教職大学院(釧路校)自律訓練法研究会の取組 ― 教職大学院での学びの深化 ―
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(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第8号. 教職大学院(釧路校)自律訓練法研究会の取組 ― 教職大学院での学びの深化 ― 柴田 題寛*1・安川 禎亮*2・寺嶋 正純*2 澤田 康介*3・吉藤 研人*3・渡辺 達樹*3. 概 要 本稿では、厚生労働省や文部科学省の調査から一般労働者と教員のストレスの差異について確認し、 教職大学院での学びや先行研究から、学校現場のストレスとして教員の職業的な特性によるストレス や、児童生徒のストレスの要因について省察した。そこから学校現場のメンタルヘルスにおける課題 の一つとして若年層教員の精神疾患による休職率が高いことが明らかとなった。そこで院生を中心に 教育現場に出て教師としてスタートを切る前に、教職大学院で得たストレスマネジメントの知識を深 め、コーピング方法の習得を目的とした自律訓練法研究会が発足した。本稿は自律訓練法研究会のこ れまでの取組と今後の展望について報告する。. 1 はじめに 日本人の仕事に対する勤勉性や堅実な仕事内容は、世界的にも高く評価されている。一方で、昨今 の労働者の雇用形態の変化や対人関係の複雑さ、求められる能力の高度化や多様化など労働に内在化 する様々な要素が心身の健康に及 ぼす悪影響について指摘されてい る。 厚生労働省(2016)の調査によ ると、仕事や職業生活に関するこ とで、強いストレスとなっている と感じる事柄がある労働者の割合 は59.5%であり、3年連続で増加 している。また、その内容(3つ 以内の複数回答)を見ると「仕事 の質・量」が53.8%と最も多く、 次いで「仕事の失敗、責任の発生. 図1 普段の仕事での身体の疲労度合への回答割合. 等 」 が38.5%、「 対 人 関 係 」 が. (文部科学省、2013). ───────────────────── *1. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)専門職学位課程(北海道教育大学附属釧路中学校). *2. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)釧路. *3. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)専門職学位課程(ストレートマスター). 33.
(3) 柴田 題寛・安川 禎亮・寺嶋 正純・澤田 康介・吉藤 研人・渡辺 達樹. 30.5%となっている。 こういった状況に対し、厚生労 働省は平成18年に「労働者の心の 健康の保持増進のための指針」を 策定し、平成27年から労働安全衛 生法に基づくストレスチェック制 度が開始されるなど労働者のメン タルヘルス対策を行う事業所は増 加傾向にある。 図1、2は、教職員のメンタル ヘルス対策検討会議の最終まとめ (2013)の参考資料の抜粋である。. 図2 仕事や職業生活におけるストレスの有無への回答. いずれも、教員と一般企業の労働. (文部科学省、2013). 者を比較したものでありこれらを 見ると教員は一般企業の労働者よりも疲労度が高く、仕事や職業生活におけるストレスが高いことが わかる。その内訳を見ると「仕事の量」 「仕事の質」が大きな割合を占めている。また、公立学校教 職員の人事行政状況調査(2016)によると、うつ病などの精神疾患で休職した全国の公立学校の教員 が5009人(全教員の0.54%)おり、一昨年度から微減しつつあるものの、平成19年以降5000人前後で 高止まりが続いていることから、教員のメンタルヘルス対策は急務であるといえる。. 2 学校現場のストレスの現状 2.1 教員の職業的な特性によるストレス 教員のメンタルヘルスに関する危機的状況は、 今や大きな社会問題となっている。 文部科学省 (2013) の調査では、教職員のメンタルヘルスの不調の背景として、本来授業等の教育活動に費やすべき時間 が、保護者対応や、報告書などの作成等に費やさなければならず、業務量が大幅に増加していること が挙げられている。また、生徒指導上の諸課題や保護者地域との関係において困難な対応を求められ たり、外部機関と連携する機会が増えたり、教員個人が得てきた知識や経験だけでは対応しきれない 困難な業務が増えてきていることに加え、休日を含む残業時間の増加などの問題も挙げられている。 こういった背景の要因として、教員という職業的な特性が影響していると考えられており、佐藤 (1994)は、教員の職務内容について、教育活動の対象である子どもや保護者との関わりの中で責任 が生じ、評価されるという再帰性、それぞれの場面において必要な態度や技能が一貫していないとい う不確実性、職務範囲や責任領域は際限なく拡張される無境界性といった性質から、他の業種とは異 なった様々な問題に直面しやすい性質があると述べている。また、安川(2014)は、教育現場では、 個人の力量に任されることが多く、組織的にも個人的にも「限界設定」の意識が希薄であり、苦しい 状況の中でも今までのやり方に固執する傾向が強いことを指摘している。更に奥野(2013)は、教員 のメンタルヘルスを悪化させる背景にはバーンアウトの問題が大きいと指摘している。教師のバーン アウトについて新井(2002)は、教師が理想を抱きまじめに仕事に専念する中で、学校での様々なス トレスにさらされていた結果、自分でも気づかぬうちに消耗し極度の疲弊を来すに至った状態として いる。 34.
