1歳児のいざこざの発生プロセスを理解する
保育者の専門性
奥山 優佳
*・藤田 清澄
**・香曽我部琢
*** 本研究では、1歳児クラスでいざこざが発生するプロセスについて保育者の対応も含め て明らかにし、いざこざにおける乳幼児期の社会的発達の特徴について検討を行い、保育 者に新たな視座を与えることを目的とする。具体的には、いざこざが発生する以前の幼児 の言動に着目した観察を行った。そして、幼児の言動を分類し、その発生に至る経路につ いて図式化を行った。その結果、ア:物・道具を使う、イ:身体の接触、ウ:イメージの ずれ、以上3点がいざこざのきっかけとして明らかにされた。また、きっかけごとの経路 を考察し、幼児が無秩序にいざこざを起こすわけではなく、クラス集団で共有している社 会的文脈、行動空間としての適切さ、道徳的ルールなどを踏まえた上で、いざこざを展開 し、そこでの振る舞いを決定していたことを示した。そして、この結果を保育者が知るこ とで、いざこざの状況を的確に把握するための情報の一つとなることが示唆された。1.問
題
! 社会的発達の契機としてのいざこざ いざこざに関する先行研究を概観すると、保育者は、遊びの中で幼児が友達と物を 取り合ったり1 、ルールをめぐって言い争ったり2 と、他者と対立することで対人葛藤 (interpersonal conflict)3 や社会的葛藤(social conflict)4 の状況におかれる、いざこざ5 やけんか6 、トラブル7 と呼ばれる社会的な事象を消極的に捉えてはいない。むしろ、 乳幼児の社会的発達を促す契機8 として捉え、積極的に幼児に援助を行っている9 10 と 考えられる。つまり、保育者にとって、幼児同士のいざこざとは、幼児の社会的な発 達を促すための重要な教育的な機会なのである。 保育実践において、いざこざは社会的発達の契機として捉えられてきた。そのため、 いざこざが発生した直後のプロセスにおいて表出する幼児の自己統制や自己主張、コ * 東北文教大学短期大学部子ども学科 ** 盛岡女子高等学校保育士専攻科子ども未来学科 *** 上越教育大学大学院教育研究科 ―125―図1 いざこざの時間的な経過と定義 ミュニケーション能力、他者理解など、幼児の社会的能力11 に焦点が当てられた研究 がすすめられてきた。倉持(1992)は、ものをめぐるいざこざの事例を示し、いざこ ざ過程の中で用いられる相手を納得させるための具体的な手立てを「方略」と定義し、 5歳児がものを先に使っていたことを自己主張したり、すでにものを持っている相手 にそれを使う許可を求めたりと様々な「方略」を、相手との関係性に合わせ適宜用い ていることを示した。いざこざが乳幼児期の社会的発達の契機として捉えられてきた ため、いざこざが発生した後で幼児が「方略」をどのように用いたのか、その使われ 方や特徴の年齢による違いが研究対象となってきた。 $ いざこざの原因から終結 いざこざが発生した後に焦点が当てられてきたなかで、松永ら(1993)は、いざこ ざが発生する前の原因についても特定することで、「方略」がどのように使われてい るのか、その年齢にともなう変化について詳細に示そうとした。この結果から、Asou (1987)12 を参考にしていざこざの原因のカテゴリを作成し、いざこざにおける年齢ご との社会的能力の違いや社会的発達の変容をより詳細に示したのである。 いざこざが発生してからだけではなく、その原因から終結にいたる一連の過程や、 それを取り巻く状況や背景、終結後の活動の様子なども含めて、幼児の社会的発達に ついて包括的に明らかにしようとする視点は、近年のいざこざに関する小原(2008)、 広瀬(2006)13 、都築(2009)14 らの研究に共通している。しかし、これまでの研究では、 いざこざのきっかけとなった行動から終結まで(図1における"期と#期)のプロセ スは明らかにしているものの、その原因が生じるまで(図1における!期)について は詳しくは扱ってこなかった。例えば、高濱ら(1999)15 は3∼5歳児の事例をもと に、いざこざのきっかけになった行動を3つに分類しているが、この行動がどのよう な文脈や背景の中で生じたのか、詳細は示されていない。 そこで、本研究では、いざこざが発生するまでの乳幼児の言動に焦点を当て、いざ こざのきっかけになった行動が生み出され、いざこざが発生するプロセスについて、 その文脈や背景についても含めて明らかにする。そして、いざこざにおける幼児の社 会的発達について検討することで、いざこざを重要な教育的な機会と捉える保育者の 専門性に対して新たな視座を得ようと考えた。 ―126―
