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M87*ブラックホールシャドウ画像の理論的解釈

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Academic year: 2021

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(1)

天文月報 2019年7月 448

M87*

ブラックホール

シャドウ画像の

理論的解釈

中 村 雅 徳

1

・水 野 陽 介

2

・川 島 朋 尚

3 〈1中央研究院天文及天文物理研究所 〒10617 台北市羅斯福路四段1號中央研究院/台灣大學天文數學館11樓〉 〈2フランクフルト大学理論物理学研究所 Max-von-Laue Str. 1, 60438, Frankfurt am Main, Germany

〈3国立天文台天文シミュレーションプロジェクト 〒1818588 東京都三鷹市大沢2211

e-mail: 1 [email protected], 2 [email protected], 3 [email protected]

EHT

コラボレーション理論ワーキンググループメンバーが,今回得られた

M87*

のブラックホー ルシャドウ画像の理論的解釈を簡単に解説し,将来の展望について述べる.

1.

 は

EHT

コラボレーション(

EHTC

)理論ワーキ ンググループ(

WG

)の使命は,大規模シミュ レーションを用いて現実的な理論モデルのライブ ラリを構築し,観測との比較からブラックホール (

BH

)自身,またその近くで起きている物理を理 解することにある.もし

BH

のまわりに輝くガス のような放射源があれば,

BH

近傍から出た光は

BH

の強い重力により捕らわれるため,

BH

は 「影」のように暗く見えるはずである.これをブ ラックホールシャドウと言う.シャドウが理論予 想通りに見えるのか?放射源は降着流なのかそれ と も ジ ェ ッ ト な の か? 理 論

WG

メ ン バ ー は,

2017

年の

EHT

観測の解析を固唾を呑んで見守っ ていた.

2018

年夏,

EHTC

全体に

M87*

領域の画像が 初めて示された.はっきりと見えた黒い穴は我々 が先行予想してきた画像とあまりに一致していた ため驚きであった.議論の末,最も確証が高いも のとして得られた結果は以下の通りである.

2.

 シャドウの理論モデル構築

M87*

は低光度活動銀河核の一つで,

5,000

光 年以上にも及ぶジェットを噴出している天体とし て大変有名である.

BH

周りには幾何学的に厚い

100

億度程の高温降着流(

BH

に落ち込むガス流) が存在し,

EHT

観測波長帯(

1.3 mm

)では,シ ンクロトロン放射(電子が磁場中で加速度運動す る際に放つ電磁波)が卓越していると考えられて いる. 理論

WG

が構築した大規模シミュレーションラ イブラリは,

BH

周りの高温ガス流のダイナミクス を計算する一般相対論的磁気流体力学(

GRMHD

) シミュレーションと,それを観測と比較するため の一般相対論的輻射輸送計算(

GRRT

)から構成さ れている.計算結果は,

2017

EHT

観測で得ら れた非対称リング構造を見事に再現した1)(図

1

). これはシンクロトロン放射が

BH

の強い重力レン ズ効果を受けた結果である.そして光子リングの 放射源は

BH

からその大きさの

10

倍程度かそれ 以内の狭い領域に集中していることがわかった.

BH

の回転,事象の地平面を貫く磁束量,ガス 中村 水野 川島

(2)

第112巻 第7号 449 流の電子温度などが異なる計

60,000

通りもの様々 なモデルが,多角的に精査された.その結果,意 外にも観測と整合的であるモデルは多岐に渡った. このことは裏を返せば,ガス流ダイナミクスにあ まり依存せず

BH

時空での光子の振る舞いが観測 画像を再現するという強い結論となった.実は回 転していない

BH

でも観測画像を説明できるが, それは強いジェットを噴出できないという理由で 否定される.また,地球から眺めた場合,

BH

の 回転が時計回りであることもわかった.このと き,

BH

近傍のガスは

BH

と同じ方向に回転し, そのドップラー効果で観測されたようなリング輝 度の非対称性が生じる.そして水野らによると, 一般相対論で記述される

BH

以外の天体が中心に 存在する可能性は未だ棄却できていない2)

.

3.

 将来の展望

2017

年春の

EHT

観測では感度不足のため,リ ング周辺に存在していると考えられるジェットの 根元や降着流の検出には至らなかった.

2018

年 には

ASIAA

が運用するグリーンランド望遠鏡が

EHT

観測に参加した.さらに

2

つの望遠鏡の参加 が

2020

年以降に予定されており,これらの検出 にも期待がかかる.秋山らによる本月報記事でも 紹介の通り,

2007

年始動の

VSOP-2

計画を契機 に機運が高まった

M87

ジェットの研究は,日本 人による独自の視点に基づく精力的な探求が分野 の進展に大きく寄与している.例えば近年では, 紀らによるジェット根元の磁場と物質エネルギー 密度比の推定3),秦,紀らによる東アジア

VLBI

観測網によるジェット速度場の測定4),中村らに よる

GRMHD

モデ ルと観測の直接比較による ジェット形状とダイナミクスの考察5),高橋和也 (京大基研),當真らによるジェット輝度分布に基 づ く

BH

回 転 速 度 へ の 制 限6), と い っ た

M87

ジェットの本質に切り込む新しい成果が得られて いる.

EHT

による次の大きな目標の一つは,

BH

の回転がジェットを駆動する過程7,8)の観測的検 証である. また,

EHTC

はさらに

870 μm

帯における観測 準備や衛星も含めた

VLBI

への拡張も計画してお り,それに連動した

870 μm

帯のブラックホール シャドウ予言画像から

BH

の回転速度に制限をつ ける理論研究も川島,紀,秋山によって進められ ている9).平成最後にわたしたちが目にした

M87*

ブラックホールシャドウの画像は,令和における

BH

天文学の新時代の幕開けを告げている. 本稿執筆には上記の著者の他,當真賢二(東北 大)と紀基樹(工学院大)が携った.

参 考 文 献

1) EHT Collaboration, 2019, ApJ, 875, L5

2) Mizuno, Y., et al., 2018, Nature Astronomy, 2, 585 3) Kino, M., et al., 2015, ApJ, 803, 30

4) Hada, K., et al., 2017, PASJ, 69, 71 5) Nakamura, M., et al., 2018, ApJ, 868, 146 6) Takahashi, K., et al., 2018, ApJ, 868, 82

7) Blandford, R. D., & Znajek, R. L., 1977, MNRAS, 179, 433

8) Toma, K., & Takahara, F., 2014, MNRAS, 442, 2855 9) Kawashima, T., et al., 2019, ApJ, in press (arXiv: 1905.

10717) 図1 左:GRMHD+GRRTシミュレーションによる

M87*のBH影の理論モデル.右: 理論モデル をEHTの解像度で均したイメージ.

ASTRO NEWSASTRO NEWS

図 1  左: GRMHD+GRRT シミュレーションによる

参照

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