(4) 教職大学院(釧路校)自律訓練法研究会の取組. 2.2 教員のストレス. 表1 公立小・中学校教員の精神疾患による離職率(2012). 表1は、学校教員統計調査 (2013). 2013年10月1 2012年度間の. を基に公立小・中学校教員の精神疾 患による離職者の10000人当たりの 割合を年代ごとに示したものであ. 日現在本務教 精神疾患によ 10000人 当 た 公立小学校 25歳未満. 員数. る離職者数 14683. りの割合. 39. 26.6. る。公立小学校、中学校ともに30歳. 25歳以上30歳未満. 42935. 46. 10.7. 未満と55歳以上の割合が高く、特に. 30 〃 35 〃 . 43434. 34. 7.8. 35 〃 40 〃 . 38294. 32. 8.4. 40 〃 45 〃 . 41905. 35. 8.4. 45 〃 50 〃 . 52365. 38. 7.3. 50 〃 55 〃 . 66318. 50. 7.5. 55 〃 60 〃 . 71167. 71. 10.0. . . . 7240. 19. 26.2. 23224. 43. 18.5. 25歳未満の若年層の割合が極めて高 いことがわかる。 教職員の定年大量退職を迎えつつ ある中、30歳以下の若年層教員の割 合が増加してきており、経験年数が. 公立中学校. 短い教員が担わなければならない役. 25歳未満. 割や責任が大きくなってきていると. 25歳以上30歳未満. 考える。また、新任1年目から即戦 力として期待され、学級担任や様々 な役職を任されることも少なくな く、いじめや不登校生徒への対応、 保護者、地域との関わりなど向き合 わなければならない課題が複雑多岐. 30 〃 35 〃 . 23518. 17. 7.2. 35 〃 40 〃 . 23445. 23. 9.8. 40 〃 45 〃 . 26598. 15. 5.6. 45 〃 50 〃 . 32240. 25. 7.8. 50 〃 55 〃 . 43675. 32. 7.3. 55 〃 60 〃 . 33426. 43. 12.9. にわたる。 椋田(2014)は、これまでの若手教員のメンタルヘルスにおける調査、研究から教員志望の大学生 へのメンタルヘルス教育の充実、そして卒業後の教職に就いた若手教師へのメンタルヘルスの支援が 必要であるとしている。また、初任者研修等におけるメンタルヘルスに関する研修が増加しているも のの、自治体の教育委員会による教員のためのメンタルヘルスの相談体制や支援内容の差異、充実の 遅れも指摘している。 文部科学省(2013)の調査では、精神疾患により休職する教職員の多くが病気休暇に入る直前まで 受診しない傾向が強いとしている。これらは、日常の業務が多忙なため、自身の心身の些細な変調に 気づけず通院しないということと、通院を考えていてもできない環境にあることが考えられる。自己 のセルフチェックや職場環境の改善は急務であることは間違いないが、教育現場に出る前にストレス マネジメントの知識や自身にあったストレスコーピングを身に付けていくことは、自分を守るだけで なく、児童生徒の心身を守ることにつながると考える。 2.3 子どもの現状 図3は奈良県教育委員会(2010)が各学年2000名を対象に行った健康調査のストレスに関する調査 結果である。ストレスから来るイライラ感を持っている児童生徒は、 「よくある」と「時々ある」を 加えると、高校3年生では、9割に達する。小学校6年生でも、7割を超える高いものになっている。 また、ストレスから来る不安感においても、やや数値は下がるものの、高い値を示している。元気そ うに登校しているように思われるが、実は、多くのストレスを抱えながら、生活しているのである。 このように児童生徒は、学校生活において、様々なストレスを抱えている。その主なものとして、 35.