2.方
法
$ 研究対象の選定 本研究では、Hartup ら(1988)16 が用いた「一方または両方の行為に対して相手の 子どもから不満や抗議、抵抗などが示された場合」を「b.いざこざの発生」と定義 した。そして、この「不満や抗議、抵抗などが示された」言動の直前の言動を「a. きっかけとなった行動」として定義した(図1参照)。先行研究では"・#期を経て 「c.いざこざの終結」に至るプロセスに焦点が当てられてきたが、本研究では、と くに!期に焦点を当て、「b.いざこざの発生」するまでのプロセスについて明らか にするものである。 また、研究対象の年齢児の選定については、松永ら(1993)が「1歳以降から自己 の明白な意思表示や他者への積極的なかかわりがある」と述べ、1歳になると、他児 に対して強い関心を持ち始め、他者が接近することに不快感を示したり、ルールに対 する理解を持ったりすることが示された。また、言葉の発達に応じて、19か月以降で は、「かして」などの言葉を用いて接近する姿が見られるようになることなどが示さ れ、1∼2歳において社会的能力に急激な変化が見られることを示唆している。そこ で、本研究では1歳児クラスにおいて、いざこざが発生するまでのプロセスを明らか にすることで、いざこざにおける社会的発達について検討を行おうと考えた。 % 事例のサンプリング方法について 本研究では、いざこざが発生する以前のプロセスを明らかにすることを目的として いる。そのため、観察による記述だけでは、その発生以前の幼児の姿を捉えることが 難しい。そこで、石黒(2001)17 が「直接的な方法で実際の出来事について情報を提 供する」方法と述べ、日常生活における社会的、心理的な現象に関する情報を直接的 に、かつ繰り返し観察することが可能であるビデオデータを用いた事例収集法を取り 入れた。そして、ビデオデータを収集する際には、石黒(2004)18 が「調査の進行とと もに必要な場面の記録をとっているようになっていなければ、フィールドを観ていた とは言えない。視聴覚機器による記録は人間の観察の代替ではなく、その一部を補う にすぎない。」と示した点に留意し、まず、$幼児の遊びの様子を撮影する。次に% 幼児のいざこざの場面を観察し、事例として記述する。そして、最後に、&記述した いざこざの事例をもとに、ビデオでその事例の「b.いざこざの発生」以前の様子を 繰り返し観察することで、その一連の経過をまわりの状況も含めて、より細やかに記 述し、さらにその様子を図式化することで事例を補足した。 & 分析の手続きについて 分析方法として、西阪(1997)19 が示した、人の行為が「二重の依存関係」を孕んで いることを前提として、その行為の意味を、その行為を取り巻く構造的な枠組みから 解釈する、エスノメソドロジーの認識論に立つ相互行為分析を用いた。そのため、分 析を行う際に、まず、$作成した事例をもとに、いざこざが発生するまでの、いざこ ざにかかわった幼児の言動を切片化する。切片化したデータに小見出しを付ける。次 に、%小見出しをもとにKJ法を用いて幼児の言動を分類し、言動カテゴリ(表1下 参照)を作成する。&再度、切片化したデータを時系列に並べて、その中で「b.い ―127―ざこざの発生」となった幼児の言動と、その直前の幼児の言動を「a.きっかけとな る行動」としてコーディングを行う(表1参照)。"時系列に並べたデータをもとに、 「b.いざこざの発生」に至る経路を図式化(図2参照)する。最後に、#事例と図 式、経路図をもとに、幼児が「a.きっかけとなった行動」を生み出していく過程を 明らかにし、その言動の意味について、文脈や背景も含めて、その秩序や構造につい て相互行為分析の視点から総合的に解釈を行う。 " 事例収集の対象者、期日、及びデータについて 事例収集の対象者は、山形県内の私立A保育園1歳児クラス(男子8名、女子10名、 合計18名、20か月1名、21か月1名、22か月4名、23か月2名、24か月1名、25か月 1名、26か月1名、28か月1名、29か月3名、30か月3名:観察開始10月19日時点) である。観察は平成21年10月19日、11月9・16日、12月7・14日、1月5・19日、2 月16・17・23日、3月2・16・29日、計13回、午前9時30分から10時30分までの1時 間程度行った。観察では、「観察者」として構成員に接し、活動の邪魔にならないよ うに心がけ、遊びの時には観察者から積極的に幼児にかかわらず撮影を行った。観察 や撮影の過程で出てきた疑問点などは、活動後にインフォーマルに保育者にインタ ビューを行った。本研究において、ビデオカメラで撮影されたデータは合計で6時間 18分11秒、事例は14回分でA4用紙に計31頁であった。
