを確認し,ハラームなもの に触れていないことをチェックすることなどが必要で ある。製品の加工度合いが大きいほど,認証取得の難 易度は高くなる。 第 1 図 「農場からフォークまで」概念図 (出所)JAKIM 資料等より作成 (出所)第 2 図 輸出先国におけるハラール認証取得の概念図JAKIM、LPPOM-MUI、GSO 資料をもとに作成 (出所)JAKIM,LPPOM-MUI,GSO 資料をもとに作成
醸 協( ) 輸出向けのハラール認証を取得する場合,大きく分 けて,①輸出先国の認証機関に直接申請する方法,② 製造国において,輸出先国に公認された認証機関に申 請する方法の 2 つの方法がある(第 2 図)。また,認 証機関により,認証の有効期間,取得単位(一生産拠 点あたり,一製品当たりなど)が異なるので確認が必 要だ。日本国内では第 1 表に示した団体が,マレーシ ア,インドネシア,UAE(食肉)の認証・認可機関 から公認されている(2016 年 6 月時点)。世界的に統 一されたハラール認証は,現在のところ存在しない。 この表が示すとおり,「どこの認証機関でハラール認 証を取得するのか」が重要になるのだ。 一方で,「ハラール認証を取得しないと,いわゆる イスラーム国では食品の輸出・販売が出来ないの か?」と聞かれたら,答えは「ノー」である。ハラー ル認証を取得することは輸出の絶対条件ではない。食 肉・肉関連製品を除き,輸出時にハラール認証は必須 ではないことの方が多い。ほとんどの国では,「非ハ ラール商品」としてであれば,輸出可能としている。 それでは,ハラール認証を取得するかどうかを判断 するポイントは何か。以下の 3 つが挙げられる。 ①制度・規制 当該商品は残留農薬や添加物規制,原発関連の産地 規制などの各種規制を踏まえて,輸出を考えている国 への輸出が可能か。その最も代表的なものは,動物検 疫だろう。例えば,2016 年 6 月現在,マレーシアは 日本からの牛肉輸入を認めていない。従って,認めら れたハラールと畜処理が可能となったとしてもマレー シアに牛肉は輸出できないのだ。 国・地域によっても,ハラール認証と食品輸入制度 の関係は異なる。一般的に,中東では「輸入制度の一 部としてハラール基準が内包されている」が,東南ア ジアでは「ハラール認証と食品輸入制度は別物」と考 えたほうが良い。中東の湾岸協力会議(GCC)1 諸国 では,ハラール認証の証明書を輸入時に求められるの は食肉・肉関連製品に限られる。それら以外はハラー ル認証を取得せずとも,通常の食品輸出手続きの上で, 輸入段階での審査やサンプル検査を行い,ハラール性 を確認できれば輸出は可能である。一方,マレーシア やインドネシアなどの東南アジアでは,ハラールでな い商品も輸入は可能であり,一般市場にも出回ってい る。食肉・肉関連製品を除き,ハラール認証がなくて も,またハラールでなくても輸出可能だ。
国内認証団体 マレーシアJAKIM インドネシアLPPOM-MUI ESMA(DAC)UAE
宗教法人日本ムスリム協会(JMA) (拓殖大学イスラーム研究所) ○ ○(加工食品,香料) 宗教法人日本イスラーム文化センター(マスジド大塚) (と畜証明書発行) 宗教法人イスラミックセンター・ジャパン (と畜証明書発行) NPO 法人日本ハラール協会(JHA) ○ 九州イスラミックカルチャーセンター(福岡マスジド) ○(と畜) 一般社団法人ムスリムジャパンプロフェッショナル協会 (MPJA) ○(と畜,加工食品) 〔注〕1.各国認証団体の公開資料等より,2016 年 6 月時点でジェトロが確認が取れたもののみ記載。 2.マレーシアへの牛肉輸出は,動物検疫上不可。現在解禁に向け協議中。 3.インドネシアでは,製品分野ごとに公認されている。括弧内は,各団体が公認されている製品分野を示す。 4. UAE 当局は 2013 年 11 月よりオンラインによる直接申請を開始。2014 年 4 月より,所管が連邦基準化計測庁 (ESMA)に移管期間中。 〔出所〕各種資料よりジェトロまとめ 第 1 表 主要国の認証(認可)機関が認めた国内団体(2016 年 6 月時点)