(5) 柴田 題寛・安川 禎亮・寺嶋 正純・澤田 康介・吉藤 研人・渡辺 達樹. 三浦ら(1995)は、 学業、 友人関係、教師との関係、 部活動をあげている。ま た、野添・古賀(1990) は、不登校になったきっ かけを分析し、ほとんど が学校で経験するストレ ス(学業不振、友人関係、. 図3 健康調査のストレスに関する調査結果(奈良県教育委員会、2010). 生徒会・委員会活動、部 活動)であったと報告している。さらに、登校している児童生徒であっても、ストレスレベルが高い 場合は、 「学校が嫌い」という感情が高く、不登校状態においいる可能性が高いことも指摘している。. 3 自律訓練法研究会について 3.1 自律訓練法研究会の目的 児童生徒の成長のためにはストレスや不安を軽減し、よりよい学校生活につなげることが大切であ る。そのために教職大学院の講義で学んだ自律訓練法や弛緩法などのストレスマネジメントに関する 技法や、児童生徒理解につながる心理学や事例研究等の知識をより実践と結びつけるために、スキル を修得することや具体的な場面に置き換えて考えるなどの活動を通して日々の実践につなげることで 深化し、児童生徒や自分自身の心身の健康やよりよい生活に還元することを目的としている。 3.2 自律訓練法研究会設立の経緯 自律訓練法研究会は院生の教員採用試験対策の一環としての活動から始まった。面接においてどう しても緊張してしまい、本来持っている力を発揮することができないことから呼吸法や弛緩法などの 緊張緩和やストレス軽減の方法を指導され、 落ち着きを取り戻し、 見事合格を勝ち取ることができた。 児童生徒の中にも緊張や不安からストレスを感じてしまい、学校に対して消極的になったり、落ち着 いて生活を送ることができない子がいるはずである。また、教職員の中にも同様の悩みを抱えている 者も少なくない。そこで、院生のみならず現職教員をはじめとする教育関係者が参加することで、自 分自身や児童生徒のストレス緩和や不安軽減につなげていくという意図から自律訓練法研究会が発足 した。 自律訓練法はストレスマネジメントの中の一つの方法である。教職大学院の講義の中でストレスマ ネジメントの内容を扱っている講義は存在するが、学んだことを実践に活かせていない部分もあると 考える。理論として学んだことを本研究会でスキルを修得・交流することでより実践につながった学 びをしたいという思いから現在までつながっている。 現在、自律訓練法研究会は原則月に2回程度、大学の講義室を中心に活動をしている。様々な研究 会員(院生、学部生、現職教員、養護教諭、SC、SSW、教育委員会指導主事、大学教員等)が参加し、 お互いに交流をしている。教職大学院を修了した現職教員やSCも講師や研究会員として参加し実践 を還元している。また、修了生が実践する上で課題を感じた際の拠り所や新たな視点を得る場所とし ての機能もあると考える。. 36.