3.結果と考察
! 「きっかけとなった行動」に至るまでの経路 収集した61事例をそれぞれ事例1、2のように、一人一人の幼児の言動を段階ごと に切片化し、コーディングを行った後、時系列に並べ直した。そして、61事例を表1 のようにまとめ、それをもとに「b.いざこざの発生」が表出するまでの経路を類型 化し、図2の経路図としてまとめた。本研究では、「一方または両方の行為に対して 相手の子どもから不満や抗議、抵抗などが示された場合」を「b.いざこざの発生」 と定義した。そのため、当事者のどちらかが相手に対して、妨害したり、攻撃したり したときを、「b.いざこざの発生」とした(二重線)。そして、発生直前の幼児の行 為を「a.きっかけとなった行動」(太線)とした。なお、本来ならば全事例を提示 しなければならないが、紙面の都合上すべての事例を記載することができないため、 図2のいざこざの経路で示した幼児の言動をすべて網羅できる11事例を抽出して、表 1にその言動を時系列化したものを示した。 ―128―表1
事例における幼児の言動を分類、時系化した表
図2 「b.いざこざの発生」に至る相互作用の経路図 ! なぜ他の幼児の遊びに注意を向けるのか 経路図で示したように、1歳児クラスの幼児による「b.いざこざの発生」は3つ の「a.きっかけとなった行動」によって、引き起こされていることが明らかにされ た。1つ目は「ア 道具を使う、使おうとする」(表1では№1,2,50,61)、2つ 目は「イ 身体の接触・接近」(表1では№12,36,37,60)、3つ目が「ウ イメー ジのずれ」(表1では№14)である。また、№13と51に示したいざこざは、他のいざ こざに派生したもので、どちらかの味方になり、相手を攻撃・妨害するという文脈の 中で生じたいざこざである。61事例中、3つのきっかけになった行動によるいざこざ の発生は、道具が23事例、身体接触が25事例、イメージが4事例であった。また、そ れらに続いて派生し、他の子どもがどちらかの味方についたことで生じたいざこざが 全9事例で、道具の23事例で派生したのが4事例、身体接触の25事例で派生したのが 5事例であった。次に、きっかけとなった行動で事例数が多かった道具と身体接触の 事例をそれぞれ1事例ずつ取り上げて、そこでの相互作用について検討を行う。イ メージの事例は道具の事例の延長線上で生起し、道具の事例といざこざの発生プロセ スが同じであるため割愛した。味方になる事例は事例2の後半に派生した事例につい ても含めて提示した。 この事例(表1、№1)は、保育者による手作りの電車の玩具をめぐるいざこざで、 先行研究においては、「物のとりあい」などに分類されるいざこざである。A児がは じめた電車の玩具を使った新しい遊びに、B児とC児が注意を向けることが出発点に なり、そのB児が使っていた道具(電車の玩具)を取ろうと【道具に触る】ことが「a. きっかけとなった行動」となり、それを取られまいと【妨害】や【攻撃】を行ったこ とで「b.いざこざの発生」に至っている。 このいざこざを辿っていくと、01でA児が発想した電車の玩具を使った新しい遊び に辿りつく。これまで、この電車の玩具は手でつかんで電車が走るようにして用いて 遊ぶものであった。その応用として、雑巾がけの要領で電車の玩具を両手に持って滑 らせて遊ぶ様子は見られたが、電車の上に足を乗せて、滑らせながら歩く遊びは、こ のときに初めて見られた遊びであった。このA児が発想した新しい遊びに、はじめに ―130―
図3 事例1の図式(03∼06までの子どもの様子) !!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!! !!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!! 事例1:道具を使うことへの興味から生まれるいざこざの事例(№1) A児 B児 C児 01:紙箱でできた玩具の電車 を畳みの上に二つ並べ、その 上に立って、引きずりながら 歩きはじめる。 【興味深い行為】 03:足元に視線を送りながら、 おそるおそる前に歩いていく。 A児は前に落ちているぬいぐ るみを上手くよけ、カーブし ながら窓の方までずっと前ま で歩いていく。 02:A児が足で電車を引きず る音に気づき、A児の様子を 確認する。 【注意を向ける、注視】 04:近くにあった電車の玩具 に視線を移し、すばやく取る とそれらを平行に並べる。 