1 The Cooperation Council for the Arab States of the Gulf(GCC)は,サウジアラビア,アラブ首長国連邦(UAE),バ
②マーケット(消費者のニーズ) 当該商品は,そもそも現地の取引先や最終消費者か らニーズがあるか。市場参入に当たっては,自社製品 のターゲット層が,本当にハラール対応が必要なムス リム層なのかどうかを,十分見極める必要がある。そ の上で,顧客としてムスリム層をターゲットとするの であれば,現地生産や,近隣国からの輸出に取り組む という戦略も考えられる。「何を,どこで作って,誰 に,どのように売るのか」によって,取るべきハラー ル対応は異なるのである。つまり,マーケティングの 視点が必須だ。 実際,インドネシアでは人口の 8 割,マレーシアで は人口の 6 割程度がムスリムである一方,高価格な日 本産食品の購買層となり得る高所得層には中華系が多 い。中華系は基本的にムスリムではないため,彼らを ターゲットにする場合,ハラール認証を取得する必要 はない。 なお,各国のマーケット実態については,5 で後述 する。 ③ムスリム消費者,イスラーム教への理解にどう取り 組むか ハラール認証が他の国際規格と異なる点は,イスラ ーム教の理解も求めている点だ。ムスリム住民が少な く,イスラーム社会との文化的背景も大きく異なる日 本では,「ハラール認証取得の際,最大課題は,これ らのイスラーム教への理解促進だった」とする企業も 少なくない。 3.取得には書類審査と実地検査の対応が必要 ハラール認証にかかる申請手続きの流れとしては, 書類審査と実地検査がある。マレーシアの JAKIM を 例に以下のとおり説明する(第 2 表)。求められる要 件や工程は,輸出国への直接申請も,国内公認団体の 場合も大きな差異はない。 初めに書類審査である。a. 取得を希望する製品の原 料がハラールであることを証明できる資料,b. 製造に 関するチェック事項を確認ができる資料,の 2 種類の 書類を準備・提出する必要がある。書類審査の時点で は,認証機関に対する費用は発生しないことが多い。 審査の結果,原料,製造に関する問題点があれば,認 証機関から指摘がある。 この書類審査に合格すれば本申請だ。申請にあたっ ては,認証機関に支払う手数料が発生する。これは認 証機関により異なる。コストについては,この申請手 数料のほか,認証取得にかかる製造ラインの改築等の 設備投資費用がかかることも注意が必要だ。 申請後,工場など製造工程の実地検査がある。その 際の認証機関の監査員の旅費については,申請者側の 負担となる。実地検査に派遣される監査員は,通常 2 人以上とされる。検査では,イスラーム法的な観点と, 食品衛生・安全面とが審査される。検査当日は,申請 側のハラール認証担当者が立ち会い,①先の書類審査 で提出された資料内容との突き合わせ,②実際の製造 工程の確認,例えば,製造ラインにおいて,豚由来製 品など禁忌なもの,ハラール性が確認できないものの 混入の恐れがないかが確認され,③搬出入,保管にお いても同様に混入の恐れがないか,などについてチェ ックされる。また,監査の対象には,作業員の白衣着 用,照明等の作業環境など,一般衛生管理的内容も含 まれる。場合によっては,商品のサンプル分析検査も 行われる。 認証取得後の対応も重要だ。前述のとおり,他の国 項目 説明 登録 オンラインで登録可能,ID とパスワードを作成 申請書の受取 登録後,5 営業日で送付される(マレーシア国内) 資料提出・ 書類審査 提出書類の多寡により,1 ~ 5 営業日で 審査終了。