(6) 教職大学院(釧路校)自律訓練法研究会の取組. 4 具体的な実践 4.1 ストレスマネジメント ストレスマネジメントとは、ストレッサー に直面したときに、ストレスをうまく対処す. 表2 ストレスコーピングの種類 ① 問題焦点コーピング・・・問題の所在を明確にし、問 題そのものを解決しようとする。. る方法である。現在、忙しい日々の中で、周. ② 情動焦点コーピング・・・リラックスなどをして、問. 囲に相談することが難しくなっている。それ. 題から一時的に逃避し、ネガティブな情動反応を軽. は、教育現場において、教師のみならず、子. 減する。. どもも同じではないかと考えられる。こうし た環境において、安川(2016)は「ストレスコーピングが上手く機能すれば、問題は解決されなくて もストレスは軽減される」と述べており、ストレスが積み重なる前に対処スキルを身に付けておく、 という予防の観点からのストレスマネジメントが注目されていることは前述の通りである。ストレス マネジメントにおける、ネガティブな情動反応を軽減する試みをストレスコーピングと言い、大きく 分けて上の2つに分けられる。 (表2) 本研究会では、ストレスマネジメントの必要性について共有したうえで、K.McGonigal(2015)の 研究をもとに、 「自分にとって大切なものが脅かされたときに生じるものである」などのストレスの 定義についての共通理解を図った。その後、参加者の経験をもとに、自分がどのような状況でストレ スが生じるのか、どのようなストレス反応が出現するのかについて交流し、自分のストレスコーピン グの特徴を知る機会とした。 4.2 自律訓練法 自律訓練法はJ.H.Schultz(1932)により体 系化された自己暗示を用いた心のコントロー. 表3 自律訓練法の6つの公式 基礎公式 「気持ちがとても落ち着いている」 第1公式 手足が重たい. ル法である。自己暗示をすることにより、心. 第2公式 手足が温かい. 身の不安、緊張を和らげ、リラックスさせる. 第3公式 心臓が静かに打っている. ことができる。. 第4公式 楽に呼吸をしている. 本研究会において、音楽をかけてリラック. 第5公式 おなかが温かい. スできる環境をつくり、右の6つの公式(表 3)を用いた。自律訓練法は、慣れてくると 「いつでも」「どこでも」できるリラックス 法であるが、習得に時間を要するため、本研 究会では各回の後半では必ず行うようにして いるとともに、個人でも毎日取組みを続ける. 第6公式 額がさわやかに涼しい ※注意事項 ・静かな場所で ・ベルト、ネクタイをはずす ・リラックスした状態で(呼吸法をやってから) ・避けたほうがよい公式もある. ようにしている。参加者のなかには、研究授業や試験の前に実践している人もおり、 「事前に自律訓 練法を行うことで緊張しなくなった」などの声もあった。そのため、緊張場面の多い教育現場におい て、教師・子ども問わず、自律訓練法は多いに効果が得られるものであると感じた。 4.3 漸進性弛緩法 漸進性弛緩法は、E.Jacobson(1962)により開発されたリラックス法である。各部位の筋肉を数秒 間緊張させた後、弛緩することを繰り返し、心身のリラックス状態を段階的に得る方法である。 37.
(7) 柴田 題寛・安川 禎亮・寺嶋 正純・澤田 康介・吉藤 研人・渡辺 達樹. 本研究会では、右のような流れ(表4)で 弛緩を行った。この技法では、自分が頑張り すぎていることに気づくことが重要であると されている。参加者のアンケートからは、 「自. 表4 漸進性弛緩法の実際 ① 両腕を伸ばし、手首を立てる(右腕から) ② 両脚を伸ばし、足首に力を入れて立てる(右脚から) ③ 上半身に力を入れる(持ち上げて胸を張る). 分の体がこんなにも疲れているのだと実感し. ④ 下半身に力を入れる(お尻を絞り、腰に力を入れる). た」「この方法を用いることにより、感じて. ⑤ 両瞼を閉じ、奧歯を食いしばり、顔に力を入れる. いた不安が解消され、楽な気持ちなった」と. ⑥ 全身を一気に脱力させる. 語る人が多く、実践することで自身の身体の 状態を把握することができるのだと改めて感. ※①~⑥を2、3回繰り返し行う ⑦ 覚醒動作として、グーパーの動きを10回程度行う。. じた。 4.4 ペア・リラクセーション ペア・リラクセーションとは、ソーシャル サポートとリラックス法を合わせた技法であ. 表5 ペア・リラクセーションの実際 ① 脱力した体勢から、姿勢をつくる(軸を意識する) ② 一人で両肩を目一杯あげる. る。