【接近、道具に触る】 05:その上にのって、歩きは じめる。 【遊びの模倣、興味深い行為】 08:C児に「だめだよ、だめ だよ」と言い、足に力をいれ て、取られないようにしよう するが、バランスを失い、倒 れそうになる。【妨害する】 その様子を見た保育者がB児 の脇を抱えて、「落ちると危 ないから立ってだめだよ」と 言いながらB児の脇を抱えて を床におろす。 10:おろされた瞬間、C児に むかって拳を振り下ろすが、 空を切る。【攻撃】 06:C児が、A児の音に気づ き振り向く、そしてA児とB 児の様子を交互に視線を移し、 見ている。 【注意をむける、注視】 07:B児に近寄って、しゃが みこみ、B児の電車をつかみ、 取ろうとする。 【接近、道具に触る、妨害】 09:さらに力を入れ、B児が 倒れそうになって、保育者が 抱えている間に、2つの電車 を手で押さえながら、すべら せてその場から離れる。 【妨害、独占、違う場所へ】 注意をむけたのがB児、次に06でC児が注意を向けた。ここで重要になるのが、この 電車の玩具の数である。電車の玩具自体は10台以上あるが、牛乳パックで製作した電 車と丈夫な段ボールの箱で製作した電車の2種類が存在する。足で乗れる強度を持っ た段ボールの箱で製作された電車は、その中の4台しかなかった。つまり、A児が 使っている2台以外に保育室にはあと2台しか無く、07でこの2台をめぐってB児と C児のいざこざが発生し、08から09までいざこざが展開していった。 ―131―
!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!! C児を追おうとするが、あき らめる。 11:C児を見ているが、近く に落ちていた電車に気づき、 側にいく。しかし、立っても つぶれない電車ではなかった ために、それを蹴飛ばす。 【違う場所へ】 12:持ってきた電車を平行に 並べて乗ろうと片足を上げる が、先生から注意されて、手 で2つを抱えながら部屋を歩 く。 " 考察1:クラス集団の社会的文脈を踏まえた物をめぐる争い 経路図で示したように、「ア 物・道具を使う」と「ウ イメージのずれ」は同じ 経路上に存在する。この違いはアを行った際に、相手の反応が妨害や攻撃として表れ るか、表れないかの違いである。ウは、はじめは妨害や攻撃されなかったものの、遊 びを継続していく過程で、遊びのイメージがずれ、その時に妨害や攻撃を受けたとき に表れる経路である。 基本的に、この経路は先行研究において「物をめぐる争い」などと呼ばれてきたい ざこざである。この物をめぐるいざこざは11か月から2歳にかけて増加し、3歳児か らは減少していく2021 。この特徴としては、物や道具を誰が先に使っていたかが重要 な点になる。山本(1991)22 は1歳児と3歳児の比較を行い、1歳から3歳にかけて増 加すること、両年齢児ともに先に占有していた幼児が拒否すると、後から占有しよう とした子どもの占有率がかなり低くなることを示している。本研究においても、全61 事例中、37事例がこの経路によるもので、先に占有した幼児が独占したのは29事例で、 先占が尊重されているといえる。また、経路図に示したように、後から使う幼児が、 先占している幼児の【反応を伺う】姿が見られることからも同じことが言える。 幼児が物や道具を使うことについては、加藤(2001)23 は、実践において人工物が どのように使用されるかは、その人工物に内在するのではなく、その人工物の使用を 文化的実践とするコミュニティの成員の間で共有されていると示している。そして、 その人工物の使用と意義を学ぶためには、その文化的実践に参加し、その成員として 人工物と相互作用する必要があると述べている。つまり、幼児がそのクラス集団に属 して友達と遊ぶ中で、様々な物や道具を使うことは、ただ単に物や道具の使い方を学 ぶだけではなく、クラス集団で共有されている社会的文脈も身につけて、その集団の 成員となるという意味がある。 図3に示したように、この事例では、電車の玩具を足で使うというA児のはじめた 遊びをするために、同じ強度を持つ電車2台をB児とC児が取り合っている。しかし、 3人が無秩序に電車を取り合っているわけではない。09でC児がB児の使っていた電 車を取っていくが、これは保育者がB児に対して足で電車に乗ることを注意した声を 聞いたからで、そのために、12で示したように、しばらくは足で電車に乗らずに、従 来通りに手で電車を操作している。また、B児もC児から取られて、殴りかかろうと したが、結局はC児が先生の注意通りに、手で電車を操作しているので、結局取り返 すことをあきらめている。また、2人は先にこの遊びを発想したA児の電車を取ろう とはしない点も、『先占の尊重』原則が形成されていると考えることができる。つま ―132―