提出内容は原材料,製造工 程を示すものなど OK ⇒請求書の発行 NG ⇒ 5 営業日以内に修正返答 手数料の支払い 14で領収書が発行される営業日以内に支払う→支払い後 1 日 監査(実地) 手数料支払い後,30 営業日以内に行わ れる。 ①面接(工場概要の説明), ②実査(工場現場の調査), ③面接(調査内容の確認) 審査 JAKIM 内部の認証許可委員会により協 議。 ①現地検査報告 ②事前評議委員会で検討 ③シャリーア・パネルでの評議 合格 5営業日以内に,証明書が発行される (不合格の場合,申請者は正式な e-mail を持って通知される) (出所)JAKIM 資料をもとに作成 第 2 表 ハラール認証申請から取得までの流れ(JA-KIM の例)
醸 協( ) 際規格と異なるハラール認証の特徴は,製品の安全性 のみならず,取り組む企業に対してイスラーム教の理 解を求めている点だ。例えば,ムスリムを雇用するこ とや,社内に製造・品質保証・販売などの関連部署か らなるハラール委員会を設立するなど,社内全体にか かる人的対応や継続的な社内教育が取得要件に含まれ ている。他の国際規格のように,マニュアルに沿った 一定の基準を満たすだけでは認証取得は難しい。 4.醸造食品はアルコールやパッケージに留意を これまで,ハラールやハラール認証の概要,取得手 順を解説した。では,味噌や醤油などの醸造食品にお いては,どのような対応が求められるか。特に対応が 求められる点を,以下に挙げる。 ①原材料 味噌,醤油等の原材料は大豆や食塩等,それぞれは ハラールなものであると言える。しかし,製造工程で 発生し最終製品に残存するアルコールにより,その最 終製品がハラールかどうか,判断が分かれることがあ る。 また,原材料はハラールなもののみを使用すること が求められるため,防腐などを目的として醸造食品に アルコールを添加する場合,認証取得においては基本 的にハラームと判定される。 ②製品ラベル・パッケージ パッケージやラベルにも気をつけなければならない。 その商品を見てムスリムがどう捉えるかが重要だ。特 に,商品名やメーカーの名前に「醸造(Brewing)」 もしくは「醸造所(Brewery)」などが入っている場 合,ムスリムが酒を連想してしまう可能性があるため, 避けたほうがよい。 ③各国におけるハラール性の判断基準 ハラール性の判断基準は国・地域により違いがある が,前述のとおり,醸造食品では発酵過程で自然発生 するアルコールについて違いがある。 マレーシア JAKIM やインドネシア LPPOM-MUI では,認証取得の上で,自然に発酵するアルコールが 残存している場合であれば,その最終製品はハラール と認められている。 一方,UAE であれば,自然発酵のアルコールであ っても,UAE が定める検出基準以下でなければハラ ールとはみなされない。 このように,たとえマレーシアで認証を取得したと しても,UAE にそのまま輸出出来るとは限らないの である。あくまでも,各国のハラール基準をクリアす ることが求められる。 5.小売・外食等マーケット実態は主要国で異なる 実際,主要国におけるハラール商品はどのように取 り扱われているのか。まずは,地域間の違いを捉えた い。 東南アジアであれば,先に説明したとおり,ハラー ルと非ハラール食品が混在している。マレーシアの小 売店では,ハラール専用の棚が設けられている小売店 もあるが,インドネシアでは食肉等を除き,ハラール とハラールでない商品が混在している。ムスリム消費 者は,売り場が分かれていなければ,ハラールの認証 ロゴや原材料を自ら確認しながら商品を購入すること になる。 一方,中東であれば,原則はハラールなもののみが 流通している。サウジアラビアでは豚肉,酒などはそ もそも輸入禁止だ。UAE では,外からは豚肉やアル コールの店内が見えないようになっており,「ポーク ショップ」や「リカーショップ」など特定の場所での み購入できる。