この技法の目的は、援助を求めることの. ③ ペアの相手が声かけしながら両肩を上げる. できる人間関係をつくることである。. ( 「さっきより上がっている」、「もう少し上げられる」. 本研究会では、右のような段階(表5)で ペアになり、体の緊張を脱力する方法を学ん だ。終了後のインタビューでは、「ペアにな ることにより、体験者が自分の心や体の気づ きにつながるだけではなく、援助者が体験者. など) ④ ペアの相手に肩に手を置いてもらい、声かけをし てもらって肩を上げる(相手の体に心を置く意識で) ⑤ 肩を目一杯上げたのに、ペアに腕を支えてもらい、 脱力し、再度上げる。. の変化に気づくことにもつながることを実感した」 「一人では感じることのできない人の温かみを感 じられた」という声があった。この方法を用いることで、自分がいかに緊張していたのかを把握し、 さらに自分がリラックスできることを学んだ。また、体験者はもちろん、援助者も体験者の力になれ ているということで、互いにとって効果のあるものであると考える。 4.5 アサーション・トレーニング アサーション・トレーニングとは、自分も相手も大切にした自己表現を身につけていくトレーニン グのことである。 本研究会では、3つの自己表現(アグレッシブ、ノンアサーティブ、アサーティブ)について知り、 様々な場面を想定して、ワークを行った。 「あなたは友達と遊ぶ約束をしていました。しかし、友達 は約束に1時間遅れてやってきました。 」この場面において3つの自己表現を各自で考えた後、2人 1組で実際に関わり合いながら取り組みを行った。具体的には、アグレッシブな表現では、 「遅いな。 2度とあなたとは遊ぶ約束しないぞ。 」 ノンアサーティブな表現では、 「いいよいいよ。はやく遊ぼう。」 アサーティブな表現では、 「とても遅くなるから少しイライラしてしまったよ。遅くなるなら、連絡 してくれればよかったのに。 」などがあげられた。実際に体験することで、子どもたちに対して行っ た際に、どのような課題があり、どのような気持ちになるのかを体感することができた。 4.6 タッピング タッピングは、R.Callahan(2001)によって開発された。エビデンスは確立されていないものの、指 38.
(8) 教職大学院(釧路校)自律訓練法研究会の取組. でツボをたたくこ と に よ り、 精 神 的・身体的不調を 改善させようとす る技法である。 本研究会では、 図4のような箇所 を順にタッピング を行った。実践で は、自分に合った タッピングの箇所 を探ることによ. 図4 タッピングポイント. り、不安や悩みを 抱えた際の一助になることを目的とした。そのため、それぞれの箇所を5~10回ずつタッピングし、 自分に合う場所を探ることに重点を置いた。参加者のなかには勤務校において不登校生徒を対象に実 践し、心が落ち着いて眠りにつく時間が早くなったという成果も出ており、心理的な問題を改善する うえでの一助となるものであると感じた。 4.7 ピア・サポート ピア・サポートとは、子どもたち相互の人間関係を豊かにするための学習の場を、各学校の実態や 課題に応じて設定し、そこで得た知識やスキルをもとに、仲間を思いやり、支える実践活動のことで ある。 本研究会では、ピア・サポートとはどのような活動なのかと、実際にピア・サポートを体験すると いう2つの活動を行った。ともに、ピア・サポート講座の講師をしているスクールカウンセラーを中 心として進めていった。ピア・サポートとは 「仲間が仲間をサポートする活動」 であることを確認し、 よりよく仲間をサポートできる子を育てるために、練習(体験不足を補う) 、計画(前向きな姿勢を つくる)、活動(他者への貢献) 、振り返り(体験への意味付け)の4つを大切にすることを学んだ。 体験では、ある条件を元に並び方を変えていく「なんでもチェーン」やインタビューした相手になり きって自己紹介を行う「なりきり自己紹介」など、参加者同士でペアを作り行った。自分自身で実際 に体験することにより、ピア・サポートというものをより具体的に参加者全体で共有することができ た。 4.8 インシデント・プロセス法 インシデント・プロセス法とは、事例として実際に起 こった出来事(インシデント)をもとに、参加者は出来. 表6 事例の概要 ・現在不登校の女子児童(9歳) ・7人家族. 事の背景にある事実を収集しながら、問題解決の方策を. ・兄弟姉妹が不登校経験者. 考えていく方法である。他の事例研究との違いは、事例. ・過保護な父親と学校への理解がある母親. 提供者への負担が少ないこと、参加者が自分の事例とし て考えられるという点が挙げられる。 本研究会では、研究会員のスクールソーシャルワーカーから事例を提供してもらい、学級担任とし 39.
(9) 柴田 題寛・安川 禎亮・寺嶋 正純・澤田 康介・吉藤 研人・渡辺 達樹. てどのような対応を取っていくべきかについて話し合った。 表6は提示された事例の概要である。両親の職業や関係機関との連携はどうなのかなど、1人1人 が質問により事例の理解を深めていった。得られた情報から、課題と対応策を考え、交流し、どのよ うな対応が望ましいか検討した。 4.9 心理学の基礎 学級開き、関係づくりの観点から心理学の基礎を学んだ。学級開きの観点では、相手の第一印象は 約6秒で決まるという初頭効果。期待される子どもは本当に成績や才能が伸びるというピグマリオン 効果。相手の行動にいい意味で裏切られた結果、評価がプラスに転換することがあるゲイン効果など 心理学的な効果を学んだ。関係づくりの観点では、怒りというものは、自分の期待している結末が実 際と異なったときに不安を感じ、その防御・警告反応が現れたものであること。仲間や好意を寄せて いる人とは姿勢や仕草が似るという姿勢反響(ミラーリング) 。生活習慣や思考などが似ている者と 仲良くなるという類似性の要因などを学んだ。実際に学級開きや教員採用試験の場面で効果を実感す ることができた。 4.10 エゴグラム エゴグラムとは、E.Bern (1957)によって開発され、 「交流分析」という人間関 係の心理学理論に基づいて 作られた性格診断テストで ある。 本 研 究 会 で は、 芦 原 (1995)の質問をもとにし た図5の資料を用いて、診 断を進めた。各項目につい て、はい(○)、どちらで もない(△)いいえ(×) で回答し、○が2点、△を 1 点、 × を 0 点 と し た。 CP( 支 配 性 )・NP( 寛 容 性) ・A(論理性) ・FC(奔 放性)・AC(順応性)の得 点 を 分 析 し た 上 で、 高 得 点・低得点といった実態に. 図5 エゴグラム質問項目. 応じて、それぞれの特徴に ついて把握した。また、自分の性格の特徴に応じたアドバイスについても確認したうえで、今後の人 間関係や社会生活における過ごし方について交流を深めた。実践後の参加者に対するインタビューで は「自分自身が思っていることとは違う長所や短所を知ることができた」 「自分の特徴を知ることで、 人とのかかわりを考え直すきっかけになった」という話があり、自分自身の傾向が各項目において、 40.
(10) 教職大学院(釧路校)自律訓練法研究会の取組. どのくらいに位置づけられるのかを知ることにより、客観的に自己分析できることにつながるのでは ないかと感じた。. 5 考察と今後の展望 これまでの活動の中で、学んだことを日々の実践に活かし、研究会員自身や児童生徒、学校の教職 員にプラスの変化が出てきているという成果が本研究会内で実施したアンケートから明らかになった (表7) 。取り扱った内容を実際の教育現場で実践することで自分自身や児童生徒に変化が現れてい ることから本研究会で行ったことが有効であると言える。同時に呼吸法や弛緩法の習得者を増やし、 教職大学院で学んだことをさらに深化し、より実践につなげていくための内容を検討していくことが 課題であると考える。 児童生徒の成長のため、よりよい教師になるために大学院での学びを活かし、より実践につなげる ための在り方を今後も検討していきたい。. 表7 アンケート結果より(一部抜粋) 研修内容. 研究会員の振り返りより. ストレスマネジ ・何 か抱えている可能性のある子どもに対して、具体的なアドバイスができるように メント. なった。 ・自分自身でストレスを軽減することが出来るようになった。 ・児童生徒との面談場面、心理教育の場面において活用できている。 ・普段の児童生徒との関わり方や生徒指導の場面などで、活用される場面が多く、知識 を得ることができたことが大きい。 ・児童生徒との関わりの部分では、疲れていたり、ストレスを感じていると訴えてきた 際に、具体的な方法を伝えることができ日々の実践につながっている。 ・学級において、試験前や普段の短学活の際、ストレスマネジメントを切り口に話をす ることができている。 ・教師側のおさえとして、知っているだけでも、子どもたちが辛い状況であるときに、 話の内容や伝わり方も変わるのではないかと思う。. 自律訓練法 漸進性弛緩法. ・自身のメンテナンスに利用している。 ・習得することができたら、いきてくると思うがまだ習得することができていない。 ・緊張をほぐしたりストレスマネジメントをしたりする方法として自律訓練法というも のがあると知れていることはよいことだと感じている。 ・習得できるようになったら子どもたちにも自信を持って紹介できる方法であると思う。 ・自分自身未だ習得できていないが、自分がストレスを感じた時、肉体的に疲弊してい るときに実践することによって、気分が落ち着いたり、すっきりしたりするので、か なり役立っている。 ・習 慣化していくことが課題である。いざというときの自分のなかでのよりどころに なっています。また、不登校生徒の1つの選択肢としても、有効に活用できている。 ・座った状態の呼吸法は生徒を対象に保健室で行っている。 ・自分自身でも緊張する場面などでは必ず行っている。. 41.
(11) 柴田 題寛・安川 禎亮・寺嶋 正純・澤田 康介・吉藤 研人・渡辺 達樹. ペア・リラク セーション アサーション・ トレーニング ピア・サポート タッピング. ・話 しの上手な聞き方やアイスブレイクなどを研究会の中で実際に行い体感できたの で、どのような言い方が伝わりやすいのか、距離を縮めやすいのか等を考えることが できるようになった。 ・ピア(友人)の支え方を知ることができた。学級開きや児童生徒のコミュニケーショ ンを考えさせる際に活用させていきたい。 ・高学年を対象に授業を行い、相手への伝え方について学びを深めることができた。 ・この授業を機にどう変わったかはわからないが、考えさせる際の手段となっている。 ・子どもたちの中には、自分の考えを上手に表現できない子がたくさんいると思う。そ の表現方法はいけないと伝えるだけでなく、今後、1つの表現方法として、どのよう な表現がよいのかを具体的に子どもたちに伝えることができるのではないかと考えて いる。 ・3つの自己表現のどれに自分が属しているのかを知ることで、自他の優先についても 考えながら行動できるようになると思う。 ・相手への伝え方、よりよいコミュニケーションの図り方について学び、生徒指導の際 などに児童生徒に考えさせ、よりよい人間関係づくりにつなげるよう意識している。 ・ストレスマネジメントの一環として、実践するようにしている。簡単にできるものな ので、実践しやすい。 ・不登校生と接する際に有効活用できている。気軽に行うことができることから、不登 校生徒が気持ちを落ち着かせるきっかけになったと話していた。. インシデント・ ・自分の指導を振り返ることに活用している。条件を整理し、課題、対応策を考えるこ プロセス法. とが出来ている。 ・学校内であったトラブルについて、どうすべきであったのか、原因はなんだったのか について考えることが出来る。 ・これまでに参加させていただいた講義の中でも自分事として捉え考えることができた。 ・今は子どもたちと接する機会が少ないため、事例研究を生かせる場は少ないが、子ど もと接する際、その子の性格や環境等、様々な視点を加味する必要性や関係機関との 連携が大切であることを知れたので、今後現場に出たときに生かせるのではないかと 考えている。 ・具体的な事例についてインシデント・プロセスすることで、自分事として考えること ができ、来年度からの実践につなげていきたい。 ・特に家庭との連携に関しては無知だったので、ありがたかった。 ・自分が子どもたちとかかわることを考えたときに、自分自身の引き出しを増やすこと に繋がっている。 ・色々な立場の人の意見を聞くことができることから、様々な角度からの知見を得るこ とができている。. 心理学の基礎. ・初対面の児童生徒との接し方や、教員採用試験の面接において活かすことができた。 ・自分が知らないことが多く、自分に生かせること、児童生徒に還元できること、同僚 と共に意識していくこと等、自分の実践に置き換えて、考えることができるようになっ た。 ・先生方とのコンサルテーション場面において有効的な示唆を得た。. 42.