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!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!! !!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!! !!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!!!!! ぬいぐるみをE児にぶつけ、 さらに押し付ける。【攻撃】 41:トラのぬいぐるみを抱え て歩きはじめるが、すぐにぬ いぐるみを手放して、別な積 み木に登って立ち上が る。 【違う場所へ】 37:犬のぬいぐるみをD児か ら見えないように自分の背後 に隠す。【独占】 (保育士Iが「その犬のぬい ぐるみ人気があるのね」と言 う。) 39:D児がF児から叩かれて いる間に、さらにD児が座れ ないように、積み木の中央部 分に詰めて、座りなおす。 【妨害】 38:D児がトラのぬいぐるみ を 押 し 付 け た の を 見 て、 「だーだー」といって、背後 からD児の頭を叩く。【攻撃】 (保育者Iが「F児くん」と 呼ぶ) 40:D児を叩くの止める。 図4 事例2の図式(25から27までの子どもの様子) この事例(表1 №12と№13)は、22のD児のスポンジ積み木に座るという行為に 23でE児が注意を向けることが出発点になり、24と25でその座るという動きの模倣を 小さいスペースで二人が行ったために、26から28で、お互いの身体が接触し、それが 「a.きっかけとなった行動」となって、29から32で互いに押し合うことで相手の行 為を妨害や攻撃を行い、「b.いざこざの発生」に至っている。 図4で示したように、E児は右側面が壁であったため、右手で壁を抑えながら、 ちょうど空いているスペースにうまく身体を入れて積み木に座ることができた。それ に対して、G児が離れた後に、25でD児は保育者側に向けて座り直そうとしているが、 手でつかんだりする場所が無かったために、不安定な状態で座り直さなければならな かった。このような不安定な状況の中で、26でE児が犬のぬいぐるみを自分の右わき に置こうとして、さらにD児に身体を寄せたために接触してしまう。ちょうどそのと き、D児は不安定な状態だったため、落ちないように態勢を整えようと、自分の頭を E児の肩から背中に付け、それで身体を支えてなんとか積み木に登ろうとした。しか し、この自分の身体を支えようとして行った行為が、E児にとっては妨害や攻撃とし て間違って認識され、29、31、33で示した妨害や攻撃を行い、それに対してD児も32、 36で妨害や攻撃を行い、いざこざが発生した。 " 考察2:身体の模倣が生み出すいざこざ 経路図に示したように「イ 身体の接触・接近」が、いざこざの「a.きっかけと ―134―
!!!!!!! なった行動」になった全ての事例において、この「イ 身体の接触・接近」の直前に 身体による動きの模倣が見られた。これまで、幼児の身体の模倣については、砂上 (1999)24 が「仲間意識の共有として他者と同じ動きをするという現象が見出される。」、 鈴木(2009)25 が「どちらともなく動きをまねしあう相互同時的、または模倣の相互関 係を転換させた行為の中で(自己表現を芽生えさせる機能が)発現し、言語ではなく 動きによる身体的な相互行為が相互関係を支え発展させている」と述べているように、 遊びにおいて「模倣する−模倣される」ことで良好な関係性を築くことが示されてき た。しかし、事例2では、「模倣する−模倣される」幼児の間でいざこざが発生して いる。 この理由として、模倣した行為が行われた空間の問題があげられる。図4で示され ているように、この模倣が行われたスポンジ積み木の上は、きわめて狭小で、かつ不 安定であった。幼児の身体性が空間と関連することについては、榎沢(1998)26 がボル ノウの行動空間の概念に依拠し、幼児が意味のある行動を展開できる空間を行動空間 と定義し、その行動空間の在り方が幼児の身体性と関連することを示唆している。つ まり、この空間の狭さや不安定さなどの制限が、行動空間として適切でなかったため に、幼児の身体性が阻害され、本来良好な関係性を生み出すはずの身体の模倣が、い ざこざのきっかけとなったと考えられる。 # 考察3:ルール違反 また、この事例(№13)の後半の38で、F児がD児に対して攻撃する場面が見られ た。この攻撃は、D児とE児のいざこざを途中から見たF児が、36でD児はE児のぬ いぐるみを取ろうとしているという認識をもとにして行った攻撃である。このような、 他の幼児のいざこざを見て、どちらかに加担し、他方を攻撃したり、妨害したりする 姿は№51でも見られ、先行研究でも「ルール違反」などと分類されてきた。仲の良い 友達を助けるというよりも、自分なりに状況を把握し、それをもとに善悪の区別をつ け、ルール違反と認識した幼児に対して攻撃や妨害を行っている。Turiel(1983)27 は 社会的ルールを、違反したときに常に処罰の対象となる道徳的ルールと、状況に応じ て処罰の対象になったり、ならなかったりする社会的ルールに分類している。この事 例から、社会的ルールとくに道徳的ルールについても、1∼2歳児がある程度認識し、 判断していることが理解できる。
4.総合考察
本節では、事例、経路図、その考察を踏まえ、いざこざを社会的発達を促す契機と して捉えて検討を行い、新たな視座を得ようと考えた。 " いざこざの状況を理解することの困難さ 本研究で示した事例2における保育者の介入( 部分)を見ると分かるように、 保育者はこのいざこざをD児とE児による犬のぬいぐるみの取り合いと認識している。 なぜ、保育者はこのような勘違いを起こしたのだろうか。それは、一度に多くの子ど もを担当する保育者がいざこざを明確に認識できるのは、どちらか一方の子どもか両 ―135―方の子どもが大声で叫んだり、突き飛ばしたりするなどの問題行動として顕在化した ときだからである。 とくに、本研究の対象となった1∼2歳児は言葉でいざこざの経過を語ることが難 しいため、保育者は問題行動そのものやこれまでの遊びの流れ、幼児同士の関係性、 その幼児の性格などをもとに、その原因やそこまで至る過程を即時に類推するしかな い。そして、この類推をもとにいざこざの介入のあり方を決定しなければならず、そ れは保育者にとって困難なものとなるのである。その困難さゆえに、初任の保育者が いざこざに介入する際に、その状況の如何にかかわらず「説諭」することで、幼児に 道徳や倫理を押し付けがちになることを小原ら(2008)は示している。 ! 保育者のいざこざへの介入のあり方 それでは、いざこざに対して、保育者はどのような介入のあり方を選択すれば良い のだろうか。朝生(1991)28 は、保育者の介入のあり方には唯一の答えは無く、「いざ こざの状況や当事者の性格や状態、保育者との関係など様々な要因が絡まって、その 場にふさわしい介入の仕方が決まってくる」と述べている。さらに、小原(2008)は、 熟達した保育者は介入の際に、いざこざの当事者である子どもの置かれている状況や 子どもの気持ちを理解しようとし、その上で多様なかかわりの選択肢を用いることを 示した。つまり、保育者がいざこざに介入するためには、いざこざがどのようにして 生じたのか、子どもの思いも含め、その状況を的確に把握することが重要になるので ある。 本研究では、叩いたり、大声をあげたりすることで「b.いざこざの発生」が顕在 化する前から、いざこざの前兆として表れる幼児の行為を経路図として示した。この 経路図によって、いざこざのプロセス全てを知ることは不可能であるが、多少なりと も保育者が「b.いざこざの発生」する状況や過程について把握することが可能であ る。また、考察で示してきたように、1∼2歳児では、無秩序にいざこざが起きると いうことはなく、クラス集団で共有している社会的文脈や物理的な行動空間としての 適切さ、道徳的ルールを踏まえた上で、いざこざが展開していくのである。この3点 に留意し、いざこざを幼児の社会性の発達の良い機会とすることも、いざこざに介入 する際の状況判断において重要になる。
【引用文献】
1 遠藤純代.1986.0∼2歳代における子ども同士の物をめぐる争い.北海道教育大 学.pp.17−30. 2 浅賀万里江・三浦香苗.2007.集団保育場面における幼児のいざこざの意義に関す る一考察.昭和女子大学生活心理研究所紀要10.pp.55−64. 3Shantz, C.U. 1986. Conflict, aggression, and peer status : An observational study. Child Development, 57, pp.1322−1332.
4
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