消費者にとって,市場に流通している 食品は原則的にハラールである,と考えられている。 次に,東南アジアのマレーシア,インドネシア,中 東のサウジアラビア,UAE,それぞれのマーケット 実態を取り上げる。 ①マレーシア 人口の約 6 割がムスリムであるが,そのほかの宗教 の人も存在する。マレーシアでは,中~高所得層向け の食品小売店では,非ハラール食品とそれ以外でコー ナーが分かれている。低所得層向けは,マレー系向け の販売構成となっており,非ハラールのものは販売さ れておらず,売り場の区別もない。 また,クアラルンプール市内の日系小売店では,写 真 1 のように,非ハラールとそれ以外でコーナーが区 別されている。非ハラールコーナーでは,豚肉や豚肉 由来の成分,アルコールが明らかに含まれている製品
を販売しているが,それ以外コーナーでは,ハラール 認証マークがある商品と,認証はないが,明らかにハ ラールだと判断できる商品が混在している。 これらの小売店では,日本食の浸透に伴い,ハラー ル認証を取得した日本産醤油や味噌などが販売されて いるところもある。これらは日本食に必要な食品であ り今後もニーズの拡大が期待されるところだが,他国 産に比べると価格が高い。日本産食品は輸出すると値 段が日本国内価格の 1.5 ~ 3 倍程度になるが,現状そ れらの高価格な日本産食品のターゲットになるのは中 華系である。中華系であれば,ハラール対応は不要だ (第 3 図)。 ②インドネシア 国民の 8 ~ 9 割がムスリムであるが,残りは他宗教 の人もいる。国内には,地元のビールメーカーがある など,ハラール食品以外も流通している。首都ジャカ ルタでは,伝統的小売店や市場,スーパーマーケット, 日本食販売店にかかわらず,食肉以外の一般食品は, ハラールと非ハラールが区別されずに販売されている。 食肉コーナーでは,豚肉とそれ以外が区別されている (写真 2)。 また,レストランでは,チェーン展開している外資 写真 1 マレーシアの日系小売店の店内 (左:非ハラールコーナー,右:それ以外コーナー) (写真 1 ~ 4 はすべてジェトロ撮影) 第 3 図 マレーシアにおける民族別家計月収(中央値) (出所)マレーシア統計局「Findings of The
House-hold Income Survey 2014」より作成
写真 2 豚肉売り場
(中央には「MENGANDUNG BABI」(豚が含まれる) と表示されている)
醸 協( ) 系のレストランで特に認証を取得している店舗が多く, ケンタッキーフライドチキンやマクドナルド,スター バックスなどがハラール認証を取得した店舗を展開し ている。これらの中には,手ごろな値段で食事を提供 するようなファストフード店も多い。欧米発祥の店が インドネシアに進出した際,ムスリム消費者の外国料 理に対する警戒心を解くには,ハラール認証が有効な 手段になっていると考えられる。 ③サウジアラビア イスラーム教の聖地メッカのあるサウジアラビアで は,そもそも豚肉とアルコールは輸入が禁止されてい るなど,厳格に管理されている。消費者意識としても, 「サウジアラビア国内で生産・流通・販売されている 食品はすべてハラールであり,ハラール以外の食品は 販売されていない」と考えられている。写真 3 をご覧 いただきたい。どちらも同じブランドの商品であるが, 右はマレーシアで販売されている商品でハラール認証 が付いているのに対し,左のサウジアラビアで販売さ れている商品には認証マークはない。サウジアラビア では,ハラールであることは食品流通の絶対条件であ り,わざわざハラールかどうかを区別するための認証 マークを付ける必要はないことがわかる。 ハラール認証が求められるものは,食肉や動物由来 の原材料を含む食品のみである。海外の大手食品メー カーでは,乳製品や菓子に含まれる動物性油脂などに 対して,それらの原材料を植物性油脂や乳脂で代用さ せることで対応している。