(12) 教職大学院(釧路校)自律訓練法研究会の取組. その他(エゴグ ・自分自身知らないことが多く、知ったという事実がまず大きいと感じる。また、SC, ラム、SC, SSW. SSWという存在とつながりが出来ることで、教師としての幅が広がったと感じる。. による講話など) ・適応指導教室やSC, SSWの仕事内容、メンタルフレンド等、知らなかったことがたく さん学ぶことができた。 ・子どもたちを支える人や環境にどのようなものがあるのかを知ることで、自分が困っ た時に頼ることができる人や環境も多くできると感じた。 ・今後自分が現場に出たときに、このような講話の内容はいきてくると確信した。 ・自分が知らなかった、外部機関についての職務内容や具体的な連携の仕方について知 り、自分が教員となった際にも生かせると考えている。. <参考文献> 厚生労働省(2016) 「労働安全衛生調査(実態調査)の概況」Retrieved from http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/ h28-46-50_gaikyo.pdf 文部科学省(2013) 「教職員のメンタルヘルス対策検討会議の最終まとめ-教職員のメンタルヘルスの現状等参考資 料」Retrieved from http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2013/03/29/ 1332655_05.pdf 文部科学省(2016) 「公立学校教職員の人事行政状況調査」Retrieved from http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/ jinji/1380718.htm 文 部 科 学 省(2015) 「 公 立 学 校 教 職 員 の 人 事 行 政 状 況 調 査 」Retrieved from http://www.mext.go.jp/a_menu/ shotou/jinji/1365310.htm 文 部 科 学 省(2013) 「 学 校 教 員 統 計 調 査 」Retrieved from http://www.e stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid= 000001016172 佐藤学(1994) 「教師文化の構造」稲垣忠彦・久富善之(編)『日本の教師文化』東京大学出版会,204-209. 安川禎亮(2014) 「ストレスマネジメント研修と教師のケア」 『北海道教育大学院高度教職実践専攻研究紀要』第4巻, 39-47. 奥野洋子(2013) 「教師のメンタルヘルス」 『近畿大学臨床医心理センター紀要』第6巻,33-41. 新井肇(2002) 「教師のバーンアウトの「なぜ」と「どうする」」 (特集 学校と教師の危機) 『労働の科学』第57巻, 第4号,218-221. 椋田容世(2014) 「若手教師のメンタルヘルスのための実践的取り組みの検討-教員メンタルサポートプログラム」 『埼 玉大学教育学部教育実践総合センター紀要』第13巻,77-83. 三浦正江・福田美奈子・坂野雄二(1995) 「中学生の学校ストレッサーとストレス反応の継時的変化」 『日本教育心 理学会第37回総会発表論文集』 ,555. 野添新一・古賀靖之(1990) 「登校拒否・不登校の原因を探る」坂野雄二(編)『登校拒否・不登校』同朋舎. 安川禎亮(2017) 「教師にすすめるストレスコーピング 抑うつ傾向の治療と予防の見地から」 (特集 新年度の教 師のストレス) 『教育と医学』慶應義塾大学出版会,36-42. ケリー・マクゴニガル(2015) 「スタンフォードのストレスを力に変える教科書」大和書房. 森田典子(2015) 「児童生徒を対象とした認知行動療法型ストレスマネジメント教育に関する研究動向および今後の 展望」 『早稲田大学臨床心理学研究』第15巻,第1号,143-153. 箕輪千佳・小板橋喜久代(2011) 「自律訓練法が周術期患者の不安と疼痛に及ぼす影響」 『日本看護技術学会誌』第 10巻,第2号,30-39. 安川禎亮(2010) 「教師のストレスコーピング」深谷和子編『児童心理』金子書房,2010,101-105. 森谷利香・池田七衣(2014) 「漸進的筋弛緩法による多発性硬化症病者の疲労への効果と課題―4名への2週間の介 入を試みた事例研究―」 『摂南大学看護学研究』第2巻,第1号,22-30.. 43.
(13) 柴田 題寛・安川 禎亮・寺嶋 正純・澤田 康介・吉藤 研人・渡辺 達樹. 伊藤小織(2014) 「漸進的筋弛緩法に条件づけられた香りのストレスマネジメントへの応用」 『岩手大学大学院人文 社会科学研究科紀要』第23巻,1-15. 中田薫(2006)「学校臨床現場における援助についての一考察―支持的カウンセリングとTFT(思考場)療法を併用 した2事例から―」 『静岡福祉大学紀要』第2号,45-51. 芦原睦(1995) 「自分がわかる心理テスト Part2」講談社. ロベルタ・テムズ(2011) 「タッピング入門」秋春社. 日本ピア・サポートRetrieved from http://www.peer-s.jp/ 竹林地 毅(2003) 「情報の共有・分析-インシデント・プロセス法による事例研究」 『知的障害のある児童生徒の 担任教師と関係者との協力関係推進に関する研究−個別の指導計画の作成に焦点をあてて−』 日本・精神技術研究所 Retrieved from http://www.nsgk.co.jp/sv/kouza/at/beginner.html. 44.
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