これは,サウジアラビア向 けに食品を輸出する際には,あらかじめ現地インポー ター等と協力し,船積み前に食品監督庁(SFDA)に 登録する必要があるが,その手間に加えてハラール認 証取得の手間も重なると,企業にとっては大きなコス トになってしまうからだと考えられる。 ④ UAE UAE は 7 つの首長国からなる連邦国家で,そのう ちドバイ首長国では,世界からの観光客や出稼ぎ労働 者なども多く存在している。ドバイ市内には,大規模 から小規模までさまざまなサイズの食品小売店舗があ るが,周辺地域の住民の特性に応じて,多様な人種と 宗教の顧客が混在して来店するような一部の店舗では, ハラール食品の扱いだけではビジネスが成立しにくい。 そのため,豚肉や酒なども,一部の非ハラール食品専 門コーナー(「Non-Muslim Corner」)で区別して販売 されている。写真 4 のように,ムスリムの人々が間違 っ て も 入 ら な い よ う に, 大 き な 文 字 で「For Non Muslim」等と入口に表記され,またリカーショップ では,ムスリムが外からは販売されている酒が見えな いようになっている。 これらの非ハラール食品コーナーでは,製品そのも のは植物性の納豆や小麦の乾麺類等であっても,製品 付属のタレやスープに含まれる成分にアルコール等が 含まれる場合は,ハラール食品としては許可されず, 非ハラール食品に区分されている。 先述のとおり,UAE 向けに食品を輸出するために は,原則 UAE のハラール性の判断基準に適合しなけ 写真 3 同ブランドの商品(左:サウジアラビアで販売,右:マレーシアで販売)
ればならない。他国のハラール認証を取得しているか らといっても,必ずしも UAE 基準に適合していると は限らないのである。その点で,日本産食品について も,中東地域のハラールへの適合性を 1 つずつ遵守す ることにより,中東地域のムスリムの人々の信頼を向 上させることが求められる。 また,別の課題として,日本産調味料のうち,醤油 には例外もあるものの,他の調味料類は往々にして欧 米製品の棚とは完全に区分けされ,アジア食品コーナ ーにまとめて陳列されており,どこのスーパーでも限 られた狭い面積でのみ販売されている。これにより, 中東地域で日本産品を知る高所得の欧米人やムスリム の人々等が見る棚とは別仕立てにされてしまうため, 「購買機会の損失に繋がっている」という声が日本食 のインポーターから聞こえる。 6.ジェトロの展示商談会,提供情報を活用 ハラール認証取得の判断ポイントや主要国のマーケ ット実態を踏まえると,「まずハラール認証を取得し てみる」のではなく,ムスリム消費者向けの輸出・販 売見込みがしっかり立ってから,必要に応じてハラー ル認証取得に取り組むことが重要だと言える。 ジェトロは,農林水産物・食品の輸出に向けて,海 外からバイヤーを招いた国内外での商談会や,海外見 本市への出展支援等を多数実施している。これらに参 加し,実際のバイヤーの意見を聞いたり,展示会場で 反応を得たりすることは,自社商品の販売可能性を判 断する有効な材料となるだろう。また,バイヤーから 引き合いがあれば,まずはハラール認証なしで輸出し て消費者の反応を見る,または,輸入者の要望があれ ばハラール認証取得を検討する,といった段階を踏ん だ輸出への取り組みも可能だ。 このほか,ジェトロでは「農林水産物・食品輸出相 談窓口」を設けている(下記参照)。また,国内には 東京と大阪のほか貿易情報センター 43 事務所を構え ており,ハラールに関する内容も含め,農林水産物・ 食品の輸出に関して電話・対面にて相談いただくこと が可能だ。このようなサービスも,自社のハラール対 応の検討に当たって是非ご活用いただきたい。 〈日本貿易振興機構(ジェトロ)農林水産・食品部〉 写真 4 非ハラール食品売り場(左:豚肉売り場,右:酒売り場) 農林水産物・食品輸出相談窓口 Tel: